LOWE IF_592_第05話2

Last-modified: 2011-02-23 (水) 16:47:46

さて、そんな事をしている間。アスラン・ザラは就寝したカガリを部屋に残し、一人ブリッジへと向かう。
ミネルバも他のザフト勢と共にユニウスセブン解体作業を行うことはアナウンスで聞いていた。アスランもその事に関してデュランダルに話がしたくてブリッジに向かっていた。
彼は、謎の強奪部隊との戦闘の時、元軍人の性かミネルバの慣れていない動きにもどかしさを覚え、そしてまた、自分も無意識のうちに意見を言いかけていた。
その時から、自分でも何か出来ることがあるのではないか、裏切り者の自分でも何かできることが。そう思っていた。
ああ、何と自分は勝手な人間か。父を裏切り、そして今、カガリを守るという職務を放棄した。だが、ここではカガリを襲う人間はいないだろう。
あのシン・アスカという青年も、MSパイロットだから今頃出撃準備を行っているところだろうし、これから出撃するのだろう。
そう、自分に言い聞かせながらアスランはブリッジにたどり着き、そして中に入った。すでに遮蔽されていたそこには、タリアとデュランダル、そしてミネルバクルーたちが待機していた。

「おや…姫はどうしたのかね?アスラン君、いやアレックス君」
「今は部屋でゆっくり寝ていらっしゃいます…。これからミネルバは隕石の粉砕作業に向かうのですか?」
「その通りよ。それがどうかしたの?」
「…無理を承知でお願い致します。私にもMSをお貸し下さい」

突然のアスランの言葉に不審に思い、代わりに答えたタリアに、アスランは率直な願いをぶつけた。タリアは呆れたようにアスランを見ながら言った。

「確かに無理な話ね。今は他国の民間人である貴方に、そんな許可が出せると思って?カナーバ前議長のせっかくの計らいを無駄にでもしたいの?」
「解っています。でも、この状況をただ見ていることなど出来ません。使える機体があるならどうか」
「気持ちはわかるけど…」
「いいだろう、議長権限の特例として許可しよう」

と、アスランの嘆願に渋るタリアに対してデュランダルはすんなりと許可を与えた。そんな彼にタリアは驚き、彼を見る。

「議長!」
「戦闘ではないんだ、艦長。出せる機体は一機でも多いほうがいいだろう。それに、彼がスペシャリストなのは君も知っての通りだろう?」
「…そこまで言われるのであれば仕方ありません。アレックス君、ザク・ウォーリアを使いなさい。パイロットスーツはロッカールームにある予備のものを使う事、わかった?」
「ありがとうございます」

アスランはザフト形式の敬礼をし、その場を後にした。そしてロッカールームでパイロットスーツに着替え、格納庫へと向かう。そこで整備長マッド・エイブスに呼び止められた。
マッドは格納されている緑色のMS、ザク・ウォーリアを指差してアスランに説明を始める。

「アレックス・ディノだな?ブリッジから報告は受けている。お前さんに搭乗してもらう機体は、お前さんがここへ来た時に乗ってきた時使ったザク・ウォーリアだ。修理は済ませてある。お前さんなら使いこなせるだろうが…
本当に出撃するのか?」
「ええ、わざわざ用意してもらってすいません。ありがたく使わせてもらいます」
「いや、お前さんが覚悟を出来ているんならいいんだが…あんまり、無茶はするなよ。じゃないと、あの姫さんが泣いてしまうかもしれないからな…」
「はい、わかってます。…では」

アスランはマッドに一礼した後、当てられたザクの元へと飛んでいく。マッドはその背中を見送った後、忙しなく整備士達に指示を送っていった。
さて、ザクの中に入ったアスランはOSを起動させ、まずは自分にあったものに変えていく。Gシリーズを奪った時も難なく出来たので、これくらいはどうという事はない。
と、丁度終わらしたと同時に通信が入ってきた。どうやらあの赤毛の少女ルナマリアのようだ。

『へぇ…貴方も出るんですね。ヨウランから聞きましたよ』
「ああ…宜しく頼むよ」
『こちらこそ、宜しく御願いします。まさか、ヤキンの英雄と一緒に任務が出来るなんて思いませんでしたよ』
「…そんな大それた奴じゃないさ、俺は」
『もっと自信持ってくださいよ。じゃないと、折角の実力も影になくなっちゃいますから…あ、と発進二分前ですね』

