Top > LSD_Striker'S_第01話


LSD_Striker'S_第01話

Last-modified: 2008-01-05 (土) 04:44:05

このSSを読む前の注意事項

 

・このお話は私lyricalSeedDestinyが書いたContactofDestinyの続編にあたりますので
ContactofDestinyを読むと、大体の世界観やキャラの関係が分かるかと思います。
もしよろしければそちらも読んでみてください。

 

ContactofDestinyはこちら
◆GbMvPwa7M6氏、作品一覧


 

1話 思わぬ再会

 
 

 
 

 時空管理局本局。次元世界の法と秩序を守る本拠ともいえるそれは、特定の世界に拠点
を置かず、流れに任せるまま次元の海を漂っている。
巨大な無数の建造物をより合わせて作られたその本局の中、数十とある貴賓室の一つに
三人の男の姿がある。その一室、テーブルを挟み右に二人、左に一人、大きくゆったりと
したソファーに男が腰をおろしている。
「で、話って一体何なんだ? わざわざ本局まで呼び出してのことだ。よほど重要な話な
んだろ?」
 左に座る男──シン・アスカが言う。目の前に座る二人は彼よりも階級が上なのだが、
シンのほうはそんなこと知った風ではないといった感じだ。
男二人。一人は次元航行部隊提督クロノ・ハラオウン、もう一人はクロノと同じ次元航
行部隊所属のレイ・ザ・バレル二佐だ。
 シンの言い方に二人は気を悪くする様子は見せない。上官と部下と言う立場以外に、彼
らは友人としても関係も持つ。公式や部下のいる場ならともかく、彼ら友人たちしかいな
いときは細かなことを口うるさく言わないのだ。
「その前にシン、CEのほうはどうなっている?」
「ニュースとか見てないのか?」
「現場にいるお前の口から、詳しい話を聞きたいんだ」
「……まぁ、今のところは平穏だよ。半年前に紛争が起こったとは思えないぐらいに」
 管理世界第214世界CE。シンとレイの故郷であるその世界は二人が大きくかかわった
数年前に集結した大戦以降、次元世界への鎖国姿勢を止め管理局と協力して平和への道を
歩んでいた。しかし反抗勢力による小さな紛争は絶えず、そして半年前、シンが帰還した
と同時に大戦を思わせるような紛争が勃発した。

 
 

 大戦後、失意のままレイとともに数年間次元世界をさまよい──しかしかけがえのない
友人らとの出会い──己が進むべき道を思い出し──再び剣を手に取ることを誓った直後
でのことだった。 
シンは一日も早く紛争が収まるよう剣を振るい──昨年末に反抗勢力の壊滅という決着
を見た。
「次元転移の制限も結構厳しくしたし、反抗勢力に手を貸してたやつらも大体は捕縛か壊
滅したしな。
 しばらくは大丈夫だと思う」
「そうか。じゃあ君はこれからどうするんだ?」
「……それ、は」
 クロノの問いに、シンは口ごもる。それこそ今シンが抱えている悩みそのものだったか
らだ。
 力なき人々が平和に暮らせるよう世界を守る。己が抱いた望み、夢を実現させるべくシ
ンはまず故郷であるCEへ戻り、治安回復に努めた。
 半年の時間を経て、CEの治安は回復しつつある。あと数カ月もすれば現在シンが所属す
る次元世界治安維持駐屯部隊も解散するだろう。
 シンとしては解散後、また別の荒れた世界に行って治安を回復させようと思っていたが、
知人、友人らにそれを話すと皆、こう言った。
『もっとよく考えたほうがいい』
 最初そのことを言われた時──しかも最初に言ったのがアスラン・ザラ──憤慨したも
のだったが、ほかの皆からも言われ、シンは驚き、訝しげに思った。──どうして止める
のか。自分は間違っているのだろうか? と
「まだ考えてる最中だよ」
 何人かの親しい友人に、胸の内を打ち明けたこともあった。これまた彼、彼女らは同じ
言葉を口にした。
『戦って、傷ついて、泣いて。つらい思いしてばかりいると、いつかシンの心は潰れちゃ
うよ』
 その言葉はシンの心を動かすのに十分すぎた。昨年の暮れに終結した紛争、期間は短か
ったといえどもシンの心に少なからず傷を与えていた。シンは隠していたつもりだったの
だが、彼、彼女らにはお見通しだったようだ。
 それからシンは──当初の望みも忘れず──どうするのか考え始めたが、いまだその道
は不透明なままだ。CEからは再三しつこく管理局をやめて統合軍に所属しないかという打
診が来ているが、それも断り続けている。
「ところで俺を読んだのと今の話、どういう関係があるんだ」
 突っ込まれたくないところを突っ込まれ、自然とシンの声が尖る。二人は表情を動かさ
ず、互いを横目で見て、短く頷くと、

