GUNDAM EXSEED_B_24

Last-modified: 2015-04-27 (月) 20:45:26

その日、クライン公国軍の輸送艦の艦長は奇妙な出来事に出くわした。この艦長は根が真面目かつトラブルを好まない性格であった、余計なことせず言われた任務だけを淡々とこなし日々を過ごしていればトラブルに会うことは無いと考えていた。
しかし、そんな考えはその日で崩れた。
前方に所属不明の輸送船がある。艦長は艦のオペレーターからそう報告を受けた。艦長は常識的な人物だったので、常識的な対応を取った。
「そちらの船がこちらの進路を妨害している、速やか退いていただきたい」
艦長はそう言ったが、所属不明の輸送船は動かない。艦長は、面倒はごめんだと思い、こちらが避けて通ることにした。
輸送艦は所属不明の輸送船を避けて通ろうとした。だが、その動きに合わせて、所属不明の輸送船は動き、輸送船の進路を妨害する位置へと移動した。
「どういうつもりだ!本艦は軍艦だぞ!これ以上、邪魔をするのなら、それなりの罰はうけてもらうことになるぞ!」
艦長としてはことを荒立てたくなかったが、所属不明の輸送船の動きは明らかにこちらの艦を邪魔するような動きであったため、艦長としても見逃すことはできなかった。
「邪魔?邪魔か?」
所属不明の輸送船から通信が入って来た。
「ああ邪魔だとも、頼むからどいてくれ」
艦長は言うが、通信の向こうでは笑い声が聞こえた。
「邪魔だと思うなら、通行料を置いていけ」
何を言っていると艦長は通信の相手に思った。
「通行料が払えないなら奪うだけだ」
「なんだと?」
艦長が相手の言った言葉の意味を理解しかねている間に、所属不明の輸送船からはMSが発進された。
艦長は初めて見る機体である。通常のMSより一回りは大きい機体であった。

 

「ジェイコブ、ペテロ、マリア。3人は周囲を警戒だ。ブリッジには俺が行く」
「了解」と3人の若者の声が返って来た。実戦演習のつもりでハルドは3人を連れてきたのだった。
ハルドのフレイド・プライベーティアが一直線にクライン公国軍の輸送艦に向かう。狙う先はブリッジだ。ハルドのフレイドは胸のホルスターからビームガンを抜き、右手に持つ。
そしてハルドのフレイドは輸送艦のブリッジの前に立つと、ビームガンをブリッジに向けて突きつけ、ハルドは言う。
「こっちの要求を飲まなきゃ、ぶっ放すけどオーケー?」
艦長としてはオーケーなわけがなかった。
「MS隊、発進!」
輸送艦にもMSは積んである。艦長は輸送艦の護衛のために艦に積まれたMS隊に発進命令を出した。
「オーケーじゃなくてノーか、悲しいぜ」
ハルドは大げさに言った。直後に横合いからクライン公国の量産型MSゼクゥドが襲い掛かってくるが、ハルドには問題がなかった。
ハルドのフレイドはブリッジに突きつけていた銃を横から迫ってくる、ゼクゥドに向けると、躊躇なくビームを発射した。発射したビームはゼクゥドの右の手首から先を消し飛ばす。
それとほぼ同時、ハルドのフレイドは胸のホルスターからビームガンを抜くと左手に持って、左手の銃からビームを撃ち、ゼクゥドの左手首から下を消し飛ばした。一瞬でゼクゥドの両手は無くなったのだった。
ハルドのフレイドは両手の銃を即座にホルスターに納め、残りの二丁を抜くと、真後ろから迫って来た、ゼクゥドに対し、振り向きもせずに撃った。
放たれた2本のビームはゼクゥドの両手に直撃し、両手を消し飛ばして戦闘力を奪う。

 
 

