CCA_507 ◆Bm82Mk3J2Y氏_第4話_2

Last-modified: 2008-12-16 (火) 19:25:14
 

 ルナマリアがジャスティスをどうにか鹵獲に成功したのと時を同じくして、アムロとジュドーのジェガンはSフリーダムと激闘を繰り広げていた。

 

 ―ニュータイプとSEED―

 

 異なる世界の人類の可能性と「力」が激突する。

 
 

        ―第4話「サイレントヴォイス」中篇―

 
 

「見える!」

 

 アムロはニュータイプ能力と乗機であるジェガンの性能を駆使し、フリーダムの攻撃を神がかり的な機動で回避し、すぐさまライフルで反撃を返す。
 キラもSEEDを発動させているが、動きそのものを読めるニュータイプ能力の前にはSEED能力など無力に等しかった。

 

「・・・しまった!ライフルを!?」

 

 アムロのジェガンが放ったビーム・ライフルの一撃がフリーダムの二丁目のライフルを破壊すれば、ジュドーがシールド内蔵のミサイルを命中させる。戦闘の主導権は完璧にアムロたちが握っていた。

 

「くっ・・・。あなた方はなんで僕たちを邪魔するんです!!」
「ふざけるな!貴様達の行なっていることはただのテロ行為にすぎない!!それが分からないほど馬鹿でもないだろう!」

 

 アムロは機体を操りつつ、無線の接触回線をオンにして敵機の『ハネツキ』(ロンド・ベルがフリーダムに付けた識別用のコードネーム)のパイロットと口論していた。
 ロンド・ベルにしてみれば、オーブ第2宇宙艦隊はフォン・ブラウン市を攻撃しようとする「所属不明の集団」である。その部隊がフォン・ブラウン市(地球連邦)の領空で堂々と偵察・戦闘を行なうことなどテロ行為以外の何物でもない。

 

「それでも僕たちは戦いを止めなくちゃならないんだ!ザフトを止めないと世界は・・・!」

 

 オーブ軍の艦隊に編入される以前から行なってきた『戦場に介入する』行為を言葉で真っ向から否定されたのは初めてのことだった。しかしここで引き下がるわけにも行かない。
 ビーム・サーベルを二本同時に引き抜き、ジェガンに斬りかかった。

 

「エゴだよ!それは!!」

 

 アムロもジェガンにビーム・サーベルを構えさせ、フリーダムを迎え撃つ。
 ここでもサーベル同士のつば競り合いが起こった。ジェガンのサーベルは確実にフリーダムのサーベルを受け止めていた。そしてすぐさま攻撃に移る。つば競り合いを解き、バルカンポッドを連射する。

 

「これならっ!」

 

 キラはジェガンのバルカン砲の攻撃をPS装甲で弾くと、腹部のビーム砲を放つ。
 しかしそんな攻撃がアムロに通じるわけはなく、容易く回避される。

 

「そんな!?これでもダメなんて……!」

 

 自分が一向に攻撃を当てられないことに焦りを感じたキラは、動くかも分からないドラグーンを無理矢理起動させた。

 

「頼む、動いてくれ……!!」

 

 ミノフスキー粒子によって量子通信が阻害されているため、動きは鈍いがフリーダムの背部ウイングからドラグーンが分離する。オールレンジ攻撃を仕掛けると同時にウイングから俗に言う「光の翼」が出現する。
 この効果により、フリーダムは先ほどまでとはうってかわって軽快な動きを見せた。しかしこの戦法にもアムロは冷静に対処して見せる。

 

「翼がファンネルになるだと?……ならば!!」

 

 アムロはジェガンの予備のサーベルを引き抜いて、ビームを展開させるとそれを投げる。
 続いて空中で回転するサーベルをライフルで撃つ。すると回転するサーベルに当たったビームが拡散し、接近してくるドラグーンを全て叩き落した。

 

「やったか!……この方法は使える…カミーユに感謝しないとな」

 

 この光景を目の辺りにしたキラは唖然とした表情を見せた。

 

