GUNDAM EXSEED_B_22

Last-modified: 2015-04-27 (月) 20:39:36

「少し出かけようと思うんで、アッシュとセインは一緒に来てくれ」
急にハルドがこんなことを言いだした。セインは別に問題なかったが、アッシュには仕事がある。だが、ハルドは無理やりアッシュを連れ出した。
3人が乗ったのはクランマイヤー王国から出ている宇宙船の定期便だった。アッシュとセインはハルドに強引に乗せられた。
定期便に乗ったあとで間抜けな話だが、アッシュは行先を聞いた。するとハルドは平然とした顔で答えるのだった。
「アレクサンダリア」と。

 

「まずくないか?」
「ヤバいと思います」
アッシュとセインは、顔をひきつらせながら言った。2人の顔が引きつっている理由は単純である。
ハルドにアレクサンダリアまで連れて来られ、さらにアレクサンダリアに到着し直後に向かった場所、アッシュとセインの目の前には聖クライン騎士団の本部の建物があった。
聖クライン騎士団の本部は城のような外見であった。外見は綺麗な城であるがセインにとっては恨みの対象でもある。しかし現状、セインは恨みの感情を湧き上がらせる余裕はなかった
「僕、お尋ね者なんですけど」
「僕も似たようなものだ」
アッシュとセインは警察所の前に立たされている犯罪者と同じようなものであり、2人の気分もその犯罪者と同じようなものだった。
「堂々としてりゃ、ばれねぇよ」
ハルドはそう言って、堂々と聖クライン騎士団の本部の中に入って行った。アッシュとセインは入りたくなかったが、ここにいるのも嫌だったので、とりあえずハルドを追った。
本部の中に入るとロビーは飾り気がなく、シンプルなものだった。
「すごい見られてる気が……」
実際、ハルドらはロビーにいた聖クライン騎士団員から怪訝な目で見られていた。本部に民間人が入ってくることなど滅多にないからである。
「堂々としてろって、今の所悪いことしてるわけでもないんだから」
ハルドはそう言うが、アッシュもセインもお尋ね者なので、悪いことをしてなくても色々と問題はあるのだが、ハルドは気にしていない様子で、堂々とロビーにある受付に向かった。
ロビーの受付嬢は美人であった。そして丁寧であった。
「聖クライン騎士団本部に何かご用でしょうか?」
そう尋ねられ、ハルドは大きな声で答えた。
「ロウマ・アンドーさんに会いたいんですけど!」
そうハルドが言った瞬間だった。ロビーの雰囲気が一変して張り詰めたものになり、ハルドらを見ていた騎士団員は引きつった表情になり、そそくさとハルドらから目を逸らした。

 
 

