Lnamaria-IF_523第24話

Last-modified: 2008-02-22 (金) 23:51:51

アークエンジェルはカリフォルニアのポイント・ロマ海軍基地に寄航した。
そこで中尉に昇進したキャリーさんも加えて、アークエンジェル隊が再結成された。
「じゃあ、エイムズさん達も、元気で」
「ああ、お嬢ちゃんもな」
第一モビルスーツ隊の生き残り――エイムズさん、ジョンさん達はこちらへ向かっていると言うアークエンジェルの姉妹艦、ドミニオンのモビルスーツ隊に異動するそうだ。
「聞いた!? ドミニオンの艦長はナタルさんだって!」
「ほんと!?」
ミリィが教えてくれた。
「そうかぁ、ナタル中尉がねぇ」
「なんか、心強いね」
「うん!」
「アークエンジェル級が揃い踏みか」
そして……アークエンジェル隊に下された命令は――ビクトリア奪回!
それから忘れちゃいけない。アークエンジェル隊にまわされてきた新装備が一つ。ジェットストライカー――! 空飛ぶ翼!




「何たる様だこれは! アラスカが防衛に成功しても、パナマを落とされてはなんの意味もないはないか!」
「パナマポートの補給路が断たれれば、月基地は早々に干上がる! それでは反攻作戦どころではないぞ!」
「ビクトリア奪還作戦の立案を急がせてはおるが……無傷でマスドライバーを取り戻すとなると、やはり容易にはいかぬ」
大西洋連邦の要職者による会議は、パナマのマスドライバー崩壊の報を受けて怒号が支配した。
「オーブは……オーブはどうなっておる!」
「再三徴用要請はしておるが、頑固者のウズミ・ナラ・アスハめ! どうあっても首を縦に振らん」
「おや? 中立だから、ですか?いけませんねぇそれは。皆命を懸けて戦っているというのに。人類の敵と」
アズラエルが口を出した。ここにアズラエルが居ると言う事そのものが、ブルーコスモスの影響力を示している。
「アズラエル、そういう言い方はやめてもらえんかね。我々はブルーコスモスではない」
「これは失礼致しました。しかしまた、何だって皆様この期におよんでそんな理屈を振り回しているような国を、優しく認めてやっているんです? もう中立だのなんだのと、言ってる場合じゃないでしょう」
「オーブとて、歴とした主権国家の一つなんだ。仕方あるまい」
「地球の一国家であるのなら、オーブだって連合に協力すべきですよ。違いますか?」
「ぅぅ……」
「なんでしたら僕の方で、オーブとの交渉、お引き受けしましょうか?」
「なんだと?」
「今はともかくマスドライバーが必要なんでしょ? 早急に。どちらかが、或いは両方か」
「それはそうだが……」
「皆様にはビクトリアの作戦があるんだし、分担した方が効率いいでしょう」
「ぁぁ……」
「もしかしたら、あれのテストも出来るかもしれませんしね」
「あの機体を使うつもりかね君は……」
「それは向こうの出方次第ですけど。そのアスハさんとやらが噂通りの頑固者なら、ちょっと、凄いことになるかもしれませんねぇ」




「でもさぁ、ワン・アースアピール出されたろ? オーブ、どうすんだろ」
みんなでしゃべっていると、トールが言う。
そう、6月に入ってから地球連合から中立各国に連合への加入要求が行われたと言う話だ。そして、オーブはそれを拒否している。
私は最近また声を聞いた。そして夢を見た。
どう考えればいいのだろう。声は地球軍によるオーブ侵攻を告げていた。
……でも夢では。私はザフトとしてオーブを攻めていた。
どう考えればいいの!?
「このままだと、オーブは地球軍に攻められちゃうかも知れない」
「サイ、そんな無茶な!?」
「だって、地球軍はパナマを失って、マスドライバー一つもないんだぜ? 地球に残ってるマスドライバーは三つ。ビクトリアとオーブとカオシュンだ。カオシュンはカーペンタリアに近い」
「オーブの方が、近いわよ」
「オーブはまだザフトの占領下にないからね。余計に魅力的だろう。オーブが手に入ればカーペンタリアへの牽制にもなる」
「オーブも、なんだよ。モビルスーツとか戦艦とか作らせて置いてさぁ、今更だよ」
「カガリがいるわ。あの子、ザフト嫌いだから、もしかしたらウズミ様を説得してくれるかもしれない」
「……でも、そうなると、今度はザフトが攻めるかもな。せっかく地球軍のマスドライバーをゼロにしたんだからな」
「カーペンタリアのすぐそばだしね」
私達は無言になってしまった。


