GUNDAM EXSEED_EB_6

Last-modified: 2016-01-12 (火) 20:16:48

リヒトはレイノルズ宅での滞在期間を少し伸ばした。理由は、図書館で手に入れたユウキ・クラインの日誌を読み進めるためと、マンイーターが持っていった化石の行方を調べるためであった。ついでにハンバーガーとステーキをミリアムに食わせる目的もあった。
本場のハンバーガーを見たミリアムは目を丸くしたが、リヒトはこれが本物だと言って食べさせると、何か感動した様子を見せた。
ビーフ100%の分厚く、肉の旨みが凝縮されたパティを少し焼いたバンズに挟み、チェダーチーズにトマト、オニオン、レタス、ケチャップ。これこそがスタンダードで王道だ。
ミリアムは少し小さめのサイズを頼んだが、それでも大きく噛り付くのに一苦労だったが、一口食べた瞬間に顔がパッと輝き、何かを理解したとリヒトは分かった。
そしてステーキに関してだが、結局これはやめておいた。別にニューヨークでも悪くないのだが、日本の鉄板焼きの良い店に行った方が、驚きを得られるのは間違いないからだ。
代わりにホットドッグをリヒトはミリアムに買い与えていた。リヒトはハンバーガーほど、ホットドッグにこだわりはなかったが、ニューヨークの屋台で買い食いする、ホットドッグというものも味わっておくべきだとリヒトは判断した。将来のためにも。
リヒトがミリアムと立ち寄った屋台でリヒトはホットドッグを、何も入っていないプレーンのもの、レリッシュとオニオンがかかったもの、ザワークラウトが乗ったものの三つを買い、それぞれに大量のマスタードとケチャップをかけた。
そして、近くの公園、この日はセントラルパークで食べた。基本的にミリアムはだいたいの食事を感動して食べるので、今回も同じだった。買い与えている身としては、それは嬉しいものであり、リヒト自身も買ったホットドッグはパンが硬めで好みに合った。
そういえば、ユウキ・クラインの日誌の最初の方にあったと思いだす。
“セントラルパークでホットドッグを食べる。味も良い。これが自由の国の味かと思った。昔はアメリカ合衆国の中心地であるニューヨークであるが、地球連合となってからは、そう呼ばれることも少なくなって少し寂しいと思う”
くだらない内容だなぁと思うが、日誌などそんなものかと思い、リヒトは読み進めているのだった。
リヒトはミリアムがホットドッグを食べ終わるのを待ち、終わるとレイノルズ宅に帰るのだった。
グランパとグランマはミリアムが気に入ったようで、簡単だが護身術の稽古をつけていた。ミリアムも体を動かすのは嫌いではないらしく、それなりに楽しそうに稽古を受けていた。
対して、リヒトは日誌を読み進めることに難航していた。
書いてあるのは大学時代のくだらないことがほとんど。
だが、日誌の文章からはユウキ・クラインは、当時はまだあった、ナチュラルとコーディネーターが互いに持つ差別意識に対して憂いを抱いているのがハッキリと分かり、また福祉問題に強い関心を持っていたことが分かった。
そして、暴力を振るうことを躊躇わない者には暴力を持って、その恐怖を教え込む必要があるという過激な考え方の持ち主であることも分かって来た。
しかし、分かったことはその程度である。リヒトは日誌内にいくつかボールペンで黒塗りされた部分があることを見つけ、解析をしてみるが、結局は書き損じであり、手がかりらしきものを見つけることはできなかった。
「結局、銃だけか」
リヒトはユウキ・クラインの使っていたと思われる45口径のリボルバー、通称ピースメーカーを手に取るが、これも新品同様に手入れされている以外に特徴らしきものは何もない。ただ、なんとなく不思議な魅力を感じ、リヒトはこれを自分の物にしようと思うのだった。
結局、収穫はそれくらいだ。リヒトは現状、ニューヨークに滞在する理由はないと思い、ミリアムに近いうち、ニューヨークを出ることを伝えようと思ったが、まだ肝心な場所を調べていないことを、リヒトは思い出した。
ニューヨーク大学の新図書館の件でうっかりしていたが、大学のキャンパスの方も調べておく必要があると思い、何の準備もせず、とりあえずニューヨーク大学に向かうことにした。ミリアムらに、少し出かけるとだけ言って、レイノルズ宅を出発する。
リヒトは校舎が複数に分かれていることを知っていたので、とりあえず全部回ってみたが、怪しいところは、どこにもなく、結局、収穫なしかと思いながら、夕方のワシントン・スクエアを歩いている時だった。

