DS_第05話

Last-modified: 2007-11-18 (日) 15:57:47

「……」
「……」

駅から機動六課の官舎に戻る車の中、
沈黙に包まれる車内の空気に、エリオとキャロは居心地が悪そうに身動ぎする。
前を向けば、運転しているシグナムと、助手席に座っているレイ。と、レイが口を開いた。

「……すまんな」
「え!?」
「元々そんなに喋りが得意な訳じゃないからな……、出来ればそっちが会話を振ってくれるとありがたい」

そう言ったレイに、キャロが口を開いた。

「あの……バレルさん」
「レイでいい」
「は、はい! ……その……、レイさんのご家族ってどんな人達でいらっしゃるんですか?」

天然の仕業か、一つ目の質問で盛大に地雷を踏んだキャロに、レイは一瞬硬直した。
気を取りなおすように深呼吸して、レイは答える。

「……今は……いないな」
「……ご、ごめんなさい!」

細かなニュアンスで察してくれたキャロに、レイはほっと息を吐いて、
……シグナムが口を開き、レイは運転席に視線を向けた。

「そう言えば……、バレルはテスタロッサと仲がいいのか?」
「……それなりには」
「「ええ!?」」

シグナムの言葉に冷静に答えたレイだが、冷静ではいられなかったのはエリオとキャロの二人で。
突然大声を上げた二人に驚き、シグナムは思わずハンドル操作を誤り、慌てて車体を立て直す。

「うわっ!?」
「きゃっ!?」

その瞬間、エリオとキャロの悲鳴が聞こえ、シグナムは慌てて車を路肩に寄せた。

「大丈夫か!? モンディアル、ルシ……エ……」
「……何をやっている?」

顔を寄せ合うようにして後部座席を覗き込んだレイとシグナムの視界に、それは映った。

自分の方向に倒れ込んできたキャロに押し倒され、車のドアに頭をぶつけて涙目になっているエリオと、
そのエリオの服を握り締めて、エリオの胸に顔を埋めている状態になっているキャロ。
と、レイの声に気付いて、エリオは我に返り、慌ててキャロをどかそうとする。
しかし、キャロにしっかりと服を握られていてはどかせられる訳も無く。

「ル、ルシエさーん?」
「……♪」

エリオの胸板に頬を摺り寄せて、キャロは幸せそうに表情を緩める。
しかし、エリオからは見えずに、エリオがただただ真っ赤になってあわあわと慌てていると。

「!? ひゃうう! ご、ごめんなさい!」
「あ、あはは……」

我に返ったキャロが悲鳴を上げて後退りし、エリオは引き攣った笑みを浮かべる。
そのまま真っ赤になって俯いた二人を見て、レイとシグナムは揃って溜息を吐いた。

「……大丈夫のようだな」
「……ああ……」

盛んに溜息を吐くシグナムに、レイは首を傾げ、車がまた動き出したのを機に、レイはシグナムにその事を聞いた。

「……その溜息は、一体何だ?」
「いや……、高町とスクライアがもう一組出来たと思ってな……」

そう言ってもう一度溜息を吐くシグナムに、レイは目を剥いた。

「……待て、あの二人はさっきのキャロとエリオのような事が日常茶飯事なのか?」
「ああ。私が見た限りだが、高町がスクライアと会った時はほぼ毎回高町がこけてスクライアが受け止めているな」
「ほぼ毎回……、それはわざとと言わないか?」
「……わざとと言うよりも無意識だろうな。
 あの二人が両想いなのは当事者以外は全員気付いていると言うのに……」

