Lnamaria-IF_第13話

Last-modified: 2013-10-28 (月) 02:21:22

 空中で、二つの剣がぶつかり合う。片方の剣の持ち主はオレンジ、もう片方は紫だ。 

「ちぃ、グフ相手に接近戦でここまで持ちこたえるとは!」
「ふっ、俺の愛機はじゅうぶん速いさ!」

 押しているのはハイネのグフ。しかし、ネオのウィンダムが墜ちる気配も未だ無い。
ネオは巧みに距離を操作し、ハイネにスレイヤーウィップやビームガンを撃たせないでいた。
何よりハイネ自身、あまり距離を自由にできる状態ではない。周りには他の地球軍のモビルスーツがいるからだ。

「少しでも離れちまえばやっぱ撃ってくるよな、みなさんが!」

 思わずハイネから声が漏れる。自分が集中砲火を浴びないのは、敵の指揮官機と接近戦を繰り広げられているからに過ぎない。
こういう場合、普通の指揮官なら一端離れて射撃させる隙を生み出しそうなものだが、
わざわざ接近戦を続けるあたりよほど自信があるのだろう。実力も伴っているから質が悪い。
しかも、指揮官同士で一対一をやっている以上、お互いの部下同士が戦うことになる。
そして、その部下の数は圧倒的に違った。

「ったく、数だけは多いぜ!」

 ディアッカ機のオルトロスが火を噴く。見事な狙いで三機一気に撃ち抜いていた。
しかし、それに連合の部隊が怯む様子は全くない。そのまま群がるかのように一斉射撃を加えていく。
そして、それはレイにも言えた。彼の場合、相手こそディアッカより少ないが、それでもディアッカ以上の苦戦を強いられていた。
突撃銃を目標へ向かって連射する白いザクファントム。だが、それは何もない空を飛んでいく。

「下駄履きのモビルスーツとカオスじゃ違うんだよ!」
「ちぃっ!」

 カオスの機動性の前に、グゥルで移動するレイのザクはついていけない。
更に、周囲のダガーLが連続して射撃を加えてくる。精度はカオスより劣るが、邪魔には変わりない。
苛立ちながらもレイはタイマーを見た。

「増援が来るまであと一分、このままでは保たないか……勝負に出る!」

 レイは回避しながらも、周囲を探索する。ちょうどよい軌道に目的の物が来た。
確認すると同時にレイはザクが左腕で素早くハンドグレネードを取り外し、投げさせる。
だがその飛距離からスティングは素早くそれが本命でないことに気付いていた。このままのコースで行けばカオスには当たらない。
おそらく右腕の突撃銃から目を逸らさせるためだ……そう判断し、スティングは無視した。 スタングレネード
しかしその瞬間……ハンドグレネードが何も無かったはずの中空で爆発する。しかも、それは閃光手榴弾!

「うお!? ま、まぶしっ……」

 カオスのメインカメラが焼き付き、スティングの目が眩む。だが、彼もただのパイロットではない。
しっかりとグゥルが突っ込んでくるのを確認していた。素早くビームサーベルを抜き、両断する。
しかしその瞬間、彼を悪寒が襲った。とっさに機体をずらす……その瞬間、背中で爆発。
カオス本体は無事だが、背中の武器が残らず消し飛んでいた。

「残念だったな。グゥルは囮だ。
 機体をずらしたのは見事だ。だが、カオスは背中のポッドが無くては飛べない」

 白いブレイズザクファントムは、しっかりと空に浮いていた。そう、レイはグゥルを囮に使ったのだ。
ブレイズ装備ならある程度は空に「浮ける」。ハンドグレネードが勝手に爆発したのは、ダガーLが撃ってきたロケットにぶつけさせただけ。
そしてレイの言葉を実証するかのように、カオスは高度を下げながら後退する。
しかし……それはレイもしなくてはならないことだ。あくまでブレイズは「浮ける」だけ、それも時間制限付き。まともな戦闘はもうできない。実質的には相打ちだ。
それでもカオスが戦線離脱したことで、自分が抜けても増援が来るまでの時間はハイネやディアッカが稼げるとレイは判断した。
そして、後はその増援次第だ。

「せいぜい実力を見せて貰おう、アスラン・ザラ」

「墜ちろってんだよ、パチモン!」
「余所のモビルスーツで好き勝手やってんじゃないわよ、このドロボー!」

 アビスとアビスインパルスが、お互いのランスをぶつけ合う。
ヴォーテクスとアビスの乱入の混乱も解けつつあり、海中は膠着状態へともつれ込みつつあった。
だが、それが少しでも崩れれば一瞬で戦況が傾く。そして、アビスとインパルスの勝負はその鍵を持っている戦いの一つ。

