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Last-modified: 2010-05-01 (土) 10:01:47

機動戦士ガンダムSEED DESTINY IF
~Revival of Red Comet~
第6話《A》

 
 

「あの騒ぎの中よくここまで持ってこれたな」
シャア・アズナブルは、格納庫内に運び込まれた、
『ZGMF-X24S CHAOS』のラベルが貼られたコンテナをしげしげと見上げて言った。
確保できたのが一種類のみと見るべきか、
一種だけでも守れたと見るべきか判断に迷うところだが、
あれだけの大騒ぎの中、戦闘の合間をかいくぐって運んできた連中には心底感心する。
「これは使えるのか?」
「はい、三機分程ありますから戦闘に使うのに支障はありません」
コンテナの傍らを見ると、もうすでにカオスが一機形になりつつあった。
「俺たち技術員の名にかけて、あと二時間たらずで形にして見せますよ!」
「頼む」
とだけ返しもう一度コンテナを見て、
「問題はあの『ビットもどき』……だな」
彼は周りの人間には聞こえないよう、ボソリと言った。
話を聞けば、この『機動兵装ポッド』なる装備は『ドラグーンシステム』という、
サイコミュとは異なるタイプのオールレンジ攻撃兵装であり、使用には莫大な電気を消耗するのだという。
バッテリーを動力源とするMSにはそれこそ無用の長物としか思えなかったが、スラスター兼用というのがやっかいすぎた。
外せば機動性が下がり、付けていてもある意味足枷に近い。
「他に使える装備はないのか……!? ……ぅん?」
シャアはそう言うと格納庫内を見回し、
今現在使われていない、放置されたパーツ達に目がとまる。
元々、機動兵装ポッドのような特殊な射撃兵器を使用するため、
カオスは他のMSより高度なレーダーと広範囲の索敵範囲を持っている。
電力を食うビットもどきをいっそのことオミットし、レドームや高解像度カメラなどの電子機器と、
アサルトライフルやスナイパーライフルを装備させ、狙撃に特化したMSとして運用する・・・という手もある。
そういうことも抜きにして、MSに装備可能な実験的兵器が周りにはひしめいていた。
新型の開発工廠であり、兵装実験場でもあったアーモリーワンから持ってきたもので、
倉庫で埃を被らせて置くには惜しい兵器もいくつかあった。
「あのライフルは使えるか?」
「アレですか? 使えないことはありませんが……実弾ですよ?」

 

シャアが指さしたのは、携行装備の主流がビームになりつつあったため、実弾兵器であるが故にセカンドステージへの装備を見送られた品々だった。
ザクという新たな量産MSを開発するにあたって、ZAFTの象徴的MSである『ジン』の武装を踏襲しているモノが多い。

 

76㎜重突撃機銃のブルパップ方式は廃され、マガジンは下から装填する方式に変更。
口径も90㎜と大きくなり、銃口下部にはアタッチメントを装着できるように改造されている。
心なしか『StG44』に似ているのは気のせいだろう。
500㎜バズーカの口径を360㎜まで小型化し、取り回しを改善している。
威力が若干低くなっているが、各種榴弾や拡散弾など多様な弾頭に対応させている。
形状がジオン公国の『ジャイアント・バズ』に似ているのも……うん、きっと気のせいだ。

 

「ビームでバッテリーを食うよりは良い。場合によってはザクであれらを使うぞ。
インパルス、カオスでも装備できるようにしておけ」
「り、了解」
シャアがそう言うと、若いメカニックはマッド主任の所に駆けていき、シャアは一度格納庫を後にした。

 
 

