アークエンジェルのロッカールームで、キラは目を覚ます。どれくらい寝ていたのだろうか。思い切り泣いたせいか、少し頭痛がする。
「……薬、もらった方がいいかな……」
寝起きのせいか、はっきりしない思考をそのままに呟いた。
キラは、自分に掛けられてた毛布に気づき、帰還後、泣いて眠ってしまったのを思い出す。アムロとムウに話した事で、気分が少し軽くなった気がしていた。
キラは起き上がり、ムウに言われた通りに少年兵用の制服に袖を通すと、ロッカールームを後にし、医務室へと向かった。
医務室では、マリューがベットで寝息を立てている。その横では、ムウが一息入れるようにコーヒーを飲んでいた。
「――まったく、この艦長さんは気負い過ぎだぜ……」
ムウは、薬で眠らせたばかりのマリューを起こさないように、呟くとコーヒーを少しだけ流し込む。
切り札となるモビルスーツは奪われ、コロニーは崩壊し、本来、頼るべき上官達はすでに亡く、戦力になる見方はコーディネイターの少年と、違う世界から来た男だけ――。
あまりにも現実味がなかったが、流し込んだコーヒーは苦味が強く、今までの出来事が現実の事なんだと、ムウに改めて実感させた。
ムウは眠るマリューを見つめていると、扉が開き、キラが入ってきた。
「おっ、起きたのか!まだ、寝てていいんだぜ」
「あ、はい。さっきは、ありがとうございました。――ラミアス大尉、どうしたんですか?」
ムウはキラの顔色を見ると、マリューの事を気にしながら小声で言った。キラも様子を察して囁くように聞き返した。
「ああ、艦がバタバタしてて、怪我してるの言い出せなかったみたいでな。簡単な処置をして、薬で眠らせたんだ。まあ、傷は少しは残っちまうだろうけど、大した事はない」
「すいません……」
キラはムウの言葉に、マリューを負傷させたのは、アスランだったのを思い出し、思わず言葉が出てしまう。
「おいおい、お前のせいじゃないだろ。気にするなよ。それよりもどうした?」
「……はい、少し頭痛がするので薬をもらおうかと思って」
ムウの言葉にキラは医務室に来た理由を言った。
「それなら、寝ちまえよ。起きれば大抵の頭痛なんて治ってんだから。初めての戦闘で疲れてるだろ。この薬を飲んでおけ。よく寝れるから」
ムウは戸棚を開くと、睡眠薬と抗不安剤を取り出し、水と一緒にキラに渡した。
「これは……?」
「さっきは疲れで寝ちまっただろうけど、また寝ようとすれば、きっと戦闘の事、思い出しちまうだろ?俺は慣れちまってるから必要ないが、キラは初めてなんだ。きっと、寝ようと思っても寝れないと思うぜ」
「……はい、分かりました」
キラは受け取った錠剤を見つめながら、ムウの説明に納得すると頷き、医務室を出て行こうとする。
「部屋はいくらでも余ってるんだ、好きなところを使え。よく寝ろよ」
「はい……それじゃ、おやすみなさい」
キラは医務室を離れると、居住ブロックへと向かう。その途中の通路で、カトーゼミの友人達がキラに声を掛けた。
「キラー!」
「あ、トール!みんな!……何?どうしたの、その格好?」
キラは、友人達が自分と同じく、地球軍の少年兵用の制服に身を包んでいる姿に驚き、目を丸くした。
「僕達も艦の仕事を手伝おうかと思って。人手不足なんだろ?」
「ブリッジに入るなら軍服着ろってさ」
「軍服はザフトの方が格好いいよなぁ。階級章もねぇから、なんか間抜け」
サイ・アーガイルとカズイ・バスカークが理由を説明する。そこにトールが茶々を入れるようにおどけるように言うと、クルーのダリダ・ローラハ・チャンドラ二世が「生意気、言うな!」と叱り付ける。
トールは、呆然とするキラに微笑むように言う。
「お前にばっか戦わせて、守ってもらってばっかじゃな」