 
 

「シン、つい先日起動六課が正式稼働したのは知っているな」
「ああ。はやてからメールをもらったしこの間ミッドに来た時、隊舎に連れて行かれたか
らな」
 友人、八神はやてを長とする本局所属の古代遺物管理部機動六課。昨年の夏ごろ、仮運
用された部隊が、つい先日本格起動したのは耳に新しい。
「単刀直入にいう。シン・アスカ三等空佐。君に起動六課へ出向してほしい」
 姿勢を正してクロノが言う。シンはしばし、その言葉がわからず呆けていたが、
「……はぁ!??」
 思わす大声をあげて、立ち上がる。いったいどういう冗談なのか、と心の中で叫ぶ。
 しかし自分を見つめる二人の表情は少しも揺るがない。それを見て少し落ち着いたシン
は、再び腰をおろして、
「どういうことだよ」
 問うとレイが端末を操作する。
 出現したのは映像を映すモニターだ。映っている場所は雪化粧された森林地帯だ。
 続いて映し出されるモニター。壊れた遺跡、破壊された木々に、えぐられた大地。そし
て負傷した局員たち。
「これを見ろ」
 言って、眼前に映し出される映像。戦闘の映像だ。十名ほどの局員が、フードをかぶっ
た二人ほどの男を取り囲んでいる。
 隊長らしき男の号令でデバイスを構える局員たち。囲まれた二人は魔導士なのか、同じ
ようにデバイスを掲げる。
 発光とともに二人の男はバリアジャケットを身にまとう。かぶっていたフードもそれて
素顔が──
「──!??」
 男の素顔を見て、シンは驚愕する。その二人はそこにいるはずがない。
 いや、彼らはもうどの世界にもいないのだ。なぜなら、彼らは、シンが──
「こいつら……こいつらが、なんで!?」
 騎士甲冑をまとい、圧倒的強さで局員たちを蹂躙している二人の男、いや少年。
「スティング、アウル!?」
 かつての大戦においてアーモリー1からザフト最新鋭のデバイスを強奪した少年。連合
の特殊部隊“ファントム・ペイン”に所属していた非人道的な手段で強化された、生きた
兵器。幾度となく刃を交え、最後は二人ともシンの手にかかった、二人の少年だった。
 脳裏によみがえる彼らの最後の姿。それに続いて思い起こされるのは、彼らの仲間であ
り、シンが守れなかった少女。ステラの最後の瞬間──

 
 

「──っ!」
 荒れ狂う感情を、歯を噛み、拳を強く握ることで抑える。数分ほどそうしていただろう
か、こちらがようやく落ち着いてきたのを見計らったように、レイが言う。
「落ち着いたか? だが驚くのは、まだ早い」
 言ってさらに端末を操作する。薄暗い室内に、人一人が入れるような大きさのカプセル。
さらに並べてある見たこともない器具の数々。
「ここは……?」
「非合法の研究施設だ。それも生体、人体実験類の」
 レイの言葉にシンは再び拳を強く握る。だが強く握られた拳はモニターに映し出された
カプセルを見ると開かれ、
「───!??」
 シンは声にならない悲鳴をあげてしまう。
 映し出されたカプセル。その中に入っていたのは今もなお、シンの心にいる大切な少女
──
「ステラぁっ!」

 
 

 
 

