Fortune×Destiny_第14話

Last-modified: 2007-11-28 (水) 10:19:41

14 血飛沫の騎士

 

シンは例の鉱山まで逃げた。さすがにここまで来れば追っ手は来ないだろう。
外はもう暗い。彼は買った食糧を食べながら考える。
「まずいな……誤殺とはいえ殺人だし……。大体、俺には人権が認められないんだから、
 モンスターと同じように狩られる可能性もあるわけで……。」
さらに、情報伝達速度が向上していたとするなら、ハイデルベルグで信者を殺害した犯人が逃亡したことも知られているかもしれない。
目撃者はいないと思うが、路地に入るところを見られたりしていれば、簡単に割り出せてしまう。
最早金銭でどうにかなる問題ではなかった。完全にお尋ね者だ。
変装しようにも自分の赤い目は恐ろしく目立つ。顔を隠すと怪しまれる。
その上、フィッツガルド大陸からカルバレイス大陸まで飛行できるほどの力はない。
筏に乗って飛翔力を使って推進力にし、疲れたら筏で休むという方法くらいしか思いつかない。
その方法にしてもあまりにリスクが高すぎる。波に流されてしまうだろう。
「とはいえ、今はそれしかないそうだ。まずはリーネに向かおう。」
しかし、今日はもう疲れた。
まずは寝なければ、とシンは鉱山の作業員の仮眠室に行き、鍵をかけてベッドに寝転がった。

 
 

その頃ノイシュタットでは、フォルトゥナ神団の船が到着していた。レンズの力を使った推進システムを搭載した、高速輸送船だ。
「ハイデルベルグの信者殺害事件の犯人がノイシュタットに逃げ込んだという情報がある。また、こちらに来る途中に入った情報では、その犯人らしき男が商人一人を殺害したそうだな?」
船から降りるなり、神団のノイシュタット支部の人間に問うその人物は、全身を黒い鎧兜で包み込んでいた。背には赤いマントを羽織っている。
しかし、ただ黒い鎧であるだけなら、その支部の人間は恐れの表情を浮かべなかっただろう。
だが、籠手とブーツは赤く染め上げられ、その上常に兜を外さないのだ。
彼は神団に所属する騎士であり、誰も本名は知らない。
ただ、容赦ない戦いぶりと
「殺し続けているがために、そして戦場で死体を踏み締めるが故に、手の周りとブーツが赤いのだ。」
という本人の発言から「血飛沫の騎士」と呼ばれている。
別に本当にそうであるわけがなく、単なる塗装か何かなのだろう。
ただ、フォルトゥナ神団のトップであるエルレインの意向によって動いており、逆らう者を殺害しているらしい。
「は……その商人は我らにレンズを供給してくれる人物でした。これはフォルトゥナ神団への反逆とみなしてよろしいのでは?」
「そうだな。では、私が直々に始末しよう。」
「では、我々も。」
支部の者に、血飛沫の騎士は少し視線を向けたらしい。
視線を向けられた支部の者は、彼の目が見え、心臓が止まるかと思った。
目が赤いのだ。充血しているのではない。
虹彩が血の色そのものだった。
それは、死の色そのものにすら見える、そんな目だった。
「いや、私だけで行く。被害を出したくはあるまい? ここからすぐで潜伏できそうな場所は……鉱山だな。」
彼は信者の反応が当たり前だと言わんばかりの態度で、悠然と金属が擦れ合う音を立てながら歩いた。
「……シン・アスカ。私はお前を……。」
血飛沫の騎士はシンのことを知っていた。それも、誰よりも。
彼のマントがはためき、赤く発光する。次の瞬間、信じられないスピードで加速しながら飛翔していた。
そして、彼が向かった先は、シンがいるはずの鉱山だった。

 
 