「こういう状況なんだもの、私たちだって、出来ることをして……」
「――おーら、行け!ひよっこども!」
ミリアリアもトールに続くように言葉を並べると、チャンドラ二世がキラを除くカトーゼミの面々を促す。
友人達は、その場を後にするように、キラに片手を挙げ、「また後で」と、歩いていった。残されたキラは、友人達の思いに、心の中が暖かくなる思いがした。
――僕は一人じゃないんだ……。
キラは、友人達が見えなくなるまで見送ると、寝るために部屋を探す。人手不足だけあって、空いている部屋はかなりあった。適当な、二人部屋を見つけ、扉を閉め、服を脱ぎベットに腰掛けた。
ため息をつくと、色々な事を思い出す。――アスラン、コロニーの崩壊、モビルスーツでの戦闘……。そこで、ふと思い出す。コロニー内の戦闘で、対艦刀で切りつけ、ジンを爆発させた事を――。
「……あの、パイロットは……死んだの……?ぼ、くは……人……殺し!?」
キラは自らの言葉に体を震わせ、両腕で自分の体を抱く。それでも震えは治まる事はなかった。すぐさま、ムウから渡された薬を口に放り込み、水で胃へと押しながした。
何も考えないようにと、ベットへと潜り込み、体を胎児のように丸める。その間も震えは治まらない。
「――僕のせいじゃない、僕のせいじゃない!ザフトが襲って来て、仕方なかったんだ――!」
知らない間に口にし、何度も繰り返す。
どれくらい経っただろう、薬が効き始めたのか、意識が遠くなる。
キラは思考するのを止め、そのまま意識を手放した――。
宇宙に砂時計のような形をした建造物が百基あまり並ぶ。その姿は、漆黒の闇の中に白銀の砂時計が並ぶようにとても美しく壮大な景色であった。それは"プラント"と呼ばれ、コーディネイター達の本国である。
その砂時計の一つ、プラント最高評議会が置かれている"アプリリウス・ワン"では、クルーゼ隊への審問会が、ある男性の言葉で締めくくられようとしていた。
「――我々は、我々を守るために戦う、――戦わねば守れないならば、戦うしかないのです!」
男性は、四十半は過ぎているだろう。プラント最高評議会メンバーであり国防委員長、そしてアスランの父であるパトリック・ザラだった。
パトリックの言葉に、一人険しい表情をした男性を除き、評議会の残りのメンバーのほとんどが頷く。それにより、プラントの戦争への道筋は決まったような物だった。
「――それでは、審問会はこれで終了とする」
一人険しい表情をした男性、年齢はパトリックよりも少し上であろう。プラント最高評議会議長、シーゲル・クラインが閉幕を告げると、議場の扉が開けられ、メンバーがおのおのロビーへと出ていく。
クルーゼ隊もそれに倣い、ロビーへと向かう。ロビーでは評議会メンバーの半分近くが、雑談に興じていたが、クルーゼ隊隊員が出て来ると、暖かい視線が彼らに向けられ、それぞれ隊員達が呼ばれる。
どう言う因果か、クルーゼ隊の赤服と呼ばれる隊員達は、みな、評議会メンバーの子供で構成されていた。それは七光りではなく、士官学校で実力で勝ち取った、優秀な者、エリートとしての証明でもある。
親として子供を戦場に送り出し、無事を祈らない親はいまい。やはり無事に帰還したくれたのが、親としてうれしいのだろう。それぞれ、親子のふれあいが見受けられた。
中でも、普段は憎まれ口ばかり叩いているイザークは、母親に人のいる前で抱きしめられ、恥ずかしいと言わんばかりに真っ赤な顔をしていた。
アスランは、その光景を見ていると、声をかけられ、反射的に敬礼をした。
「――クライン議長閣下!」
「そう他人行儀な礼をしれくるな。ようやく君が戻ったと思えば、今度はラクスは仕事だ。まったく、君等はいつ会う時間が取れるのかな。出港までは、多少、時間があったはずだ。出港前にでも、ラクスに会うといい」
