DEMONBANE-SEED_冒涜の剣_01

Last-modified: 2013-12-22 (日) 20:36:05

 赤い瞳の少年、シン・アスカは嫌々ながらも悪夢を見ていた。



  やめろ、やめてくれ俺に何の恨みがあるっていうんだ!!



 既に幾度見たか忘れるほど、

 青い羽を持ったMSの攻撃によって吹き飛ばされる家族、

 連合のエクステンデッド達により強奪されていくザフトの新型MS、

 何度も裏切る過去の英雄"アスラン・ザラ”

 守ると約束して守れなかった少女、

 自分がどんなに足掻いても代わる事の無い結末。

 そして、始まりはいつも妹の千切れた右腕。

 ああ、俺は一体、後何回この悲劇を見れば済むのだろうか。

 絶望、歓喜、絶望のループを少年は幾星霜繰り返していく。

 まるで、終わりの無い螺旋回廊のように進んでゆく。

 少年は途中まで数えていたが、その回数が4桁を越すころには数える事自体が馬鹿らしくなって数えるのをやめた。



「おやおや、絶望の果てに擦り切れてしまったのかい?」

 唐突に声を掛けられた。

 だが、その声は可笑しく一人の者ではなく、まるで大勢の人間の姿をした、何か凄く冒涜的な何かが一度に喋っているように思えた。

 もはや、自分にその様な事は気にするものではなかった。

 今や、最後には昔の英雄アスラン・ザラの駆るインフィニット・ジャスティスに破れ。

 ルナと共に陥落していくZAFT軍を尻目にこの不思議空間に飛ばされ、再びあのオノゴロ島に意識が飛ばされるという理不尽なループに囚われているのだから、今更何が起きても不思議でおはない。


 なにせ、前回までの記憶があるのはこの不思議空間だけなのだから、ここでどんな事が起きても気にしないことにした。

 だから、こう呟いた。



  あんたは何者なんだか知らないが、俺の事なんかほっといてくれよ。



 そう、別に話しかけた人物が誰であろうと関係ない。



「まあ、そんなに絶望ばかりしていては駄目じゃないか。

 僕はね、そうだなナイアと呼んでくれたまえ。

 僕はこことは別の場所だけれど、そこの世界のゲームマスターみたいなものかな」



 ゲームマスター?



「そう、そうゲームマスターだよ。この世界のように永遠にループする世界の傍観者みたいなものさ。

 それにしてもこの世界のゲームマスターはひどい者だね。一人の英雄とお姫様が我が物顔で駆け抜けていく世界、なんて陳腐で半端な御伽噺なんだろうね」

 そう言うと悪夢が流れていく世界を背に何処からとも無く紅い三つの目を持つ黒い影が現れた。

 その影は、女性の姿へと移り変わった。

 最早、絶望の果てに擦り切れた少年シン・アスカにとって気にするほどでもない事であった。

 どうせ、自分がここから目覚めた時には絶望しか無い御伽噺が持っているのだから。



「ああ、そんなに絶望しなくてもいいよ。

 僕がこの陳腐で半端な御伽噺にちょっと手を加えるだけなんだからね」



  手を加える?



「そうだともこんな陳腐で半端な御伽噺なんて存在している事自体が傍観者として許せないからね」



  あんたは神様だとでもほざくのかい?



「うーん、神様と言い切れないけどね僕は。

 まあ、ただのお節介好きのお姉さんとでも思ってくれればいいよ」



  まあ、どうでもいいよ。

  どうせ、いつもの結末しか待っていない世界なんだから。



「そんな、君に世界すら塗り替えるほどの力を上げよう。

 そう、神をも召喚できるほどの最高の魔導書を。こんな御伽噺を塗り潰すほどの冒涜の力を」



 目の前の、ナイアと名乗った女性は何処からとも無くアラベスク模様の黒檀装丁の大冊を取り出した。



「選ぶのは君だ、このまま絶望の螺旋を漂うか。この力を手に取り、英雄とお姫様の御伽噺を破壊するか」



 そんなのは決まっている。

 このまま絶望の悪夢を見続けるより、俺の愛機をも越える力が有ると言うのならそれを手にしてやる。



  俺に力をくれ!!冒涜でもなんでもいいこの悪夢を断ち切れるなら力を!!



 少年は選択する、冒涜の力を持って世界を塗り潰す為に。

 そして、少年は魔導書を手に再び無限にループする世界へと戻っていった。



「さあ、さあ、さあ、見せておくれ。

 冒涜の力を持った君がどんな結末を見せてくれるのかを」

 彼女は超えたからかに、何処でもない空間で嘲笑った。彼女の姿形は次第に崩れ闇となった。

 だが、顔と思しき場所で三つの赤い目がリンリンと輝いていた。



 そして、夜鷹がどこかで鳴いた。







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