「……? やぁ、君か」
「議長!? 何故このような所にいるのです」
格納庫直通のエレベータから出て最初に顔合わせした人物、ギルバート・デュランダルに、呆れをこめた声を上げてしまった。
この状況下で、何故国家元首が戦艦に乗っているのだろうか。
「私とて、あそこでただ報告を待つというわけにはいかんさ」
「そうは言いますが、この艦は新兵ばかりなのです。
なおさらプレッシャーをかけるような行動は慎んで頂かねば……、……?」
初陣という、ただでさえ緊張する状況の中で、国のトップが乗っていますなどと、
なおさら彼らの負担を増大させるような事態である。
その段階になって、彼はデュランダルの隣で目を丸くしている人物に目をやる。
「議長、此方の令嬢は」
「ああ、彼女はカガリ・ユラ・アスハ殿。オーブの現代表だよ」
カガリ・ユラ・アスハ。・・・このC.E.について調べた際、幾度か顔写真を見た覚えがある。
確か、オーブ連邦首長国の前代表の娘で、現代表の少女。
(国家元首が一戦艦に二人も乗っているとはな……)
かつて自身がその立場に近かったということは置いておき、シャアは頭痛の種がまた増えたと内心感じたがそれは顔に出さず、
「初めまして、アスハ代表。
私は、この艦のMS隊隊長を務めております、シャア・アズナブルです」
「ああ、此方こそよろしく。シャア・アズナブル」
何故かは知らないが、最初こそ戸惑いを見せていたものの、彼女はすぐ我を取り戻し彼と握手をする。
ぱっと見て、人格的には好感の持てる人物であるが、お世辞にも有能とは言い難い。
それが、シャアの彼女への第一印象であった。

 

ふと、彼女が何かを察したような顔をして、
「まさかとは思うが、お前はあの時のゲイツの?」
「あの時とは……!? ああ、なるほど。貴女でいらっしゃったか」
シャアも気が付いた。どうも聞いたことのある声だと思えば、
アーモリーワンの中で孤立していたザクから聞こえた声と一緒ではないか。
「その折は、代表を助けて頂いて感謝しております」
傍らの青年が、彼女に変わって頭を下げた。シャアはそれに礼で返答し、
「では私は、隊員とのミーティングがありますので……」
そう言って、シャアはこの場から立ち去ろうとした。その背中をカガリは呼び止め、
「……一刻も早く、この事態を収拾して欲しい」
一言だけ、言った。
そう言う彼女の物憂げな表情の中に嘘はなく、
この少女はいい意味でも悪い意味でも正直なのだろうと感じた。

 

「善処します。……!?」

 

そう答えた後、ふと違和感を感じた。

 

ここにいるべきで、そうでなく、ここにいるべきでないのに、ここにいる。
そういう矛盾した感情。

 

本来の自分を覆い隠し押さえつけ、本心を押し殺し、他者に身を委ね、
それでいて、それが当然だと思っている自虐的な感情。

 

それを、感じ取った。その元は、
(あの少年か)
紺色の髪をたたえる、サングラスをかけた青年から感じたものであった。
彼の内心は、沸々と、若く輝かしい闘争心に満ちているというのに、それとは別に、
それを押し殺し、なかったことにしようとする理性が強すぎる。
(あの時の私と似たようなものか……?)
グリプス戦役時、クワトロ・バジーナと名乗りエゥーゴに参加していた時分を思い出し、
あの時の自分のようにこの青年は何かを吹っ切れず、迷っているのではないか。
そういう疑問を持った。その時、
「敵艦補足。距離8000! コンディション・レッド発令。パイロットは総員搭乗機にて待機せよ! 繰り返す……」
艦内にメイリンの明朗な声が響き渡り、張りつめた空気があたりを支配した。

 
 

「敵は小惑星帯に紛れ込み逃亡を図るものと思われる。まずは私とシン、ノエミ隊で先行する。
レイ、お前は此方から合図したら出撃し、残存のMS隊の指揮を執れ」
「了解しました」
シャアは警報が鳴ると同時に、議長らに一礼して身を翻すと格納庫に直行し、
ザクのコクピットに滑り込んでいた。

 

先程カガリ嬢が、
「気づいていないのか?」
と、また目を丸くして隣の青年に尋ねていたが、どういう事かは後で考えることにする。

 

