Fortune×Destiny_第24話

Last-modified: 2007-12-04 (火) 10:24:16

24 戦火の世界へ

 

リアラの力で4人はナナリーの夢の世界へと足を踏み入れた。
どうやらここはホープタウンらしい。
だが、あの茹だるような暑さが感じられない。夢の世界だからだろう、とリアラは言った。
「ナナリーのつらい記憶って、やっぱり弟さんのことかしら……。」
「多分そうだろうな。まあ、俺の記憶見ただろうからわかるけど、家族亡くすのって辛いからな。俺もそのネタでやられたし……。」
「へっ、どうせあいつのことだ。男に振られたとか、そんなとこだろうよ。あの凶暴な性格じゃどうしようねえっつうの。」
毒づくロニの目は、どう見てもナナリーのことが心配でたまらない、と言わんばかりの色をしていた。
無理をしている。恥ずかし紛れに言っているようにしか聞こえない。
シンはナナリーのことを全てロニに一任することにした。
シンにもわかっていた。
この二人がお互いに意識しあっており、わざわざお互い嫌っているような態度をとっているのはそれを誤魔化すためだと。
そして、ロニは本当にナナリーのことを理解しているはずだ。
彼女にとって何が本当の望みなのか、何が本当の幸せなのかを。
自分にとっての理解者が仲間全員であるように、ナナリーのことを本当に理解してあげられるのは、ロニだけだ。
「さあて、ナナリーのやつをさっさとたたき起こしちまおう。」
「ロニ、やっぱりナナリーのことが心配なんだ。」
「あははは、俺もそうじゃないかと思ってたんだ。」
「ツンデレ、だな。まったく、俺たちの仲間は素直じゃない連中ばっかりだ。」
「やかましい! いいから行くぞ!」
照れ隠しのつもりか、ロニは声を張り上げてホープタウンの奥へと向かって行ってしまった。
「はいはい、行きましょ。」
リアラもおかしそうにそう言い、そして、3人は顔を引き締めた。ここは夢幻の世界である。
エルレインの手によって作り出されたものだ。
ナナリーを何としても解放しなくてはならない。笑っていられない。特にシンはそうだ。
おそらくこの夢から脱却するためには、自分と同じように心の古傷を抉らなければならない。
そして、それはナナリーを深く傷つけることになる。
無意味な世界から助け出すためとはいえ、仲間を傷つけるのは気分のいいことではない。
しかし、シンはつい先ほどカイルたちに言われたことを思い出していた。

 
 

「シン、シンは確かに作り物かもしれない! けど、俺たちを助けてくれたのはここにいるシンなんだ! シンが本物であろうと作り物であろうと、俺たちはここにいるシンが好きなんだ!」
「そうだぜ、俺たちにとっちゃお前がシンなんだ。本物偽物関係ねえ。それでも拘ったってな、お前は今生きてるんだよ!」
「そうよ、あなたは今を生きてる。私たちと同じように。だから、私たちと一緒に歩きましょう。ね?」

 
 

