DEMONBANE-SEED_種死逆十字_第15話2

Last-modified: 2008-12-05 (金) 02:25:10
 

『他国を侵略せず、他国の侵略を許さず、他国の争いに介入しない……それがオーブの国是だったはず。
 今現在のオーブはそれに反しているといわざるを得ません。オーブは戦ってはならないのです。
 今すぐに戦闘を中止してください』
「あ、ああ……」
 アークエンジェルからの声が響き渡る中、驚愕の表情で立ち尽くすラクスの姿。それを見て、
タリアは大まかな状況を理解した。
(戻ってきたタイミングが都合良すぎるとは思っていたけれど……ギルも酷いわね。こんな若い子に重たい役を背負わせて)
 整形だろうから実際の年齢は分からないけど、とどうでもいい考えを振り払いながら、タリアは
動きの停滞したブリッジで声を張り上げた。
「何を呆けているの!
 MS隊にアークエンジェル一派は無視し作戦を続行、もし手を出してくるなら迎撃するよう通達! それとアスラン……いえ、アレックス・ディノ氏には独自の判断で動くように伝えて!」
 その言葉にブリッジクルーは皆困惑の表情を見せた。タリアとラクス、二人の顔へと交互に目を向ける。その視線にラクスが身を強張らせる中、タリアは更なる一喝を上げた。
「アークエンジェルがどういう存在か、貴方達はよく承知している筈でしょう!
 そこからラクスの声が聞こえたからって、それが信用できると思っているの!?
 そして今ここに、今この場にラクス・クラインはいる!
 それでどういうことか分かるわね!?
 これだけ言って分からないなら今すぐこのブリッジから出て行きなさいっ!
 返事はっ!?」
『りょ、了解であります!』
 有無を言わせぬ迫力に、誰一人逆らうことなくそれぞれの役割に戻る。
「ラクス様、こちらに」
 声をかけて、未だ茫然自失としたラクスを傍に呼ぶ。
「……しゃんとしなさい。動揺すればそれだけ疑われるし、兵の士気にも関わってくるわ。反論したり否定したりする必要はない……虚勢でもいいから、自信のある風を装ってなさい。
 私はラクス・クラインだ、ってね」
 周囲に聞こえないよう抑えた言葉に、ラクスはハッとタリアを見る。
 かすかに震えている彼女の手をそっと握り、タリアはかすかな笑みを浮かべて頷いた。

 
 
 

「当然、叩き潰す」
 容赦のないミナの一言。通信機越しのネオの声が戸惑った様子を伝える。
『いや、しかしアークエンジェルはそちらの国の……』
「そう。あれはわがオーブの代表を誘拐しようとして国際指名手配された船だ。
 出来れば捕らえてその正体を白日の下に晒したいが、戦場でそのような考えは甘いといわざるを得ない……故に、せめて我が軍の手で始末をつける。失礼」
 強制的に通信を切り、ミナは優雅な素振りで通信機を元の位置に戻した。
「タイミングとしては悪くもない。このまま暴れてくれるなら、我等の撤退する理由にもなり得る……が、しかし」
 静かに独語を呟くミナ。その表情や身振りには特に変わった様子は見られない。
 だが、クルーたちは気づいていた──表情は落ち着いているが目は笑っておらず、声が完全な無感情になっていることに。
「トダカ」
「ハッ!」
 緊張の面持ちで敬礼するトダカに、ミナは短く告げて指揮官シートから立ち上がる。
「私も出る。用兵と撤退のタイミングは任せた……少々、悪戯の過ぎた子供に灸をすえねばならぬ」
 あれは確実に怒っている──ブリッジを出るミナを、クルー全員が恐怖の視線で見送った。

 
 
 

