GUNDAM EXSEED_B_20

Last-modified: 2015-04-26 (日) 13:37:14

「なんかヤバい気がするんだけど」
「奇遇だな、俺もだ」
ドロテスとギルベールは突如として現れた、初めて見る機体に警戒を強めていた。敵はザイランよりも大型の機体である、機動性は低いはずと2人は考えたが、それを差し引いて考えても、2人は嫌な予感しかしてなかった。
「多分だけど、俺らより圧倒的に強くないかな」
「奇遇だな、俺もそう感じていた」
2人が話すの機体に関してではない。パイロットの話しだ。2人は嫌なプレッシャーを感じていた。だが2対1で逃げ出すというわけにもいかない。
逃げても2人の上司のロウマは咎めないだろうが、一生ネタにされ続け嫌味を言われるのは確実だった。それは嫌だったので、ドロテスとギルベールは戦う覚悟を決めた。

 

「さて、やるか」
ハルドは極めて冷静であった。ここに来られたのは、テレビ局に侵入してきた歩兵を皆殺しにしたからであり、その過程はハルドにとってたいしたことではないので述べるに値しない。
「運が良いのか、悪いのか」
なんとなくハルドはそう思った。セインが死ぬ前に来られたのは運が良いと言えるのか、それともセインがズタボロになる前に来られなかったので運が悪いのかハルドは分からなかった。
「まぁ、久しぶりに本気でやるMS戦だ。せいぜい楽しむとするか」
セインも動けないし、邪魔もなければ気を使う必要もないわけで、気が楽と言えば楽なので総合的に見れば運が良いのかとハルドは思った。
そして、そんなことを思っている最中に敵は動いていた。
褐色の機体がビームアックスを持って突っ込んでくるが、赤い機体は見えないので、おそらく褐色は囮で、赤が何かしかけてくるだろうとハルドは思った。
ハルドはフレイドにバックステップをさせ、褐色のビームアックスを回避させる。褐色は続けざまに攻撃してくるが。ハルドには欠伸のでる遅さだったので、攻撃が来る前にフレイドが蹴り飛ばした。
そして褐色の攻撃と同時に背後から、赤いのが鉄球を投げてきたが、予想がついたので、機体を思い切り前屈させる。すると、鉄球は前屈状態のフレイドの真上を通り過ぎていった。
フレイドは前屈状態からさらに体を前に倒し、その場で宙返りをする。すると一瞬だけだが、機体が背後の敵の方を向くので、その瞬間に腰のグレネードを発射する。
「あぶねっ」
敵は必死で避ける。その場で宙返りをしたフレイドは、着地に失敗し倒れるが、ハルドは別に構わなかった。
「もらった!」
褐色の機体のパイロットの声がするが、何を貰ったというのか、ハルドには疑問だった。
フレイドは倒たれ状態のまま、向かってくる褐色に前腕に内蔵されたビームガンを撃つ。褐色は慌てて回避しながら、ビームアックスをしまい、ビームライフルを2丁抜くと、倒れたままのフレイドにライフルを向けようとする。
だが、それだけの時間はハルドが機体を立て直すには充分であり、褐色のがライフルを向けたタイミングにはフレイドは立ち上がり、前腕のビームガンを撃っていた。ビームガンの一発がライフルに直撃し1丁のライフルを破壊する。

 
 

