CCA-Seed_98 ◆TSElPlu4zM氏_第19話_中編

Last-modified: 2007-11-10 (土) 18:17:58

地球連合軍第八艦隊旗艦メネラオスは、突破したイージス、ブリッツ、ジンを追う様に降下を始めていた。
 何としてもアークエンジェルとストライクを守らなければならない以上、ストライクとνガンダムだけに迎撃を任す訳にはいかない。メネラオスを盾にしてでも守り抜くつもりだった。

「――戦艦がモビルスーツ同士の戦闘に介入しても的になるだけだ!下がれ!」
「……ぬう、アムロ・レイか!……えぇい、そう言われては仕方あるまい!艦を後退させ、ミサイルとメビウスによる援護攻撃に切り替える!」

 モビルスーツ同士の戦闘が始まった所で、メネラオスのブリッジにアムロの声がスピーカーを通して響き渡った。
 ハルバートンは苦渋の表情を見せると決断を下し、指示を出す。そして、隣に座るホフマンに声を掛けた。

「モビルスーツの戦闘はモニターしているか?」
「――は!ご覧下さい」

 ホフマンが応えると、メインモニターにはストライク、νガンダム、それぞれの戦闘の様子が映し出されていた。
 ストライクは片腕を失ったデュエルを相手に距離を取りながら、ライフルでの撃ち合いを行っている。
 パイロットが民間人のキラである事を考えれば、互角以上の戦いぶりに見えた。

「ストライクも良くやっているな」
「ええ。コーディネイターとは言え、年端も行かぬ民間人の少年が操縦していると思えないですな……」
「しかし、プラントでは、あの年齢位の少年でも戦場に出ていると聞くが、それを差し引いたとしても、コーディネイターと言う人種は凄い物だな。あの少年が味方であったのを感謝せねばなるまい」

 ホフマンは、素直にキラのパイロットとしての素質に目を丸くしながら答えると、ハルバートンも同様に感心しながら頷く。
 二人ともに、コーディネイターと言う種の適正を見せ付けさせられた思いだった。
 そして、ハルバートンはνガンダムの映るモニターに目を向ける。
 ハルバートンにすれば、自軍の兵器であるキラの乗るストライクよりも、ナチュラルがどの様な戦いが出来るのかと言う意味で、νガンダムの方に興味があった。
 νガンダムは、ライフルを応戦するイージスを相手に果敢に接近戦を挑もうとしていた。
 次々と襲い掛かるビームをνガンダムが交わして行く。その光景は、アムロがナチュラルと知ってなければ、コーディネイター同士の戦いに見える程だった。

「……ほう。あの男、言うだけの事はある。我々と同じナチュラルとは思えぬ様な戦い振りだな」
「我々ナチュラルも、あの様に戦えるのですな……」

 ハルバートンがアムロの戦いぶりに目を丸くすると、ホフマンは驚嘆の表情でモニターを見続けながら頷いた。
 それはハルバートンやホフマンだけでは無く、メネラオスのブリッジ要員達も同様らしく、モニターに釘付けとなっていた。
 そうしていると、モニターに映るνガンダムがイージス懐に飛び込み、ビームサーベルでライフルを持つ右腕を切り飛ばす。

「――おおっ!」

 その光景を目にしたハルバートン、ホフマン、そしてメネラオスのブリッジ要員達が驚きと喜びの声を上げた。
 今まで、身体的特性で劣るナチュラルがコーディネイターに対し、信じられない程の戦いを見せているのだ。彼らからすれば、それは暗闇の中に見出した一筋の光明でもあった。
 ハルバートンは打ち震えるかの様に目を見開き、興奮を隠せない様子で口を開いた。

「コーディネイターが操る最新鋭機を相手に、ナチュラルが飛び道具も使わず圧して居るではないか!実に素晴らしい!それにしてもアムロ・レイと言う男は素晴らしい腕を持っていではないか!」
「……まるで夢を見ているかの様です!あのパイロットがオーブの軍人であるのが実に惜しまれます!」
「うむ。無いもの強請りを口にしても仕方は無いが、しかし、このような光景を目にする日が来ようとはな……。これで死んで逝った者達に報いる事が出来ると言う物だ」
「死んで逝った者達も万感の思いでありましょう……。我が軍でもモビルスーツが量産された暁には、必ずや勝利が待っていると信じております!」
「うむ!」

 ハルバートンの言葉にホフマンは、目に涙を溜めつつも視線をモニターからハルバートンへと移し、力強い言葉でナチュラルの勝利への確信を口にした。
 ハルバートンが頷くと、ホフマンが席を立ち、ブリッジ要員達に向け声を張り上げる。