シンは目を覚ました。何か胸騒ぎがする。
早く逃亡した方がいいような気がする。
「嫌な予感がする。とてつもなく嫌な予感がする。まずは鉱山から白雲の尾根伝いにリーネに向けて逃亡しよう。」
彼は急いで身支度を整え、鍵を開け、フォース形態をとって飛行する。
空を飛んでいけばまず追えないだろう。
ところが、そんな予測を裏切る事態が起きた。背中から赤い光を翼状に放ちながら自分に向かって突撃してくる者がいる。夜間故に目立つ。
「な、何だありゃ!?」
シンは飛行能力を全開にし、北の方角に向かって逃げた。
だが、その光の翼を持つ者は自分を追ってくる。
「間違いない! 俺を殺す気だ!」
しかも、追跡者の方がスピードがあるらしい。
振り返るたびに光の翼が大きくなっているように見える。
「こうなったら破れかぶれだ!」
シンは振り返った。そのままサーベルを抜き放ち、追跡者に向かって斬りかかる。
だが、黒い鎧兜と赤い籠手、赤いブーツの追跡者は、どこからともなく片刃の大剣を出現させ、攻撃を受け止めた。
「俺の力に似ている!?」
「似ているに決まっている。」
追跡者、血飛沫の騎士が返事をした。
どこかで聞いたような声だ。それも、かなり身近な。
「どういう意味だ!?」
シンは穿風牙を血飛沫の騎士に向かって放った。彼はそれを剣で叩き落す。
「おとなしくしてくれたら落ち着いて話そう。」
「それで捕まえるんだろ? そういうわけには行かないんだよ!」
血飛沫の騎士に向かっていき、火炎斬を放った。
だが、血飛沫の騎士はあっさりと受け止めた。
「やれやれ、止むを得ないな。力ずくでおとなしくさせる!」
黒い鎧兜の男は大剣を軽々と振るい、シンに向かって斬りかかる。
シンは飛翔能力を使って攻撃をよけたが、このまま飛んでいては消耗する。ソード形態に入れ替えた。
「地上から仕掛けてやる! 双炎輪!」
二振りの小太刀を血飛沫の騎士に向かって投げつけた。
だが、その行動を読んでいたらしい。
「双地輪!」
同じように上空から二振りの小太刀が飛来し、お互いの小太刀が弾かれた。
シンは素早くブラスト形態に入れ替えた。
「くっ、ネガティブゲイト! ケルベロス!」
歪んだ空間と闇の奔流が血飛沫の騎士を襲うが、あっさり回避した。逆に詠唱を始める。
「裁きの時来たれり、還れ、虚無の彼方……エクセキューション!」
闇の上級晶術、エクセキューションだ。
シンの足元に魔法陣が出現し、闇の力が魔法陣全体に充満する。
シンは体力が奪い去られる感覚を覚えた。
「ぐあああああああああああああああ!」
虚脱感を感じながらも、彼は立ち上がった。
何よりも仲間と合流する。それだけが今の彼の心の支えだった。
「……負けられるかあああああ!」
再びフォース形態をとった。
一気に接近し、六連衝と三連追衝を繰り出したが、それも受け止められた。
「さすがに、この根性は……。エクセキューションの直撃を受けてすらこれか。」
「当たり前だ、俺にはまだやるべきことがある!」
血飛沫の騎士は少し溜息を吐いたようだった。
だが、目にも留まらぬスピードで技を繰り出す。
「……。大爆掌!」
大剣を右肩に担ぎ、赤く光る左手でシンの左肩を掴んだ。
次の瞬間に爆発が起こり、左肩が腫れ上がった。
「うっ……! これは炎症か!」
大爆掌は炎による攻撃と同時に、神経刺激によって痛覚を刺激し、水分を集中させ、発熱させる作用を持っている。
水分が集中して発熱すれば炎症になるわけだ。
一時的とはいえ、戦闘能力を低下させることができる。
別に打撲も内出血も起こさない。攻撃のためというより、弱体化が目的の技なのだ。
「ああ、炎症だ。これでおとなしくしてくれ。」
「まだまだあ!」
痛む左腕をだらりと垂らしつつも、シンは火炎斬を放った。
血飛沫の騎士はそれを大剣で受け止め、サーベルを弾き飛ばす。
「閃翔牙!」
血飛沫の騎士は腰の辺りで大剣を構え、飛翔能力に任せて突撃する。
シンは何とか紙一重で避け、穿風牙を放った。
今度は血飛沫の騎士の背に当たり、姿勢がぐらついた。
「今の技、どこかで見た気がする……。」
大爆掌といい、今の閃翔牙といい、自分で実行した記憶があるような技ばかりだ。
否、正確には自分ではなく、自分のモビルスーツであるデスティニーがだ。
「いったい、何なんだ、あんたは!」
「だからおとなしくしてくれれば話す!」
「そんなのが信用できるか! 俺があんたを斃して、それから暴いてやる!」
「始末に終えないな。止むを得ん、穿風牙!」
その技はシンがよく使う技そのものだ。
驚いて回避し、彼は血飛沫の騎士へと向かっていく。
「俺の技をなぜ使える!」
斬りかかるシンの攻撃を避けた血飛沫の騎士は、諦めた口調で言い放った。
「もういい、半殺しにしないとわからんらしいな。闇縛掌!」
血飛沫の騎士の手から大剣が消えた。
さらに、右手に闇が生まれ、その掌をシンの胸に叩き込んだ。
「う、ぐっ……!」
強い衝撃を受けた。それだけではない。身動きが取れない。全くだ。
鏡影剣に似た金縛りの作用があるらしいが、今度は口も利けない。
ただし、その効果は一瞬だけだが。
「端的に正体をわからせる方法は……これだな。飛天千裂破!」
落下するシンに、飛翔能力を用いて突撃し、いつの間にか手にした二振りのサーベルで12連続の突きを放つ。
闇縛掌の呪縛から解き放たれたシンは思わず叫んだ。
「何だと! 俺の奥義なのに!」
しかし、驚愕はそれだけではなかった。
「風に舞い散れ!」
その台詞は自分の秘奥義のものだ。シンの目が見開かれる。
「剣時雨……風葬!」
放たれる風の剣も、交差する切り裂く風も、全く同じものだ。
シンは草の生い茂る地面に叩きつけられ、仰向けに倒れた。
「俺の奥義、か。確かに今のはお前の奥義だ。秘奥義もそうだな。」
「どういう……意味だ……?」
シンの問いに応えるように、血飛沫の騎士は兜を外した。
その隠された顔を見た瞬間、シンは先ほど以上に驚いた。
「それは、私がお前の未来の存在、十年後のシン・アスカだからだ。」
露わになった顔。黒い硬質の髪の毛、白い肌、そして何よりも珍しい赤い虹彩。
顔立ちそのものは精悍さが増していたが、間違いなく自分の顔だ。

