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D.StrikeS_第09話

Last-modified: 2009-06-08 (月) 17:51:30
 

 シンアスカ。
 話してみてわかったけど彼は本当に面白い。

 

 戦いを止めたいからと戦い、そして敗れた今でも管理局員としてまだ戦っている。
 
 なんとなくだけど、何が彼を戦いに駆り立てるのか、少しわかった気がする。
 
 彼、シン君は優しい子だ。少しわかりづらいが人を見る目があればすぐ気づく。
 だからこそ、なんだろうね。戦うことをやめないのは。
 自分が戦うことで他の誰かを守れるのならそれでいいって考えてるんじゃないかな。

 

 僕としては、もう少し自分のことも考えたっていいと思うんだけど。

 

 僕と話すことが彼にどんな影響を与えたかは、流石にわからない。
 ただ、彼の歩む道の先に平穏があればいいなって、思うよ。
 
 それじゃあ、魔法少女リリカルなのはD.StrikerS、始めようじゃないか。

 
 

 魔法少女リリカルなのはD.StrikerS
 第9話「友の声、そして目覚める力なの」

 
 

 ホテルの外に出たシンはまず状況を把握するためにシャマルに通信を開いた。
「シャマル先生、敵は今どの辺りまで来てますか!?
 出来るなら正確な位置を、お願いします!」
『まだそんなに近づいてないわ、位置座標をリアルタイムでシン君のデバイスに送るからそれで確認して!』
 送られてくるデータを確認してからシンは礼を言って通信を切る。

 

 そして敵が向かってくる方向へとしばらく走った後、自分のデバイスに確認を取った

 

「インパルス、あとどれくらいで見える?」
『参型はあと3分以上後、弐型は後2分もしないうちに目視圏内に入ってきます。』
 
 送られてきたデータを使うことで弾き出された時間をもとにシンは行動を決定する。

 

「インパルス、セットアップ! シルエットはブラストで!
 敵がこっちに来る前に狙撃して終わらせる!」

 

『OK,My Master. Load Bast Silhouette.』

 

 シンを光が包みこみ、その体にインパルスが生成するジャケットが纏われていく。
 緑を基調とした服、そして何よりも特徴的なのは両肩から真っ直ぐ下に向けて突き出した、二本の巨大な砲―――ケルベロスという―――だった。
 ブラストシルエット、インパルスの持つ形態の中で最も火力が大きく、遠距離からの攻撃に優れたシルエットである。

 

 シンはある程度の高さまで上昇すると、ケルベロスの砲口を腰から突き出すようにして展開した。
「インパルス、タイミングと狙撃ポイントの算出、頼むぞ。」

 

『了解しましたマスター、演算を開始します。
 割り出し完了、狙撃タイミングまであと15秒。カウントを始めます。』
 インパルスの声を聞いてシンは集中力を高めた。
 じとり、と手が汗ばんでるのがわかる。
 今このタイミングでどれだけ敵を落とせるかが、この状況では最も重要だったからだ。 
『5秒前、4、3……今です!』

 

「いっけえええええぇぇぇぇっ!!!」
『Kerberos Fire.』

 

 シンの叫びと共に構えた二本のケルベロスから凄まじい魔力の奔流が流れ出た。
 二本の火線は一直線にこちらに向かって飛んでくる、ガジェット弐型に突き進んでいく。
 シャマルから送られてくるデータを元にして、インパルスが正確な射撃ポイントを割り出したからだ。
 二本の赤い光条が5機のうち3機を巻き込んで破壊した。
 残りの2機がシンの存在を確認し、そのまま突っ込んでこようとするが、

 

「まだ、終わりじゃないっ!」
『Fire Fly』

 

 瞬間、シンの左右に二つの赤い魔法陣が展開され、そこから左右4発ずつ同色の魔力弾が放たれる。
 計8発の魔力弾が、残った二体のガジェットに向けて殺到する。
 なんとか回避しようとするも、ある程度の追尾機能を持ったそれらを回避しきれずにその二体も爆散した。

 

「よし、後は……インパルス、ソードシルエット!」
『OK,Load Sword Silhouette』

 

 それを確認するや否や、シンはインパルスに命じてソードシルエットを呼び出す。
 背中のケルベロスが消え、変わりに二本の大剣と翼のようなブーメランが現れる。
 そして、纏うジャケットの色が緑から赤を基調としたものへと変わる。