 
 

人気の無い公園の道を歩いていると、どこかで見た顔がベンチに座っていた。それは、少し明るめの茶色い髪に爽やかな顔立ちの青年だった。
リヒトは、あれ?と思いながら、ベンチの前を通り過ぎようとしながらも、不意に足を止めた。
「やぁ、こんにちは。いや、こんばんは、か」
ベンチに座る青年はリヒトを見ると、バツの悪そうな表情を浮かべた後に、笑顔で言う。
「昔から苦手でさ、おはようとこんにちは、その切り替えは何時にすればいいのかとか、そういう切り替えみたいなの」
そう言った後で青年は苦笑いしながら言うのだった。
「初対面の相手にするような話しじゃないな。つまんない話し聞かせてすまなかった。ただ、まぁ、俺はそんなに話題が豊富な方ってわけでもないから、こういう下らない話ししかないんだ。悪いね」
リヒトは青年が軽く頭を下げるのを見た後で、どう反応すればいいか分からなかった。
「ここであったのも、何かの縁だ。挨拶しておこうか。俺はユウキ・クライン。キミが追っている人間だ」
やはりとリヒトは思った。間違いなく写真の顔と同じだからだ、しかし何かおかしい点がある。今、リヒトの前に座っているユウキ・クラインは大学を卒業したくらいの年齢。しかしリヒトの父が最後に見た時も、それと同じくらいの年齢だったはず。
聖杯には不老の能力はないはず。理屈で言えば、ユウキ・クラインは、十歳は年を取っていなければおかしいが、目の前のユウキ・クラインに年齢を経た様子は見えない。
「色々と理屈に合わないことがあるんだろ。まぁ、座ると良い。少し説明しよう」
そう言うと、ユウキ・クラインと名乗る青年はベンチの端に寄り、同じベンチに座るようにリヒトをうながす。リヒトも断る理由がないので、おとなしくベンチに座る。
「ところで、キミは綺麗だが、コーディネーターかい?」
ユウキ・クラインと名乗る青年は、そう尋ねたが、尋ねられたリヒトは怪訝な表情を浮かべた。
「それを聞くのは、あなたの人種は何ですかとか、信じている宗教は何ですかとか、結構、失礼な質問なんだけど」
そう言うと、ユウキ・クラインと名乗る青年は少し驚いた表情を浮かべた後で笑顔になる。
「そうか、それは失礼。いや、そうか、そういう時代になったんだな、本当に。それはいいね」
リヒトは何を言っているんだと思い、ユウキ・クラインと名乗る青年に言う。
「アンタが、聞くのは失礼だろっていったじゃないか。有名なナチュラル・コーディネーター差別撤廃宣言の時の演説にあるぜ」
ユウキ・クラインと名乗る青年は、まるで他人事のように、へー、と関心したような表情を浮かべていた。自分のことのはずなのに、何か他人事のように聞く青年に対してリヒトは不審の目を向ける。
「少し調べたから、そういうのがあったのは知っていたが、まさか本当に自分がそんなことをするとはなぁ、変な感じだな、自分のしたことを後から聞かされるってのは」
変な感じがするのはこちらの方だとリヒトは思い、口にする。
「タイムスリップでもしてきたみたいな感じで言うんだな」
リヒトがそう言うと、青年は笑顔になり答える。
「あながち間違いじゃないな。感覚的にはタイムスリップに似ている。今の俺は留学した大学を卒業して、プラントに戻って来たところまでの記憶しかないからな」
どういうことだ?リヒトが疑問の眼差しを向けると、青年は言う。
「シンプルに説明すれば俺はユウキ・クラインのカーボンヒューマン。ちなみに24歳ぐらいのころの俺だ」
カーボンヒューマン、確か複製人間だったか?リヒトは、確実ではないが、そんな感じであったという記憶を呼び起こす。
「なんというか、オリジナルが生きているのに、カーボンヒューマンとして誕生するというのも、良く分からない感じでね。少し困っている」
そう言うと、カーボンヒューマンのユウキ・クラインはベンチから立ち上がり、公園の芝生の方へと歩き出す。その左手には細長い袋が握られていた。