「遅すぎないか、お前ら?」
ドロテスとギルベールはこう返したかった、お前が速すぎるんだ、と。
「なんか無理な気がすんだけど、完全に背後を取ったのに、回避しながら反撃してくんだけどコイツ」
「奇遇なことに俺も無理な気がする。攻撃が当たる気が全くしないぞ」
一応、まだ喋る程度の余裕は2人にはあったが、限界も近いと2人は感じていたので、2人は最後の手段を取った。
「ジェミニ、手伝え!」
ドロテスは警備隊相手に戦っていた双子を、こちらの戦いに呼んだ。気持ちは悪いがジェミニもエースだ。エース4人がかりで戦って倒せないなら、コイツは本物のバケモノだとドロテスは目の前の大型の機体を見ながら思った。
「まぁ、いいんだけどよ。何人がかりでも。結局、俺より弱いのには変わりないんだから」
フレイドが回避行動をとる、新手のMSの撃ってきたミサイルに対してだ。背中のスラスターを全開にして、地面を滑るように移動し、ミサイル全てを回避しながら、フレイドも反撃にバックパックのミサイルを撃つ。
その時、別の機体がフレイドの真上からフレイドにビームライフルを撃つが、それもハルドは見えているので、問題なく回避。
回避した先に褐色の機体が突っ込んできて、ビームアックスで切りつけるが、それも読めているので、ステップを踏んで回避し、回避した先に飛んできた鉄球は前腕に内蔵されたビームガンのビームを当てて軌道を変更させて、逸らした。
ミサイルを撃ってきた機体がビームライフルで狙ってきていたが牽制でビームガンを撃って撃たれるのを阻止、真後ろで褐色の機体がバズーカを構えていると思ったので、ハルドはバックパックのミサイルを背後に発射し、褐色の機体の動きを止める。
そこに赤い機体ともう1機別の機体がフレイドに接近戦を仕掛けてくる。赤いのはハサミらしき武器でもう片方はビームサーベルである。
赤い機体ではない方が速いなとハルドは判断した。ビームサーベルも持った機体は横薙ぎにサーベルでフレイドを切り払おうとしたが、フレイドは屈んで回避する。
大型の分素早く機体を動かす必要があるがハルドには問題が無かった。回避されたことで隙が出来たところにフレイドは蹴りを入れた。その衝撃でビームサーベルを持った機体は弾き飛ばされる。
背後に赤い機体が来ていることは分かっていたので、前腕部のビームガンの銃口からビームサーベルを放出させると、振り向きざまに赤い機体を切った。狙いは甘かったがハサミの部分を切り裂き、同時に赤い機体に蹴りを入れて、こちらも弾き飛ばす。
そろそろ、褐色が復帰して攻撃するころと読んだハルドは機体を動かし、その場から移動する。
「頑張ってんよな!?俺ら頑張ってんよな!?」
「頑張ってるが、どうしようもないぞ」
ドロテスとギルベールは心が折れそうだった。本気も本気の全力で相手を倒しに行っているが全く相手にならない。ジェミニの援軍を呼んで4対1にしても状況は変わらないそのことに、2人ともゲンナリするしかなかった。

 
 

「人間じゃない……」
セインは一連のハルドの動きを見ていて、そう思った。ドロテスという男もギルベールという男もセインと戦った時とは比べ物にならないくらい本気だとセインは見ていて思った。機体の動きのキレがセインと戦った時とは全く違うのだ。
しかし、それでもハルドには遠く及ばないのだ。では自分とハルドの差はどれくらいなのか、セインには見当もつかない。そして何故あんな手の届かないものを目指そうとしてしまったのだろうとセインは自問するしかなかった。
「僕は……」
何故かセインは涙が溢れてきた。そして自分がどれだけちっぽけな存在なのかと思い知らされた気持ちになったのだった。

 

スラスターを全開にし地面を滑るように移動するフレイド、その後ろを4機のエース機が追う。
「敵の機体の名前はザイランか……別に必要ないデータだな」
クリスから通信でデータが送られてきた。その間も背後からはビームやら砲弾やら、ミサイルが飛んでくるが、ハルドはだいたいどこに攻撃が飛んでくるか予測がついたので簡単に回避できた。
フレイドは思ったよりも良い機体である。大きいのは問題になるかもしれないがパワーがある分、戦闘では有利に働くことが多いだろうと思った。しかし量産には向かない機体であるというのが、ハルドの見解である。
機体のパワーを充分に扱いこなせるパイロットを養成できるか分からないのだから、量産する必要はない気がした。エース向けに数機あれば充分というのがハルドのフレイドに対する見立てである。
そんな見立てをしている間も敵の攻撃をは続いている、特徴のない2機が潰しやすそうだなとハルドは思うと、機体を急速反転180度ターンさせると追ってくる4機に向けて、フレイドの武装を一斉射した。
バックパックのスラスターユニットが展開しミサイルとビーム砲、そして肩のアーマーがスライドし三連装のビーム砲が展開され発射、そしてふくらはぎもスライドしミサイルが発射される。
道は狭く、逃げ場はない。この攻撃を行うためにハルドは機体をここまで移動させたのだ。
シールドを持つ赤い機体はその場にとどまり、防御に徹し、特徴のないザイランの1機もシールドで防御に徹していた。
しかし、シールドのない褐色のザイランともう1機の特徴のないザイランはシールドを持っていないため、空中に逃げざるをえなかった。
「ナイス回避」
ハルドは言いながらフレイドのスラスターを全開にさせながら跳躍させる。
空中でも2機のザイランは姿勢制御を完璧に行っている流石エースだとハルドは思ったが、別にたいしたことじゃないと冷静に考え直した。
そして、空中にいる特徴のないザイランに肩とバックパックのビーム砲を撃つ。敵機は直線に飛んでくる、それを回避した。だが――
「そういう武装じゃねぇんだよ」
ハルドが言うと同時に回避したビームが方向を曲げ、敵機を追う。
特徴のないザイランは追ってきたビームをもう一度回避する。だが、ビームは更に追いかけ、三度めは回避できずに直撃する。
だが、ダメージは極めて軽微で装甲を焦がす程度であったが、直撃した驚きからザイランは脚を止めてしまった。

