Lnamaria-IF_第12話

Last-modified: 2013-10-28 (月) 02:21:02

「やれやれ。宇宙でしくじったのがここまで響くとはねぇ……ザムザザーまでやられたか」

 ミネルバが入港してから一日後。
ネオは仮面を付けたまま、朝日の中で地球軍艦J・Pジョーンズの甲板で首を振っていた。
彼が言っているのはミネルバとインパルス。一度は彼自身がエクザスに乗って出撃しながら討ちそこねた艦だ。

「別に問題はねえだろ、ネオ。俺達が討てばいいだけなんだからな」
「おいおいスティング、あくまで俺達の目的は包囲。大洋州連合の威圧が任務だぞ?」

 スティングの言葉にネオは訂正を入れた。
そう、地球軍艦隊が着々とカーペンタリアへと向かっていたのはカーペンタリア「攻撃」ではなく「包囲」が狙いである。
地球軍艦隊の姿をはっきりと見せることで力と態度を示威し、大洋州連合へ圧力をかけ連合の傘下へ下らせる。
一部がオーブへ向かったのも解答を遅らせていた事へ圧力を見せておくことが主眼であり、ミネルバ討伐はおまけに過ぎない。
……もっとも。

「少なくとも、ザフトは黙って見ているわけはねえ。大方自分から出てくるだろうし、結局戦うことになる」
「……ま、そりゃそうだがね」

 スティングの答えにふん、とネオは気に食わなさそうに息を吐いた。

(ブーステッドマンよりは大人しくなったって聞いてるがね……生意気言っちゃって)

 とはいえ、そういった感情を表に出すほどネオは愚かではない。素早く話題を変えた。

「ところでアウルはどうしてる? 新入りどもの世話か?」
「ああ。ステラの方が絶対向いてるとか愚痴ってたぜ」

 ちなみに、ステラはこの艦にはいない。理由は単純、ガイアは海上戦で役に立たないからだ。
彼女は後方の基地で新型モビルスーツ・デストロイのテストを行っているらしい。
適当に返事でもして切り上げるかと思ったネオに、突如下士官が走ってきた。
表情から内容を読みとったネオは、笑みを浮かべてスティングに言った。

「どうやらお待ちかねの時間らしいぞ、スティング?」

 そしてその――カーペンタリア基地は慌ただしくなっていた。ディンやグゥルに乗ったモビルスーツが飛び上がり、
アッシュ、ゾノ、グーンといったモビルスーツ隊が次々に海へ飛び込んでいく。
その中には青一色に統一されたツインアイの機体――アビスインパルスもいる。
ルナマリアは、そのコックピットの中で今回の作戦内容を反覆していた。

 一時間前。ミネルバの主立ったクルーはブリーディングルームに集められていた。
言うまでもなく、カーペンタリアを包囲している連合軍を撃破するためだ。
部屋のライトが消され、スクリーンが一層明るくなった。

「さて、全員揃ってるな? 現在、この基地は連合に包囲されている。
 軍上層部からはミネルバもこの基地にいる他の隊と共にそれを撃破するよう命令が来た」

 アーサーは喋りながら、スクリーンをポインターで指し示す。
そこにはカーペンタリア基地とその周辺の地図、そして地球軍艦隊の配置が映し出されている。
その数の多さに、かなりのクルーが少なからず反応を見せる。

「とはいえ、ミネルバはまだ修理中で出撃できない。
 だからミネルバ自体がやるのは基地内からのインパルスのパーツの射出と、デュートリオンビームの照射だけだ。
 あとの説明は、ハイネ」

 後を引き継ぐ形で、ハイネがポインターを受け取った。同時に四つの点が映し出される。

「今回はモビルスーツ隊がメインだ。
 俺とディアッカ、レイは空を担当し、遊撃隊として動く。ザクはグゥルが既に用意してある。
 そして空を担当する奴は、ある程度まで戦ったら一斉に下がる手はずになってる。
 当然、相手は追撃しようと追ってくるはず。そこを……」

 点を追ってきた地球軍の後ろに、新たな点が現れた。

「宇宙から大気圏に突入してきた増援が後ろから攻撃して、挟み撃ちにするっていう作戦だ」
「あの……私は何を?」

 まだ呼ばれていなかったルナマリアからの質問に、ハイネはさらりと答えた。

「ルナマリアはアビスインパルスで海を担当。現地の水中用モビルスーツ隊に合流して戦ってもらう。
 海には宇宙からの援軍が来ない……つーより来れないから、最初っから一気に押し込んでいっていい」

