LOWE IF_592_第08話2

Last-modified: 2011-02-23 (水) 16:54:22

「…」

孤児院近くの丘の上。ブラックk7は寝ていた体を飛び起こし、何かがこの辺りに近づく気配を感じ取り、黒いその身を茂みに隠し、孤児院の方の様子を伺う。
完全に気配を隠した彼が見たものは、何やら物騒なものを持った真夜中の来訪者。恐らく、武装したヨップたちなのだろう。暗殺と言う性質上、銃にはサブレッサーが取り付けられている。
それを見つけたブラックk7はにやりと目を見開きながら笑い、そして茂みから出て、再び丘の方へと移る。岩場に座り、彼らの行動を監視する。

「彼女の死を悟られてはいけない…。それに、あのブラックk7が何処で見ているかも分からん。奴の動向は…恐らく大丈夫だろうが、一応警戒しておけよ」

ヨップの言葉に隊員全員が頷き、そして銃を構え、身を低くしながら孤児院へと向かっていく。それを見て、ブラックk7はヘラヘラと笑いながら言った。

「言い忘れてたけど、そこに赤外線センサーがついてるんだよね。何とまあ、厳重な警備システムだことだよ。まあ、それだけ歌姫が大事ってことかい?はは」

ブラックk7の言うとおり、彼らが通り過ぎた横の茂みには軍の警備システムにでも使われているような高性能かつ小型赤外線センサーが取り付けられていて、それが孤児院の中のピンクハロのネットワークシステムに繋がっていた。

『ハロハロ!アカンデー!』

ハロは命一杯騒ぎ立て、近くにいる人たちを起こそうとする。その時、丁度隣にいた顔に傷を持つ色黒の男、バルドフェルドと長い茶髪の女性マリューがすぐさま起き上がり、服を着て、銃を持って部屋の外へと出る。
流石は元軍人というだけあるか。バルドフェルドは砂漠の虎と呼ばれ、キラ達を苦しめた元ザフト軍人であったし、マリューも正規の訓練は受けていた。彼らは行動が早い。
アイコンタクトでやるべきことを確認し、バルドフェルドは入り口の方へ、マリューは子供達の元へと急ぐ。と、バルドフェルドは途中、同じく異変に気がついたキラと出会った。

「バルドフェルドさん!」
「キラか。早く着替えてラミアス艦長とラクスに合流しろ。嫌なお客さんが来たようだ」
「あ…はい!」

バルドフェルドに催促されるがまま、キラは上着を着て、ラクスたちの寝室へと向かっていく。駆け足でそこへ向かうと、先についていたマリューが部屋の子供達とラクス、マルキオ導師、そしてキラの母親カリダを起こしていた。

「マリューさん!ラクス!」
「キラ君!」
「キラ…一体これは…」

ラクスが体を起こし、状況を把握しようとした時、別の場所でガラスが割れる音が聞こえてきたのを切欠に、子供達が悲鳴を上げる。ラクスも一瞬身を強張らせたが、自分が怖がってはいけないと思い、
必死に子供達を眺めようとする。マリューは一度舌打ちをした後、ラクスたちをシェルターに誘導しようとする。キラも彼女らを守るように背後につき、あたりを警戒しながら歩いていく。
所々では銃声が鳴り響いている。どうやらバルドフェルドが奮戦してくれているらしい。その様子も、ブラックk7は見ていた。先ほどとは違い、何処かいらついている様な様子だ。

「ああもう!なにやっているんだよ!ヘッポコだなぁ、ヨッピーは!軍人が民間人に負けんな!ヨッピーからマッピーに降格させようか!?たく…これは、意外と早く僕の出番になりそうだね」

ブラックk7は懐から黒光りする、長い銃身を持った何か、露骨な銃を取り出して、そこに弾を詰め込んでいく。そしてリロードが完了して、再び観戦へと戻った。
窓側を見ると、そこに逃げようとしているマリューとラクス、そしてマルキオ導師の姿があった。そして、その後ろには。