 

「っ!?」
 残った参型の位置を確認しようとした瞬間、背筋に悪寒が走った。
 
 森の木々の間を縫って、光学兵器、いわゆるビームが飛んでくる。
 シンはそれを確認すらせずに無理矢理体を捻らして回避を試みた。
 肩を熱いものが掠めるのを感じたが、それを無視してそのまま地上に降り立つ。
 なんとか体制を立て直そうとするが、そこにガジェットのアームが伸びてくる。

 

「ちぃっ!」

 

 間一髪といった所か、すんでのところでなんとか背中の大剣―――エクスカリバー―――のうち一本を抜き、それを防ぐ。
 力任せにエクスカリバーを振るい、アームを無理矢理弾く。
 そしてエクスカリバーに魔力の刃を生もうとするが、それは叶わなかった。

 

「くそ、AMFか! いや、もうこのまま!」
 エクスカリバーは実体剣としても使える。
 シンは両手で強くエクスカリバーを握り締め、一気にガジェットに向けて突っ込んでいく。

 

 途中、ビームやベルトのようなアームが迫るが致命打になりそうなものだけを避けて後は気にせずに駆け抜ける。
 そしてそのままガジェットの懐へと飛び込み、
「でりゃあああああああああああっ!」

 

 全身でぶち当たるようにしてエクスカリバーを突き出す。
 それまでの運動エネルギーとシンの全体重を乗せた一撃は、ガジェットの装甲を突き破りその中心部に深々と突き刺さった。
 シンに向かって振り下ろされようとしていたガジェットのアームが、だらりと力を無くしたように垂れ下がる。
 また、同時にAMFの中にいる時に感じる圧迫感のようなものが消えるのを確認すると、シンはエクスカリバーを引き抜いて、宙に飛び上り腰からライフルを抜いた。
 見下ろすようにガジェットを一瞥すると、シンは構えたライフルから魔力弾をエクスカリバーが突き刺さっていた場所に向けて連射した。

 

 内部に直接衝撃を受けたガジェットはそのまま爆発、四散する。

 

「しまった……これ、資料になるのか?」

 

 バラバラに砕け散る、その様を見てシンは焦るように呟く。
 まだそんなに出現していないこのガジェットは解明も十分に終わってないと聞かされていた。
 その為可能なら中身の検分が出来る程度の破壊に留めるように言われていたのだが……
 額に汗をかきつつシンは改めて破片となった参型を見遣り、唸った。
「やりすぎたか……?」

 

 先ほどアコースと話したのが原因だろうか、今は妙に気分が昂揚している。
 だからか、思った以上に力を出してしまったようで、ガジェットはもはや見る影もないほどにバラバラになっていた。
 とりあえず言われた敵は倒したので、シンはシャマルに連絡をとることにした。

 

 デバイスを通じた通信回線を開く。
「こちらフェイス01、シンアスカ。
 目標の沈黙を確認、次の指示を頼みます。」
『はい、こちらシャマル。
 シン君は今すぐにエリオ君とキャロちゃんの救援に向かって!
 形は参型と同じだけど、今までのよりも強いAMFを持ってて、しかも物理攻撃も効かないガジェットに苦戦しているわ。』

 

「物理攻撃がきかない!?」

 

 シャマルから伝えられた敵の特徴にシンは驚愕した。
『ヴィータちゃんやシグナム達はまだ他のガジェットの掃討が済んでないから、シン君には援護に回って欲しいの。』

 

「了解です、すぐにエリオ達の位置データを!」

 

 向こうも忙しいのだろう、送られてきたデータをシンが確認すると通信が切れた。
「エリオ達は……よし、そんなに離れてないな!」
 
 位置を確認したシンはすぐさま飛び出した。
 急がなくてはいけない、どうにかなってからでは遅いのだ。
 自分の手をすり抜けてしまう前に、早く、早く。
 
(落ち着け、あいつらは弱くなんかない。)
 なんとか自分を落ち着かせるように心の中で呟くが、感情だけが逸る。

 

 そしてシンはその感情に後押しされる様に飛行の速度を上げていった。

 

(前は震えてるだけだった、でも……今は、違う!)