「はぁ……、はい」
クラインは自分の娘、ラクス・クラインの許婚でもあるアスランに、苦笑まじりに言った。アスランは、その言葉に気づき、慌てて敬礼していた手を下ろし苦笑する。
クラインは疲れたように議場の扉に目を向けると、愚痴るように言った。
「しかし、また大変な事になりそうだ。君の父上の言う事も分かるのだがな……」
クラインの目線の先には、クルーゼと話しながら議場を出てくるパトリックの姿があった。目線をアスランに戻すと、明らかに事務的な内容を話してきた。
「君がヘリオポリスの救命艇を助けた事は聞いている。その中に連合事務次官のご息女がいたのだ。しかし、父が軍人と言うだけで、本人は民間人だ。人道的に、いつまでも軍が拘束しているのも問題がある。そこでなのだが、その、ご息女をアマルフィのところに預けようと思う」
「――ニコルの家にですか!?」
「ああ、それから、艦とモビルスーツの修理が終わるまで、クルーゼ隊には休暇が与えられる事になった。君とニコル君に、次の出撃まで監視をかねた警護を頼みたい」
「――え!?」
アスランは、クラインの話に驚き、言葉を無くす。クラインはアスランをよそに、話を続ける。
「すでにパトリックには話をしてある。クルーゼからの推薦もあってな。追って、命令があるだろう。そうだな、なるべく外出でもして、プラントが地球と変わらないのを見せてあげて欲しい」
「それはなぜです?」
女性とは言え、敵である連合事務次官の娘なら、外に出さずに常に監視するのがベストだと思ったアスランは、クラインに問いただした。
「地球に戻った時に、プラントがいかに人道的に動いてるかを知らしめる為と、ナチュラルにコーディネイターへの偏見を無くして欲しいからだ。
人質としては使うつもりはないが、地球とも交渉がしやすくなる可能性を考えれば致し方あるまい。……これも政治と言う奴だよ。本来なら休暇なのに、すまない」
「……わかりました」
クラインはアスランの問いに、いかにこの件が重要な事かを説くように言った。アスランは、釈然としながらもプラントの未来になるならと、納得する事にした。
その後、ロビーでクルーゼからの命令を聞き、クルーゼ隊の面々は休暇へと入る。
アスランは別れ際にクルーゼに呼び止められた。
「隊長、なんでしょうか?」
「警護する民間人……フレイ・アルスターだったかな?彼女は君の友達、キラ・ヤマト君と同じカレッジらしい。もしかしたら、君の友人の事を知っているかもしれんな。聞いてみるといい」
「――あ、はい……。それでは失礼します」
クルーゼの言葉にアスランは、しばし呆然としたが、返事をすると建物の入り口で待つニコルの元へと急ぐように踵を返した。
アスランは民間船の港に来ていた。ニコルは任務の都合上、一緒に来たのだが、ラクスに会うアスランに気を使ってか、暇を潰すと言って、港口で別れたのだ。
辺りを見回し、サービスカウンターでラクスの乗る船を尋ねた。ラクスの婚約者である事を知られている為、すんなりと話が通じる。一言、礼を言うと、ラクスがいるVIP用の部屋へと向かった。
アスランは、今さらながらだが緊張しながら扉を開けた。
淡いピンク色の長い髪のアスランと同年代であろう少女が扉の開く音に気づき、顔をアスランに向けると、かわいらしい笑顔が咲く。
「こんにちは、アスラン。お久しぶりですわ!」
「ハロ、ハロ、アスラーン!」
「ラクス……」
ラクスは椅子から立ち上がると、ゆっくりと宙に浮かぶようにアスランの方にやってくる。ラクスの後を追うように、球状の小さなロボット"ハロ"が間抜けな声を上げた。
アスランはラクスの笑顔を見て、さっきまでの理由も分からぬ緊張を解くように息を吐いた。
ラクスは笑顔で、ハロの様子に目を細め、アスランが会いに来てくれたのを喜んだ。