「うほぁ!代理人発・見!」

ブラックk7は崖から身を乗り出さんとするくらいに前のめりになりながら、自分の分身である、孤児院にいるキラ・ヤマトを見つめる。と、その時窓が割れて、全員が身を伏せる。
と、その時、安全を確認して立ち上がった一行を見て、ブラックk7は意外そうな表情を浮かべながら、そして哀れな目で見つめて言った。

「母さん…偽者と僕の区別もつかないなんて…。そんなに洗脳されちゃって…。まあいいや…僕が行けば、少しは気がつくかな。そして、殺さないでおこう」

そうしているうちに、彼女らは姿を消していた。ヨップたちは苦戦している今の状況に苛立ちを覚え始めている。業を煮やしたか、それとも攻撃不可能なところまで逃げられたか、彼は生き残った隊員を集め、別の場所へと移動していった。
そんな中。シェルターに逃げ込んでいたキラ達は、息を上げながら小休憩をしていた。元々カガリの別邸のこの家に備え付けられているこのシェルターもかなり頑丈に作られたもので、ヨップたちは手を出せなかった。

「皆無事か?」
「はい」
「…コーディネイターだわ…」
「ああ、それも特殊な訓練を受けた奴だな」
「ザフト軍…って言う事ですか」

キラの言葉にバルドフェルドは黙り込む。元ザフト軍の彼にはわかっていた。ヨップたちがザフト軍特有の武装をしているのを。そして、何より身体能力の高さもそれを物語っていた。

「コーディネーターの特殊部隊なんて…最低…一体何故?」
「奴らの一味の一人が、ラクスを始末しろって言っていた。狙いは…彼女だろうな」
「そんな…ラクスや僕らはここで静かに暮らしていたいだけなのに…何故彼女を…」

キラは困惑した表情を浮かべながら、バルドフェルドに問いかける。だが、バルドフェルド本人も答えに困った表情を浮かべて何もいえなかった。
そんな彼らの様子を見て、話は聞こえていなかったが、ラクスは沈痛そうな表情を浮かべつつ、静かに口を開いた。

「…狙われたのは、私なのですね…」

その言葉と同時に、シェルター全体が揺れ始める。どうやら何か外から激しい攻撃を受けているらしく、頑丈のはずの扉がへこみ始め、何時崩壊するか分からない状態になっていた。
その恐怖に泣き始めた子供達を落ち着いて宥めるラクスを尻目に、バルドフェルドは更に奥のシェルターの扉を開放しようと操作を開始する。

「狙われたというよりも今も狙われているんだがな!」
「…皆、怖くありませんからね。さ、奥へ」
「急いで!」

ラクスが子供達と手を繋いで、そしてマリューがそれを催促するように開いたシェルターの中へと連れて行く。マルキオやカルダもその後を付いて行き、最後にキラとバルドフェルドが入る。
そして中から操作をして、まさに前のシェルターが破壊されそうになった瞬間に今彼らがいるシェルターの扉がしまって、爆風を何とかしのいだ。
だがこのシェルターもすぐに破られてしまう事だろう。バルドフェルドはすぐさま次のシェルターを開いて、そこへ全員を誘導していく。そしてまた奥へと入り、そこが最後のシェルターとなった。
後は野となれ山となれという状況になってしまったのだろうか。シェルターの中にはもう一つ扉があるようだが、それを開ける気配はなさそうだ。

「モビルスーツか…くそ、やられたな。しかも複数、火力を集中されたらここがどんなに頑丈であろうとも、何時まで持たんぞ。…ラクス、鍵は持ってきているんだろ?」
「うん」
「え?」
「扉を開ける。仕方なかろう。それとも、今ここでみんな大人しく死んでやったほうがいいと思うか?」
「いえ!それは…」

バルドフェルドの言葉に、ラクスは何か躊躇している表情を浮かべて黙り込んでしまう。それを見たキラは、彼女の心情を汲み取ってかラクスのもとへ歩み寄り、そして手を差し出す。