 
 

「隙をいただき」
フレイドが腰のグレネードを動きの止まったザイランに発射し、それはザイランの頭部に直撃し、頭部を粉砕する。頭部が粉砕されたことでメインカメラとサブカメラが入れ替わる瞬間、動きに乱れが生じる。
そこをハルドは見逃さず、フレイドを突進させる。フレイドの腕にはビームサーベルが出力されていた。
ザイランのメインカメラがサブカメラに切り替わった瞬間にはザイランのパイロットであるジェミニの目の前のモニターにはフレイドの姿があった。
ドロテスのザイランがジェミニの機体を守るように射撃をするが、完全に死角から撃ったはずのビームライフルのビームが回避される。
ジェミニのザイランもビームサーベルを抜き、身を守るように切り払うが、フレイドは突進しながらも、容易く回避し、ビームサーベルでザイランの右腕を切り落とす。
そして突進の勢いのまま、ザイランの横をすり抜けるとジェミニのザイランの背後で、急停止し、その場で宙返りしつつ、バックパックのミサイルとビームをザイランの背中に全弾直撃させた。
フレイドの持つ最大級の火力による攻撃にはザイランも耐えることが出来ず、機体を爆散させる。
そしてザイランの爆発の煙の中からビームがドロテスの機体に飛来する。ドロテスはかろうじてこれを回避する。だが、反撃のタイミングはない。
「ジェミニの1人がやられたぞ」
「見てりゃわかんよ!」
4対1が3対1になった、冗談ではないとドロテスもギルベールも思う。ジェミニの最後は呆気なかったがジェミニとて、腕が悪いわけではない、敵の腕が怪物すぎるのだ。
ドロテスは機体を地面に着地させる。この怪物相手に、360度の全方位に対して注意を向けなければいけない空中で戦うのは絶対に嫌だったからだ。
「ドロテスさぁ、遺書書いてある?俺書いてない」
「奇遇だな、俺も書いてない」
ドロテスは空中の敵を見据えながらギルベールと話す。
「書いときゃ良かった」
「奇遇だな、俺もそう思う」
空中の敵機は悠々と地面に降りてくる。敵がいるなど眼中にないように。まぁ仕方ないとドロテスは思う。実際、全く相手になってないのだから。
ドロテスは残ったジェミニがどうなのかを様子を見た。片割れが死んだのに、全く動揺した様子が見られない。全く気持ちが悪い奴だと思ったが、大切な戦力だから気持ち悪いと思うのは失礼かと反省した。
敵機が地面に着地した。それがドロテスたちの攻撃の再開の合図となった。
「さて、続きか」
フレイドは赤いザイランが発射した、ウインチクローを悠々とステップで回避、回避した先に褐色のザイランがビームライフルとバズーカで射撃、
それもスラスターを急速噴射し、急速回避、避けた先に残ったジェミニのザイランがビームライフルを撃つが、フレイドは敢えて、脚を止め、体捌きだけでビームを回避しながら、反撃でビームガンを撃つ。それと同時に肩のビーム砲を発射した。
フレイドのビーム砲は特殊であり敵機をホーミング――追尾するのだ。

 
 