「ハロがはしゃいでいますわ。久しぶりに貴方に会えて嬉しいみたい」
「ハロには、そんな感情のようなものはありませんよ」
アスランは、苦笑しながら答えた。ラクスは将来、自分の妻になる事が約束されているが、今はまだ、実感は無い。
ラクスと一緒にいると、戦っている時のようにギスギスした感じがしないのを実感する。ラクスの持つ雰囲気だろうか、心が洗われるような感じがする。それは、とても心地よく、呆けてしましそうになる。
「あぁ……何か?アスラン?」
「あっ、いえぇ……。あ、ご気分はいかがかと思いまして……」
「えっへ。私は元気ですわ」
「……そうですか……」
微妙な間が空き、取り繕うようにアスランは言うと、ラクスは笑顔で答えた。
アスランは、ラクスをうらやましく思う。いつでも笑顔で楽しそうにしている姿を見ると、友人と戦う自分の辛さなど、一生、分からないだろうと感じてしまう。
ラクスは、アスランの様子に何かを感じ取ったのか、少し悲しそうな表情をする。
「辛そうな、お顔ですのね……」
「ニコニコ笑って、戦争は出来ませんよ――」
アスランは、ラクスの言葉に、思わす本音を言ってしまう。しかし、その言葉を言った事を、すぐ後悔をした。ラクスには嫌味に聞こえたのではないかと思った。
何か悪い事をしたかのように感じ、途端に居心地が悪くなり、この部屋を離れる理由を捜し始めた。
「――私は任務があるので、これで……」
「……はい、アスランもお元気で……」
アスランは勝手な罪悪感から、任務を理由に背を向け扉へと向かう。扉の所で一度だけラクスの顔を見ると、そのまま部屋を出て行った。
部屋には、アスランの事を神にでも祈るように、胸の前で手を組むラクスだけが残された。
赤毛の少女、フレイ・アルスターは両脇を小銃を持ったザフト軍警備兵に固められ廊下を歩いていた。どこにかに移送されるらしい。
フレイは、コロニー脱出後、他の人達と共にザフト軍に救出され、身元確認が行われた後にプラントに到着すると一人、隔離されていた。
――どこに連れていかれるの……?
もしかしたら、殺されてしまうかもしれない……。フレイの心の中では、不安が渦巻いていた。
フレイは建物の入り口へと着くと、ザフト軍の赤い制服に身を包んだ少年二人が立っていた。警備兵が敬礼をすると、その二人も敬礼で返す。
「クルーゼ隊、アスラン・ザラです。命令により、警護の為、出頭しました」
「同じく、ニコル・アマルフィです」
警備兵が一応の引渡しの説明と始め、フレイの引渡しが終了すると、アスラン・ザラが先導するようにフレイに言った。
「フレイ・アルスター、こちらへどうぞ」
「あ、……はい」
「手荒な事をする訳ではありませんから、心配しないでください」
硬い口調のアスランに答えるように、フレイはぎこちなく返事をする。表情はとても不安そうだった。その表情を見て、ニコルは、フレイに安心するように言った。
フレイはアスランとニコルに促されま車の前まで来ると、アスランが後部シートの扉を開き、乗るように促す。
「移動しますから、乗ってください」
「……どこへ行くの?」
フレイがアスランに聞くと、ニコルがアスランに代わって答える。
「僕の家です。あなたが地球に帰るまでの間、預かる事になりました」
「――えっ?」
「――と、言っても面倒見るのは母なんですけどね。変な事をしなければ拘束される心配もありませんし、安心してください」
ニコルの言葉に頷くと、フレイは後部シートへと座り、アスランはドアを閉めると運転席へを向かう。それを見てニコルは助手席に座った。
「ニコル、なんで後ろに座らない?」
「大丈夫ですよ、彼女は何もしないと思います。ここはプラント本国なんですから」