「…鍵を貸して」
「え?」
「大丈夫」
「いえ…でもこれは…」
「僕は大丈夫だから。ラクス」
「キラ…」
「だから、鍵を貸して」

キラはラクスに優しく微笑み、彼女を安心させようとする。そんな彼の様子を見て、ラクスは懐から鍵を取り出して、キラの手のひらに乗せる。
キラはもう一度優しく微笑みかけ、そして同じような鍵を持っているバルドフェルドと、アイコンタクトを取り合って、扉の両脇に供えられていた装置の鍵穴に差し込む。

「いくぞ。3…2…1!」

バルドフェルドとタイミングを合わせ、鍵を捻る。タイミングが揃い、それによってロックが外されて、更に奥の部屋の扉が開いた。
キラとバルドフェルドはそれを見て、うなずきあう。そしてキラは一度他の者達の方を向いてうなずいた後、その中へと入っていく。そこには巨人の顔、かつて自由と呼ばれ、戦場を駆けぬいたMSが眠っていた。
そんなことは露知らず、ヨップ達はザフト軍水陸用MSアッシュを使い、別邸に集中砲火を浴びせ、シェルターを破壊しようとし、そしてついに扉が破壊された。
ヨップ達は部下を率いて、別邸へと近づいていく。その様子を見下ろしていたブラックk7は至極つまらなそうな表情だった。

「…何だ何だ、もう終わりなの?あっけないなぁ。もうちょっと抵抗があるかと思ったけど。ほら、あのヤキンのフリーダムがやってくるとかさ…」

そんなときだった。別邸から少しだけ離れた森の中から煙が急激に上がり、それを貫くように一閃の光が上空へと昇っていった。それはまるで流星のようで、ヨップ隊の面々は勿論、ブラックk7も暫く見入っていた。
その光は急激に落ちてきて、通り過ぎざまに二体のアッシュの両足を奪い取る。そして再び旋回して、腕を奪った。だるま状態になったアッシュは何もする事ができず、ただ倒れ伏せてしまった。

「あれはまさか…フリーダム!」
「フリィィィダム!やああっと会えた!!」
「なあに!?」

その様子を見ていた部下の一人が叫び、ヨップが驚き、そしてブラックk7は狂喜の声を張り上げる。あの巨人、キラが乗ったフリーダムは次々とアッシュの手足を奪って戦闘不能にしていく。
その動きはまるでキラとフリーダムが一心胴体になっているように思えるほど軽やかである。あっという間にヨップの乗るアッシュのみを残して、後の者達のアッシュは全てだるまにされていた。
ヨップは冷や汗をかきながらも、歯を食いしばり、覚悟を決めて、フリーダムへと特攻する。そのアッシュの様子を見て、この圧倒的な光景を前にキラは何故まだ攻撃してくるのかと少し戸惑いながらも、アッシュのクローを避け、そして振り向きざまにビームライフルを撃つ。

「うおおお!!」

反応し切れなかったヨップはなすすべもないまま、腕をとられ、足を取られ、ミサイルを取られ、完全にだるま常態にされてしまった。
ヨップは操縦桿を殴りつける。何も出来なかった。何もさせてくれなかった。これほどまでに強い力を何故ここに置いてあったのだ。

『もう投降してください。僕は貴方達を討ちたくないんです!武器を捨てて、ここから立ち去ってくれれば、命の保証はします』
「何を言っているか…!このような辱めを受けて、おめおめと生きろというのか!はっ、どうせお前らは高みで何かを見下ろす事しかできないのだ…。
そんなお前らに生かされるくらいなら、死を選ぶ…』
『そう、その通り!あはは、ヨッピー。潔いじゃない。僕そういうところは嫌いじゃないよ、アハアハアハアハハハ!』

