LSD_Striker'S_第03話前編

Last-modified: 2008-02-19 (火) 01:15:28

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・このお話は私lyrical Seed Destinyが書いたContact of Destinyの続編にあたりますので
Contact of Destinyを読むと、大体の世界観やキャラの関係が分かるかと思います。
もしよろしければそちらも読んでみてください。

 

3話 ホテル・アグスタ(前編)

 

 

 クラナガンの空を駆けるヘリは起動六課に配備されたJF-704式だ。
 中にいるのは起動六課の部隊長たちとフォワード陣。さらに主任医務官のシャマルとザ
フィーラ、そしてシン。
「ほんなら、改めて。今日の任務とここまでの流れのおさらいや」
 皆を見渡し、端末を操作するはやて。表示されたモニターに映るスカリエッティの姿。
「皆はもう知ってると思うけど、ガジェットドローンの制作者、レリックの収集者は、現
時点ではこの男。
違法研究で、広域指名手配されている次元犯罪者、ジェイル・スカリエッティの線を中
心に操作を進める」
 映し出されているスカリエッティの姿。ただの画像にもかかわらず、人間とは思えない
無機質さと危険な気配を漂わせている。
 仇敵ともいえる男の画像を見て、自然にシンは拳を握り締める。
「こっちの捜査は、主に私が進めるんだけど…皆も一応、覚えておいてね」
フェイトが言い、頷くフォワード達。続いて切り替わるモニター。豊かな新緑に囲まれ
た大きなホテルが映し出される。
「で、今日これから向かう先はここ。ホテル・アグスタ。
骨董美術品オークションの会場警備と人員警護。それが今日のお仕事ね」
 なのはの説明をリィンフォースが補足する。取引許可の降りているロストロギアがいく
つもあり、その反応をレリックと誤認したガジェットが会場に現れるかもしれないとのこ
とから警備に呼ばれたのだと言う。
それからさらにこまごまなことを説明され、終わったところでシンははやてに問う。

 

「なぁ、俺はどっちに回るんだ?」
 起動六課所属とはいえシン、レイの二人はザフィーラと似たような立場だ。戦闘部隊関
連の補助という仕事はあるものの正式な役職はない。
「シンは私らと一緒に建物の警備や」
「…そうか。わかった」
──外の警備なら四人が戦うところを直接見れたかもしれないのになぁ
少し残念な気持ちでシンは頷く。今回の任務はシンが六課に来て初めての戦闘関連の任
務なのだ。
ほかに何か質問は? とはやてが皆に尋ねる。
「あの…さっきから気になってたんですけど」
 ゆっくり手を上げるキャロ。彼女の視線と指先はシャマルの足元にある四つ積まれた箱
を指している。
「その箱は何ですか?」
「ああ、これ? これはね」
 シャマルはいたずらっぽく微笑み、
「隊長達の、お仕事着」
 弾んだ声でそう言った。

 

「……」
 外の警備に変えてもらうんだった。シンは今、心底そう思っていた。
 ホテル・アグスタの試着室。今しがたシンが来ていた管理局の制服は足元の箱に入って
おり、かわりに身にまとっているのは黒のスーツだ。
 シャマルが持ってきたお仕事着。それははやて達とシンが着るドレスとスーツだった。
 片っ苦しい服装が嫌いなシンは、管理局の制服でもいいんじゃないかと言ってみたが、
「馬鹿やなぁ。管理局制服を来た人が大勢いたら、ここに何か危険がありますって宣伝し
てるみたいなものやん」
 そうはやてに諭され、嫌々ながらスーツを着た。ザフトの赤服や管理局制服と大した差
はないのだが、どうもこういう服装は苦手なのだ。
「くそ。首元が苦しい……」
 締めすぎたネクタイをゆるめ、シンは試着室を出る。
「あー、ようやく来たわ」
「遅いよ、シン」
 出たと同時にシンを呼ぶ声。振り向けば豪奢なドレスで着飾ったはやて達がいる。
「悪い。遅くなった。それじゃあ受付に行くか」

 