発進まで後二分。その場にいる全員に緊張が走る。整備士達も忙しなく、最終チェックに移行し、各々担当のMSの各部をチェックする。
彼らの役目はMSを万全の状態にし、パイロットを生還させる事。その実務は地味ながらも重大さは最も高いといえる。
パイロットを殺すも生かすも、彼ら次第なのだ。

「2番班ブレイズザクファントムチェック完了。…ヴィーノ、そっちは!?」
「8番ジンOKです、ケイさん!」
「10番ガナーザクウォーリア完了」
「6番インパルス…問題ありません」
「4番同じくザク問題なし」
「よぉし、発進準備整いました!!」
「遅い!10秒遅れてる!この遅れが命取りと思えよ!!」

整備士チームの報告が終わった瞬間、マッドの怒号が響き、全員が身を強張らせる。しかし、士官学校時代からの上官の言葉に逆らえる人がいるわけ無く、
すいません、という整備士一同の言葉がマッドに届く。

「あ~あ。またしごかれてますわね…ケイさん達」
『まあ、そのお陰で俺達は安心して外に出られる、て訳だからな。あいつらにも感謝しなきゃ」
「そうですわねぇ」
『発進まで一分前』

そんな様子を見ながら、シンと他愛の無い会話をしているラクスの元に、いやMSパイロット全員の下にブリッジのメイリンから通信が入る。
それを聞いたラクスは一度大きく息を吸い、そして吐く。その時、次の通信が来た。

『発進停止。状況変化。ユニウス7にてジュール隊がアンノウンと交戦中』
「…!」

ラクス、いや全員が息を呑んだ。本当は粉砕作業だけのはずが、何故戦闘に?疑問が解決されないまま続けられる。

『各機対MS戦闘用装備に換装を御願いします』
「どういうことだ!?」

事態が飲み込めないアスランはメイリンに対して怒鳴りかける。その疑問はもっともだ。あまりの剣幕に少し驚きながらも、メイリンは応対した。

『分かりません。しかし本艦の任務はジュール隊の支援であることに変わりなし。換装終了次第各機発進願います』
「くっ…」
『…俺達は与えられた仕事をやるだけさ。あんたもそのつもりなんだろ?アレックスさん』
「…ああ、そうだ」
『危険ですよ。やめたほうがいいんじゃ…』
「馬鹿にするな、大丈夫だ。…いやすまない、本当に大丈夫だ」

少し小バカにするようなシンの口調に少し苛立ち、心配したルナマリアに対し少し乱暴に答えてしまったアスランはルナマリアに謝罪した。
ルナマリアは少し苦笑しつつも通信をきった。メイリンもそれを確認し、まずはインパルスの発進指示を送った。

『中央カタパルトオンライン。発進区画、減圧シークエンスを開始します。非常要員は待機して下さい。コアスプレイダー全システムオンライン。発進シークエンスを開始します』

コアスプレンダーがカタパルトへ運ばれる中、ラクスはノーマルスーツの中で何度も呼吸を何度も何度もする。
極度の緊張が彼を襲う。と、その時ジンのハッチから何かが物音が聞こえてきた。モニターには外でケイがラクスを呼ぶ仕草をしている。
ラクスはハッチを開き彼を招く。

『緊張してるのか?』
「ええ、まあ」
『毎度の事、大変だね、君も。ほら』
「あ…これ」

ケイは手に持っていた真空パックをラクスに投げつける。ラクスは慌ててそれを受け取り、それを見つめる。すると、それは先ほど休憩室で見ていた宝くじだった。
ラクスは訳が分からず、それとケイを視線を行ったり来たりさせていた。そんな彼女の様子に苦笑しながら、ケイは自分の心情を語る。

『それ、明日発表なんだ。まだわかんないんだから、持って帰って来てよ、生きてさ。あと、ハロも君が帰ってくるまでに直しとく』
「ケイさん…。ちょっとロマンに欠けるような…」
『煩いよ!…今回はライフルとシールド装備だ。マシンガンも付けといた。ライフルは少し改良を加えておいて、少しは連射を早くしたのと反動を少なくした。まあその分威力は低いからね。装填数は2発』
「了解ですわ。がんばってきます」
『よし、頑張って来い。ジン出るよ!!』
「…ありがとう、ケイさん」

ラクスの緊張がほぐれたのを確認したケイは微笑みながら足場を蹴ってジンから離れ、発進シーケンスを取らせる。
ラクスもケイに対し感謝の言葉を眼を瞑りながらつぶやきつつ、ハッチを閉め、ゆっくりとカタパルトへと向かう。