「どうやったらあんなことができるんだ……?」

 

 ドラグーンを見切る事はよほどの空間認識能力がなければほぼ不可能に近い。それをやってのけたとなると、敵のパイロットは自分と同等か、あるいはそれ以上の能力を備えているとしか考えられない。ドラグーンの攻撃すら無効ならどうすればいいのか。

 

 キラは額から冷や汗が流れるのを感じた。
 コントロールスティックを握る手も震えてきている。
 つまりこれは己が「恐怖」を感じているということだろうか。

 

「僕が一度ならず二度までも落とされる……そんなことは駄目だ!」

 

 キラは脳裏に過ぎった悪夢を必死に振り払おうとした。

 

(あの時はインパルスのガムシャラな動きに翻弄されただけだ!!ラクスから受け取ったこの「自由」が2度も落とされるなんて……!)

 
 

(…あのパイロット、プレッシャーが消えた…?)

 

 アムロは相手のパイロットの焦りを感じ取り、『ハネツキ』がいますぐに落とすほどの脅威で無くなったと判断、バルカンで弾幕を張りつつも相手と距離をとる。

 

「アレは後回しにしても問題は無いな。……っ!!」

 

 どこからか飛来したビームを避けながらアムロは辺りを確認する。

 

「援護の母艦か……?……ん!!?」
「なんだなんだぁ!?」

 

 アムロとジュドーは、あまりの衝撃に開いた口が塞がらなかった。
 敵の戦艦は通常の常識ではありえない色の塗装だったからだ。
 その戦艦―「エターナル」は主砲を2機のジェガンに放ちつつ、フリーダムを回収する。

 
 

―エターナル 艦橋―

 

「フリーダムの収容完了!パイロットの生存を確認!機体の損傷は酷いものの怪我はないようです」
「ドムを発進させろ!発進後、正面突破を試みる!」
「了解!」

 

「あれはドム?・・・この世界にもドムがあるのか」

 

 エターナルから3機のドムトルーパーが発進する。その姿はU.C.のリック・ドムⅡとドム・トローペンを混ぜたような印象を受ける。アムロはかつてのドムによく似たMSが接近してくるのを確認すると牽制を兼ねてライフルで弾幕を貼った。

 

「3機のドムと言うと、……『あれ』か?」

 

 彼は一年戦争時の記憶から、ある戦術を警戒していた。それはスバリ「ジェットストリームアタック」である。かつて自分が打ち破った戦法だが、自分の世界のそれと全く同じとは限らないからだ。

 

「ヤロウども!あの緑色の奴に仕掛ける!」
「おう!ドムの恐ろしさ見せてやろうぜ!!」
「フッ・・・」
「行くよ!!ジェットストリームアタック!!」

 

 3機のドムはジェガンに彼らの得意とする戦法を使った。だが、彼らは知らない。自分達が対峙しているMSが自分達の知るそれよりも遥かに高い性能を持ち、パイロットの技量も非常に高い事を。

 
 

「このフォーメーション・・・やはり!」

 

 アムロは敵の動きを瞬時に見抜き、その神業とも言える操縦で先頭のドムのバズーカ攻撃をその場から大して動かずに回避し、2機目にシールドミサイルを見舞う。
 続いて、ミサイルを当てられたドムが怯んだのを確認するとすぐに左腰のグレネードランチャーを目くらまし代わりに使い、ひとまず体勢を立て直す。

 

「ジュドー、君は母艦を攻撃するんだ!このドム部隊は俺が引き受けた!」
『了解!』

 

 アムロはジュドー機が敵の母艦に向かうのを確認すると、ドム部隊のほうに機体を向ける。
 U.C.の人間にとって「ドム」は過去のMSであるが、ドムのホバー移動の速度は最新機にとっても充分脅威となりえる。
 アムロはジェットストリームアタックを崩すべく頭の中で戦術を練る。

 

 (ジェットストリームアタックは隊列を乱せば自然に崩れるはずだ)

 