「ア、アポイントメントはございますか?」
受付嬢の表情も引きつったものになっていた。美人が台無しである。
「無いけど、ロウマさんから、来いって呼ばれてんだけど?」
「え、えーと、アポイントメントが無い以上、こちらとしては団員を呼び出すということは出来ないのですが……」
受付嬢は応対に困っている様子だった。通常通りにやればいいだけなのだが、ロウマの名前が出てくると、受付嬢としては慎重にならざるをえなかった。
「いや、だから、向こうから呼び出されてんだよ、わかんねぇかな」
ハルドも受付嬢を困らせていた。その時だった。
「おお!ハルド君じゃないか、よく来たねぇ!」
急に大きな声がした。セインには忘れることの出来ない声だ。
「おお、ロウマさんじゃないですか!」
そう、大きな声の主はロウマ・アンドーだった。
ロウマ・アンドーはハグをしたいようで両腕を大きく広げ、ハルドに近づく。対してハルドも大げさに両手を大きく広げ近付き、2人は抱き合った。
見た感じでは、とても親密そうだった。セインとしては敵と何故仲良くできるのか理解できなかった。そして、ハルドの態度に怒りも覚えていたが、ここで騒ぎを起こすのはマズイと理性が働いた。
ハルドに殴られ蹴られ、セインは理性やら何やらを学んだのだった。そして学んだ理性や状況判断能力が、ここでは大人しくしていることを選択させた。
ハルドとロウマは本当に仲が良さそうに振る舞っていた。実際に性格も合うのかもしれないとアッシュは思うのだった。
「ここの受付は顔だけは良いけど頭が悪くて困ったろ?」
「そりゃあ、まぁ」
ハルドが曖昧な返事をすると、ロウマは受付嬢の方に向かって行き、受付嬢に小声で何かを話しかけていた。すると急にワッと受付嬢が泣き出した。ロウマは満足した表情でハルドの元に戻った。
「いじめっ子だなぁ」
ハルドが言うと、ロウマは舌を出し、全く悪びれる様子はなく言うのだ。
「顔が良いだけの雌豚は、たまにああやって調教しないとね」
そう言うと、ロウマは手で、ハルドらに先へ行こうと合図するのだった。
アッシュとセインは嫌な予感しかしなかったが、ハルドはなんの警戒もなくロウマに付いていく。
「その他大勢の方もこちらへどうぞ」
ロウマがアッシュとセインを馬鹿にしたように言う。どうやらロウマにとって客はハルドだけらしかった。
ハルドらはロウマの案内でロウマのオフィスがある階まで向かった。
ロウマのオフィスがある階に到着すると、そのままロウマは何も言わず先頭を歩き、ハルドも何も言わずについていく、アッシュとセインはその後についていっていた。
ロウマのオフィスに行くまでの間に広いオフィスを通ったが、そこでセインはボーっとしている少年と、筋トレをしている女性、煙草を吸っている男、漫画を読んでいる男の姿を確認した。
このうち2人の男はセーブルでセインに敗北を与えた男たちなのだが、セインには知る由もなかった。
「どうぞ」
ロウマは広いオフィスの奥にある扉の前に立つと、その扉を開き、ハルドらを中へと招く。
ハルドらは特に警戒することもなく、その部屋に入った。そして、圧倒された。部屋の内装の豪華さにである。
「まぁ、座ってよ」
ロウマはハルドらに来客用のソファーに座ることを勧める。ハルドらは素直にソファーに座った。ハルドを真ん中にしてアッシュとセインがその隣という並びだ。セインはソファーに関しては最高の座り心地だと思った。

 
 

「一介の大佐の部屋とは思えねぇな」
ハルドは部屋を見渡しながら言う。するとロウマは笑いながら言う。
「悪いことすれば、これくらいの部屋は楽勝だよ。例えば3人ほど暗殺するとかね」
そんなことを言いながら、ロウマは部屋にある棚を開けた。中には酒瓶が大量に入っていた。
セインはこの男はやはりマトモじゃないと思いながら、現状ではその動きを様子見することしかできないことに歯がゆさを感じていた。
「なんか飲むだろ?」
ロウマは酒を見繕いながら言った。
「良い酒ならなんでも」
「同じく」
ハルドとアッシュは冷静な表情で言った。するとロウマは酒を決めたようで、酒瓶を手に取る。
「軍の高官の家族を皆殺しにした報酬で貰ったワイン。良いもんだよ。普通に買うとしたら安い車が買えるくらいの値段がする」
そう言って、ロウマはワインをソファーの前のテーブルの上に置く。
「保存状態悪いだろ?」
ハルドが言うが、ロウマは無視してグラスを4つ取り出し、全員の前にグラスを置いた。
「まぁ飲めれば良いし、貰ったのは最近だから、別にいいじゃないか」
そう言いながらロウマはワインのコルクを開ける。そして、全員のグラスにワインを注ごうとしたが。
「僕は未成年なので遠慮します」
セインは遠慮した。それ以上にロウマから何かを貰うというのが嫌だった。
「遠慮すんなよ、未成年くん。飲まないと殺すぞ」
そう言って、ロウマはセインの前のグラスにワインを注いだ。
「まぁ飲んどけ。少しは悪いことも覚えろ」
セインの隣に座るハルドが言い、その隣のアッシュも同意して言うのだった。
「高い酒なんて滅多に飲めないんだから、ここは遠慮せずいただいたほうが良いよ」
セインはハルドもアッシュも酒飲みだということを思い出した、どうやら2人は良い酒を前にして、ロウマに対する態度を軟化させていると思った。
そうセインが考えているうちに4つのグラス全てにワインが注がれた。
「じゃ、乾杯」
ロウマは勝手にそう言うと、勝手に飲みだした。ハルドもアッシュも勝手に飲みだしている。セインはどうすれば良いか分からなかったが、3人の真似をしてワインを飲んだ。
初めて飲んだ酒はセインにとって訳の分からない味であり、飲みこむと喉の辺りが熱くなった。
「美味いな」
「ああ、良いワインだ」
ハルドとアッシュは感嘆とした声で言っていたが、セインは美味いともなんとも思えなかった。
「1家皆殺しする価値はあるだろ?」
ロウマはヘラヘラと笑いながら、ワイングラスに口をつける。やはりマトモじゃないとセインは思った。
「まぁ、飲みながら楽しくお話しをしようか。ハルド君とその他大勢さん」
ロウマはやはり、アッシュとセインは眼中にないようだった。だが、それでは困ると、口を挟んだのはアッシュだった。

