Lnamaria-IF_523第13話

Last-modified: 2007-11-17 (土) 07:50:38

そろそろ頃合だろう。マリューは思った。ザフトの戦力も、ここ何回かの戦闘で目減りしている。今仕掛けなければ、ジブラルタルからの補給で砂漠の虎の戦力は元に戻ってしまうだろう。
「この辺りは、廃坑の空洞だらけだ。こっちには俺達が仕掛けた地雷原がある。戦場にしようってんならこの辺だろう。向こうもそう考えてくるだろうし。せっかく仕掛けた地雷を使わねぇって手はねぇ」
サイーブが広げた地図を指し示す。
「本当にそれでいいのか?俺達はともかく、あんたらの装備じゃぁ被害はかなり出るぞ」
「虎に従い、奴の下で、奴等のために働けば、確かに俺達にも平穏な暮らしは約束されるんだろうよ。バナディーヤのようにな」
サイーブは思う。だが、と。家畜のような暮らしになんの価値があるものか! 明日の保証があるものか!
「女達からはそうしようって声も聞こえる。だが、支配者の手はきまぐれだ。何百年、俺達の一族がそれに泣いてきたと思う?」
「ぅ……」
「支配はされない、そしてしない。俺達が望むのはそれだけだ。虎に押さえられた東の鉱区を取り戻せば、それも叶うだろう。へぇ……。こっちはあんたらの力を借りようってんだ。それでいいだろう、変な気遣いは無用だ」
「おーけー、分かった。艦長?」
「ぁ……分かりました。では、レセップス突破作戦へのご協力、喜んでお請け致します」
「ああ」




「なんでザウートなんて寄こすかねぇ、ジブラルタルの連中は。バクゥは品切れか?」
バルトフェルドはぼやいた。
バクゥの代わりがザウートなんて屁の突っ張りにもなりゃしない。だいたいスエズ攻略戦で地球軍のリニアガンダンク部隊に散々にやられた機体じゃないか。
「はぁ……これ以上は回せないと言うことで……。その埋め合わせのつもりですかねぇ。あの二人は」
「かえって邪魔なだけのような気がするけどなぁ、宇宙戦の経験しかないんじゃぁ」
「エリート部隊ですからねぇ」
「大体クルーゼ隊ってのが気に入らん。僕はあいつが嫌いでね」
ザラにアマルフィか。とんだお坊ちゃんのお守りを押し付けられたな。
まぁ、会って見るとしようか。
バルトフェルドは踵を返した。


「うわっ!」
突然吹いてきた砂の混じった風にアスランとニコルは声を上げてしまった。
「なんですかこれは……酷い所ですね」
「砂漠はその身で知ってこそってねぇ。ようこそレセップスへ。指揮官のアンドリュー・バルトフェルドだ」
やはり、あまり使い物になりそうにないなぁと、心の中で思いながら、バルトフェルドは二人に歓迎の言葉を述べた。
なんたって、評議会議員の息子だものな。
「クルーゼ隊、アスラン・ザラです」
「同じく、ニコル・アマルフィです」
「宇宙から大変だったなぁ。歓迎するよ」
「ありがとうございます。足付きの動きは?」
「あの船なら、ここから南東へ180kmの地点、レジスタンスの基地にいるよ。無人偵察機を飛ばしてある。映像を見るかね?」
「……」
バルトフェルドは二人の機体を見る。なるほど。
「なるほど、同系統の機体だな。あいつとよく似ている」
だが、こいつらに、あのストライク程の活躍が出来るかな? 皮肉めいた気持ちで心の中でつぶやいた。
「バルトフェルド隊長は、既に連合のモビルスーツと交戦されたと聞きましたが」
「ああそうだな。僕もクルーゼ隊を笑えんよ」
バルトフェルドは自嘲気味に言うと口を歪めた。