 突然の乱入に止まっていた戦闘が再開する──と同時に、フリーダムの全砲門が火を吹いた。
 連合オーブ問わず、MSが手足や首、翼をもがれて堕ちていく。
 状況は混乱し、泥沼の様相を呈していた。
「おのれ、フリーダム……!」
 幸いザフト機は数が少ないのもあり、今のところ被害はない。それにレイは安堵すると同時に、
暴れまわるフリーダムへの怒りに身を震わせた。
 戦場を混乱させるのも迷惑極まるが、レイの怒りはそれだけではない。フリーダムのパイロットは、レイにとって──
「っ!」
 エールカスタムの側面を横切った影が、レイの思考を怒りから引き戻した。
 連合艦隊から飛び出したカオスだ。高速で突き進む先にはミネルバがある。この混乱の最中に、ミネルバを落としてしまおうという腹か。
「させん!」
 ブレイズウィザードからミサイルを『上方向に』発射し、ライフルを撃ちながらカオスを追いかける。 正確な射撃に回避行動を取るカオスのスピードが落ち、その隙に距離を詰めたザクは更にカオスの下方向に回り込みながらビームを撃ちこむ。
 カオスが上昇しながら回避行動を取り──その背中を、時間差で飛んで来たミサイルが強かに打ち付けた。
「もらった!」
 VPS装甲に実弾は効かないと言えど、衝撃を受ければ隙も出来る。レイはカオスの進行方向に回り込み、狙い済ませて撃破しようとするが、
「ちっ!」
 体勢を崩しつつもカオスは踵を返し、猛スピードでザクの射程から離れる……かと思えばすぐさま振り向いて再び突撃の姿勢を見せた。だがどうやら、攻撃目標をミネルバからこちらに移すことは出来たようだ。
「……?」
 突撃してくるカオスと相対するレイは、その時何故か違和感を覚えた。
 初めてのカオスとの一騎打ち──なのに何故かこれが初めてではないような、既視感を。

 
 
 

 フリーダムの砲火を、シンは必死の回避軌道で避け続けていた。少しでも気を抜けば、手足を
引き千切られてしまう。
「フリーダム……!」
 憎むべき仇。家族を奪った存在。そして今、突然現れて戦場を掻き乱す。
 混戦を極めるこの状況では、オーブ相手に手を抜く事も出来やしない。
 黒い憎悪が、再びシンの中で燻り始める。
「なんで……こんな時に出て来るんだ、お前はぁ!」
 フリーダムに憎悪の叫びを上げるシン。頭の中で、昏い憎悪の火に炙られた『種』が弾け──
(でなければいつか、君もまた狂気に呑まれてしまうかもしれない……それじゃ、何も変わらないんだ)
「っ!」
 ──寸前、シンの中でジェスの言葉が思い出された。『種』のイメージが消え、憎悪が一気に冷める。
 憎しみに捕らわれた人の狂気の貌を思い出し、シンは身を震わせる。
 少し前のシンなら、憎悪に任せフリーダムに向かっただろう。しかし今まで見た人の狂気の姿が、『復讐』というシンの思いに迷いを与えていた。
 だがそれでも、フリーダムへの憎しみは振り払えるものではない。再び憎悪がシンの中で再燃を始める。
「俺は……!?」
 その時、シンは見た。
 両の手にサーベルを抜き、迷いなくフリーダムへと駆けるセイバーの姿を。

 
 
 

