EDGE_EDITION2後編

Last-modified: 2010-09-18 (土) 19:54:35

暗闇の廊下を一人歩く、アスラン。
苦い表情をして片腕をさすっていた。

 

「あいつ、今日の模擬戦で絶対に仕返ししてやる……」

 

復讐を胸に誓い、さすられていた方の腕を再度そでを捲って確認する。
痛々しい赤く腫れた歯形が腕の数箇所に何個も跡つけていた。
――本気で噛んだな…。
夢の中で食べていたチキンは骨まで食べていたのではなかろうか。食い千切られるかと思いました。
一回噛むごとに必死で悲鳴を堪えれたのは軍人やってたおかげかもしれない。

 

それはそうと、次の一人でいよいよこのプレゼント配りは終了だ。
最後の関門は機動六課のエース、高町なのはの養女――「ヴィヴィオ」である。
“色々”とあったことは事実だが今はもう、普通の子供として日々を過ごしているので
子供は子供としてこれから始まるたくさんの出来事を楽しんで欲しい。これは誰もが望んでいること。
だから彼女を喜ばせるイベントに自分も参加できることは年上としていいことだと思う。
――果たして、何をお願いしたのかな?
子供にプレゼントを置く、大人の気持ちが今なら実感できるアスランであった。

 

――ここで時間はちょっと遡る。

 

【なのは&フェイト&ヴィヴィオの部屋】

 

時間もすでに遅かったので寝巻きに着替え、寝る準備に入る3人。
ヴィヴィオはベットの上でプレゼントを書く紙を見ながら小さく微笑んでいた。
やけに嬉しそうなその様子を見た、なのはは気になったので尋ねてみた。

 

「何を頼んだのかな? ヴィヴィオ」
「ん~~、ないしょ~~♪」

 

えへへと笑いながら紙を後ろに隠すヴィヴィオ。
嬉しいけど内緒にするほど隠したいものってなんだろうと、なのはは思った。
でもそれはそれで、こっちも楽しみ概はある。
自分も子供のときはこうやってわくわくしていたものだ。

 

気になっている母を見て、どうしようと思ったヴィヴィオは
少しだけヒントを与えることにした。

 

「えっとね、ママもきっと喜ぶよ」
「私が?」
「うん♪」

 

自分も喜ぶ物とはどういう物だとフェイトと顔を見合わせるが
なんだろうね、という感じでしか返ってこなかった。
でも娘が自分のことも気をつかっていると思うと母性が擽られる。

 

「そっか、ありがとね。ヴィヴィオ」

 

頭を撫でて褒めると嬉しそうにヴィヴィオは目を細めた。

 

「じゃあ、楽しみは明日にとっといて今日はもう寝ようね」
「はーい」
〈ヨイコハネンネ、ヨイコハネンネ〉
「ハロ、おいで~」

 

跳ねているハロをキャッチして自分の胸元に抱きしめるヴィヴィオ。
なのはもフェイトもそれを確認し、彼女のとなりに横になる。

 

「おやすみ。なのはママ、フェイトママ」
「「おやすみヴィヴィオ」」
〈オヤスミナー〉

 

就寝の挨拶をすると電気が消える。
ヴィヴィオは明日の朝に早くならないかな、と願いながら深い眠りにはいった。

 

――そんな少女の願いを叶えるために時間は戻る。

 

隊長達の部屋の前についたアスランは約束どおりヴァイスを待っていた。
やがて二つの黒い影が廊下の向こうから近づいてきた。

 

「おう、ごくろうさん」
「ああ…」

 

気軽な様子からみると特に何もなかったようだ。
逆になにか嬉しそうだし。

 

「どうだった? そっちは」
「問題なしだぜ。…でも、ちょっとオマケをしといた」
「おまけ?」
「そう。オマケ♪」

 

くくっと笑うヴァイスを見て、次にザフィーラを見るが
トナカイ狼は深いため息をついていた。

 

「餓鬼の悪戯だ……」
「あっそう…」

 

とんでもないことをしたと思ったが咎める程ではないらしい。
――それぐらいなら別にいいか。自分が疑われたとしても全部ヴァイスの所為にすればいいし。
その自信は一体どこからくるのか。でもきっとヴァイスに的がいくだろう。

 

「比較的にプレゼントも楽でよかったしな」
「……それはよかった」

 

楽しげにいう彼のその言葉がすごい皮肉に聞こえたアスラン。
キャロの大人びた理想。ティアナの哀しい現実。スバルの噛み付く攻撃。
――こっちは精神的にも肉体的にもダメージくらったというのに。