「MSも金になるんでね。被害は最小限に留めておいたよ」
ハルドが艦長にそう言うと、さらに1機が迫ってきていたが、ハルドには相手にならない。
ハルドのフレイドは左腕のスタンフックを発射する。発射されたフックが新手のゼクゥドに巻き付き、巻き付いた瞬間にハルドは電流を流した。流された電流はコックピットまで届き、ゼクゥドのパイロットは電流により失神した。
ハルドのフレイドは一瞬で3機のゼクゥドを戦闘不能にしたのだった。
ハルドは自分の方が片付いたので、ジェイコブら三兄弟の様子を見ると、3機は連携して1機を確実に仕留めていた。
ハルドとしては連携は良いが、個人はまだまだだと感じた。それでもセインよりはセンスがあるように思った。
そして、そんなことを思っている間に、両手を無くした2機のゼクゥドがハルドのフレイドに突っ込んできた。武器も持てない戦闘がマトモに出来る状態ではないのに勇敢なことだとハルドは思ったが、ちゃんと相手をする気にもなれなかった。
ハルドのフレイドは素早く動き、突っ込んでくる2機のコックピットの目の前に銃を突きつけた。
「殺してもいいんだけど、たいしたことない任務でアンタらも死にたくないだろ」
ハルドとしても、これ以上MSを壊したくなかったので、そう言ったのだった。
「誇りある公国軍人として、貴様らのような海賊風情には屈しはしないぞ!」
お、海賊として認めて貰えたよ。とハルドは若干うれしかった。が喜んでいるわけにもいかないので、艦長さんには悪いが、少し手荒な手段を取らせてもらうことにした。
「ベン、やれ」
ハルドが言うと、輸送船もとい海賊船、亡者の箱舟号は公国軍の輸送艦に体当たりを仕掛けた。そして、船長のベンジャミンが高らかに号令を発する。
「接舷用意!」
そうベンジャミンが言った瞬間、亡者の箱舟号の船体の横側の一部が開き、大きな杭が発射された。それは敵の艦に乗り込むための接舷用の貫通パイルである。
それで敵艦の装甲を貫通し、内部まで届いたらパイルは空洞状になっているため、敵艦に乗り込むためのパイプとなっている。
亡者の箱舟号から撃ちだされたパイルは公国の輸送船の横側を貫通した。これで、敵艦まで乗り込むためのパイプ、通り道の完成である。
そして乗り込む段になったら、ハルド達には最強の存在がいる。
「虎先生よろしく」
ハルドはコックピットの中で言った。
虎としては若干、不本意な仕事だが、クリスからこのままではクランマイヤー王国の人間は冬を越せなくなると聞かされている虎は、悪事もやむなしと思っていた。
敵艦への突入要員は全員がバンダナで顔を隠している。その方が海賊らしいからである。虎もバンダナではないが布で顔の半分を隠していた。
「トツニュウ、タダシ、コロシ、サイショウゲン」
そう言って、虎はパイプを通って敵の輸送艦内に突入した。殺しは最小限にするというのは虎のせめてもの慈悲だった。
「おい、貴様ら。何をした!?」
輸送艦の艦長の元には被害報告が続々と入ってくる。
「この時代に海賊やってんだ。常識では理解できないことだよ」
ハルドはそう言う。実際、理解できないだろう。銃も持たない男たちに完全装備の兵隊が一方的にやられるなど。人間同士の戦いでは虎とその門弟が圧倒的だった。とにかく銃弾が当たらないのだからどうしようもない。その上、殴られたら一撃で失神である。
艦内の戦いは虎たちの一方的な勝利で終わり、輸送艦の乗組員は全員、拘束された。そしてブリッジに虎がやってくる。

 
 

「ゼンイン、タオシタ、アト、ココダケ」
「ブリッジ以外は全部制圧したってよ。どうする艦長さんよぉ?」
こうなっては艦長として屈辱的だが、どうしようもないので敗北を認めるしかない。
「わかった。好きにしてくれ」
そう言うと、虎は艦長を気絶させた。

 

あとは単純であった。艦長以下全ての乗組員、そしてゼクゥドのパイロットも引きずりおろし、全員を輸送艦の脱出艇に乗せ、適当に放流する。
そして、ブリッジなどにあるこの艦の所在を知らせる信号やら何やらを発信している機器を全て破壊し、この船を探知できない状態にしてから、海賊船、亡者の箱舟号で牽引するのである。
輸送艦一隻を牽引することは、亡者の箱舟号でも問題なかった。細かい点だが、貫通パイルであけた穴は応急処置をしてふさいである。
そして、亡者の箱舟号はクランマイヤー王国へと帰るのである。帰る時に入港するのは、もちろん工業コロニーの宇宙港である。
宇宙港に帰ると早速、手に入れた獲物の確認作業が行われる。立ち会うのはユイ・カトーである。意外に面倒だと気づいたのがこの確認作業である。艦内全部を探して金目の物を見つけるのだから人手が必要だった。
とにかく、金目の物をユイ・カトーの元へ持っていき、確認してもらうと言う作業であるが、かなり非情な作業でもあった。
ある男が婚約指輪らしきものをユイ・カトーに見せたが、ユイ・カトーは偽物、ゴミと言って宝石の付いた婚約指輪を捨てた。艦内には色々と思い出の写真らしきものもあったが、金にならないのでゴミである。
そんなこんなで確認作業をした結果、思いのほか大漁であることがわかった。
MSはパイロットが乗っていたゼクゥド4機、そしてなんとクライン公国軍の新型量産機ザイランが4機も輸送艦内にはあった。その他にも資源やらなにやらの物資が大量に詰め込まれており、ユイ・カトーはウキウキしていた。
あまり大きな金にならないものは、この海賊行為に参加したものたちで山分けということになった。大きな金にならないでも小遣い稼ぎ以上の額をほとんどの参加者が得ることになった。
そして、後は艦の始末だが、これはレビーたちがすることとなった。艦を解体して、資源にするなり、MS開発用の部品にするなり、利用法はいくらでもあるそうだとハルドは聞いた。
とにもかくにも、私掠船作戦もとい海賊船作戦は大成功の結果に終わったのだった。