「なるようになるわよ」
翌日の外出日、サンディエゴの町へ繰り出す私達。
いつまでも暗いヘリオポリス組を見てミューディーが軽く言う。
「でも、志願した時はこんな事になるなんて思わなかった……」
「そうよね、だってモビルスーツや戦艦をこっそり作らせるくらい仲が良かったって事でしょ?」
「そうだよなー。作戦行動中で辞める訳にも行かない」
ミリィとトールがぼやく。
「国際情勢は複雑怪奇ってね。さあ、今日は楽しもうよ」
ミューディーなりに気を使ってくれてるのだろう。
「そうよね。なるようにしかならないんだ。楽しめる時は、楽しもう?」
「ん、そうね」
私達はまずシーワールドへ行った。
シャチのショーShamu Rocks。
シャムー(シャチ)は結構リズム感がいい。トレーナーのお兄さん,お姉さんも踊りまくり。ギターのお兄さんもノリノリ!
大音量のロックのなかでのシャムーの演技が冴えている。観客の子供も踊りながら観てたりして、可愛いい。
「こんなに復興できてるなんてね」
「あたし、こんなの見るの初めて!」
ミューディーとシャムスははしゃいでいる。スウェンさんも静かに楽しんでいるようだ。身体がリズムを取っている。
それからアシカとカワウソのショーを見た。シャムーのショーをパロディしてるみたいで笑える~! それからペンギンと直に触れ合えるスペースに行った! かわい~!
……気が付いたら、日が落ち始めていた。
「Seaport Village通って行こうぜ」
シャムスが言った。なんでも、夕暮れ時はデートスポットになるそうだ。
小物を売る店やレストランが並ぶ。店には大した物は置いてないけど、散策するにはいい雰囲気だ。トールとミリィは二人の世界に入っちゃってる。
私達は、湾岸に突き出た景色のいいシーフードレストランで夕食を取った。
うーん、今日はいい気分転換になったな。
「おい、あれ……」
ん? なんか、周りから見られてる?
「けっ。コーディーの糞女が一丁前にお楽しみかい」
隣の恰幅のいい男が言う。
なに!? なに!? 私は頭が真っ白になった。
「おいおい。止めとけよ」
連れらしい髭の男性が太った男をたしなめる。そしてこちらに謝って来た。
「軍人さん達ご苦労さん。どうもすまんね。すっかりあいつ酔っちまってて。ほら、あんたらの事、新聞に出てるぜ」
髭の男性が新聞を放り投げてきた。
そこには、いったいどうやって撮られたのか、フラガ教導隊のメンバーが写真入りで紹介されていた。
そして――私の写真は特別大きく『地球軍で活躍するコーディネイター!』と、でかでかとキャプションが付いていた。
「おい、大丈夫か?」
シャムスが声をかけて来た。
「う、うん」
「思い切りショックを受けている顔だぞ」
「だいじょぶ。……いったい誰がこんな事……」
震える手で記事を読み進む。
「ジェス・リブルって奴か……」
顔をしかめながら記事の末尾を指差しシャムスが言う。
ジェス・リブル――それが記事を書いたジャーナリストの名前だった。
「悪気はないみたいだが、無神経だな」
私達は黙りがちに基地へ帰った。
基地に帰ると、私の気持ちを明るくする知らせが待っていた。