と、何処からともなく、海岸中に響き渡る高笑いがキラとヨップの元へと届いてくる。
いや、彼らだけではない。別ルートより脱出し、ブラックk7のいた丘とは違う丘に出たラクスたちの下へもその声は届いていた。
ヨップはその声を聞いて、はっとする。近くにいる。あの男が、あの狂気の目を持つ男がやってきたのだ。そしてそう考えた時、彼は爆炎に包まれて死んだ。
声と共に何処からともなく飛んできて、煙を撒き散らしながらアッシュたちに着弾し、その機体を破壊していく榴弾の雨。キラは思わずフリーダムの盾でコクピットを守り、その雨がやむまで待つ。
大きな爆音が聞こえなくなったところで、キラは盾をどかし、モニターで周囲を見渡してみる。すると、真正面に、黒いスーツを着た男が一人、炎の海の中に立っていた。
キラはぞっとした。何か、得体の知れない恐怖に襲われて、食われてしまいそうな。しかしよく見ると、あの男は記念碑で出会った男だった。

「貴方は…あの時、記念碑にいた…」
『僕は君、君は僕。僕は憎しみだけを残されて、生き残った搾りカス。奪還者黒のkの七号、ここに見参。以後、地獄までの月夜の片道ツアーの案内人を勤めさせていただきます。どうぞ、宜しく。キラ・ヤマト君』
「!!な、何を言っているのですか!何も出来ない人たちを討って…。それに、生身で何ができると言うのですか!?」
『ちっちっち、甘いよ。事を成すのは出来るかできないかではなく殺るか殺らないかという差だけだよ。どんなバカでも1000年かければ至高のゲームが作れる。1時間あればトイレにだって行ける。差は速さだけだ。
それに君に選択肢は始めから用意していないし用意するつもりもない。抵抗したら殺す。抵抗しなくても殺す。自決しても殺す。死んで僕にその体、その心、その全てを還してもらう!ま、でもハンデだ。10秒待ってあげる』

何なのだ、目の前に立っているあの男は。わけのわからない言葉を並べて、理不尽な事を言っている。だが、半ば壊れかけていたとはいえ、MSを破壊できるような武装を彼は持っている。
彼の両手に握られている、黒いロケットランチャーのようなもの。危険な存在、キラにとってとめなければいけない存在。だが、生身の相手にMSで対抗すれば、それは即ち彼を殺してしまうと言う事。
それだけは避けたかった。キラは不殺を貫いていきたかったから。しかし、ではどうやって戦うのか。

「10…」

未だラクス達の居場所が分かっていないだけマシなのかもしれない。

「9…8…」

そうだ、バルカンで辺りの砂を撒き散らし、それを目潰しにして、その隙にラクスたちをフリーダムに乗せてどこかへ逃げればいい。そうすれば、殺さずに済む。
丁度ラクスたちも丘の上に避難し終わった事だろう。あの家の非常出口の場所は把握している。今、SEEDを発動した状態であれば、その彼の行動への判断は催促で行える。
0になった時が勝負だ。…しかし、それでいいのか。このような危険な人物を放置していいのだろうか。そう、何時かのあの人物のように。彼もまた、世界を恨んでいるような、そんな目をしている。

「7…6…5…4…」

だがもう迷っていられない。今は安全を確保する事だ。よし、実行しよう。そう、キラが考えた、まさにその時だった。

「ヒャア、もう我慢できない!!0だ!!」

ブラックk7は狂った顔を更に歪ませて、ロケットランチャーを構える。しかもそれは、キラの乗るフリーダムに向けてはなく、あさっての方向。
いや、この方向は…まさか。

「(まずい!あの方向はラクスたちが!間に合えぇぇ!!)」

そう、ラクスたちが避難しているであろう丘の方向。ブラックk7の眼が獲物を見つけた獣のようなものになって笑っている事から、始めから狙っていたのだ。
あの速度、あの射角では丘の上の彼女達の元まで届いてしまうだろう。だが、キラはSEEDの力を使い、その発射に素早く反応し、フリーダムを間に入り込ませ、シールドで榴弾からラクスたちを守ろうとした。
だが、その様子をブラックk7は笑った。何故だ。そう考えた瞬間、盾にぶつかった榴弾が破裂する。それと同時に大量の煙が辺りを包み込む。

