GUNDAM EXSEED_B_19

Last-modified: 2015-04-26 (日) 13:35:36

ハルド達の行動は速やかに行われた。まずアルマンドの死体を分かりやすい場所に置いておき、誰もが気づくようにした。
すると、セーブル解放戦線では誰がアルマンドを殺したかでもめ出し、果ては次のリーダーに誰がなるかで揉めだした。そして最終的には仲間割れで、身内同士での銃撃戦である。
ハルドらはその隙にさっさとセーブル解放戦線のアジトからは逃げ出した。もう放っておいてもセーブル解放戦線は潰れるだろうという確信がハルドにはあった。
「しばらくは小勢力が湧きだすと思いますが、コロニー警備隊が自由の身になれば、簡単に鎮圧できるでしょう」
クリスはハルドに怯えながら、そう言うのだった。
ハルドらはクリスの案内で代表の息子が保護されている場所に辿り着いた。代表の息子は見た感じでは頼りなさそうな感じではあったが、目には確固とした決意があった。
その場所にはクリスが保護したコロニー警備隊もいた。ハルドは代表の息子たちと姫、ミシィ、コナーズを入れ違いに保護場所に預ける。
クリス曰く、ここがコロニーでは一番安全だからだ。ハルド達にとっての最大の弱点は姫たちであるから、一番安全な場所に置いておくことは悪いことではないと思った。
そして、代表の息子とコロニー警備隊を仲間にしたハルド達は、セーブル解放戦線のアジトに戻った。警備隊にとってはMSの調達、ハルドとセインにとっては乗機に乗るために戻って来たのだ。
セーブル解放戦線アジト内では未だに仲間割れの銃撃戦が続いていたので、MSを奪取するのは容易いことだった。
奪取すると同時にハルドらはテレビ局に向かった。だれの邪魔もない。今のところハルドらの企みを把握するものはいないからだ。問題となるのは代表の息子が放送を開始してからだ。
動く奴はすぐに気づいて動く、それがハルドとクリスの一致した見解である。そして、起こりうる事態から代表の息子を守らなければならない。
「僕の読みだと人間兵力はそれほど多くはありませんが確実に来ます。ハルドさん、よろしくお願いします」
テレビ局前に着くと、クリスはハルドにそう言った。やはりハルドに話しかける時のクリスの声には震えがあった。
ハルドは何も言わず、代表の息子のそばでボディガードをしながら、ハルドとクリスは局内へと入って行った
残されたのはセインとセインの乗るブレイズガンダムそしてコロニー警備隊のMSだ。
来るならどこからでもかかってこい。セインはそう言いたかったが、そんな余裕はとてもではないがなかった。
局内に入るなり、クリスはハルドらと別れる。
「色々と面倒な手続きをしてきますよ」
そう言って別れたのだ。ハルドは代表の息子をさっさと連れていく。会見場らしき場所は既にセッティングされていた。これもクリスの手腕だろうか、中々に使える奴だとハルドは思った。
「じゃ、よろしくお願いします」
そう言うと、ハルドは代表の息子を会見台の上に立たせ、自分は一番護衛がしやすい場所を陣取る。
今回はハルドも完全武装だ。MSに積み込んでおいた銃器を全て持ってきている。
アサルトライフルに拳銃2丁とナイフに剣だ。アサルトライフルは消音機を付けており、静かに人間を殺せる仕様にしてある。

 
 

「いいぞ、早く来い」
ハルドが敵の到来を待ちわびる中、代表の息子はスピーチの原稿にもう一度目を通していた。戦い方は違えども、彼にとっても一世一代の勝負の場面だろう。ならばきちんと護衛を果たすのが自分の務めだとハルドは思った。
「電波ジャック、オーケーです。GOの合図で映像と音声がコロニー中に届きます」
クリスの声がテレビ局内全てに響き渡った。
会見台の上では代表の息子が緊張した面持ちで立っている。代表の息子はクリスの言葉に対して頷くと、ゆっくりと声を発した。
「セーブルの皆さん。私の声が聞こえているでしょうか。私は亡くなったこのコロニーの代表、デイビス・マッケンの息子、リックス・マッケンです。まずは急な放送で市民の皆さんにご迷惑をおかけしたことをお詫びします」
そう言うと、代表の息子は頭を下げた。そして言葉を続ける。
「皆さんもご承知の通り、現在セーブルは危機的な状況にあります。セーブル解放戦線を名乗る、ならず者たちと、セーブルを公国に売ろうと画策する公国恭順派の抗争が起きているためです。
この抗争によって市民の皆さんには大変な迷惑がかかっていることは承知しています。ですが現在、セーブル解放戦線は壊滅の状態にあり、セーブルの危機の1つは取り除かれました。残る脅威は恭順派の存在のみです。
そこで皆さんにお願いがあります。どうか起ち上がってくれませんか。このセーブルを守るために」
いよいよ本題である、ハルドはそろそろ敵が来ると予感していた。