 

「さあ、最後にばしっと締めくくろうぜ!」
「そうだな…」

 

明るく張り切る彼を見てアスランは思った。
――リーダーの意味って、あんまりなかったような気がする。

 

扉をあけて中に入ると、外とはちがう女性特有の香りが鼻を通り脳を刺激する。
――本格的に危ない。
誰もがそう思ったが…一人だけは異様に鼻息荒く、興奮していた。

 

「ハアハア、大人のかほり……たまんねぇぜちくしょう…」

 

最初の決意はどこへいったのやら、もう完全に変質者なヴァイス。
アスランとザフィーラは怒気を含めてこう言った。

 

「「それ以上何か言ったら放りだすぞ…」」
「りょ、りょうかい…」

 

戦士の覇気と獣の野生が彼を黙らせた。
変体野郎は置いといてアスランは3人が寝ているであろう大きめなベットに近づく。
そこには平和的な家族のような光景があった。

 

大人の女性としての容姿はすでに完璧だが、顔はどこか童女のような幼さを残したなのは。
ストレートに降ろした髪はティアナと同じで違う女性と間違えるかもしれない。
昼間に見るしっかりとした教導官の顔は今はなく、子供のような寝顔をしている。
胸には母の温もりに触れ、安心しきったように眠るヴィヴィオの姿があった。
お互いに抱き合って寝ているその様子は正に母と子と言えよう。
そして、それを見守るかのように向き合って寝ているのがフェイト。
艶やかな金髪のロングが暗闇の中でもはっきり見えて
仕事をしている時などはいつも凛として、クールな表情が今は母性を思わせる柔らかな表情をしている。
エリオやキャロと話すときなどによく見る表情ではあるが、彼女はそれの方が似合ってると思う。
――だが、何より目を引くのが…

 

「うぉ…あ、う! ふぇ…ふぇ、フェイトさんの寝巻きすが………ごふうううううッ!!」

 

後ろで顔を覗かせたヴァイスが、寝ている3人(主にフェイト)を見た瞬間、興奮して鼻を押さえていた。
今の彼は体中の血流がフル稼働していることだろう。
まあ、健全な男子の誰もが見たってそうなるかもしれない。
なのはは彼女らしいピンクのパジャマを着ている。それは可愛らしいの一言で済む。
だが問題はこっち――フェイトのほうだ。
冬だというのに黒のキャミソールを着ています。
肩は大きく露出し、「ミサイル積んでんじゃない?」がお決まりの彼女の胸――その谷間がちらちらと見えて
すげぇ色っぽい。
――こんなの見たら男はどうなる? きっと答えは「たまんねぇじゃん!!」に決まってます。

 

(なんて格好で……)

 

顔を少し赤らめアスランは感想を思った。
この人達は誰がプレゼントを配るのかを知っていなかったにせよ、誰かが着てもいいように
しっかりとした格好でいてほしかったものだ。大人の女性なのだから。
多分、あのノリではやてが来ると予想したのだろう。
だとしたらここで男の自分達が見つかったら「キャーーーへんたーい!!」がお決まりのパターンに一直線だ。
――いや、それだけで済むだろうか? この人達は鬼も恐れる隊長だぞ。きっとそれ以上の苦しみが……
もしかしたら、全員に知れ渡って「女の敵は撲滅」なんてフルボッコ的なものに発展するかもしれない。

 

(やばい…)

 

恥ずかしい感想から一気に絶望的な未来を予想し、顔が青くなるアスラン。
――ここは桃源郷じゃない。虎の穴だ!!
浮かれていた自分が馬鹿に思えてきた。さっさと仕事を済まして自分の部屋で安寧の眠りにつこう。

 

「ヴァイス、さっさとプレゼントを置いてここを出るぞ…」
「なんだよ? いいじゃねーか、もっと堪能しようぜ♪」
「……死にたいのなら、俺はとめないが?…」
「は?」

 

膠着し、2人の視線が交差する。男同士でしかわからないテレパシーが行われているのだ。
――傍から見たら気持ち悪いけどね。
そして自分の過ちにやっと気付くヴァイス。
ザフィーラはもうわかっているようだ。

 

「そ、そうだな。……頭冷やされたくねえしな…」
「うぬ」

 

合点承知で3人は頷く。代表でアスランが枕元(中央)に置かれた紙を苦労して取る。
なのはに触れそうで危なかった。
文字は裏側に書いてあるみたいだが、まだ見ずに予想をたてる。