「ちょい待ち」
 歩き出そうとしたシンの前、はやては手のひらを突き出す。
「シン、ネクタイが曲がっとるよ。それに胸元も開いとる」
「首や胸が苦しいんだよ。これぐらいなら問題ないだろ」
「駄目や。身だしなみはきちんとせんとあかん」
 横を通り過ぎようとするシンをはやては捕まえ、ネクタイに手をかける。
 そのため自然とはやてが近づく。至近の距離で見る着飾ったはやての姿は、大人の女性
の艶と色気を十分に醸し出している。
「も、もういいだろっ」
 体全体に響くような大きい音が、早鐘のように胸をうつ。顔を真っ赤にし、シンは離れ
ようとするがはやては離さない。
「あかん。まだ曲がっとる。……もうちょっと」
 さらに近づくはやて。ふわりといい香りがする。香水をつけているのだろう。
 控え目ながらもしっかりとした香りを残すその匂いははやてによく似合っており、それ
がさらにシンの鼓動を強く、大きくする。
「よし、これでOKや」
 はやてが頷いた時、シン勢い良くはやてから離れ、試着室に駆け込む。
「…ったく、はやての奴」
 まだ高鳴る鼓動を鎮めつつ、シンは姿鏡で自分の姿をみる。
 ネクタイはピッチリしめられているが自分がしめたときと違い息苦しくない。
 試着室を出て、再び三人のもとへ足を運ぶ。「苦しい?」と尋ねてくるはやてに、
「いや、これなら苦しくないよ。ありがとうはやて」
「それはよかったわ。ほんなら、行こか」
 礼を言うとはやては笑顔を見せる。格好のせいか、不思議と輝いて見える。
「うん。行こう行こう」
「そうだね。行こう」
何故かなのはとフェイトから妙に弾んだ返答が返ってくる。視線を向ければ何やら生暖
かい笑みを浮かべた二人の姿がある。
「……二人とも。その顔はなんや?」
 シン同様、何かを感じたのだろう。はやての問いに二人は互いを見て、
「別になんでもないよ。だた──」
「うん。二人って、仲良しだなーって、思っただけ」
 からかいの混じったなのはの言葉にフェイトがうんうんと頷く。その言葉の意味を悟り、
みるみる真っ赤になるはやてにシン。
「……な。あ、あれはシンのネクタイが曲がってたからで」
「そ、そうだぜ。なに勘違い、してるんだ」

 

「勘違いって」
「何に?」
 食ってかかるように言うも二人はニコニコと微笑んだままだ。
「も、もう! 早く行くよ!」
 頬を赤く染めたままそう言い捨ててずんずんとはやては歩いて行く。
「うーん。ちょっとからかいすぎたかな」
 少し反省した様子でフェイトは言うが、なのはは特に気にした様子もなく、
「これぐらい問題ないよ。昔は私とクロノくんのことを散々からかってくれたし」
「……その仕返しに、俺を巻き込まないでほしいんだが」
 ジト目でシンが言うと、二人は顔を見合わせる。そして視線をシンに向けた真顔のフェ
イトが、
「シン、はやてのこと好きなんじゃないの?」
「は、はあっ!??」
 思わず後ろに下がるシン。落ち着いたはずの動機が再び暴れだす。
「お、お、お前! 何を、わけのわからんことを!? あいつはただの」
「友達?」
 今度は真顔のなのはが訊ねてくる。澄み切った瞳でまっすぐに見つめられ、何故かシン
は答えに窮する。
「…そ、そうだよ。友達だ。それ以外の、なんだっていうんだ?」
 一拍の間を置いてシンが答えると、何故か二人はあきれた表情でため息をつく。
「なんだよ。その顔」
「……別になんでもないよ。はやてちゃんも待ってると思うし、受付行こう」
 はやてが去った方へ歩き出す二人。何やら釈然としないものを感じつつも、シンも後に
続いた。

 

 

