「……でしたら、こちらのシン・アスカさんは、こちらのなのはちゃんと、ヴィータ。それにそちらのアスランさんで当たるって事で」
「了解した。では、レイ・ザ・バレルの方は、キラと……」
「フェイトちゃんと、シグナムやな。そして私がフルバックに付いて全体の援護。
……メンバーの適正考えると、これがベストやと思います」
そうカガリと二人の捕獲作戦を詰めて、はやてはそう言った。
「データ見る限りやと、キラさんは中~遠距離戦がベストで、アスランさんは逆に近~中距離戦がベスト。
で、シンさんは近距離戦がベストやけど、やろうと思えば遠距離戦も可能。
レイさんはキラさんと同じぐらいの距離がベストやないかなーと思うとるんですけど……合ってます?」
「ああ、大体の所はな」
そう言ったアスランの言葉を受けて、はやては一つ大きく頷く。
そして、ゆっくりと話しはじめた。
「こちらが今出せる戦力は、完全に砲撃戦に特化してるなのはちゃんに、接近戦に特化してるシグナム。
後、アスランさんと似たタイプのフェイトちゃんとヴィータ。それに、広域攻撃型の私や。
私の魔法形式じゃ、前線に出ても足手纏いになるだけですし……。フルバックで援護に専念した方がええんやないかな、と」
そう言ったはやてに、キラはそう言えば、と呟く。
「八神さんって、魔法行使するためには詠唱が必要だったんだっけ……」
「その通りなんやけど……、どうして知っとるんですか?」
首を傾げるはやてに、キラは苦笑した。
「そちらのクロノ・ハラオウン提督から、事前に作戦に参加する可能性のある魔導師の資料が送られて来たんだよ」
「味方の戦力も調べずに、敵に戦いを挑むのは馬鹿のやることだ」
「……俺達はそこまで愚かじゃないさ」
キラが言った言葉に付け加えるようにカガリ、アスランの順で言われ、はやてとなのははごもっとも、と苦笑する。
と、残念そうにカガリが言った。
「……しかし……、あの結界術師が参加できないのは惜しいな……」
「そうだね。あの人の力、目の前で見てみたかったんだけど」
「かなり長いブランクがあるのは確かに気になるが……、あの結界出力ならば、防御は万全になると思っていたんだがな……」
ぶつぶつ三人で呟き続けるカガリ達を見ながら、なのはとはやては首を傾げた。
「……あのー……、それって、一体誰の事を言うとるんですか?」
そうはやてが聞くと、カガリは驚いたように言った。
「……ん? そちらでは有名ではないのか? 確か……ユーノ・スクライアと言ったか。
彼の腕が鈍っているので無ければ、あの結界術はかなり心強いんだが……」
「ユ、ユーノ君が!?」
カガリの言葉を聞くなり、いきなり微かに赤くなって飛び上がったなのはに、キラは怪訝そうな目を向けて、呟いた。
「ひょっとして……なのはさんってスクライアさんの恋人なんですか?」
「!!?」
キラがそう言った瞬間、なのはの顔が爆発した。
何も言えないまま、トマトも真っ青になるほど赤くなるなのはに、キラ、アスラン、カガリの三人は揃って言った。
「「「成る程、片想いなのか(なんだね)」」」
幼馴染同士と、血の繋がった「きょうだい」同士にしか出来ないであろうシンクロっぷりに、なのはは赤い顔をさらに赤くして。
はやてがそのシンクロっぷりに目を見張っていると、ドアが開き、長い金髪を後ろで一纏めにリボンで括った青年が顔を出した。
「はやて、追加の資料見つけたから……、……なのは? どうかしたの?」
「ゆ、ゆゆゆ、ゆーのくん!?」
「う、うん。そうだけど?」
何故か慌てふためくなのはに首を傾げるユーノ。
とんでもないタイミングで来たユーノに、なのはは真っ赤になって硬直し、
「きゅ~……」