 

「子供だから大したもんじゃないだろ」
「ああ、たぶんな」

 

たぶんとは恐らくキャロのことがあったから。
しかし、ヴィヴィオは5歳。幼稚園児にあたる子である。あのような大人びた考えはしていない。
純粋無垢で好奇心旺盛などこにでもいる普通の子供だ。きっと願いも単純だろう。

 

「ウサギのぬいぐるみとかじゃね? やっぱり」
「そのほうが可愛らしくていい。それにほら、部隊長もしっかり予想してる」

 

アスランの袋の中身を見ると、大きめな白いウサギのぬいぐるみが入っていた。
皆が頼むプレゼントをここまで当てたのだ。これも正解してるに違いない。

 

「よし、はやく終わらせて帰ろう」
「おお!」

 

そう意気込んで紙を裏返す。表面にデカデカとクレヨンで書かれた文字。

 

ヴィヴィオの欲しいもの
――『パパ』

 

「「「………………」」」

 

――沈黙。―――ひたすら沈黙。
やがてヴァイスがアスランから離れ窓に近づく。そして見上げる。
――アァ、キョウハナンテキレイナホシゾラダ。ホラ、マルデホウセキバコノヨウダヨ。
涼やかな瞳を夜空にむけて感想を思った。

 

「現実逃避するな!」

 

我に返ったアスランが肩をつかむ。
焦点があってないヴァイスはケタケタと笑う。

 

「コンナノムリダヨー。ダディー? ナニサソレ? オイシイノ?」
「俺だって泣きたいんだっ! 頼むから助けてくれ!!」

 

そして2人とも冷静に――

 

「無理に決まってんだろ!! こんなん、おもいっっきり『人』じゃねーか!」
「だからってなしと言うわけにもいかないだろう…!」

 

ならなかった。

 

「じゃあどうすりゃいいんだよ!? 今からクラナガン行って
 そこらへんにいる路上生活者捕まえて、パパに仕立て上げろってか!」
「それこそダメだ!!」

 

そんなことすればヴィヴィオのトラウマに成りかねない。
朝起きたら知らない変なおじさんがいて……「そうです。わたすが変なお―」ってことですよ?
絶対にいやだよ! 怖いよ!

 

「そうだな…。これ(ウサギ)を代わりにすれば―」
「他の人はみんな欲しいもの持ってるのにか?」
「うっ…」

 

アスランが案をだすがそれは逆にヴィヴィオを悲しませるかもしれない。
他の人は全員、欲しいもの貰っているのに一人だけ違う。――確かに哀しい。
ではどうすればいいんだ、と必死に考える3人。
そこでザフィーラが思いつく。

 

「思ったのだが…“この中の誰か”がパパになればいいのではないか?」
「「あっ!!」」

 

なるほど、と手を打つ2人。自分達がプレゼントに――。

 

「「いやだっ!!」」

 

パパになる=ママとセット。それはつまり高町なのはの愛人になるということ。
それは色々と問題がありすぎる。

 

「いやだって、他に方法があるのか?」
「「……ない」」
「じゃあやるしかないだろう? それにだ。ヴィヴィオには“パパの代わり”と言っておけばいい」
「どういうことっすか?」
「最初の高町と同じようにやればいいということだ」

 

おお、と2人は納得する。
つまりは本当のパパが見つかるまでの代わりとして過ごせばいいだけのこと。
見つかるその時までは“頼れる男の人”としてヴィヴィオの愛情受けをやればいいのだ。
――でも、ちょっとした不安がある。

 

「もし、見つからなかったら?」
「その時は……その時だ…」
「「えぇ…」」
「大丈夫だ。あいつなら…多分…」

 

3人は後ろを向き、寝ているなのはを見る。
一言でいうなら美人だ。文句なし。だから恐らくは……大丈夫だろう。
――売れ残り……。
なんて嫌な響きが頭を過ぎる。――いやいや大丈夫だ! 絶対に!
もうそれでいくしかないんだ!!