<でも今日は、八神部隊長の守護騎士団全員集合かぁ>
<そうね>
 スバルと念話を繋げながら、ティアナは周辺へ気を配る。
 副隊長達の指示でティアナ達フォワード達はアグスタの外回りの警備に回っているのだ。
<そういえばあんたは結構詳しいわよね。八神部隊長や副隊長のこととか>

 

<うん。父さんやギン姉から聞いたことぐらいだけど。
まぁ八神部隊長たちの能力とか詳しい事は特秘事項だから。私も詳しいことは知らない
んだ>
<レアスキル持ちの人は、皆そうよね…>
<ティア、なんか気になるの?>
<ううん。別になんでもないわよ>
 そっけなく嘘を返すティアナ。ここ一月──特に最近強く思っていたことを思う。
──六課の戦力は無敵を通り越して、明らかに異常だ。
八神部隊長がどんな裏技を使ったのか知らないけど隊長格全員がオーバーS、シンさん
やバレル三佐も同格だし、副隊長たちもニアSランク。
他の隊員たちや管制だって未来のエリートばっかり。あの年でもうBランクをとってる
エリオと、レアで強力な竜召喚士のキャロは二人ともフェイトさんの秘蔵っ子。
危なっかしくはあっても、潜在能力と可能性の塊で優しい家族のバックアップもあるス
バル。
やっぱり、うちの部隊で凡人は私だけか
先日シンに自分たちが六課に必要ないと言われた時、ティアナは怒りを覚えたが、同時
にどこかで納得もしていた。
彼とレイに認められ六課にいる今でも、他の三人はともかく、自分はどう考えても不釣
り合いに思えてならないのだ。
どうして自分は六課へ呼ばれたのか。なのはは何故自分を部下に選んだのか。いくら考
えてもわからない。
──でも、そんなの関係ない。私は立ち止まるわけにはいかない
 そう、ティアナは引き下がれないし、止まれない。兄、ティーダ・ランスターが叶える
はずだった執務官になるという夢をかなえるため。そして──
<ティア? 突然黙っちゃって、どうかしたの?>
 心配そうな声にティアナはやや強い口調で返す。
<なんでもないったら。それじゃあそろそろ──>
 念話を切ろうとしたその時、目の前にモニターが開く。
「アスカ三佐……」
 映し出されたシンは管理局制服ではなく、先ほど会場に入って行ったお客と似た、品の
よい服装だ。
『そっちの様子はどうだ。何か異常はないか』
「はい。今のところは」
『問題ありません』
 ティアナに遅れてスバルも返事を返す。どうやらスターズ分隊にだけ通信を開いている
ようだ。

 

『そうか。会場内もとりあえず問題はない。このまま何も起きないといいんだが……。二
人とも、警戒は怠るなよ』
「はい。わかってます」
『それにしてもシンさん、その恰好』
 スバルの言葉にシンは渋面になる。
『ああ、これか。さっき八神部隊長に渡されてな。管理局の制服でいいって言ったんだが
…』
 嫌そうな顔をするシン。どうやらシンは形式ばった恰好があまり好きではないようだ。
 いい年のくせに。また左官の階級を持つ立場として、それはどうなのかとティアナは思
う。
『でも似合ってますよ。普段と違って、かっこいいです』
『そ、そうか?』
 素直なスバルの感想に、シンは照れたような笑顔を浮かべる。が、すぐに眉をひそめる。
『普段と違って? それじゃあいつもの俺は格好悪いのか』
『え? い、いえ。別にそう言うわけじゃないですよ。
いつもは、その、なんといいますか』
 うろたえた声を出すスバル。その様子が面白かったのか、それを聞いてシンはくくっ、
と小さく笑って、
『冗談だよ。さて、もう一度言うが外の警備は副隊長やお前たちに任せたからな。
あと、自分たちの手に負えないと判断したらすぐに俺を呼ぶんだ』
「……わかりました」
『それじゃあな』
 モニターが消え、スバルとの念話を切る。
──自分たちの手に負えないと判断したらすぐに俺を呼ぶんだ
 先ほどのシンの言葉が響き、ティアナは待機状態の“クロスミラージュ”を握り締める。
 シンは決して自分たちを信頼していないわけではない。戦力として見ていてくれている。
 そう分かっていても、あのような言葉を聞けば、やはり自分が未熟であることを痛感す
る。
「……大丈夫です。呼ぶなんてことはありません」
 訓練でも、そして最初の実戦でもそれなりに上手くやれた。戦い方次第で格上の相手と
だって自分の力と魔法──兄の教えてくれた魔法が通用することは、ついこの間証明され
た。
「ガジェットなんかに、負けませんから」