 さっそく行動に移し、迫り来るドムトルーパーにライフルを連射しつつ背部のメインスラスターを吹かして接近する。

 

「な……ッ!?」

 

 ドムのパイロットたちは敵の行動に驚愕した。ジェットストリームアタックに真っ向から挑んでくるではないか。これは彼らの戦歴でも初めてのことである。

 

「ほう。自分から向かってくるとはね……馬鹿め!ドムの力を知らないと見える!!」

 

 彼らは愛機の能力に絶対的な自信を持っていた。しかしそれがいつしか『うぬぼれ』と呼べる物に変わっていたことに気付いてはいなかった。

 

 ジェガンの接近を許したことは一転して彼らを窮地に追い込んだ。
 アムロは巧みな操縦技術でジェガンの性能を限界まで引き出した。ジェガンの特徴である機動性の高さを駆使し、敵に肉薄する。

 

「馬鹿な!?コイツ!?」

 

 ドムのパイロットの一人、マーズ・シメオンがジェガンの動きに恐怖を覚えたような叫びを上げた。それはほとんど悲鳴に近かった。敵機は弾幕の隙間を掻い潜るように接近してくる。しかもこれだけ弾幕を張っているのに一発も命中しないのだ。
 まるで見えない何かの力で弾道を捻じ曲げているのではないかと思うほどに。
 攻撃を全て回避したアムロは先頭のドムを踏み台にして飛び上がった。

 

「あ、あたしを踏み台にしたっ!?」

 

 この動きは一年戦争当時に黒い三連星を打ち破った時の動きをそのまま再現した物だ。違う事といえば量産型、それも弱さで定評のあるGM系の機体で行なったくらいだろうか。

 

「この一撃で!!」

 

 彼はかつてと同じように2機目をサーベルで突いたが、装甲が思ったより厚く、致命傷にはならなかった。それでも最大出力で展開されていたビームシールドを破って、装甲に損傷を与えたことは賞賛に値するだろう。

 

「このぉ…なめるなっ!!」

 

 後方のドムのバズーカの弾丸がジェガンのシールドに直撃し、ジェガンの姿が爆炎に包まれた。

 

―やった!!

 

 彼はジェガンを破壊したと歓喜の表情を見せた。だが、煙が晴れた時。肩の装甲とシールドは破壊されたもの、それ以外はたいした損傷の無いジェガンの姿があった。

 

「チィッ!…シールドと装甲をやられたか! だがこれくらいのことで!」

 

 アムロは舌打ちをしつつジェガンの左足で蹴りを入れる。たまらず敵機は吹き飛ぶ。
 それと同時に敵戦艦から広域通信が響き渡った。

 

『私はラクス・クラインです。この空域で戦っている全ての地球連合軍に告げます。直ちに戦闘を止め、兵を退きなさい』

 
 

「何だこの通信は……戦闘中だぞ!」

 

 敵艦からかけられている通信は明らかに場違いな物だった。普通、戦闘中に広域通信で敵に向かって戦闘停止を説くことなど常識外も甚だしい。
 もちろんアムロだけでなく、あるものは困惑し、あるものは怒りを覚えていた。
 通信の内容が理解しかねるものであることもその一因だが、戦闘中止を『訴える』ものや『嘆願する』内容ではなく高みから見下ろすような命令口調――あたかも自分達の行なっている行為が正しいとも勘違いしているような傲慢さを感じさせる物であったからだ。
 エターナルへの攻撃に入ったジュドーは通信機のスイッチを入れ、相手の電波に割りこみをかけた。

 

「ふざけるな!!撤退しろだって?それはあんたらの傲慢だよ!!」

 

 エターナルのブリッジは驚愕に満ちた空気に包まれていた。ラクスの演説に真っ向から反論してくる人間など今までどこにもいなかったからである。
 エターナルではブリッジにいる全員が信じられないといった表情でスクリーンを見つめていた。

 

「傲慢……?それはどういう意味かお聞かせ願えないでしょうか?」

 

