D.StrikeS_第06話

Last-modified: 2009-06-08 (月) 17:49:44

私はずっと自分の力を恐れていた。

 違う、今でも恐れている。

 望む、望まないに関わらず持って生まれたその力を。

 その力があったから、私は里にいられなくなった。

 強すぎる力は災いを呼ぶ、里の人たちはそう言う。

 でも、大切な場所を守るために、大切な人たちを守るために。 

 その力を使わなくてはいけなくなった時、私はどうするんだろう・・・

 私は、どうすればいいんだろう・・・

 魔法少女リリカルなのは D.StrikerS、始まります。

 

 魔法少女リリカルなのはD.StrikerS
 第6話「その力を受け入れるときなの」

 

 なのは達が居なくなったストームレイダーのコンテナ部は、なんとも言えない沈黙に包まれていた。
 というか誰もがどう反応していいかわからなかったのだ。
 その沈黙を破ったのはエリオであった。
「……シンさん、大丈夫なんでしょうか?」
「多分大丈夫でしょ、訓練の時もちゃんと飛行魔法できてたんだし。」

 

 それにティアナが冷静に答える。
「そう……ですよね、はい!」
 その言葉にエリオは納得したのか頷く。
 そこでスバルが口を開いた。
「でもささっきのシン、おかしかったよねぇ。
 いっつもぶすってしてるのに『うあああああああああああああ』って。」
 口元に笑いを湛えながらそう言うスバル。
「こら、スバル。流石にそれはシンにしつれ……ぷ、っく。」
 ティアナがスバルを注意しようとするが、落ちていくシンの姿を思い出してしまい逆に噴出してしまう。
「ティアだって笑ってるじゃんかー。
 あ、キャロはさっきのシンどうだった?」
「……へっ!? あ、ごめんなさい、ぼーっとしてました。
 えと、さっきのシンさんですよね? 確かにちょっと……ふふっ面白かった、です。」
 先ほどまで緊張で固まっていたキャロの顔にふっと笑みが浮かぶ。
「あ、ようやく笑ったねキャロ。」
 そんなキャロにスバルが微笑みかける。
「あ……」
「なのはさんやシンも言ってたけど、そんなに思いつめなくても大丈夫だよ。」
「そうね、 私たちは私たちに出来ることをしっかりやればいいのよ、そうでしょ?」
 スバルとティアナがそう言ってキャロを励ます。
「私に出来ること……はい、頑張ります!」
 キャロが頷き、それに応えるように彼女の友人である白竜のフリードがきゅいー、と鳴いた。

 

「おーい、新人共! 
 盛り上がってるところ悪いんだが、そろそろ降下地点に到着だぜ!
 なのはさんやシンが頑張ってくれてるおかげで問題なくいけるからな、安心しろよ!」
「じゃあ、最後にもう一度確認するですよー。
 任務は二つ、ガジェットの全機殲滅と7両目にあるレリックの確保です。
 スターズ分隊は1両目から、ライトニング分隊は14両目から、それぞれ途中のガジェットを倒しつつ、7両目を目指してくださいです。」
 ヴァイスの言葉を受けて、4人の前に浮かぶリィンが作戦の概要をもう一度伝える。
 そしてリィンの言葉から程なくして、ハッチが再び開きだす。
「まずはスターズの二人、行って来い!!」

 

「スターズ3、スバル・ナカジマ!」「スターズ4、ティアナ・ランスター!」
 そこまで言って一度二人はすぅーっと息を吸う。
 そして互いに顔を見合わせて頷き、飛び降りる。
「「行きます!!」」

「さあ、初めましてでいきなりの実戦だけどよろしくね。
 いくよ、マッハキャリバー!」
「お願いね、クロスミラージュ……!」 
「「セットアップ!!」」

 
 

 次の降下地点に着いたことを確認してから、ヴァイスは声をあげた。
「次、ライトニングの二人!
 チビ共、しっかりやれよ!」
「「はい!」」
 ハッチの入り口に並んで二人は並んで立った。
 そっと、エリオがキャロに手を差し伸べる。
「一緒に……降りよう?」
「あ……うん!」
 柔らかい笑みと共に差し出された手を一瞬呆けたように見つめ、キャロはその手を握り返した。

「ライトニング03、エリオ・モンディアル!」「ライトニング04、キャロ・ル・ルシエ!」
「「行きます!!」」
 その声と唱和するように、フリードも鳴き声を響かせる。
「ストラーダ……」「ケリュケイオン……」
 落下していく中、二人は繋がれた手を互いにぎゅっと握りなおす。
「「セットアップ!!」」