 

「在庫のチェックは終わった。確認してくれ」
 備蓄庫の入口でレイを待っていた六課の備蓄庫の管理者にチェックリストを渡す。
 自分とそう変わらない若い管理者はチェックリストと端末を見比べ、チェックする。
数分後、笑顔を浮かべて、
「はい。結構です」
「他に助けのいることはないな? 他の部署からの要請は何かあったか?」
「はい。今日はもうありません。他の部署からもこちらには特に何も」
「わかった。それでは管制室に行く」
「はい、お疲れ様です!」
 頭を下げる局員に背を向けて、レイはオフィスへ足を向ける。
 入隊時の挨拶ではやてが言ったように、レイは時間を見つけてはロングアーチや他の部
署の雑務や補助を行っていた。
 短い期間ではあったがザフトにいたレイは部隊というものがどういうものか大まかに知
っていたが、実際各部署を回り手伝いなどを経験すると知識とは違ったものを学べていた。
「アグスタの様子はどうだ」
 管制室に入り、部隊長椅子の横に直立するグリフィスに訊ねる。
「今のところは何もありません」
「そうか。フィニーノ1士、隊員たちの配置を見せてくれ」
 レイの前に現れる大きなモニターと小さなモニター群。大きなモニターには管制室のメ
インモニターに映っている全体状況図が、小さなモニターには分隊の隊員たちの状況が映
し出されている。
「皆、落ち着いているな」
「最初の任務や日々の訓練のおかげでしょう」
「皆毎日頑張ってますから。対ガジェット戦やAMF対応訓練もこなしてますし」
 グリフィスの言葉に、シャリーが明るく付け加える。
『レイさん』
 突如目の前にモニターが開く。
「プレアか。どうした」
『すみません。この本でちょっとわからないところがありまして…』
 言って画面に持ってきた本は数日前、レイがプレアに貸した魔導書だ。
 若輩ながら彼は聡明で魔法の基本要素はほぼすべて理解している。彼に貸した魔導書は
いくらかレベルを高くしたものだ。
「明日の勉強のときに教えてくれ」
『今日は駄目ですか?』
「駄目だ」
『わかりました。それじゃあ明日、教えてください』

 

 レイの答えに朗らかな笑顔を浮かべるプレア。
「そう言えばバレル二佐はプレアくんに魔法を教えているんでしたよね」
「ああ」
 グリフィスにそう返すが、それは半分嘘である。今、レイがプレアがしている勉強や訓練は彼が元々使っていた魔法を再び会得するため──思い出させるためにすぎない。
「バレル二佐。プレア君って、エリオ君達と比べてどうなんですか?」
 シャーリーが振り向き訪ねてくると、隣に座るルキノとアルトも同様に顔をこちらに向
ける。
 興味津々な三人を見て、レイはこの間、この三人にいじられていたプレアの姿を思
い出す。
「実際に戦わせたことはないから、どの程度といわれてもはっきりとはわからない。
だが才能だけなら四人にひけはとらない。良い師に恵まれれば、将来は間違いなく優秀
な魔導士になるだろう」
「なのはさんの教導を受けさせないんですか?」
「プレアは管理局員じゃない。受けさせることはできない。それにあの子については俺に
一存されている」
「じゃあもしプレアくんがなのはさんの教導を受けたいって言ったらどうします?」
 シャーリーの問いに思わずレイは答えに窮する。と、その時、耳障りなアラート音が監
視室に鳴り響く。
 一斉にモニターへ向く三人。レイも管制室の大型モニターを見やる。
 モニターの端から無数の光点がアグスタへ向かっていた。