 

「わかった。そうしよう…」
「仕方ないな…」
「うぬ」

 

案は決まった。だが問題は――

 

「「「誰がやるんだ?」」」

 

ということ。

 

「俺は無理だな、妹がいるし。2人もかまってられん」

とヴァイス。せっかく2人の時間を取り戻せたんだ。これからが大切な時期。

 

「私は既にヴィヴィオの子守役だ。それにこの体ではパパとはいえん」

 

とザフィーラ。本当は人型になれるのにね。
そうすると必然的に―

 

「「お前に決定だな。アスラン(ザラ)」」
「はあ!?」

 

俺の言い分は?と問いかけたいがもともと独り身なので良い言い訳が思いつかない。
だが自分にもプライバシーがあるのだ。そう簡単に―

 

「決定事項だ。諦めろアスラン」
「そのとおりだ」

 

ダメだった。完璧無視を貫き通しなぜかじりじりと迫ってくる男と狼。
ヴァイスの手にはいつの間にか縄があった。そして憎たらしい笑顔。

 

「ちょっとまてぇ! 何する気だ!?」
「そりゃあねえ…」
「お前は“プレゼント”だからな…」

 

――まさか、こいつら…。
と思った瞬間、2人は飛び掛ってきた。

 

「ちょっ!! やめ……ぷぎゅる!」

 

どったんばったんとしているのにも関わらず、女性3人はまったく気がつかなかった。

 

【隊員寮―それぞれの部屋】

 

日が昇り寒さが身にしみる中、赤い髪の少年エリオは目を覚ました。

 

「ふあぁ。よく寝た…」

 

ぽりぽりと頭をかき、意識を徐々に覚醒させる。
さて着替えようかなと動いたら、変な感触が手にあたった。
なんだろうと見てみれば、枕元に赤色の紙でラッピングされたなにかが置いてある。

 

「これって…」

 

昨日の記憶を思い出し、目が一気に覚める。

 

「プレゼント……」

 

自分は確か決まらなくて『なんでもいいです』と曖昧に書いたんだった。
いいかげんだったからこんなのではプレゼントはないな、と予想してたが
そんなのでもちゃんと今、目の前にはプレゼントが置いてある。
中身は何かはわからないが、とにかく嬉しいと感じるエリオであった。
さっそく中を取り出してみる。
紙をあけて出てきたのは何やら畳まれた白い布。一部分がピンク色に染まっていた。
ドキドキしながらその布を広げてみた。――するとそこには

 

「ぶっ!! こここ、これって…」

 

毎日良く見る顔、同じフォワードのメンバー。
自分が密かに好意をよせる少女。
――そう、キャロ・ル・ルシエがいた!
いや、よく見るとそれはいたというよりも描かれているといったほうが正しい。
エリオのプレゼント。それはつまり『キャロの等身大枕カバー』であったのだ!!(しかも水着バージョン)
部隊長、一体どこで撮ったんだろうね。

 

「へぶぁああああああああああああ!!」

 

そして大量の鼻血を出し、悶えるエリオ。だがその手にはしっかりとカバーが握られている。
きっとこのカバーは将来彼女と付き合うまで彼の宝物になることだろう。よかったね。

 

――キャロの場合。

 

エリオが悶々している頃、キャロも目を覚ましていた。
しかし、どうも冴えない目をしている。

 

「なんか変な夢みた…」

 

何十匹ものフリードが空を飛び回り、ヴォルテールや地雷王、白天王までもが登場し
皆で仲良く手をつないで草原を歩いていた。
そして自分は赤い服を着た人と一緒にスキップでその集団についていったのだ。

 

「あの人、アスランさんに似てたような…」

 

顔がぼやけていてどうも思い出せないが、まいっかと気にしないようにした。
やがて気付くラッピングされた箱。それがプレゼントと分かるとキャロは自分が何を頼んだのか思い出す。
すこし無茶な注文だった気がしたけど、あるってことは叶ったということなのかもしれない。
わくわくしながらラッピングを解き、箱を開ける。――そこにはもう一つの箱があった。
しかし正式にいうとちょっと違う。――それは思い出が詰まった箱。

 

「わぁ、オルゴールだ…」

 

箱を開けると心を穏やかにさせる優しいメロディーが奏でられる。
どこかで聞いた懐かしい曲。いつか思い出せそうだ。
そしてフタの裏側には写真が張ってあった。機動六課のメンバーで撮影した皆の写真だ。
キャロには全員が笑顔でこっちを見ているように思えた。
――家族…そうだ。皆はちゃんとこうして繋がっている。離れても一人ぼっちじゃない。
彼女の心に絶対的な信頼が生まれ、やがて安堵する。――もう大丈夫だと。
キャロは安心するとしばらくその音色を聞いていた。

 

――スバル&ティアナの場合。

 

その部屋では一人が踊り、一人が難しい表情をしていた。

 

「やったやったー♪ アイス食べほーだいだーー!」

 

ルンルン気分ではしゃぎまわるスバル。
彼女のプレゼントは『ミットチルダの全アイス店・一ヶ月間フリーパス券』である。
単純な願いだがよくよく考えればちょっと怖い。
無料=どんだけ食べてもOK=アイスは超好きなスバル→加えて暴食=廃業?。
てことになってしまうのでは。そうなると結構悲惨だ。がんばれアイス屋さん!