 

「ありゃー、こうきちゃうかー」
公国恭順派のアジトでロウマ・アンドー大佐は代表の息子とやらの放送を見ていた。恭順派のリーダーの小男はロウマに対して伺いたてるような目を向けていた。
「俺を見んなよ。自分で頑張りなさい」
とは言っても、これを見逃すとせっかくセーブルを手に入れかけているのに、台無しになる。
このセーブルでの作戦は聖クライン騎士団の正式な任務ではなく、ロウマの遊びであるが、ロウマとしては貰えるものは貰っておきたい。ここで台無しになるのも勿体ない気がしたので、命令を出すことにした。
「ドロテス、ギルベール、ジェミニと何機か連れてテレビ局を潰してこい。あと、歩兵何人かで、あの息子さんを殺してこい」
まぁ、解決法としては最悪な部類だが、遊びなのでこの程度で良いだろう。ロウマはそう思うのだった。
ドロテスとギルベールは仕方なくロウマの命令を聞いて、MSに乗り込んだ。MSのコックピットからはジェミニという禿頭眉無しの双子が歩いているのが見えた。
「俺、アイツら嫌い」
「奇遇だな。俺もだ」
ジェミニはロウマが連れてきた得体のしれない双子だ。一言も発しないし、何もない時はただ突っ立っているだけの不気味な存在であり、ドロテスもギルベールもその存在が気持ち悪いと思っていた。
「まぁ腕は立つんだから、役に立ってもらうだけ立ってもらおう」
ドロテスがそう言うと、ギルベールは不承不承に同意するのだった。
「しかし、テレビ局かアイドルとかいるか?」
「いないだろう。今の状況では」
「おお、だから潰してもいいってことか」
そういうことなのかとドロテスは思ったがギルベールは馬鹿なので放っておくことにした。

 
 

「ドロテス・エコー。ザイラン出撃するぞ」
ドロテスはそう言って、ロウマから貰った新型機を自分専用にカスタムした褐色のザイランを発進させる。続いてギルベールだ。
「ギルベール・サブレット。ザイラン出すぜ」
ギルベール専用にカスタムされた赤いザイランが公国恭順派の基地から出撃する。それに続いてジェミニたちののザイランとクライン公国の量産機ゼクゥドが何機か発進する。そして歩兵を乗せた車両も発進していった。
ドロテスとギルベール先行量産されたザイランに乗っているわけだが、このザイランという機体はクライン公国の次期主力量産機となる機体だった。
しかし、ドロテスとギルベールはザイランに問題があると感じていた。2人の共通の見解はして機体のパワーと機動性は高いが、機体自体は重くて扱いにくいというものだった。
ゼクゥドより性能は高いが、ゼクゥドからザイランへの乗り換えは普通のパイロットだったら戸惑うだろうと2人は感じていた。
だが、エースパイロットであるドロテスとギルベールには、この重量感も悪くはないし、扱いにくさ、も別に感じていないため、問題はなかった。
「そろそろテレビ局だが、うん、雑魚が多いな」
ドロテスはテレビ局が視界に入ったことを確認し、その周りにいるMSの存在も確認していた。
「さっきのガンダムもいるぜ」
ギルベールが言う。それはドロテスも確認していた。
「今度こそ狩るか?」
「いいねぇ」
ドロテスは景気づけに煙草に火を付けると口に咥え、機体を先ほど戦ったガンダムタイプに向けて突進させた。ギルベールは別方向からガンダムを狙うべく、動き出した。
セインとブレイズガンダムにとって、絶望的な時間が始まる瞬間だった。

 