 

「脚はやっぱ戻して」
ハルドはマクバレルにそう言った。
「やっぱり嫌か?」
客観的に見たら恰好が悪いとハルドもマクバレルも気づいていた。前は暑くなっていたせいで気にしなかった脚が棒はやはり恰好が悪く気になる。ということで、ハルドのフレイド・プライベーティアの脚は元の脚に戻った。
「あと、ついでに注文があんだけど」
そう言うと、ハルドはマクバレルに真っ赤なカラスのマークを見せた。
「なんだこれは?」
「ブラッディ・レイヴン」
血塗れカラスだとハルドは言った。
「これを海賊の時の俺のシンボルにするから、塗装も変えてくれ。黒を基調にその上に血をぶちまけたような感じで頼む」
「構わんが、ブラッディ・レイヴン?」
「そう、俺は海賊ブラッディ・レイヴンになるんだよ」
ハルドは意外に凝り性であったが事が判明し、衣装まで用意していた。ハルドが用意したのはクランマイヤー王家邸の倉庫にあった赤い色の儀典用礼服で、それを自分で縫い直して改造した物を上着に、顔は目だけ出して真っ赤な包帯で全部覆ったものを衣装とした。
これで赤い怪人にして海賊ブラッディ・レイヴンの完成である。
ハルドはこの衣装を気に入ったようで、その後も何度もバージョンアップを繰り返すのだった。

 
 

ハルド達クランマイヤー王国が私掠船作戦を行っていた頃、ロウマ・アンドーは地球にいた。1人ではない、自分が組織したガルム機兵隊の面々を連れてだ。
「南アフリカを取らないとねぇ」
ロウマ・アンドーは北アフリカのとある武装勢力のアジトにいた。
現在のアフリカ情勢は混迷している。アフリカ大陸の南側と東側は南アフリカ統一機構によって統治されている。南アフリカ統一機構は地球連合所属なのでクライン公国には敵にあたるわけだが、対するアフリカにおけるクライン公国勢力はというと。
北アフリカと西アフリカにある無数の独立勢力にそれなりの支援をしているだけであった。
「このままだと、アフリカ取られちゃうんだよね。それは俺困るなぁ」
ロウマは武器を提供してやっている武装勢力のリーダーに話していた。
「俺だけじゃなくてクライン公国も困るんだよね。きみも武器を渡してやってんだから、自分の陣地に閉じこもって、お山の大将やってないで他の勢力を潰しに回ってよ。別に無い知恵絞れとは言ってないんだよ。馬鹿は馬鹿らしく適当に銃を撃ちまくればいいんだ」
ロウマはそれだけ言うと、さっさとアジトから出ていった。言ったところで何もしないだろうと想像がつく。やるとしても馬鹿にされた復讐で自分を殺しにかかるかだ。この手の武装勢力の人間は短絡的だからやりかねないとロウマは思った。
しかしアフリカは嫌いだとロウマはつくづく思う。何十、何百年と先進国が援助をしてきたのにも関わらず、C.E.になった現代でも未だに発展を遂げていない。
ロウマとしては馬鹿しかいない大陸だとしか思えない。それに貧乏くさいのがウンザリだ。不潔なのも気分を害する。衛生観念が無いとロウマは勝手に思っていた。
「くそ、帰りてぇ」
ロウマはウンザリだった。聖クライン騎士団の任務として、アフリカへの出向を命じられここにいるわけだが、なにも自分でなくとも良かったはずだとロウマは思う。
最近、騎士団内での立ち回りが上手く行かない時がある。誰かがロウマの行動の邪魔をしているのだ。このアフリカでの仕事が終わったら見つけ出して排除しなければいけない。
邪魔者は殺せばいいのだ。友人が言っていたことを思い出す。
「大抵の事柄は殺せば終わる。終わらなければ皆殺しにすればいい。問題になるのならそれは殺す量が足りないのだ」
さて、では殺しをしようとロウマは思った。友人の言葉の通り、とにかく戦闘そして殺戮あるのみだと、ロウマはアフリカの大地に消えていった。