 

「いい“夢”も見たし、まさに言うことなしだよ~♪」

 

夢の中で幸せな気分を味わったかもしれないが現実に味わったのはアスランの腕だ。
しかしそんなことまったく関係ないみたいにスバルは目を煌かせて券を眺めた。
その嬉しそうなスバルとは逆にベットの上で胡坐をかき、プレゼントを仏頂面で見つめる少女―ティアナ。

 

(冗談だったんだけどなぁ……)

 

結局欲しいものはなかったので悪ふざけ90%、期待10%で思いついたのがあれだった。
だがまさかこのような結果で返ってくるとは思わなかった。
彼女の見つめる先には一冊の本。そのタイトルには――
『名人の授業―高町なのはの教導3週間・基礎をたのしく学びたい人へ』
と書いてあった。――本出してたんだあの人…。
そしてこれの示すものつまりは

 

「基礎を大事にしろということね…」

 

呆れ顔で呟くが確かに間違いではない。
――もう一回見直してみるか。
ティアナはめんどくさいと思いながらも、あの人の書いた本はどんなものか興味があったのでページを捲った。

 

――シャリオ&アルト&ルキノの場合。

 

「やった~! 私の欲しかった本、『究極奥義・デバイスの限界突破法』。
 これがあれば、もっともっとあの子達を…むふふふふ♪」

 

シャリオが怪しく眼鏡を光らせて気持ちの悪い笑みをもらした。
だが彼女は気付いていない。顔にもう一個、眼鏡を書かれていることに…。

 

「おお! 『ストームレイダー(MG)』のプラモ! これ欲しかったんだよなぁ。組み立て概がありそう♪」

 

と張り切って工具をだすアルト。
だが彼女は気付いていない。鼻の下からグルグル髭が出ていることに…。

 

「リイン曹長の等身大フィギア…。ああ、カワイイなぁもう♪」

 

人形をなでなでするルキノ。
だが彼女は気付いていない。眉毛が異常な太さになっていることに…。

 

もちろんこれらは全部あの人のやったことです。

 

――ヴィヴィオの場合。

 

〈ハロハロ、オキナアカンデーー!!〉

 

うるさく電子音が鳴り、それに起こされる3人。
ヴィヴィオが「起きたよぉ」とまだ欠伸の入った声で言うと音はとまった。
ふわぁと3人が欠伸をして背伸びをする。手を限界まで伸ばしたときに目の前にある、異様なモノに気付く。
自分達の足のつま先あたりに寝転がる巨大な白い袋。先はリボンで固く結ばれていた。
そして時折、ビクビクと小刻みに動いている。――なんだ、コレは?
怪しさバツグン。戸惑いMAX。3人は手を上げたまま硬直していた。
だが、あっ!とヴィヴィオが思い出したかのようにその物体にいそいそと近づく。

 

「プレゼントだ!」
「プレゼントって…ヴィヴィオ! 一体なにを頼んだの!?」

 

なのはは止めようとするが彼女は止まらない。
どんだけな奇怪なモノをお願いしたのだろう。もしかしてペット? それにしてはでかすぎる。
子犬ってレベルじゃねーぞ!
――てゆーかコレッてホント、なに!?

 

なのはの心配をよそに娘は慌ただしくリボンを解こうとする。
そしてシュルっとほどけると同時に、袋の中のモノの動きも活発になる。
なのはとフェイトは反射的に電気スタンドと辞典(極太)を持った。
袋から這い出てきたのは――

 

「――っぶはぁ!!」

 

赤い服を着た男の人。異様な容姿に思わず悲鳴をあげて手に持っている得物を投げそうになる2人。
だがよく見ればその人はとても見知っている人物。

 

「「ア、アスラン(くん)!?」」
「はあ…はあ…し、死ぬかと、思った…」

 

藍みがかった黒髪、端整な顔立ちの青年―アスラン・ザラがそこにいた。
彼はぜえぜえと呼吸をし酸素を取り組んでいる最中。顔も青白い。
空気穴が薄かった所為である。
やがて彼は3人に気付くと同じように固まった。

 

「「……」」
「……」

 

長い沈黙。どちらにしても超気まずい状況である。
方やこの部屋の住人(しかも寝巻き)。方やヴィヴィオのプレゼントになった男。
どう切り出していいかわからない。――助けて、誰か…。

 

「アスランが……ヴィヴィオのパパ?」
「「「へ…?」」」

 

これを最初に破ったのがプレゼント受取人・ヴィヴィオ。
彼女は不思議そうに首をかしげて、眼差しを向けている。
そして、なのはは娘の発した言葉の意味を理解できないでいた。
――えっ? なに? パパって言いました? この子?