 皆が沈黙する中、ラクスが口を開いた。

 

『あんたがこの艦の艦長さんかい?』

 

 スクリーンから聞こえてくる声は明らかにキラとほぼ同年代の少年の声だった。

 

「そのようなものですわ」
『そうなら話は早い。あんた達はなんでこんな事をする?』
「私たちは戦いを終らせなくてはならないのです。今すぐ戦闘行為をやめ、道を開けなさい」

 

 ラクスはジュドーを諭すような口調で語りかけている。しかしそれはかえって彼に不信感をいださせる結果を招いた。

 

『じゃあ、今のあんた達がやってる事をはっきりと正しいと言えるのか?どこの世界にいきなり現れて、ガンダム持ち出して攻撃してくる奴なんている?少なくとも俺は見たこと無いね』

 

 ジュドーの言う事はある意味的を得ていた。今回のこの戦闘にしても彼らの方から仕掛けてきているからだ。

 

「ではあなた方は何故私達の邪魔をするのです?私たちはザフトを止め、この戦争を終わせなくてはならないのです」
『随分虫のいい事を言うけど、あんた等は自分達の『正義』だけで物事を考えてないか? たしかに戦争を終わらせたいって気持ちはわからないわけじゃないけど、一方的な正義で片付くほど現実は甘くは無いんだよ!!』

 

 それは、戦いで大人達の『汚さ』を垣間見てきた一人の『若者』の感情の発露とも取れる言葉であった。
 ラクスもこのジュドーの言葉に感銘を受けたようで、微笑を浮かべた。

 

 ―地球連合にも彼のような者がまだいるとは…。まだ連合も捨てたものではないですわね―

 

 ジュドーの言葉の意味を噛み締めつつ、ラクスはジュドーにはっきりと自らの意思を示した。

 

「たしかにそれが現実かもしれません。それでも私達は信念を貫きます。やらねばならない事があるのですから」
『…そうかい』

 

 ジュドーはそれだけ言うと悔しさを抑えたような表情を見せ、通信を切ろうとする。

 

「待ってください。あなたの…あなたのお名前を聞かせてください」
『俺?俺はジュドー・アーシタだけど』
「ありがとうございます…素敵な方ですわね」

 

 それだけいうとジュドーは通信を切った。

 

「…いいのか?」
「しかたありません。私達が『自らの正義』を信じて戦っているように、彼らにも信ずる物、また、道があるのです」

 

 ラクスは悲しげな声で言った。
 副官のバルトフェルトは察したような表情を見せ、戦闘再開を命じた。

 
 

「あの敵MSの戦闘能力を奪う!!落とすなよ!お姫様が悲しむからな!ミサイル照準合わせ!!撃て!!」

 

 エターナルの各部から無数のミサイルが放たれる。
 しかしミサイルはすべてミノフスキー粒子の干渉により明後日の方向に逸れて行った。
 それと同時にジュドーはジェガンにビーム・サーベルを構えさせる。

 

「そういう勝手な事を言うあんたらの存在そのものが鬱陶しいんだよ!!」

 

 ジェガンのサーベルのビームがまるでエネルギーを集束させたように巨大化していく。
 俗に言う『ハイパー化』と呼ばれる現象である。
 かつてのカミーユ・ビダンのそれと比べれば幾分か規模が小さいもの、サイコミュは愚か、バイオセンサーさえ搭載していない機体にも関わらず摩訶不思議なオーラを纏うというのは驚嘆に値する事であった。

 

「落ちろぉ―――ッ!」

 

 叫びと共にサーベルがエターナルに振り下ろされる。

 

「くっ!機関最大出力!!なんとしても避けろ!!」

 

 バルトフェルトは攻撃を回避すべく号令を発した。それに応え、操舵手も必死に舵を操作する。
 しかし、いかにエターナルの足が速いといっても所詮は「戦艦」であり、戦闘機のような運動性など望めるはずがない。
 サーベルの直撃は避けたもの、艦首装甲はまるで紙の様に切り裂かれていった。
 そのせいでエターナルのブリッジが激しく揺れ、座席から放り出される兵士も少なからずいる。

