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Last-modified: 2010-05-01 (土) 09:58:28

機動戦士ガンダムSEED DESTINY IF
~Revival of Red Comet~
第6話《B》

 
 

カチャリ、カチャリ……

 
 

金属と金属がふれあう音が、格納庫でなく、一個人の私室から聞こえてくる。

 

~機械を弄くっていると、不思議と心が落ち着く。

 

ファブリスは、アーモリーワンでの動揺を抑えるのも兼ねて、
自室で簡単なコンピュータを組んでいた。
任務に出た時からコツコツと造っていた自立ユニットの中枢部分であり、
集中するのにはもってこいの部品であった。
自分の名と記憶を失った後でも、自分はコレは好きだったんだなぁとしみじみ思う。
部屋の至る所に、
半ば完成しつつある自立ユニットのボディ、
出しっぱなしのはんだごてやペンチ、ドライバー、
基盤やコンデンサ、トランジスタ、
食べかけの菓子の袋や飲みかけの飲料ケース。
まったくもって、清潔感のない部屋と化している。
そういう状態の部屋に人が突然入って来るとなれば…………

 

「にーにー、遊ぼ♪ …………ふぇえ!?」
「イテェ! イテェ!」
こうなる。

 

柔らかな金の髪を蓄えた少女、ステラ・ルーシェが、
突如彼の部屋に入ってきたのである。
勢いよく入ってきた彼女は何かに躓いて体勢を崩し、
目の前にあったのは、彼がジャンク屋や電気街で買い集めたパーツの山。
彼女の姿は山の中へと吸い込まれ、とても良い音が開いた戸を越え艦内に響く。
ついでに、何か電子的な声も。
上半身が綺麗に瓦礫の中に埋もれ、
間抜けな姿をさらしている少女の足を、彼は掴んで引きずり出した。
それと同時に、二人の少年、スティングとアウルが部屋へと駆けつけて、
「何だ!? 今の音は……って、またステラか」
「相変わらずきったねぇ部屋。兄ぃ、ちゃんと掃除してんの?」
「失礼な奴らだな! やってるよ!」
そう言っても説得力などかけらもないが、ファブリスは額に汗をかいてそれを否定する。

 

片づけない訳じゃない。片づけてもすぐこうなるだけだ。

 

瓦礫から引きずり出され我に返ったステラは、
自分が躓いた物体に目をやる。すると、彼女の目が輝いた。
「にーにー、これ、何?」
おもちゃ屋で欲しいモノを見つけた子供のように、
爛々と輝く瞳でソレを彼女は見つめている。
「ハナセ! ハナセ!」
ソレはほぼ三頭身というずんぐりむっくりな体型に、
どら焼きを乗せたような頭。
ZAFT系MSに見られるモノアイが印象的で、短い手足をバタバタさせ、
ステラの手から逃れようと藻掻いている。
ファブリスはにやりと笑い、
「それか? ……それはな、『アッガイ』だ」
「「「 『アッガイ』??? 」」
「自立式のロボットだよ。ちゃんと二足で立って自動で歩いたり走ったり、
自分で考えて行動もするし、学習機能や脳波による簡単な健康診断も……」
このモードに入った彼は簡単には止められない。
ソレを知っている男子二名は半分聞き流し、
女子一名はアッガイにうっとりとした目線を投げかけて聞いてすらいない。
「にーにー、これ、もらってもいい?」
しゃべり通したのか高揚した顔をしているファブリスにステラは言った。
「ん? 元々あげる予定だったしな……」
「いいの!?」
「ああ、いいぞ」
彼がそう言うと、彼女は太陽のような笑顔を見せ、
ありがとうと叫びながら彼に抱きついた。
その頭をなでながら、自分に指すような目線が二つ向けられていることに気が付いた。
アウルとスティング両名は、ステラに抱きつかれている彼に対して、
恨みがましい目を向けている。
(ああ、はいはい。なるほどね)
「さ、ステラ。大事に扱ってくれよ」
彼はステラを引き離すと、その手に自立歩行ユニット『アッガイ』を持たせる。
そして、一度コンピュータに接続させると、
中のプログラムを弄くり所有者設定をかけた。
これで、こいつはステラになついて行動するようになる。
「ステラ、ゲンキ!? ステラ、ゲンキ!?」
そう言いながらワタワタと動く姿は小動物さながらであり、
一瞬スティングらも心を奪われかけていた。