「これをアフメドが?」
「ああ、あんたにもらって欲しいんだよ。ほんとは加工してから渡すつもりだったらしいけどねぇ」
「……」
「ほんとに男達は戦争、戦争って、自分からどんどん死にたがる。あんたは、死んじゃいけないよ」
「……おばさん……」
カガリは思った。少し前の自分なら、今も、自分でバギーに乗って戦いに行ったろう。
でも今は……死ねないな。私は国に帰ってやる事があるから。
カガリは祈った。戦に出かける男達ができるだけ多く戻ってくるように……
そして、ルナマリアが無事で戻ってくるようにと。


とうとう、アークエンジェルはレセップスを突破するために動き出した。
「はぁ……」
もうすぐ戦いか。砂漠の虎はきっと来る。
「なんだ遅いなぁ。早く食えよ。ほら、これも」
「え! あ、あの……」
「ん~。やっぱ、現地調達のもんは旨いねぇ」
「フラガさん……まだ食べるんですか?」
「俺達はこれから戦いに行くんだぜ?食っとかなきゃ、力でないでしょ。ほら、ソースはヨーグルトのが旨いぞぉ」
「ぁぁ!」
「ん?」
「いえ……虎もそう言ってたから。ヨーグルトのが旨いって」
「ぁ……んー!味の分かる男だな。ハグゥ。けど、敵の事なんか知らない方がいいんだ。早く忘れちまえ」
「え?」
「これから、命のやり取りをしようって相手の事なんか、知ってたってやりにくいだけだろ」
「そうですね。知らなきゃ良かった」
でも……プラントの……ザフトの人の考え方もわかった。穏健だと言う砂漠の虎でさえ、ナチュラルへの蔑視が、コーディネイター、ううん。プラントのコーディネイター中心的な考えが滲み出ている。そんな相手に負ける訳にはいかない!
――! 爆音と衝撃が響く!
「あぁ!」
「なんだ!? 爆発か!?」
「始まったの!?」
フラガさんが艦内通話機に走る。
「ブリッジ! どうした!?」
『レジスタンスの地雷原がやられました!』
『総員、第一戦闘配備! 繰り返す! 総員、第一戦闘配備!』
私とフラガさんは顔を見合すと、格納庫へ向かった。
「連中には悪いが、レジスタンスの戦力なんぞはっきり言って当てにならん。お嬢ちゃんも踏ん張れよ。まぁ、最近のお前さんなら、心配ないとは思うけどな」
「ええ。頑張るわ」


「あ! レ、レーダーに…!」
「え!?」
「レーダーに敵機とおぼしき影。撹乱酷く数、補足不能。1時半の方向です!」
「その後方に、大型の熱量2。敵空母、及び駆逐艦と思われます!」
とうとう本腰入れて来たわね。マリューは眦を決した。
「対空、対艦、対モビルスーツ戦闘、迎撃開始!」
「ストライク、スカイグラスパー、発進!」


「スカイグラスパー1号、フラガ機、発進位置へ。進路クリアー、フラガ機、どうぞ! スカイグラスパー2号、ジョン機、発進位置へ。進路クリアー、ジョン機、どうぞ!」
次々にスカイグラスパーは飛び立っていく。次は、私!
「APU起動。カタパルト、接続。ストライカーパックはエールを装備します。エールストライカー、スタンバイ。システム、オールグリーン。続いてストライク、どうぞ!」
「ルナマリア・ホーク、行きます!」


ストライクがカタパルトから飛び立つと、いきなり戦闘ヘリがストライクの進路を塞いだ! ストライクはシールドで防ぎ、イーゲルシュテルンで反撃、撃墜する。
それを見てマリューは決断する。数多く居る戦闘ヘリにスカイグラスパーとストライクが拘束されれば、負ける。
「スカイグラスパー及びストライクは敵艦及び敵モビルスーツの撃破に専念せよ!」
「よろしいのですか!?」
ナタルが声を上げる。マリューは毅然と答える。
「戦闘ヘリの攻撃ぐらい、防いで見せなさい! そのくらいの攻撃で、この艦は沈みはしないわ!」