「キラ!」
 接近するセイバーを、ライフルで迎撃するフリーダム。それを避け肉薄するセイバーだが、フリーダムは弾幕を張りながら後ろへ下がって逃れてしまう。
 剣を構え直すセイバーのコクピットで、アスランは操縦幹を強く握りしめた。
「何故出て来た……何故、こんな所に現れた! キラ! ラクス!」
 通信回線は繋がらず、ラクスのように外部スピーカーで叫ぶわけにもいかない……今己の意思を相手に伝えられないと分かっていても、アスランは叫ばずにはいられなかった。
「突然戦場に現れて、ラクスの存在を明かして……その次は問答無用で攻撃か!
 それがオーブへの被害を大きくしている事に何故気づかない!?
 ラクス、君が居ない間ミーアがどれだけ頑張ってきたと思ってる!
 彼女が積み上げてきた物を、全てぶち壊すつもりか!」
 ミーアについては向こうにも言い分があるかもしれないが、それを考慮できるほどアスランに余裕は無かった。
 それだけ、キラとラクスへの失望と怒りが大きかったのだ。
「キラ……お前は!」
 こうなればフリーダムと接触し、直接回線で問い正す。
 刃を構えなおし、セイバーが再びフリーダムへと突っ込んだ。
 弾幕を抜け、フリーダムへと剣を振り上げるセイバー。その右腕が、半ばから切り裂かれる。
 素早くサーベルを抜いたフリーダムが、返す刀でもう一方の腕を切り落とそうとし──
 側面から放たれたビームに、慌ててフリーダムは後退した。
「あれは!?」
 ビームの飛んで来た方向を見るアスラン。
 そこには漆黒の翼を広げた、ゴールドフレーム天が飛翔していた。
「あの機体は、オーブの……」
 かつてカガリを連れて行こうとした自分を阻んだ機体。それを目にしたキラが僅かに怯むが、
すぐに弱い考えを頭から振り払う。
「僕は、この戦いを止めなくちゃいけないんだ」
 スカンジナビア王国に身を寄せていたアークエンジェルに、【ターミナル】から送られてきた情報。オーブが連合の増援として駆り出され、更にその近くには偽のラクスが乗ったミネルバがいるという。
 オーブを戦いに巻き込まないため、キラたちはあえてラクスの存在を公表する事に決めた──それも、偽のラクスの前で。
 ザフトに混乱を呼んだ上で、ラクスの影響力があればオーブは止まってくれる。そう信じていたのに──
「どうして戦わなきゃならないんだ……僕は、僕達は戦いたくなんかないのに!」
 戦いを止めないなら、止めさせるしかない。
 マルチロック起動。コクピットにだけは当たらないようにロックオン位置を調整。フルバースト。
 ビームと電磁加速の砲弾が乱舞し、所属を問わずあらゆるMSを貫く。だがどれだけ破壊されようと、コクピットだけは無傷のままだ。
 もう、他人の命を奪いたくない。
 そんな中落とされずにいる二機──オーブの黒い機体とザフトの赤い機体が迫る。
 まるで連携を取るかのような波状攻撃を仕掛けてくる二機。特に赤い機体は、右腕を斬り落としたのにまるで恐れがないように見える。
 その機体──セイバーの良く知った動きが、キラを戸惑わせる。
「アスラン、まだ君はその機体に乗っているのか? ……くっ!」
 悪寒を感じ咄嗟に上昇する。後方と右前方からビームが飛び、フリーダムの足下を抜けていく。
 紫に塗られたウィンダムがライフルを構え、オレンジ色をしたザフト機が腕に装備した小型ビームガンを向けている。
 混乱を巻き起こしたフリーダムに奇しくも連合、ザフト、オーブの機体が対するという構図が出来ていた。
 ウィンダムの撃つライフルをかわす。そこに仕掛けてきたオレンジの機体の斬撃をかわし、急上昇。
「撃ちたくない……」
 視界に全MSの姿を見る。ロックオン可能距離。
 キラは迷いながらも、止まらない。全ては、こんなくだらない戦いを繰り返させないために。
 ──迷っていたって、前に進むしかないじゃないか。
「……撃たせないで」
 再びマルチロックを起動し、キラはフルバーストの引き金を引いた。

 
 
 

 オーガアストレイの鋭い連撃を、アビスはシールドとランスで受け流す。
「こんなのインチキだろ!」
 以前より遥かに素早いオーガアストレイにアウルは防御に手一杯で、反撃の糸口が掴めない。
 攻勢に転じようと連装砲を向けた瞬間、振り下ろされる刃。慌ててシールドを傾け、刀を弾く。
 防御を疎かにすれば、またもやその刀がコクピットを貫くのではないかという強迫観念。それがアウルに思い切りの良さを失わせ、防戦一方の現状を作り出している。
 兵器である自分が、ビビっている──認めたくない自覚が、よりアウルの恐怖感と苛立ちを煽った。
「クソがぁぁぁぁっ!」
 コクピットで絶叫するアウル──しかし苛立ちという点で相手も同じだという事は、知る良しもなかった。