こんな言葉を自分がかけられるとは思えない。
だが、できる限りのことはしたいと思う。そう、しなくてはならないのだ。
ナナリーはまもなく見つかった。何かいいことがあったのか、うれしそうだ。
「あ、カイル、リアラ、ロニ、シン! ちょうどいいところに来てくれたね! ちょっと付き合っておくれよ。」
「ん、どうしたんだ? 何かあったのか?」
「ここのところ豊作続きでさ、食べ物が余っちまって大変なんだよ。だからさ、みんなも一緒に食べようよ。あたしが料理するからさ。」
ホープタウン周辺は砂漠地帯だ。
わずかな水と痩せた土地で、そうそう豊作などあるわけがない。
これもエルレインが見せている夢、ということなのだろう。
「しかし、そんなに豊作続きなら、今頃墓の前はもう凄いことになってるんだろうな?」
ロニはナナリーの行動パターンを把握していた。
いいことがあったとき、食料が手に入ったとき、いつもルーの墓に報告に行く。
特に食料が手に入ったときは必ずいくらか供えていた。
しかし、ナナリーは怪訝そうに言う。
「墓? 墓ってなんのことだい?」
「お、おい、お前の弟の墓だよ。」
「何言ってんだい。ルーなら……。」
彼女の後ろから誰かがナナリーに近づいてくる。ほんの5歳かそこらにしか見えない男の子だ。
ナナリーと同じように、燃えるような赤い髪をしている。
着ている服は傷んではいたが、その体から元気があふれている。
「ナナリーお姉ちゃん、ご飯! お腹すいたよぉ。」
「はいはい、すぐ準備するからね。待っててルー。」
シンは気づいた。エルレインはナナリーに自分にしたのと同じことをしているのだ、と。
幸せな生活環境と、自分の選択で失った弟をナナリーに見せている。
あまりにも悲しい光景だ。そこには存在しないものを本物だと信じる彼女が哀れでならなかった。
「な、何でルーが生きてるんだ?」
「ロニ、しっかりしとくれよ。さあ、うちに行こう。ごはんにしようよ。」
ロニは自分が泣きそうになっているのを感じていた。
シンと同様、やはり彼もナナリーが哀れでならなかった。そして、悲しかった。
「ナナリー、こっちに来い!」
彼は少々手荒にナナリーの手を掴み、オアシスの方へと向かう。正確には、オアシスの畔にある墓地へだ。
カイルたちはロニの後を追いはしたが、シンの提案で少し離れた位置から見守ることにした。
ナナリーの表情は最初、驚いたものであったが、墓地が近づくにつれて苦しそうなものへと遷移していった。
「ちょ、ちょっとロニ、何なのさ。あたしはここに来るのは好きじゃないんだ。なんかこう、胸が苦しくなるんだよ。」
墓地の入り口にナナリーを連れてきたロニは、真剣な表情で彼女の目を見ながら口を開いた。
「いいか、ナナリー。そこにいるルーは偽者だ。本当のルーはもう死んでるんだ!」
「お姉ちゃん、僕、死んでないよ!」
姉の危機に感づいたのか、ルーはナナリーの後ろから腰に抱きついて言う。
それはナナリーの持つ、弟への想いが反映されたものでもある。
しかし、ロニは自分が泣きそうになるのを堪え、声を張り上げる。
「お前が弟死んだって俺に教えてくれたとき、お前は言ってたよ、あの時アタモニのとこで頭下げてたら助かったかも知れねえって。」
「あう……っ……頭が……痛い……!」
「お姉ちゃん、僕はここにいるよ、お姉ちゃん!」
頭痛に苛まれるナナリーの中で葛藤が巻き起こる。ロニの言っていることは信じられない。弟は現にここにいる。
しかし、普段はちゃらんぽらんでろくでなしでしかないロニが、ここまで真剣に言っている。
何が本当のことなのかわからない。
「お前がお前の選択で後悔したのも知ってる。それこそ死ぬほど後悔したってこと、俺は知ってる!」
「お姉ちゃん! 僕は生きてるよ!」
「そうだよ、ルー……ルーは死んでなんか……。」
ロニはナナリーが痛がるだろうほどに、彼女の両肩を掴み、一際声を張り上げた。
この夢から連れ出すことは痛みを伴う。だが、ロニはナナリーに現実を生きてほしいと思っている。
そして、そのためにナナリーのために全力を尽くしたい。
「けど、これがお前の望んだことなのか!? 本当にお前はこんなものがほしかったのか!? 
 そうじゃねえだろうが! 死んだ弟からお前が受け取った大切なもの、たくさんあるだろうが! 
 そいつを忘れてて、いいわけねえだろおおおおっ!」
ロニの絶叫が、ナナリーの心を震わせた。
彼女はふらふらと、自分の本能の赴くままに墓地の中に入り、ある墓の前に座り込んだ。
それは、いつも楽しいことがあったとき、食料が手に入ったときに話しに行く、ルーの墓だった。
「『ルー、ここに眠る』……。」
ナナリーはこみ上げてくる悲しみを堪え、墓所の入り口に置き去りにしてきたルーの下へと戻る。
「お姉ちゃん、僕……。」
「ルー、あたし、大事なこと忘れてた。あたしはいつもルーと一緒にここに来て、死ぬまで意味のある人生を送らせてあげたと思ってた。」
「おねえ……ちゃん……。」
ルーが泣いている。しかし、このルーはルーではない。
自分が作り上げた幻なのだ。ナナリーは悲しさを抑えきれなくなった。
「でも、心のどこかでルーが生きてたらって思ってた。それのせいでこんなことに……。幻見せられて姉ちゃん、満足しちゃって……。」
ナナリーの瞳から、一筋の涙が零れる。シン以上に気丈な彼女が見せた、初めての涙だ。
「けど、それももうおしまい。だから…………ばいばい、ルー……!」
ルーの姿が光の粒子へと変わり、そして、それは分散して消え去った。
ルーはもう、この世にはいない。ナナリーはそれを改めて思い知らされた。
「ナナリー……。」
ロニが背後からそっと、ナナリーの肩に手をかけた。
ロニは涙こそ流さなかったが、ナナリーのことを想っているのか目が充血している。
「泣きたいなら泣けよ、顔、隠しといてやるから。」
彼はナナリーの前に回りこんで顔を自分の胸に押し付け、そっと彼女の頭を抱いた。
「ロニ……うあ……ぁぁぁあああああああっ……!」
「辛かったな……けど、俺たちがついてる。それにお前が本当に望むものを知ってる。だから、大丈夫だ。」
ロニの優しさがナナリーの心を癒していく。
ナナリーが段々と落ち着いていくのが、シンにはわかった。
普段はいい加減に見えるロニ。
だが、今のシンには彼の本当の姿を垣間見ることができた、そんな感覚が心にあった。