 

 そうだ、アコースに言われたとおり自分は恐れているのだろう。
 だけど、それに負けるわけにはいかなった。
 彼の言うような大切な人が今の自分に居るとも思えなかったが、それでもエリオ達は大切な仲間なのだ。
 それを失いたくなど、なかった。
「間に合えよ、畜生!」

 

 今は、ただそれだけを願い、シンはスピードを上げた。

 
 
 
 

 そんなシンの姿をモニター越しに見つめる男が居た。
 ジェイルスカリエッティ、その人である。

 

「ふむ、戦闘能力はなかなか、と。」

 

 先ほどシンがガジェットを撃破したシーンをもう一度見直し、彼は呟いた。
「流石はS.E.E.Dを持つもの、というわけか。
 魔法に対しての順応性は大したものだ。」

 

 誰にとでもなくスカリエッティは声に出す。

 

「だがまあ、それはある種当然ではあるかな。
 なにせ……」

 

 そこまで口にしたところで、通信が入ったのを確認して彼はそれを開いた。
 モニターに映し出されたのは紫色の髪をした、まだ幼い少女。
『博士の言ってた物はガリューが確保したから。』
「ああ、可愛いルーテシア。ありがとう、助かるよ。」
 坦々と用件を伝える少女、スカリエッティが言うにはルーテシア、に対して彼は笑みを浮かべて答えた。

 

『それとお願いされてた、あのガジェットの転送も言われたとおりしておいたから。
 でも、あの座標でよかったの? 博士はさっき新しく出てきた人と戦わせたいんでしょう?』
「ああ、そうだとも! しかしね、彼は守るべき対象が居るほうが力が出る筈なのだよ。
 それに彼の真価は感情が揺れ動いた時にこそ発揮されるらしくてね。」

 

 まるで全てを見通しているかのように語るスカリエッティに、ルーテシアは小首を傾げながら尋ねた。
『それってどういうこと?』
「ふむ、ルーテシア。君はS.E.E.Dという言葉を聞いたことはあるかい?」
 
 ルーテシアが首を横に振るのを確認してからスカリエッティは続きを喋りだした。
「とある世界の学会誌で一度だけ発表された概念なのだがね。S.E.E.D―――Superior Evolutionary Element Destined-factorの略称であるのだけども、つまりは優れた種へと進化できる因子ということなのだが……
 
 ハハ、笑ってしまうね。彼らは何も理解していない。
 魔法という技術を知っている者からすれば、そんなものは単なるリンカーコアにしか過ぎないというのに。
 まあ、とは言ってもかなり特殊な部類に入るのだがね?
 だが、そうだとしてもそれを持つ者が世界を導くなどと……っくく、おこがましいにも程がある。
 君もそうは思わないかね、ルーテシア?」

 

 スカリエッティの言うことを今一理解していない、というよりは理解する気が無かったのだろうか。
 ルーテシアはその問いには答えなかったが、スカリエッティは気にせず続けた。
「とはいえ、先ほども言ったとおり普通のリンカーコアとは違った特性を持っているのも事実でね。
 例えば、普通のリンカーコア所持者よりも魔力、ひいては魔法への順応性がかなり高い。
 もしかしたら無意識に魔法を使ってる、なんてこともあるかもしれないほどにね。
 まあ、大体のデータは既に――――――から手に入れてはいるのだけども、実際にその力が発揮されるのを見てみたくてね。」

 

 そう言ってからスカリエッティはまたシンを映したモニターに目を向けた。
 丁度ガジェットの元に辿り着いたところらしい。

 

「さあ、君はどう戦う、シンアスカ?
 私の技術と、君の世界で生まれた技術を持ってして造りだされたその機械に!」

 

 大声で嬉しそうに虚空へと問いかけるその顔には、どこか狂気じみた笑みが張り付いていた。

 

 

 
 
 

「―――っ!」
「エリオ君!」

 

 ガジェットから伸びたアームをエリオはなんとか受け止め、対抗するために足を踏ん張った。
 このガジェットの持つAMFはこの前戦った参型よりも強い気がエリオはした。
 キャロの魔法による援護を受けても魔力で出来た刃はその装甲に触れることすらかなわなかったからだ。
 ならばAMFの範囲ギリギリまで魔法で自身を加速して、物理的に破壊しようと試みたのだ。
 そしてエリオはストラーダがガジェットの装甲に届くまで、成功を確信していた。

 

