Canard-meet-kagari_第01話

Last-modified: 2007-11-10 (土) 21:28:01

第1話

「おい、お前待てって言ってるだろう」
 黒髪の長髪の男が、遠く爆音の聞こえる暗い通路で前に行く帽子を被った金髪の人物の手を掴む。
「は、離せ私には確かめねばならない事がある」
「知るか!この音が聞こえないのか?MSだ!こんな旧式コロニーMSの前ではあっという間にお陀仏だ」
「だからこそ、私は!」
「!!伏せろ」
 天井が崩れて瓦礫が二人にめがけて降ってくる。男は目の前の人物を突き飛ばし、目の前の人物に覆いかぶさるような形で床に倒れる。パラパラと細かい粒が二人の頭に舞い降りる
 二人は起き上がる、幸いどちらも怪我は無いようだ。
「なにを、するんだいきなり」
「うるさいぞ!助けてやったんだ、礼を言うのが筋だろうが!!…お前女だってのか?」
 見ると先程まで被っていた帽子が脱げ、暗がりでは良く見えなかった顔がはっきり見えていた。
「何だと思っていたんだ」
 金髪の少女の激高を無視して、長髪の男は少女の手を掴んだ
「瓦礫で来た道は、塞がってるようだな。おい、先を急ぐぞ」
「ま、待て」
 男に手を引かれる形で、少女は通路を自分の向かっていた方向に走り出した。

 通路を抜けた先は地獄だった銃声が響き、硝煙の臭いが充満していた。
「あれは!」
 男が格納庫に横たわる二対の鋼鉄の巨人MSに目が行く、そしてその周りでは、パイロットスーツの男達と軍服の男達との激しい銃撃戦が繰り広げられていた。
 パイロットスーツの男達はザフトと呼ばれる、コーディネーターの軍隊で、それと戦っている男達の軍服は地球連合のものだった。
 男は、ザフト軍の目的がこの新型MSであることを悟る。
(アノ情報屋の言った事は、本当だったのか。
 見たところ、ザフトと戦っているのは大西洋連邦のようだが現地軍はどうしたんだ?)
 そこで、男は共に行動した少女がフェンスにもたれ掛かり、床に座り込んでいるのに気がつく。肩を震わせ、唇から漏れる呟きが男の耳に入って来る
「お父様はやはり……理念の為に……見捨てたのか?このコロニーを……お父様の裏切り者!!!」
「おい、なんだか知らないが、シェルターまで走れるか?」
「うるさい!私は…私は…」
 見ると少女の目には、涙が浮かんでいた。
「訳ありなんだろうが、今は生きることを考えろ…って!!!」
 突然男は少女を押し倒した。
「え、ええ?ば、馬鹿!やめろ!」
 少女は突然の事に困惑したが、すぐに自分の勘違いに気がつく。今まで少女のいた空間に無数の銃弾が通り過ぎていった
 チラリと下を見ると赤いパイロットスーツの男がサブマシンガンを構えて、こちらを見上げていた。
「こっちだ!」
 二人は急いでコンソールの様な物の陰に隠れる。自分達を撃った赤いパイロットスーツの男が再び自分達に向けて発砲してきた。
「クソッ!調子に乗るな!!」
 男は拳銃を取り出し、パイロットスーツの男に向けて発砲した。パイロットスーツの男に銃弾が当たり、倒れこみ、動かなくなった。
 通常ザフトのパイロットスーツは、防弾使用になっており拳銃程度では致命傷にならない、しかし、二人を狙うために上を見上げていたためにヘルメットとスーツの間の脆い部分を男に向けてしまっていたのだ。男は、そこを正確に射抜いていたのだ。
「お、お前、殺したのか!」
「気にするな、正当防衛だ」
「そうゆう問題じゃない!お前は人を殺したんだぞ!なんとも思わないのか!」
「殺らなければこっちが死んでいたんだ、生き残るためなら俺は何だってする!今までそうやって生きてきたんだ、そしてこれからも!」
「お前…」
「シェルターまでもうすぐだ、一気に行くぞ」

 二人は再び走りだした、銃弾の雨をかいくぐり、非難シェルターまであと少しという所で、突如シェルターの扉が爆発した。
 崩れた壁から外を見ると、すぐ近くにザフト軍のMSジンが背中を向け、正面の戦車部隊に攻撃を加えていた。どうやらさっきの爆発はMSを撃墜しようとした地球軍の攻撃が外れ、シェルターの扉を吹き飛ばしたようだ。
「クソ!大西洋の奴等、何をやってるんだ」
 男は不甲斐ない地球軍に向けて悪態つき振り向くと少女が跪き、必死で瓦礫を退けていた。
「おい、そんな事をしても無駄だ、仮にシェルターの入り口を掘り起こしても中には入れないぞ」
「…………すけなきゃ」
「ん?」
「助けなきゃ、中の人たちが生き埋めになってるかもしれないんだ」
「!!!」
 少女の言葉に、男は一瞬、あっけにとられたが、
「大丈夫だ、あの程度の爆発ならシェルター本体は無事だ」
「そ、そうなのか?」
 少女は瓦礫を掻き分ける手を止めて男に聞き返す。
「そうだ、だいたいシェルターは、外壁の近くにあるんだ……本当に知らないのか?」
 宇宙に住む人間にそんなことは常識、また地球に住む人間もシャトルの中で教わることだ。
「さ、先に言え!」
 少女は顔を赤く染めて、男に文句を言う。
「知るか」
 そっけなく答えると、男は次にどうするかを考えていた。
 シェルターはここ以外この近くに無い、かと言って外に出るのも得策でもないだろう、なら残るは…
「おい、戻るぞ!」
 男は来た道を引き返し始めた、それに少女も続く。
「おい待て」
 二人は全速力でさっきの格納庫まで引き返した。
 格納庫まで来ると男は立ち止まって下の様子を伺う、そうしている間に息を切らせた少女が追いついてくる。
「ハア、ハア、お、お前、一体」
「飛ぶぞ」
 男は少女の手を掴むと、銃弾の嵐が飛び交う格納庫へ落ちていく。
「え・え?きゃああああああああ」
 絹を裂くような少女の叫びに男は、
(こいつ、本当に女だったのか)と初めて一緒にいた人物が女であることを実感したのだった。
 格納庫ではあちらこちらで火の手が上がり、爆音が響いていた。二人は格納庫に横たわる、新型MSの上に着地する。
「あ、あなた達は?」
 カーキ色のツナギを来た女性が、突然の来訪者に困惑した顔で、訊ねてきた。少女が答えようとしたその時、
「はああああああああああ」
 赤いパイロットスーツの男がナイフを構えこちらに向かって駆け出して来た。
「チィ」
 男は拳銃を取り出し、男に狙いを定める。ナイフが振り下ろせれる直前、パイロットスーツの男は自分に狙いを定める男の顔を見て立ち止まって、呟く。
「キ、キラ?」
「何だと!!」
 目の前の男が言った意外な名前に、男は驚き、引き金を引く事が出来なかった。