機動シークエンスを進めるのと同時に、彼はレイに、
「信号パターンはわかっているな?」
「はい。赤が『敵艦補足、我ラニ追従セヨ』、緑が『敵は囮〈デコイ〉。出撃シ周囲策敵警戒ヲ強化セヨ』……」
「そうだ。メイリンから報告が有り次第動け」
ミネルバはすでに戦闘態勢に入り、ブリッジは降下しCICに、パイロットも全員、自機で待機している。
今回はレイ、ルナ、ショーンとデイルには艦に残ってもらい第二隊として動いてもらう。
そう決めたのはシャアだ。十二時方向に艦の反応があるとのことだが、
アーモリーワンで戦闘した際、外から感じたえもしれぬざわつきを、その方角からは感じない。
(十中八九、囮だろうな)
しかし、覚えのある感覚をその方向から感じていた。
アーモリーワンで鉢合わせたあの感覚と同じ、
「イージーザクファントム、カタパルト・エンゲージ」
「シャア・アズナブル。ザク、出るぞ!」

 

メイリンの宣告と共に、シャアのザクは身をかがめ、Gの感覚と共に虚空へと射出される。
その後に続いて、フォースシルエットを装備したインパルスと、
ブレイズザクウォーリアが一機ずつ、そしてゲイツが三機追従する。
シャアの一隊が小惑星帯の中間点、ちょうど敵艦の反応がある地点から、
1600ほど離れた地点にさしかかるまでさして時間は掛からなかった。
前大戦の傷跡を見せつけるように、コロニーの破片や、戦艦・MSの残骸があたりを漂い、
シン達若年パイロットは緊張を強めていく。
彼らの視点は、モニターの中で敵艦の位置を示す光点に注がれていた。

 
 

「あんまり成績良くなかったんだけどなぁ、デブリ戦」
ノエミはそう呟いた。
本人は明るめに言ったつもりなのだろうが、声がうわずっている。
シャアの後ろに付くMS悉くから、恐怖と緊張が伝わってくる。
無理はないし、気持ちはわからないでもなかったが、
「敵はもうすでに我々を捉えているはずだ。油断はするなよ」
「はいはい、わかってます!」
そしてしばらく経って、
「ノエミ、聞こえるか?」
「何です? シャアさん」
こわばった声で返答する少女だけでなく、その後ろの三機含めて全員にシャアは言った。
「敵は恐らく、十二時方向、最も大きな残骸の中にいる。
君は、緑の特殊閃光弾を用意しておいてくれ」
「え!? それって」
全員が違和感を露わにした。シャアはそれに構わず、
「……それと全員、武装のロックを解除しろ」
「え!? どうして!」
「この距離にまで近づいても、アレは動くどころか何の反応もせん。囮だ。
ただ、MSはいるようだがな……」
シャアはそう言うと、手にしたライフルを目の前に浮かぶコロニーの残骸に向けていた。

 

※※※※※※

 

「アズナブル隊からの発光信号を探知、グリーンです!」
「イエロー62ベータに熱紋5! ダガーと敵の新型機、それに……アビスとカオス!?」
「奪った機体をそのまま!?」
ミネルバのブリッジで、シャアの投げた閃光弾が確認された。
緑、『敵は囮、出撃セヨ』の意。
その合図があると同時にレイとルナ、ショーンとデイルに出撃許可が下り、ミネルバから新たに四機MSが射出される。
「索敵を急ぎなさい! ボギーワンは!?」
タリアは、出港時『ボギーワン』と呼称することとなった敵艦の探知を急がせ、
その言葉を言い終わって間もなく、レーダー要員のバートが悲鳴を上げた。
「ブルー18マーク9チャーリーに熱紋……、ボギーワンです!」
「後ろ? くっ、してやられたか」
「さらにMSとMAが来ます!」
タリアは唇を噛みしめながら、素早く指示を飛ばした。
「面舵三十、ナイトハルト、CIWS機動。レイ達は?」
「現在ミサイルの迎撃に出向いていますが、数が多すぎて……」
「アズナブル隊を下がらせて! ミネルバはこのまま小惑星を盾にしてまわりこむ!」

 

※※※※※※

 