 

「…あ、ああ。俺がヴィヴィオの……その、えっと………パパ、だ…」

 

とっくのとうに理解しているアスランはしどろもどろで返事を口にした。
果たして自分でよかったのだろうか。パパ役を任されたにせよ、問題はこの子自信が受け入れてくれるかどうかだ。
嫌われてはいないと思う。ハロのおかげで間接的にこの子と仲良くなったから。
だからといって「一緒に寝よう」とか親らしく自然に振舞える立場でもない。
――どうする、ヴィヴィオ…?

 

『パパ』という名詞を脳で受け取ったヴィヴィオ。
疑惑だった問題が解消され、その表情が煌びやかなものとなっていく。
――この人がパパだ! いつもママと一緒にいる人だ!

 

「パパァーーー!!」
「へぶっ!」

 

今だミノムシ状態のアスランに飛びつくヴィヴィオ。
上から抱きつかれ、頬ずりを何度も何度もして喜びを表す。
身動きが出来ないのであはは…と苦笑することしかできないアスラン。
――よかった…。うまくいったみたいだ。
難問をクリアできたので安心する。
だが和気藹々としている2人を尻目に現状を一番理解できていない人物がいた。

 

「へ? あ、い? アスランくんが…なに…?」
「な、なのは!?」

 

言葉がうまく紡げずに動揺しまくった高町なのは19歳である。
――冗談ですよね? いきなりパパって……なにを言ってるんだろうね?

 

「ママ! パパだよ! ヴィヴィオたちの!」

 

だが娘は喜んでなのはに現実を伝えてくる。
――ヴィヴィオ“たちの”…?
たちとは自分も含まれているってことだろう。当然。
それはつまり――『パパ』=『ママとセット』=『生涯の伴侶』=『チョメチョメ?』。

 

「わ、私とアスランくんが……がががが、合、体…?」
「「はぃぃい!!?」」

 

どこまでもぶっ飛んだ図解を想像し、ファイナルフュージョン発言をしたなのは。
フェイトとアスランは同時に声をあげた。
そして彼女の未来妄想がはじまる。

 

~なのはの頭の中(若干ピンク色)~

 

『なのは、ただいま』
『あ、お帰り! アスランくん』
『パパ~お帰り~~』
『ただいま、ヴィヴィオ』

 

一角の住まい。そこには仲の良い夫婦がいました。

 

『ご飯できてるよ。一緒に食べよう』
『ごめん。待っててくれたのか?』
『いいよ。私もヴィヴィオも一緒に食べたかったし。ね~ヴィヴィオ?』
『うん! パパと一緒にたべる~』
『そうか…。ありがとう』

 

夫婦喧嘩もなく、娘も愛情をたくさん貰っていました。

 

『…ヴィヴィオ、寝ちゃったみたいだな』
『うん。今日、学校でたくさんはしゃいでたみたいだから…』
『疲れたんだろうな…。きっと』
『そうだね…。――じゃあ、私たちもそろそろ寝ようか?』
『……』

 

でもちょっとした悩みがありました。
娘がいつも近くにいるので、なかなか2人だけの時間が取れないのです。

 

『きゃあ! ちょ、ちょっと! アスランくん!?』
『静かにしないとヴィヴィオが起きちゃうぞ』
『そうだけど…なにも、ここで…』
『すまない。でも俺は限界だったから…』
『ふぇぇ…。そんなぁ…』
『大丈夫だ。やさしくするから…』
『そんなこと言って、この前だって朝ま――んふぅっ!!』

 

しかしそんな時間ができた時は2人はいつもより激しく、ダイナミックに愛し合いました。
――以上、妄想終了。参考情報は高町夫妻でした。

 

「なのぉぉおおおおおおおおおおおおお!!!」

 

妄想から帰ったなのはは盛大に鼻血を噴出し昏倒した。

 

