DS_第03話

Last-modified: 2007-11-18 (日) 15:56:51

「……もう、大丈夫よ、落ち着いたわ」

そうシャマルが言うと、シンとフェイトはほっと胸を撫で下ろした。

「……良かった……、ありがとう、な、フェイトさん」
「……いえ……」

そう答えるフェイトに、シンは苦笑した。
一応受け答えはしているものの、フェイトの視線は、ベッドの上で眠るレイに釘付けだったから。
何故か治療が終わるなり部屋に引っ込んだシャマルが気にはなっていたが、
どうやらフェイトの職場のようだし、別に心配はいらないだろうと思っていると、

「……ストラグル……バインド!」
「―――っ!?」

その声とともに飛んで来た鎖が、あっという間にシンとレイをぐるぐる巻きに縛り付けた。
さすがにレイも飛び起きるが、身動きが取れずにもがくだけ。

「ユ、ユーノ!? 何やってるの!?」

思わずフェイトが上げた悲鳴に、シンは目を剥いた。

「お、おい! 知り合いならそいつ止めてくれ! 俺達はこの世界で犯罪とかは何も……!」
「……いや、そうじゃない。『この世界』の罪じゃないんだ」

……シンの叫びに答えた声に、シンは硬直した。
それは、この世で一番聞きたくない、裏切り者の声だったから。

「アス……ラアアアアアン!!!」
「なっ!?」

力づくでストラグルバインドを引き千切ったシンに、ユーノは驚愕の声を上げる。
そのままシンはアスランに飛び掛って行って、

「「レ、レストリクトロック!」」

なのはとはやてが同時に放ったレストリクトロックで、シンは空中に留められた。

「何で……何でルナを……みんなを殺したアンタがぁっ!」

叫び続けるシンに、呆れたような声と共に、二つの影が姿を現した。

「お前達が逃げ出すから、追い掛けて来たんだ!」
「そうだよ。……君達は、自分がどれだけの存在なのか、理解していない。
「アスハ……、キラ・ヤマト……っ!」

もう一度怒りを再燃させようとするシンだったが、そんなシンにレイが叫んだ。

「シン! 熱くなるな! ……今熱くなっては、何も変わらん」
「レイ……、……分かった」

深呼吸を一つして、昂ぶった気持ちを鎮めると、シンは話しはじめた。

「俺は……アンタらの下で働くつもりは無い。
 ラクス・クラインをトップにするのが世界の意思なら、好きにすればいい。
 ……でもな、俺は、そんな世界にはいたくは無いんだ!」
「……俺もシンと同じです。
 元々俺はメサイアでギルと共に死ぬつもりだった。……だが、俺は生き残った。生き残って、しまった。
 奇跡だ奇跡だとあなた達は言うが、俺にとってそれは最悪の運命だったんだ。
 ……俺は、もうCEには何の未練も無い」

シンは炎のように、レイは氷のように、自分の紛れも無い本心を吐露し、カガリ達CE組は顔を見合わせる。
と、はやてがにっこりと笑って、口を開いた。

「……よう判ったわ。……そちらさえ良ければ、私達はあなた達を亡命者として受け入れます」
「……は?」
「お、おい!?」

唖然とするシンに、慌てたように聞き返すカガリ。
そんな二人に、はやては答えた。

「カガリ首長がおっしゃっとったんや。
 『シンとレイを罰するつもりは無い。……殺す気も無いし、一部では英雄扱いされている者を殺す訳にも行かない』
 てな。せやけどシンくんはもうCEには戻りたくないんやろ?」

そう聞かれ、シンはぶっきらぼうに答える。

「さっき戻りたくないって言いましたよね……?」
「あはは、確かにそうやな。……それでも脱走はいかんよ。
 けど、それだけなら十分亡命者として処理可能やしな。
 ……まあ、その場合はデバイスに非殺傷設定掛けさせてもらうけどな」

そう言ったはやて。
シンとレイは顔を見合わせたが、その答えは決まっていた。

……そして、一週間後。

「……そしたら、承諾してもらえるんやな?」
「ええ。どうせ、俺は戦う事しか出来ませんし」
「俺もです。……もう少し長く生きられるのだから、俺はその人生を活かしたい」