常夏の国オーブ――
政庁の会議室では熱戦が繰り広げられていた。
「お父様! この期に及んでは、もはや躊躇っている時ではありません!」
カガリは叫んだ。
会議は紛糾していた。なにしろ実質的代表首長の親子が論争しているのだ。
「お前には戦争の根を学べと言ったはずだ! アフリカまで言って、何を学んできた!」
ウズミはつい、公然の秘密、と言う物まで公式の場で言ってしまう。
「ザフトの非道をです!」
父の叱責に屈せず、カガリは言う。
「元々、今回の戦争はザフトに非があったのです! 旧来の植民地独立戦争ではありません! プラントは、元々理事国が建設した物です! そして一定の自治、武装さえも認められていた! 父上は、モルゲンレーテ社の社員が、自分達は独立国だと主張し始めたらどうするおつもりですか?」
「一定の自治とは、どうしてそう思うのだ! プラント側は弾圧されていたと主張しているぞ」
「有名な、婚姻統制がそうです! 更に彼らの我々には理解しがたいコンピューター任せの選挙制度。これらは皆戦争前から導入されています。自治権なくして、どうしてそのような制度が取れるのか!?」
「ザフトの建軍もそうじゃな。彼らが言うほど弾圧されていたならば、そもそもそのような事すら不可能なはず」
コトー・サハクはどうやらカガリを応援する事に決めたようだ。
「先月のプラントの情報誌の記事では、プラントでは牛鍋が流行りだそうですな」
ウナト・エマ・セイランもさりげなくカガリの主張に沿った発言をする。
息子の婚約者、と言う事だけではないだろう。
「大洋州は親プラントですからな」
「地球の人々は食べるのに事欠く人々も多いのに……」
それに賛同する声が上がる。
カガリはそれらの声をバックに言う。
「……お父様、今回の戦争は、戦争であって戦争ではありません。ザフトと言う犯罪者に如何に対するか、それが求められているのです。地球上の国々に! 犯罪者がいて、みんなで自警団を組んでいる時に、家訓だからと言って参加せずにいれば、どう思われるでしょうか?」
「うむ。ザフトの非道と言うが、血のバレンタインはどう考える」
「ザフトが強調する血のバレンタインは、地球連合の対プラント宣戦布告後です。それに、宇宙では、核はただ威力の大きな爆弾と言うに過ぎません。宇宙放射線が常に降り注いでいるのですから」
「続けよ」
ウズミは言った。最初は、娘がただ感情的に対ザフトに論陣を張っているのだと思っていた。だが、なかなか言うではないか。これなら。オーブの次代は安泰かもしれない。……確実に次の世代は育っている。それを頼もしく思うと同時に少し寂しさも感じた。
「更に。血のバレンタインからエイプリルフールクライシスまで二ヶ月も無いのです。そのため開戦前から地上侵攻のためにニュートロンジャマーを量産してた疑惑、BC兵器工場との嫌疑がかかっていたユニウス7を対連合世論喚起の生贄にした疑惑があります。ユニウス7攻撃は、正式な承認によるものではなく一部の者によって引き起こされている事はご存知でしょう。狙うなら中枢であるアプリリウスの筈なのに、何故か政治的には影響の少ない農業コロニーを狙っている。核を使うなら、圧倒的大火力で反撃の余地が無いほど徹底的に叩くのがセオリーなのに、 何故か半端な攻撃に留まり、反撃の機会を許している」
一気に言ったカガリはここで息を継いだ。
「それは、想像に過ぎんな」
「確かにそれは認めます。しかし例えそれがただの疑惑だったとしても、ニュートロンジャマーの地球への散布は非人道的な大量破壊兵器の無差別な使用であって、ユニウス7核攻撃への報復としては到底正当化できません。ザフトは他のコロニーに対して攻撃を行い、大量の一般人の居るコロニーを大量に破壊し多くの人々の命を奪ったくせに自分達は条約違反のコロニー一基の被害で地球人口の一割を死に至らしめた……」
ウズミは眼を閉じカガリの主張を聞いていた。その様子からは、何を考えているのかわからない。
……ユウナ・ロマ・セイラン――カガリの許婚は、呆然としていた。子供だ子供だと思っていたカガリが、理路整然とした説得力のある発言で会議を主導している。
カガリから目が、離せない。頬が紅潮しているのがわかる。やばい。やばいぞユウナ。本気で惹かれちまった。
くそうっ! ユウナは悔しさを感じた。さすが五大氏族って事か? いや、認めない。認めてなんぞやるものか! 家格による物だなどと。認めてしまったら、一生カガリに追いつけないじゃないか!
ユウナは決意した。セイラン家の力でなく。絶対に、実力で、カガリの夫には僕がふさわしいと言わせて見せる!
なってみせる! カガリにふさわしい男に!
――カガリの演説?は終盤に入っていた。
「それに! すでにオーブには、地球軍として戦争に参加している者もいるのです! それがオーブのためになると信じて!」
言うまでも無く、ルナマリア達ヘリオポリス組の事だった。
カガリは、極論すればルナマリアを祖国が裏切らないために今、父を相手に戦っているのだった。
「もうよい」
ウズミは手を上げカガリの発言を止めると、口を開いた――。