 
 

「ハルドとの話の前に、こちらには聞きたいことがあります。ロウマ・アンドー大佐」
アッシュはロウマを睨みつけていた。
「なんだい、その他1号君」
ロウマは馬鹿にした物言いを崩さない。
「お忘れですか、僕は一時期あなたの部下だったアッシュ・クラインです!」
アッシュは語気を強めて言うがロウマはどこ吹く風といった感じであった。
「いや、名乗らなくても誰だか分かってるからいいよ。きみに興味も関心もないんだけどなぁ」
知っていて、それでもその他大勢扱いしていたのかとアッシュは怒りを覚えた。
「僕が聞きたいのは、どうして3年前に僕を嵌めて濡れ衣を着せたのかだ。あなたの捏造した調査書のせいで、3年も監禁されたんだぞ!」
語気を強くアッシュが言うがロウマは興味なさそうに聞いて、そしてどうでも良いことのようにアッシュの疑問に対して答えを返した。
「だって、邪魔だったから」
ロウマの言うことはそれだけである。アッシュを人扱いせず、虫であるかのように言った。
「邪魔だったとはどういうことだ!?」
アッシュはロウマを殴りたかったが、怒りを抑えて尋ねた。
「面倒くさいなぁ……、単純にきみがいるとエミル・クラインを公王にしづらかったんだよ。今だし、この場だからぶっちゃけるけど、エミル・クラインが公王になれるようにお膳立てしたのって俺なんだよね」
なんだと?アッシュもセインも驚きの表情でロウマを見る。ハルドは興味がなさそうだった。
「エミル・クラインて、馬鹿じゃん。でも馬鹿の方がトップに置くには都合が良かった。けど、能力的には優秀なきみを公王にしたいって言う面倒なアホも多かった。
利口なきみにトップに立たれると俺がやりづらいから、色々手を尽くして、表舞台から消えてもらったわけ。
さすがに、色々暗い噂が立っている人間を公王にはできないから、きみに適当な罪を被って貰って、閉じ込めておいたわけだ」
政治的な都合で利用されたということかとアッシュは理解した。しかし、納得は出来なかった、そして怒りを抑えるのも限界だった。
「ロウマ・アンドーっ!」
アッシュは自分を3年間の監禁状態にさせた原因に殴りかかった。だが、その拳は届かなかった。
ロウマはソファーに座ったまま素早く蹴りを放ち、アッシュの鳩尾に叩き込む。アッシュは蹴られた衝撃でソファーに戻される。
「落ち着けよ。昔の話しなんだから許せって。それに今は出られてるんだから、いいじゃないか?」
ロウマは相変わらずどうでもいいといった感じで言うのだった。
蹴りの衝撃と痛みで冷静になった、アッシュはソファーに座りなおし、身を整え言うのだった。
「あなたのことは許せないが、今言っても仕方ないことなのは確かだ。会話の席で殴りかかった僕にも問題はあった。色々と腹の立つことは多いが、今は大人しくさせてもらう」
そうアッシュは言うと、テーブルの上のワインに口をつけるのだった。
ハルドはというと、隣のアッシュの行動などどうでも良いといった感じで、のんびりとワインを飲んでいた。