そう言ったシンとレイ、……特にレイの言葉に、はやては微笑んだ。

「……そうやな。活かさな、あかんな」

担ぎ込まれてきた時のシャマルの検査で、レイのテロメアが極端に短い事が、カガリ達に聞かされる前から判っていて。
レイがもはや余命幾許も無い事を知らされ、錯乱したフェイトとは逆に、冷静だったのはユーノ。
僅か30分で約2年半程前にちらっと見ただけという魔導書を無限書庫から掘り出して。
レイに提示されたのは、人道的な意味で禁呪処分となった延命魔法。
起動するのもとても簡単で、消費魔力も普通の武装局員レベルで見て『ほんの僅か』で。
しかし、効果がただテロメアの消費を遅らせる『だけ』の魔法では、医療用への転用も出来ず、禁呪とされた魔法。
だが、そんな魔法でも一応は禁呪なので、レイ・ザ・バレルへの使用申請には反対の声も出たが、
レイ・ザ・バレルの現在の状況が功を奏したか、上層部も渋々許可した。
ただし、

魔法の執行は、すでに不老であるヴォルケンリッターが執行する事
その場合、決して魔法の起動方法がヴォルケンリッター以外に漏洩しないようにする事

この2点が条件として出され、ヴォルケンリッターの中では一番こういう魔法に慣れているシャマルが魔法を起動させる。
……そして、魔法は成功した。

「……どうにか、人並みの時間を貰えたんだ。その分の恩は、返すさ」

そうレイが言うと、はやては苦笑して、シンに囁きかけた。

「レイくんって、意外に仁義とか好きなタイプなんか?」
「……さあ。……でも、普通命の恩人に恩返ししたくないって考える奴なんか、いないと思いますけど」
「まあ、そうやな」

そう苦笑しながら言うと、はやては真剣な表情になって、シンとレイに言った。

「参加してくれるって言うんなら、シンくんはスターズ小隊、レイくんはライトニング小隊に配属しておくわ」
「……どうしてですか?」

そうレイが聞くと、はやては微笑みながら答えた。

「戦力バランスを見て、やな。
 スターズはなのはちゃんが砲撃特化型やし、新人のうち一人も射撃型や。
 ……やけど、ライトニングは近接3人に、補助型一人やさかい……」
「……バランスを取って、と言う事ですか」

そうレイが言うと、はやては頷いた。

「そうやな。カガリ代表から貰った資料見る限りやと、シンくんは砲撃戦も出来るけど本質は接近戦したがりやさかいな。
 射撃を中心に組み立ててたレイくんの方がええかな、と思ってな」
「そう言う事ですか……」

そう言ったレイに、はやては続ける。

「それでな。同じ小隊の人達に顔見せしないといかんやん?
 そやさかい、レイくんは、ライトニングの新メンバーが駅に来るさかい、シグナムと一緒に迎えに行って欲しいんよ。
 シグナムに玄関で待ってるように言うとったさかい、すぐに行ってくれんか?」
「了解しました」

敬礼をして、部屋から出て行ったレイ。
それを見送って、はやては首を傾げた。

「……何やのん? あの敬礼……」
「……レイの奴……ザフト式の敬礼のクセ、まだ抜けてないし……」

多分俺もしばらくはあの敬礼すると思います、とシンが言うと、はやては苦笑した。

「そっか……、ま、クセやし、ゆっくり直して行けばええよ」

そう言ったはやてに、待機するのも暇になったシンは聞いた。

「……俺は、どうするんですか?」
「スターズの子達と初顔合わせしとかんといかんからな。
 今からその子達のBランク試験があるんよ。シンくんも来てくれんか?」
「判りましたよ」
「ほな、行こか!」

そう行って立ち上がり、歩き出したはやてを、シンは追いかけた。
……しかし、シンは歩きながら呟かれた、はやての言葉には気付かなかった。

「……さて、感動の再会や!」