「星に抱かれて~…僕は何処へ行くのだろう~…?ああ、きっとあの先は…ユートピアが待っているんだ~…う~ん、何かいまいち」

即興で作曲した曲に不満を抱きつつ、苦笑しながらカタパルトにジンをセットする。どうやら、緊張は完全に解けたようだ。
ラクスは一度深呼吸をし、二度右手を握ったり広げたりし、最後に操縦桿を強く握り締める。そして。

『ジン発進どうぞ!』
「ナタリー・フェアレディ、ジン参ります!」

カタパルトから射出されたジン。それに続いて、レイのザクファントムとルナマリアのガナーザク、そしてゲイルのゲイツRが続く。
それに少し遅れてアスランのザクが出てきた。インパルスは合体のため一番初めに出終え、そして少し先にいた。
その光景の一部始終を眺めていたラクスは、まずはシンが普段どおりの様子に安心しつつ、インパルスに見とれていた。
ラクスがはじめて『ガンダム』と呼ばれるものを見たのはアークエンジェルに保護された時だ。彼女がまだ、ラクスとして生きていたときに。
ザフトに恐れられ、連合の希望となったGAT-X105ストライク、本当のキラ・ヤマト愛機だった。彼女はあれに救われ、そしてあれによってプラントに戻された。
ラクスは、あれを見たときに何か、恐怖よりも憧れの情のほうが大きかった。その時、彼女はストライクがガンダムという愛称を付けられていたのを覚えている。
そして、あの顔を持つものは、何処から広まったのか、ガンダムと呼ばれるようになった。
だから何時かあんな機体に乗れたら。そんな思いを胸にしているのも確かだ。

「何時見ても、カッコイイですわね…私も、あの機体に乗れたら…」
『じゃ、もっと功績あげなきゃな』
「そうですわねぇ~。あっと…兎に角早く行きませんと」
『ああ』

「うおおおお!!」
「うああ!!」
「ふん!」
「ぐああ!!」

一方ユニウスセブンでは先の大戦で白服に昇格していたイザーク率いるジュール隊とテロリスト集団との壮絶な戦いが始まっていた。
サトーとその部下達はまずメテオブレイカーの作業をしているゲイツ部隊を重点に撃墜しつつ、それから向かってくる者達を叩いていた。
ジュール隊もそれなりの実力を持っているはずなのに、サトー隊はそれ以上の修羅場を潜り抜けてきた猛者たちだ。忽ちゲイツ隊の数は減っていく。
と、その場に指揮を取っていたディアッカのガナーザクが現れた。彼はイザークとは対照的に先の大戦での裏切りを問われ、緑服へと降格されていた。
しかし、イザークからの信頼は厚く、彼の右腕として今も働いていた。

「何なんだ、こいつらは…。旧式のジンの癖に…なんでこんな強いんだよ…!」

ディアッカはオルトロスを起動させ、背中を向けていたサトーのジンを狙おうとする。テロリスト相手では隊長機を落とせば終わるはずだ。しかし、それを読んでいたか、サトーは背面越しに、振り向かないでビームライフルを乱射する。
まるで背中に眼があるかのように、それは精確にディアッカのザクに向かっていく。ディアッカは舌打ちをしながらザクを後退させ、それを避ける。

「ヒヨっこどもが…。情けない、今のザフトとはこれほど堕落しているものか」
『間借りなりにも平和な時代が続いていました。それでは戦う必要もないでしょう。だから弱いのでしょう』
「…そうだな。だが、それが俺達には好都合になったな」
『…ま、貴方に勝てる者等いないでしょうが』
「…過大評価しすぎだ。俺はあのザクを相手にしてくるぞ。お前はこのまま押し込め」
『了解です。気をつけてください』

部下達は他のゲイツR隊の相手を始め、サトーはジン・ハイマニューバ2型に装備されていたMS用の大刀を抜く。その姿、まるで大昔の日本の侍のようだ。
サトーは精神統一をし、そして静かに、しかし急速にディアッカのザクに接近する。
ディアッカはしめたと、慌てず正面から向かってくるジンにオルトロスの照準を合わせるが、しかしその直後背筋から何かゾクリとおぞましい寒気が走った。
殺される。ディアッカはそう思い、瞬時にオルトロスを引っ込め、ザクの姿勢制御用ブースターで一旦下がる。ザクがいた場所を、ジンの刀が切り払われ、もしオルトロスを発射しようとしたら死んでいただろう。
もしディアッカが先の大戦で経験を積んでいなければ。