「どういうことだ! これは! なんで、なんでステラがいるんだよっ!?」
 シンの剣幕にレイは顔色一つ変えず、淡々と言う。
「俺が管理局に所属した直後の事件のことだ。違法技術を取り扱っていた犯罪者を追って
いる過程で彼女を発見した。
ステラ・ルーシェ、いやステラ・ルーシェのクローンは今管理局の保護下にある」
「どうしてすぐに俺に教えなかったんだ!!」
 あくまで冷静なレイにシンはカッとなり、胸倉をつかみ上げる。
「発見時期のCEの状況を考えれば当然の処置だ。
 もし教えていれば、おまえは自分の役割を、すべきことをすっぽかして本局に戻ってき
ていただろう?」
 的を得た指摘にシンは黙り込む。
「シン、手を放すんだ」
 クロノに言われ、シンはゆっくり手を離す。深呼吸をして、自信を落ち着かせる。
乱れた首元を直しながら、レイは続ける。
「先に見せた二人、スティング、アウルの二人はここ数カ月の間に幾度も管理局の局員た
ちと交戦している」

 
 

 複数出現するウインドウ。場所は違えども局員と戦う二人の姿が映っている。
「そのほとんどの現場付近には管理局の保護施設がある。二人は明らかにステラ・ルーシ
ェを探している」
「……ほとんど?」
「ステラ・ルーシェ捜索以外でもレリックとおぼしきロストロギアが絡んだ現場にも、た
びたび出没している。まだ六課との交戦はないが、それも時間の問題だろう」
 そこまで言われて、シンは自分を六課に出向させるクロノの意図を察した。しかし確認
のため、問う。
「あの二人は確かにかなりの腕だった。でもなのはたちの手に負えないほどじゃないだろ」
「いや、あの二人は以前よりも腕を上げている。一度だけ交戦したが、あの二人は以前戦
ったクローンよりも強い。
 追い詰めはしたが、結局逃げられてしまった。本気のなのは達でもそう簡単には堕とせ
まい」
「それに部隊の戦力保有制限の関係上、なのは達隊長たちにはリミッターがかけられてい
る。六課に所属すれば君もかけられるだろうが、君やレイは一時的とはいえ自分の意思で
それを無効にできるだろう?」
「なるほど。要するに俺はあの二人専門ってことか」
「まぁ、基本的にはそうなるだろう」
「ステラは六課が預かるのか」
「ああ。彼女は今本局の保護施設にいる。君が出向してくれるのならすぐに六課に預かっ
てもらうよう手配する」
──ステラに会える。クローンとは言え、ステラに
 心臓がひときわ大きく高鳴る。しかしシンは冷静を務め、最後の問いを口にする。
「ステラたちを作ったのは、やはりジェイル・スカリエッティなのか?」
 シンが立ち直るきっかけとなった事件において敵対した元連合のブーステッドマンのク
ローン達。事件の首謀者ムルタ・アズラエルに協力し、彼らを作ったのは違法研究で次元
世界に指名手配されている犯罪者、ジェイル・スカリエッティである。
「……はっきりとは分かっていない。だがその可能性は高いと僕とレイは見ている」
「そう、か……」
 シンはソファーに腰を下ろし、手を顔を覆う。
 話の大まかな内容は理解したものの、シンの頭の中はぐちゃぐちゃになっている。
スティングとアウルのことだけでも驚きなのに、そこにステラが絡んでくるとは──
あまりにも衝撃の大きい情報に思考が、気持ちが落ち着かない。
「それでどうする。六課に来るのか、シン」
 平然と問うレイ。脳内の混乱が一応鎮静化したところで、シンは顔を上げる。
「行くよ。ここまで話を聞いておいて、来ないわけにはいかないだろ」

 
 

 はっきりと、シンは告げる。そしてモニターに表示されている三人を今一度、見やる。
 まさか、再びこの三人とかかわることになろうとは。言い知れぬ思いとは別に、ひそか
にだがシンは喜びのようなものを感じていた。
 大戦中、互いにやむえぬ事情があったとはいえ、本来なら守る対象のはずの彼らを守る
どころか、この手にかけた後悔は深い傷として今も胸の中にある。
 目の前の彼らはステラ達本人ではない。クローンだ。しかしそれでも──
「シン・アスカ三等空佐。起動六課へ出向いたします」
 それでも、もういないステラ達の代わりに今度こそ、彼らを守る。誰かに、何かに強制
された道ではなく、彼ら自身が望む道を歩ませる。
 そう、シンは決意した。

 
 

 
 