 
 

ナナリーが元の落ち着きを取り戻したのを確認してから、ジューダスの夢の世界へと向かった。
ロニとナナリーのやり取りは、普段のものへと戻りつつあった。
「しっかし、お前にも女らしいところあったんだな。ふんふん……。」
「何ニヤニヤしてんのさ。気持ち悪い。」
「いや、今のお前なら適当なこと言っといたら落とせそうかなって思ってよ。それからゆっくり女らしいところ引き出して俺好みの……って馬鹿ああああああ!」
ナナリーの対ロニ専用格闘術、コブラツイストが炸裂する。
ナナリーは先ほどの悲しそうな顔はどこへやら、いつも通りの表情である。
「誰があんた好みの女になるか! というかなってたまるか! このドスケベがああああああ!」
「ぐっ、ぐるじぃ……!」
シンは思う。ロニがわざわざこんな刺激を与えたのは、ナナリーの元気を取り戻すためではないか。
いつも通りの調子を復活させるために、わざわざ犠牲になったのではないのか、と。しかし。
「この凶暴女! いい加減にしろ……ってああああああ、いやああああああ!」
この態度である。シンは思い過ごしか、と左手で頭を擦った。
「それにしても、ここはどこだろう?」
そこは暗い洞穴だった。海が近いのか、波の音が聞こえる。
夢の世界であっても暗く冷たい空気がシンの頬に触れる。
工場跡か何かなのか、何かの資材と思われるものや、エレベータが設置されている。
ジューダスの記憶の世界、ということはおそらくはリオン・マグナスの頃のものだろう。
そして、この雰囲気とエルレインに対して反逆したことを考えると、おそらくは悪夢の方を見せられていることだろう。
ジューダスは石筍が立ち並ぶ鍾乳洞の床に座り込んでいた。
手には普段からモンスターなどを屠るために振るわれる剣、シャルティエがある。
「シャル……僕たちの悪夢はいつもここから始まるな……。」
ジューダスはカイルたちに気づかなかったらしい。
そして、そのままジューダスの夢の空間が、彼の記憶を再生する場へと変化していった。

