DEMONBANE-SEED_ですべのひと_05_3

Last-modified: 2013-12-22 (日) 19:30:02

俺は、九郎とは違う。
俺には魔術の才なんて、少しはあっても九郎みたいに溢れてるわけじゃない。
断章とはいえ、俺も同じ魔導書を扱ってるけど、
その魔術的な力量の差は足元にも及んでいない。
だから今は、一刻も早く九郎と合流することを先決にしている。
護れる程の力が自分にはない。
その状況、今まで何度あったことか―――くそっ。

「……ライカさん、大丈夫?」
自身はまだ未熟な魔術探査をロイガーとツァールに任せ、俺たちは奥に進んでいく。
気が抜けない。ここは敵地なのだから。
こんなとき、一人では足りない「目」を補ってくれるこいつらの存在はありがたい。
銃は予備弾装も3~4程あるが、下手をすれば簡単に尽きかねない。
早く合流しなければ。
構えつつ、警戒しながら先攻する俺だったが……
「あの、シンちゃん……」
ライカさんの様子がおかしい。
どうしたんだ、怪我でもしたんだろうか。
それとも、雨で体温を奪われたのが原因で熱とか―――?

「……先行します。済ませたら右の角を曲がったところに居ますからね」
納得した。
あれほど内股でもじもじしていて、俺に言い出しにくいような恥ずかしいことで。
一つしかないよなあ、そんなのは。
というわけで、俺は曲がり角を先に行った所でひとまず待機。
なあ、ところで皆。この状況、どうすればいいと思う?
ライカさんに危害が加わるのはまずいけど、ライカさんが……その、アレだ。
えーと、アレだよ、アレ。とにかく、アレしてる状態で俺が近くにいすぎるとまずい。
ただこう、ライカさんが完全無防備になるってことは命の危険でもあるわけで。
倫理観と目的(Not不純)の狭間で揺れ動く。

俺はどうすればいいんDAAAAAAAAA!



「きゃあああああ!!」
思い悩んでいた瞬間。突然の悲鳴が、俺の思考をさえぎった。
非常事態、銃を構えて咄嗟に飛び出す。
視界に入るのは、深きものども一匹。しまった、捉えきれなかったか。
目の前にライカさんを確認する。
慌ててこちらに駆け出そうとしていたのか、やはり下半身は着衣さえままならない状態だった。
俺は引き金を引こうと、深きものどもを視認する―――既に、一発急所に穴が開いていた。
ほかに誰もいない。この状況は……? しかし、疑問を抱える暇もない。
念のため、かまわず一発、二発。銃弾を打ち込んでやった。直後―――

ダイサンダァ。
結局殴られるのな、俺。と、殴られて視界を取り戻すと、そこには。
タイミングが悪過ぎたのか、そう。よりによってライカさんの秘密の花園が、
その隠すものがなくなった秘密の花園が、俺の目の前に秘密の花園が。
「シンちゃあああああんっ!!」
「ダイヨンダァァァ!!」
俺、轟沈。
泣いてもいいよね。答えは聞いてない。



俺は、九郎とは違う。
家族を戦火に焼かれ、戦いに身を投じた。
死ぬ気で訓練に望み、這い上がり、ザフトレッドにまでなって。
インパルスで戦場を駆け抜けた。
だから分かる。軍人としての思考が、俺にはある。

「―――ビーム兵器だ。それも、灼かれて間もない」
最初に空いていた穴は、ビーム兵器に貫かれたもの。
でなければ、こんなに綺麗に空くはずがない。
俺は推測した。しこたま追加攻撃された顔面を擦りながら。
殴られてから少し気絶していたのだろうか、気づいたときにはライカさんはもう水着はちゃんと着ていた。
正直ほっとした。そして正直思う。理不尽だ。
親父にもぶたれた事ないのに! ……でもアスランには殴られた。
閑話休題。
それにしても、このビーム兵器はどこから?
深きものどもに、そんな装備があるようなことは見受けられない。
ライカさんは……論外。
なら、何故だ。何故こんな攻撃が……?
「ライカさん。起こったことをちゃんと話して欲しい。何があったんだ?」
「それが……その、『して』たら……突然、あれが襲いかかって来て。それからはもう……覚えてないのよ」
パニックを起こしたか。それにしては、俺に対する制裁はやけに正確だったなドチクショウ!

―――そして、俺はある違和感に気づく。
今の証言では、少なくとも「ライカさんに襲い掛かるまでは」動いていたということになる。
普通ならこの傷では即死だ。考えられる可能性は三つ。
ひとつは、隠れていた奴が化物を射抜いた。
「主、それらしき術式はありません」
ロイガーやツァールの調べによると、魔術的ステルスはないようだ。
答えはこうだ、この可能性は考えにくい。
ミラージュコロイドを人間サイズで所持していれば不可能ではないが、
そこまでやってそもそも何になる? 利点は?
流石の覇道財閥もそこまでの用意はないし、覇道の者なら俺たちの前でも姿を隠す必要はない。
ひとつは、奴の生命力が異常だった。
にしては……悲鳴から俺の視認の間までは時間がそこまであるとは思えない。
銃弾をくれてやるまでにはさらに時間が短い。
疑うとしたらライカさんのほかにない。
が、人間としての心の強さはともあれ、身体的な強さはそこまであるとは思えない。
ましてや人間サイズのビーム兵器なんて、どうやって所持できる?

「……とにかく、行こう。ここで奴等の一人が倒れたんだ、もう騒ぎになってもおかしくない」
そして、また奥に走り出す。一刻も早く合流を果たすために。

奥にしまった、もうひとつの可能性。
ライカさんが、何かを隠している可能性。
今は口に出さない。切り抜けるまで、考える暇はない。

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