 

「戦闘が始まったのか」
『はい。ガジェットガジェットドローン陸戦一型が三十以上、三型もそれなりの数です』
 廊下の端でシンはモニター越しのシャマルと会話を交わしている。
『でもこれぐらいの数ならヴィータちゃん達で何とかなります』
 彼女の言うとおり前線のヴィータ達は順調にガジェット達を破壊している。ホテルより
距離も離れているから、これならガジェットがホテル前まで来ることもないだろう。
 だが、シンが気にかけているのはそれだけではない。
「いや、あの二人が出てくれば俺の出番だからな」
 「あの二人?」と首をかしげるシャマル。だがすぐに何かを思い出したような顔になり、
『……例のステラさんを狙っている二人組のことですか』
「ああ。ガジェットが出現したんだ。あいつらが出てこないとは、限らない」
 スティング、アウル。かつての大戦においてシンがこの手に掛けた、ステラの仲間。
「あの二人がもし現れたらすぐに連絡を。俺が相手をする」

 

 蘇った胸の痛みを押し殺しシンは言う。
『一人で大丈夫ですか? レイさんでも捕まえられなかったと聞いていますけど……』
「心配ないさ。“ハイパーデュートリオン”を使って、速攻で片をつける」
『やっぱりレイさんも一緒に連れてきたほうが良かったんじゃ……』
「おいおい。さすがに六課を隊長たち全員が空けるわけにはいかないだろう。それにそっ
ちにだって何かあるかもしれないんだ」
 レリックを狙う何者か──間違いなくスカリエッティだろうが、彼が六課の場所を知らないはずはない。
レリックや昨年のMA事件でも直接的ではないとはいえ六課に関わりを持ったのだ。
 そして六課の隊長クラス全員が数年前より“レリック”に何らかの形でかかわっている。
邪魔者に対し、スカリエッティほどの男が興味も示さないはずがない。
現時点で可能性は低いが六課の隊舎へ攻めてこないとも限らないのだ。もしそうなった
時、隊長達がいない隊舎を交替部隊だけで守るというのははっきり言って不可能だ。
 スティングたちの捕縛とステラたちの護衛。これがシンとレイ二人が六課に来た表向き
の名目だ。
だが実際その担当はシン一人で、レイは六課における隊長たちのスペア的な役割である。
仮に──あくまで仮にだが隊長の誰かが脱落したときに混乱なく部隊を保てるようにとい
うクロノの考えだ。
 正直なところリミッターなしのレイから逃れた二人を“ハイパーデュートリオン”によ
る限定解除でも捕まえることは難しい。
 だがシンは二人まとめて捕まえるつもりだ。できない、ということは考えない。やるの
だ。
「俺のことはいから、スバル達のサポート、よろしくな」
『わかりました。……ところでシンくん、その恰好お似合いですよ』
 柔和に微笑むシャマルへ、思わずシンは苦笑いを浮かべた。

 

 

 眼下に見える豊かな森林。そのあちこちで爆発が起こり、煙を吹いている。ルーテシア
と並び、ゼストはそれを眺めている。
 深緑の奥に建っているホテルにあるロストロギアにガジェットが引かれたため、それを
管理局員が迎撃にあたっているようだ。
 前線の騎士たちは数で勝るガジェットを難なく破壊、粉砕している。ガジェットのAM
Fを知っているのか、攻撃はすべて物理攻撃に徹底している。

 