「な、なのはーーーー!?」
「た、隊長っ!?」
「ママ、真っ赤かだ…」

 

彼女のパジャマがサンタの服より赤くなったのは言うまでもない。

 

【ミットチルダ―海上隔離施設】

 

「―――ってことがあったんだ」
「へぇ~…そう…」

 

時刻は夜の7時。アスランは部屋の飾りつけをしながら今朝の出来事をギンガに話していた。
あの後はまたさらに大変だった…。
一緒に食堂に行って、ヴィヴィオがパパ発言したら一斉に女性陣が駆け寄ってきて「どういうことだ!!」と
詰め寄られたからだ。特にシャマルなんかは血の涙を流して
「なんで私のところに来てくれなかったんですか!?」と胸倉を掴んで訳のわからない発言をしていたし
ティアナには銃を突きつけれ「何やってるのかな? カナ?」と死んだ目で睨み付けられたし
スバルは「この浮気ものーーー!!」と疑問だらけなこと言って、顔を思いっきり殴られた。
――なんで彼女達があのように怒るのだろう? 自分は一生懸命働いたというのに…。
彼女はその話を眉をひくつかせながら、そっけなく聞いていた。

 

「それで、その“パパ”はいいの? こんなことしてて…」
「あ、ああ…。昼間たくさん構ってやったから大丈夫だよ…」

 

ギンガの言葉の節々に怒気が含まれているのはどうしてだろう。
なんで彼女まで怒るのだ?
アスランは戸惑いながら返した。

 

「そうじゃなくて、その…これからのこととか」
「……あの人達に相応しい“父親”が現れるまでは、とりあえずパパでいるつもりだ…」
「そうなんだ……」

 

今度は少し寂しそうな表情をするギンガ。
アスランはその理由を「あの子を騙している」からだと思った。
当然といえば当然かもしれない。だけど好きでもない自分がいたってあの人の迷惑になるだけだ。
かといって一番喜んでいるヴィヴィオを悲しませることも心が痛い。
でもいつかは彼女達の前に相応しい人が現れるだろう。

 

「俺なんかより、きっといい人が見つかるさ。そっちのほうがいい…」
「!!…う、うん。そうよね! きっとそうよ!!」

 

自分を不定したつもりで言ったら、今度は元気よく頷いた。
――そんなにダメな人間なんだろうか? 自分って…。
彼女の意図がわからないアスランは何気に傷ついた。
とりあえず今は作業を続ける。

 

「よし。こんなもんか」

 

作業が終わると部屋を見渡す。
六課ほど派手ではないがちゃんとクリスマスっぽい雰囲気はでている。
予算をだした甲斐があったというものだ。
そして連絡しておいた時間にドアのチャイムが鳴る。
打ち合わせどおりに、とギンガに目配せする。
――ドアが開く。先頭にいたのは銀髪の少女。

 

「アスラン、来たぞ。なんだ? こんな時間に――」
「「メリーークリスマーース!!」」

 

パーンとクラッカーが鳴り、入ってきた7人を迎え入れるアスランとギンガ。
いきなりの音にびっくりして固まる一同。

 

「な、なんっスか? いきなり…」

 

赤い髪を結った少女、ウェンディが戸惑いながら言葉を口にする。
いまだに他の人も目が点状態だ。
そんな少女らに苦笑しながらアスランが説明を始めた。

 

「――というわけで、君達にもクリスマスをどんなものか知ってもらおうと思ってね」
「全部、アスランが計画したのよ」
『………』

 

顔を見合わせる7人。どうやら戸惑っている様子。

 

「うれしいんだけどさぁ…あたし達はその…犯罪者だから…」

 

セインの遠慮がちの言葉に一同も沈んだ表情になる。
自分達がいけないことをしてきたのは、既に全員が理解し反省もしている。
自覚しているからこそ捜査にも協力して、罪を償おうとしているのだ。
せっかく誠意のあることをしようとしているのに、ここで祝い事なんかに参加をしたら
管理局のやつらに浮かれていると思われてしまう。
そうしたらせっかくの信用がなくなってしまうかもしれないからだ。

 

「気持ちはありがたいのだが…すまない。私たちは―」
「何を言ってる?」

 

チンクの言葉をアスランが遮り、7人は彼を一斉に見る。

 

「たしかにこれは祝い事だが、これも君達の“更生プログラム”なんだぞ」

 

え…?という表情をするが彼は続ける。

 