 
 

仮面のないジューダス、いや、リオン・マグナスは銀灰色の髪の、どこか冷たい印象を持つ壮年の男に指示を受けているようだった。
しかし、その指示のされ方が妙だった。
黒い髪で優しげな面立ちのメイドが、銀髪の男の左腕で拘束されている。
そして、指示というよりも脅迫のように聞こえる。
「いいか、リオン。失敗は許さんぞ。もし失敗すればこのマリアンがどうなるか……。」
シンの知識が正しければ、この銀髪の男はヒューゴ・ジルクリスト、つまりオベロン社の総帥であるはずだ。
「やめてくれ! それだけは!」
「お前のマリアンを見る目が尋常ではないことくらい、私にはお見通しだ。哀れなやつだ、私の女に想いを寄せるとはな。」
「くっ……!」
マリアンと呼ばれたメイドは、泣き叫ぶようにリオンに言った。
それは命乞いなどではない。リオンを助けようとしてのものだった。
「エミリオ! 私のことはどうでもいいのよ! だから……!」
「少し静かにしろ!」
ヒューゴはマリアンの鳩尾に右手の拳をめり込ませ、気絶させた。
「マリアン!」
「お前は自分の役割を果たせ。いいな!」
灰色の髪の男は近くにあるエレベータに乗り込み、地上へと向かう。
そこに長い金髪を振り乱しながら白い鎧の男が駆けてくる。
「あれは……父さん!」
カイルがそう言った。
そして、その後ろから若かりし頃のルーティ、フィリア、ウッドロウが続く。
「リオン! リオンじゃないか! そこをどいてくれ! 俺たちはヒューゴを追って……。」
「そして僕はお前たちを阻むためにここにいる。ここを通りたければ僕を倒してから行け。」
リオンは決然とそう言った。
「なっ、あんた、自分が何を言ってるかわかってんの!? あいつをほっといたら世界がやばいっての!」
自分と同じ黒い髪を持つルーティが叫ぶも、リオンは動じなかった。
「それがどうした。僕は大事なものを守るためにここにいる。家族よりも何よりも大事なものをな。」
「どういう意味だ、それは。」
ウッドロウの問いに、リオンは答える。
「僕は孤独だった。ずっと一人だった。
 その僕の孤独を癒してくれたシャル、そしてマリアンを僕は守る。
 父であるヒューゴよりも、僕の姉より、ずっと大事なものだ。」
シンにはリオンが普通の育ち方をしていないことが、よくわかった。
自分と同じように孤独を胸に生きてきたのだ。
しかし、リオンと自分とでは決定的な違いがある。
シンの場合は家族と死に別れたのだが、リオンは父親に育てられていながら父親を父親として見ることを許されなかったのだ。
その孤独は自分のものよりもはるかに大きいのだろう。
そして、その中で差し伸べられたものを、なんとしても守りたい。
それは自分も同じだった。リオンの気持ちがよくわかる。
シンはそれを感じ取っていた。
「……ヒューゴがお父さん!? それに、お姉さん? それはいったい……? いったい、誰のことを言っているのです!」
そう叫んだフィリアだったが、この光景を見ているシンにはその姉に思い当たる人物がすぐ近くにいることを感じているように見えた。
そして、それを裏付けることを彼は吐き出す。
「僕の本当の名前はエミリオ・カトレット。そうさ、僕はそこのルーティ・カトレットの実の弟さ! さあ、姉さん、僕を斬れるかい?」
「あ、あんた! でたらめもいい加減にしなさいよ! そんな……そんなことが……! 卑怯じゃない!」
しかし、ルーティにはそれがでたらめだとは思えなかったらしい。
どうやらどこかで血の繋がりを感じ取っていたようだ。
「僕にとって血の繋がりなどどうでもいい。僕にとって大事なものを守る。世界がどうなっても構いはしない!」
リオンはシャルティエを抜き払い、スタンに挑む。スタンはやむなく剣を受け、鍔迫り合いになる。
「お前の答えは変わらないのか! 頼むリオン、やめてくれ! このままではお前を殺すことになる!」
「くどい! そして、僕がお前たちに負けると決まったわけではない! いい気になるな!」
リオンは自分の低身長を利用し、素早くスタンの下から斬り上げる。
スタンは体をひねり、ダメージを減殺させた。
「くっ、リオン!」
スタンの左手が炎を纏い、爆炎と化してリオンを襲う。リオンはその一撃を避けた。
しかし、この灼光拳の爆炎から放たれる衝撃波まで避けられなかったらしい。
衝撃と熱がリオンに伝わったのか、リオンは顔を顰めた。だが。
「僕は……僕の全てをかけてお前たちを斃す!」
バックステップを踏み、闇を纏った捨て身の刺突を放つ。魔人闇だ。
「マリアン!」
守りたいものの名を冠するこの技でマリアンを守る。それがリオンの決意だった。
「くっそおおおおおお、魔王! 炎撃破!」
スタンはわずかに身を開いてリオンの刺突を避け、さらに強烈な火炎を纏う一撃をリオンに向けて放った。
リオンはそれを避けられなかった。いや、避けなかった。
リオンは胸に深い火傷を負い、その場に倒れ伏した。
「ぐっ……。」
どこかから水の音が聞こえてくる。この洞穴に水が流れ込んできているのだ。
スタンたちを、そしてリオンをも流してしまうつもりらしい。
「な、何? この音!」
「終末の時計は動き出した…………もう……誰にも……とめ……られ……ない……。」