 
 

「さて、その他2号君も俺に何か言いたいことはあるのかな」
そんな風に言っても、ロウマは実際は興味がなさそうだった。それでもセインは聞かなければいけないことがあった。
「僕の名前はセイン・リベルターだ。憶えているだろう」
そうセインが言うと、ロウマは手をポンと叩き思い出したような、仕草をしたセインにはそれがふざけているようにしか見えなかった。
「うん、憶えてるよ。見逃してやったんだよなぁ、たしか俺が。そうかそうか、ハルド君と一緒にいたのか、結構面白い道を歩んでるね。悪くないよ」
そう言うが、ロウマはどうでも良さそうだった。セインはその態度に怒りを覚える。
「どうして、あの日、僕の母さんを殺した!?殺す必要はなかったはずだ!?」
セインは怒りを言葉に込めてロウマにぶつける。セインは両親を失った日を憶えている。このロウマ・アンドーという男はいきなり母を殺したのだとセインは思い返していた。
「そりゃ、殺したかったから。別に理由はないよ」
セインは一瞬、ロウマが何を言ったのか理解できなかった。だが、理解した瞬間にセインの身体は動いていた。
「この野郎っ!」
セインは殴りかかる。だが、やはり、その拳は届かない。ロウマの蹴りがセインの拳よりも早く顔面を捉え、セインを蹴り飛ばしていたからだ。顔面を蹴られたセインの鼻は折れ、鼻血がとめどなく溢れてくる。
「あー、くそ。やめてくれよ。ソファーと絨毯が汚れるだろ」
ロウマはセインよりもセインの鼻から流れ落ちる鼻血で自分の部屋が汚れることを心配していた。
「まぁ、鼻を蹴った俺も悪いんだけどさ」
ロウマは多少反省の色を見せながら言った。そして、そう言った後で不意に何かに気づいたように、言葉を続ける。
「今の声、あれか。ブレイズガンダムのパイロットと同じ声か。そうか、セイン君がブレイズガンダムのパイロットになったか、本当に面白い道を歩んでるなぁ」
そう言うが、ロウマはやはりどうでも良さそうだった。基本的にロウマはアッシュとセインには興味を示していなかったのだ。
「つーか、2人とも落ち着いてくんねぇかな、話しができねぇんだけど」
ハルドは隣に座る2人の騒ぎには興味を示してなかった。興味があるのは、ロウマが自分をやたらとさそってくる理由についてだ。
「俺としても話しがしたいから、その他大勢君たちは静かにしててくんないかな。きみ達の相手は、またそのうち個別にしてやってもいいから」
そうしてロウマはハルドに顔を向ける。
「じゃ、何の御用か教えてもらいましょうか、ロウマさん?」
ハルドも真面目な態度ではなかった。そしてロウマも真剣な感じはない。2人は世間話でもするような感じで話し始めるのだった。
「んじゃ、お話ししようかハルド君。俺もそこまでヒマじゃないから単刀直入でいいかな?」
「どうぞ」
ハルドは言いながら、瓶からグラスへワインを注ぐ。
「では単刀直入に、俺はハルド・グレン君、きみをスカウトしようと思ってる」
その言葉に驚いたのはハルドではなく、アッシュとセインだった。
「スカウトだと」
アッシュが思わず声を出すと、ロウマは大げさに首を横に振る。
「もちろん騎士団じゃないから、その他大勢さんたちは、ご安心をして、黙って座ってろ」
ハルドの方はのんびりと酒を飲みながら聞くのだった。

 
 