「君達が世間に出て、組織的集団や会社に入ったとき、いずれはこういった集まりは開かれる。
 その時に君達が上司や同僚にどうやって対処したらいいかわからなくなって困ったらどうする?」
『……』
「迷うよな? だからこれはその時にためにやっておく授業なんだ。
 君達のための祝い事でもなんでもない。ただの飲食会だと思ってくれればいい」

 

アスランの言い分に最初はとまどっていたギンガも微笑み納得する。
彼女達も徐々に理解し笑顔になっていく。

 

「じゃあ、あたし達、やっていいんっスか?」
「ああ。ただし、あくまで授業だ。説明はちゃんと聞いてハメを外しすぎるなよ」
「は~い♪」

お気楽のウェンディは相当乗り気のようで元気よく返事をした。
他の姉妹たちも彼女を筆頭に頷いていく。
よかったと思い微笑するアスラン。

 

「じゃあ、さっそくここにある料理をかたづけよう。冷めたら台無しになる」
「わあ、すごい数だ…!」

 

テーブルの上に置いてあるたくさんの料理を見てディエチが驚く。
七面鳥にピザ、スパゲッティ、サンドイッチ、パイ、他にもさまざまな料理がある。

 

「デザートはケーキがある」
『ケーキ!?』

 

その言葉に大反応する一同。ここはやはり女の子、甘いものは好きみたいだ。
じゃあ席に座ってと促すと全員がいそいそと椅子に座る。
そして各自に飲み物をまわす。
いよいよ準備ができたので、アスランは代表でグラスを持つ。

 

「いいか、さっき俺とギンガが言ってた事を今度は皆で合わせるぞ」
「さっき言ってたことって……『メリー、苦しみます』か…?」

 

ノーヴェのズレた発言に全員が笑い出す。
彼女はなんだか分からずに顔を真っ赤にして怒る。

 

「な、なんだよ!? 笑うんじゃねぇよ!!」
「くくっ…ちがうよ、ノーヴェ。“メリークリスマス”だ」
「そうかよ…」

 

ふんっと拗ねてそっぽ向くノーヴェ。
その行動が昔の恋人にそっくりだった。とくに意地っ張りなところが。
苦笑し、改めて全員を見る。

 

「じゃあ、するぞ?―――メリークリスマス!」
『メリークリスマス!!!』

 

施設の部屋の一角で賑やかな声が木霊した。

 

そして食事の後はアスランが彼女達にプレゼントを渡した。
もちろん冬用の服と称してだ。――その際に

 

「あと、ギンガ…!」
「えっ?」
「これは君に」

 

プレゼントを渡しているのを眺めていたギンガに突然アスランから
差し出される青くラッピングされた袋。

 

「へ…? こ、これ、私に?」
「ああ、今年は本当に世話になったからな。ありがとう」

 

そういって彼の視線は再び、姉妹たちに戻る。
ようはお世話になったお礼ということみたいだ。
しかしだ!――彼女は思う。

 

(もうちょっと、ムード考えてくれないかなぁ…)

 

ここで渡されたからということは“ついで”みたいな扱いにしか見えない。
そうなると自分はまだ“友達”の位置からまったく動いてないのだろうか。
確かにアプローチらしいことはあまりしていないが、それでも少しは期待していたのだ。
それがこの1年の結果…。

 

はぁとちょっぴり残念な溜め息をはきながらプレゼントを開けるギンガ。
中から出てきたのは白いマフラー。
温かそう、と思い見つめるが、その時にあれっ?と気付く。
マフラーの先に付けられた模様。そこにはハロの形が縫われていたのだ。
こんな物は市販で売られていない。ということはこれってつまり…。

 

(アスランの…手編み…?)

 

呆然としながら彼を見るがアスランは気付かずチンクと談笑していた。
――自分だけがこの世に一つしかないプレゼントを彼から貰った。
ギンガの頭の中が赤一色になる。果たして彼は意識しているのか。それとも違うのか。
でも、今だけはそんなことどうでもよくなった。
――だって彼から特別なプレゼントを貰ったのは、この世界で自分一人だけ。
そう思うだけで幸せな気分になれるからだ。

 

ギンガはぎゅっとマフラーを胸に抱き、明日から冬が終わるまで着けていこうと誓う。
そしてこれからの厳しい“戦い”に自分も負けてられないと、俄然やる気がでた。
彼女は彼を密かに見つめ、こう思った。

 

(アスラン…絶対に逃さないから…!)

 

今年一番の寒さの中、彼女の中の闘志は夏以上に暑かった。