『ひょー。言うねぇ。じゃ、ちょっくら敵艦に行って来るわ。お嬢ちゃんとジョン少尉は対モビルスーツと艦の護衛に当たれ!』
「「はい!」」


「……バクゥは何機居るの? 3、4……5機ね!」
『突出している奴を叩くぞ! 上は押さえる!』
「はい!」
……! バクゥの口のあたり……あれはビームサーベルだわ! 新型ね! 気をつけないと……
バクゥはこの前のように私を遠巻きにせず、積極的に進んでぶつかって来ようと言う感じが見て取れる。やはりビームサーベルが装備されたせいね。でもそんな付け焼刃の攻撃!
ジョン少尉がキャノン砲と機関砲で地上を牽制する。
私はそのすぐ後を飛び、横合いからレールガン装備のバクゥの背中にビームサーベルを突き立てる!
レジスタンスのバギーがバクゥに蹴飛ばされる! あんたの相手は私よ!
ビームライフルを装備し撃つ――! ミサイルポッドに命中!
――! 横合いからバクゥが飛び掛ってきた!
「そんな、付け焼刃の、接近戦なんかでぇ! やられるもんですか!」
ビームライフルを手放し、背中を地面に付けて、両手を振りかぶりビームサーベルでバクゥの正中心線を斬る!
「次! 敵は、敵はどこ!?」


「ECM、及びECCM強度、17%上がります!
「バリアント砲身温度、危険域に近づきつつあります」
「艦長! ローエングリンの使用許可を!」
「駄目よ!あれは地表への汚染被害が大きすぎるわ! バリアントの出力と、チャージサイクルで対応して!」
「しかし……」
「命令です!」
「……了解しました」


フラガは隙を狙っていた。アークエンジェルは戦闘ヘリに敵空母、駆逐艦。ルナマリアとジョンはバクゥと共に、多数の相手を相手にしている。早く自分が楽にしてやらねば……
だが、敵はザウートを艦上に上げて砲台代わりにしてやがる。火力は侮れない。着実に少しずつ火力を奪っていくしかない状況に焦れていた。
「ちまちまと! ザウートを片付けていくのは面倒だねぇ!」
……!一瞬、偶然ながらぽっかり開いた空間が出来た。
「くぉぉぉぉ!」
フラガはすかさずそこにアグニをぶち込んだ!


「機関区に被弾!速力50%にダウン!」
「消火急げ! 転進して残骸の影に入るんだ!」
駆逐艦が速力を急速に落とすのを確認すると、フラガはレセップスへと向かった。


「なんて強力な砲だ!」
レセップスでは、ダコスタがアグニの威力に驚いていた。だが、彼らも何の用意もなくこの戦いに臨んだ訳ではなかった。
「間もなく、ヘンリーカーターが配置に付く! 持ち堪えろ!」


「うわぁ!」
突然襲った衝撃にアークエンジェルの乗員は悲鳴を上げる。
「6時の方向に艦影! 敵艦です!」
「なんですって!?」
「もう一隻? 伏せていたのか!」


「アークエンジェルが! あ!」
バクゥを片付け、アークエンジェルの救援に向かおうとする私を一機の黄色のカラーリングをされたモビルスーツが遮った!
『君の相手は私だよ、奇妙なパイロット君』
「……! 虎か!」
まるで虎のようなモビルスーツだ。
いよいよ出て来た。私の胸に緊張が走る。
『アークエンジェルの救援には僕が行く! 君はこのモビルスーツを!』
「はい!」
ジョン少尉のスカイグラスパーはアークエンジェルの方へと去って行く。


私はビームライフルで牽制する。虎は易々と避ける。
「やっぱりだめね」
私はビームサーベルを抜き放つと向かって来る虎に突進! 虎は……跳んだ!?
しまった! ジョン少尉はいないんだ!
「くっ」
辛うじて左側のウイングを切り裂いた!
よろめいた私に素早く虎が襲い掛かる。
今度は!? 下!
虎の高速で回転するクローラーがシールドを弾き飛ばす! ストライクの本体にまでクローラーが迫りガリガリと音を立てる! バクゥ5機と戦った後のこれで、このままじゃパワーが……!