時折斬りたくなってくる鈍さだからな、あの二人は、とぼやくシグナムに、レイは呆れる。

―――どうにも恋愛に器用そうにも鋭そうにも見えないシグナムが言うくらいなのだから、よほど鈍いのだろうな。

そうレイは思い、シグナムに向かって口を開いた。

「……それは、今まで自覚が芽生えなかった事に感謝するべきじゃないのか?
 無自覚でそこまでべったりなら……、自覚が出来たら、凄いぞ」

そう言われ、咄嗟に想像してしまったシグナムはげんなりとした。

宿舎に着き、シグナムが先に立ってエリオとキャロを案内するのにレイは付いて行き、
……急に硬直したシグナムにぶつかってバランスを崩したエリオとキャロを慌てて受け止めた。

「どうした? 一体何が……」

そう言うとレイはシグナムの肩越しに中を覗き込み……、そして、『それ』を見た。

「ちょ、ステラ! 当たってるって!」
「シン……♪」

わたわたと慌てふためくシンと、そのシンを力一杯抱き締めてとろけた表情を浮かべるステラ。
それを見ながら、はやてとフェイトが二人がかりでなのはをからかっていて。

「ユーノくんの話しとる時のなのはちゃんみたいな顔しとるな、ステラちゃん」
「わ、わわ、私あんな顔……」
「してるよ? ずっと」
「……あう……」

二人がかりでからかわれ、なのはは真っ赤になる。
と、シグナムの肩がぷるぷると震えている事に気付き、レイは賢明にもエリオとキャロを引っ張ってシグナムから離れる。
しかし、他の五人はシグナム達四人が帰って来た事にも気付かずに甘い空気を撒き散らして、
……シグナムから、何かが切れる音がした。

「貴様らそこになおれぇ!」

ぶち切れたシグナムが五人を説教しているのを見ながら、レイは何食わぬ顔でエリオとキャロの案内を続ける。
と、エリオがすこしおどおどとしながら言った。

「あの……止めなくていいんですか? レイさん」
「構わないさ。……エリオは、どうしても外せない用があるからと代打を押し付けられた相手が、
 帰って来て見たら雑談中だったらどう思う?」
「……えーっと……、多分怒るかと……」
「そう言う事だ」

そう言ってすたすたと歩いていくレイを、エリオとキャロは慌てて追い掛けた。

……それから、一週間後。

「7人とも良く走りますねー……」

なのはが見ていたウインドウを覗き込みながらシャーリーが言うと、なのはは笑って答える。

「にゃはは、そうだね。……そっちはどう?」
「大丈夫、データはばっちりです! 良い子、作ってみせますよー!」

一人で盛り上がり、力瘤を作るシャーリーに、その後ろから突っ込みが入る。

「……変な物は作るなよ?」
「あ、ヴィータちゃんひどい! いつ私が変な物作ったんですか!」

ヴィータの突っ込みにシャーリーは抗議するが、すぐにヴィータが怒鳴り返す。

「あたしのアイゼンをドリル型にしようとしたのは何処のどいつだよ!」
「ドリルはロマンなんです!」
「んな訳分かんねえロマンで改造されたらたまったもんじゃねーよ!」

たちまちヒートアップするヴィータとシャーリー。
そこに、なのはがのんびりと呟いた。

「二人とも、喧嘩は止めて欲しいな。……『お話』する事になっちゃうし」
「「……」」

微妙に黒いオーラを撒き散らすなのはに、シャーリーとヴィータは硬直する。
と、ヴィータが慌てて話し始めた。

「な、なあ、なのは!? 何で私を呼んだんだ!?」

そう聞かれて、なのははにっこり笑うと、答えた。

「シン君とレイ君と、私とヴィータちゃんで模擬戦やりたいな、って思って」
「模擬戦……ね。確かあいつらってこず……こずみ……、あーもう! 兎に角向こうの世界じゃエースなんだろ!? あたしは構わねーぜ」
「本当? ……良かった、限定解除はしてもらってるんだけど、1対2じゃ勝てる自信が無かったから」

そう言ってにゃはは、と笑うなのはに、ヴィータは溜息を吐いた。

「バトルジャンキーの親友はやっぱりバトルジャンキー、か」