「何のスカウト?」
「怪しい秘密結社への」
そう言われ、ハルドは首を傾げながら言う。
「なんかやだなぁ」
「まぁそう言わずに」
ハルドとロウマの会話はのんびりしたものだった。
「秘密結社って、そもそも何よ。宗教がらみはパスな」
ハルドがそう言うとロウマは大げさに首を横に振る。
「大丈夫、由緒正しい秘密結社で、色々と陰謀を企ててるから」
アッシュとセインはそんな組織があることを、こんなに簡単に明かしていいのかと思った。
「俺の隣で2人、聞いてるやつらがいるけど、バラシていいの?」
「いいよ別に、どうせ、そいつら、なんの影響力もないし」
ロウマはアッシュとセインは完全に眼中にないといった感じだった。
「組織の名前はプロメテウス機関。なかなか格好いい名前だろ?」
「趣味は悪くないかな」
ハルドは本音で言った。
「組織の目的は、人間を次のステージに進化させること」
次のステージ?進化?アッシュとセインは話しが飛躍しすぎであるように感じた。
「あんまり、そういうのに興味ないな。人間は今のままで良いよ。これ以上、人間がパワーアップしても面倒くさいだけだ」
ハルドがそう言うと、ロウマも頷いた。
「その考えには同意だね。俺も組織の目的には興味ないし」
「じゃあ、なんで入ってるんだよ?」
思わずセインが尋ねた。するとロウマは平気な顔で言う。
「組織のネットワークを活用するため、組織に所属している人間とコネクションを得るため、組織の技術力を利用するため。これが俺がプロメテウス機関に所属した主な理由」
ロウマはぬけぬけと言い放ったが、少し考える仕草を見せ、続けて言う。
「まぁ、組織の活動も嫌いじゃないかな。色々と面白いしね」
「具体的にはどんな活動なんだよ?」
ハルドが尋ねるが、するとロウマは手でそれを制する仕草を見せて、言う。
「組織の活動を知るためには、まず組織の目的を知る必要があるね。プロメテウス機関、この組織の目的は人間を次のステージに進化させること」
じゃあ、とロウマは前置きを入れながら続ける。
「人間の進化ってなんだって話になるわけだ。身体的、知的に優れている?これに関しては、もう充分だ。コーディネーターがいるんだからね。
人工的というのがプロメテウス機関としては若干、気に入らない部分ではあるが、コーディネーターは進化した人類であるとプロメテウス機関は位置づけた。
けど物足りなかった。コーディネーターになっても人間は精神的には進化しなかった。知的に優れたはずのコーディネーターなのにも関わらず何度も人類が絶滅しそうな戦争を繰り返す。
そこでプロメテウス機関は考えたわけだ、人間は精神的に進化する必要がある。ってな具合にね」

 
 