 
 

※※※※※※

 
 

「6時方向に大型の熱源1! 距離8000!」
「ZAFTも寝ぼけてる訳じゃ無いってか……」
肘掛けを指でトントンと叩きながら、飄々とした態度を崩さずにネオ・ロアノークは言った。
緊張感がブリッジを包んでいく中、この男はそういったものとは無縁であり、
「ここで一気に叩くぞ! 総員、戦闘配備、パイロットはブリーフィングルームに!」
ブリッジの窓から覗く闇の中には、岩塊やコロニーの破片、MSや戦艦の残骸の集まる宇宙塵の帯が見える。
それにチラリと目をやった彼は手元のコンソールをいじり、
「大尉、聞こえるか?」
ある部屋へと回線を繋ぎ、MS隊隊長、ファブリスを呼び出した。
この男の生息域は大抵、自室で機械いじりをしているか、格納庫で機械いじりをしているか、レクルームで考え事をしているかのいずれかだ。
指揮官としては把握しやすくて助かるが、
前者二つは人としてどうよ?
とは口が裂けても言えない。
「はい」
「お前は、イザワとハラダ、スティングとアウルを連れて、
10時方向のコロニー跡で待機していてくれ。念のために『デコイ・ビーコン』も持って行け」
「了解した。……そういえば、大佐」
「何だ?」
「三人ともあの三機で出たがってるんだ……」
「ネオぉ~」
大尉の言葉の内容と、彼の後ろから聞こえてくる少女の声は、ネオの頭を痛めるには十分であった。
奪ったばっかりの機体を使う?
そんなこと、出来るわけ無いではないか。持ち帰れと命令を受けている以上、壊すわけにはいかないのだ。
第一先程帰還した大尉の報告では、やたら手強いのが一機、『ミネルバ』に乗艦していると言う。
ならばなおさらだ。
「そんなこと出来るわけないだろ。
『スローターダガー』は……はぁ、……置いてきたんだった」
スティング、アウル、ステラ用の『スローターダガー』を、
中間地点の基地に置いてきたことを今更ながら思い出した。
乗る機体が、必然的にアレらしか無いと言うことも……。
「……この子達には壊さないよう言って聞かせますよ、特にスティングには」
ネオの意中をくみ取ったファブリスが、少し笑いをこめて彼に言った。
向こう側ですねている少年がいるが、それを見たネオも笑みで返し、
「ああ、頼む。……ほどほどに頼むぞ、此方はミネルバの相手をしたらすぐに離脱するからな」
「了解!」
「はぁ~い!」
画面にデカデカと茶色い『何か』が映ったと思えば、ファブリスがモニターを覆い隠し、ブツッと通信は切れた。
「何をやってるんだ? 彼奴等は……」
しばらくして、艦から五機のMSが出撃し、
みるみる内に廃墟となっているコロニー片の向こうへと消える。
「リー、いつでも撃てるように、
主砲、バルカン、ミサイルも起動させておけ」
「はっ!」

 
 

※※※※※※

 
 

「けっこう粘るなぁ、あの船も」
ネオは、小惑星にギリギリまで接近したミネルバの後ろ姿を、
ブリッジのモニター越しに眺めて呟く。
ダガー二機が攻撃を加えようと近づいても、
護衛として残っていたMS群のビーム、レールガンの応酬にあい回避するしかなく、
此方も攻撃したいが、ミサイルをチマチマ小惑星越しに打ち込む事しかできず、
決定打を与えられぬまま追いかけっこが続いていた。
「さすがは高速艦だと言いたいが、いくら足が速くても……、足が死ねばどうかな?」
ニヤリと、不気味な笑みを浮かべた彼は、ブリッジクルーに高々と命じた。
「右側の小惑星にミサイルをぶち込め! 砕いた岩のシャワーだ。
宇宙で埋もれる恐怖を敵さんにとくと教えてやれ!」
ブリッジ総員がコクリと頷くのと、ガーティ・ルーの砲門からミサイルの雨が、
ミネルバ直上の岩塊めがけて発射されるのはほぼ同時であった。
ミサイルを見送り、ネオはまた先の戦闘時のように立ち上がると、
「さて、行ってきますか。……リー、後を頼む」
そう言い残すと、通信機でセリナとステラ両名に格納庫に行くよう指示すると、
自らもブリッジを後にした。