 
 

「くそっ、本当にキリがない……っ!」
 どんだけ居るんだよ、とシンは悪態をつく。
 相手をする数が多ければ多いほど、こちらの手数のほとんどを防御に割かなくてはいけなくなり、相手が有利になっていく。
 戦争でもそうだが戦闘の基本は数なのだ。

「シン君、後ろ!」
 一瞬気を抜いたシンの背後から一機、ガジェットが突っ込んでくる。
 なのはの声にシンは振り向く。
「チィッ! 間に合うか!?」
 咄嗟にシンは左手の盾を掲げようとする。
 しかし僅かに反応が遅れる。
 瞬間、そのままシンに体当たりをかまそうとするガジェットを黄色の刃が切り裂く。

 

「助かった……のか?」
 真っ二つにされ爆発するガジェットをシンは呆然と見つめる。

「なのは、シン! ゴメン、ちょっと遅れた!」
「フェイトちゃん!(フェイト隊長!)」
 ガジェットを切り裂いた魔法が飛んで来た方向から、凄まじいスピードでフェイトが飛んでくる。

「これでどうにかなりそうだね。
 よーし、一気に決めちゃうからシン君、フェイトちゃん、敵の誘導お願い!」 
「わかったよ、なのは。
 シン、私たちが前に出て囮になるよ!」
 なのはの意図を理解したフェイトがシンを促す。
「了解です!
 何するか知らないけどな、アンタに任せるぞ、なのは!」
「うん、任せて!」

「なら……行くよ!
 私は左から行くからシンは右からお願い!」
 
 フェイトの言葉を引き金になのはが一旦後ろに下がり、シンとフェイトが速度を上げ前に出る。
 前に出た二人の後ろに残りのガジェットがつけてくる。

「で、どうするんです?
 流石にこのままじゃもちませんよ!?」
 10機近いガジェットからの猛攻をなんとか避けながら、シンは叫ぶ。
(ヴィータ副隊長の訓練も無駄じゃあなかったな!)
「あと少しこのままで!
 合図したら私と合流するように移動して、ガジェットを一直線上に集めるよ!」
 
 後ろに下がったなのは、ガジェットを集める、その二つの情報からシンはこれがどういう作戦なのかを理解する。

「そういうことか!
 わかりましたよ、合図を待ちます!」
 フェイトはそのシンの言葉に、感心したように頷く。
(へえ、いい判断力をしてる……うん、悪くない。)

「さて……フェイトちゃんとシン君の進路がこうだから……
 よし、あそこだね! レイジングハート!」

 少し後ろに下がったなのはは、シンとフェイトの動きからは打ち抜くべきポイントを割り出す。
『Allright』
『フェイトちゃん、シン君、後10カウント後にいくからよろしく!』
 なのはからの念話がシン達の元に届く。
「シン、聞こえた?」
「聞こえました! 行きましょう!」

「……8……7……」
 なのはがレイジングハートを構えカウントを取る。 
 シンとフェイトが徐々に近づいていき、それに追従するようにガジェット達も集まっていく。
「……4……3……」

「そろそろ、かな。
 シン!!」
 フェイトがシンに合図をすると、シンはそれを待っていたかのように急に方向転換をした。
 フェイトも同じく方向を変え、いきなりの事態に反応できていないガジェット達だけが残された。
「……1……0……っ!
 行くよ、レイジングハート!!」
『Divine Buster』
 カウントを終えたなのはの足元に、ピンク色の魔法陣が生まれる。
 そしてレイジングハートの先端に同色の魔力が集まっていく。

「シュートォォォォォォォォォォッ!!!」

 その叫びと共に、極太の魔力光が放たれる。
 その光は先ほどまでシン達が飛んでいたルートを寸分違わずなぞっていき、ガジェット達を落としていく。

 かろうじて回避に成功したガジェットも何機かいたにはいたが、
「行くぞ、インパルス!
 うおおおおおおおおおおお!!」
『OK.My master』
「バルディッシュ!」
『Yes, sir.』
 その全てがシンとフェイトによって破壊された。

「敵航空戦力の殲滅を確認しました!
 スターズ01、ライトニング01、及びフェイス01はそのまま周囲の警戒に移ってください。」

「ふぅ、とりあえずこれで一段落やな。
 後はフォワードの子達がしっかりやってくれれば……」
 シャーリーの報告を聞いたはやてが息をつく。

「あの、よろしいでしょうか、八神部隊長。」
「ん? どうかしたんか、グリフィス君。」
 そんなはやてに彼女の副官でもあるグリフィスが問いかける。
「あのシンという少年は一体?
 魔法を覚えてほんの数週間で、あの人たちと一緒に闘うことが可能なレベルにになるとは思えませんが……」