 

「で、俺らは何をやってんだかわかんねーんだけど」
「俺は分かるぞ。ロウマのクソ野郎に言われて、北アフリカの独立勢力を潰してるわけだ」
赤いザイランに乗るギルベールと褐色のザイランに乗るドロテスは戦闘の真っ只中。
ドロテスとギルベールが相手をしているのは北アフリカにある武装勢力の1つで、このあたり一帯を支配している集団だった。
褐色のザイランが、飛んでくるマシンガンの弾を回避しながら、両手に一丁ずつ持ったビームをライフルを撃ち返し、マシンガンを撃ってきたゼクゥドを撃破した。
「もともとあのゼクゥドって俺らがやったやつだよな」
「正確には公国がだがな」
「それは良いけど、なんで俺らそれをぶっ壊してんの?」
赤いザイランが右手に持った鉄球を投げる、噴射機構を持った鉄球は弾丸の速度でゼクゥドに襲い掛かり、ゼクゥドのコックピット付近を粉砕する。
「いらなくなったから殺せというのがロウマの指令だ」
「なんか勝手」
「奇遇だな。俺もそう思う」
褐色のザイランがビームアックスを投げる。すると投げられたアックスはゼクゥドのコックピットに突き刺さり、パイロットの命を奪う。

 
 

「お前ら、好き勝手言ってんね。俺が聞いてないと思ってる?」
ドロテスとギルベールはしまったという表情になった。ロウマが聞いていたのだ。
「ロウマ・アンドーさんは、お怒りです。こんなアフリカみたいなところに飛ばされて死ぬほどイラついてるんだよな」
だったら、そのまま死んでくれないかとドロテスとギルベールは思った。
「だから、まぁ、俺も戦闘に出るよ」
その声が聞こえた瞬間、一機のMSが戦場に降り立った。
「シャウトペイル。格好いい機体だろ」
ロウマがシャウトペイルと名乗った機体は全身が青色を基調に塗装された機体だった。機体全体のシルエットはザフトの時代から連なるクライン公国系の機体とは違う物で、極めてスリムであり、地球連合系の機体を連想させた。
特徴的なのは、右肩に装備されたシールドと大型のバックパックだが、特徴と言えばそれしかない機体でもある。かろうじて現在の特徴らしきものは、両手に銃を持っていることぐらいである。右手にビームライフルで、左手にマシンガンといったように。
ロウマの乗るシャウトペイルは右手に持ったビームライフルで周囲のゼクゥドを撃ちぬく。そして左手に持ったマシンガンを乱射し、地上を走る人間やMSなど構わずに撃ちまくる。
「いやぁ、こういうのもいいもんだよなぁ」
ロウマは民間人の虐殺など何とも思ってないようであり、それどころかストレスの解消のように、地上を走る人々を狙って撃っていた。
「そういうことは好ましくないな」
対艦刀を片手に、数機のゼクゥドを両断してきたイザラのザイランがロウマのもとに向かって歩いてくる。
イザラのザイランは純白に塗装され、対艦刀とビームライフルだけの装備といったシンプルな機体であった。
しかし、その対艦刀が異常であった。異常なのはその大きさである。純白のザイランが持つ対艦刀は機体の全長ほどの長さと、対艦刀の常識を超える太さがあった。
ゆっくりと歩く純白のザイランに対して、ゼクゥドが近接戦闘を仕掛けるが、イザラのザイランは全く相手にしないような動きで、対艦刀を上段から振り下ろし、向かってきたゼクゥドを真っ二つにする。
そして純白のザイランはロウマの乗るシャウトペイルに近づくと、手に持った対艦刀を突きつけた。
「私の前でそのようなことはやめてもらおうか?」
上司であろうがイザラはロウマの凶行が許せなかった。
「俺も戦闘は好きだけど人殺しはなー」
ギルベールが続いて言う。ギルベールは完全にやる気を無くしており、戦闘に参加する意思すら見せてなかった。
「おいおい、上司に刃向う部下かよ。わずらわしいなぁ、今ここで全員始末するか?」
ロウマは別にここでこいつらを皆殺しにしても良かった。人材の替えなどいくらでもいるからだ。
2機のMSとそして2人のパイロットの間に険悪な空気が漂う中、周囲で一斉に爆発が起きた。

 
 