 
 

「困っているのは、そっちも同じだろうけどな。なにせユウキ・クラインを追っていたら、追っていた相手が二人になったからな」
リヒトはそうかなぁ、と思いながら、カーボンヒューマンのユウキ・クラインの後を追い、芝生に入る。
「僕はオリジナルを捕まえるのが主任務で、カーボンヒューマンのユウキ・クラインはそんなに重視する必要はないと思うけど」
カーボンヒューマンのユウキ・クラインは、それもそうかと思い笑顔を浮かべる。
「だけどまぁ、オリジナルは俺に、追ってくる奴の相手を適当に頼むって言ってきたんでな。ついでに、俺を確保すればオリジナルは居場所を吐いても良いって言ってたな」
「ふーん。じゃあ、アンタを殴り倒すなりなんなりして、捕まえれば、オリジナルのユウキ・クラインの居場所が分かるわけか」
カーボンヒューマンのユウキ・クラインは肯定の意を持って頷く。
「ま、そういう感じであってるよ。ただ、なんか、いちいちオリジナルとか言われるのも、そんなにこっちとしては面白くないから、ユウキⅡでもユウキ2号でも、ユウキV2でもいいから、呼び方を考えて欲しいんだけどな」
そんなくだらない話しを無視し、リヒトはユウキ・クラインのカーボンヒューマンの懐に飛び込み、拳を叩き込もうとしていた。
その直後、リヒトは自分が宙を舞っている感覚に襲われた。
「ユウキ・カーボンでいいや。今度からは俺を、そう呼んでくれ」
リヒトが十メートル近く吹き飛ばされている中、ユウキ・カーボンはノンビリとそう言った。リヒトは何が起こったか分からないが、無事に受け身を取った。そして訳の分からないリヒトは素直に聞く。
「何かした?」
「別に。身を守っただけさ。誰にも許されている権利を行使しただけ。まさか、俺が無抵抗で捕まってくれると思っていたわけじゃないだろ?えーと……」
「リヒト・グレンだ」
名前を聞くとユウキ・カーボンはかかって来いと手招きをする。
「少し頑張ってみようか、リヒト」
言われなくても、そう思い、リヒトは再びユウキ・カーボンに接近するが、今度は慎重に拳を繰り出す。軽いジャブの連打をするリヒト。それをユウキ・カーボンは軽く躱しながら足払いでリヒトを転ばせる。
地面に倒れた瞬間、リヒトはユウキ・カーボンに対しても足払いを仕掛けるが、ユウキ・カーボンはスッと後ろに下がり、足払いの届く距離から逃れる。
リヒトはすぐさま立ち上がると、高速の右フックをユウキ・カーボンの顔面に放つが、ユウキ・カーボンはそれを右手で軽く弾く。
すぐにコンビネーションで左のボディーブローがユウキ・カーボンのわき腹を襲うが、それもユウキ・カーボンは軽く右手で弾いて叩き落とす。
即座に前蹴りが飛ぶが、虫を払うようにユウキ・カーボンの右手が振るわれるとリヒトの足は軽く叩き落された。
「悪くはないけど。常識的だな」
その言葉と共に、ユウキ・カーボンの右手が消え、再びリヒトは十メートルほど吹き飛ばされる。殴られたような気がするが痛みは全くなく、ただリヒトは自分が吹き飛ばされたことしか理解できなかった。
リヒトは再び受け身を取るが、直後に全身を虚脱感が襲う。
「10秒で動ける程度に打った。もう少し頑張りがみたいからな」
そう言うと、ユウキ・カーボンは細長い袋を開けると中から、日本刀を取り出す。それを見て、リヒトも言う。

 
 