「わっ!?」
オーバーヒートしてぶっ倒れ、ユーノは慌ててなのはを支えた。
「あらら……、ユーノくん、悪いんやけど、なのはちゃん医務室に連れて行ってくれんか?」
「あ、うん」
そう答えたユーノがなのはを横抱きにして部屋から出て行くと、
はやてはカガリ達に苦笑めいた笑みを送って、ユーノが持って来た追加資料に目を通す。
……そして、ある少女の写真に目を見張ると、その紙をカガリ達に見せた。
「この子に、心当たりありませんやろか?」
「ティアー!」
ある少女と話し込んでいたティアナにスバルが駆け寄ると、ティアナは振り向いて言った。
「ああ、ちょうど良かったわ。今度のBランク試験の話してたのよ。スバルも来なさい」
「あ、うん!」
スバルは二人の間に腰を下ろすと、少女の方に顔を向けて、言った。
「おはよっ、ステラ!」
目が覚めるような金色の髪は、肩の近くにまで広がって。
あどけない表情でいつもほやほやとしていて、同期の陸士仲間からも人気が高くて。
しかし、戦闘時には人が変わったような活躍を見せる。
その少女の名を、ステラ・ルーシェと言った。
「スバル……おはよう」
顔を綻ばせてそう言うステラに、スバルはほわーん、と表情を緩める。
と、ティアナが何の前触れも無くスバルの頬を抓り上げ、言った。
「さ! 浮かれてないで、作戦練り直すわよ。絶対一発で合格してやるんだから!」
「ひ、ひひゃいひひゃい! ふぃあ、ふぁふぁっふぁふぁふぁ!(い、いたいいたい! ティア、分かったから!)」
漫才を繰り広げるスバルとティアナを、ステラはきょとん、と見やる。
その視線に気付いたティアナは、慌てて身繕いをすると、言った。
「あ、あー……、その、ごめんね? ステラ。ほったらかしにしちゃって」
「ううん……、ステラ、スバルとティアナが仲いいの、好きだよ」
そう言ってほやほやと笑うステラに、スバルとティアナは二人とも罰の悪そうな顔になって、ひそひそと話し始める。
「ねえ……やっぱりステラって『そういう趣味』、あるのかな?」
「あるわけないでしょ。昔好きな人の言い合いみたいな事した時、あの子『シン、シン』って連呼してたじゃない」
そう言うと、ティアナは底意地の悪い笑みを浮かべる。
「確かその時よね……、スバルが初恋もまだなお子様だって判ったの」
「なっ、な、な……」
真っ赤になったスバルを、ティアナはからかい続ける。
結局、話し合いが始まる事は無かった。
「済まない……、結局ご馳走になった」
「あ、い、いえ! わ、私が、悪いんですから……」
「しかし……」
「……くっくっく……」
「シン……?」
レイの挙動一つ一つにいちいち真っ赤になるフェイトを見ながら、シンはくすくすと笑い続ける。
睨み付けてくるレイの視線を無視しつつ、シンは二人の会話を見物するだけの位置に自分を置く。
こんなに笑うのは久し振りだな、とシンが思っていると、フェイトがおもむろに口を開いた。
「あ、あの、レイさんはこれからどうするんですか?」
「どうする……か。とりあえず住む所を確保して、働き場所も見つけなくてはな……」
「働く場所……って、こちらで暮らされるんですか?」
「ああ、そのつもりだ。また何処かで会う事も……!」
その瞬間、急に言葉を切り、膝を突いたレイに、フェイトはきょとん、とする。
が、慌ててシンが駆け寄って、レイを抱き起こすと、ようやく事態の深刻さに気付いたフェイトは慌てた。
「だ、大丈夫ですか!?」
「おい、レイ!」
「あ……! うあ……!」
がくがくと苦痛に身を震わせるレイに、フェイトはおろおろと慌て、
ふと何かに気付いたように携帯電話を取り出すと、何処かに電話をかけた。