「――全員、今の戦闘を目にしたな!我々の命運は、Gとアークエンジェルに掛かっていると言っても過言ではない!気合を入れろ!何としても守り抜くのだ!」
「――は!」

 ホフマンの声を耳にし、手の空いていた者達が敬礼で応えた。
 その瞬間、オペレーターの声が新たな敵増援を知らせる。

「――ジン四機!モビルスーツが戦闘中の宙域に向かっています!」
「――なに、増援だと!?差し違えるつもりかっ!?何としても守り抜け!」
「ここまで来て、あれに落とされてたまるかっ!支援機はどうした!?」
「――はい!一個小隊がアークエンジェルの守りに入りました!もう一小隊がモビルスーツの支援に入ります!」
「それでは足りぬ!出せるだけの支援機を出せ!何としても、アークエンジェルとストライクを守り抜くのだ!」

 ハルバートンはオペレーターの返答内容に怒鳴り声を上げ、メネラオスに残存するメビウスの出撃指示を出した。
 地球軍にとっての希望の光を今、潰えさせてしまう訳にはいかない。
 メネラオスのブリッジは、アークエンジェルとストライクを守る為に、次々とオペレーター達の指示を出す声が飛び交う事となった。

 イージスをアムロに任せたキラは、デュエルと戦闘を行っていた。ストライクはライフル、デュエルはシヴァで応戦していたが、互いに決め手に欠き、時間だけが過ぎて行く。
 そんな中、地球降下までの時間が迫りつつあり、キラに焦りが出始めていた。

「――くっ!時間が無いのに……こうなったら!」

 キラは吐き捨てると、シールドを正面に翳して、ライフルを乱射しながらデュエルに機体を向けて突っ込んで行く。
 ニコルはビームを回避しつつも、接近するストライクに対応する為、サーベルを装備しようとデュエルの右腕を上に上げた。
 キラはその瞬間を狙い、デュエルに向け、プログラムの修正を行った三五〇ミリ ガンランチャーを発射した。

「――くっ!」

 ニコルは間一髪、ガンランチャーを避けるとデュエルにサーベルを握らせ、ストライクを目視しようとするが、その瞬間、シールドを翳したストライクがデュエルに体当たりをする勢いで突っ込んで来た。
 デュエルは対応しようにも既に遅く、コックピットを激しい揺れが襲う。

「――うわっ!」

 絡み合うよにぶつかったストライクはシールドとライフルを投げ捨て、空いた左手でデュエルの右手を掴んで封じ込むと、機体を密着させた。
 そして、右肩をねじ込む様にして、νガンダムの攻撃によって失った左腕付近の脆くなったアサルトシュラウド装甲へと一二〇ミリ対艦バルカン砲向ける。
 
「――捕まえた!これなら!」

 キラは叫ぶとトリガーを押し込み、至近距離から一二〇ミリ対艦バルカン砲を放つ。
 ストライクの右肩に装備されているガンランチャーから幾多の火花が散り、アムロの攻撃で脆くなったデュエルのアサルトシュラウド装甲を徐々に削って行く。

「――うっわあぁぁ!」

 至近距離からの攻撃を受け、操縦桿を掴んでいられない程の激しい揺れにニコルは悲鳴を上げた。しかし、ストライクからの攻撃は止まる事は無い。
 デュエルのエネルギーゲージが大幅に減り始め、レッドゾーン目前へと迫りつつあった。
 密着した状態の攻撃の為、跳弾でストライクへもダメージは及んでいた。エールストライカーパック右側に装備しているサーベルに兆弾が当たり、爆発を起こして吹き飛ぶ。
 しかし、キラはそんな事も気付かない様子でトリガーを押し続けるが、やがて、ストライクのガンランチャーが弾切れを起こし、駆動音だけが聞こえてきた。

「――弾切れ!?」

 キラはモニターに一瞬、目を向けると残弾数がゼロを示しており、同時に右側サーベルが無い事に気付く。
 左手はデュエルの攻撃を封じ込めている為、使用する事は出来ない。かと言って、ここまでやって離れて戦うのは不利だと判断した。

「サーベルが無い!――それなら!」

 キラが叫ぶと、ストライクは右手を握り締め、デュエルのアサルトシュラウド装甲が無くなったコックピットに近い箇所を狙ってパンチを繰り出し始めた。

「――うわっ!あ――」

 幾度も繰り出されるストライクからのボディーブローで、ニコルの体はシートへ何度も打ち付けられる。デュエルのボディも同様で軋みを上げる。
 デュエルの電装系が衝撃に耐え切れなかったのか、モニターの一部がブラックアウトして行く。