「そうですか。赤道連合も、スカンジナビア王国そしてオーブも地球連合に参加を表明して来ましたか」
アズラエルは面白そうに言った。
「せっかくこれから最後通牒を突きつけようと準備していたのに、無駄になりましたねぇ。まぁ手間が省けたから良しとしましょう」
アズラエルは数枚の書きかけた原稿をごみ箱に放り込んだ。
「それはよかったですが、あれのテストが、できなくなりましたねぇ」
「いえ、そうでもないようで」
「なんです?」
いぶかしげにアズラエルは秘書に問う。
「オーブが、予想されるザフトからの攻撃に対する防衛に対して協力を要請して来ました」
「早速ですねぇ。ま、いいでしょう。ザフトが攻撃して来るなら……いや、必ずして来ますか。あのパナマで見られたザフトの新型機相手にテストするとしましょう。そうそう。アルスター事務次官お気に入りのアークエンジェル。まだカリフォルニアですね? ドミニオンと一緒にオーブ防衛に参加させましょう。オーブ出身の者がいるようですし気合も入るでしょう」
「はっ」
秘書は、アズラエルの命令を形にすべく出て行った。
アズラエルは、オーブを攻めなくて済む事に内心ほっとしている自分を感じていた。アルスター事務次官が知らせてきたオーブ出身のストライクのパイロット。
「ルナマリアとか言ったか……」
似ている。彼女――マリアはアズラエルより年上で、名前に似合わずガキ大将だった。アズラエルも、彼女のせいで散々な目にあった。だが、それが嫌でなかったのは何故だろう。
その彼女もS2型インフルエンザであっけなく死んでしまった。
それ以降アズラエルは心の奥の宮殿に女性を住まわせた事はなかった。
「誕生日も7月26日……まるで生まれ変わりのような……ははは。馬鹿な」
アズラエルは自嘲した。
「まだまだ甘いな、僕も……」








(「人なんてあっけないよなぁ」)
(「ああ……」)
(「先日まで元気だったのにさ。お嬢……。S2インフルエンザって怖いよね」)
(「……そういえば、さ。なんでお嬢の事お嬢って呼ぶようになったんだっけ?」)
(「覚えてなかったのか? ムルタ? お嬢をお嬢って呼ぶようになったのは、お前が原因じゃないか」)
(「え……? 僕が原因?」)
(「お前、鈍かったからなぁ。お嬢がお前の事好きだったのも知らないだろ」)
(「嘘だろ!? お嬢が僕の事……」)
(「お嬢はムルタが関わるとコロっと態度が変わってたからね。ばればれだったよ」)








(「やったー! あたしの勝ちね! んー、じゃあ、今度は『お嬢様と下僕』ごっこ!)
(「なんだそりゃ。なぁ、アルベール、アンドレア?」)
(「きいぃー! なによ! ちゃんと言う事聞きなさいよ? ムルタ! なんか飲み物買ってきなさい!」)
(「嫌だね。めんどくさい。誰がお前の言う事なんか」)
(「じゃんけんに負けたんだから当然でしょ!? じゃないと背骨折る」)
(「そ、それは止めてくれ」)
(「じゃあ、まず呼び方からね。『お嬢様』。ほら呼んでみなさい」)
(「お嬢!」)
(「何よそれ! ちゃんとお嬢様って呼びなさいよ」)
(「お前なんかお嬢で充分だ!」)
……そうか、思い出した。


アズラエルは目を覚ました。
懐かしい、夢を見た。
「涙? はは」
知らずに泣いていたらしい。でも、不思議と心は満たされていた。
たとえ夢でも、S2インフルエンザで死んじまったお前らに会えるなんてな。


「お目覚めでございますか」
「……ああ、今起きた」
「ザフトによる近時日のオーブ侵攻はほぼ確定的です。それから、カリフォルニアのポイント・ロマ海軍基地に第4洋上艦隊が集結を完了いたしました。ドミニオンも到着いたしました。例のあれも一緒です。アークエンジェルの準備も整っております」
「そうか」
とだけ、アズラエルは言った。
お嬢……これから、君じゃないけど、君によく似た人の故郷を守ってあげるよ。
ブーステッドマンに戦闘用コーディネイター……僕今がしている事を君が知ったら、君は僕を嫌うだろうね。でも君が笑ってくれるなら僕は悪にでもなる。







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