「……任務……完了……」
ゼロのザイランがゆっくりと爆発の中から姿を現す。漆黒に塗装されたザイラン、それがゼロの乗機だった。しかし、ゼロの機体は武装らしき物を何一つ持っていなかった。
では、どうやって、敵機を殲滅したのか。その答えはすぐにやって来た。無数のドラグーンが飛来し、ゼロのザイランに接続される。
無線誘導の自動砲台、ドラグーンは簡単に言えばそのようなものである。そのドラグーンがゼロのザイランの肩に3機ずつ両肩で6機、バックパックに6機装備されている。
ドラグーンを使ったオールレンジ攻撃に特化したのがゼロのザイランであった。
「さて、ゼロ君の頑張りで、任務も完了したことだし。俺は部下をぶち殺そうかどうかで悩んでるんだけど、イザラちゃんは何かある?」
「私も上官をぶち殺そうかと思っているので、別に言うことは無いな」
蒼い機体シャウトペイルが純白のザイランにライフルを向ける。対して、純白のザイランは機体の全長ほどもある対艦刀を構える。
両者は一触即発の空気だった。そして、その空気を感じ取って動いた者がいた。
「戦闘……継続……?」
ゼロが空気を敏感に読み取り、そして誤解をし、機体のドラグーンを射出した。ドラグーンの狙いは純白のザイランとシャウトペイルである。
無数のビームが2機に襲い掛かるが、2機はどうということもなく、それを避け、むしろそれが戦闘の合図になったように動き出した。
「死ね、クソ女!」
「死ぬのは貴様だ、ロウマ・アンドー!」
この状況で一番困っているのはドロテスである。どちらにつくにしても空気が悪くなることは確実である。ゼロも止めないといけない。
隊の中で常識人が自分しかいないとこうなるのかと、ドロテスはウンザリしながら煙草を一本口に咥え、火を付けた。煙が体の中に入ってくると考えもまとまってくる。ドロテスはしばらく静観することにした。
「ゼロ、私を助けろ!後でお菓子を買ってやるぞ!」
イザラは分が悪いと見たのか、ゼロを仲間に引き入れる作戦を取った。
「……了解……」
「イザラちゃんさぁ、ゼロ君を仲間に入れたくらいで、俺に勝てると思ってんの?」
ロウマのシャウトペイルは恐ろしく速く動いていた。機体の性能よりもパイロットの技量によるものだとイザラは考えた。
勢いあまって喧嘩をふっかけたが失敗だったとイザラは内心では後悔していた。想像以上にロウマは強いと思い知らされたのだ。
純白のザイランはビームライフルは躱すか、長大な対艦刀を使い弾くかで確実に回避していたが、マシンガンまでは回避の手が回らず、銃弾が機体をかすめた。
ゼロを菓子で釣って味方にしたは良いが、重力化ではドラグーンの性能は落ちるため、ロウマクラスのパイロット相手だと、簡単に避けられてしまう。
「強気だったイザラちゃんどうしたの?まさか今になって俺とやんのが怖くなったか?俺のナニを咥えてくれるんだったら許してやってもいいけどぉ?ははははは」
「ふざけるな!貴様のナニなど引きちぎってやる!」
「なんだよ、ナニで通じんのか、お嬢様かと思ったけど、これじゃつまんないね」
ロウマはがっかりしたように、呟き、シャウトペイルも同様にがっかりしたようにうなだれて両手を下に下げた。
「つまんね、もういいや。俺に攻撃したのは見逃してやるよ。俺は先に帰るんで皆、勝手に帰ってね」
ロウマがそう言うとシャウトペイルが奇妙な行動をする。右肩の大型シールドを外し、手に持ち、更に大型バックパックを外して手に持つと、その2つ合体させたのだ。
合体させた後のシルエットはエンジンの付いたサーフボードのようだった。シャウトペイルはそれに乗ると、高速で上昇し、その場から離脱していった。

 
 

「待て!」
イザラの言葉もロウマにはもう届かない距離となっていた。MS単体で考えるならば非常に高い飛行能力であった。
シールドとバックパックを合体させたボード状の装備、正式な装備名はブースターボードという、それにシャウトペイルを乗せたロウマはのんびりと空の旅を楽しんでいた。
「イザラちゃんと喧嘩したのは良くないけど、シャウトペイルはまぁまぁか」
これなら量産に踏み切ってもいいだろうとロウマは思った。ザイランよりもパワー自体は落ちるが、機体自体は動かしやすく、ブースターボードで高い移動性能を持ち、ある程度腕が立つパイロットならば、ブースターボードを使って戦闘も可能だろう。
とりあえず、ロウマは一旦、落ち着くことの出来る場所についたらレポートを作成しようと思った。シャウトペイルの実戦運用についてのものだ。
レポートの内容を上層部がどう捉えるか分からないが上手く行けばザイランと同じように、公国の主力量産機となるだろう。
そうなった時は、シャウトペイルを開発した会社から多額の金を受け取るという予定がロウマの中にはあった。そうでもなければ、わざわざMSになど乗らない。
ロウマはこれから自分の懐に入ってくる金額への期待に胸を膨らませるのだった。