ナチュラルの女性がコーディネイターの軍人に勝てるわけもなく、アスランはニコルの言葉に納得すると「分かったと」ばかりに頷き、息を吐く。その様子にニコルが声をかけた。
「どうしたんですか、アスラン?イライラしてません?」
「……いや、別になんでもない」
アスランは、ニコルに答えるとアクセルを踏み込み、車を発進させた。
アムロは、寝る前に飲み物でも飲もうと食堂に来ていた。中ではメカニックのクルー達が食事を取っていた。
「みんな、疲れているだろう――そのまま、食事を続けてくれ」
アムロが食堂に入り声をかけると、全員立ち上がり敬礼をしようとするが、アムロは食事を続けるよう片手で制し、食堂の片隅にあるドリンクボックスへと歩みを進める。その時、マードックが声をかけてきた。
「大尉さん、いいですか?」
「ん、どうした?あの件、なんとかなりそうか?」
「ええ、本当に撃つだけならですけどね」
マードックは苦笑いをしながら言う。
「そうか、それは助かる。すまないな、マードック――」
「――大尉さん、別に階級付きで呼ばなくてもいいですよ。肩が凝ってたまらんですから」
アムロが礼を言おうとすると、マードックはわざとらしく方を自分の肩を叩きながら言葉を続ける。
「あんたとは、うまくやれそうだ。頼みますよ」
「ああ、よろしく頼む」
アムロとマードックは軽く握手を交わす。お互いの手が離れるとマードックは口を開いた。
「あの事は、また後で知らせますよ。流石に疲れたんで、仮眠を取らせてもらいます。それじゃ!」
マードックは疲れた表情を見せると食堂を出て行く。
アムロはマードックを見送ると、ドリンクボックスの前に立ち、飲み物を選ぶが、寝る前にはあまり向かない飲み物が多かった。
仕方なくカウンターに向かい、配膳当番のクルーに声をかけると、ドリンクメニューらしき紙を渡される。
アムロはメニューを見ると、ミルクと書かれた文字を見つけ、ふと、一年戦争当時の事を思い出した。 懐かしさからか、アムロはミルクを頼み、しばし待つとコップに注がれて出てくる。
アムロはコップを受け取ると一番近い席に腰を下ろし、舌を濡らすようにミルクを口に含むと緊張が解けたのか、大きく息を吐く。
「あ、アムロ大尉、ご苦労様です」
「バジルール少尉、君も休息か?」
アムロは声のした方を見るとナタルが立っていた。アムロはナタルに声をかける。
「はい。艦長が戻られたので。アムロ大尉も寝る前に飲み物ですか?……ご一緒してよろしいでしょうか?」
アムロはナタルの言葉に頷き、前の席を勧める。周りを見るとアムロとナタル、二人だけになっていた。
ナタルはドリンクボックスから飲み物を持ってくると、席に腰を下ろし、帽子をテーブルの上に置いた。
「アムロ大尉は何を飲んでらっしゃるのですか?」
「ミルクさ。可笑しいか?」
「いいえ。……ブリッジにいた時とは雰囲気が違ったので、アルコールでも飲んでいるのかと思いまして」
アムロはナタルの問いに軽く笑いながら答える。ナタルも顔を軽く振ると、思っている事を正直に言い、言葉を続ける。
「それにしても、先の戦闘では凄かったですね」
「そうか?」
「正直、本当にナチュラルなのか疑いたくなりました。……大尉のいた世界では、ナチュラル同士が戦っていたのですよね?」
「君達から見れば、そうなるな」
アムロの返す言葉にナタルは軽く微笑みながら言うと、今度は真剣な顔で質問をする。アムロは頷くように答えた。
「それが信じられないのです。しかも、隕石やコロニーまで落とそうとするなど……」
「対立構造は大して変わらない。スペースノイドにアースノイド、コーディネイターにナチュラル。主義主張が違えば自ずと争いは起こる物だ」
ナタルは目線をコップに向け思い詰めたように言った。アムロはナタルを諭すように言うと、少しの沈黙が訪れる。