「(死ぬ死ぬぜってぇ俺死ぬやべやべやべまじやべ…いや落ち着け俺)」
「ほう…やはりやる。量産機とはいえ、さすが新型。だが我等の想い、やらせはせん」

錯乱しそうになっているディアッカに対し、サトーは感心した表情でほくそ笑む。彼もまた一角の戦士であり、闘争本能に火がついたのだろう。
まるでサトーが構えるが如く、ジンは構えを取る。それに反応し、ディアッカは再び背筋に寒気を感じながらも、ユニウスセブンの大地を踏む。そして、全部隊に指示を送った。

「ええぃ、一旦下がれ!下がるんだよ!」
『ディアッカ!ゲイツのライフルは射出した!俺もすぐスラッシュで出る!それまでメテオブレイカーを守れ、いいな!』
「イザーク!…了解!おら!」

ディアッカはオルトロスを起動させ、なぎ払うようにビームを発射し、ユニウスセブンの建造物を破壊して煙幕とし、まずはジンと距離をとる。
サトーは煙幕の中をまずは付きぬけ、ザクを探す。そして、オルトロスを構えているところを見つけ、サトーは突撃しようとするが、上からのビームに阻まれ、一旦後退する。
先に下がったゲイツ隊による援護射撃だ。サトーは舌打ちをしつつ、ザクのほうを見ながら下がり、そしてその場から去っていった。その代わりに他のジン隊が現れ、彼らに襲い掛かる。
サトーはある程度下がった時、ふと上方向から見えた光に気がつき、ジンを動かし、そしてその方向を見上げてみる。すると、そこには何やら見覚えのないMS同士が戦っている。
いや、パーソナルカラーであることを除けば、ザクファントムとザク・ウォーリア、そしてジンは見たことがあるのだが。

「…別働隊か?まあ潰しあってくれるなら結構。今は補給を受けよう」

サトーはそのままテロリスト達が臨時的に補給場として使っている場所へと潜り込み、そこで酸素などの補給物資を貰う。
さて、その一方でサトーが目撃したとおり、ミネルバのインパルスたちは何処からともなく現れた強奪隊に襲われ、それとの交戦を余儀なくされていた。

「こいつら…また!」
「こんのぉ!泥棒がぁ!!」

シンとルナマリアは果敢にもカオス、アビス、ガイアに向かっていく。それを見たアスランが慌てて彼らを制止しようと無線を入れる。

「やめろ、シン、ルナマリア!今俺達のやるべき事はそいつらの相手じゃない!!」
『だけど、こいつらが撃ってくるなら、迎え撃つしかないだろ!』
『シンの言うとおりだわ!!それに、こいつら作業しているMSも無差別に攻撃してるし、援護にもなります!』

だが彼らは聞かない。それに、彼らの言葉は確かに正論だ。ここに来る途中、ゲイツが彼らの手によって落とされている光景を見てしまったのだから。
彼らを抑える事が作業効率を上げるという事実は誰から見ても捻じ曲げられないことだ。それはアスランにもわかっていた。だから反論できなかった。
そんな中、ラクスがアスランに通信を入れる。

『アスランさん、聞こえますか?ナタリーです』
「…?君はあの時の。どうしたんだ?」
『彼らのいう事は正しいです。ですので、私も彼らの援護に迎いますわ。アスランさんはレイさんとゲイルさんを連れて作業を!』
「…くっ…仕方がない…任せた」

アスランは苦汁を飲んだ表情を浮かべながらも、手空きになってしまっていたメテオブレイカーのほうへと飛んでいく。
ゲイルも、戸惑いつつその後を追いかけていく。そんな最中で、ふとアスランはある疑問が解けた。あの時、あのナタリーという女性を間近で見たとき覚えた感覚。
ああ、そうか。彼女もまたラクスに似ているんだ。あの男、ケイがキラに似ているように。
だが、それだけだ。彼女に似ている人なんて世界中探せば一人くらいいて、それが今偶然ここで出会っただけだろうし、それにラクスにはあんな傷はないはずだ。
アスランはそれ以上気にかけず、そのまま進んでいった。

