Lnamaria-IF_赤髪のディアナ_第09話

Last-modified: 2013-10-28 (月) 01:56:08

人質交換

あたしたちが戦場に出ると、すでに先遣隊の一艦――バーナードが撃破されていたようだった。
あたしは心の中で手を合わせた。

「さあ、行くわよ!」

手近な敵目掛けて、ジンの突撃機銃をばらまく。どうせ敵はジンだし、引き付ければいいだけだという事で、ヘリオポリスやデブリ帯で確保したものが渡されている。アストレイのビームライフルだと威力は高いけど、エネルギーが切れると本体も動けなくなるのが難点だ。奪われた機体――Xナンバーが出て来るまであまり使わない方が良いだろう。

……?あれはオレンジに塗られたジン?あいつが指揮官!?こっちに来る!

『お前はキラ、キラ・ヤマトか!?』

え?いきなり呼びかけられた。

「違うわよ!でもキラは友達よ!あなたひょっとしてキラの知り合いなの?キラは別のに乗っているわ」
『……そうか、お前たちナチュラルがキラを誑かしているんだな!』

ひーん!敵を引き付けるなんてもんじゃない。あたしには2機ものジンが攻撃してきた。
この野郎!こんな事なら『キラか』と聞いてきたときにビームライフルでもぶち込んでやればよかった!
もう攻撃してるひまなんてない!
適当に敵の邪魔をするように弾をばら撒き、攻撃をかわす。その繰り返しがどれくらい続いたんだろう。
もう一時間も経っているような。まさか。ほかの人たちは無事なんだろうか?そんな事を考える暇すら相手は与えてくれない。さすがに焦れて攻撃もしたくなるけど、ここが我慢のしどころだ。あたしは、目的通り、敵の攻撃を避けることに成功し続けている。へたに動きを変える方が、あぶない。

……でも、とうとうジンの突撃機銃の弾が尽きた。とっさに相手に投げつけるとビームライフルに切り替えた。
もうあといつまで持つだろう。
死も覚悟したそんな混戦状態の中、いきなり全周波帯でメイリンの声が響き渡った!

『これを見なさい!こっちはプラント最高評議会議長、シーゲル・クラインの娘のラクス・クラインを保護しているわ!この艦を落とせば、この子も一緒に死ぬわよ!ザフトは戦闘をやめなさい!』

一瞬の後、戦闘が止まった。
だが、すぐさまザフトからの皮肉めいた口調の通信が入ったのだ。

『人質を取るとは恐れ入ったものだ!ならこちらも言わせてもらおう!こちらは大西洋連邦外務次官、ジョージ・アルスターの令嬢フレイ・アルスターを保護している!地球連合軍は戦闘を止めよ!』

「救助した民間人を人質に取るのかお前たちは!この卑怯者め!」

オレンジのジンから罵声が浴びせられた。

「ふざけないでよ!ヘリオポリスの避難民がいっぱい乗ってるアークエンジェルしつこく攻撃してるくせに!この人でなし!」

お互いに怒鳴りあいながら距離を取った。

結局、この場での戦闘はこれで終わった。アスカさん、フラガさんもキラも無事だった。よかった。
今回は先遣隊の皆さんがジン一機、フラガさんが一機落としただけであとはお互い自分の事に手一杯で敵機の撃墜はなかった。

「お嬢ちゃんが敵を引き付けてくれてたおかげで助かったぜ!ありがとよ」

嬉しい。2機もの敵から逃げ続けた苦労が報われた気がする。
そしてなにより先遣隊にもあれ以上の損害は無かった!モントゴメリ、ローは無事だった。
あたしたちはなんとか役目をやり遂げた。

戦闘の方は、マリューさんたちと敵のお偉いさんが交渉して、ひとまず停戦、人質交換と言うことになったらしい。

汗だくになった髪を拭きながら、廊下を歩いてると、あの捕虜――ミゲル・アイマンに出会った。
そっか。あなたも釈放されるんだ。よかったね。
今のあたしは妙に何もかも祝福したい気持ちになっていた。

「あのさあ。あんた、ルナマリア・ホークってんだってな」

いきなり、ミゲル・アイマンが立ち止まり、声を掛けてきた。

「……俺の家は貧乏でさ、弟が病気で、俺は治療費稼ぐためにザフトに入ったんだ。海鮮鍋みたいなご馳走食べたことなんて、入隊祝いの時が初めてさ。俺の家の周りはそんな家ばかりだったぜ。プラントが、贅沢三昧してるなんて思ってくれるなよな。頼む」
「……そう。……元気で。あの時はごめん」

あたしがそう言うと、彼は連れられていった。

でも、彼が生きて捕まってたことなんてよくわかったなぁ。
あとでアスカさんに聞いたら、ヘリオポリスを崩壊させた攻撃の生き証人として宣伝に使われることを防ぐため、ザフトも念のため言ってみただけと言う感じらしかった。

捕虜交換も終わり、アークエンジェルに若干の補充要員が送られてきた。個艦防御力が高いということでジョージさんとフレイさんも乗り込んできた。

アスカさんの情報だと、ジョージさんは反コーディネイター運動を行うブルーコスモスだという事だけど、ジョージさんもフレイさんも特にあたしやキラやアスカさんがコーディネイターだと知っても特に反応しなかった。
ブルーコスモスにも穏健派から、過激派まで色々あるということだけど穏健派、と言うことだろうか。

メイリンは勝手な事をして、マリューさんたちにだいぶ怒られたみたいだ。

「でも、でも、お姉ちゃんがやられそうだったから見てられなくて……」
「うん、ありがとう。メイリンのおかげで無事だったよ」

あたしはメイリンをぎゅっと抱きしめた。

「フレイ、大丈夫だったか?ザフトの奴らにひどいことされなかったか」
「うん、ありがとう、サイ」

フレイの言う事では、フレイと一緒の救命ポッドにいたヘリオポリスの人たちは別のところへ送られ、フレイだけクルーゼ隊長――アークエンジェルを追っている敵の親玉らしい――の独断で残されていたそうだ。
心細かったろうな、と思う。

「別に、ひどいこともされなかったわよ。結構お客様扱いだったわ。あたしに付けられた護衛の男の子――ニコルって子なんて、よくピアノを弾いてくれたりして、気晴らしになるように気を使ってくれたし……」

よかった。本当によかった。ザフトも結構紳士なとこあるんだ。それともフレイがお嬢様だったからかな?
それよりもびっくりしたのは、なんとサイとフレイが婚約者だという事だった。
まぁプラントじゃ13で成人だそうだけど……いくらなんでも早くない?それに、あたしは聞いてしまったのだ。
フレイが窓からザフト艦の方を見て

「無事でいて……ニコル……」

と辛そうな顔でつぶやくのを。

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