 

「……被害報告!」
「は、はいっ!…なっ!?艦首が付け根から切られています!」
「何!?馬鹿な、奴はどういう出力を……!?」

 

(ッ!このままではいずれ落とされる…!ドムは足止めされ、ジャスティスとの連絡はとれず、援軍を呼ぼうにも長距離通信は不調……。進退窮まるとはこのことだな…)

 

「…敵の援軍です!一機だけのようですが…」
「何だと…!」

 

 バルトフェルトはこの援軍に焦りを感じた。一機だけとは言え、船体に重大な損害を負っている今、攻撃されれば撃沈されかねないからである。

 

「あれはMk-Ⅲ?誰が乗ってるんだ?」

 

 ジュドーは援軍として現れたガンダムMk-Ⅲに驚きを隠せない様子である。そんなジェガンを尻目にMk-Ⅲはエターナルに接近する。

 

(エターナル。ラクス・クラインの指揮する艦……!)

 

 ルナマリアは自分の中で怒りや憎悪が湧き上がるのを感じ、操縦桿を握る手の圧力を自然と強めていた。
 自分からたった一人の妹であるメイリンを奪い、アスランが再び裏切る要因をも作った元凶である人間が乗る艦なのだ。そのような感情が湧き出るのはむしろ当然といえた。
 そのままCIWSの迎撃を掻い潜り、バルカンでいくつか沈黙させる。そのままブリッジに取り付いて接触回線を開いた。

 

「エターナル、聞こえる?」
『その声……もしかしてお姉ちゃん?』
「やっぱりエターナルに乗っていたのね、メイリン」

 

 彼女はそう言いながらメットを脱ぎ捨て、怒りと悲しみの双方とも取れる表情を見せた。

 

『そのパイロットスーツ……、お姉ちゃん、まさか連合に!?』
「ええ」
『そんな!どうして!?』
「…今のザフトに正義があるとは思えなかったからよ」

 

 と、一応啖呵を切ったが、本当はそれだけではない。
 もっと、自分でも良くわからない胸のもやもやとしたなにか、それも裏切りの原因の一つではある。
 でも、それはもはやきっかけに過ぎないものだ。

 

『お姉ちゃんとは戦いたくないよ!だって私たちは姉妹でしょ!?家族でしょ!?』

 

 半泣き状態のメイリンの声が聞こえてくる。しかし今の自分はもうザフトの人間ではない。
 割り切れない気持ちを見せつつも、彼女は『一人の軍人』として言葉を発した。

 

「……ええ。私だって戦いたくない!だけど……ラクス・クラインの言葉を信じる気にはどうしてもなれないのよ。テロ集団もどきであるラクスたちに与するつもりは無いし、他人の言う事を聞かず、自分達の殻に閉じこもっているのはおかしいと思うの」
『お姉ちゃん!』
「メイリン…ごめん…大好きよ」

 

 そう言って通信を切り、機体をエターナルから離脱させ、mk-Ⅲの肩部ビームキャノンの砲身をエターナルに向け、いつでもトリガーを引けるように指をボタンにあわせる。

 

「どうせ外れるだろうけど……、一撃だけでも命中させる!」

 

 発射されたキャノン砲の赤い閃光が月面の上空を賭ける。
 一発は船体をかすめただけだったが、二発目はエターナルの装甲にさらなる穴を穿つ効果を上げた。

 

「やった…でもこれはガンダムのおかげって奴かしら?」

 

 命中弾が出た事に安堵しつつも、機体の能力に頼った自分に戒めの言葉を呟き、複雑な趣で成り行きを見守る。

 
 

 ブリッジのコンソールは警告表示で真っ赤になっていた。火災も発生し、これ以上の戦闘継続はエターナルの『死』を意味する。バルトフェルトは苦渋の表情で命令を発した。

 