ナタルはブリッジでのキラとアムロの話しを思い出し、再び言葉を続けた。
「……アムロ大尉は、キラ・ヤマトと同様に民間人の身でモビルスーツに乗られたと、おっしゃっておられましたね」
「ああ、一年戦争当時の事か。父の造ったガンダムに乗って、ジオン軍のザクを倒した」
その言葉がきっかけで、ナタルは色々と質問を始めたので、アムロは掻い摘んでだが、過去の話をする事にした。一年戦争、ティターンズやシャアとの戦い、ニュータイプの事――。
ナタルは話に聞き入り、時には眉をひそめた。話を聞き終わると、ナタルは人間の残酷さを改めて思い知り、そして、ニュータイプと言う名の希望を見出す。
「……ニュータイプですか、凄いですね……。信じがたいですけど、本当に人類全てが、お互いを理解出来るようになれば、戦争なんてしなくて済むのかもしれません……」
「だが、ニュータイプは戦争の道具としてしか扱われなかった」
ナタルは聞いた事を、そのままに素直に感想を言うと、アムロは目を逸らしながら言った。そのアムロを見ながらナタルは考え深げに口にする。
「……あなたのような人がこの世界にいれば、戦争は早く終わっていたかもしれません……」
「それは買い被り過ぎだ。高々、モビルスーツ一機で戦争は止められはしないさ……」
アムロはシャアが言った言葉を思い出し、自分が戦争の道具として使われてきた無力さを噛み締める。
ナタルはアムロの言葉に、それ以上、言葉を続ける事が出来なかった。
アスランは車を止め、青ざめているフレイの傍に立っていた。ニコルは乗り物酔いをしたフレイの為に飲み物を買いに車を離れていた。
「すまない、運転が乱暴過ぎたみたいで……立てるか?」
道端でうずくまっているフレイに手を差し伸べると、手をに払われる。
「――あ……、ご、ごめんなさい!」
フレイは、とっさにしてしまったとは言え、相手は軍人なのだ。自分のした事にさらに青ざめる。
アスランはフレイに対して、首を振り謝罪をした。
「いや、俺が悪かったんだ。本当にすまない」
フレイはアスランの謝罪に安心したのか、顔色は少しだけ戻る。
再び、アスランが手を差し伸べると、少し迷い、その手を取って立ち上がる。
「横になっていた方が気分も落ち着く。直にニコルも戻るから、シートに寝ててくれ。」
フレイは頷くと、車の後部シートに横になった。
アスランは目の前の公園に走って行き、ハンカチを取り出すと水で濡らしてすぐに車に戻った。ハンカチをフレイの額に置くと、運転席に戻り頭を抱える。
――俺は何をやってるんだ!?
「あ、……ありがとう」
「あ、いや、気にしないでくれ。それよりも、大丈夫か?」
フレイは後部シートから頭を抱えるアスランを見つめると、お礼の言葉を言った。アスランは、うな垂れるように聞き返す。
まだ青い顔をしながらも、フレイは軽く頷いた。
「そうか……、最近、色々あって苛立っていて……、君には本当に悪い事をした」
アスランはフレイが頷くのを確認すると再び謝罪をし、言葉を続ける。
「君はヘリオポリスのカレッジにいたんだろ?友達は?」
「……脱出の時にはぐれちゃって……」
「……そうか。きっと、その友達も無事だと思う……」
「あなた達が攻めて来なければ、こんな事にならなかったのに……」
フレイは間を空けるように答えると、アスランは言った。
フレイには、その言葉が気休めに聞こえたのか、怒りと共に、涙がこぼれる。
「……俺たちにも非はあるが、あれは、地球軍が……あんな物を造るから……それにコロニーを崩壊させたのだって……」
アスランは、それ以上言うのを止めた。所詮は敵軍に所属している父を持つ娘なのだ。何を言っても無駄なんじゃないかと思えた。
今のアスランは、ニコルが早く戻るのを願うのみであった。