『ナタリー』
「はい何でしょうか?」
『シン達を頼む』
「はい、任されました!」

と、レイは一声をラクスにかけてからアスランの後を追う。それに敬礼しながら答えたラクスもシン達の後追う。すでに戦闘は始まっており、あのデブリ帯の戦闘のときと同じ組み合わせだった。
だが、違うのはシンがアビスの相手をしている事か。ラクスはここで、ある事を思いつく。こんな事をして、作業を遅らせてはいけない。
早く終わらせるためには、彼らにも協力してもらわなければいけない。理想論ではあるが、ラクスは賭けに出る。危険な賭けだが、最低限でも時間稼ぎにはなるだろう。

「シンさん!」
『あ!?何だよ!?』
「アビスは私にお任せください!貴方はカオスのほうを!」
『…OK、わかった!』

シンは一度カオスに牽制の攻撃をして注意を向かせ、一旦ラクスと距離をとる。カオスもその誘いに乗り、彼のインパルスを追っていった。

一方アビスはラクスのジンを見るや否やビームランスを展開して真っ直ぐ突撃し、大きく切りかかった。
ラクスはジンを後退させながら大きくそれを避け、そしてアビスに対し国際救難チャンネルを開く。
アウルはそれに気がつくが、また挑発して捕らえようとするのだろうと判断し、その通信を無視して攻撃をし続ける。
それでもラクスは諦めず、アビスに対し攻撃は加えず、あくまでも逃げ続ける。アビスはそれを追って、カオス、ガイアから離れてしまった。
だが関係ない。ここであのジンをしとめる。何かとしつこく、何かとイラつくこのMSを今日こそ。

「くっそー逃げ足の速いやつめ!!こいつが動いたのもお前らのせいなんだなぁ!?」

興奮しきった状態で、前のめりになりながらアウルは操縦桿を押し出そうとしたが、その時の拍子でラクスからの通信を受けてしまった。

『あ、やっと通じましたわ。こちらザフトのナタリー・フェアレディ!アビスのパイロットに告げます。今すぐ戦闘をやめなさぁい!というか御願いですからやめてください!
今ザフトはこのユニウスセブンの粉砕作業を行っています!その邪魔をしないでくださいませ!』
「あん、何言ってるんだあんたは!!どう考えたってあんたらが落とそうとしてるんだろうが!」

売り言葉に買い言葉…ではなく、一方的にアウルが疑ってかかっているので、ラクスの嘆願は叶わない。それもそうだ。周りを見ればラクスと同じ機体を乗っているテロリストが大暴れしているのだから、
疑われても仕様がないのだろう。しかし、ラクスは諦めなかった。この男を説得してみせる。だから戦わない。攻撃を加えない。

「いいですか、聞きなさい!!そのMSはザフトとは関係ありません!私達が敵に…いや見えるでしょうけど!敵じゃないんです!信じてください」
「我らの思い、やら」
「ああもう!邪魔しないで!!」

ラクスとアビスの間に、テロリストの一員が襲い掛かってきたので、ラクスは苛立ってライフルをジン・ハイマニューバ2型向けて発射した。
反応し切れなかったハイマニューバは頭に直撃を喰らい、そのまま来た方向へと吹き飛んでいった。
アウルから見れば、仲間割れしたとしか思えず、目を命一杯開いて驚いていた。そんな中ラクスからの通信から怒号が聞こえてくる。

「なっ!?」
『どの人この人も皆々これを落とそうとしちゃって!もうちょっと状況というものを見て判断しなさい!!貴方だって男の子でしょうが!』
「な、男かどうかは関係ねぇだろうが!大体、同じザフト同士で何戦っちゃってるわけ!?ああそうか、そうやって僕達を騙そうとしているんだな!?」
『だから違うと言っているでしょうが!…ってきゃ!?』

再び口喧嘩が始まりそうになった時、ユニウスセブンが揺れた。ラクスは突然の事に驚いて姿勢を制御できず、ジンは尻餅をつく。アビスも倒れそうになるが、ビームランスのお陰で倒れずにすんだ。

「な、なんだぁ!?」
『割れた…。成功したんですわ!』

突然の自体に混乱するアウルに対し、ラクスはガッツポーズをして喜んだ。そう、彼女の考えている通り、破砕作業が成功し、しかもそれがポイントを打ち抜いていたために一発で割れてくれた。
この光景はシン達は勿論、首謀者サトーにも目撃されていて、サトーは歯を食いしばって悔しがっていた。その一方で、ディアッカたちは歓声を上げていた。
アウルは何が何だかとわけもわからず、首を横に大きく振った。