「ダメージコントロール!隔壁閉鎖!消火剤を散布しろ!残念だが、これ以上は無理だ…後退する!信号弾上げろ!」
「り、了解!」

 

 各部に重大な損傷を負い、装甲に何箇所も穴を開けられた無残な姿を晒しながらエターナルは生きている機関を全開にして戦場を離脱する。

 

「あの信号弾は…ちぃっ!もう一機の緑の奴にやられたか…!野郎共、撤退するよ!!」
「り、了解…!」
「馬鹿な…たった二機のダガーごときに俺達が…!?」

 

 パイロット達が口々にジェガンへの侮蔑を吐きながら3機のドムもエターナルの後を追うようにホバーを全開にして撤退していった。

 

「どうやら終わったようだな」

 

 アムロは敵が撤退していくのを確認するとジェガンに持たせていたサーベルを右腰部のホルダーにしまう。
 そしてMk-Ⅲへ通信を開いた。

 

「Mk-Ⅲ、聞こえるか?」
『は、はい』
「その声…ルナマリア君、君が乗っていたのか」

 

 Mk-Ⅲの搭乗者が誰だか理解すると、アムロは驚きを見せた。

 

「しかし、誰が君の出撃を許可したんだ?」
『ブライト艦長です』
「何、ブライトが?(……いくら過去に例があるとはいえ、アイツにしてはえらく大胆なやり方だな。三十路に入って貫禄がついたからか?)」

 

 憶測を立てていると、タイミング良くラー・カイラムから通信が入る。

 

『アムロ、敵の撤退を確認した。いったん帰還してくれ』
「あ、ああ…了解した。ところで何故Mk-Ⅲに彼女が?」
『私が許可した。もっとも気づいたときには発進態勢に入っていたが。それに昔からこういう時は下手に止めるよりも、行かせた方が何かと事がうまく運ぶ事が多いからな』
「お前らしいな」
『それとルナマリア君、君は帰還後、艦長室に出頭するように。ジュドーもよくやってくれた』
「了解だ」
『了解しました』
『何、これくらい軽いって。帰還するよ』

 

 3人は編隊を組みつつ、一路ラー・カイラムへの帰路についた。
 どうやらラー・カイラムが護衛部隊を引き連れて自分達を出迎えに来ているようで、遠くからでも艦影を識別できた。
 そこに直援部隊のスターク・ジェガンの隊長機からアムロに通信が入る。

 

『レイ大尉、お疲れ様です。ところで、Mk-Ⅲのお嬢ちゃんが大金星あげたって聞いていますか?』
「いや、まだだが…。どういうことだ?」
『敵のガンダムを一機鹵獲したんですよ』
「なんだって!?」
『首が無い以外は比較的良好な状態でしたので、今部下達に運ばせています。初陣であれだけの大物を…いやあ、正直言ってたまげましたよ』
「それは凄いな」
『初陣だと聞きましたから存分にねぎらってやりましょう』
「艦内に居る連中にジュースとデザートを用意させよう。…言付けを頼むぞ、曹長」
『了解しました』

 

 通信を終えるとひとまずため息をついて体をほぐす。

 

「ふう…。これでひとまず落ち着けるな。俺も胃薬買おうかな…。これからの事を思うと胃潰瘍になりそうだ…」

 

 と愚痴る。

 

(今は考えないことにしよう。今は無事に帰還することを第一に考えるべきだ。昔、帰還の途中で機体が爆発して死んだパイロットもいたと言う話を聞いたことがあるしな…。あれはたしか名前にアが付いた船で起こった話だったような)

 

 といらぬ心配をしつつ、機体を着艦コースに乗せる。

 
 

 ――こうしてロンド・ベルはアムロとジュドーの奮戦や、ルナマリアの行動も相まってエターナルを撃退し、フォン・ブラウン市の防衛に成功した。
 しかし先の見えないこの事態に、市の行政府から対応を迫られるのは必至である。
 はたして彼らの行末はどうなるのであろうか……?
 それはまさに神のみぞ知る事であった――

 
 

?