「……うん、ミスなし。おっし、これで終わりやな」
 今日提出されてきた報告書に書類の最終チェックを終え、はやては椅子にもたれかかり、
背を伸ばす。こきこきと肩や首のあたりから音が鳴る。
 六課設立より一カ月余り、今のところ特に大きな問題もなく六課は稼働している。自分
の下に集まってくれた局員の皆が、懸命に頑張ってくれているからだろう。
 そう思うと、思わずのはやて顔に笑みが浮かぶ。
「さて、と。さっさとお風呂でも入って休もか」
 言って立ち上がった時だ。部隊長デスクに表示される通信用のウインドウ。
「クロノくんか。こんな時間になんやろ」
 呟き通信を開く。
『やぁはやて。夜分遅くにすまない』
「どうしたのクロノくん。なにかあったん?」
『いや、特に何かあったわけじゃない。六課設立前に話したこと、覚えているだろう?』
「……例の二人のことやね。彼らがどうかしたん?」
 尋ねるとクロノは咳をして、言う。
『彼らを抑える戦力を二人、そちらに送ることになった。
シン・アスカ三等空佐、レイ・ザ・バレル二等空佐。以上の二名だ』
 告げられた名前に、思わずはやては唖然とする。そして数秒後、
「………ええ!? シンとレイが!?」
 夜ということも忘れて叫び、音を立てて席から立ち上がる。
「ちょ、ちょう待って。なんであの二人が……!?」

 
 

『本局の方は僕と騎士カリムで説得済みだ。心配しなくてもいい』
「せやなくて、なんでシンとレイが? 二人一緒に来るん?」
例の二人──スティングとアウルについては知らされている。しかし彼ら二人を捕らえ
るのにシンとレイ、二人は正直なところ必要ない。シン一人いれば、問題はない。
『もちろん理由はある』
 言ってクロノは二人が来る事情を説明する。
『そういうわけだ。すまないが四人ほど隊舎に住む者が増えることになる』
「……こっちに拒否権は、ないっちゅうわけか」
『すまない。しかしこちらも突然の話だということは理解している。なにか気になる点や
不安なことがあれば、言ってくれ』
 それからしばし六課のことや次元世界、またはなのはやフェイトのことなどを話し──
クロノをからかって──通信を終える。
「……六課にシンと、レイが来るんか」
 クロノから送られてきたシンやレイ、六課にすむことにあるほか二名のデータを開く。
 表示されるデータ。その右に映るあどけない少女の名をはやてはつぶやく。
「ステラ・ルーシェ、か」
 以前CEに行った時シンから聞いた少女。以前戦ったブーステッドマン達と同じ人為的
に作られた戦うためだけの兵士。
しかしシンと彼女は戦乱の中で出会い、シンは彼女を守ると誓い、しかし最後はシンの
腕の中で眠るように逝った女の子。
 シンにとっては今もなお強く心に残る、大事な大事な女の子。その子のクローンが六課
に来る。
「……また一つ、守らなあかんものができたなぁ」
 クローンとは言え、シンにとっては特別な存在であることには違いないだろう。彼が守
るもの、それははやてが守るものでもある。
 シンが心おきなく戦えるよう、再び喪失の痛みを味わうことがないよう、守らなければ。
改めて六課に加わる四名のデータを目を通し、簡単に六課での四人の立ち位置について
考え、まとめると、端末を落とし立ち上がる。
「詳しい話は明日なのはちゃん達と、話してから決めよ」
 つぶやき、はやては部屋を後にした。

 
 

 
 