『何なんだよ一体、こりゃ!割れるなんてさぁ!?説明しろよ、あんた!!』
「だからさっきも言ったとおり、私達ザフトはこのユニウスセブンが動き出したから、地球に落とさないようにするためにこうやって破砕作業をしているのです!!
あの黒いジン隊は私達は関係ありません!彼らは破砕作業の邪魔をしているのですの!わかったら貴方も手伝いなさい!」
『手伝えつったって…』

さらには敵からの説得にアウルはどうしていいのか分からず、ただ混乱しているだけだった。そんな時、彼の元に通信が入る。どうやら味方のスティングからのようだ。
まさに天の助けとアウルはその通信回路を開く。スティングの顔が画面に小さく表示される。

『アウル!信号弾だ!ネオが帰還しろってさ!』
「何だって!?…くそっ、何にもしてねぇっていうのによ!納得いかねぇ!わけわからねぇ奴もいるしさ!」
『お前のほうがわけわからん!馬鹿なこと言ってないで退くぞ!』
「畜生ぉぉ…今日はこのくらいで 退いてやらぁ!!」
『あ、お待ちな…また!?』

アウルはラクスに対し捨て台詞を吐くと、ラクスから逃げるようにその場から去っていこうとした。ラクスもジンのメインスラスターを吹かしてアビスを捕まえようとしたが、
それを妨害するかのように乱入してきたテロリストのハイマニューバ2型が攻撃を加えてきたので、ラクスは歯を食いしばりながら胸部ブースターでブレーキさせ、ジンを後退させる。
テロリストの攻撃が激化し始めた。もはや背水の陣といったところか。逃げようとしていたアウルも、その途中で目の前に立ちふさがられ、交戦を余儀なくされる。

「くそ…くそぉ、こいつらぁぁ!!」

アウルは叫び散らしながらそのテロリスト達にバラエーナ改を撃ち込む。だがそれは軽々と避けられ、その内一体に体当たりを喰らい、アビスはユニウスセブンに落ちていく。
地面に叩きつけられ、アウルはあえぎ声を出しながら、上のほうを見る。すると、彼の視界に、なにやら見たことのない機械があった。それを動かしているゲイツRがいたが、何処からかビームが降りてきてその機体を貫き、無残に爆散してしまった。
その機械、メテオブレイカーは無人となり、無防備となっていた。と、そこへ、一機のハイマニューバが突撃してきた。破壊しようとして、ビームライフルを構えている。
アウルはあの生意気な少女の事を思い出していた。

『だからさっきも言ったとおり、私達ザフトはこのユニウスセブンが動き出したから、地球に落とさないようにするためにこうやって破砕作業をしているのです!!
あの黒いジン隊は私達は関係ありません!彼らは破砕作業の邪魔をしているのですの!わかったら貴方も手伝いなさい!』
「(…このままじゃ僕の、僕の…くっそ!考えんじゃねぇ!それを考えたら、わけわからなくなっちまうんだ!僕は…僕は…くっそぉぉぉ!!)」

アウルは歯を食いしばり、操縦桿を全力に押し込み、アビスをメテオブレイカーの前へと踊りださせる。そして、アビス自身を盾にし、メテオブレイカーを身をもって守る。
幸い肩のシールドに当たったため、アウル自身には震動だけが被害となり、機体自体にも特にダメージを受けていなかった。
アウルはお返しとばかりに連装砲を撃ち、高速で打ち出された弾はハイマニューバの腕と胴体を貫き、機体は爆散する。
その光景を見て、アウルは冷や汗をかきながらもにやけていた。だが、その背後から別のハイマニューバが彼ごとメテオブレイカーを狙っていた。それにアウルが気がついたときにはもうすでに遅い。
ハイマニューバはそのライフルをアビスの首のフレームを狙っている。やられる、そう考えた瞬間、ハイマニューバが複数の弾に貫かれ地面に墜落した。
何事かと、辺りを見回した時、アウルはぎょっとする。ピンク色の羽を持つジンがそこに立っていた。

「あ、あんた…生きてやがったのか…」
『…いいですから、早くそちら側を押さえていてくださいまし。私が起動させますから。…え~とマニュアルマニュアル…』
「使い方わかんねぇのかよ!?…ったくしかたねぇなぁ!早くしろよ!」

アウルは悪態をはきながらも、アビスでメテオブレイカーを抑える。もたもたしながらも、ラクスの作業は進み、そしてメテオブレイカーが作動してドリルが地中に入り込み、
そしてラクスとアウルの間に亀裂が生まれる。いや、心ではなく、地面の事だ。
ゆっくりと、しかし確実に二人の距離が離れていく。完全に離れる前に、ラクスはアウルに通信を入れた。今度はアウルも素直につなげる。