「ミネルバに帰投しろ? 無茶を言う……」
シャアはコロニーの残骸からフッと姿を現した『GMもどき』の姿を見、ぼやいた。
アビスが打ち出してくるミサイルを切り下げ、
「GMもどきが3、ガンダムが2、か。彼らには荷が重いな」
奪われた機体を使う以上、囮にそこまで機体が回せない証拠。そうなれば、ミネルバが危険だ。
だが、ここから離れるにも相手が悪い。……特にあいつは。
それを口にすることはなかったが、シャアは隊の者に、
「シン、ノエミ、エステル、アーロン、ルキーノ。
君たちは青い奴と、二機の『大砲持ち』をやれ!
一角獣の奴は相手にするな! 散開せず、固まって行動しろ!」
あいつも一機で小隊を相手取るほど無謀ではあるまい。
ならば、周りを先に落としてしまえば……、そう考えた。
それに、今のあの男と戦う意味があるのか、彼自身が決めあぐねていたというのもある。
(記憶のないあの男と戦ったところで……)
コロニーの残骸の影から飛び出した四機の敵の内、
アビスはすぐさま此方にビームの一斉射をお見舞いし、シャアはそれを難なく回避した。
ここで想定外だったのは、自機の周囲の確認すら怠ってしまうほど、
新兵が冷静さを欠いていたという事だろうか。
「い、岩か!? あ、く、来るなぁぁ!」
「ルキーノ!」
エステルが思わず叫んでいた。
ルキーノ機が、回避運動の先に岩があることに気づかずぶつかり、動きを止めたのだ。
焦った彼がモニターの先に見たものは、その隙を捉えたユニコーンの紋章だった。
シンボルとして掲げる一角獣さながら、
サーベルを棒立ちになったゲイツに向かって掲げて、奴は突進してくる。
ルキーノは叫びながらもライフルを奴に向かって放った。
何発も、
何発も、
何発も。
だが、その事如くが宙を切り、最低限のラインでかわされる。
シャアも執拗に自分を狙ってくる大砲持ちの攻撃をかわしつつ、奴に何発かライフルを放った。
行く先を読み、その先にライフルを撃ち込むが、奴はもう一本のサーベルを使い、
弾丸を見もせず後ろ手で切り下げた。「ちぃっ!」
(記憶がなくなっても彼奴は彼奴か!)
奴はみるみるうちにゲイツの懐に飛び込むと、右手に持ったそのサーベルを、
深々とその腹部に突き刺した。
「うわぁああ………」
ルキーノの肉体はサーベルの高温によって焼かれ消滅し、奴は事も無げに、
サーベルを悠々と残骸と化したゲイツから引き抜いた。

 
 

「ええぃ! 邪魔だ!」
なおもまとわりつく大砲持ち。
煩わしいとばかりにシャアはブーストし、岩から岩へ、残骸から残骸へと飛び移り、その内一機の背後に回り込んだ。
アラートに反応してからなのか、こいつの動きは一歩遅れているように見える。
「落ちろ!」
シャアはその大砲持ちの脇腹にライフルを一発撃ちこみ、その弾丸は機体の内部を焼く。
味方が落とされ気を取られたもう一機の頭上を、別の光の束が襲った。
「シャアさん、ミネルバに! 小惑星が崩れて岩に埋もれたと……」
ノエミのザクだ。
矢継ぎ早にその口から告げられた内容は、驚愕に値するものであったが。
「埋もれた!? クルーは何をしていた!
ノエミ、君はエステルとアーロンを連れてミネルバに戻れ!
……ルキーノ機は私が回収する」
「……了解」
ノエミはトーンの下がった声で答え、二機のゲイツを引き連れてミネルバの援護に向かった。
それを邪魔しようと、アビスがまた両肩をひろげ、奴のGMもどきも、
行かせまじと彼女らの撃墜を図るが、
「何度もやらせはせんよ、アムロ!」
「この野郎!」
シャアとシンは奴のGMもどき、アビス、カオスへ打ちかかった。

 

※※※※※※

 