「本来、コロニーの有り方は自治と独立に有ります。クライン公国にこのコロニーを明け渡すということはコロニーあり方に反するのです。そしてコロニーの有り方を守って来た先人たちへの裏切りにもなります。
どうか皆さん、起ち上がってください。このコロニーを守るために!……」
クリスは人を使って放送をコントロールしていた。
「はい、ここでサクラのデモ隊の動画を準備」
そうクリスが命令すると、スタッフが動画を流す準備を始めた。
「皆さん、ありがとうございます。私の呼びかけに応えてくれた人たちがいるようです」
「はい、動画を流してください」
クリスの合図でサクラ役のデモ隊が行進している映像がコロニー中に放送された。サクラ役は金で雇ったが、クリスが思ったよりも上手くやってくれているのでありがたかった。
「皆さん、どうか、お願いします。このコロニーを守るため、どうか力を貸してください!」
スピーチなのかお願いなのか演説なのか分からないものはハルドの耳にも聞こえていたが、そちらに集中するわけにも行かなかった。
なぜなら恭順派の歩兵がテレビ局に入って来たからだ。とりあえず、先行し偵察にきた兵士を剣で串刺しにし、顔の皮を剥いで、テレビ局の入り口あたりに吊るしておいた。
今日1日で、人を殺しすぎているせいでハルドも若干、正気のふりをしているのが辛くなってきた。腹の中を何かがカリカリとかいているような気がする。
「そろそろ限界だぞ。入ってきたら問答無用で殺すからな!」
ハルドはテレビ局の入り口に向かって叫んだ。本当に限界である。多分、これ以上殺したら、正気じゃなくなる。というか正気のふりができなくなる。そんな予感がハルドにはあった。

 
 

「うーん、だめかな、こりゃ」
ロウマは帰る準備を始めようと思った。
今回は、セーブルというコロニーに、ちょっとした火種があるのを感じ取って、少し火の勢いを強めようと色んな人間を煽ってみた。
アルマンドという男は馬鹿で良かったし、恭順派のリーダーも自分が賢いと思っている小物なので、問題はなくことは進み、セーブルはぶっ壊れる寸前だった。
1つのコロニーがぶっ壊れるところをロウマは見たくて、この遊びを企画したが、多分、ここからは、上手く行かないし、このコロニーがぶっ壊れることもないだろうとロウマは確信していた。
なので、ここには用が無い。ブレイズガンダムがこのコロニーにあるのは予想外だが、ブレイズガンダム関係はロウマの管轄ではないので放っておくのだ。
もう帰ろう。ロウマはそう決めた。ドロテスとギルベールもやばくなったら勝手に帰るだろうし、放っておいても問題はない。ジェミニは……もういらないので、このコロニーに捨てていこうとロウマは思った。
「さて、帰ろうか」
そう言って、ロウマは帰り支度を本格的に進め始めたのだった。

 

「よう、三流」
ドロテスのザイランはブレイズガンダムに飛びかかっていた。ドロテスは何となく飛び蹴りをしてみると、ブレイズガンダムはシールドでそれを防御したのだった。シールドはセーブル解放戦線にあったものを勝手に持ってきて使っていた。
「これを盾で受けるなよ。判断が悪いな」
ドロテスの言う通り、MSの質量を盾で防げるわけもなく、ブレイズガンダムは大きく吹き飛ばされた。
「くっ!」
遠距離戦ではビームライフルは当たらない。セインはそう判断して、ブレイズガンダムにビームライフルを腰にマウントさせ、右手にビームサーベルを持たせる。
「接近戦か?別にいいが」
ドロテスの声はセインの耳にも届く、セインのブレイズガンダムと通信回線を繋いでいるからだ。
「はぁぁぁぁっ!」
サーベルで切りかかるブレイズガンダムに対し、ドロテスのザイランは両手に一本ずつビームアックスを持って迎撃の構えを取る。
サーベルの斬撃に対し、片手のビームアックスで受け止め、ドロテスのザイランはもう片方のビームアックスで反撃に出る。だが、ブレイズガンダムはそれよりも速くシールドでザイランを殴っていた。
「おう?」
ドロテスは少し驚いたが、別に問題はない。少しザイランの体勢が崩され、ビームアックスでの反撃が出来なかっただけだ。
「接近戦は少しは得意か?俺もだ」
殴られ、体勢を崩されながらも、ドロテスのザイランは足で、ブレイズガンダムの膝を蹴り飛ばしていた。
「あ?」
セインは急に機体がガクンとなったことの理由が分からなかった。そして、急なことに驚き、ブレイズガンダムのビームサーベルの圧力を弱めてしまった。
「しまった!」
そうセインが言った瞬間、ドロテスのザイランがビームアックス2本を振り下ろす。ブレイズガンダムは咄嗟にシールドでガードする。
「盾を使いすぎだ三流」
ビームアックスの圧力で盾を抑えつけられ、ブレイズガンダムは身動きが取れなくなっていた。
「そして、一本釣りぃ!」
急に別方向からの攻撃がブレイズガンダムを襲った。それは4本爪の大型クローである。それがブレイズガンダムの頭を鷲掴みにした。

 
 