 現在管理局でAMF対策はそこまで広く普及されていない。どうやらこの部隊員達は例
のAMF対策部隊。起動六課のようだ。
「どうする?」
 自分たちが探しているものはここにはない。しかしルーテシアが何かが気になる、とい
うのだからここに留まっているにすぎない。
 行動の指針をルーテシアに問うたその時だ。目の前でモニターが開き、不快な顔が現れ
る。
『ごきげんよう、騎士ゼスト、ルーテシア』
「何の用だ」
『冷たいねぇ。近くで様子を見ているんだろう?』
 ゼストの邪険な態度を気にした様子もなく、いつもの不可解な笑みを浮かべるスカリエ
ッティ。
 幾度となく見てきたその笑みは何故だから知らないがゼストと、今ここにいないアギト
の神経を妙に逆撫でするの。
『あのホテルにレリックは無さそうなんだが、実験材料として興味深い骨董が一つあるん
だ。
少し協力してはくれないかね? 君達なら、実に雑作もないことなんだが……』
「断る。レリックが絡まぬ限り、互いに不可侵を守ると決めたはずだ」
 即答するも、スカリエッティは表情を変えずルーテシアへ視線を向け、
『ルーテシアはどうだい? 頼まれてくれないかな?』
猫撫での様な声でルーテシアに頼むスカリエッティ。ルーテシアはわずかな間をおいて、
「いいよ…」
 ルーテシアの答えにスカリエッティは笑みを濃くする。
『優しいなぁ、ありがとう。今度ぜひ、お茶とお菓子でもおごらせてくれ。
君のデバイス、“アスクレピオス”に私の欲しいもののデータを送ったよ』
 頷くルーテシア。
「話はそれだけか。なら──」
『ああ、すまない。一つ補足することがあるんだ』
「なんだ」
 不機嫌にゼストは返すが、スカリエッティから笑みは消えない。
『スティングとアウルの二人がそちらに向かっていてね。彼らが戦うと結構な騒ぎになる
可能性もある。
 少し急いでくれると、助かるよ』
「あの二人が? 何故だ。ここにはレリックも、まして彼らが捜している少女もいないは
ずだ」

 

『これはあくまで未確認の情報なんだが、本局の保護施設にいた二人がとある局員にとあ
る場所に連れて行かれたという情報が入ってね』
 スカリエッティの言葉にわずかだが体を揺らすルーテシア。それを見て『二人』が誰で
あるかゼストも悟る。
『連れて行った局員の一人が、どうやらホテル・アグスタにいるようなのだよ。
それを知った二人はこちらが止める間もなく飛び出してしまってね』
 そう言うスカリエッティの前に映し出された二人の人物。
「この二人は……」
『そう。M・A事件と呼ばれる事件において力をつくしたCE出身の魔導士だ。
以前、二人にも見せたことはあっただろう?』
 シン・アスカ。レイ・ザ・バレル。この二人はいつか戦うことになるかもしれないと見
せられた覚えがある。
「ドクターの作ったクローン達を倒した二人、だったよね」
「その通り。よく覚えていてくれたねルーテシア」
「……ドクター。この二人が連れて行ったって言うことは」
 わずかに瞳を揺らしたルーテシアがスカリエッティに尋ねる。
「プレアもこの人たちと一緒に、いるの?」
『彼女のことを考えれば、可能性は高いだろうね』
「……そう。じゃあ、ご機嫌よう。ドクター……」
 消えるモニター。ルーテシアはコートを脱ぎ、こちらへ預ける。
「ルーテシア」
 呼ぶも彼女は答えず“アスクレピオス”を起動させる。
 深い紫色の魔方陣が展開され、吹きあがる巨大な魔力にルーテシアの紫の髪がなびく。
周囲の空気がざわめく。
「吾は乞う。小さきもの、羽ばたくもの」
 魔方陣より出でる生物のように蠢く柱。透明なその中には無数の紫色の卵がある。
「言の葉に応え、我が命を果たせ。──召喚、インゼクトツーク」
 柱が砕けると同時に無数に出現する銀色の虫。
「いってらっしゃい。気をつけてね」
 友人に語るような優しい声音で虫たちに語るルーテシア。それを受け虫たちはいっせい
に飛び立つ。
 今、ルーテシアは何を思い、召喚を行使したのだろう。小さな少女の後ろ姿を見て、ゼ
ストは思う。
 スカリエッティの依頼のこともあるだろうが、おそらくはそれ以上にあの少年。プレア・
レヴァリーのことだろう。

 