「あー、そうやねぇ。まあ、なのはちゃんとフェイトちゃんも今は能力限定でAAランクの魔道士やし、シン自身の実力については……
 総合で見るならB、もしくはAランク位やと思うよ。」
「それほどの……!
 しかし解せません、何故彼はいきなり六課に入ることになったのですか?」

 グリフィスの言うことも最もだ、とはやては思った。 
 表向きには本局からの出向扱いになっているが、この勘のいい副官は違和感に気づいたようだ。
 シンが六課に入った経緯はあまり表に出すべきでない、現在自分を含めた隊長陣はそう判断している。
 本人が言う分には構わないが、あまりおおっぴらにすることでも無い話であったからだ。 
「もしかしたらシンがこの戦いの鍵を握ってるかもしれへん、って言ったらどうする?」
 意味深な言い回しをするはやてに、グリフィスは疑問符を浮かべる。
「それはどういう……?「っ!? ライトニング04、飛び降り!?」なんだって!?」
 その場に響いた悲鳴じみた報告にグリフィスの問いはかき消される。
「ちょ、あの二人、こんな高高度でのリカバリーなんて……!」
 

 その報告を通信越しに聞いたシンは目を剥く。
「ライトニング04って、キャロが!?
 今からじゃ……くそっ、間に合わない!」
 列車は既にシン達がいる場所からかなり離れていた。
 目視は出来るが、今からどれだけ頑張ってもシンに出来ることは無かった。
(どうする……? どうすればいい!?
 また、俺は失うのか……? こんなところで……っ!)
 
 強く噛み締めた唇が切れ、血が滴り落ちる。
 背筋が粟立ち、知らずに体が震えた。
 
 そんなシンの異変に気づいたなのはがその肩にそっと手を置く。
「……なのは?」
「大丈夫、あの子達は多分シン君が思ってるよりもずっと強いよ。
 だから……大丈夫。
 怖がらなくても……ね?」
 優しく諭すように語りかけてくるなのは。
「俺は……っ!」
「ほら、見てみて?
 あの子達は、私の教え子は、こんなことじゃ負けたりしないんだから!」

 言われてシンは俯けていた顔を上げる。

「あ……」
 視線の先には、一体の大きな竜がその背にキャロとエリオ、二人を乗せて飛び回っていた。

 キャロはその時、自分の目の前で見たことも無いガジェットとエリオが戦っているのを、ただ見ていることしか出来なかった。
 高出力のAMFによって離れている自分さえも魔法が使えなくなってしまったからだ。
「エリオ君!」
 こうして声を掛けることしか出来ない自分を歯痒く思った。

「大丈夫、任せて!」
 エリオが苦しげな表情の中に笑みをつくり、キャロに応えた。
 その瞬間、ガジェットの中央部から幾筋もの光条がエリオを貫かんと放たれる。
「うわっ!」
 体を横に投げ出し転がることでなんとか避けることは出来たが、それを狙いすましたかのように、ガジェットからベルト状の腕が伸びる。
「がはっ! こ、この……っ!」
「ああっ!」
 強かに打ちつけられたエリオが壁に激突し、キャロの悲鳴が響く。

(私には、何も出来ない……)
 
 ―――違う、力ならある。

(っ! でも、あの力は! あの力は私を孤独にした!!)

 ―――貴方は怖がっているだけ、自分の本当の力を。

(私は……私は!!)
 
「うわあああああああああああああ!!」

「エリオ君!?」
 自問自答を続けていたキャロの耳を、エリオの叫び声が打つ。
 ハッとして顔を上げた先には、ガジェットの腕に掴まれぐったりとしたエリオがいた。
 ガジェットがその腕を振るい、エリオを投げ飛ばす。
「ああ……っ!」 
 キャロの脳裏にエリオと出会ってからの出来事が浮かぶ。
「エリオ君……」

 決して長い時間ではなかった。
 けど、この人は自分に優しくしてくれた、笑ってくれた。
 だから―――!!
「エリオくぅーーーーーーーーん!!!」
 キャロは少しの助走をした後、エリオを追い飛び降りていた。
 彼女の相棒であるフリードもそれに続く。