「そぉらっ!」

 アビスが一気に攻勢に入った。一気に連続して突きを繰り出す。しかも、その全てがVPSの弱点……関節狙い。
受けきれなくなったインパルスは素早く距離を外した。それに、遠距離ならインパルスの唯一の優位を活かせる。
追おうとしたアビスだったが、フォノンメーザーライフルを向けられて回避運動を強制される。
素早く魚雷を撃ち返すアビス。見事に命中したが、それでもインパルスは沈まない。

「あーもう……イライラすんなぁ!」

 アウルは思わず膝を叩いていた。アビスにはフォノンメーザーが無く、水中でのVPS装甲に対する有効な手段に欠けている。
しかしインパルスにはフォノンメーザーライフルがある。機体性能こそアビスが僅かに上回っているが、武装の面では遥かに劣っているのだ。
だからこそアウルは接近戦を狙っているのだが……

「そうそう近づかせなんかしないわよ!」

 ルナマリアだって、相手の狙いぐらいは分かっている。
アビスインパルスのレールキャノンを発射、足止めしながらも退く。
最初こそアビスを自分に引きつけないといけないといった考えもあったが、もうそんな余裕はない。ただ何とか射撃戦に持ち込もうとするだけだ。
接近されればフォノンメーザーライフルによるアドバンテージはない。何より――認めたくないけど――腕が違いすぎる!

「こいつさえ当てればっ!」

 高速で動くアビスに必死にフォノンメーザーライフルの照準を合わせる。
しかし急造物だからか、狙いを付けるポインターが光るのに少し時間が掛かった。戦闘の最初はこんなことは無かったのだが。
遅れたのはほんのコンマ数秒――その遅れが命運を分けた。
アビスが魚雷を撃つ。その先には――フォノンメーザーライフル!

「っ! ……まずい!」

 慌ててライフルをかばった。当然、付けた狙いも外れてしまう。
その間に、アビスは一気に接近していた。ランスをしっかりと携えて、狙いを絞る!

「はっ、だから間抜けってんだよ!」 

 アビスのランスはインパルスの右肘、つまり装甲が脆い関関節部に深く突き刺さった。更にアウルは内部でビームを発振させる。
水中ではビームは使用できないが……相手に直接突き立てていて、水にあまり発振器が接していない状態なら別だ。
インパルスの右腕が本体から切断される。ライフルを持ったままで。

「しまっ……!」
「お前は、ここで死ねよ!」

 返す刀――いや槍でアビスは頭部のメインカメラを狙う。だがその寸前、アビスインパルスはMA形態に変型、アビスに体当たりを敢行した。
強い衝撃が伝わり、ランスが手からこぼれる。エクステンデッドであるアウルはその衝撃で意識を飛ばされることはなかったが、それでも一瞬視界が歪んだ。
その隙に、インパルスはそのままアビスを押していく。その先には、海面。
アウルも素早く狙いを読みとった。そう、自機ごとアビスを空中へ飛び出させるつもりだ。
一瞬何とか離れようとしたが、止めた。水中は戦闘開始から大して変わらない場所で戦っているが、
空中は連合が押しっぱなしで戦闘場所が基地の近くへ動いている。
このまま空中に出れば、連合の支援部隊などとぶつかり合うはずが多いはず。つまり、空中に出た方が都合がいい。
そうアウルは判断したのだ。念のため、レーダーを確認して――それが誤りだと知った。
空にいたのは、ザフト。連合の支援部隊はもう壊滅していた。

――なんで、ザフトが連合を挟み撃ちにしてやがるんだよ!?

 慌ててアビスをインパルスから外そうとするも、もう遅い。最初からレーダーを確認していれば間に合っただろうが。
インパルスと共に海面上へ飛び出るアビス。ギリギリで気付いたのが功を奏したか、空中に出てすぐに機体は外れ、姿勢制御できた。
これならインパルスより先に海面へ潜れるが、高度的には周囲に飛んでいるザフトの部隊から一発喰らうかどうかギリギリ……但し、それはすぐに攻撃に転じてきた場合。
ほとんどのザフトはいきなり海中から二機のモビルスーツが出てきた驚きで一瞬怯んでいるはず。
あらかじめインパルスが通信で伝えていることはあり得ない。なぜなら、それをしているなら接触通信によりアビスにも聞こえていたはずだから。
したがってこの場合注意すべき――そして先に排除すべきなのは、そんな驚きをするはずもないインパルス!