 

「何も言うことはないけど、とりあえずシャウトペイルはイザラちゃんにあげます。後、悪いことやってガンダム系っぽい機体を本来渡される部隊から、こっちに回してもらうようにしました。俺って偉いね」
ロウマ・アンドーは間借りしている武装勢力のアジトの一室でいきなり、そう言った。イザラとゼロがロウマに対して攻撃したことは不問に処すということだった。
「イザラちゃんは頭が悪いから、ああいうことやっても仕方ないしゼロ君は元々アレだから。ここは俺が大人になって、許してあげないとね」
ロウマは寛大さを見せつけたつもりだが、イザラとゼロには伝わっていなかった。
「死ね」
「……」
ロウマは無視することにした。ロウマは不意に部屋の隅を見ると、ここの武装勢力のリーダーがひきつった顔で立っている。
ロウマは緊張をほぐしてやろうと、リーダーの肩に手を乗せ、肩を揉んでやる。
「よかったじゃないの。俺たちのおかげで、きみは北アフリカ一帯の王様になれるかもしれないんだよ。何人死のうが、どこがぶっ潰れようがいいじゃないの。ほらしっかりしなよ」
ロウマはてっきり、リーダーが喜ぶと思ったが、こういう反応かと、つまらない思いだった。どうやら、この男は思ったより欲が無いようだ。早々に殺してもっと貪欲な人間をリーダーに替えた方が良いかもしれないとロウマは思った。だが、それも後だ、今は――
「んじゃ、今日も皆さん出撃しましょう。そんでもって他の勢力やら何やら潰してきてくれよ」
そうロウマが言うと、ガルム機兵隊の面々は嫌そうに部屋から出ていった。ロウマとしてはさっさとアフリカを制圧して宇宙に帰りたいのだから彼らには頑張ってもらいたいと思っていた。

 
 

ガルム機兵隊は戦場では圧倒的な存在だった。相手は所詮地方の武装勢力であるが、ガルム機兵隊の戦闘能力の高さは確かだった。
ガルム機兵隊の強みは連携にあった。イザラの乗った純白に塗りなおされたシャウトペイルがブースターボードに乗り、驚異的な速度で敵陣に突撃しながら、長大な対艦刀を振り回す。
そしてイザラの活躍でできた穴をドロテスとギルベールが広げる。ドロテスとギルベールの機体は特性こそかみ合わないが、パイロット同士の相性で極めて高いレベルの連携をこなす。
そしてゼロの機体がオールレンジ攻撃で、さらに戦場全体に火力をばら撒き、敵全体を消耗させていく。各員が連携を意識せずとも勝手に戦っているだけで連携となる。それがガルム機兵隊の現在の戦い方であった。
メンバーが増えれば連携の幅はもっと広がると、ロウマは戦場を見ながら思った。そして増員するメンバーの目星は既についており、2、3日中にも新しいメンバーが到着する予定だ。自分の、自分だけの部隊が少しずつ完成していくことにロウマは満足を覚えていた。
その時だった。戦場を眺めるロウマの元に通信が入る。それは、クライン公国の中でも最も特別な存在からの連絡、エミル・クラインからの連絡であった。
「アンドー大佐。少しお話しがしたいので、戻ってきてくれませんか?」
それだけで通信は終わりである。ロウマは心底ウンザリだった。チンパンジー以下の脳味噌しかない女とお話しの時間、そしてそのそばにいるであろう、あの男。
顔と名前すら思い出したくないが、クライン公国の最高権力者に呼び出されたのなら行くしかない。
幸いガルム機兵隊はイザラに任せておけばいいので、気は楽だ。宇宙へ戻れるのも嫌ではない。しかし、エミル・クラインには会いたくない。だが、そうも言ってられず、ロウマは急ぎ、宇宙への帰り支度をするのだった。

 