「なんだ!?」
セインが驚くと同時に機体が凄まじい勢いで引っ張られる。ブレイズは何も出来ずに引きずられ。そしてビルに叩きつけられると、今度はビルの屋上へと引っ張りあげられるが、途中で止まる。
ブレイズガンダムはビルに吊り下げられた形になってしまった。
「俺を忘れてたろ三流ぅ!?」
「俺も忘れてたぞ。ギルベール」
「ふざけんな、友達だろ!」
セインのブレイズガンダムを吊り下げているのはビルの屋上に立つギルベールのザイランであった。
ギルベールのザイランはバックパックを始まりにし、左脇の下からワイヤーが伸びており、その先端には4本爪の大型クローが付いていた、それがブレイズガンダムの頭を鷲掴みにしていた。
この武装はギルベール専用のザイランに装備されたウインチクローという武装である。
ドロテスのザイランはビームライフルを2丁持ちし、ビルに吊り下がっているブレイズガンダムに狙いを定めていた。
「悪くない的だ」
言いながらドロテスはビームライフルを連射した。
「くっそぉ!」
ブレイズガンダムはスラスターを噴射し、クローから逃れようともがくが、スラスターの推力と同等のパワーでウインチクローはワイヤーを巻き上げていた。
「無駄ぁ、戦艦を引っ張るようなパワーのウインチだぞ!」
それだけのパワーを得るために、ギルベールのザイランは大型のバックパックを装備しているのだ。ウインチクローのパワーを得るためだけにだ。
「だったら!」
機体をもがき動かしながら、セインは判断を変えた。ビームサーベルをしまい、腰にマウントしたビームライフルを抜き、ビルの屋上のザイランめがけて、やたらめったにビームを撃った。
「うわ、あぶね」
ギルベールのザイランはクローを離して、避ける。拘束が外れたブレイズガンダムそのまま地面に落ち、無事に着地した。だが
「安心は早いな」
ドロテスのザイランがブレイズガンダムにタックルをしかけ、直撃させる。ブレイズガンダムはタックルの衝撃に弾き飛ばされた。
セインは急いで機体の体勢を整える。だが、体勢を戻した時には目の前には赤いザイランがいた。
ギルベールのザイランである。ギルベールのザイランは左肩のシールドの先端を、ブレイズガンダムの胸部に押し当てていた。
「デッドエンド!」
ギルベールが叫ぶと同時に、シールド先端から杭が撃ちだされた。それは超高速であり弾丸の速度を超え、その衝撃は再びブレイズガンダムを吹き飛ばす。
ギルベールのザイランの左肩にはシールドが装備されているが、実際の所、それはパイルバンカー、金属の杭を超高速で撃ちだす機構が内蔵された、盾というよりは一撃必殺の武装であった。
吹き飛ばされたブレイズガンダムの中、セインはあまりの衝撃に意識を一瞬だが失っていた。
セインは意識を回復させると同時に、機体のダメージチェックを急ぐ。あれだけの衝撃をうけたのだから機体が無事であるはずがない。
そう思って確認すると、バリアのゲージが大きく減少していた。つまりは装甲板を貫通したということだ。セインはそこまで考えが至らなかったが、ブレイズガンダムの胸を確認してゾッとした。装甲板が完全に貫通していたのだ。
胸部の装甲は特別厚くしたと聞いたが、それを貫通するということは、バリアがあっても貫通するかもしれないとセインに恐怖を感じさせた。絶対にあの攻撃に当たるわけにいかない、セインは恐怖をもって、心に決めた。

 
 