「…ありがとう、手伝ってくださって」
『あん?…敵に礼なんて言うなよ、ピンク女。僕はただ、こいつをあそこへ落としたくなかっただけだよ。…僕、行くぜ?』
「…今回はお互いに、見なかったことにしましょう。…本当にありがとうございました」

ラクスはもう一度、微笑み返して礼を言うと、その場から飛び去っていった。敵同士とはいえ、通じ合えた。正直アーモリーワンでの行いは許せないが、今はそれに拘っている時ではなかったから、
最終的には協力もしてくれたし、軍律違反かもしれないけど、彼をとっちめるのはまた次の機会。ラクスは、とりあえずこの場は満足して、急いで次の現場へと向かっていった。
そんな彼女のジンが飛び去っていくのを見ていたアウルは、スティングの怒号が通信から聞こえてきたので気を取り直し、ボギーワンへと戻っていった。

その頃のシン達…いや、損傷を受け、レイやルナマリアは高度の関係もあり、ミネルバに帰還していたが、ゲイルとシン、そしてアスランは最後に残ったメテオブレイカーの設置を急いでいた。
本当ならば、シンはゲイルとアスランを連れて、さっさとミネルバに戻りたかったが、アスランが最後のこれだけでもと言ったため、その付き合いをしていた。

「(…限界高度まで二分か…他の皆も撤退を始めてる…俺達も戻んなきゃ…あっと帰還命令か…)おい、帰還しようぜ。もう限界だよ」
『ああ、君達は戻れ。俺はこれだけでもやる。あとは一人で大丈夫だからな』
「一緒に吹っ飛ばされますよ?いいんですか?」
『それに、限界高度ギリギリですよ!?ザクじゃ危険ですよ!』

それでも、というアスランの言葉にシンは何処か冷めたように、ゲイルはあせったように言った。
シンにとって、オーブの人間が何故ここまでやろうとしているのかが理解できなかった。確かにこの場所で割れば被害は少なくなるだろう。
オーブの人間、それも幹部の人間なんて、皆理念理念と口うるさくて、そのくせ無責任な者なんだとシンは考えていた。だが、目の前にいるこの男はどうだろうか?
自分の命の危険など顧みず、ただ被害を少なくしようと作業を続けている。ただその行為に二心はなく、ただ被害を小さくするために。
シンはため息を吐きつつ、ゲイルのゲイツRをどかし、代わりにメテオブレイカーを押さえる。

「ゲイル、お前の機体じゃ危険だ。すぐに戻れ。後はこの人と俺がやるよ」
『…わかったよ。ごめん、ありがとう』
「何で謝ってるんだよ。早く行けよ」

ゲイルの細々とした声にすこし苛立ちながらも、早く帰還するよう催促し、ゲイルはミネルバのほうへと戻っていった。
その背中を見送った後、シンはアスランのザクのほうを見ながらはなしかける。

「あんたは何で…なんであんたみたいな人がオーブにいるんだよ…」
『ん…?ああ…オーブとか関係ないさ。今は…』

アスランはそんなシンの言葉に対し、ふっと笑いながら、作業を続ける。と、その時だった。突然一閃の光がメテオブレイカーの足を貫いた。
固定を失ったメテオブレイカーは傾き、このままではユニウスセブンを割るどころか突き刺さるかも怪しい。
シンとアスランはその光が来た方向を急いで見る。すると、そこにはテロリストの残存勢力がシン達のほうへ向かっていた。

「まだ残っていたのか。しかも二機…か。はは、最後の一発も終わってしまったか」
『…では俺のライフルをお使いください。先ほどゲイツからぶん奪った奴です』
「おう、すまん使わせてもらう。お前はあのザクをやれ。俺はあの…新型をやりつつ、ブレイカーを破壊する」
『了解です』