「吹っ飛びなっ!」

 アビスが肩のバインダーを展開し、内部の砲を向ける。狙っている相手は言うまでもない。
ここに来て、ギリギリで作戦が失敗したのをルナマリアは悟った。
いきなりの状況の変化で相手の驚きを誘い、その隙にこちらが先に撃つ。しかし、相手の反応が予想以上に――!
歯を噛みしめながら防御姿勢に入る。ここまでやっても倒せないなんて――

その瞬間……赤いツインアイの機体――セイバーのアムフォルタス・プラズマ収束ビーム砲が、アビスのバインダーを綺麗に吹き飛ばした。

「なっ……!?」
「は、早い!?」

 驚きの声はアウルとルナマリアから。当然だ。
姿勢制御によるタイムラグがあったとはいえ、アビスよりも早くセイバーは射撃した。
それはつまり、いきなり現れた相手に驚きも見せず一瞬で狙いを――それも正確な狙いを付けて撃ったということだ。普通ではあり得ない反応速度。
そんな驚きも、セイバーのパイロット――アスラン・ザラには関係ない。今度はビームライフルを向ける。
なんとか立ち直ったアウルは回避運動を取らせた。それでも、左腰を光が掠める。あと数秒遅ければ、コックピットが綺麗に撃ち抜かれていた。

「ぐっ……、ち、ちくしょう!」

 アウルは呻きながらも撤退に入る。だが、同様に立ち直ったルナマリアがアビスインパルスのカリドゥスを発射していた。
アビスのカリドゥスよりほんの少しだけ劣る火力。そして、急いで撃ったことで外れた狙い。
それでも、アビスの左腕を吹き飛ばすには十分すぎた。機体のバランスが崩れ、その瞬間にアスランはスーパーフォルティス・ビーム砲の照準を付けていた。
しかしそれはネオのウィンダムによる射撃に阻まれ、アビスは海中への逃走を完了した。
もっとも、ネオの行動は自身の撤退のついでに行った行動に過ぎない。事実、紫色のウィンダムの背後ではグフと黒いザクが周囲のダガーLを一掃している。

「ったく、ここまでとんでもない量と質の増援をよこしてくるか……ま、いいさ。
 死んだのは俺に関係ない連中だからな」

 不敵な笑みを浮かべつつ、ネオはウィンダムをザフト軍の間を縫って飛ばせていった。

 戦闘は終わった。カーペンタリアを包囲していた連合軍は撤退を強いられ、そしてミネルバはこれ以上ない仲間を手に入れた。

「すっげぇな、おい! 見たかよヴィーノ!」
「ああ、セイバーのパイロットがあのアスランで、しかもこの艦に来るって、信じられないよなー!」

 ミネルバクルーはその話で持ちきりだ。
増援部隊を率い、連合の空戦部隊を一瞬で壊滅させ、アビスさえ軽く撃退した前大戦の英雄アスラン。
それが自分たちと一緒に戦ってくれると言うのだから、それが話題になるのは当然だ。
格納庫でミネルバクルーに囲われて苦労しつつ逃げ出した彼は、今はアスランは廊下でミネルバクルーに囲まれている。その輪の外で、メイリンは周りを見渡していた。

「よ、どうした通信士の可愛い子ちゃん?」
「でぃ、ディアッカさん、その呼び方は止めて下さい!」

 彼女にふざけた声を掛けたのはディアッカ。慌てて首を振りながらも彼女は聞いた。

「えっと、格納庫からずっとアスランさんと一緒にいました?」
「まあね。一応同期生だからいろいろ話したいこともあるし、宇宙に残ったイザークの様子も聞きたかったが……あれじゃあねぇ」

 ディアッカはやれやれと言わんばかりにアスランの取り巻きに指を差した。
しかし、メイリンがそれを気にする様子はない。彼女の目的は別にある。

「お姉ちゃん見ませんでした?」
「インパルスから降りてしばらくアスランの方見た後、格納庫から歩いてったな。なんでだ?」
「いえ、伝えておきたいことがあるんです。お姉ちゃんはアスランさんと面識あるんで、会いに行ってるかなと……」
「面識がある、ねぇ。……複雑な感じなのか?」
「はい?」

 突如ディアッカが言った言葉に、メイリンは戸惑いを隠せなかった。

「いや、どうも表情が複雑だったからさ」
「別にそんなわけはないと思いますけど……」

 少なくとも、彼女の知る限りではオーブにいたとき話し相手になった、それだけ。
それを言うときのルナマリアに、複雑なものは無かった、はず。

(アスランさんがここに来て、何かあったのかな……?)

 メイリンには、それくらいしか思い浮かばなかった。

 そして、当の本人は展望ブリッジにいた。綺麗な夕日の中、一人所在なさげに立っている。

「いちおう、上手くなったつもり……だったんだけどな」

 風が吹く。前髪を吹き上げて、寂しげな表情が露わになった。
レイはカオスを撃退したのに、自分の戦術はことごとくアビスに破られた。
もちろん結果的にアビスは後退したけど、それはアスランのおかげ。みんなそう評価しているし、実際そうだ。

――私が頑張れたのはやっぱり……インパルスの力、なのかな……?

 そんな考えがよぎる。
自分を圧倒したアビス。それさえ上回る見事なまでのセイバーの動き。
彼女には、それが羨ましかった。

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