 ハイネはそう言ったものの、その裏の意味は明らかだ。

『援軍が来られない以上、独力で押し込まなくてはいけない』

 実際、ザフト軍には宇宙でも水中でも問題なく活動できるのはアビスインパルスぐらいしか存在しない。
なら、宇宙からの援軍に頼れないのは当然のことと言える。

「……今回は絶対にミスれないしね」

 ルナマリアの頭の中でリフレインしたのは、レイの言葉。
なめられたままで終われるほど、彼女はおしとやかな性格をしていない。

 一方、ハイネ達を含む空戦用モビルスーツ部隊は一足先に戦闘に入っていた。
圧倒的なまでの数で飛来するダガーL部隊へ、バビやグゥルに搭乗したガナーザクが一斉に射撃を開始。怯んだところへディンや他のザクが突撃していく。
その中でもっとも気を吐いているのはハイネのグフだ。スレイヤーウィップを一振りするだけで次々にダガーLが墜ちていく。
しかし、ハイネの表情は思わしくない。

「……やっぱ、ザクに飛行用ウィザードがないのは痛いか」

 周りでは、グゥルを破壊されたザクやゲイツRが次々に海中に墜ちていく。
グゥルは前大戦から存在した兵器であり、連合は既に対策――下に回ってグゥルを撃ち抜く――を立ててあった。
しかし、ザフトは敵のジェットストライカーへの対策を立てられていない。
単独飛行可能なディンでも、ダガーLに勝つのは無理だ。装甲や火力が弱すぎる。
グフやバビはダガーLを遙かに上回る性能を持つが、バビはまだ先行配備の段階だしグフに至ってはハイネの一機しか実践投入されていない。
しかも、明らかにダガーLの数はこちらのモビルスーツ数を上回っていた。

「ったく、増産を陳情する必要がありそうだぜ!」

 グフは接近したダガーLをビームサーベルで両断すると同時に、ライフルを向けているウィンダムへビームガンを発射、右腕を破壊。
それでもウィンダムはシールドに内蔵されたミサイルを発射しようと足掻くが、ディアッカのガナーザクファントムからの砲撃を受け墜ちていった。
同時にレイのブレイズザクファントムが誘導ミサイルを乱射し、一気にダガーLを墜としていく。

『ハイネ、予定以上に押されちまってる! これじゃ増援が来る前に基地が落ちるぜ!』
「分かってる、高度を下げてグゥルを狙われないようにアルフ隊に通達してやれ!
 ガナーザクが全滅したら終わりだ!」
『隊長、高度を下げれば海中から攻撃される恐れがあります』
「水中のヨップ隊とインパルスを信用しろ!」

 ディアッカやレイからの通信にハイネが答えている間も、グフはその動きを休めず次々に敵を墜としていく。
だが突然現れた赤いビームの奔流が機体を掠め、一瞬グフの動きが止まった。

『隊長、敵の増援のようです。あれは……』
『おいおい、マジかよ……』

 レイもディアッカも、そしてハイネもそれを撃った機体を確認する。
紫色のウィンダムと共に飛来してきたのは、間違いなく……

「カオスかよ……ったく、ずいぶんとまぁ来るもんだ……」

 水中でのザフト軍は、空とは逆の情勢――すなわち、数と作戦により連合を押し込んでいた。
グーン隊のライフルダーツが一斉にディープ・フォビドゥン一機へ向けて放たれ、命中する。
ディープ・フォビドゥンのトランスフェイズ装甲に傷が付いた様子はない。ないが……あまりの衝撃に動きが止まる。
その瞬間に、アビスインパルスのフォノンメーザーライフルがコックピットを撃ち抜いていた。

「正規の武装じゃないにしては使えるわね。これなら!」

 もともと、アビスインパルスはフォノンメーザー砲を持っていない。これはアビスも同様だ。
しかしTP装甲を持つディープ・フォビドゥンを相手にするには、それに有効打を与えられるフォノンメーザーがあるのとないのとでは全く違う。
そのため、グーンなどのフォノンメーザー砲の整備部品をライフルに組み込んで急遽作られたのがこのフォノンメーザーライフルである。
魚雷やライフルダーツなどで動きを止め、そこへフォノンメーザーを撃ち込む。これが前大戦でディープ・フォビドゥンに完敗したザフトが考え出した対策だった。
せめて連携を取ろうとディープ・フォビドゥンが集まり出す。だがそれさえ無駄。
集まったところへアッシュやゾノなど、ザフト水中機がありったけの火力を集中した。蒼い海中が違う色に埋め尽くされるほどに。
上手くやればこのまま押し切れるか――ザフト軍がそう判断した瞬間、突如側面にいたジン・ワスプ隊が撃ち抜かれ、沈んだ。
そこにいたのは……