 かすかに聞こえる駆動音が、エレベータの稼働を教えている。
 窓から見える本局の内部を見つつ、エレベータ内の二人、シンとレイは本局下層部にあ
る保護施設に向かっている。
「レイ、まだつかないのか? そろそろ五分ぐらい経つぞ」
「もう少しだ」
 二人が六課出向を決めて数日、出向の日である今日六課で預かる二人を共に連れて行く
べく、二人のいる保護施設へ向かっていた。
「……」
 後ろを見ると焦れに焦れた表情で腕を組み、足音を立てるシンの姿がある。
 いつになく焦れている彼だが無理もないだろう。もし自分がギルのクローンに会えると
したら、表に出さずともシンのように焦れていたいに違いない。
「もう少し落ち着いたらどうだ。そんな表情ではステラが不思議がるぞ」
「……ああ」
 はっとなったシンは深呼吸をして、硬さは残るも幾分か柔らかい表情となる。
 それから数分たったのち、ようやくエレベータが止まる。
 扉を出ると正面に見える受付と左右に見える扉。受付に座っている女性局員にレイは話
しかける。
「レイ・ザ・バレル二等空佐だ。保護者No16S888、10X000を引き取りにきた」
「はい。No16S888、10X000両名とも、今は自然空間に今出ています。呼び出しましょうか?」
「いや、いい。こちらから迎えに行く。出立の準備は終わっているな?」
「はい。ではこちらの書類に──」
 手続きを済ませ、探知レーダーを借り、出入り口付近で待っているシンのところに戻る。
「待たせなた。それでは行くか」
「ああ。……でも、ここ保護施設にしては、妙に無骨な感じだな」
 言って、ぐるりと見回すシン。
 受付や出入り口付近の壁は灰色一色で、壁の材質も本局上階部と比べれば段違いな強固
さを持つ素材を使用している。
 また保護人物らの住む居住区に通じる右の扉、息抜きや憩いの場などに使用される自然
空間に通じている左の扉には二重三重の物理、魔法の防御システムが見え、そばに立つ魔
導士たちも一流の使い手だ。
「無理もない。ここは管理局の持つ保護施設の中でもとびきり頑丈で強固な場所だ」
 左の扉に立つ局員にレイ達二人のIDカードを見せ、またデバイスを渡す

 
 

「普通の保護施設では手に負えない危険で、特殊性の強い者たちを保護するのがこの施設
の本来の目的だ」
 さらに局員から魔力のリミッターもかけられて、二人はようやく中に入る。
「……!」
 目の前に広がる光景を見て、シンは絶句する。
 曇り雲の影も形もない澄みきった蒼穹、どこまでも広がる草原と空に向かって高く、大
きく伸びる巨木。
 レイ達が求める人物以外にも幾人かがその空間内におり、それぞれ施設内とは思えない
情緒あふれる大自然の空間で、なごやかな様子を見せている。
「さて……どこにいるのか」
 レーダーを頼りにレイは足を進める。しばらく進むと花畑が見えてくる。
「シン、あそこだ」
 種類、色彩豊かな花畑のそばに見える複数の人影。その中にシンの、レイの探すべき相
手はいた。
「……ステラ」
 一歩一歩、踏みしめてシンは花畑に向かう。シンより一歩後れてレイも後に続く。
 肉眼でもはっきりと表情が見えるような距離まで近づいた時、花飾りを作っていた金髪
の少女の視線がこちらを見る。
「……レイ? それに……」
 あどけない表情と水晶のような紫の瞳、ふんわりと柔らかげな金髪が静かにそよぐ風で
なびいている。
「……シン?」
「ステラぁっ!」
 走り出すシン。立ち上がり、こちらに向かおうとしていたステラをシンは抱きしめる。
「ステラ……ステラ…っ」
「シン……」
 涙を流すシンに、ステラはシンのように腕を回し、シンの体を抱きしめる。
 感動の再会を横目に見て、レイは遅れてきたレイの探し人を見る。
「一緒にいたのか、プレア」
「はい。今日はボクとステラさんの出立の日ですから。一緒にいた方がレイさんも手間が
かからないと思いまして」
 レイと同じ金髪の少年、プレア・レヴァリーはそう言うと、視線を風景に向けて、
「それにここの景色も見納めになるかもしれませんし。しっかりと目に焼き付けておきた
かったですから」

 
 