 

 回収したディープフォビドゥンのパーツで造られた【フォビドゥンストライカー】──武装や変形機構を廃し、
追加スラスターとゲシュマイディッヒ・パンツァーのみ残した簡易ストライカーの使用で、オーガアストレイの水中戦闘能力は大幅に上昇していた。
 だが、しかし。
「遅い……」
 攻勢を維持しているティトゥス。だが防戦一方のアウル以上に、その心は苛立っていた。
「遅い、遅い、遅い……!」
 ここで踏み込めれば。そこに斬り付けられれば──もっと、疾ければ。
 幾度となく撃破のチャンスを見出しながら、それに身体の動きが追いついていない。ティトゥス自身が追いついていないのだから、まだ多少水に動きを取られているとはいえ機体の責ではない。
 全ては、己の脆弱さ故。アビスが防御に徹している、【その程度】の理由で決定打を撃てなくなる。
 理想と現実のギャップ──外道だった己なら届いた領域に、届かない。
 【人間】であるが故の苦しみ。己の弱さが、ティトゥスをどこまでも憤らせる。
「……!?」
 その時、ティトゥスの感覚が何かを捉えた……刹那、海水の流れが奇妙な勢いを伴い始める。
オーガアストレイとアビスが、突然の異変にいったん距離をとった。
「これは!?」
 にわかに激しくなる流れの中踏み止まる二機。二機から距離の離れた位置の海底から、何かが浮上を始める。
 MS、いや連合のMAより一回り大きいその物体を見て、ティトゥスははっきりと感じた。
 ほの暗い、魔術の匂い。しかも覚えのあるこれは……
「ウェスパシアヌスか!」

 
 
 

 MS戦が激化の一途を辿る中、海に浮かぶオーブと連合の艦隊も戦っていた。
 乱戦の中味方に当てぬよう援護射撃を行いつつ、アークエンジェルとミネルバにも仕掛ける。
 タンホイザーをやられたミネルバは後退、戦場の中心から離れた。艦上のザクが迎撃行動を取り、容易にMSを近寄らせない。
 アークエンジェルは謎の演説を止め、数年前の艦とは思えぬ機動性を持って戦場の中央を駆けている。こちらにはオーブ艦隊を中心とした攻撃が行なわれているが、すぐにフリーダムが周囲を凄腕に囲まれて尚正確な援護射撃を行い艦の攻撃力を奪っていく。
 決め手が掴めない中、J.P.ジョーンズの艦上で援護射撃を行なっていたステラが何かに気づいた。
「何……?」
 ネオや他の機体と争っているフリーダムの下、海面から何かが浮上してくる。
 MS──いや違う。MSにしては大きすぎる。
「──っ!?」
 水飛沫を上げて現れた、MSよりずっと巨大な【それ】の姿を見て、ステラは息を呑んだ。
 【それ】は足のついた、赤色の巨大な円盤とでも言うべき姿形をしていた。
 円盤そのものといった本体から、甲殻類のような外装と爪を備えた巨大な足が四本生えている。その足と足の間四箇所からも太い突起状のパーツが伸びており、前方に突き出した物の上部にはモノアイの目が光っていた。
 何より異常なのは本体の下部で、そこには無数のケーブルかチューブのような何かが蠢いている。しかもその中央から、手のないMSの上半身が頭を下に、オブジェのように突き出しているのだ。
 あまりの異形に、気持ち悪さを覚えるステラ。目にするだけで吐き気を誘う、醜悪な造詣。
 再び停滞する戦場で、異形はゆっくりと浮上していった。

 
 
 