「――そ――そんな!し、死にた――」

 ニコルはシートに体を打ちつけながらも、コックピットが押し潰されるのではないかと恐怖に声を上げるが、しかし、ストライクは攻撃の手を緩める事は無い。
 それから数度のパンチを浴びたデュエルは機体の色を灰色へと変色させた――フェイズシフトダウン。

「――これで――!」

 キラはデュエルのフェイズシフトダウンを確認すると、声を張り上げて再度パンチを出す為に右側に操縦桿を命一杯引く。
 そして、操縦桿を押し出した瞬間、ストライクのコックピットにアラームが鳴り響き、キラを横から何かがぶつかる様な衝撃が襲った。

「――うわっ!」
「――うわっぁぁ!……ううっ……」

 ストライクは右側からジンの突撃を受けていた。その為、ストライクのパンチはポイントを外れ、アサルトシュラウド装甲の上を叩く事となった。
 攻撃の衝撃でデュエルのモニターが完全に割れ、ガラスが弾け飛ぶ。コックピットに響くニコルの声は、悲鳴の後に呻き声へと変わる。
 ジンに弾き飛ばされたストライクは、再度、攻撃を仕掛けようとビームサーベルを装備するが、アークエンジェルからの通信が入り、ミリアリアの声がスピーカーから響いた。

「――ストライク、νガンダム、帰艦してください!フェイズスリー突入限界点まで二分です!早く帰艦してください!」
「――くっ!了解しました。ストライク帰艦します!」

 帰艦指示を聞いたキラはビームサーベルを収めると、ストライクをアークエンジェルへと向けバーニアを噴かし戦域を離脱して行く。
 一方、デュエルは二機のジンに引かれながら、ストライク同様に戦域を離脱しようとしていた。

「……ううっ……痛い、痛い、痛い……」

 デュエルのコックピットにニコルの呻き声が響く。
 ストライクの攻撃で飛び散ったモニターの大きな破片が、ニコルの被るヘルメットのバイザーを突き破り、その顔に大きな傷を付けいた。

「貴様、何のつもりだ!?どうして俺の名を知っている?」
「キラから話は聞いている。友達なのだろう?かと言って、情けを掛けるつもりは無い。引く気が無いのなら、容赦無く落とさせてもらうぞ」
「キ、キラからだと……!?」

 アムロの言葉を聞き、アスランは目を見開く。
 アスランからすれば、親友だと思っていたキラが自分の情報を地球軍に漏らしたと言う事だ。それに、優しいキラがモビルスーツに乗っているのかも謎のままだった。
 地球軍は、全く戦争とは関係の無いコロニーに核を使い、罪無き人々と母を殺したのだ。そんな連中なら、どんな事でもやりかねないとアスランの頭の中に過ぎった。

「――キラに何をした!?誰かを人質に捕って無理矢理、口を割らせたのか!?どうしてキラがモビルスーツに乗っている!?」
「キラは自らの意思でストライクに乗っている!それ以上でも、それ以下でも無い!」
「――な、なんだと!?」

 アムロの言葉を聞いたアスランは、キラが自らの意思でモビルスーツに乗っている事など予想もしていなかった。
 信じたくは無いが、キラが自分にライフルを向け撃って来たのも事実であり、対峙するνガンダムから聞こえて来る話に符号する点は幾つもあった。しかしアスランは、そんな事を認めたくは無い。
 そんな時、イージスのコックピットに聞き慣れたニコルの悲鳴が響いた。

「――うわっぁぁ!……ううっ……」
「――!?ニコル!?どうした、何があった!?」
「――デュエルが被弾した!」

 アスランが声を上げると、味方のジンのパイロットからの声が聞こえた。
 レーダーにはデュエルに寄り添うように二機のジンを示すマーカーと、そして、もう二機のジンがこちらに向かっているのと、離脱するストライクを確認した。

「――イージス、貴様も帰艦しろ!」
「――!……そ、そんな……キラが……キラがやったのか!?」

 ジンのパイロットの声が響くが、アスランの耳には届く事はなかった。
 ――キラがニコルを……傷つけた!
 いつまでも友達だと信じ、助けようと思っていたキラが、自らの友達を傷つけた。その様な行為に及ぶなど、アスランからすれば裏切り行為だった。
 アスランの中で何かが弾けた――。 
 イージスはバーニアを噴かし、νガンダムへと斬り掛かる。

「――ふざけるなぁぁ!そこを退け!」
「――何!?さっきとは気配が違うだと!?……どちらにしても引く気が無いと言う事か!」

 アムロはイージスから発せられる気配を感じ取り、一瞬、戸惑うが、イージスからの攻撃をビームサーベルで受け流すと横凪に切り掛かる。
 アスランは左腕のビームサーベルで受け止めると、右足の爪先からビームサーベルを発生させ、νガンダムを蹴り上げようとする。