ロウマは長い話しをしながら途中で何度かワインを口に含み、飲み込む。。
「そしてプロメテウス機関は人間を精神的に進化させるために活動を始めたわけだ。第1に始めた計画はEXSEED計画。ハルド君は、それなりに詳しいかな?」
ロウマの言葉を聞いたセインは横目でハルドを見ると、ハルドの表情は鋭くなっていた。
「そんなに怖い顔で見ないでくれよ。俺は基本的にEXSEED関係の計画にはノータッチなんだから」
アッシュとセインはハルドが、そのEXSEED計画と何か関係があることは察したが、その計画の内容までは想像できなかった。
「まぁ、たいした計画じゃないよ。そんなに上手くいってる計画でもないしね。単純にまとめると、人類全員をSEEDより優れた感受性や認識能力を持つEXSEEDという存在に変えることで人類の精神的な進化を促すって計画だね。
ちなみにブレイズガンダムも、その計画の端っこ、末端のほうのプロジェクトに使われているね」
なんだと?セインは、どういうことかロウマから聞き出そうと思ったが、ロウマは手で制して、言う。
「ブレイズガンダム周りも俺は基本的にノータッチだから、良く知らないんで、教えてあげられることは無いね」
ロウマはセインの心を読んだように、先に言った。
「じゃ、続けるけど、今プロメテウス機関が重視して行っている。というか成功しそうな可能性が一番高いと思って進めてるのが、人類統一計画」
ロウマは空になったグラスにワインを注ごうとするが、中身はなかった。
「人の物なのに飲み過ぎだなぁ、ハルド君」
そう言うとロウマは再び棚から酒を取って来た。
「ウィスキー、本物のスコッチだよ。本物だから当然、地球産」
ロウマは、そう言うと褐色の液体が入った瓶を、ハルドらに見せる。
「貰おう」
「僕もだ」
そう言うと、ロウマは自分のワイングラスにウィスキー注ぐと、ハルドとアッシュのグラスにも注いだ。
「じゃ、酒も新しくなったし、話しを続けようか」
ロウマはウィスキーを口に含み、飲み込む。
「人類統一計画も基本的にシンプルだよ。人類はバラバラだからいけない。人は集団として一つになってこそ本来の力を発揮できるみたいな考えがもとにある計画だね」
その話を聞くぶんには悪くはないとセインは思った。
「つっても今更、どうやって人類を1つにするのかって話しだ。現代は主義主張やら色々とごちゃごちゃしすぎてて簡単にはまとまらない。めんどくさいなぁって感じるね」
そこまで言うとロウマはニヤリと笑う。
「だから俺は提案したんだよ。もう征服して全部1つの国の文化にまとめちまえばいいんじゃないかってね」
セインは、急に話が物騒になったと感じた。
「それぞれ固有の文化なんかいらない、個性なんかクソくらえで、全部をぶっ壊して一つに組み立てなおし、一つの色に染め上げる。例えばクライン公国以外の文化やクライン公国の人間らしい考え方以外はいらないってノリで行こうってことだ」
そこまでロウマが言うと、ハルドが口を挟む。
「それで馬鹿なトップを用意して、騎士団に色々とやらせてるわけか」
「まぁ、そんな感じだね。各コロニーの思想統制やら文化破壊は全部、俺の指図だからね。
プロメテウス機関の人間として、人類を一つにするため文化はクライン公国のものだけで良いし、思想や主義主張もクライン公国のもの一つだけで良いってことで、色々と活動してるわけだよ、俺も」

 
 

話しを聞いて、全てを理解しきれたわけではないし、プロメテウス機関の思想というものも理解できなかったが、アッシュはクライン公国が今のようになってしまった元凶がロウマ・アンドーであるということだけは理解できた。
「貴様はこの国や他のコロニーを滅茶苦茶にして楽しいのか……!?」
アッシュは目の前の男に対しての怒りを抑えながら尋ねた。
「楽しいよ。楽しいに決まってるだろ。俺はイカレた物が大好きだから、今のイカレたクライン公国も大好きだし、世の中が滅茶苦茶になるのを見るのも好きだから、今は最高に充実してるよ」
ロウマはニヤリと笑う。その笑みを見た瞬間、アッシュは絶対にこの男と理解しあうことは出来ないと思った。
「俺はこれからも色々するよ。プロメテウス機関の人間としてね。人類を一つにするために全てをぶっ壊して蹂躙し、人類の思想の統一を図る。そして人類の思想や意思が一つになった時、人類は次のステージに進化するわけだ。……ぶっちゃけ興味ないけどね」
言いながらロウマはウィスキーを口に含み飲み込む。
「俺はそんな訳の分からねぇことに協力はできねぇんだけど」
ハルドがめんどくさそうな表情で言う。だいたいロウマの言ったことは理解できたが、ハルドも興味がなかった。
「俺だって興味はないよ。だけど一応、組織のネットワークとかを使ってる身だから、協力してるだけだし」
そんな適当さで公国や他のコロニーを滅茶苦茶にしているのか、アッシュとセインは怒りを通り越して呆れるしかなかった。
「俺には夢があるから、そのためにプロメテウス機関を利用して、今の公国も利用してるのよ」
ロウマは少し酔いが回って来たのか楽しそうだった。
「分かるかな夢だよ、夢。きみらにはないだろ?見れば分かる、きみら3人とも目の奥に輝きが無いからね」
なんだと、とアッシュとセインは思ったが、ハルドだけは別の表情だった。ロウマに対して馬鹿にしたような笑みを向けながら、ハルドは言う。
「アンタの夢なんか、だいたい想像つくよ」
そう言われ、ロウマの表情がピクリと動く。
「この部屋見りゃ簡単に想像がつく。家具とか調度品、酒の趣味だってセンスが良いが、よく言えば定番の高級品、悪く言えばテンプレ通りで個性がない。なんていうか、全体として洗練はされてない。とにかく良いと言われてるものだけ集めたような感じ」
ロウマの表情は笑顔だが、その表情はぴくぴくと動いていた。ハルドはどうやらロウマの触れてはいけない部分に触れかけていた。
「こういう部屋とかのコーディネートをするのは、だいたい……」
ハルドが言いかけた瞬間にロウマは手で制した。
「次のセリフは想像がつくよ。だけどそのセリフを俺に言って、生きてたやつはいないから、止めておいた方がいいね」
「じゃ、やめときましょうかね、ロウマさん」
そう言ってハルドはウィスキーを飲んだ。
「そうだね、お互い仲良くやろう」
ロウマもウィスキーを飲んで、落ち着いた。
「まぁ、これで人類統一計画については話したわけだ。時間がかかるけどプロメテウス機関では今一番期待されている進化への道筋だ。俺はこの計画に関してはそれなりの地位にいるから、クライン公国の蛮行を止めたいなら、俺を始末するのが効率良いけど、どうする」
そう言われ、アッシュとセインは行動を起こすか迷う。だが、ハルドは迷わず言うのだった。
「今は無理だな。こっちは3人だけど丸腰、やっても良いけどアッシュとセインは間違いなく死ぬし、俺とロウマさんでも相打ちで死ぬ公算が高いから今日はパスだ」

