Canard-meet-kagari_第12話

Last-modified: 2007-11-10 (土) 21:30:34

第12話

「この私が九機ものMSを失うとは……」
「増援を要請した方が宜しいのでは……」
 クルーゼに黒い軍服の男が進言する。
「アデス、何機いようとも結果は同じだ。ジンがいくら集まろうともアノ機体が相手ではな……せめて私のシグーがあればな」
「仕方ありません、この任務に着く前に本国に送り返したのですから」
「そうだったな、あれはいい機体だったのだが……」
 クルーゼは、スクラップにされ、もう二度と乗ることはない愛機のことを思っているとアスランがブリッチに現れる。
「来たか、ガモフと連絡を取れ、これからの作戦会議だ」
 ガモフと通信が開き、イザーク、ディアッカ、ニコルの顔がスクリーンに映し出される。
「さて諸君が知っての通り、我がクルーゼ隊は、これまでのどの敵より強大な敵を相手にしている。この敵に対してはジンの装備では決定打を与えることが出来ない、しかし、ここで引き下がることも出来ない、死んでいった同胞達の死を無駄にしないためにも我々は何としても残された最後の一機を倒さなければならん」
 クルーゼの言葉に全員がうなずき合う。
「しかし我々にはMSが無い、仮に有ったとしても、ジンの装備では決定打を与えることは出来ない。そこで奪った連合の機体、イージス、デュエル、バスター、ブリッツの四機を使う、パイロットは、アスラン、イザーク、ディアッカ、ニコルだ」
クルーゼの指示を聞き、アデスが驚きの声を上げる。
「連合の機体にザフトレッドを乗せるおつもりですか」
 ザフトレッド、ザフト士官学校の中で総合成績トップ10に入った者だけが着る事の出来る、赤い軍服を纏った者の事だ。アスラン達は、『血のバレンタイン』を契機に増えた膨大な志願兵の中において、その赤を纏う資格を得た真のエリートである。そんな彼等にナチュラルの作ったMSに乗せようと言うのだ。
当 然、反対の声が上がるとアデスは思ったが、賛成の声は意外な人物から挙がった。
「面白そうだな、隊長、他のヤツが行かないのなら私一人で十分です」
「「イザーク!!」」
 全員が彼に注目する。彼は、人一倍コーディネーターである事に誇りを持っており、まさか彼がナチュラルのMSに乗ると言い出すとは誰一人予想していなかっただろう。
「まさか、君が言い出すとはね……正直驚いたよ」
「自らの作り出したMSにコロニーごと葬りさられる、裏切り者のコーディネーターと中立と偽りMSを作り出したナチュラルには、お似合いの最後だと思いませんか」
 イザークがその高貴な顔をニヤリと歪ませる。そして、アスランを横目で見ながら、
「そして、何より『血のバレンタイン』の悲劇を知る我々が、コロニーを破壊したという事はあってはならない事です。その事を知る者は一刻も早く抹殺すべきです」
 その言葉にを聞き、アスランは顔を伏せ拳を握り締める。
『血のバレンタイン』、プラントの農業コロニーであるユニウスセブンを大西洋連邦が核攻撃を行った忌まわしい事件である。植物学者であるアスランの母親もその犠牲者の一人である。
 彼は、アスランは非難されて当然だと思っていたが、一方で、じゃあどうすれば良かったんだとも思っていた。
「イザーク、アスランの行動を責めるつもりか?それは筋違いだ……彼の取った行動は正しい、我が軍において人員は最も尊いのだからな」
 その言葉に今度はイザークが顔を背ける。
 クルーゼの言う事は、自分達コーディネーターの現状を考えれば当然の事である。しかし彼が、アスランを非難めいた事を言ったのは、本人さえ気づいてない理由があった。
 全ての分野で、彼に勝って見せたアスランが裏切り者のコーディーネーター相手に逃げ帰り、自分の手で、自分の母親の襲った悲劇を再現した彼にとってアスランが、そんな醜態をさらすのが気に入らなかったのだろう。
「他の三人は、どうだ……乗りたくないのなら別に強制はしないが」
 クルーゼが残りの三人に問う。
「いいんじゃねーの、面白そうだし」
「運用データも取ったほうが良さそうですしね」
 ディアッカ、ニコルがそれぞれの言葉で作戦への参加を決意する。
「アスラン、君はどうするのかね」
「行かせて下さい、けじめは自分自身の手で付けます」
「いいだろう、ヴェサリウスは先行し、アルテミスに向かう敵艦を待つ。ガモフには、軌道面交差のコースを、索敵を密にしながら追尾する」
「アルテミスですか……」
 アデスが疑問の声を挙げる。
「月までの道のりを我々が黙って見てるとは思わないだろう、せっかく残った最後の一機だ、戦闘で破壊される可能性は少ない方が良いに決まっている、なら近くの友軍の要塞にでも隠れていた方がいい、特にアルテミスには傘があるからな」
「なるほど……了解しました。ヴェサリウス発進、敵の頭を抑える。パイロット各位はMSで待機、何時でも出撃できるようにしておけ」
 アデスの号令と共にエンジンが始動する。
(さあムウ、そしてカナード・パルス、君たちはどう出る)
 クルーゼは仮面に隠されていない口元を歪ませ、スクリーンに写された漆黒の宇宙を見据えていた。