「ヘルダート、コリントス、てぇ!」
「フラガ少佐から入電! レセップス艦上にイージスとブリッツ!」
「なんだと? こ、これは……レセップスの甲板上にイージスとブリッツを確認!」
「なに?」
「スラスター全開! 上昇! ゴットフリートの射線が取れない!」
「やってます! しかし、船体が何かに引っかかってて……」
衝撃が襲う!
「うわぁ!」
『アークエンジェル! 高度を上げろ!』
「ジョン少尉!? 船体が何かに引っかかってて上昇出来ないの!」
『……荒っぽいですけど、我慢してくださいよ!」
再び衝撃が襲う。
「きゃぁ!」
「うわ……外れた?」
「面舵60度! ナタル!」
「ゴットフリート、照準!」


「第4、第9区画消失!第3区画大破!」
「火災発生! 機関、及び振動モーター停止!」
「くっそー!」
レセップスに再び衝撃が走る。
「今度はなんだ!?」
「敵の支援機、ビートリーをやった奴です!」
「このままでは……隊長ーーー!」


ダコスタからの悲鳴のような報告を、バルトフェルド穏やかな心持で聞いた。
自分はやるべき事はやったのだ……
死力を尽くして戦いあった。もはや結果などどうでもいい。
「ダコスタ君」
『は、はい!』
「退艦命令を出せ!」
『隊長……』
「勝敗は決した。残存兵をまとめてバナディーヤに引き揚げ、ジブラルタルと連絡を取れ!」
『隊長……!』
「君も脱出しろ。アイシャ」
「そんなことするくらいなら、死んだ方がマシね」
「君もバカだな」
「なんとでも」
「では、付き合ってくれ!」
後は、自分が戦士として戦い抜くだけ……バルトフェルドは高揚していた。


「バルトフェルドさん!」
まだ、向かって来るの? 残った敵艦は後退し始めたと言うのに。
『まだだぞ! お嬢ちゃん!』
「もう止めて下さい! 勝負は付きました! 降伏を!」
『言ったはずだぞ! 戦争には明確な終わりのルールなどないと! 片方が戦いを止めなかったらどうするのかと!』
「くっ、バルトフェルドさん! ああ!」


残った虎のウイングを切り裂き、そしてストライクのビームサーベルの光が消えた。
フェイズシフトダウン――!
『戦うしかなかろう。互いに敵である限り! どちらかが滅びるまでな!』
「そんな考えしかできないから、あなたは――!」
頭がクリアになる――
頭の中が高速で計算し始める。
逃げる? 無駄無駄無駄! 戦うしかない!
残った武器は……初めてこのストライクに乗った時の事を思い出す。
エールストライカーをパージ! 身軽になる!
そしてアーマーシュナイダー!
私は虎に駆けて行く! ジャンプ! こちらを切り裂こうとする虎の頭を踏みつけ! 虎の背中にアーマーシュナイダーを、ストライクの体重をかけて突き立てる!
ストライクはジャンプした勢いのまま後方に肩から転がり……
虎は……止まった? 虎モビルスーツのビームサーベルの光が消え、ぴくりともしない。
あ! 虎モビルスーツが、アーマーシュナイダーを突き刺した背中が大きく爆発した。
「はぁはぁはぁ……」
勝った、のね。
後味は、苦かった。
やっぱり、命のやり取りをする相手の事なんか、知ったってやりにくいだけ……
ふと、戦闘中に飛び込んできた通信がふいに蘇る。
(レセップス艦上にイージスとブリッツ!)
アスラン……やっぱり私、あなたとやりあいたくなんてないよ。
私はデパスを口にほおりこんだ。







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