「な、何が起こったのよ!?キラ君!」
「キラ…バルドフェルドさん、彼を死なせてはいけません!」
「あいよ!任せておきな!」

ラクスの要請を受けて、バルドフェルドはその身体運動を生かし、急いで丘を駆け下りていく。その間にも、事態は進行している。
辺りを煙に包まれたキラは流石に動揺して、辺りを右左と見回してはブラックk7が何処から襲ってくるのかを警戒する。どうやらチャフが混ざった煙幕弾のようで、レーダーは利かず、視界も完全に覆われている。
だが、このフリーダムが実弾に強いフェイズシフト装甲、しかも核動力で理論的には無尽蔵の持続力を持つこの装甲に、どう対抗してくるのか。人間の足で、ここまで飛び上がってこれるとは…。

「やあ」
「うわあ!!」

思えなかった。だが、あの男はやってのけてしまった。男は煙から突如現れ、真正面のモニターに映っていた。ブラックk7はニタニタと笑いながらモニターから下の方向へと消えた。そして、次の瞬間、突然ハッチが開き、
煙が急激にコクピット内に入ってくる。それと同じ速度でキラの首をブラックk7は掴んだ。息のできない苦しさと潰されそうなくらいの圧迫による痛み、そして手袋の向こうに感じるひんやりとした冷たい感触が更に死の恐怖をキラに知らしめる。
このまま握りつぶされるかと覚悟したが、どうやらブラックk7はすぐには殺さないらしく、掴んだままコクピットから離れると、そのまま地面へと降りていく。
声が出ない。悲鳴も出せない。ただ喘ぎしか出てこない。それをわかってか、ブラックk7は絞めを緩めたり、また声を出そうとした時に絞めたりと弄んでいた。

「さてと、どうやって弄ろうかな。皮を1cmごとに剥いでいくか、それともあのMSで少しずつ踏み潰していくか。このまま裸にして逃がして、その後ろから撃ち抜いてやろうか。撲殺するのも良いなぁ」
「か…は…あ…ぐ…(息が…できない…。この人は…危なすぎる!怖い…殺される…)」
「こういう風に、喉を潰して、ゆっくり死んでいくのを待っているのもいいな。だけど面倒か…っと」
「!!」

と、楽しそうにキラを見つめていたブラックk7が急に左を向き、そして左手のロケットランチャーをその方向へと向ける。その先には、銃をブラックk7に向けているバルドフェルドがいた。
バルドフェルドは冷や汗をかきながらも、何か余裕のある笑みを浮かべている。

「おおっと虎さん出現。久しいですねぇ、元気ですか?」
「どこかでお会いしたかね、青年。少なくとも、そんな歪んだ顔をした男と、面識はないけどね、僕は」
「そうですか。まあいいや。何しにきたんです?これの死に顔でも拝みに来たんですか?それとも、僕に殺されに来ましたか?」
「いいや、君を止めに来た」
「へぇ。それは素敵だ。反吐が出るくらい素敵過ぎて気持ち悪い。だから、あんたの大事の人のところへ行かせてあげる。嬲る価値さえない!」

バルドフェルドの言葉を聴いて、ブラックk7は激昂すると、ロケットランチャーとキラを投げ捨て、そのままバルドフェルドに殴りかかる。あえぎ声を吐きながら地面に落ちたのを横目に、バルドフェルドはブラックk7に対して発砲する。
ブラックk7はそれを身を低くして避け、掌打を銃を持った右手に向かって喰らわせる。薬剤による筋肉増強に咥え、義手による一発は強烈だ。思わず右手の銃を放してしまったバルドフェルドだったが、
それと同時に右腕の二の腕から先が取れてしまった。そして、そこからはまるで銃身のような形のした物体が現れた。