追尾すると言っても限界があり、ハルドが聞いた限りでは2回曲がった時点で追尾は終了、そして欠点として曲がる度に威力が弱まる。2度曲がると威力は最低で装甲を焦がす程度の攻撃力しかなくなる。
だが、ハルドは使える武装だと思った。牽制などには最高の武装であり、初見殺しの武装であると感じていた。
現にジェミニの乗ったザイランは回避行動を取るが、ビームが曲がり追尾する。追尾するほうに気を取られている内に、ザイランが回避しそうな方向を予測し、グレネードとふくらはぎに内蔵されたミサイルを発射する。
「置き撃ちってやつだ」
追尾するビームに気を取られたジェミニは回避行動を取って移動した先には背後からミサイルとグレネードが来ていることに気づかず、直撃を食らう。
ジェミニの乗ったザイランはバックパックを含む背中側を大きく損傷し、まともな戦闘機動は取れなくなった。
なので、ハルドはその機体にもう一度狙いを定め、両腕のビームガンとバックパックのビーム砲を撃つ。
着弾の衝撃で動けなくなっていたジェミニのザイランはその直撃を受け爆散したのだった。
「さて、2対1に戻ったわけだが、何か言いたいことはあるか?」
ハルドは援軍でやって来た2機を撃墜したうえで、相手に向かって通信で呼びかけたのだった
「いや、なにも」
「こちらもなし」
ドロテスもギルベールも後は死力を尽くして戦うだけだと覚悟を決めた。だが勝てないということは理解できていた。
ドロテスのザイランがビームライフルを片手にバズーカをもう片方の腕に持って連射する。それに対してフレイドは回避しながら前進する、大げさに避けるのではなく体捌き――機体を反らすなどの最小限の動きでビームや砲弾を躱して突っ込んでいくのだ。
冗談ではないとドロテスは思う。相手の機体の方が一回り以上は大きいのに動きの身軽さはこちらを遥かに凌駕している。これがパイロットの技量の差かと舌を巻く思いであった。
フレイドは突進しながら、ふくらはぎに内蔵されたミサイルを発射する。狙いは前にいる褐色のザイランではなく、不意打ちをするために移動している、赤いザイランだ。
適当に赤いのがいそうな場所にミサイルを撃った。当たりはしないが警戒で動きが遅くなる。ハルドはそれを狙った。
ドロテスは接近戦の覚悟を決めた。自機の両手の銃器を捨て、ビームアックスを抜き、相手の機体と同じように前に出る。
「うおぉぉぉぉ!」
ドロテスが叫び、褐色のザイランがビームアックスを振るうが、フレイドは突進の勢いのまま跳躍し、褐色のザイランを飛び越える。ドロテスは即座に機体を振り向かせるが、それでも遅かった。振り向いた瞬間には褐色のザイランの右腕が切り落とされていた。
「遅いな」
ハルドは思ったことをそのまま述べた。別に他意はない。
「ドロテス!」
赤い機体が遅れて戦闘に復帰し、鉄球を放つ。だが、ハルドはそれは見飽きていた。フレイドのふくらはぎのミサイルと肩のビーム砲を鉄球に当たるように発射した。これでふくらはぎのミサイルの残弾はゼロだ。

 
 