「――下か!?」

 アムロは一瞬の気配を感じ取り、νガンダムの左膝を曲げるとイージスの膝に足裏で蹴りを叩き込んだ。
 攻撃を止められたイージスの右足のビームサーベルの先は、νガンダムの腰裏の装甲をかすり、焦げ目を付ける。

「――ちっ!」
「――こいつ!」

 アスランは舌打ちをすると、次は左足で蹴り上げようとするが、アムロはスロットルを全開に開き、上へと回避する際にイージスの頭に蹴りを入れ、弾き飛ばした。
 νガンダムと直ぐに体勢を立て直したイージスが、睨み合うように対峙する。
 その時、アークエンジェルからの通信がνガンダムのコックピットに響く。

「――ストライク、νガンダム、帰艦してください!フェイズスリー突入限界点まで二分です!早く帰艦してください!」
「――後退だと!?ここまでか!」
「――ま、待て!」

 アムロは吐き捨てるとダミーバルーンを発射し、アークエンジェルへと向けバーニアを噴かした。
 途中、ストライクがどうなっているか、レーダーでマーカーを確認すると無事に戦域を離脱し、アークエンジェルに向かっている様だった。
 アスランは後退するνガンダムを追いかける様にバーニアを噴かすと、ダミーバルーンの一つを薙ぎ払う。

「――うっ!爆発しただと!?」

 イージスのビームサーベルに拠って切られたダミーバルーンは爆発を起こし、アスランにνガンダムを追う気力を削ぐ形となった。
 アスランはバーニアを噴かしながらも、νガンダムを追うのを止め、目的のキラを捜し始めた。
 レーダーをチェックし、キラの乗るストライクへの移動する方向へと目を向ける。

「……キ、キラは!?――いた!」

 アスランはスロットルを全開に開くと、アークエンジェルに向かうストライクを追いかける。
 キラも追ってくるイージスに気付き、バーニアを噴かす。

「――イージス!?アスラン!今、構っている暇は無いんだ!」
「どうして……どうして、ニコルを傷つけた!?」
「――早い!このままじゃ追いつかれる!?」

 イージスのスピードは、アスランの念が篭ったかの様に最大まで加速して行く。
 キラは、デュエルとの戦闘でビームライフルを捨ててしまった為、ストライクの左手にサーベル装備させる。
 イージスはストライクに対して、横から移動を阻む様にして接近して来た。

「――キラ――!」
「――っ!」

 キラはビームサーベルを展開させると、サーベルで払おうとするが、アスランも切られるつもりは無く、左腕のビームサーベルでストライクの攻撃を受け止めた。
 鍔迫り合いになり、イージスがストライクを圧し始める。

「――うっ……お、圧されてる!?」
「――どうして、お前がニコルを!?」
「……まずい、時間が!?アスラン、そこを退いて!」
「キラ、やめろ!」
「退かないつもりなら!」

 キラはイージスを睨め付けながらも、ストライクの足で前蹴りを入れてイージスを引き離すと、スロットルを全開にしてイージスへと切りつける。
 しかし、アスランは易々と攻撃を回避し、怒鳴り声を上げながら反撃へと移った。

「――どうして、俺の言う事を聞こうとしない!」
「――くっ!早い!」
「――俺は戦いたくないと言うのに、どうして、俺の気持ちが分からないんだ!」

 キラは何とか攻撃を受け止めるが先程と変わらず、アスランの気迫に圧されていた。
 アスランは怒りを剥き出しにしながらストライクを蹴り飛ばすと、動きを封じ込める為に距離を詰めに掛かった。

「――うわぁぁぁ!」
「どうして、ニコルを傷つけた!?答えろ、キラ!」
「――くっ!また来るの!?それなら!」
「――!」

 キラは、バーニアを噴かしてストライクの体勢を戻すと、頭部のイーゲルシュテルンを接近するイージスへと発射し、再度、ビームサーベルで切り掛かる。
 しかし、イージスは攻撃を避け、自分を倒そうとするキラに対し、アスランの怒りは頂点へと達する。

「キラ、お前と言う奴は!」
「――僕は、僕の大切な人達を――うわっ!」

 アスランは今までに無い程の怒鳴り声を上げながら、ストライクへの左腕の肘を切り飛ばした。
 ストライクのコックピットに衝撃が走り、コンソールにダメージを示す赤いランプが点った。イーゲルシュテルンとアーマーシュナイダー以外の装備を失ったストライクには、イージスを倒す術は無い。
 アークエンジェルに戻る時間も少なくなり、キラの表情が強張る。