 考えるよりも先に体が動いていた。
 ただただ、守りたかった。

『キャロはどこに行って、何をしたい?』
(守りたい……優しい人……私に笑いかけてくれる人達……!)
 胸の中で響くのはかつて自分を救ってくれた人の言葉。
『キャロの魔法は皆を守ってあげれる優しい力だから……ね?』
(自分の力で……この力で、守りたい……!)
 緊張していた自分を励ましてくれた人の言葉。
『もう、失いたくないんだ!!』
(あんな思いはもうしたくないから! だから―――)
 そして初めて会った日、念話を通じて聞こえてきたシンの言葉。
 
 落下していく中、キャロの手がエリオに向けて伸びていく。
「私は、この力を……私自身の力をもう恐れないっ!」
 そしてその手はエリオを掴んだ。
『Drive Ignition』
 同時にキャロの両手のデバイス、ケリュケイオンから光が発せられ、二人の落下スピードが緩和される。

 キャロはエリオの頭をかかえながら、自分の前に浮かんでいるフリードに話しかける。
「ごめんね、フリード。
 今まで不自由な思いさせて……」
 自分を気遣うように言う主に、フリードは一鳴きして応える。
「うん、もう大丈夫。
 ちゃんと、ちゃんと制御するから……!」
「ん……」
 エリオがこの時目を覚ますが、それに気づかないほどにキャロは集中していた。
「行くよ!」
 そしてキャロの言葉と同時に弾けるように光が溢れ、その足元に巨大な魔法陣が現れる。
「蒼穹を奔る白き閃光、我が翼となり天を翔けよ。
 来よ、我が竜フリードリヒ……!

 竜魂召還!!」

 キャロの足元の魔法陣から、巨大な影が徐々に姿を現していく。
 それはかつて恐れた力、そして受け入れた力。

 白銀の飛竜、フリードリヒ。
 フリードはキャロとエリオを背に乗せ、翼を大きく広げ咆哮をあげる。
 まるで自分の主の為にその力を振るえる事を誇るかのように。
 
「あ、あの……」
 エリオはキャロに抱きかかえられているという自分の状況を把握し、顔を赤くしながらキャロに声をかけた。
「あっ……その、ごめんなさい!」
 キャロもそこでようやくエリオが起きていることに気づき、同じように赤面しながらその手を離す。
「い、いや……うん、こっちこそ!」
 
 気まずいような、こそばゆいようなそんな沈黙を振り払うようにキャロがフリードに命じる。
「ふ、フリード! ブラストレイン!!」
 ケリュケイオンからあふれ出た魔力が、フリードに集まっていく。
「ファイア!」 
 フリードはその口を大きく開き、そこから凄まじい勢いの火炎をガジェットに向けて打ち出す。
「やっぱり、硬い……っ!」
 直撃こそしたがあまりダメージが通ってるようには見えなかった。
 それを見たエリオが手の中のストラーダを握り締め言う。

「あの装甲は砲撃じゃ抜きづらいよ……!
 僕と、ストラーダがやる!」
「うん! 私が補助をするから、お願い!」

 エリオはフリードの上でストラーダを構える。
「我が乞うは、清銀の剣。若き槍騎士の刃に、祝福の光を―――!」
『Enchant Up Field Invade』
「猛きその身に、力を与える祈りの光を―――!」
『Boost Up Strike Power』
 キャロの呪文にあわせて、両手のケリュケイオンがそれぞれ光を放つ。

「行くよ、エリオ君!」

 その言葉にエリオは頷いてフリードから飛び降りる。
「たああああああああああああああああ!!!」

「ツイン・ブースト! スラッシュアンドストライクっ!!」
 キャロの両手から放たれた魔力が、ストラーダに集まっていく。
 それを受けたストラーダが淡く光を纏う。
「させない!!」
 エリオはそれを振るうことで、自分と自分の後ろのキャロ達に向かっていくガジェットの腕と触手を薙ぎ払う。

 列車に着地したエリオは目の前のガジェットに向け、ストラーダを構えなおし、集中した。
『Exprosion』
 ストラーダから音声とともに、カードリッジが二発分ロードされ、穂先の根元にある噴射口が輝く。
「一閃……必中!!!」
 その叫びとともに爆ぜた様にエリオは飛び出していく。
 真っ直ぐにストラーダを構えて、その勢いのままガジェットの中心部を貫く。
「てえりゃあああああああああああっ!!!」
 そのまま力を込め、一気に切り上げる。
 中心から上半分を真っ二つにされたガジェットが爆発し、それを背にエリオがストラーダを振るった。
「やったぁ!」
 それを見たキャロが歓声をあげる。
 