発射されたミサイルとビームは鉄球に直撃し、鉄球を粉砕するが。ミサイルの爆発の煙の奥から別の物体がフレイドに向けて飛来する。それはギルベールのザイランのウインチクローであった、ハルドはこれもつまらない武装だと思った。
フレイドは飛来してきたウインチクローの爪を逆に掴んだ。ウインチクローの速度は弾丸と変わらないが、ハルドは別に掴むことに困難を感じなかった。掴んだウインチクローはビームガンで即座に破壊した。
これにより、ギルベールのザイランは武装のほとんどが使用不可能になり、残るのは左肩のシールドのパイルバンカーだけであるが、この敵に当たる気がギルベールはしなかった。
「こちらを忘れるな!」
右腕を失ったドロテスのザイランが左腕一本で切りかかるが、フレイドは長い脚で蹴り飛ばすだけであった。
そして同時のタイミングで赤いザイランが動いているがこちらは長い腕で殴り飛ばした。
「弱すぎるんだよ、お前らは」
ハルドは通信で2機のザイランに言う。ドロテスとギルベールの言い分としては自分たちが弱いのではなく、貴様が強すぎると言いたかった。
「もう無理、逃げる」
「奇遇だな、俺も逃げるところだ」
ドロテスとギルベールはもう限界だと判断した。絶対に勝てないと分かったのに続ける必要はない。2人ともさっさと逃げることを決めた。だが、相手が逃がしてくれるかどうかは分からない。
戦闘をした感じでは、激しく殺しにかかってくるパイロットではないとドロテスもギルベールも感じていたが、逃がしてくれるかは別だ。
ドロテスとギルベールが逃げる算段を考えようとした、その時だった――
「使えない部下を持つと泣けてくるなぁ」
高速で何かが突進し、フレイドに刃を振るった。超高速の一閃だったが、フレイドはバックステップで回避した。
「ありゃ?」
突然の声は、驚いた声を出した。この声にはドロテスもギルベールも聞き覚えがある。
この声の主はロウマ・アンドーだ。
ドロテスもロウマもやったと思い、即座に機体を離脱させることにした。ロウマは上司だが死んでくれて良い上司だ。渡りに船と言った感じで2機のザイランはさっさと逃げ出す。
「おまえら、逃げるのは良いけど。ここは終わりだから、コロニーの外に出ろよー」
ロウマは逃げていく2機に向かって通信で呼びかけておいた。ロウマとしては、仕事はこれで終わりにしたかったが、そうも行かなくなった。
「よう、ロウマさん」
始めて見る機体のパイロットがハルド・グレンだからだ。ロウマは、この間の遊びの続きをしたくなってきてしまった。
「今日は良い機体に乗ってるねぇ、ハルド君」
条件は互角ということかとロウマは考える。すると、自分が負けるだろうなぁという気がした。だが、勝ち続けというのも遊びがつまらなくなる。

 
 

「遊びの賭けは何が良い?」
ロウマはハルドに聞いてみた。命以外なら、まぁ何をやっても良いだろうと思っていた。
「うーん、勝ち負けをつけるだけでいいかな」
「欲がないねぇ」
まぁそれならそれでいいとロウマは思った。じゃあ、やろう。そう思った時だった。
「ロウマ・アンドーっ!」
横合いから通信を通じて叫びが聞こえてきた。ロウマはうるさいハエだと思い、乗機のゼクゥド・是空の刀を一旦、鞘に納める。
横合いから突進してくるのは、ブレイズガンダムだった。両腕を失い、頭も無い機体が何をできるというのか、ロウマは理解不能だった。
ブレイズガンダムに乗っているセインも訳が分からず、ロウマ・アンドーが乗っているらしき機体に突っ込んでいたのだ。ハルドとロウマの通信が聞こえてきたため、セインは復讐の激情を抑えられなかったのだ。
「母さんの仇だ!」
セインがそう叫んだ瞬間、セインは激しい衝撃を食らった。何が起きたのか全く分からず、ブレイズガンダムは吹き飛び、地面に倒れ伏していた。
そして回復していたはずのバリアのゲージが一撃でゼロになっているのをセインは確認した。
「俺は頭が悪い、弱いの二項目を満たしている奴は相手にしない主義なんだ。きみはそこでヘタレてなさい。能無しにはお似合いだよ」
ロウマの声には特に何の感情もこもってなかった。道端の石ころを見るようなそんな声、ロウマの声は、そんな風にセインに聞こえた。
「ひどいなぁ、馬鹿だし弱いけど頑張ってるから、そこは評価しないと」
ハルドが言うが、ロウマとしては頑張っているだけでは評価に値しないのだ。
「世の中結果が全てだよ、ハルド君」
ロウマは言いながら自分の専用機ゼクゥド・是空、その右手に持った刀を再び鞘に納める。
「この間は、これで上半身と下半身がお別れしたけど、今日はどうかな?」
居合抜きの構えをとるゼクゥド・是空。対してフレイドは何も構えを取らない。
「たぶん避けるよ、ロウマさん。今日はわりと調子がいい。機体もいいし」
そうか、とロウマは言わず行動で確認することにした。結果が全てなのだから、調子が良ければ避けるだろうと思い。
ゼクゥド・是空が抜刀する。その速度は人間の反応限界を超えているように感じさせる速度だった。鞘から抜き放たれた刃が尋常ではない速度でフレイドを襲う。
「よっ」
尋常ではない速度の刃、しかしハルドは見えていた。そして、そのハルドの動体視力と反応速度にフレイドも応え、後ろに僅かに下がるだけで回避してみせる。
そりゃ避けるか。とロウマは思う。機体が良ければ地力が違うので避けられるのは当然。だが、これはどうか。

 
 