 にこりと微笑むプレア。レイもプレアに微笑を返す。
この少年、プレア・レヴァリーはステラほどではないにしろ、特殊な事情を抱えた少年
だった。聞いた話によれば彼はCEの出身、しかも自分と同じ、いやそれ以上にひどい劣
化されたクローンなのだという。
出会いはステラ発見時と同時で、犯人によって操られ敵対していた彼をレイがかかわっ
た事件の捜査官とその協力者によって取り押さえられ、特殊な事情や体のことなど諸々を
考慮した結果、ステラと一緒の施設に入れていたのだ。
「さて二人とも、感動の再会も終わったようなので行くぞ。
 積もる話は六課に行く最中にしてくれ」
抱擁の終った二人を見やり、レイは言う。
「…あ、ああ。わかった」
「うん……」
 頷く二人を見て、レイは足を自然空間の出入り口に向ける。
 受付で二人が荷物を持ってくるのを待つ間、デバイスの返却に魔力リミッターの解除、
六課への連絡を済ませる。
「それでは行くぞ」
 頷く三人と主にエレベータへ乗り込む。長時間移動のために設置された椅子に座るステ
ラとシン。二人は互い以外目に入っていない様子で、和気あいあいと談笑している。
「お二人とも、仲がよろしいんですね」
「ああ」
 頷き、レイもしばしプレアと言葉を交わす。年相応とは思えないしっかりとした言葉や
考え方にレイは感心しつつ、話を聞く。
「やはり管理局に所属するという君の考えは変わらないか」
「はい。ボクを助けてくれたレイさんたちのように、ボクも苦しんでいる人、嘆いている
人、力なき人たちを救いたいんです」
──俺はそう真面目な理由ではないがな
「ボクにも力がある。この力を、そのために生かしたいんです」
 プレアは首に掛けられたアクセサリを握る。
 ただの首飾りに見えるそれはプレアのデバイス“ドレットノート”の待機状態だ。
 彼もステラ同様、たぐいまれな力と魔力を持つ魔導士だ。だが今は本来持っているその
力のほとんどは使えない。
 彼は、記憶喪失なのだ。洗脳から解け、管理局に保護されて目覚めたとき、彼は以前の
ことを全く覚えていなかった。管理局法などの勉強はやっていたようだが、危険という理
由で保護されてから今まで魔法の訓練は全くやっていない。

 
 

 本来ステラ一人が六課にいくはずだったが、その話を聞いたプレアは強く六課行きを希
望した。というのも観察者のいる下でなら──もちろんさまざまな制限はあるものの──
魔法の使用が許されるからだ。つまり、レイが監督している状況でなら魔法の修行ができ
る、という理由なのだ。
 レイとしては特に断る理由もなかったのであっさり承諾し六課、はやての返答──もち
ろんOK──を貰い、こうして彼も六課に連れて行くことになったのだ。
「あ、エレベータ。止まったみたいですね」
 言われてレイもそれに気がつく。先ほどと変わらぬ様子で話しているシン達二人に声を
かけてエレベータを降り、ミッドに通じているのゲートの方へ足を向ける。
「二人とも、遅れてますよー」
 プレアの声に後ろを振り返ると、後ろにいたはずのシンとステラは遠く離れている。
 どうやら話に夢中でこちらとの距離が開いていることにも気が付いていないようだ。
 プレアと共に戻り、注意する。
「話をしろとは言ったが、周りの様子ぐらい見てくれ」
「わ、悪い。つい、な……」
「ごめんなさい」
 謝る二人。反省はしているようだが先ほどのようなことを繰り返さないとも限らない。
 レイはステラと、シンはプレアの組み合わせにして、四人はゲートへ向かう。
「そうか、そんなことが。それで──」
「──うん。それはね、」
 違う組み合わせになるも距離が近いためかシンとステラは自分たちと同じ移動速度を保
ちつつ、会話に花を咲かせる。
──ステラは後から連れてきた方が。いや、施設にいた方が、良かったかもしれない
 陽気な様子でステラと会話を交わすシンを見て、レイは暗欝たる気持ちになった。

 
 

 
 

 起動六課隊舎のロビー。新設されたこともあって目立った傷や汚れは一つもなく、床も
少々滑りやすい。
 その広いロビーに集まっている六課の面々。大多数は見慣れぬ顔で見知った顔はシンの
そぐそばにいる面々だけだ。
 集まっている局員たちから後期の視線を浴びているシン達。シンはわずかに緊張し、思
わず視線を左にずらす。

 
 