 この前の出動の反省を活かして、AMFを破れなかった場合でもガジェットを破壊できるように常に考えて訓練を行っていたからの行動である。

 

 しかし、ストラーダでその装甲ごとガジェットを貫こうとした瞬間、ガジェットの装甲の色が変化したのだ。
 今までグレーだったそれが、鮮やかな赤色へと変わる。
 果たして渾身の力を込めて放った一撃は、何の手ごたえも得ることもなくその装甲に弾かれた。
 そこからはもう防戦に回るしかなかった。
 歯が立たないのは悔しかったが、今はガジェットを後ろのホテルに通さないことが優先だったからだ。

 

「エリオっ! そのまま耐えてろよ!」
「シンさん!」
 ガジェットの一撃を受け止めた体勢で、エリオは上空から聞き覚えのある声を聞いた。
「インパルスっ……!」
『Excalibur Ambidextrous mode』

 

 シンである。
 ガジェットの上空高くから、連結させたエクスカリバーを振りかぶりながら落下していく。
「食らえええぇぇぇぇっ!!」

 

 自分の膂力と全体重、落下によって得られた位置エネルギー、さらにカードリッジをロードして得られた魔力、その他諸々を込めて放った一撃は、その衝撃でガジェットを退けることは出来た。
 しかし、その装甲に阻まれガジェットを破壊するに至らなかった。

 

「エリオ、キャロっ! 大丈夫か!?」

 

 ガジェットのアームから逃れたエリオと彼に駆け寄ったキャロの傍に着地してからシンは二人の無事を確認するように言った。

 

「はいっ! でもあいつ固くて……!」
「フリードの火炎も意味がなかったです……」
 
 自分たちの無事を知らせるその声は、何処か悔しさが滲み出ていた。
「あいつのAMFは他のと違って自分の周りだけに限定して張ってるみたいだな、広範囲をカバーして無い分厄介そうだ……」
 先ほどのエクスカリバーも、相手に触れる直前で魔力の刃が消えた。
 密度の問題だろう、同じ力でなら狭い範囲にすればするほど出力は上がるのだろう。
 それに二人は頷いた。

 

 そしてシンはシャマルからの通信を受けた時から、一番気にかかっていたことを聞くことにした。
「エリオ、あのガジェットさ、色が違うみたいなんだけど……元からだったか?」
「いえ、元はいつも通りのグレーでした。
 それが僕の攻撃を受ける直前になってあの赤色に変わって……」
 シンはシャマルから聞いた情報と実際にものを見みて、一つだけ思いつくものがあった。

 

 自分でも荒唐無稽な考えであると思うが、少なくともこの条件に合致する装甲などそれ以外にシンには思いつかなかった。

 

(PS……いや、VPS装甲か? くそ、どっちにしても厄介だな、おい!?
 そもそもなんであの世界の技術がここにあるんだよ!?)
 そうしている間にも、シンの一撃で吹き飛ばされていたガジェットが再び動き出した。
 シンは一旦それがどうして存在しているかについては考えないことにする。
 そして、エリオたちに情報を伝える。

 

「ちぃっ、エリオ、キャロ! 
 あいつには物理攻撃とかが効かないんだ! 
 多分耐熱も相当なものだからフリードの火炎が意味が無かったのも仕方ない!」
「え、ええ!? 物理攻撃が効かないって……AMF持ってて魔法も効かないのに、どうしたらいいんですか!?」
 と、驚愕しつつエリオ。
 キャロもかなりの衝撃だったらしく目を見開き驚いている。

 

「多分……AMFさえ無ければ魔法は効くと思う。」
 しかしその魔法は色々と工夫しないとガジェットには無意味なのだ。
 その工夫のいくつかすらも、仮にPS装甲を持っていたとしたらあれは無意味にしてしまう。
「ティアナさんが居れば……」
 キャロがぼそりと呟く。
 確かに彼女の多重弾殻を用いた射撃魔法ならもしかしたら、もしかしたらこの状況を打破できるかもしれない、が。
「無いものねだりをしても仕方ないだろ、っと来るぞ!」
 シンの叱咤するような声に反応してエリオとキャロがガジェットに向き直る。

 

 再びこちらに伸びてきたアームの動きを、シンは肩から抜いたフラッシュエッジを投擲することで牽制する。
 
(さて、AMFを抜く……って言ってもな。)
 自分の手元に戻ってきたフラッシュエッジを受け止めながら、シンは考える。

 