「ミネルバにはギルが……。やらせるか!」
埋もれたミネルバの左舷を守るようにして、白いザクと赤いザク、二機のゲイツは、
飛んでくるミサイルやビームをしのいでいた。
ボギーワン本体はどうやら、
ミネルバの足を殺した後離脱したらしくミサイル掃射の激しさも減っては来ている。
だが、難しい状況であることに変化はなかった。
むしろ、MSの猛攻が始まり厳しさは増していると言って良い。
「落ちなさいよ! このぉ!」
「一人じゃむりよ、ルナ!」
「あ、待てって!」
ルナは、アックスを掲げて、迫り来るダークダガーの一機へ正面から突貫する。
それを見あぐねたショーンが追従し、その後をデイルが追いかける。
「てえぇぇぇい!」
ルナザクが振り下ろしたアックスは、ダガーが横に避けたことで宙を切る……かのように思えた。
「なんちゃってぇぇ!」
避けた先でダガーのパイロットが見たものは、モニターいっぱいに映るライフルの銃口だった。
ショーンのゲイツがルナザクの後方に張り付き、ザクの影から現れたダガーにすかさずビームをたたき込んだのである。
「ナイス、ショーン!」
「ルナこそ!」
「油断するな、ルナマリア! 上だ!」
喜びもつかの間、デイルの叫びに引き戻された二人は、
上空から近づく黒い機体の一撃に見舞われた。
「くっ!」
「……ガイア!?」
奪われたガイアであった。
サーベルを抜き放ち見舞った一撃を辛くもルナマリアはシールドで受け流し、
ガイアはそのまま離脱して、周囲に漂う岩の中に紛れた。
「ああ、もう! すばしっこいったら……」
苛立ちを覚え始めたとき、ミネルバの方面に敵が増えつつある事に二人は気が付いた。
「ミネルバが!」
「待て、二人とも! ガイアの他にも来……」
「「……デイル?」」
デイルの言葉は最後まで続くことは無かった。

 

デイルが乗っていたはずのゲイツのお腹から、赤い光が突き出ている。コレは何だ?
背中に当たっているそれは、アカデミーの授業で見たことがあったものだ。
「ビーム…ブーメラン? ……!」
そう呟いたルナはソレが飛んできたと思われる方向に目をやり、一機、MSが接近しているのに気が付く。
ダガーではなく、此方のデータにない機体だった。
アーモリーワンの中で、一度姿を見たことがある。
「あれは、あの時の……!」
間違えようもない。穴の中で、隊長機らしき機体の傍らでランチャーを構えていた奴だ。
そいつは、今度は大型で重々しい大剣を掲げて、此方に向かってくる。挟み撃ちにするように、ガイアも再び姿を現していた。
ルナは向かってくる新型が大剣を振りかぶるのに合わせてアックスをかざし、
ショーンはガイアがライフルを向けたのと同時に、同じようにライフルを構えていた。
「「さぁ、来なさい!」」
怒りをこめて、少女二人は叫び、光と光とが交錯した。

 
 

「ルナマリアとショーンが孤立? くそ!」
此方も此方で状況に変化が起きつつあった。
ダガーは三機で接近してきており、先程まで自分は一機のみで非常に不利な状況下であった。
避けたり牽制したりで、近づけさせないことだけで精一杯のはずであったのだ。
それが変化したのは、ノエミ等が戻ってきてからである。
一機減っていると言うことが重く彼にのしかかるが、いまは気にする余裕すらない。
アーロンのゲイツがダガーめがけて撃ち、かわしたところをレイのガナーで焼く。
エステルが斬りかかり、シールドで防いだ横からノエミが貫く。
二機までは撃墜には成功したのだ。
そんな時、レイは肌が泡立つ不快な感覚に襲われる。
(……何だ!?)
その気配がある場所を避けて、彼はザクを後ろに滑らせる。
  ゴウッ
何条ものビームが、そこをかすめていった。
それも一方からではなく、複数の方向から飛んでくる。しかし、反応があるのはMA一機のみ。
「……ドラグーンか!」
それしか考えられない。
「まだ敵? ……何処だ!」
エステル、アーロンはどこから飛んでくるかわからないビームに恐々としつつ、
周りを見渡していた。その場所が前方向から狙える格好の場所とも知らずに………。
「下がれ二人とも! その場所では……!?」
しかし、もう遅かった。
上、下、左、右、四つの方角から飛来する光の奔流に、二機のゲイツは穴だらけにされた。そして、正面から飛んできた二つの弾丸が、とどめを刺すかのように二機を粉々に吹き飛ばす。
「エステル! アーロン!」
ノエミの悲痛な叫びを聞いて、レイも悔しさで唇を噛みしめた。
口の中ににじむ血の味は、苦く、熱い。
MAは何処だ?
カッとなった頭で、それだけを考えたレイは周囲を見渡す。岩の間にMAの影が見え、
それにビームを放つ。あとはその繰り返しに近かった。
ノエミも逆上したか、レイと同じ方向にビームを打ち込んでいた。
そして再び、あのザワザワとした不快感が、彼を襲った。
「……!? ちぃっ」