 
 

「賢い判断だね」
そうロウマが言うと、ロウマの手首、その袖口から刃が飛び出してきた。
「ほら、そういう隠し武器持ちだ。冗談じゃないぜ」
「はは、いいじゃないか、敵になるかもしれない奴ら3人と密室でお話しだ。こういう準備をしない方が馬鹿だろ?」
まぁな、とハルドは言って酒を飲む。
「それじゃ、最後の計画の話しをしようか」
まだあるのかとアッシュとセインは若干ウンザリしてきていた。
「最後は別にたいした計画じゃないよ、ただ技術の進歩だけで人間は精神的な進化を迎えることができると考えている連中だ」
そう言うとロウマはウィスキーを飲み干し、グラスを空にすると立ち上がる。
「せっかくだから、きみ達に良い物を見せてあげよう。ブレイズガンダムのパイロットもいることだしね」
そう言うと、ロウマはハルドらを案内するのだった。ロウマによって案内された先はアレクサンダリアにある博物館だった。
ロウマは博物館の係員の1人にこう言った。
「人の道に新たなる火を」
そう言うと、係員は何も言わず、ロウマとハルドらを先導し歩き始めた。
「“人の道に新たなる火を”プロメテウス機関の合言葉。ダサいだろ?」
ロウマはヘラヘラとしながら、歩く。合言葉を簡単にバラシて良い物なのかとアッシュとセインは思った。
そうこうしているうちに、ロウマとハルドらはエレベーターの前に辿り着いていた。すると係員は何も言わず去って行く。
「じゃあ、行こうか」
ロウマはエレベーターの中に3人を案内する、エレベーターはひたすら下に向かっていた。かなり長い時間、エレベータに乗っていたが、やがて、エレベーターは止まった。
「さぁ、どうぞ」
ロウマはそう言うと3人にエレベーターから出るように促す。そしてエレベーターを出た直後3人は驚くべきものを目の当たりにした。
エレベータを出た直後、3人の視界に入って来たのは羽クジラの化石であった。
「イミテーションか何かか?」
アッシュの記憶では本物の羽クジラの化石はアプリリウス市にあるはずで、アレクサンダリアに移されたなどという話しは聞いたことが無い。
「いや、本物だよ。贋作はアプリリウスの方だね」
ロウマがアッシュの疑問に答える。
「科学技術派の奴らは、これを使って人類を進化させようとしてるのさ」
3人はロウマの言っていることの意味が分からなかった。
「ま、わかんないだろうから説明するけど、あの羽クジラの化石は設計図の塊みたいなもんなんだよ」
ロウマは適当に歩き始めながら喋る、3人もその後をついていく。