 自分と同じスカリエッティの実験体。しかしルーテシアにとっては、アギトと並ぶ友人
と呼べる、彼。
『大丈夫。また会えるよ。ルーちゃん』
 ふとゼストの脳裏に暖かな微笑を浮かべたプレアの顔がよぎった。

 

 つい先ほどのキャロとロングアーチの警告通り、敵に備えているスバル達。
 すると眼前に紫色をした四つの魔方陣が出現する。
「遠隔召喚、きます!」
 鋭いキャロの声と同時に、魔方陣から飛び出してくるガジェット。
「あれも、召喚魔方陣!?」
「召喚って、こんなこともできるの?」
「優れた召喚士は、転送魔法のエキスパートでもあるんです……!」
 驚きつつもスバル達は素早くポジションを取る。
「なんでもいいわ。迎撃、行くわよ!」
 気合いの入ったティアナの声で四人は動きだす。
『思ったよりガジェットの数が多いわ。皆、敵の撃破よりもホテルや自分の身を守ること
を優先してね!』
ガジェットが動く前に素早く前線の二人が飛び出す。大型ガジェットの攻撃を二人はか
わし懐に入り込むとリボルバーナックルと“ストラーダ”が唸る。
 大型ガジェットの爆発から飛び出してくる小型ガジェットはティアナの“ヴァリアブル
シュート”とフリードの“ブラストフレア”が撃破する。
「よっしゃ!」
「スバル浮かれない! まだいるのよ!」
 この一月余り、徹底してガジェット対策をやったせいか、小型ガジェットは大した苦労
もなく撃破でき、大型も二人がかりなら壊せる。
 最初の強襲が上手くいき残りを一気に破壊しようとも思ったが、魔方陣から遅れてガジ
ェットが出現したのと、その数を見て、やめる。
──シャマル先生の言うとおり、防御主体の陣形に切り替えた方がいいわね
 ティアナは二人を呼び戻そうとするが、こちらの思考を呼んだかのように別方向から来
た数体の小型ガジェットがレーザーを放ってくる。
「くっ!」
 とっさに転がり回避する。反射的に弾丸を放つも並みの弾丸では完全にAMFは貫通で
きず、また別の機体は意思があるように避けてしまう。
──今までのガジェットと違う!?

 

「ティアさんっ!」
「わかってる! スバル、エリオ戻って! フリード、援護を!」
 大型ガジェット二機とやり合っている二人へ叫び、側面から迫るガジェットへ“クロス
ミラージュ”を向ける。
<ヴァリアブルシュート>
 ガジェットを撃破した直後、空色の歩道と共にスバルとエリオがティアナの前に立ちふ
さがる。
「キャロ!」
「はい。──我が求めるは戒めるもの。捕らえしもの。言の葉に答えよ。
鋼鉄の縛鎖、アルケミックチェーン!」
 出現した鋼鉄の鎖は、前進していたガジェットの動きを絡め取る。
止まったガジェットへ“ヴァリアブルシュート”を放つティアナ。捕縛できなかったガ
ジェットへはスバルとエリオが向かう。
 だが先ほどと同じようにガジェットはこちらの様に連携じみた攻撃や防御、回避を見せ
る。破壊できることはできるが、スバルとエリオ二人が借りでも一苦労だ。
 ガジェットは無機物なはずなのに、まるで誰かに操作されているような動きだ。
 いや、“ような”ではない。間違いなく何者かの手によって操作されている。
──これも敵の召喚士の仕業なの……!?
最初のように容易には破壊はできず、徐々にガジェットの数が増えていく。
『自分たちの手に負えないと判断したらすぐに俺を呼ぶんだ』
 脳裏によみがえるシンの言葉。しかしティアナはそれを振り払い、“クロスミラージュ”
に新しいカートリッジを取り付けると、ガジェットに向ける。
──これしきの、ことでっ!
「負けられないのよっ! あんた達なんかに!」
 発射される“ヴァリアブルシュート”で破壊される小型ガジェット。しかしそれを補う
ように別の小型ガジェットが前に出てきた。
 それを見て、ティアナは唇を強くかんだ。