 
 

「全く、我ながら無茶なやつだ。追いかけてきただけで敵だとみなすとは。
 まあ、精神的に追い詰められていたのはわかるが。兜を外す余裕もなかったぞ。」
「なっ……俺を殺す気か! 秘奥義なんか使って!」
シンは痛む体に鞭打ちながら上体を起こす。
血飛沫の騎士はシンの前に座り込み、苦笑しながら言った。
「それだけ元気なら問題なかろう。
 そもそも、私が本気で殺すつもりなら、あんな威力の低い秘奥義なんか使わなかったよ。
 フォルネウス相手にも効果薄だったのだからな。」
「それはそうだが……。」
「そもそも、お前はお前が思っている以上に頑丈にできているんだ。
 エクセキューションの直撃を受けても体力を消耗した程度で済ませるほどだからな。
 これが常人なら0.1秒も持たんよ。」
血飛沫の騎士、10年後のシンは終始落ち着いている。
これが10年の月日か、とシンは思った。
「さてと、おとなしくしてくれたらしいから、話すべきことを話そう。」
シンは目の前にいる男が自分であることに驚いたが、さらに放たれた言葉に驚いた。
「私は今、フォルトゥナ神団で騎士をしている。正確には反逆者を殺す粛清者だがな。
 血飛沫の騎士などと呼ばれている。」
そんなことは到底信じられない。自分がそんな選択をするはずがないからだ。
エルレインのしたことを許せないと思っているのだから。
「なっ……! なんでそんなことを!」
「私もしたくはなかったが……最早手遅れのところまで来てしまったのだ。
 私が経験したことを話そう。私は10年前、やはりこの場で自分と戦い、そして敗れた。」
10年後のシンの表情は暗い。何か事情があるらしい。
「……。」
「その後だ。私はカイルたちとともに現代に戻り、そして……。」
「そして……?」
10年後のシンの顔に、強烈な痛みと悲しみが走ったようだった。
彼はゆっくりと、静かな調子で口を開いた。
「私はエルレインに操られ……カイルたちを殺した。」
シンの顔に稲妻が走ったようだった。
絶対に失いたくない、何があっても助けたいカイルを、自らが殺すというのか。
「私はそのショックで心を閉ざしてしまった。どうやらその間にエルレインが私をコントロールして手駒にしたらしい。自我を取り戻したのは最近のことだ。」
「……! あんた、エルレインを斃そうと思わないのか?」
「今の私には無理だ。10年の間にエルレインは大量のレンズの力を得て強くなった。
 さらに、私に力を与える代わりに、エルレインに対して敵意を向けようとすると力を減殺するようにしたらしい。」
用意のいいことだ。手駒にしたエルレインとしても、シンの存在は利用価値があると同時に危険である。
だからこそ、こんな回りくどい事をしたのだ。
「なっ……!」
「その上、過去に戻ってエルレインを消そうにも、私は時空間捕縛魔法までかけられている。
 つまり、どんな手段を持ってしても時間転移することもできんのだ。今の私は全くの無力なのだよ。」
シンは10年後の自分を見やった。
絶望の淵に突き落とされ、どこか虚無に彩られた瞳が湿っている。
「…………どうやってあんたをコントロールしたんだ? その、あんたがカイルたちを殺したときの。」
この会話も巡る時の流れの中で、既に何百回と繰り返されたものなのかも知れない。
だが、言うしかなかった。
彼には選択肢がなかった。少しでもその運命だけは避けねばならない。
「わからん。記憶が飛んでしまっている。もしかしたらエルレインがその部分の記憶を抜き取ったかも知れん。」
情報が少なすぎる。そして、このまま行けば自分がカイルたちを殺すことになるかも知れない。だが。
「いいさ、俺が未来を変えてやる。俺は自分のくだらない運命くらい、自分の手でぶっ壊してやる。」
シンはそう言い放った。
妹のマユに付き合って少女漫画のアニメを見ていたが、そのエンディングテーマの中にこんな台詞があった。