空を切ったゼクゥド・是空の刃が返り、返しの刃として、再びフレイドを襲う。が、それは果たせなかった。
ゼクゥド・是空の両腕が宙を舞う。
「まぁ、こんなもんか」
ロウマは宙を舞う自機の腕を見上げて呟いた。何をされたかは分かっている。ハルドの機体は居合抜きの一太刀を躱すと同時に、両腕からビームサーベルを出して、切り上げたのだ。ゼクゥド・是空の両腕めがけて。
「まいった。降参」
ロウマは、腕が無くなったら、どうにもならないので負けを認めた。本当なら両手を上げ、降参のポーズをしたいところだが、あいにく両腕は切り落とされているので、どうしようもない。
「じゃ、俺の勝ちってことで」
ハルドも軽く言う。
「一勝一敗で五分かぁ」
ロウマとしては、まぁいい結果だ。一勝一敗というのも見た目と語呂が良いから嫌いではない。
「じゃあ、帰るよ」
「次は殺すかもしれないんでよろしくお願いしますね」
ハルドは最後に物騒なことを言った。
「殺されるのは嫌だなぁ。俺は老衰で死にたいし」
そう言いながら、ロウマのゼクゥド・是空はのんびりと動き、帰るのだった。帰り際にロウマは言う。
「前にも言ったけど、そのうち俺に会いに来てよ。悪いようにはしないからさ。それじゃあね」
そしてロウマのゼクゥド・是空は去って行った。ハルドのフレイドは何もせずに見送るだけだった。
「なんで見逃すんですか!?」
地面に倒れ伏したままのブレイズガンダムの中からセインが通信でハルドに向けて叫ぶ。
「いや、だって俺も一度見逃してもらったし、お返し」
「そんなふざけたことを……!」
セインは理解できなかった。ロウマ・アンドーはセインの家族の仇だとハルドも知っているはずだ、それなのに見逃すというのはどういう訳か、セインはハルドが理解できなかった。
「なんか、勘違いしてないか、お前。俺はロウマ・アンドーに恨みはないんだけど。お前の復讐の手伝いをするとも言ってないし、俺が奴をどうしようが俺の勝手だろ」
そうだとしても、自分の気持ちを汲み取ってくれてもいいじゃないかとセインは思うのだった。
「お前の恨みはお前の物、俺には関係なし。俺を巻き込むなよ、気持ち悪い」
そこまで言うのか、この人は。とセインは愕然とした。
師匠だと思っていたのに。セインはハルドが自分の気持ちを理解してくれているとばかり思っていた。だから訓練もつけていたと。セインは自分の中のハルド像が崩れていく気がした。
「ガキはめんどくせ。気まぐれでちょっと優しくすれば頼るし、勝手な幻想を抱きやがる。うぜぇなぁ」
最後にハルドの言った言葉が決め手だった。セインの中の師匠というハルド像は完全に崩壊したのだった。

 
 

「ハルドさん、セイン君。作戦は上手く行きましたよ」
クリスから通信が入ったが今のセインにそれを聞く心の余裕はなかった。
「思ったよりも市民が集まってデモは大成功、恭順派の基地を取り囲んでいます。クライン公国の人間はこのコロニーに見切りをつけてさっさと帰ったみたいですね」
ハルドはロウマならそうするだろうと思った。あの男は色んな意味で見切りが良い男だからだ。
「あとは何時間か恭順派の基地の周りでデモを続けてれば恭順派も折れるでしょう。頼りの公国の人間はいないわけですから」
じゃあ、後はのんびり待機というわけかとハルドは思った。まぁゆっくり状況が動くことを待とうと思うのだった。
だがまぁ、そうも言ってられないことに気づく。ブレイズガンダムの腕などを拾わないといけないからだ。
「面倒だなぁ」
そう言いながらハルドはブレイズガンダムの切り落とされた腕や頭を集めて、1つにまとめておいた。修理する時にこうしておいた方が楽だからだ。そういう作業を終えると、クリスからまた通信が入った。
「公国恭順派は折れましたよ。市民の勝利です」
クリスは特に感慨があるようでもなく淡々と述べた。戦術アドバイザーのクリスからすれば戦闘がなくなるとメシの種がなくなるので喜ばしい自体ではないからだろう。
まぁこれで、このセーブルというコロニーのごたごたも終わりだ。時間にして一日だったか密度の高い一日だったとハルドは思うのだった。