 
 

周りを、紫の物体が囲んでいた。
前後左右どの方向を見ても、同じモノが浮かんで、此方に銃口を向けている。
(……ここまでなのか、俺は?)
ふと、そんな考えが頭をよぎった。
自分は、まだ何も成し遂げてない。あの人のために何にもしちゃいないのに。
そんなことを考えながら、レイは身をこわばらせた。

 

途端、レイのザクを右から狙っていたドラグーンが爆散した。
「何!? 味方が?」
ビームが、それを焼いたのである。しかも、飛んできたのはミネルバの方向からだ。
「パイロットはまだいなかったはずよね?」
ノエミも戸惑いの声を上げ、ミネルバのカタパルトに立っているMSに目がいった。
「あれは……」
立っていたのは、緑を基調とし変形機構を取り入れ、宙域戦闘に秀でた、
セカンドステージのMS、『カオス』であった。

 
 

「こちらはアスラン・ザラだ、援護する」

 
 

※※※※※※

 
 

「またしても貴様か! しつこいんだよ!」
「ええぃ!」
シャアは離脱しようと試みるGMもどきの行く先にビームを打ち込み、
「こなくそぉおお!」
シンは、アビスの火砲をかいくぐり、カオスに肉薄していた。
状況は、彼らは知らないがレイ達以上に悪いと言えるだろう。
此方は味方が二機のみ。相手は火力重視のガンダムが二機、さらに奴も一緒である。
「何故私がわからんのだ、アムロ! 向こうの奴らに何をされた!?」
「だから、俺はそんな名ではないと何度言えばいいのだ、コーディネイターめ!」
心底煩わしいと、その声にはこめられており、シャアには悔しさと、悲しさがあった。
宿敵として憎んでいた。ララァを奪い、なおかつNTの可能性を見せつけた嫉妬の対象だった。
それでいて、自分の一番の理解者でいてくれた男。アムロ・レイ。
その男が、こんな……
「……貴様が私を知らんと言うのなら、思い出させてやる!」
シャアはこの世界に来て初めて、激昂した。
彼をこんなにした連中に、そして、そんな状況に陥っている男に、そして、それに何も出来ないでいる自分に。

 

……ならば、思い出させればいい。

 

幾たびも刃を交えた男なら、きっと思い出す。
シャアはGMもどきがライフルを構えようとすると、それに即座に反応しライフルを打ち抜き、
向こうも負けじと彼のライフルを切り下げた。
「「ぬぁああ!」」
お互い思いっきり、トマホークとサーベルが火花を散らしてかち合い、その衝撃にザクの間接が一瞬軋む。
開いた左手でGMもどきを殴りつけようとするが、奴は蹴り上げることで対抗してきた。
そうして、蹴り上げたことでお互い武器を取り落とし、丸腰となった……かのように見えた。
GMモドキは腰のラックから、旧世紀日本列島の『NINJA』が使用していた『クナイ』に酷似した武器を、彼に投げつけてきたのである。
「……ぬぉ!?」
咄嗟に機体をひねらせてそれをかわそうとしたが、想定外だったのはこれが爆発物であったことだ。
ザクの手前5mあたりまで来た段階でソレは爆発したのである。
「……? 帰還信号だと!? ……アムロッ!」
視界が回復したとき、奴の機体はすでに闇の向こうに消えていた。
シンが傍らに近づいてくるのに気が付くのにも、時間がかかった。
「隊長、戻りましょう。……隊長?」

 
 

「おぉぁあああああ!」

 
 

恐らく、シャア・アズナブルにとってこれが生涯初の、怒りの雄叫びであった。

 
 
 

第6話《A》~完~

 
 
 

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