「シャマルさん! 今から急患を連れて行きます! 手当ての用意お願いします!」
『ち、ちょっと、急患って』
シャマルの返事も聞かずに電話を切ると、フェイトはシンに向かって叫んだ。
「知り合いの病院まで連れて行きます! 私の車に乗ってください!」
「あ、ああ、悪い!」
近くの駐車場に停めてあった車に乗り込むと、フェイトは最大速で車をぶっ飛ばした。
「……少し、なのはちゃんを見ていてくれる? フェイトちゃんが、急患連れてくるって言ってたから」
「あ、はい。判りました」
少し慌てたように部屋から出て行くシャマルを見送って、ユーノはなのはが眠るベッドの横に腰掛ける。
さらさらと髪を撫でて、素直に手にかかる感触を楽しんでいると、突然なのはが寝返りを打った。
「……ふにゃ……」
「……」
幸せそうな寝顔を浮かべるなのはに、ユーノはまるで蜜を目の前にした蜜蜂のように、なのはに顔を近付け……、
瞳を閉じ、なのはの唇に、自身の唇を重ねた。
「っ!」
その瞬間、我に返ったユーノは目を開け……、
呆然と目を開けているなのはと目が合った。
「う、うわあああ!!」
「に、にゃにゃにゃにゃにゃーっ!!」
慌てて二人は飛び離れ、何故か背中を向け合って互いに正座する。
「そ、その……ご、ごめん!」
真っ赤になってユーノがそう言うと、なのはも負けず劣らず真っ赤になりながら、言った。
「責任……とってね。私……はじめて……だったんだから……」
「え、あ……」
真っ赤から一転して真っ青になるユーノ。
そんなユーノに、なのはは少し膨れっ面をして、言った。
「今度のお休みの時、一緒にお買い物行く事!」
「……は?」
ユーノは、呆然とした。
はやて達が話し合いを続けていると、突然シャマルからはやてに通信が入る。
「ちょっと、すいません……」
そう言ってはやてが部屋の隅の方へ行くと、カガリ達三人は、顔を寄せ合う。
「……さっきの写真、どう思う?」
「……どう思うって言われても……、あの子って、本当にデストロイの子なの?」
「それは間違い無い」
そう自信を持ってアスランが断言すると、キラとカガリは怪訝そうな表情を浮かべる。
そんな二人に、アスランは少し笑って、答えた。
「あの子は、一時ミネルバの捕虜になっていた事があるんだ。
……その子がデストロイに乗っていたと、シンから聞いた。
……まあ、その前にディオキアでも会っていたんだがな」
「そう……、……そう言えば、シン君って、いつステラさんの事を好きになったのかな?」
「……一目惚れでもしたんじゃないか?」
ミネルバの中にいた事があるんなら、会う機会もあるだろうし、と言うカガリに、アスランは首を振った。
「ディオキアでも会っていると言っただろう? その時、シンも一緒にいたんだ。
その時に、『会いに行く』と叫んだからな。惚れたのならあの時だろう」
冷静に分析するアスランに、キラとカガリは思わず苦笑し……、
その時響いたはやての叫び声が、全てを圧した。
「何やて!?
……分かったわ。そこになのはちゃんとユーノくんがまだおるやろ? あの二人にバインド掛けさせて。
私もすぐに向かうわ」
そう言ってはやては通信を切り、慌ててカガリ達三人の方へ向き直った。
「……どうか……、なさいましたか?」
そうキラが聞くと、はやては慌てふためいたまま答える。
「今、フェイトちゃんが急患連れてきたってシャマル……、医務室の人から連絡があったんです」
「……それが?」
心底不思議そうなカガリの言葉に、はやては呼吸を落ち付かせ、答えた。
「……運ばれてきた急患の名前がレイで、フェイトちゃんと一緒に付き添ってきた人の名前がシンって言うらしいんです」
その言葉に、三人は椅子から立ち上がった。