「アテネ、刀だ」
すぐにリヒトの右手に抜き身の打刀が現れる。
「すごいな。そういう技術があるのか」
そう言いながら、ユウキ・カーボンは鞘から刀を抜き放つと、鞘を放り捨てる。
「まぁ、なまくらだけど。ちょうど良いだろうね」
リヒトは虚脱感が無くなると立ち上がり、刀を構える。
「こっちは、それなりに良い物なんだけど」
とは言っても、まぁ近代技術で刀の形状にしただけの合金製のブレードというだけだが、リヒトはそんなことを思いながら、ロウマ・アンドーに習った剣術の型通りの一刀を放つ。
ユウキ・カーボンは応じて動き、刀の刃をぶつけ合うようなことはせず、放たれた一太刀を流れるような動きで躱し、そのまま流れるような動きで、リヒトの首筋に刃を這わせる。
「刀法に攻守無し。攻めは守り、守りは攻め。正逆常在、流転こそが理なり。って伝わらなかったかぁ」
ユウキ・カーボンは少し残念そうな表情になると、刀を引き、ゆっくりとリヒトから間合いを離し、再び刀を構えると、呆然とするリヒトに対して言う。
「俺が弱いと思ってたろ?」
ニヤリと笑みを浮かべながらユウキ・カーボンが言うと、リヒトは頷くしかなかった。ユウキ・クラインが強かったなどというのは、どの歴史書にも書かれていない事柄だ。
「俺もちょっと驚いた。現代の教科書だと、ナチュラルだったせいで俺がイジメられてた話しばっかりが注目されてて、それで終わりだからな。弱いと思われても仕方ない」
だけどな、そう言った瞬間にユウキ・カーボンが動く。というか完全にリヒトの視界から消え、気づくと額にユウキ・カーボンの刀があった。
「だけどな、俺がやられっぱなしでいると思うか?これでも死ぬほど鍛えたんだぜ、いじめっ子に逆襲するために」
ユウキ・カーボンはリヒトの額の刀を引くと、自らも後ろに下がる。リヒトは反撃に映ろうと刀を構えようとした瞬間、リヒトの腕をユウキ・カーボンの刀が触っていた。
「親が子供に対して無関心で、自分の殻に閉じこもりがちだったせいで、結構放任に育ったからな。鍛える時間はいくらでもあった。それこそ血反吐を吐くまで、鍛錬し続けた。言っとくが、ガキの頃からだ」
今度は全く見えず、ユウキ・カーボンはリヒトの刀の間合いから離れていた。
「言っておく。俺がクライン公国の全ての武の原型だ」
何を言っている。リヒトがそう思った瞬間、リヒトは右肩に痛みを感じ、しゃがみ込んだ。見上げると、ユウキ・カーボンがおり、その刀の峰がリヒトの右肩に押し付けられていた。
「クライン公国の武術の全ては俺が編み出し、現在まで伝わったものだ。そして、結局のところ、全てを伝えきれずに、無理な部分はそぎ落とし、習得が容易な形で現在に伝わったみたいだな。キミの剣を見れば分かる」
確かに自分の剣技やらは、クライン公国にいたアンドーのオジサンのものだ。
「最初に構えを見ただけで分かったけど、相手にならないな。頑張ってるのはわかるけど、頑張りだけでもって問題はあるね」
そう言うと、ユウキ・カーボンは刀をリヒトの右肩から離し、リヒトに背を向けて歩きながら言う。
「言っておくけど、俺の武は理を超え、極みに達している。そのままじゃいくらやっても、無駄だから。まぁ帰りなよ」
そう言いながら、ユウキ・カーボンは鞘を拾って刀を収め、更に袋に戻す。
「次にいつ会えるかは分からないけど、多分、生身でサシだと俺に勝てる奴はいないから、数を集めるなりした方がいいな。それじゃ、楽しかったと言えば楽しかったよ、リヒト。じゃあ、また」
ユウキ・カーボンは軽い調子で帰ろうとしたが、それをリヒトが見逃すわけが無かった。
「来い、アテネ!」
(了解)
明らかに、アイツは自分を舐めているとリヒトは思った。思い知らせる必要がある。そう思い、リヒトはジェネシスガンダムを呼び出した。もう手段を選んでやる気も起きなかった。
「いいね。そういう必死な奴は好きだ」
ユウキ・カーボンは突如現れた、ジェネシスガンダムに驚く様子もなく。自分も機体を呼び出した。
「やろうか、Gゲイツ」
リヒトは、そんなまさかと思うしかなかった。目の前にジェネシスガンダムと同じようにMSが転送で現れる。
その姿は大昔のMSであるゲイツに、そっくりであるが、リヒトは細部の違いまでは分からなかった。ただ、腰アーマーにマウントされている刀が、ユウキ・カーボンの機体であることを確信させた。