 
 

「運命なんて弱気が見せる幻」。

 
 

それに関しては同意したい。未来は変えられるはずだ。意志さえあれば。シンはそう思った。
「お前ならばそう言うだろうと思っていた。だから、私もお前に望みをかけるつもりで来たのだ。」
「正直、俺は未来を知ってから行動するなんて邪道だと思うけど。だけど、助けてもらったことには感謝する。それに、カイルたちを死なせたくないしな。」
先程までシンから放たれていた強い敵意は影を潜め、放たれる意志は信頼するようなものなった。
それを感じ取った10年後のシンは、ふっと微笑んだ。しばらく笑ったことがない者の笑顔だった。
「では、まず私の指示に従ってくれ。お前は気絶した振りをして、ノイシュタットまで私に連行されてもらう。」
「わかった。」
「それから、向こうに着く前におとなしく縛られてくれ。ああ、簡単に解けるようにしておくからな。心配しなくていい。」
「……信用してるぜ。」
「すまんな。あと、悪いが仮死状態にする薬を飲んでもらう。色々と細工をしなきゃならんのでな。」
あれこれ打ち合わせをし、二人はノイシュタットに向かう。その間にシンは10年後のシンから渡された薬を飲み、気絶したところで縄で縛られた。
ただし、ある一箇所を引っ張ると解けるようには細工したらしい。目立たぬよう、シンの手の中にねじ込んだ。
「反逆者を殺すことは成功した。ただ、念のため縛っておくことにした。ノイシュタットとチェリクの途中の海に死体を捨てることにする。」
血飛沫の騎士の姿に戻った彼は、肩にシンを担ぎ、輸送船の貨物室に手荒に放り込んだ。
別に骨が折れるような投げ方にはしなかったので、あとで息を吹き返したときにシンから抗議を受けることはあるまい。
「私が直々に放り込む故、手出し無用。よいな?」
10年後のシンは船員に告げ、貨物室の中に入り、兜を脱いだ。
いい加減脱がないと疲れるのだ。
「さて、神経刺激によって薬を排除せねば。……よし。大爆掌!」
シンの顔を掴み、炎症を引き起こす技を叩き込んだ。
火属性に対する抵抗が強いので、別にシンの顔は火傷しなかったが、顔が真っ赤に膨れ上がり、その痛みでシンは目を覚ました。
「あああああ、いたたたたたたた! 顔が滅茶苦茶腫れてるじゃないか!」
「大きな声を出すな。聞かれるではないか。」
静かな声で諭す10年後のシンも、さすがに顔は半分笑っている。
「昔読んだギャグ漫画にあったぞ、この技。確かその漫画でも顔が腫れあがってなかったか?」
「そんなことはもう忘れた。文句なら、この力を与えた奴に言え。仮死状態を解くためにはこの方法が一番なのでな。」
腫れた顔ではさすがにばれるので、10年後のシンはパナシーアボトルをシンの顔にかけた。
黄緑色の液体が染み渡り、シンの顔から腫れが消えた。
「この力……そういえば、誰がこんな力を? それに、何の目的で?」
「この後歴史が変わらなければ、力を与えた本人と対面することになる。私に聞かずに本人に聞いたほうがいいだろう。」
血飛沫の騎士と呼ばれている男は、それ以上喋ろうとしなかった。
喋りたくない内容なのかもしれない。
「そろそろだろう。死んだ振りをしていてくれ。」
10年後のシンは兜を被り、シンを肩に担いだ。
鎧に覆われた肩に腹を乗せているのだから気持ちいいわけがない。
だが、我慢せざるを得ないだろう。助けてくれるらしいのだから。
「いいか、これから海に放り出す。海面にぶつかったらフォース形態をとってカルバレイス大陸の海岸に向かえ。縄はお前の右手の中にある縄の先端を引けば解けるようになっている。」
「いろいろとありがとう、シン。」
シンは10年後のシンに向かってそう呼んだ。
10年後のシンは苦笑し、返事をする。
「私もお前もシンだったな。何とも複雑な限りだ。ずっと血飛沫の騎士だったからな……この10年は。」
自分の名前を呼ばれることすらない、10年後のシン。シンは少し悲しくなった。
同情の気持ちもあるし、下手をすれば自分もああなるかも知れないというのもある。
「変えなきゃ、俺が……。」