 
 

「十何年か前、ちょっと頭のおかしい科学者が酒を飲みながら、羽クジラの化石から取った遺伝子データを眺めていた。
すると酔っていたせいか、遺伝子データが何かの設計図に見えてきた。半信半疑ながらも酔っ払いの科学者はその設計図通りに何かを作ってみた。
そしたら、なんと地球上にはそれまで存在しないはずの成分の球体が出来たわけだ。」
3人とも、にわかには信じがたい話しであった。
「それを発端に羽クジラの化石の更なる研究が始まったわけだ。プロメテウス機関は、とりあえず暗号解読の天才たちを大量に雇って、遺伝子データを解読させた。
そしたら出るわ出るわ、未知の技術やら何やらの設計図やデータが、プロメテウス機関は極秘にそれらを確保して、開発をしてるわけ、ここでな。
プロメテウス機関は羽クジラの化石から得られた技術やら何やらを総称して“ギフト”と名付けている。未知の存在からの贈り物であると考えて名づけたわけだ。
まぁ“ギフト”もほとんどが実用化に至ってないんだけどな。技術が地球のレベルからかけ離れすぎてて、使い道が分からないものが殆ど。でも実用化に至ったものもある。
それがブレイズガンダムのジェネレーターやら各種機能なわけだ」
急にブレイズガンダムの話しになり、セインは若干混乱したが、同時に自分が乗っていた機体が酷く奇妙で気持ちの悪い存在のようにも思えてきた。
「と、まぁここまでで俺がプロメテウス機関について話せることは終わり。で後の重要なことは」
そう言うとロウマはハルドを見た。
「ハルド君がプロメテウス機関に入ってくれるのかどうかってことだけど、どう?」
「遠慮するよ」
ハルドは考える様子もなく言った。
「あ、そう。じゃあ考えが変わったら教えてよ。いつでも歓迎だから」
ロウマの方もあっさりとしたものだった。2人やり取りがアッシュとセインには理解できなかった。
「そんな簡単な話なのか!?」
「秘密結社だったら、もっと何かあるんじゃ!?」
ロウマはアッシュとセインの疑問に対してめんどくさそうな顔をしながら答える。
「別にどうでもいいんだよ。入るのも抜けるのも勝手なのがプロメテウス機関。その存在を世間にばらされても、別にどうでもいいとプロメテウス機関は考えてるし、きみ達その他大勢が騒いでもどうとでもなると考えてる」
そう言うとロウマはハルドらに背を向け施設の奥へと向かっていく。
「帰り道は分かるよな。俺は用事があるんで、勝手に帰ってね、じゃあ、さよなら。またね」
そしてロウマは施設の奥へと消えていった。
「じゃ、帰るか」
ハルドもあっさりしたものである。3人はエレベーターに乗り、上へ向かう。ハルドはプロメテウス機関の話しを聞かされても別に何とも思わなかったようだが、アッシュとセインはだいぶ混乱していた。
そしてすべてが冗談だったのではないか。そう思うことで、頭の中の整理を付けるしかなかったのだった。
ハルドとしてもプロメテウス機関の話しは突拍子もないことで信じがたいが、EXSEEDが計画の内に入っているのなら信じるほかなかった。ハルドはEXSEEDに関してはそれなり以上の因縁がある。
少なくともEXSEEDが関わっている組織なら、そんなところに入るという考えはハルドにはなかった。
むしろEXSEEDに関わることならその関係者を皆殺しにしたい衝動に駆られている。そして、その衝動がある以上、プロメテウス機関はハルドにとっての敵となるしかないのであった。

 
 

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