 
 

「次はMS戦か、これなら勝機はあるかもな」
ユウキ・カーボンはあくまで余裕といった感じで機体コックピットに自身を転送させる。リヒトも同様にジェネシスガンダムのコックピットに自分を転送させる。
「ニューヨークを戦場にしたくない。少し離れようぜ」
ユウキ・カーボンはそう言うと、Gゲイツを浮遊させ、飛び立つ。ジェネシスガンダムも、それを追いかけ飛び立つ。
二機はしばらくの時間をかけて、荒野に降り立つ。すでに夕方は過ぎ、夜になっていた。
ユウキ・カーボンはコックピットハッチを開け、身を乗り出すと夜の荒野、その空気を胸いっぱいに吸い込む。
「ああ、自由の世界だ」
初めて、荒野をバイクで走った瞬間、自分は全てから自由になった気がした。そして、荒野の夜、頬にあたる涼しい風を受けながら焚き火をし、夜空を見上げて世界の広さを感じた。
自分が生きていた時代は、とうに過ぎた。それでも世界は変わらず、こんなにも広く自由を感じさせる。これだけは永遠なのかもしれない。そんなことを考えながら、ユウキ・カーボンは、コックピットのシートに戻る。
夜の空気と風は充分に堪能した。次は戦いの熱だ。さて、リヒトはどれくらい頑張ってくれるか。それが楽しみだった。
「アテネ。敵機の情報は?」
(ありません。ですが、ジェネシスガンダムと製造元が同じ機体であるとは考えられます)
だろうな、転送機能を持っている機体なんて、このジェネシスガンダムぐらいだとリヒトは思う。
戦って勝ち目があるか、リヒトは一瞬、不安を感じた。その瞬間である。Gゲイツが一気に距離を詰めて、左腕の小型シールドを振る。シールドの先端からはビームソードが出力されていた。
ジェネシスガンダムは両腕からビームトンファーを出力させ、その一撃を片手で受け止めながら、もう一方の腕で反撃する。しかしGゲイツはビームトンファーを腕を弾くことで防ぐと即座に足払いを放つ。
足払いは見事な形で命中し、ジェネシスガンダムの両脚が地面から離れるが、ジェネシスガンダムは浮遊し、攻撃の意味を無くし、Gゲイツに蹴りを叩き込み、反撃する。
蹴りを入れられたGゲイツは即座に後ろに下がり、腰後ろにマウントされたビームライフルを連射するが、高速で移動するジェネシスガンダムはその全てを回避する。
「流石は同じ、ジェネシスモデルだ。良い動きをする!」
ユウキ・カーボンは楽しげに言うが、リヒトは何のことか分からず、攻撃を回避しながら尋ねる。
「何だよ、ジェネシスモデルって!」
「それも俺を倒せたら教えてやるよ」
結局それか、だったら、ぶっ倒すだけだ。
「アテネ、右手に俺の剣、左手にビームライフル」
(了解です)
直後、ジェネシスガンダムの右手に鍔の無い大剣が握られ、左手にビームライフルが握られる。ジェネシスガンダムはGゲイツのビームライフルの連射に対抗して、自らもビームライフルを撃ちながら接近しつつ、大剣を逆手に持つと、全力でGゲイツに投げる。
大剣は見た瞬間に相当な大質量であると感じたユウキ・カーボンは、ヘタに防ぐと機体の腕が痛むと思い、大剣を軽く躱す。
「四神剣、モード2」
躱された大剣は地面に突き刺さるが、リヒトは全く気にした様子を見せず、ビームライフルを連射する。
何かあるなと思いユウキ・カーボンは、何をしてくるか楽しみで仕方ないと思いつつ、それを露わにせず、攻撃を続ける。
全く当たる気配がしない。これだけ攻撃して、シールドすら使わせられないのは異常だとリヒトは思った。ユウキ・クラインがMSに乗ったという話しは聞いたことが無いが、腕前は並のエースどころではなく、リヒトが知る限り十本の指に入る腕だった。
「何かしろよ、リヒト。このままだとつまらないぞ!」
ユウキ・カーボンは戦いを楽しむように言う。実際楽しくて仕方なかったからだ。全力を出せた機会など気づいた時には無くなっていた。いつの間にかにだ。
ユウキ・クライン時代は、戦う相手の全てが遅く退屈なものになり、少し撫でただけで相手が死ぬようになってからは、全てを抑えて生きていたが、今は割と力を出せていて楽しい。やはり人間には自分の力を発揮できる場が必要なのだとユウキ・カーボンは思う。
ユウキ・カーボンのGゲイツは重力など関係ないもののように、浮遊し縦横無尽に動き回りながら、ジェネシスガンダムに接近する。