 
 

ジューダスはその場に倒れていた。
丁度、スタンの攻撃を受けて倒れたような姿勢でだ。その彼の前にはエルレインがいる。
「わからない……何故お前は救いを拒む? 私に協力すれば愛も名誉も手に入るというのに……。」
「お前は……わかっていない……僕はそんなものは……ほしくない……。マリアンこそが……僕の全て……彼女が幸せであれば……何も……いらない……。」
「だから願えと言っている。お前が望みさえすれば愛するものを手にし、己の手で幸せにできるのだ。」
「ふざけるな……そんなもの……ただのまやかしだ……そんなものに……何の意味も……ない……。」
「永遠にこの悪夢を続けるというのだな、リオン・マグナス。」
「だから……お前は……何も……わかっていない……。僕はリオンじゃない……ジューダスだ!」
「ならばお前に……。」
エルレインにこれ以上ジューダスを傷つけさせるわけにはいかない。5人は揃って飛び出していた。
「そこまでだ!」
「ジューダスをこれ以上はやらせない。やらせはしない!」
相変わらずの明暗熱血コンビの二人が啖呵を切る。二人揃って剣を抜き放ち、構えた。
「その男はリオン・マグナスなのだ。いつお前たちを裏切るかもしれないのだぞ?」
「リオン・マグナス? 誰だそりゃ? ここにいるのはジューダス、俺たちの仲間だ。」
ロニはジューダスがリオンだと知ってもそれほど驚かなかった。
さらに、今のジューダスの記憶を見て感じた。
好きでスタンたちを裏切ったわけではない。
彼も守りたいものを守るために、苦渋の選択を悩んだ末に決断した結果だったのだ。
そう思うと彼はリオン・マグナスを許せた。
そして、ジューダスをそれとは関係なく、自分たちの大切な仲間として助けたいと思った。
「あたしたちはただ助けるだけさ。大事な仲間のジューダスをね。」
ナナリーも同じ気持ちだ。ロニたちほどスタンとの関わりは深くないが、リオン・マグナスのことくらいは知っている。
そのリオンの人となりがよく知ることができた。
かつての自分と重ねたのかもしれない。そして、ロニと同様仲間として守りたかったのだ。
「人には誰だって隠しておきたい秘密がある。それを抉り出して苦しめるなんて、エルレイン! 私はあなたを許さない!」
ジューダスは自分とエルレインの間に割って入った5人を眩しげに見上げた。
「お前たち……。」
彼は恐れていた。自分が誰なのか。何をしてきたのか。それを知られることで、どんな言葉を投げかけられるか。
だが、この5人は自分の正体を知っても、いや、自分の正体を知ったからこそ自分を仲間だと言っている。
嬉しくないわけがなかった。
「ジューダス、立てるか?」
ジューダスは赤い瞳の少年が差し伸べた手を取り、ふらつきながら立ち上がる。
「エルレイン、俺たちは絶対にあんたを許しはしない。そして、あんたが歪めた世界を元に戻して見せる。ここにいる仲間たち、カイル、リアラ、ロニ、ナナリー、そしてジューダスと共にだ!」
シンの紅の瞳がエルレインを射抜くように向けられる。
エルレインは無反応を装っていたが、どうやら自分の幻術が打ち破られたことに驚いているらしい。
その隣ではカイルがジューダスに肩を貸しながら言葉をかけていた。
「一緒に歩いて行こう、ジューダス。」
さらに、リアラも言葉を重ねる。
「そして、続けましょう。私たちの歴史を。」