ロウマと入れ違いにガルム機兵隊には2人が増員された。そして、ロウマが言っていたガンダム系っぽい機体とやらも到着した。
「アリス・カナーですー」
1人目の増員メンバーは眼鏡をかけた少女だった。大きなメガネと癖の強い髪が印象的であった。
「ガウン・レン……」
2人目の増員メンバーは無愛想な感じの男だった。東洋系の顔立ちに、髪を長く伸ばしている。
イザラは一通り元のメンバーの紹介をすると早速、戦場に向かった。
アリスの機体はザイランだが、色がおかしかった。完全なピンク色である。趣味が悪いとガルム機兵隊のメンバー全員が思ったが、機体の武装を見ると、そんなことは言えそうに無かった。
アリスのザイランはとにもかくにも重武装だった、それもビーム系の重武装ではなく、実体弾系の重武装である。
バックパックには大型キャノンが二門装備され、両肩には常識を超えた大容量のミサイルランチャーユニット。そして両手にはバズーカが一丁ずつ装備され、腰にも大容量のグレネードランチャーユニットを装備し、さらに脚にもミサイルポッドが装着されていた。
アリス曰く、「火力で制圧するのが、この世では一番効率的」だ、そうなので、この装備が一番効率が良いとアリスは言うのだった。
しかし、機体が重すぎる気がと全員が思った。
「だからシャウトペイルがあるんだと思いますよー」
アリス・カナーは間延びした喋りの少女だった。そしてアリスの言う意味がイザラは最初分からなかったが、アリスの行動は迅速ですぐに理解する羽目になった。
イザラのシャウトペイルがブースターボードに乗った瞬間、アリスのザイランもブースターボードに乗ったのだ。ブースターボードは本来は1機用だが、こういう2機乗りの使い方も考えられていた。
だが、アリスのザイランは重すぎる。落ちる落ちる!とイザラが心の中で叫んだ直後、突然にイザラのシャウトペイルにかかる重量が減った。

 
 

「……」
その理由はガウン・レンのシャウトペイルがアリスの機体を脇から支え、持ち上げていたからだった。
ガウン・レンはシャウトペイルに搭乗していた。試作機であり、数が少ないこの機体を任されるということは相当な腕だろうとイザラは思った。その上、ガウンのシャウトペイルはカスタムされていた。
基本的な武装はヒートランスと腰にマウントしてあるビームライフルだ。
しかしガウンのシャウトペイルは通常のブースターボード用のシールドの他に左肩に大型のシールドを装備していた。イザラはチラッとだが、そのシールド内に様々な武装がマウントされているのが見えた。
「感謝する」
「……」
イザラが礼を言ったのにも関わらず、ガウンは何も言わなかった。イザラは別に気にしなかった。無口な人間はゼロでもう慣れたので、それが1人増えたところで別に構いはしなかった。
イザラは、とりあえず、出撃に際して、新たに加わったガルム機兵隊の面々もいることだし、一応、確認を取っておくことにした。
「ロウマ・アンドーに死んで欲しい者は手を挙げろ!」
イザラが通信で呼びかけると、ゼロ以外、新たなメンバー含めて全員の機体が手を挙げた。
「よし、部隊の統率は取れているな!では出撃!」
ガルム機兵隊の面々はロウマ・アンドーに死んで欲しいという気持ちを共に戦場へ向かうのだった。

 

「どうよ、ゼロ坊、新型は?」
戦場へ向かう途中、ギルベールはゼロに話しかけていた。
「…………」
ゼロは何も言わない。基本的に抽象的な質問には反応できないということが、短い付き合いでガルム機兵隊の面々は理解してきていた。
ゼロは新型機に乗っていたロウマ・アンドー曰く、ガンダム系っぽい機体らしいが実物を見るとガンダムらしいと言えばガンダムらしいシルエットのように、ガルム機兵隊の面々は感じたが、明らかに違うことは分かった。
なぜなら頭部がモノアイでトサカ付きというクライン公国系であったからだ。
機体名はコンクエスターというらしいが、詳しいことはガルム機兵隊の面々も理解してなかった。とりあえずドラグーンシステム搭載機という理由だけでゼロが乗ることとなった。
「まぁ試さなければ機体の良しあしは分からんだろう」
ドロテスが言うと、ギルベールも何か思うところがあるようだった。
「一応、俺もドラグーン適正高いし、俺が乗っても良いんじゃね」
それについてはイザラが否定した。
「ゼロの前の機体はドラグーンシステム搭載機だったから、これがベストな乗り換えのはずだ」
「俺も新型乗りたいよー」
「ザイランも充分新型だぞ」
ギルベールのわがままにドロテスが付き合ってやる。基本はギルベールも構ってもらいたいからグチグチと言っているのだ。適当に相手をしてれば、新型機のことなどどうでも良くなるだろうとドロテスは思った。
そうじゃなくてさぁ……、とギルベールがごねようとした時だった。アリスのピンクのザイランが突然、シャウトペイルのブースターボードから降りた。
急に重量が軽くなったため、アリスのザイランを乗せていたイザラのシャウトペイルはバランスを崩しかける。

 
 