 
 

「さてと、来たな……」
ちょうどその数分前、ファブリスは、
デコイ・ビーコンにガーティ・ルーの識別コードを打ち込み、
周囲の瓦礫の裏にスティング達を待機させていた、
通信程度は出来るようにしているが、
センサーに掛からないギリギリの所までパワーを落とさせている。
「やっとお出ましかよぉ。待ちくたびれたぜ、全く……」
「全くだ」
アウルが一人ごち、それにスティング、イザワとハラダは苦笑し、
「無駄話はするな、アウル。……おしゃべりは勝った後だ」
「へいへい、わかってますよ、兄ぃ」
アウルがそう言った後ファブリスは、
敵の隊長機らしきザクが此方に気づいた節を見せたのに気が付く。
彼は機体を即座に起動させ、
「気づかれた!? 全員、戦闘態勢に入れ!」
そう言って、コロニーの影から飛び出し、すぐ近くの小惑星に身を隠すと、
モニターの中心部に敵の真紅のザクを入れる。

 

「…………?」
ふと、既視感が彼を襲った。
あの左肩のスパイク、
ザク独特のフォルムとシールド、
ドラムマガジン形式のライフル。
「赤いMS……!? お、俺は何を……、」
くっ、アウル! 彼奴等にキツイのをお見舞いしてやれ!」
「合点承知!」
女の声が聞こえ、一瞬頭痛に気を取られた彼は、
ソレを振り払うとアウルのアビスに三連装ビーム砲二門を一斉射させ、
「そこだ!」
一機だけ岩に衝突し動きを止めた者を捉えた。
それを見逃すことなく、彼はサーベルを抜いて、ゲイツに躍りかかった。
当然のようにゲイツは此方にライフルを撃ってくるが、
その弾道はアーモリーワンの連中同様読みやすい。
必要最低限の動きでソレをかわし、
「ん!? またか!」
ゾワリと悪寒が背中を駆けめぐり、サーベルをかざして、その悪寒の元を切り下げる。
見てみると、ビームである。
ソレが放たれたのは、あの赤いザクが持つライフルからだ。
「しつこい奴、貴様は後で相手してやる!」
憎々しげに吐き捨てると、彼はゲイツの懐に飛び込み、
コクピットに深々とサーベルを突き刺した。
瞬間、相手のパイロットの断末魔が聞こえ、不快な気分になる。
汚らわしいコーディネイターの悲鳴など、聞いていて楽しくなるわけがない。
余韻を楽しむように、ゆっくりとサーベルを引き抜いた彼は、
「イザワ!? 迂闊だぞ、後ろだ!」
イザワ機の背後に、岩塊を跳躍して背後へと躍り出た赤い奴の姿が映り、
彼が叫んだ次の瞬間、奴の放ったビームはイザワ機の脇に吸い込まれる。
「イザワぁ!」
同僚が落とされた事に気を取られ、ハラダも岩塊から身を出した。
上空から、別の光がハラダ機を頭から腰まで貫き、ダガーは爆散する。
「ちぃっ」
彼はハラダ機を打ち抜いたザクが、ゲイツを率いてミネルバに向かおうとしているのを捉えると、
その妨害に向かおうとした。
しかしまたしても、彼の前に立ちはだかったのはあの忌々しい感覚を持つ奴だ。
「そう何度もやらせはせんよ、アムロ!」
「ぬぅう、忌々しいコーディネイターが! いい加減にしろ!」

 

※※※※※※

 