 どうもさっきのでガジェットは自分を目標としたらしく、エリオ達には余り攻撃がいってないように見える。

 

『マスター、私に考えがあります。』

 

 そのとき自分の胸元から聞こえてきた、いつも通りの落ち着いた合成音の声にシンは耳を傾けた。
 そして語られるインパルスの考え、とやらを敵の足止めをしつつ聞いてシンは叫ばずに居られなかった。
「ちょっ、待てよ! そんなことが出来ると……」
『私たちなら出来ます、計算上では不可能ではありません。後は……』
 
 言外に自分を信じろ、と言ってくる相棒の言葉を噛み締めシンは頷いた。
「俺次第、だろ? わかったよ、お前のこと信じるぞ、インパルス。
 エリオ、キャロ! ちょっと思いついたことがあるんだ、頼む!
 少しだけ奴の注意を引き付けてくれ!」
 シンの呼びかけにエリオは前に出ることで、キャロはフリードとブラストレイを放つことで応えた。

 

 言葉が交わされることは無かったが、それはシンを信じての行動だった。
 
「よし……インパルス、ブラストシルエット!」
『OK,My Master. Load Blast Silhouette.』

 

 もう一度インパルスの形態をブラストに変更しなおしたシンは、すぐさまケルベロスを展開、ガジェットに狙いをつけた。
(ブラストの砲撃でAMFを突破、もしくは無効化する……か。)
 自分の相棒ながら無茶な案を出すものだと思う。
 インパルスの提案はある意味ではすごく単純なものだった。
 要はあのガジェットのAMFで防ぎきれないほどの火力なら問題なく倒せるだろう、そんな力技だったのだ。
 確かに今のシン達に残された手段は後は副隊長達が来るまで粘ることしかなかった。
 しかし、他の方角からはシンが先ほど戦った以上の数のガジェットが来ており、いかなシグナム達といえど、そう簡単に全てを撃破することは出来ていないでいた。
 なら今この場で倒してしまうしかなく、それを可能とする方法をインパルスはシンに提案したのだ。

 

(俺に、出来るか?)
 しくじれば自分は魔力の大半を失いもう何も出来なくなる。
 つまりエリオとキャロは足手まといを抱えたまま戦闘をしなくてはいけなくなる。
 しかしだからと言って、このまま手をこまねいてるわけにはいかなかった。
 決定打を欠いたままの戦闘でじりじりと後ろに後退し続けた結果、既にホテルまでもう距離が無いところまで追い詰められていたのだ。

 

 ふと、シンは自分の頭の中に声が響いた気がした。
 
 ―――お前になら出来る、自分を信じろ、と。
 
 インパルスを始めて起動したときにも聞こえたあの声と同じものだった。
 何故かシンはその言葉を信じれる、そう感じた。

 

「やってみせるさ! インパルスっ!」
『OK,My Master.Full burst mode, Drive Ignition』

 

 シンの叫びと、インパルスの宣言に呼応するかのようにシンの足元に巨大な魔方陣が描き出される。
 更にシン自身の左右と、両肩の辺りにもそれぞれ小さな魔方陣が一つずつ、計4個現れた。
 ガコン、ガコンとケルベロスの砲身からそれぞれ二回ずつ、カードリッジをロードする小気味いい音が響いた。

 

「―――ッッ!」
 自分に扱える限界ギリギリ、もしくはそれを超えた量の魔力が体の中を駆け巡る感覚に、全身が悲鳴をあげる。
 シンは気を抜けば意識が吹っ飛びそうになるのを、奥歯を噛み砕かんばかりの力で噛み締めることで堪えた。
 
 ―――シン、俺に見せてくれ。お前の進む……明日を。
 
 もう一度自分に何かが語りかけるのが聞こえた気がした。
 その声を、何処か懐かしむような気持ちでシンは聞いた。
 そして懐かしく感じることが、何故か無性に悲しかった。
 
 あいつはもう死んだのだ、きっとこれを聞かせてるのは自分自身。
 あいつに頼るのを、心の何処かでやめきれていない自分自身。
 自分がこうではあいつも向こうで安心出来ないだろう。
 シンはそう思い叫んだ。
 
「ああ、見せてやるよ……だからそこで見とけよ、レイ!!」

 