「こら、降りる時は降りると言え」
「すいませんー」
そう言いながら、アリスのザイランは落下しながら、バックパックのキャノン砲の砲撃を行っていた。かなり遠方に向けての砲撃である。しかし、着弾した地点では大きな爆発が起こっていることが確認できた。
「先制攻撃ですー」
アリスはのんびりと言いながら砲撃を続けていた。
「このまま、砲撃しながら戦場まで接近するんで皆さんはお先にー」
ではそうさせてもらおうと、軽くなったイザラのシャウトペイルは全速力で敵陣に突撃していった。
その後に続くのはガウンのシャウトペイルとゼロの乗るコンクエスターだ。そして続いて、ドロテスとギルベールのザイラン。最後に超重装備のアリスのザイランが続く。
「敵は今までよりも多少は大きな武装勢力で、“荒原の狼”という二つ名のエースがいるらしいぞ」
イザラは今更ながら敵の情報を伝えたが、ガルム機兵隊の面々は別に気にも留めてなかった。
「そのエースを誰が狩るか勝負しねぇ?」
ギルベールが言いだす。
「乗った」
隊長代理のイザラが真っ先に同意すると、他のメンバーも口には出さないが、その勝負に乗ったようだった。
「でも、私の砲撃で、もう死んじゃってるかもしれませんよー」
「では見つからなかったら、アリスの勝ちで良い」
イザラが勝手にルールを設定した。別に誰も文句はなかった。ロウマではないがこんな戦場はガルム機兵隊の面々にとって遊びだ。ルールだって真剣に決める必要はない。
「じゃあ、もっと撃ちまくりますよー、流れ弾に当たったらその人が悪いってことでー」
「当然だろう」
ドロテスは戦闘の前の煙草を口に咥え火を付け言った。
戦場は近い、ガルム機兵隊の面々は、それぞれが嬉々として戦場に飛び込んでいった。

 

「なんなんだ貴様らは……!?」
荒原の狼と呼ばれた男は息を荒げながら、叫んだ。突然自分たちのアジトに強襲をかけてきた数機のMSそれによって、荒原の狼の率いる武装勢力は壊滅した。
数十機あったMS。そして決して練度の低くないはずのパイロットたちがたった数機のMSに蹂躙されたのだ。
荒原の狼は最後に残ったMSとして、ガウンのシャウトペイルと対峙していた。
「…………」
ガウンは何も言わない。
「ありゃ、最後はガウンさんか」
「アレが荒原の狼みたいですよー」
「勝負はガウンの勝ちか」
荒原の狼の機体が動く。だがその瞬間にはガウンのシャウトペイルがヒートランスで荒原の狼の機体のコックピットを貫いていた。
「おお!」
イザラは感嘆した。かなり速い動きであったが機体性能によるものではなくパイロットの技量によるものだと感じた。パイロットとしての技量はおそらくロウマ・アンドーに匹敵するか勝るかもしれないと思った。
「つえー」
「奇遇だな俺もそう思った」
ドロテスとギルベールもガウンの操縦技術の高さに気づいた。腕が立てば認められるガルム機兵隊はそういう集団である。
「さて、では帰るか。新しい仲間の歓迎会をしたいがどうだろうか」
イザラが全員に呼びかけるとゼロが乗る機体以外は全ての機体が手を挙げた。ゼロも別に歓迎会が嫌というわけではない。歓迎会というもの、そのものが分からないので手の挙げようがないのだ。
「うーむ、気を悪くしないで貰いたいが、ゼロには悪気があるわけではなくてな……」
「わかってますよー、ゼロ君って昔流行った強化人間みたいなものなんですよねー、気にしませんよー」

 
 

アリスはそう言ってくれたのでイザラはありがたかった。何気に隊長代理と言うのも大変な仕事だと思った。なにせ、ロウマ・アンドーが徹底的に下げにかかる士気を代わりに上げて隊員たちのモチベーションを上げなければいけないのだから。
「では、今日は特別に私のおごりで、外に飲みに行こう、歓迎会は盛大にやらないとな!」
そうと決まれば、ガルム機兵隊の面々はさっさと帰ることにした。
「イザラ、店は喫煙可の所でなければ、俺は行かんぞ」
ニコチン中毒のドロテスがそんなことを言いだすが、そんな心配はいらないだろうとイザラは思った。アフリカで禁煙の店など、まだ見たことが無いからだ。
「そんな心配よりも酒の心配をするべきだな。今日は飲み比べだぞ!」
うむ、体育会系のノリ、これが一番いいのだとイザラは思い、コックピットの中で、今日、飲みに行く店を探すという重大な仕事をしていた。
ガルム機兵隊の面々は軽いノリで帰路についていたが、彼らが訪れた先は焦土と化していた。ガルム機兵隊の名は自然とアフリカ大陸中に知れ渡り、恐るべき部隊として悪名をとどろかすようになっていった。そのことをガルム機兵隊に所属する面々は知る由もなかった。

 
 

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