「おらぁ! 落ちな、この『合体野郎』!」
スティングは、目の前の忌々しい白い奴めがけてライフルを放った。
奴はそれをかわし、間近にあったコロニー残骸の溝の中をすり抜けていく。
そこは、ガラスや薄い外壁で構成された極めて脆い場所であり、
別の場所から突き破るのは造作もない箇所だ。
「いただきぃ!」
アウルの駆るアビスが、
奴が通るであろう箇所にむかって突進し、壁を突き破る。
案の定、此方にまっすぐと奴が向かってきている所であった。
アビスは手にしたビームランスを振りかぶって、奴に向かって思いっきり振り下ろす。
奴は虚を突かれたのか、それをかわした奴溝の中から宙へ飛び出し、
そこに待っていたのはカオスだった。
「よく来たな、白いの! その首もらうぜぇ!」
スティングはMA形態で奴に急接近し、足部に搭載されたサーベルで、
すれ違い様攻撃を仕掛ける。奴のバックパックをかすめるだけであったが、
心理的にどんどん焦りが出てきているようだ。
先程から岩の影やコロニー片の影に隠れつつ移動しているが、
がむしゃらになりつつある。
「これいけるんじゃねぇ? スティング」
「ああ、これなら……ん?」
スティングは、味方が落ちた反応があることに気づき、隊長のいる場所へ向き直った。
イザワ機と、ハラダ機がシグナルロスト。
向こうは残るは隊長一機。
「おい、アウル、アレ……」
「……あ? 何処行こうってんだ、あいつら」
ハラダを落としたザクが、ゲイツを連れて宙域から離脱しようとしている。
きっと、敵の戦艦の援護に行くつもりだろう。
(ネオ、姉ちゃんとステラが……!)
「くっそぉ!」
アウルは舌打ちしあいつらに一斉射をくわえようと、
アビスの胸部にあるビームキャノンの安全装置を解除、
三連装ビームと共に発射しようとした。その時、
「この野郎ぉお!」
「はぁ!?」
目の前に、トリコロールの機体が割り込んで、アウルは一瞬呼吸が止まった。
奴は、その勢いのままに、エネルギーを蓄積していたアビスの砲門に膝をたたき込み、
「うわぁあ!」
「アウル!」
アビスの体制は崩れ、そのまま後方に流れ岩塊に衝突する。
すぐには動かなかった。
奴はとって返し、カオスに対して斬りかかってくる。
「くぅっ」
スティングもカオスのサーベルを抜き放ち、受け止める。

 
 

「その機体、返せよ!」
「は! 出来るわきゃねぇな! こんな良い機体はよぉ!」
「何!?」
宙域戦闘におけるカオスの推力は尋常ではない。
スティングは小さいモニターでアビスの様子を気にしつつ、
バックパックの一部を失っている奴の機体を、ジリジリと岩塊に押しつけ、
「こんな機体造っておいてさぁ、戦う気満々なんじゃねぇの? お宅らは?」
「そんな訳ないだろ! 何が好きこのんで戦争する連中がいる!」
「それがいるんだなぁ……、ここにさぁ!」
スティングは急にカオスのパワーを緩め、
奴は勢いで前につんのめる。
「わっ!?」
スティングは足で奴の期待を蹴り上げようとし、奴はそれに対応して後ろに後退しようとするが、
「自分らで造った機体の武器を忘れんな!」
「うわぁああ!」
足のサーベルを出力最大で発動し、それは奴の胸部装甲をかすめ溶かした。
奴は再び岩塊に叩きつけられ、それにとどめを刺そうとスティングは
サーベルを奴に向かって突き出した。
しかし、万事がうまくいくとは限らないのは常なるもの。
奴はスラスターをふかして機体を右へと加速させ、
紙一重でそれを避けたのだ。それを追おうとしたが、アビスがまだ動かない。
奴の手には、いつの間にかライフルが握られていた。
今カオスの後ろにはアビス、前方に奴がいるという状態だ。
「くっ……」

 

すると、母艦、ガーティ・ルーから帰還信号が上がった。

 

奴が、ライフルを此方に構えながら、ジリジリとあの赤い奴のいる方へと近づいている。
奴もこれ以上こちらに構う余裕がないらしい。
攻撃できるか? いや、否だ。
十中八九、こちらが攻撃しようとすれば奴はアウルを落としにかかるだろう。
奴を落とす代わりにアウルを失うか、再戦の機会を願ってここは退くか。
少し悩んだ末、スティングは後者を取った。
今は何故か、奴とはまた戦えそうな予感がしたからである。
「次こそはあの首をもらう!」
そう自らに言い聞かせ、彼はアビスの手を引いてガーティ・ルーへと帰還した。

 
 

※※※※※※

 
 