 瞬間、何かが自分の中で弾けるのをシンは確かに感じた。
 頭の中に浮かんだイメージは、植物の種子のような何か。
 そしてそれは初めて魔法を使ったときに感じた、リンカーコアに被って見えて。

 

 意識が冴えていき、視界が一気に晴れ渡るように開けたのをシンは感じた。
 シンはこれを知っていた。
 以前に戦闘を行っていたときも度々自身に起こっていた現象である。
 しかし今自分に起こったこの現象は、かつて感じたそれと決定的に違う点があった。
 
 全身に魔力が漲る。外から魔力素を取り込み魔力に変換するのとはまた違った、自分の中から湧き出るような感じ。

 

 変わったのはこの現象なのだろうか、それとも魔力というものを知った自分なのだろうか……
 それはシンには、果たして理解が及ばなかったが、ただこれだけはわかった。
 

 

 今の自分なら、きっとなんだって出来る、と。
 

 
 
 
 

「そう、それが見たかった!」

 

 スカリエッティは叫ぶ。
 既にルーテシアとの通信は切れ、その声を聞くものは誰も居なかったが、そんなことはどうでもいいかのように、彼は声を張り上げた。
 ガジェットを通じてモニターされるシンの情報を、改めて彼は見た。

 

「魔力の総量、そして魔力素の変換率の向上。
 また同時に日常的に確保しリンカーコアを覆う外郭といった形で保存されていた予備魔力の一斉開放……か。
 これは、管理局風にいうならばAA+ランク、と言ったところかな?
 彼の普段の魔力量が精々B~Aほどだから……」

 

 今得た情報と、これまでに彼が得ていた情報を照らし合わせ、冷静に分析を行っていく。
 今シンに起きている現象が彼にとって必要な物か、どうか。
 結局はそこなのだ。
 S.E.E.D.のことを知ったとき、彼がいの一番に考えたのが、自分の作品に応用できないか、ということであった。
 データは提供されてはいたものの、実際にこの目で見てみたいと思ったのもその為である。
 だから戯れで作ったとはいえ、データと同じように提供されたPS装甲を使い作ったガジェットも送り出した。
 試料として渡されたそれはガジェット一体を作った時点で使い切ってしまったし、そもそも加工にもそれなりの手順が必要なので、それにかかるコストもかかりすぎる。
 言ってしまえば虎の子の一体ではあったのだが

 

「私の欲を満たす為だ、別に問題は無い。」
 とスカリエッティ本人が言って憚らないため、投入された。

 

 スカリエッティが俯けていた顔を上げた。
 その表情が物語る感情は、諦観、失望、そういった類のものだった。
「却下、だね。
 どうにも不安定のようだし、もともと何を以ってしてS.E.E.D.を持つと言えるか判明しきってるわけじゃない。
 流石に私の娘たちにそのようなものを埋め込みたいとも思わないさ。
 もちろん、彼を捕らえて切り刻めば恐らくは私の手でも実現は可能だろうが。」

 

 そのつもりは無い……と言わんばかりにスカリエッティは肩を竦め首を振った。
 彼を知る者が見たら驚く光景だろう。
 彼にとってあくまでも優先されるのは己の欲望。
 その為ならシンを人体実験に使うことくらい、なんの躊躇いもなく行うだろう。
 しかし、彼は首を振る。

 

「まあ、いいさ。
 私の娘たちはそんなものが無くても十二分な性能を発揮できるだろうしね。」

 

 もう興味を失ったかのように、眼前に映し出されていた映像を切ろうとして、一瞬止める。

 

「精々頑張りたまえよ、君は彼の残した希望なのだから。」
 
 そう言うと今度こそ映像が切られ、もともと暗かったその空間は闇に包まれた。

 
 
 

「エリオ、キャロ! 下がってろよおっ!!」
 
 シンの声を受けたエリオがシンよりも後ろに下がろうとし、それをキャロが援護した。 それを確認したら、シンはすぐさま行動に移った。

 

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっっ!!」

 

『Kerberos,Fire Fly and Deluge.All weapon fire.』

 

 シンの足元の魔方陣が輝きを増したかと思うと、ケルベロスの砲口から、またシンの周りに展開した魔方陣から、凄まじい勢いで魔力があふれ出した。

 