「おいおいドロテス生きてんぞ、アレ」
「お前のアレと同じで、それの硬さが足りなかったんだろう」
ドロテスとギルベールはふざけた会話をしながら、ブレイズガンダムに向けて機体を動かす。
先に攻撃を仕掛けるのはギルベールのザイラン。
「インパクトぉ!」
赤いザイランが右手に持った棘つきの鉄球を投げる。噴射機構を持ち、弾丸の速度で撃ちだされる鉄球をブレイズガンダムは、セインの咄嗟の判断でシールドを使い防ぐ。
だが鉄球の威力は凄まじく、一撃でシールドはひしゃげ、使い物にならなくなる。セインは躊躇わずシールドを捨てた。だが、その間に、ドロテスのザイランが距離を詰めていた。
「終わりはしないだろうが」
ビームアックスの一撃がブレイズガンダムの胴体に直撃する。装甲板がビームアックスの刃を防いだ。ブレイズガンダムは左腕を振り回し、ドロテスのザイランを払いのける。
だが、そこに隙が生まれ、再びギルベールのザイランウインチクローがブレイズガンダムに襲い掛かる。
セインは機体を操り、ブレイズガンダムはウインチクローを回避した。しかし、回避した先にドロテスのザイランがバズーカを2丁持ちで一斉射撃する。
これは避けられなかった、ブレイズガンダムは砲弾を食らい体勢を崩す。そこへギルベールのザイランが接近、左肩のシールドをブレイズガンダムに押し付ける。
マズい!?セインがそう思った瞬間には遅かった。
「デッドエンド♪」
パイルバンカーが超高速で撃ちだされる。再び尋常ではない衝撃がブレイズガンダムを襲い、胸部の装甲板を貫き、ブレイズガンダム本体に杭が当たる。
衝撃の中でセインは思った。勝てるわけがない。こいつらはバケモノだ。
意識が飛びかける中、セインがコックピット内のモニターに目をやるとバリアのゲージは0になっていた。
「あっ」
とセインは愕然としても、敵は攻撃を止めることなど無い。セインはマズすぎる状況に機体を起こした。
だが、ブレイズガンダムが立ち上がった直後にギルベールのザイランのウインチクローが再びブレイズガンダムの頭を鷲掴みにする。
「そろそろ試してみるか」
鷲掴みになると同時にドロテスのザイランがブレイズガンダムにタックルを仕掛け、機体を掴む。
何をする気だ?とセインが思った瞬間、2機のザイランは自分の方へとブレイズガンダムを引っ張った。片方は頭を鷲掴み、片方は体を掴み、引っ張る。
バリアの防御が無い状態でそんなことをされたら、どうなるか。結果は単純であった。ブレイズガンダムの頭が力任せに首から引きちぎられた。

 
 

「あ」
セインは呆然とするしかなかった。メインカメラがサブカメラに切り替わっても、立ち直れない。自分の力の象徴がこんなに簡単に砕かれるのか、セインは自分の中の何かが崩れる気がした。
セインが呆然としていても、戦いはまだ続いている。ドロテスもギルベールもセインの事情など気にはしない。
「俺、左腕な」
「では俺は右腕だ」
ギルベールのザイランは右肩のシールドの形状をしたハサミの武装を展開し、ドロテスのザイランはビームアックスを持ち、ブレイズガンダムに突進する。
両肩の装甲板は、先ほどの戦いで破壊されている。バリアも失っている以上、ブレイズガンダムの両肩を守るものは何も無い。
「はい!」
「一丁あがりというやつだ」
ギルベールのザイランのハサミが肩を潰して破壊し、ブレイズガンダムの左腕が地面に落ちる。ドロテスのザイランのビームアックスが右肩を切り落とす。
結末はあまりにも呆気なく、バリアを失っただけで、ブレイズガンダムはすぐに戦闘力を失った。これはブレイズガンダムの性能が低いわけではない。ブレイズガンダムの性能は2機のザイランを遥かに凌駕している。
では、何が勝敗を分けたのか、それは単純にパイロットの技量だった。ドロテス、ギルベールの2人とセインの間には埋めがたいパイロットとしての能力差があった。
「ちくしょう……」
セインは自分が弱いことを思い知らされた。そして何もできない存在であることも思い知らされた。
セインに出来ることといえば、戦うことの出来なくなったブレイズガンダムのコックピットの中で自分の無力に対してすすり泣くことだけだった。
「で、どうすんの、コレ」
「持って帰るか、機体はいいしな」
ドロテスとギルベールは戦闘力を失った機体を前に、悠長に相談していた。パイロットも戦意喪失していると思ったから、こうして2人は悠長にしていたのだった。
「俺、腕と頭持ってく」
「なら俺は本体か、おとなしくしてろよ、三流」
ドロテスはセインに呼びかけた。セインは三流と言われても反論する気力も起きなかった。実際に自分は三流だと思い知らされたからだ。もう好きにしてくれ、セインは気力を失っていた。
「まず、これ持って帰る?」
「いや先にテレビ局だ。忘れるな」
ドロテスとエコーが相談をしながら機体をテレビ局の方へ向けた、その時だった。突然のビームが2機を襲ったのは。2機は即座に動き、ビームを回避する。
「新手か?」
「みたいじゃん」
ドロテスとギルベールの2機のザイランが戦闘の構えを取った先、そこにいたのはセインの良く知る機体。そして良く知るパイロットの乗る機体があった。
「痛めつけ方がえげつないな。もっとシンプルにやれよ」
セインの良く知る声が聞こえた。セインは思わず叫ぶ。
「ハルドさんっ!」
2機のザイランに向かい合う機体、それはフレイド。ハルドの知る限り、最強の男であるハルドが乗る機体。それが、そこにあった。

 
 

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