 
 

10年後のシンはシンを担ぎ、甲板に立った。
「愚かなる者の屍、海に消えよ。」
軽々とシンの体を海に放り投げ、シンが落下した辺りの海面を見た。
「でやああああああああ!」
爆音が轟いた。
さらに何の叫び声か、10年後のシンはわからなかったが、何が起きたかはすぐにわかった。
シンがフォース形態ではなく、ブラスト形態で海面を滑りながら逃げているのだ。
「ちっ、仕留め切れていなかったのか、不覚!」
10年後のシンは船員達に聞こえるように言い、赤い光を撒き散らしながら逃げていくシンの後を追った。
「この馬鹿者! 何故ブラストで逃げた!? その形態は移動時に爆音が放たれるのだぞ!」
10年後のシンが大剣で斬りつける振りをしてシンを怒鳴りつける。
だが、鎗で受け止めたシンは言い放つ。
「フォース形態で逃げろって言ったよな? それはあんたが実際にそうしたんだろ?」
「その通りだ。それがどうした?」
「なら、俺は違う方法で逃げる。僅かなずれが何かに作用するかもしれないし。」
「こんなもので変わるか!」
「それが諦め姿勢だって。何でもいいから変えてやるって意志が必要なんだと思う。
 あんたの無気力さを見てたらそう思えてきたから。」
何度も繰り返されたであろう事象が、ここにきて入れ替わった。
もしかしたら、と10年後のシンは思う。
このシンなら、と。
「ならば何も言わん。私はお前を無事に逃がすため、エンシェントノヴァを使う。
 その爆風を使って逃げろ。いいな!?」
「わかった。」
「今度は言うことを聞けよ、絶対に!」
10年後のシンも、最早賭けに出ていた。
命を賭して、このシンをカルバレイスまで送り届けなくてはならない。
おそらく、今戻れば反逆者として処刑される。
だが、自分は消えても歴史を変えられる「シン」が生き残れば、そのまま彼は生き続けられるだろう。
「もう、私とシンは別人なのだろうな、既に……。」
寂しい気もしたが、血飛沫の騎士は決然とした調子で詠唱する。
「古より伝わりし浄化の炎よ……消し飛べ! エンシェントノヴァ!」
火の上級晶術、エンシェントノヴァがシンの近くに炸裂した。
彼は爆風に巻き込まれながら足の裏から火を吹き、一気に逃げ去った。
「これでいい……。」
血飛沫の騎士は自ら死へと向かう。
それでいいのだと。自分の生きた意味はあったのだと。

 
 
 
 

TIPS

双地輪:ソウチリン 地
大爆掌:ダイバクショウ 火
閃翔牙:センショウガ 武器依存
闇縛掌:アンバクショウ 闇

 

称号
 運命を背負う者
  彼は知ってしまった。
  仲間の命は全て自分にかかっている。
  その結果は避け得ないのか……。
   防御+1.5 攻撃-2.0