「さて、さてさて皆どのような印象を受けるかね?
 私の自信作、【リジェネレイト・サイクラノーシュ】のめでたい、めでたいお披露目に」
 コクピットシートに座り、両手の指を絡ませ弄びながらウェスパシアヌスは哂う。周囲の計器類はかすかに魔力の光を帯び、彼が手を触れずとも各種操作を続けている。
 モニターの向こうでこちらを見つめるフリーダムとセイバーを、ウェスパシアヌスは熱い目で見つめる。
「では参ろう、いざ参ろう。君達の力……スーパーコーディネイターと、【SEED】とやらの仕組み、理屈、遺伝子構造!
 それら全て私が、この私が解析し、理解し、手に入れてみせよう!」
 指を解き、高らかに両手を振り上げ、ウェスパシアヌスは叫んだ。
「まずは小手調べ! さあ歌え! 呪え! ガルバ! オトー! ウィテリウス!」

 
 
 

 突如現れた謎の機体──R・サイクラノーシュの突起パーツ三つが、本体から飛び立った。
 先端が分かれ、三つのビーム砲門を持つ機動砲台となったそれらが宙を舞う。無数の閃光が、フリーダムとその周囲に向けられる。
 一斉に放たれたビームの雨に、フリーダムを囲んでいた四機も散開した。
「ガンバレル……いや、ドラグーンだと!? 地上でか!?」
 ウィンダムを駆るネオが驚愕の声を上げる。ガンバレル使いの彼にとって、重力下では飛行できる推力を得られないガンバレルやドラグーンが使えないのは常識であり、不満でもあった。
 その常識をひっくり返されたことに驚愕とかすかな羨望、嫉妬を覚えつつ、ドラグーンを放った正体不明機にライフルを向ける。
「フリーダムといい、訳分からない日だな、今日は!」
 吐き捨てながらライフルを撃つが、かわされる。更にネオは追い討ちを仕掛けようとし──
《それはいかん、いかんなあ。止めておきたまえ、ネオ》
 ──突然の頭痛に、その動きを止めた。
「グッ──!?」
 すぐさまR・サイクラノーシュから距離を取り、後方へ下がるウィンダム。
「なんだ……アレに手を出すのはやばい気がする……無視するか」
 自分はあれに手を出さない──その段階で思考が停止し、ネオはそれを味方に伝えようとまでは思わない。
 それが犠牲者を増やすかもしれないという懸念は、その時のネオには一切浮かばなかった。

 
 
 

 R・サイクラノーシュから放たれたドラグーンは、フリーダムと同じように誰彼構わずMSを撃ち落していく。
 だがフリーダムと決定的に違うのは、パイロットの生命は一切考慮していないという点だ。
 また一機、ビームにウィンダムの一機が撃ち抜かれた。爆散する機体のすぐ横を飛んでいた僚機が相棒の死に愕然とする中、ドラグーンが三つの砲身を大きく広げ、彼の機体に向かってくる。
 MS並の質量が向かってくる恐怖に震えるパイロットは、その瞬間見た。
 迫るドラグーン。その砲身を束ねる基部中心に顔があり──その口が大きく開いているのを。
「うわあぁ──」
 恐怖の雄叫びの途中で、彼の意識は途絶した。
 ドラグーンはウィンダムを『通り抜け』、そのまま飛翔する。胴体だけ綺麗に『喰いちぎられた』ウィンダムは、
両手と下半身だけになって海へ落下していった。

 
 
 