「ね、言ったとおりだったでしょう?」
「ああ……本当に、よかった。」
 隣で語りかけてくるなのはに、心底安堵したような声音でシンは応える。
 気がつけば体の震えは止まっていた。
(今のはなんなんだ、さっきの震えは。
 俺は、何かを恐れている……?)
「シン君?」
 先ほど自分に起きた現象について考え込んでいたシンを、なのはの言葉が呼び戻す。
「ん、ああ。
 なのは、さっきはその、助かった。」
「にゃはは、気にしなくていいよ。」
 そっけなくシンは礼を言った。 
「それにね……いざとなったら私が助けてたから。
 大丈夫だよ。」
 笑いながら言うなのは。
 その笑顔にシンは違和感を感じる。
「なあ、なのは……」
「っと、そろそろスバルとティアナと合流しないと。
 それじゃあ私は行ってくるから、こっちはよろしくね。」
「あ、ああ。」
 がんばってねー、と手を振るなのはに出端をくじかれ、相槌をうちながら見送るシン。
「なんだったんだ、さっきのは?」
 シンは先ほどのなのはの笑顔に異質なものを感じた。
 本人すら気づいてないところで何かを隠している、そんなおかしな印象。
 ただそれが何かわからず、そしてどうしていいかわからなかった。
「……考えても仕方ないか。」
 だからシンは思考を放棄する。
 とりあえず今は無事に初陣を終えれたことを喜ぼう、そう思った。

 
 
 

 薄暗闇の中、六課の戦闘をモニターで見ている一人の男がいた。
 男の横に通信用の映像が映し出される。
『博士、レリック刻印ナンバー9、護送態勢に入りました。
 追撃戦力を出されますか?』
 
 そこに映し出された女性が、その男に話しかける。
「ふぅん……いや、やめておこう。
 レリックは惜しくもあるが、それよりも彼女達のデータが取れたことをよしとしよう。」
 口の端に笑みを貼り付けその男は言った。
「それにしても……くくっ、この案件は素晴らしいな。
 私の研究を進める上で興味深い素材が揃っている。」
 さらに、と浮かべる笑みを深くして男は続けた。
「ふふ、プロジェクトFの生きた残滓を手に入れるチャンスでもある。」
 その時モニターに丁度シンの姿が映し出される。
「おや……?」
 
 男はそこで一度言葉を止め、画面一杯に映し出されたシンの戦闘風景を、正確にはシンの操るデバイスを食い入るように見やる。

『博士?』
 その姿を訝しげに思い、通信先の女性が声をかけるが、それすら無視してその男は思考の海に沈んでいった。

 暫らくしてようやく口を開く。
「これは、このデバイスは彼の作っていた……アレ、か?
 だとすればこの少年は……ふ、くくく、ふははははははははははははははははは!!
 素晴らしい! やはり素晴らしいな、この案件は!!」

 いきなり狂ったようにその男は笑い出す。

「そうか君か、君の縁者か!! 袂を別ったとはいえ、かつては互いの欲の為に協力しあった私の前に! 君の駒が立ちふさがるか!!
 ふ、はっははは……! 面白い、実に面白いじゃあないか!!
 ああ……これだから、こんなだからやめられない! ウーノォ!」

『はい、なんでしょうか博士?』

 通信先の女性、ウーノはその呼びかけにこたえる。
「アレは使えるかい? あの機械の改良試作型……そう、彼ら風に言うならガジェット三式のカスタムタイプ!」

『コストパフォーマンスの問題があり量産はされませんでしたので、現状で戦闘に投入可能な一機しか存在していませんが……』
 失えばそれっきりですがそれでもよろしいのでしょうか? と言外にウーノは男に尋ねる。

「構わないさ、それを次に彼らとあたる時が来たら私が言うタイミングで送り出せ。
 どうせ私が作った技術以外のものが使われているのだ、そんなものに未練など無い。」
『了解しました、それでは失礼します。』

 そう言って頭を垂れ、通信を切るウーノに一瞥もくれずに、その男はただ目の前のモニターを見続ける。
「さあ、S.E.E.D.を持つものよ! 見せてくれたまえ、この私に!
 君の持つ力を! その身に宿す可能性を!
 ふふ、ああ、しかしあれだな、これも君の言うところの運命……という奴なのかい?
 なあ、――――――?」

 そしてその男は一人嗤う。
「く、ふっふふふ……ふ、ふはははははははははははははは!!!」
 ジェイル・スカリエッティ、彼が本格的に動き出すのは……もう少し先の話。