 
 

「じゃあ、何かするとするよ。……襲え、四神剣」
地面に突き刺さっていた、大剣が転送で消えると、Gゲイツの背後に現れる、しかし、推進器も何もついてない剣が空中に現れたところで落ちるだけ。
常識ではそうだが、リヒトが“俺の剣”と呼ぶ、その大剣は違った。空中に現れると同時、真っ直ぐ凄まじい速さで、Gゲイツに襲い掛かる。
「は♪」
ユウキ・カーボンは背後からの殺意を感じ取り、機体に回避の挙動を取らせる。武器に殺意がこもりすぎだ、リヒト。大剣はGゲイツに躱されてもなお、直進し、その先にはジェネシスガンダムがいた。
自分の武器でやれられないよな。次は何だ?ユウキ・カーボンが次を期待すると、大剣が直撃する瞬間、ジェネシスガンダムは霞のように消え、突如、Gゲイツの右斜め後ろに現れた。
そして、右腕のビームトンファーを振り下ろすが、即座に反応したGゲイツはシールドでビームトンファーを防ぎ、追撃で放たれるジェネシスガンダムの左腕のビームトンファーを蹴りで左腕を弾き、防ぎながら、MSの質量を受け流し合気道のように投げ飛ばす。
そして、投げ飛ばすと同時にビームライフルをジェネシスガンダムに向けて撃つが、ジェネシスガンダムは、ビームが直撃する瞬間に消え、再び、突然に姿を現す。
それは、Gゲイツの左斜め後ろ、ユウキ・カーボンは勘によって機体の左肘を大きく動かすと、ジェネシスガンダムに直撃した。続けて、蹴りが二発連続でジェネシスガンダムを捉え、機体を弾き飛ばすかと思った瞬間、二発目の蹴りの瞬間ジェネシスガンダムが消えた。
近くには来ないな、そして右側だ。ユウキ・カーボンは確信を抱き余裕の構えを取った。そしてその確信通り、ジェネシスガンダムはGゲイツから見て右側に、突然現れる。
「良い道具だね」
ユウキ・カーボンはノンビリと言う。
「そりゃ、どうも」
リヒトは完全に見切られていると想像がついた。
(ゴーストムーブの使用は抑えないと機体に問題が生じます)
アテネが言うが、その心配はいらないと思いリヒトは言う。
「ゴーストムーブはほとんど見切られた。次に使ったらやられるのはこっちだ」
(それは、ありえません。常識的に考えて。見せたのは、まだ三回です)
「常識を超えたのがいるんだよ。世の中には」
リヒトは額にかいた汗をぬぐうと、左目だけを複数回まばたきする。そんな中ユウキ・カーボンはノンビリと語りはじめる。
「基本は高速移動。ただし、移動中は質量が極限まで無くなる。ついでに移動する際の座標設定が必要だけど、その機能は基本的に左目でしか出来ないうえ、座標設定をの持続時間が短い。
使いにくいのは左目でしか見えない所にしか座標を設定できない、しかも座標設定は足元基準ってところか。それに座標設定にもタイムリミットがある。
だからか、どうしても純粋に背後が取れなくて、少し斜め後ろにしかいけないわけだ。うん、悪くない手品だ。こちらもその手品に対して色々と対策してみたいんだけど、やっていいかな」
いいわけねぇだろと、リヒトは思った。しかし、基本は合っているのが、どうにも辛いところだった。
(勝てますか?)
アテネが聞く。ここは自信満々に「うん!」と言いたいが、無理そうな気配がした。だからといって諦めるのも違うと思い、リヒトは地面に突き刺さった大剣をジェネシスガンダムの手に転送して戻した。