「うひょ、サイコガン!?」
「違う!」

ぎょっとするブラックk7に対し、その銃身を彼の眉間に向け、そしてバルドフェルドは撃つ。それを義手の右手を引き戻し、銃弾を右手で防ぐ。
火花が散る中、ブラックk7は後ろ向きに回転しながら、爪先でバルドフェルドのあごを狙う。
バルドフェルドはあごを上げ、スレスレのところで避け、そのまま横に転がり、あえぎ苦しんでいたキラを回収する。
すぐに右腕の義手銃をブラックk7に対し、牽制のため撒き散らすように発砲する。ブラックk7はバック転しながらそれを避ける。だが、それが彼の隙を生んだ。
バルドフェルドはすぐさまキラを連れたままフリーダムに飛び乗り、そしてそれを起動させる。デュアルアイが再び眩く光る。

「ちぇ、やっぱ中で焼き殺したほうが良かったかな。油断大敵、火がボウボウってね」
『まだやるかね、青年!』
「勿論!と言いたいところだけど、そろそろ騒ぎが大きくなりそうだからね。シーユーネクストタイムってやつ。そこの代理人、覚えておくんだね!君が僕である以上、僕は何時でも君を見張っているってさ!
近いうちにまた会えると僕は今日、今ここで予言する。じゃあ、またね、はっはー!」

ブラックk7は高笑いをした後、背広の懐からハンドグレネードを指に八個挟み、それを地面に叩きつける。今度は眩いばかりの光がそこから放たれ、バルドフェルドとキラは腕で眼を覆うも眼が眩み、思わず眼を瞑ってしまう。
その後大きな衝撃が一撃ありながらも、いざ視界が晴れてみると、すでに彼の姿はなくなっていた。それが分かった瞬間、キラはため息を吐きながら、ハッチを開く。少し焦げ臭いにおいがする。どうやらロケットランチャーを喰らったらしい。

「おい、危険だぞ」
「ゲホ…いえ、よくわかりませんが…もういない気がします。しかし、代理人って何のことなんでしょうか。彼は、何者なんですかね」
「…分からん。分かるのは、奴が危険な男だと言う事だということと、狙われていたのはお前だと言う事だ。どうやら、先ほどの暗殺者達とはまた違う組織、いや個人かもしれないな。
兎も角…注意しなければな」

バルドフェルドもまた、釣られるようにため息を吐く。と、そんな彼らの元へ子供達とラクスたちがやってきた。心配そうな表情でキラを見るラクス。キラはワイヤーを使って彼女達の元へと降りていく。
そして、ラクスの前へと歩み寄り、微笑みかける。ラクスも微笑みかけて、一歩前に出た後言った。

「ご無事で何よりですわ。お怪我はありませんか?キラ」
「うん。ラクスも無事でよかった。…でも、家、壊れちゃったね」
「そうですわね…。あのユニウスセブン落下事件と言い、未だ、悲しみと憎しみの鎖から抜け出せずにいる人たちがいるのですね…。やっと平和な世界が生み出されようとしたと言うのに…」
「うん…」

ラクスは沈痛な表情で、破壊された家を見つめる。まだ、その惨劇のあとは残っていて、煙がもうもうと立ち上がっていた。子供達も、その光景を落ち込んだ表情で見つめていた。
あの中には彼らの大好きな玩具、ふかふかのベッド、そして少しの間ではあるが、キラ達と過ごしていた思い出があった。それを奪われるのは、彼らにとって残念なことだろう。

「兎も角、子供達と私達を離したほうがいいかもしれないわね。みすみす、危険な目にあわせられないわ」
「そうですわね…」
「それにあれはザフトのアッシュだ。…データ上の情報でしかないが、確かザフトの最新鋭の機体で、まだ正規兵にしか配備されていないもののはずだが…」
「と言う事は…」
「うむ、プラントに引越しする計画も、やめておいたほうがよさそうだ」
「しかし、何故私が…あ…?」
「ん?」
「まあまあ!」

と、ラクスがザフトの正規兵が襲ってきた理由が分からず悩みだそうとした時、彼らの元に、カガリの侍女、マーサが驚いた様子で辺りを見回しながらラクスたちの下へと駆け寄ってきた。
その後ろには、どうやら警察のランプのようなものが見えていて、警察官が駆けつけてきたらしい。どうやらブラックk7の言う騒ぎとはこう言う事だったようだ。