 
 

リアラのペンダントの力で5人は覚醒し、カプセルの蓋をそれぞれ壊して出てきた。
カイルは爆炎剣で斬りつけ、ロニはハルバードで叩き壊し、ジューダスはシャルティエで切り刻み、ナナリーは矢を連射した。
そして、シンは思い切りカプセルの蓋を蹴飛ばして砕いた。
自分の古傷を利用された、そして抉られた恨みを込めた一撃だった。
「克服してきたぜ、忌まわしい過去とやらをよ。」
「ひどい目にあったが……けど一つだけ得られるものはあったみたいだな。
仲間との絆が深まったってことだ。そいつだけは感謝してやるよ、エルレイン!」
ロニとシンが言い放つ。エルレインは6人の行動が理解できなかった。
「わからない……あのまま神の力でまどろんでいれば……これ以上苦しむこともなかったものを……。」
「あんなのが幸せだって? 冗談じゃないね!」
「夢で得られるものなどに何の価値もありはしない。そんなものを押し付けられるなど、僕はごめんだ。」
「俺たちはな、本物がほしいんだ! お前なんかに与えられるものじゃねえ、自分たちで手にする幸せがな!」
「お前たちはそうかも知れない。だが、彼らは違う。」
エルレインは他のカプセルで眠り続ける人々を指し示しながら言う。
「いいえ、彼らは忘れてるだけよ。本物の幸せが何なのかを。」
「いずれ人は幸せが何なのか気づく。俺たちが手出ししなくてもな。現にあんたに歴史を改変される前からそれを起こっていたからな。」
シンはノイシュタットやハイデルベルグ、そして、ホープタウンを思い返していた。
後は幸せになった人々が不幸な人々に手を差し伸べられるかどうかだ。
上から与えるのではない。隣人として手助けをする。これが一番理想の形である。
上からの押し付けでは確実に反発が起きるのだ。
全てが理想通りに動きはしない。しかし、限りなく近づけることはできるはずである。
そして、その障害となるのは。
「今から時間転移するわ。今から1000年前の天地戦争の頃よ。皆、行きましょう!」
リアラの近くに神の眼が安置されている。残る5人はリアラの周りに集まった。
「エルレイン! あんたが自分のしたことを、これから後悔させてやる!」
シンの叫びは時間転移と共に引きちぎられ、そのまま6人は1000年前の世界へと飛び去った。
「愚かな……その先には悲しみしかないというのに……。」