「ちょろちょろと、うっとおしいんだよ!」
 飛び回るドラグーンの側面から、ハイネのグフがビームソードで斬りつける。
 しかしドラグーンの周囲に魔法陣が展開し、刃の動きを押し留めた。
「何ぃ!? はっ!」
 ドラグーンはそのままハイネの視界から消える。ハイネが追いかけようして振り向くと、前方から別のドラグーンが砲門を大きく開いてグフへと迫っていた。
 ハイネは先ほど視界の端に捉えていた、ドラグーンに抉られたウィンダムの姿を思い出す。
「ソードで攻撃しても武器ごと持ってかれるか……なら!」
 スレイヤーウィップを伸ばし、ドラグーン目掛けて振付ける。鞭が砲身の一つに絡みついた瞬間、グフは鞭を大きく振り回した。
 突然かかった力にドラグーンは軌道を変更、グフの側面を通り過ぎようとし……まだ絡みついたままの鞭に引っぱられ、動きを止めた。
「くらえよ!」
 鞭に流される電流。ドラグーンから苦悶の叫びのような奇怪な音が響く。グフがソードを振り払い、砲身の一つを切り裂いた。
 衝撃で鞭が解け、ドラグーンが逃げる。ハイネは逃がさぬとばかりに追いかけた。
 ザクならさっきの攻撃でやられていたかもしれない。しかしこのグフはザクの汎用性を捨てる代わりに、格闘能力を最大限に引き出した機体なのだ。接近してきた敵を逃がしては名がすたる。
「ザクとは違うんだよ! ザクとはぁ!」

 
 
 

「ほう! これは中々、中々の新型じゃあないか! 成程成程、ザクとは違うな、ザクとはぁ!」
 『ウィテリウス』を傷付けられたウェスパシアヌスは、ようやくその新型機に意識を傾けた。
 量産前提の凡作だろうと侮っていたが、近接時の手数と攻撃力は中々だ。オレンジのカラーリングはややケバケバしすぎる気もするが、外観もそう悪くない。今一つ装備が多すぎてスマートさに欠けるが──
「おっとこれは、いかんいかん。今回の本命は別だ、掘り出し物を見つけたといって目移りはいかん。
 どうも集中力に欠けるなぁ、私は」
 とはいえ、少々手こずりすぎている感は否めない。いらぬ連中を排除してゆっくりフリーダムとセイバーを狙うつもりだったが、意外と有象無象が粘ってくれる。
 やはりテストが必要だったとはいえ、未完成のまま出てきたのは早計だったか。
「仕方ない、仕方がないな……」
 グフに追いかけられるウィテリウス。その前方に、『オトー』を相手にしつつMSを落としていくフリーダムの側面が見えた。
「少々君にもご協力をお願いしようかね、キラ・ヤマト君!」
 ウィテリウスに念で指示を出し、フリーダムを撃たせる。フリーダムが素早い反応で避けるのを確認し、ウェスパシアヌスはウィテリウスを急旋回させその場から離脱させた。

 
 
 

「っ!」
 側面から飛んで来たビームを避け、キラはそちらを振り向く。
 そこにいたのはオレンジをしたザフトの新型、グフイグナイテッド。先ほど自分に攻撃を仕掛けてきた一機だ。
 グフが自分を止めようとしたのだと、キラは判断した。
「邪魔をしないでくれ!」
 ちょ、勘違いだぜ!──グフのパイロットがそう叫んでいるなど、キラは分からない。
 腰のレールガンをグフに放つ。グフは回避すると、仕方ないといわんばかりに剣を構えて突撃してくる。
 ライフルを腰裏にしまい、二本のサーベルを抜く。柄を連結、前後に伸びた刃を構えてグフと斬り合いを演じる。
「……強い!」
 敵の機体は、近接戦闘に特化されているらしい。重量のありそうな大剣を軽々と振り、こちらの連続攻撃をことごとく避ける。パイロットも機体の特性を生かす凄腕だ。
 戦い方を誤ったと、キラは認めざるを得なかった。
「なら、距離を!」
 一端離れようと後ろに飛ぶフリーダム。だが待ってましたとばかりに伸びた鞭が、フリーダムの左腕を絡め取った。
 流された電流に、キラと機体が悲鳴を上げる。
「うわあああああ!」
 激痛の中、キラは見た。目の前で剣を構える、グフの姿を。
 このままでは──
「死ねない……」
 僕はこの戦争を止めなければならない──
「死ねないんだ……」
 オーブを戦わせちゃいけない──
「僕は……!」

 

 ──生きて、ラクスの望みを叶えなければいけない!