二機のジンは二手に分かれ、サトーの方はインパルス、もう一方はアスランのザクに襲い掛かった。一方シン達も体勢を立て直し、反撃に出ようとするが、メテオブレイカーも立て直さなければいけない。
そこでシンはアスランの方へ向かおうとしたジンに対しビームライフルを乱射し牽制、近づけさせない。そして、続けざまにCIWSによる牽制でサトーのジンの勢いを殺す。サトーはメインカメラを狙った攻撃をシールドで受け止め、
シールドによって視界が利かなくなったので一旦下がりつつビームライフルを撃つ。シンはすぐさま対ビームコーティングが施されたシールドでそれを受け止め、メテオブレイカーを守る。メテオブレイカーは何とか無事で、アスランが急いで作業を再開した。
限界高度まであとわずか。予断は許されない。今度はサトーに対しライフルを撃ち、破壊を狙う。が、サトーは超人ともいえる速さで反応、操縦し、ジンは右足を軸に半回転してビームを避け、そのまま抜刀してインパルスに近づく。

「くっ…このぉ!!」

シンもインパルスのビームサーベルを抜き、サトーに切りかかる。機動性、突撃力ならインパルスが遥かに上だ。それはその場にいる全員がわかっている。
サトーはその構え、その動きからどう切り込むかを判断する。そして、刀を素早くインパルスの首へと当てる。そして、VPS装甲の聞いていないフレーム部分を切り落とそうとする。
そのサトーの攻撃にシンは驚異的な速度で反応し、すぐインパルスを横に倒すように避けた。首があった場所にジンの刀が僅かに通過した。
サトーは避けられたことに驚きつつも、すぐにインパルスから距離をとる。インパルスは振り払うようにサーベルを振り回した。が、その時大きな隙が生まれ、重艦刀を抜いた別のジンがインパルスに襲い掛かる。

「隙ありゃぁぁ!!」
「はっ!?くっ…」
「シン!!」

やられる、とシンは考えた。アスランもザクで援護しようとするが、間に合いそうにない。重艦刀が、インパルスに迫る。その時、突然ジンの体を何かが通過し、そして爆発した。

「はっ!?」
「!?」
「何だ!?…!ジン、だとぉ!?」

全員が振り向いたその場所に、桃色の羽を持つジン、ラクスのジンがこちらに来ていた。ラクスはすぐライフルを肩にかけ、重艦刀を抜き、サトーのジンに突撃する。サトーはその剣を受け止め、受け流し、ラクスのジンを殴りつける。

「きゃあ!!…くっ!」

ジンはそのままメテオブレイカーの方へと吹き飛ばされたが、それをインパルスが受け止めて、シンはラクスに通信を入れる。

『ナタリー!何でまだ避難してないんだよ!?』
「…頼まれたんです、シンさんたちを頼むって。シンさん達を置いて、戻れませんわ!!」
『あんた…くぅ、このバカピンク!!なんて命知らずなんだよ、あんたは!!』
「バカピンク上等ですわ!ミセス・バカピンク!私は戦います!」
『それを言うならミス・バカピンクだろうが!!この、バカアホピンクがぁぁぁ!!』
「細かい事は気にしないで共に!行きますわよ!」

ラクスのジンとシンのインパルスが同時にサトーのハイマニューバに突っ込んでいく。サトーは目を見開きながら歯を食いしばり、まずは先ほど撃墜された部下のハイマニューバの重艦刀を自身のMSに持たせる。
ライフルを捨て、完全に接近戦スタイルに変えた。

「…借りるぞ!お前の意志、無駄にはせん!!うおおお!!」

その頃のミネルバというと。

「格納急げ!大気圏突入が始まるぞ!」
「ゲイツR収納!でも損傷激しいです!消火班急いで!早く!!」
「ゲイル生存確認!ただ、怪我を負ってます!タンカ急いで!」

大気圏突入に備え、あわただしく準備が始まっている中、ゲイルのゲイツRが滑り込むようにミネルバに入ってきた。
どうやら手厚い歓迎を受けたのか、中破したゲイツRは所々から煙を上げている。そして、その中から怪我を負ったゲイルが引きずりだされた。
ゲイルは担架に乗せられ、すぐさま医務室へと運ばれていく。と、その時、ケイはいまだラクスのジンやインパルス、そしてザクが戻ってこないのに気がつく。
ジンには大気圏突入の能力はない。だからそろそろ戻ってこないと大気圏突入の際に戻ってこなければ、最悪燃え尽きる。

「くそ!ブリッジ聞こえますか!?こちらデッキ!」
『何?』
「ナタリー・フェアレディとシン・アスカ、それにアレックス・ディノが戻ってきてません!どうなっているんですか!?」
『メイリン』
『あ、はい!えっと駄目です、ノイズが激しくて…。通信、繋げられません!帰還命令は出ているはずなのですが…』
「何だって!?」
『何だと!?アスラン…!』
「くそ!」

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