「マーナさん!どうしてここに?」
「キラ様!これを。カガリお嬢様からキラ様にと。お嬢様はもう、御自分でこちらにお出掛けになることすらかなわなくなりましたので。マーナがこっそりと預かって参りました」
「え?」
「なに?どうかしたの、カガリさん…」
「お怪我でもされたのですか?」
「いえ、お元気ではいらっしゃいますよ。…ただもう、結婚式のためにセイラン家にお入りになりまして…」
『ええ!?』

突然のマーナの言葉に一同は驚き、そして唖然としてしまう。突然の言葉。カガリが結婚する、それもアスランとではなく、あのセイランと。
五大氏族であるセイラン家の御曹司ユウナといえば、テレビでよく出てくる政治家で、軟派なイメージしかなく、キラ達にとってはカガリにふさわしくない男だとばかり思っていた。
それが何故。そんな彼らの心情を察したのか察していないのか、ここぞとばかりにマリューに愚痴り始めたマーレ。

「お式まではあちらのお宅にお預かり、その後もどうなることかこのマーナにも解らない状態なのでございます。ええ、そりゃあもうユウナ様とのとこは御幼少の頃から決まっていたようなことですし、少なくとも、幼少時は素直な子供で宜しかったですので、
マーナだってカガリ様さえ御宜しければそれは心からお喜び申し上げることですよ。でも!近頃の彼の性格は勿論の事、この度のセイランのやりようといったら、それもこれも何かと言うと御両親様がいらっしゃらない分こちらでとばかりで…
「は、はあ…」

戸惑いがうんざりとしたものとなっているマリューを尻目に、キラとラクスは手紙を読み上げてみる。そこにはカガリの謝罪の言葉と、これからの報告。そして、指輪の事が書き込まれていた。
本気で結婚しようとしている。何故、どうしてなのだ。マーナの話からすれば、カガリはセイランに無理やり結婚させられようとなっているのではないか。
そんなことはさせてはいけない。彼らの意志は固まった。
そんな彼らの事を、ブラックk7は静かに、いや少し息を荒げながら、盗聴器を介して聞いていた。彼特製の超小型のもので、流石のバルドフェルドも気がつかないようだ。

「ふうん、と言う事は、結婚式を襲撃するのかなっ!ぐううう!」

ブラックk7は腕に勢いよく注射を打ち、苦しそうな表情をしながら背中をのけぞらせる。瞳の焦点が合わず、視界がぼやけながらも、歯を食いしばり、耐えようとしている。
そして苦しみが解けた瞬間、ためていた息を一気に吐き出しながら、今度は猫背になって息を整えようとする。脂汗が大量に流れていた。

「くそ…薬の効き目が…短く…なってきてるな…。へ、へへ…後…4年ってとこかな…。僕の人生も…」

その猫背になって、髪で目を隠しながら不気味に笑い出すブラックk7。彼の体は薬漬けにされて、義体にあった体に無理やり増大され、ボロボロな状態だった。
死にかけの状態の体を動かすのは、不屈の精神と、憎しみのみ。

「へへ…へへへ…普通の学生でさ…理不尽に戦争に巻き込まれて、こんな体にされて…なんて不幸なんだろうね…だが、僕は僕という人生をこの世界に刻み込んで、そして消えてやる…。
それにはまず…僕を取り戻す…!それにしても、始めから、こいつを使っておけばよかったな。ブラックハウンド、出番だよ」

ブラックk7の声に反応し、彼の背後にいたブラックハウンドが起動し、デュアルアイが光る。そして彼を手に乗せ、立ち上がる。ブラックハウンドには音声による操作が可能なのだろうか。

「開け!あいつには僕の人生と女を奪われた!どっちかというと、後者の方が気に食わない!」

ブラックハウンドのハッチが開き、そこにブラックk7が飛び込む。両手を組みながらペダルを踏み、ブラックハウンドは歩き出した。

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