「斧持ちに大砲持ち、カオスにゲイツか……」
セリナは目の前に展開されるMS部隊の姿を見てそうぼやいた。
ステラと共にネオの援護として出撃し、相手を一機、ネオが二機落とした。
そこまでは良かったのだが、そうもその先へと進むのが難しい、
ネオとヨーンは新たに登場したカオスと白いザクに苦戦を強いられ、
自分とステラも斧持ちとゲイツを抜けていない状況だ。
肩落ち機を落とせないというのは恥辱の極みだが、此方の攻撃をギリギリの線で避けるのが妙に巧い。
射撃の腕も赤いのよりあちらの方が上手で、接近がなかなか出来ない。
最初のステラが与えた一撃への対応を見る限り、彼奴は格闘戦は上手でない。
しかし、それに持ち込めない事がいっそうイライラを募らせる。
「ああ、もう! いい加減に落ちなさい!」
大剣を振りかぶって、彼女は赤いザクに攻撃を仕掛ける。
赤いザクは此方もとばかりに斧を構え、
二機のMSが振るった格闘兵器は、豪快な音と共にかち合い、
ジリジリジリと火花がお互いの装甲表面に当たる。
「……ちぃっ!」
競り合いになって数秒後、赤いザクが肩のガトリングを此方に向けようとするのに気づく。
彼女は大剣を押しつけるようにして、その反動で離れると、即座に回避運動に入った。
腰のラックからライフルを取り出すと、権勢がてらザクに数発放ち、
「ステラ! そいつはほっといて、大佐の所に!」
これ以上は無理だ。バッテリーの残量や状況からそう考えた彼女はステラに言った。
ネオはというと、カオスによって動きを止められたヨーンが白ザクにとどめを刺され、
一分ほど前に後退すると彼女らに告げていた。
アーマーシュナイダーをついでに赤ザクに投げつけ、シールドを構えたガイアを連れ、
彼女も帰還した。
幸いだったのは、ミネルバの消耗が激しく、MSがそばを離れられぬ状況になっていたこと。
船体が埋まったままというだけだが、そこから距離が開けば母艦が危機にさらされる。
此方を追うわけにも行かぬ状況だったのである。

 

ガーティ・ルーの砲手の腕に感謝しつつ、彼女は宙域から離脱した。

 
 

※※※※※※

 
 

シャア、シン、そしてネオらが戦闘を繰り広げているちょうどそのころ、
ある宙域では、不穏な影がコロニーの残骸を言ったり来たりしていた。
ザクによく似たシルエットと、大きな背部スラスター。
腰に差した日本刀を模した剣と、紫とブラックを基調としたカラーリング。
『ZGMF-1017M2 ジン・ハイマニューバ2型』
ジンの加速性や航続距離などの強化を図った『ジン・ハイマニューバ』とは別に、
ジンのMSならではの機動性を強化した機体である。

 

「よし、取り付け作業を急がせろ」
男が、同志達に声を上げる。周りにはジンHM2と作業ポッドが、
周囲を警戒しながら作業を進めている。
彼らが『何か』を取り付けている柱は、本来コロニーの地盤を支える『シャフトだったモノ』だ。
その下にある地面は、死の世界と称するに相応しい光景が広がっている。
作物の育つことのない大地に、生きる者などいない枯れた街。
悲しい静寂が支配した空間の中心には、まだ新しいプレートが、その輝きを放っていた。

 

『ユニウス条約』

 

前大戦の停戦条約の条文の一部が彫り込まれた碑。
男はそれにゆっくりと近づくと、ジンに刀をぬかせ、その碑の真ん中に突き立てた。
額に傷のある男は、コクピットの中にはってある写真に目をやる。
「アラン……、クリスティン。……待っていろよ」
写真の中で、三人で笑う人間がいる。
男と、その妻と、息子。
いまはこの死の土地で、もの言わぬ骸と化している、妻と息子。
男の名は、サトー・エヴァレット。元ZAFTの軍人にして、今は復讐のみを生き甲斐とする男。
そして男が手に染めようとしているのは、

 

『コロニー落とし』

 
 

シャアとサトーの邂逅は、最早時間の問題となりつつあった。

 
 
 

第6話《B》~完~

 
 
 

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