 純粋に破壊力に特化したケルベロスの光が。
 速度、貫通力に優れたデリュージーの弾丸が。
 半自動的に敵を追うファイアフライの光弾が。
 それら全て、4本の光条と8個の魔力弾が一体のガジェットへと直撃する。

 

 AMFとの干渉で生まれた凄まじい音と光、爆炎がまるで獣の咆哮のようにあがる。

 

『マスター、まだです!』
「わかってるさ、ディファイアント!」
 
 インパルスの警告に、シンはケルベロスの砲身に備え付けられている、折りたたみ式の槍―――ディファイアントを取り出して応えた。
 先端に魔力で出来た刃を発生させたそれを片手で持ち、シンは全身のバネを使うように体を大きく反った。
「これでっ……!」
 そして弾けるようにディファイアントを投擲する。
「終わりだあああぁ!」
 投げ放たれたディファイアントは真っ直ぐにガジェットへ向かった。

 

「駄目です、シンさん! AMFとあの装甲で……!」
 それを見たキャロが悲鳴じみた声をあげる、が。

 

 しかし彼女の予想に反してまるでAMFの干渉を受けなかったかの様に、魔力の刃ごとディファイアントはガジェットに突き刺さっていた。  

 

 それは中枢部を貫いたらしく、ガジェットはそれきり動き出すこともなく、またその装甲の色も赤からグレーへと戻った。
 エリオとキャロが歓声をあげて自分に駆け寄ってくる気配を感じ、シン自身も声を上げようとしたした瞬間。

 

 ぐにゃりと、視界が歪んだ。

 

「……な、んだ?」

 

 体から力が抜けていく、抗うことがまるで出来ない圧倒的なまでの脱力感。
 
 倒れそうになるのを何とか足を踏ん張ることで耐えようとしてバランスを崩し、シンはその場に尻餅をついた。
「だ、大丈夫ですかシンさんっ!?」
 地面にへたり込んだシンの傍でエリオが焦るように声を掛けた。
 シンは暫く俯いたまま落ち着くのを待ち、エリオに答えられなかったが、2,3分ほどしてようやく顔を上げた。

 

「っと、悪いな、もう大丈夫だ。」

 

 顔色は青かったが、シン自身がそう答えたので二人は安堵した。
 フリードも何処かうれしそうに鳴き声を上げている。
「僕、シャマルさんに報告してきますね。
 シンさんは暫く休んでてください。」
「ああ、頼めるか?」
 ハイ! と力強く頷いてから走り出したエリオを、シンとキャロの二人は見送った。
 
 それから少々の沈黙を挟んで、キャロが口を開いた。
「あの、聞いていいですか?
「ん、どうかしたのか?」
「さっきのガジェットはどうやって倒したんですか?」
「ああ、さっきのはな。
 AMFってのは魔力のつながりを絶つものなんだろ。
 あれに近づきすぎると魔法が使えなくなるし、射撃魔法なんかも効き辛い。
 だから色々と工夫したりするわけだけど、さっきのみたいに物理的な攻撃が利かないと俺は基本的にお手上げ。」
 シンはキャロが頷くのを待ってから続けた。

 

「でも魔力のつながりを絶つって言ったって、限界があるんだろう?
 確かザフィーラ辺りかな、訓練の時に言ってたけど。
 ならその限界を超えた量の魔力で抜くか、それと同等の魔力をぶち当てれば一瞬でもフィールドは中和されるだろ?」

 

 本当ならはじめの砲撃でけりをつけるつもりだったんだけどな、と続けるシンをポカーンとキャロは見つめた。

 

「シンさんって、すごいですね……
 魔法使い始めて2ヶ月くらいでこんなに出来るなんて。」
「いや、それは勘違い。
 俺はそんなにすごくなんて無いぞ?」
 少し沈んだ様な声音で呟くキャロの言葉をシンは苦笑しながら否定した。
「え、でも……?」
「すごいって言うならどっちかと言うとこいつだろうな。」
「デバイス?」
 シンが胸元に鈍く輝くインパルスを指しながら言う。
「そう、実際俺が使ってる魔法の殆んどがもともとこいつに登録されてたもの。
 俺は何を使うかを選んで、それに必要な魔力を送り込んでるだけなんだよ。」
『そうですね、マスターオリジナルの魔法はまだ一つ二つ位と言ったところでしょうか?』
「ほっとけ、これでも頑張ってるんだぞ。
 シャマル先生とかザフィーラのしごきはアレで結構きついんだからな。」