 ステラは注がれる視線をとくに気にしていないのか、先ほどと変わらぬぽやっとした表
情だ。プレアは自分同様緊張しているようで表情が硬く、レイは当然いつものポーカーフ
ェイスだ。
 そして右には六課の隊長たち、なのはにフェイト、ヴィータにシグナムの姿がある。
 こちらの視線に気がついたなのははにこっと人懐っこい笑みを浮かべる。それを見て思
わずシンも微笑み返したところで、
「いやー、すまん。遅れたなぁ」
 部隊長補佐のグリフィス・ロウランを連れたはやてがやってくる。
 軽快な足取りで彼女は皆の前に立ちマイクを握る。
『えー、それでは今日本日より六課に出向となる二人、預かる二人の紹介をしよか。
私の左におる四名が、そうや。左からシン・アスカ三等空佐、レイ・ザ・バレル二等空佐、ステラ・ルーシェ、プレア・レヴァリーや』
 湧き上がる拍手。それに返すようにシン達も頭を下げる。
『ステラにプレアの二人はちょういろいろ事情があって六課に預かることになりました。
みんな、仲良くしてやってな』
 はやてがそう言ったあとプレアが元気よく「よろしくお願いします」と言い、ステラも
「おねがい、します」と小さいながらもはっきりとした口調で言う。
『そしてシン・アスカ三等空佐、レイ・ザ・バレル二等空佐。この二人はこの起動六課設
立の際、いろいろと助力してくれた人たちや。今回は将来自分が部隊を持つときのためノ
ウハウを六課で学ぶそうや』
 適当な嘘をすんなりというはやて。左官ともなればあの程度の嘘はこのように自然と吐
けるのだろうか。
『二人とも階級だけ見れば私と同格、それに次ぐ階級やけど管理局に入ってまだ一年もし
ない新人のペーペーや。
 先輩のみんなは階級に臆さず、バンバン突っ込んでな』
 おどけたはやての言葉にこれまた局員たちから笑いが沸き起こる。
──なんだか、思った以上にフレンドリーな部隊だな
 思う一方、まぁはやての部隊だからなぁと納得してしまうシン。
『二人の六課の立ち位置は基本的に、シン・アスカ三等空佐は主にスターズ、ライトニン
グ分隊をはじめとする戦闘部隊関連の補助を、レイ・ザ・バレル二等空佐はロングアーチ
や私など雑務や指揮系統の補助になる。
 でもいざというときは好きにこき使うように。左官なんやしないろいろと便利に使える
で』
 再び湧き上がる笑い。シンは目の前の局員たちにこき使われる自分の姿を一瞬想像する。
『さて、それじゃ最後に二人から一言、挨拶を貰おか』
 マイクを渡してくるはやて。前に出ようとするシンをレイが呼び止める。

 
 

<先に言わせてくれ>
 珍しい親友の自己主張にシンは踏み出した足を止めて、マイクを渡す。
『只今ご紹介に預かった本局次元航行部隊所属レイ・ザ・バレル二等空佐だ。
かの高名な八神二佐が立ち上げた新設部隊起動六課への出向。一局員として、また友人と
しても快く思う』
 無表情でレイは言うが、シンには例の言葉にわずか流れ熱がこもっているのを感じる。
『局員としてまだまだ未熟な自分。きっとここでは多くのことを学べるだろうと確信して
いる。
 どうかご教授、お願いする』
 頭を下げるレイ。歓迎の拍手が沸き起こり、それを背にレイは戻ってきてマイクを渡す。
『本局武装隊所属のシン・アスカ三等空佐だ。自分が創設にかかわった部隊に配属できる
ことは、個人的にはとても嬉しい。
 この部隊がどんなふうになっていくかが、すぐそばで見られるのだから』
 ぐるりと皆に視線を向け、シンは胸中を言葉にする。
『かつて俺は自分が進むべき道を見失っていた。しかし六課の隊長たちと出会い、自分が
忘れていたものを思い出させてもらった。そのことについては感謝してもしきれない。だ
が今また俺は、自分の在り方について、迷っている』
 少し騒ぐ局員たち。しかしシンはかまわず続ける。
『だから今一度、ここで俺は自分を見つめなおしたい。友人である隊長たちと、新たに知
りあう君らのもとで。
 きっといい答えが見つかると俺は信じている。そして──』
 首を動かして、皆を見渡し、
『隊長たちをはじめ、ここにいる皆はいろんな夢を持っていると思う。その夢を少しでも
守り、形づくる力になれればいいと思う。
 みなさん、これからよろしくお願いします!』
 注がれる拍手を受けながら、シンは思う。
 自分が進むべき道。ステラを、スティング、アウルを守る。そして六課の皆の夢への助
力。
 どれも決して一筋縄ではいかないだろう。だが、不可能とも思えない。なぜなら自分の
そばには心を許せる友人がおり、そして──
『ええ挨拶やったな。ほんならみんな、彼ら四人と仲良うやってな』
 進むべき道を思い出させてくれたはやてがいる。信頼できる上官である彼女の下でなら
きっと上手くいく。
 不思議とシンはそう確信するのだった。
 
to be continued