 

その後、セーブルは安定を取り戻した。セーブル解放戦線の残党や公国恭順派の残党で活動している者たちは、コロニー警備隊に検挙され逮捕そして問答無用で収監となったからだ。
ハルドらは2日ほどセーブルに滞在した。代表の息子からは歓待を受けた。なんでもセーブルの平和を取り戻した功労者だからという理由でだ。
宇宙港も復活し、クランマイヤー王国との貿易も再開された。ことは、わりとスムーズに進んでいた。そんな中、クリスがハルドらにあることを申し出るのだった。
「クランマイヤー王国は戦いの準備をしているそうじゃないですか。僕という存在が役に立つと思うのですが、雇ってくれませんか」
クリスはそういう申し出を、ハルドではなく姫にした。姫がそういう申し出をされて拒否するはずが無いと踏んでの作戦だった。
そしてクリスの作戦通り、姫は二つ返事でクリスをクランマイヤー王国で雇うことを承諾したのだった。
また厄介な人間が増えたとハルドは思ったが、まぁクリスは頭もキレるし下衆なこともできる貴重な人材なので、味方に引き入れておいて損はないと、ハルドは考えることにした。
セーブルでの滞在はわりと穏やかであった。ただ一つセインが暗いことと少し荒れていることを除けば、ミシィなどが心配して話しかけてもセインは、はねのける。
なにかセインの心の中にわだかまりがあるようだったが、ハルドは面倒だったので無視をした。思春期のガキの気持ちなど、いちいち構っていたくないからだ。
そして、滞在の終わり、セーブルを出発する日。その日は別に何も無い。セインは無口で暗いがハルドは相手にしなかった。
セーブルに来た時と帰る時では、多少の変化はあった。それはブレイズガンダムがズタボロになったことと、セインが暗くなったこと、そしてクリスという新たな仲間を得たことだ。
ハルドはこの結果に対してプラスかマイナスかを判断することはなかった、物事にはなんでも良い面と悪い面があるからだ、そんなことを思いながら。ハルドはコナーズに輸送船を発進させた。
これでハルドらのセーブルでの戦いは終わったのだ。

 
 

ハルドは気づいてなかった。というより、考えてもいなかったが、これでハルドらクランマイヤー王国はクライン公国の企みを三度潰したことになる。
1つはアービルでの処刑の阻止、2つめは強制収容所の解放、そして3つめはこのセーブルでの公国恭順派を使ったクライン公国の侵略作戦である。
宇宙の誰もが気づいていなかったが、この時、すでにクランマイヤー王国はクライン公国と渡り合う1つの勢力として成り立ちつつあったのだった。
当のクランマイヤー王国も知る由はなく、ただひたすらにクライン公国の侵略政策に対して防衛の準備を整えるだけだった。
宇宙の情勢は誰もが気づかぬところでゆっくりと動き出していた。

 
 

※作者注

 

ハルド・グレン 21歳 男

 

幼少期に研究施設に引き取られる。
研究施設の目的は「最高の人間を育て上げること」
そこでハルドは、最高の教育と、完璧な肉体管理、豊かな情操教育を施される。
しかし、ハルドが10代前半の頃、世界最強のパイロットだったエルザ・リーバスの手によって、施設は閉鎖に追い込まれる。
行くあての無かったハルドはエルザに引き取られ、ひたすらに戦闘教育を施され、何度もエルザの手で殺されかけながらも、戦闘技術を極限まで高めた。
15歳で特殊部隊に所属し、実戦経験をひたすら積むと同時に、エルザの命令で殺し屋としても活動をしていた。
特殊な才能を持っていたわけではないが、高いレベルの教育を受けたことによって得た優れた思考力とひたすらに積み上げた実戦経験により、
18歳の頃にはエースパイロットとなっていた。

 

ハルドは、本人の経験により、とにもかくにも努力と経験が第一とハルドは考えている。
二度か三度は死ぬ思いをしなければ強くなれないという考えの持ち主であり、
本当に強くなりたいんだったら、ひたすら実戦をくり返し、実戦の中で得た物を分析し、血肉としていくしかないと考えている。

 

口が悪く性格も破綻気味のため、誤解されやすいが、知的な能力は非常に優れている。これは研究施設で受けた教育の賜物であり、
高い教養を備えているが、誰からもそうは思われない。

 
 

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