「バァーカ、調子乗ってるんじゃねーよ!」

 連合の新型モビルスーツ、フォビドゥン・ヴォーテクスとアビスの姿だった。
奇しくも連合の海中部隊は「ある程度まで引きつけて別働隊で押し込む」という、ザフト空戦部隊と同じ作戦を立てていたのだ。
だがザフトに慌てた様子はない。なぜならヴォーテクスの数はたった三機……この程度では戦況を覆すのは不可能だと判断したからだ。
例え新型とアビスといえ、今までと同じ作戦で行けば問題はない――しかし、その予想が間違いだったことがすぐに証明された。
九機のゾノが魚雷を一斉に放つ。先ほどと同じように、動きを止めるのが狙い。更にヴォーテクスやアビスの機動を予想し、ある程度広く撃たれていた。
それにも関わらず――ヴォーテクスもアビスも簡単に避けきってみせた。

「よし、各機散開、後はあいつらの中に突っ込んで攪乱しな!」

 アウルの指揮――もっとも、ネオに言われていた内容をそのまま言っただけ――と共にヴォーテクスが散開する。
エクステンデッドで若く、とても隊長らしくないアウルの指示にヴォーテクスのパイロットが従う理由は単純。
彼らもまた、エクステンデッドだからだ。そしてそれは、パイロットの圧倒的能力も意味する。
もちろん、コーディネイターもナチュラルに比べれば能力は高い。アビスに接近されたゾノは素早く手を向けた。
もともとゾノは対MS戦を想定したMS。更に、掌にはフォノンメーザー砲がある。クローで一撃を加えた後、ゼロ距離で撃ち込もうとしたのだろう。
だが腕が届くより先にヴォーテクスは急浮上。ゾノのクローはアビスの下の海水を虚しく掴み、ゾノ自体はランスに貫かれて沈んでいった。
ここに至って、ザフト軍は状況の危うさを思い知った。少しの部隊を差し向ける程度では、アビスもヴォーテクスも止められはしない。
だが、あまりに大量の部隊を差し向ければ陣形が崩れ、作戦が崩壊する。そうなれば後はディープ・フォビドゥン隊に蹂躙されるだけだ。
小隊長から基地司令官まで、指揮官は頭を悩まさざるを得ない。しかも、迷っている時間も無い。
それはルナマリアのアビスインパルスを預かったヨップ・フォン・アラファス隊長も例外ではない。
どれくらいの人員を向かわせ、残すべきか。下手に動けば、作戦が崩れる原因となりかねない。
そこに、通信が入った。

「ヨップ隊長! 聞こえていますか!?」
「ん……ルナマリアか?」

 急に入った通信に、思わずヨップはまた敵が増えでもしたのかと身を強ばらせた。
しかし、内容はまったく違うもの。

「アビスは私のインパルスで抑えます! ヨップ隊長は陣形を崩さずにそのままで!」
「え、ええ!?」

 ヨップは思わず素っ頓狂な声を上げていた。確かに性能の点で言えば、インパルスをアビスにぶつけるのは自然ではある。
それにアビスをインパルス一機で抑えられれば、ヴォーテクスはなんとかなる可能性もないではない。だが……

「アビスのパイロットの技量が分からないのか? 君単独で抑えられるものではない!」

 そう、ヨップもまたレイ同様、インパルスの力こそ評価してもルナマリアの技量は評価していないのだ。
もっともこれは偶然ではない。ザフト軍兵士の多くは、オーブ近海での成果はインパルスの性能あってこそだろうと見なしている。
ルナマリアも、ヨップの自分への評価をすぐに理解した。

「抑えて見せます。早く敵本隊への攻撃を再開して下さい、それでは!」
「な、待て……!」

 通信を切るやいなや、アビスインパルスやアビスへ突進していった。
止めようとしたヨップだったが、彼の隊は既にディープ・フォビドゥンに距離を詰められつつあった。
そんな状況では、陣形を守るためにもそちらへの対策を優先せざるを得ない。

故に。アビスとインパルス――二つの新型機による一騎討ちが始まるのは、自然な流れ。

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