 

 茶々を入れてくる相棒の言葉に、苦いものを感じシンの表情に渋いものが混じる。
「まあ、そういうわけだ。
 魔力量云々はあるだろうけど、そのせいでこんだけフラフラになってるんだから、俺なんて大したこと無いさ。」
『キャロさん。
 私はマスターの為だけに作られたデバイスです。
 シャリオさん辺りに聞けば延々と語ってくれるでしょうが、私にはあらかじめマスターのあらゆるデータが登録されていたらしいのです。
 それゆえ、魔力を通すだけで魔法が使えるなんてふざけたことが出来るのです。
 ですから余り気になさらないでください。この人はこの人で一杯一杯なんです。』

 

「はあ……」
「インパルス、お前な……」
『間違っていましたか?』
「いや間違っちゃいないけど、もう少し言い方無いのかよ?
 はあ、まあいいか。
 とりあえず俺が今こうして戦えてるのはこいつのおかげなんだよ。」
『私としては早く私に登録されている魔法のことも、その術式も含めてちゃんと理解してほしいですけどね。』
 
 何処か諦観したような調子で言うインパルスの音声は、合成音なのにどこか楽しそうな響きを含んでいた。
 シンは文句を言おうとして、やめた。
 なんだかんだでこの無駄に人間臭いデバイスとの掛け合いは嫌いじゃない。
 
「あの、シンさん。すみませんでした、変なこと言って。」
「別に気にしてないさ。
 むしろ言ってくれたほうがこっちも気が楽だしな。」
 頭を下げて謝るキャロにシンは答える。
(まぁ、確かにあんまり気分のいいもんじゃないよな。
 いきなりやってきた奴がなんか妙に強かったりすると。)
 自分も少し前はそれが原因で色々と無茶をしたことをシンは思い出す。
 あの頃自分はどうされたかったのだろうか、まだ困ったようにこちらを見上げてるキャロに何をしてやれるだろうか。
 
(俺は……認めて欲しかった。自分がしたことを、どんなことでもいい。
 ただ、よくやったって、そう言って欲しかっただけなんだよな。)
 我ながら子供じみてるよな、とシンは表に出さず溜息をつき、そしてキャロに視線を合わせるためにしゃがみこんだ。

 

「それにキャロとエリオが頑張ってくれたから、俺もあれだけのことが出来たんだ。
 だから、その、ありがとな。」
 
 そう言って笑いながら帽子の上からキャロの頭をシンは撫でた。
「……はいっ!」

 

 そう言って年相応の笑顔を見せながら頷いたキャロの頭を、シンは本当の妹にしてやったようにしばらく撫で続けた。

 

 シンは思う。キャロやエリオ、それにスバルやティアナもだ。
 自分のようになって欲しくないと。
 まだ詳しい話は聞いてないので解らないのだが、自分がアコースと話している間に色々あったらしい。
 主にスバルとティアナ。何も無ければそれでいいのだけども……
(その為に俺に伝えられることは伝えていかないとな。)
「俺とアンタみたいになっちゃいけないよな……アスラン。」
「え、何か言いましたか?」
 声に出すつもりは無かったのだが、出ていたのだろうか。
 キョトンと聞き返すキャロになんでもないよ、と答えてからシンは立ち上がる。

 

「さて、エリオが帰ってくるまでにやれることはやっとくか。」
「はい!」
 キャロの返事にきゅいーとフリードの鳴き声も続き、歩き出したシンに並んだ。

 

 しばらく作業をして、ふとシンは気がついた。
 戦闘中に頭に響いたあの声についてだ。
 自分はあの時、その声の主をレイと呼んだが、結局どうだったんだろう、と。
 幻聴、だったのだろうか?
 もし仮に幻聴じゃなくても、また幻聴だったとしても、友が傍にいてくれるようなその感じは悪くない。
 
 シンはこちらに走ってくるエリオを見つけたことで、一旦このことについての思考を中断することにした。

 

 色々と考えるべきことはある。
 今日、それがわかった。
 例えば、それは先ほどの声とか、あの時アスランは何を考えていたのかとか、他にもいくつか。
 変わらなくちゃいけないんだと思う。
 どうやって、どんな風になんてまだわからなかったが、漠然とシンはそう感じた。