 

 頭の中で、『種』が弾けた。高速回転する思考に、キラの身体は完璧に対応する。
 鞭を切り落とす。大剣を回避。そのまま敵の後方へ。手加減できる相手じゃない。確実に戦闘不能にしなければ。でも殺しちゃいけない。だから──
「……ごめん」
 止まったままに見えるグフの背中へ、短くキラは謝罪した。

 
 
 

 もらった──裂帛の気合で放たれた一撃は、何もない空を切った。
 ハイネが唖然とする中、激しい衝撃がコクピットを揺らす。息が止まり、呻き声も上げられない。
 負荷に計器が爆発。破片がいくつかパイロットスーツに刺さる。今度は苦悶の声が出た。
 ひび割れたモニターを見ると、海面が徐々に近づいて……いや、こちらが海に落下していくのが分かる。
 フライトユニットと両腕を壊され、そして腰を真横にぶった切られたのだと、ようやく気づく。
「へっ……ダッセェな」
 自嘲の笑みを浮かべながら、ハイネは意識を手放した。

 
 

「嘘……」
 ミネルバ上で警戒を続けていたルナは、それを視て愕然となった。

 

「くっ……!」
 カオスと戦いながら、横目にその光景を捉えたレイは唇を噛んだ。

 

「キラ、お前は……なんてことを!」
 ドラグーンを相手にしながらフリーダムに近寄る機会を伺っていたアスランは、表情を凍らせた。

 

「そんな……そんな!」
 迷いに囚われ満足に戦うことすら出来なかったシンは、目を見開いた。

 
 

 海へと落下していく、ボロボロになったグフの上半身に。

 
 

「あ、ああ……」
 ミーアもまた、それを見た。
 グフに手を伸ばすも、しかしその手は何も掴む事はできない。
 グフは、堕ちて行く。

 

「ハイネーーーーーーッッッ!」

 

 ミーアの叫びと同時に、海に一つ小さな水柱が上がった。

 
 
 
 
 

オリジナル機体設定4

 

リジェネレイト・サイクラノーシュ
ウェスパシアヌス主導で開発された、『ZGMF-X11A リジェネレイトガンダム』を素体としたMM。
組み込まれた術式は『エイボンの書』の鬼械神『サイクラノーシュ』。
ザフト製ガンダムであるリジェネレイトの名を関しているが、これは地球連合軍特殊情報部隊が入手したリジェネレイトのデータをウェスパシアヌスが極秘裏に解析、使用したためである。
なお本機には連合製試作MA『ペルグランデ』のデータも多分に流用されており、ドラグーン形状にその名残が見て取れる。

 

大型MAクラスの巨大な姿には数多くの武装と、他のMAより大型で高出力の魔力炉が搭載されている。
充実した通常兵器だけでなく、ウェスパシアヌスの極めた数多くの魔術を使用した戦いを得意とする。
最大の特徴は三匹の使い魔を融合させて操作する『ファミリア・ドラグーン』であり、各三門のビーム砲や呪詛の歌、使い魔に対象を『喰わせる』などの攻撃を全方位から行うことが出来る。
特にリジェネレイト・サイクラノーシュ本体との連携による儀式魔術は非常に強力。
また浮遊魔術の応用により、本来重力下で使用できないドラグーンを常時使用できるのも強みである。

 

弱点は飛行こそ出来るが動きはそこまで速いわけではなく、大きさと相まって回避能力が高くないこと。
そして他のMMと比べると一撃の決定力に欠けることである。
とはいえ前者は隠蔽魔術や転移魔術で補え、後者も総火力で比較すればそこまで劣っているわけではない。

 

全高 41.19m
本体重量 653.78t

 

武装
使い魔融合式ファミリア・ドラグーン「ガルバ」「オトー」「ウィテリウス」各1
140mmビーム砲×12(ドラグーン含)
大型ビームクロー×4
580mm高効率複列位相エネルギー砲「スキュラ改」×1

 
 
 
 
 

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