 
 

「斬り合うか?まだ俺は抜いてもいないぞ」
Gゲイツが両手をあげ、堂々とした姿を見せつける。ああ、こりゃ王様になる人間だな。リヒトはそう思いながら呟く。
「四神剣、モード1」
そう言うと、ジェネシスガンダムの大剣を振るう。振った範囲内に敵はいないがそれでいいのだ。ジェネシスガンダムが大剣を振るった直後、Gゲイツは思い切り吹き飛ばされる。
「やっぱりバリア持ちか」
リヒトは吐き捨てるように言うと、吹き飛ばされた結果、地面に叩きつけられたGゲイツは問題なく立ち上がる。
「すごいな、真空斬とか、そんな技。いや、“ギフト”か、それでも、剣士のだいたいが憧れる攻撃だ。今のはな。うん、楽しいな、こう言うのは」
ジェネシスガンダムはGゲイツに向け、大剣を垂直に振り下ろす。しかし、Gゲイツは軽くステップを踏んで、リヒトが攻撃として放ったものを軽く躱す。
「凄い剣だな。“ギフト”がいくつか内蔵されている」
そう言いながらGゲイツはジェネシスガンダムに接近する。ジェネシスガンダムは剣を振るうが、Gゲイツはその剣筋を見切り、絶対に大剣が振るわれた軌道には入らないように注意しながら、接近する。
「一つ目は、剣に行った挙動と同じ行動を、物理法則を無視して行わせる能力。そして二つ目は剣がたどった軌跡を遠隔でも再現し、遠くの敵を斬りつける能力か」
投げれば投げたのと同じ動きなど、剣に行った動きを覚えさせれば、推進力など関係なしに再現させる能力、そして、剣が振るった軌跡というか、剣を振るった威力を遠距離に反映させる能力。リヒトは自分の機体の剣が持つ能力を読まれたことを理解した。
「“ギフト”はあまり好かないが、頑張る姿は良いぞ」
そう言いながら、Gゲイツはライフルを捨て、刀を抜き放ち、振り下ろす。刃は直撃し、リヒトは衝撃に襲われた。
「人間は努力する生き物だ。技を磨き、知恵を育てろ。漫然と生きるなよ!」
その言葉と共に刀が振り下ろされ、リヒトのジェネシスガンダムを襲う。その刃は右肩に食い込むがバリアがギリギリで防いでいた。しかし――
「安心をしたな」
ユウキ・カーボンの声が聞こえ、ジェネシスガンダムの右腕が斬りおとされる。リヒトは一瞬理解できなかったが自機が右腕を失ったことをゆっくりと理解し、左腕のビームトンファーを振り回す。
Gゲイツは軽やかに後退し、ユウキ・カーボンは言うのだった。
「悪くはなかった。おそらく、また会うことになるだろう。それまで自分を磨き続け、最高の刃でも牙でも良い、俺に見せてくれ」
リヒトは機体を操縦しながら叫ぶ。
「ふざけんな!まだ終わってねぇぞ!」
しかし、ユウキ・カーボンはリヒトの言葉を無視し機体を転送させるのだった。
「もしかして完敗か……?」
リヒトが尋ねるがアテネは何も言わない。これはしくじったとつくづく思いながら、コックピットから降りると、叫びそうな仕草を見せながら、何かを考え黙る。そして、アテネに指示を出す。
「俺にビーコンをつけろ。おまえはナノマシンが腕をくっ付けるまで待機、すぐに移動だ」
(いいのですか?一人で?)
「負け犬は一旦一人に浸る方がいい。色々と反省するためにな」
そうリヒトが言うと、ジェネシスガンダムは斬りおとされた腕を抱え、自らを転送し、姿を消す。しかし寂しいということはなかった。なぜなら、荒野に一人残されたリヒトに対し、地球連合軍の部隊が周囲を囲んでいたからだ。
「じゃ、楽しく取り調べを受けますかね」
そうしてリヒトは一時的に地球連合の捕虜となるのだった。

 

まぁ、人生の上でよくある失敗だ。エルヴィオはひいき目にそう思うことにした。話しに聞く限りではここら辺が分岐点の1なのだろうなぁと、エルヴィオは思うことにしたのだった。

 
 

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