Lnamaria-IF_523第25話

Last-modified: 2007-11-16 (金) 23:02:10

「おーい、ルナ! 暇なら模擬戦しないか?」
「いいわよ。シャムス! なんならサイとか誘って二対二にする?」
「いや、今回は接近戦の腕を磨きたいからな。一対一でいい」
「おーけー!」
シャムスは、私がパナマでギャバンを亡くしてから、私が一人で居ると気を使ってよく声をかけてくれる。
シャムス達ともすっかり仲が良くなったなぁ。最初に会った時には仏頂面だったのに、今はこうして笑顔を向けてくれる。嬉しい。
休憩室を出る時、スウェンが何かいじってるのが目に入った。
「なあに、それ?」
「……ああ、星座板だ。今夜の星座を調べてたんだ」
「スウェンは星が好きだものな」
そう、スウェンは星が好きだ。私物で望遠鏡も持ち込んでいる。
「今夜はどんな星座が見えるの?」
「……白鳥座とかヘルクレス座とかだな……星ならベガ、デネブ、アルタイルの夏の大三角形とか。よかったら、一緒に見るか?」
「うん、見たい!」


夜、デッキにスウェンの望遠鏡を持ち出して天文観測と洒落込んだ。
スウェンの望遠鏡は反射式の本格的なやつだ。
「今の時間なら……ほら」
スウェンが望遠鏡を南の方に向け角度とか調整してくれる。
「うわぁ……!」
覗き込んだ先には、天の川のいっぱいの星空を背景に、メノウの玉のような球体が浮かんでいた。
「木星だ」
「……ここに、ツィオルコフスキーが行ったのよね……」
「ああ」
「木星か……人間はもうそこまで行ったんだな」
シャムスが呟く。
「はい、シャムス」
シャムスに場所を譲る。
「おう……おー!」
シャムスも感嘆の声を上げる。その後ろでわくわくしながらトール達が順番を待っている。
満天の星空を振り仰ぐ。
「怖いくらいにきれいね」
そっとミューディーが寄り添ってくる。
「うん」
本当に、こんな夜空を見ていると人間同士で争っているのが馬鹿らしくなる。
戦争、早く終わればいいのに……


私達がオーブ防衛のために南下する前日、ナタルさん始めドミニオンの幹部、そして国防産業連合理事、ブルーコスモスの盟主ムルタ・アズラエルさんの訪問を受けた。
なんでも、アズラエルさんもアークエンジェルの姉妹艦、ドミニオンでオーブまで行くらしい。
なんでアズラエルさんのような立場の人が、そんな事をするのかわからない。
スウェンさん達とはすでに顔見知りみたいで、会話を交わしていた。
「君達の活躍は聞いています。僕も誇らしいですよ。頑張ってくださいよ」
「はっ」
「あなたが『エンデュミオンの鷹』ですか。お目にかかれて光栄ですよ」
「は。こちらこそ」
フラガさんの次にアズラエルさんは、私の前に来た。しばらく私を見つめている。妙な沈黙だった。
「ルナマリアさん、戦争が終わるまで死なないでくださいね。絶対に」
そう言うと、サイたちの方へ歩いていった。なんだったんだろう?


「おねえちゃーん、よろしくね~」
ん?
「俺? 俺はクロト・ブエル。地球軍の新型機、レイダーのパイロットさぁ」
「そう。よろしくね?」
「へへ。俺達が来たからにはおねえちゃんの出番は無いぜ!」
「ふふ」
「あー! 馬鹿にしてやがんの! 気にくわねぇ」
「あらら。頼もしいなって思っただけよ」
「ふ、ふーん。そう言う事にしといてやる」
「俺はオルガ・サブナックだ。行くぞお前ら」
「俺がまだだ」
「早くしろよ」
「シャニ・アンドラスだ。じゃあな」
最後に、イヤホンを首にかけた人が自己紹介して、ドミニオンのパイロットらしい3人は去って行った。
癖の強そうな人達だったなぁ。ナタルさんも苦労してそう。
「よぉ、姉ちゃん」
え?
「ドミニオンのモビルスーツ隊のパイロットのダナ・スニップだ。よろしくな!」
「あ、まだパイロットいたんだ。よろしくね?」
「あんなブーステッドマンと一緒にするなよ」
「ブーステッドマン?」
私が聞き返すと、
「ダナ」
スウェンさんが静かな口調で止めた。
「おおっといけねぇ。なぁ、姉ちゃん。姉ちゃんはヘリオポリスの避難民だったんだって? よく除隊せずにいるよな?」
「色々あってね」
「ふふふ。俺は、君と俺は同類なんじゃないかって思ってよぉ」
「同類?」
「そ。同類。戦闘に魅入られちまった同類。じゃなきゃ自由を愛する俺が軍隊なんて居てやるものかよ」
戦闘に魅入られた? 依存は、してるかもしれない。でも! いつか、ううん。この戦争が終わればそんな事終わる! 終わらせる!
「お、図星? 嬉しいねぇ」
黙ってる私を見て、肯定と受け取ったのかダナさんが口を綻ばせる。
「……私は戦闘になんか依存しません! しないようにしてます。勝てば確かにみんな誉めてくれるし嬉しいけど、だって、いつか戦争は終わるんですよ?」
私は、デンギル先生に言われた事をダナさんにぶつけてみた。
「俺だって依存なんかしてねえよ。戦争が終わる? 結構! そんときゃそん時。軍隊おん出て自由な暮らしってやつをするさぁ。それを思うと戦争が終わるのが楽しみだね。じゃ、おい。エミリオ、黙ってんなよ」
「エミリオ・ブロデリックだ」
ダナさんの後ろにいた神経質そうな顔の人は、それだけ言うとぷいと向こうへ行ってしまった。
「あ、おいエミリオ! しょうがねぇなぁ。じゃまたな! 姉ちゃん」
「エミリオ……俺はあいつが嫌いだ」
え? スウェンさんが珍しく感情のこもった声で呟く。
「上官の命令を無視して敵を虐殺した……俺はそんな奴は嫌いだ。俺はあんな風にはならない!」




「第一防衛線、突破されました」
「第6特化中隊、交信途絶!」


オーブが地球連合に組した事が発表された日から程なくして、オーブはザフトの攻撃を受けた。
カガリはじりじりしながら国防本部に座っていた。だんだんすり減らされていくオーブの戦力。
本当に良かったのか? 自分のせいでオーブは地球連合に組した。だが、他の道はなかったのか? いや、あくまで地球連合の要求を突っぱねても、地球連合と関係が悪くなっただけだ。それなら、今まで協力関係にあった地球連合と組んだ方がなんの関係も無いザフトと組むより100倍いい……カガリの思考は堂々巡りをしていた。
「カガリ、少し落ち着け」
「はい、父上!」
ふと、ユウナが目に留まった。青ざめた顔をしながら、それでも腕組みをしてしっかりと戦況図を睨んで、時々傍らの士官と真剣な顔をして会話を交わしている。
そうだ、弱虫のユウナでさえ気張っている。自分もしっかりしなければ。
「もはや、賽は投げられたのだ。防衛の命令を出した後は、もはや地球軍の援軍を待つしかない。彼らもまさかオーブを放っておかぬだろうしな」
「はい!」
「学べ! この場にいて、学べるほどよきことは無いぞ」
「はい!」


オーブをとうとう視界に捕らえた! 懐かしい故郷。でも、今そこは戦場で……
私とフラガさん、スウェンさんは一足先にジェットストライカーでアークエンジェルから飛び立つ。
サイ達は直接アークエンジェルでマスドライバーのあるカグヤ島に突入すると言う。
「じゃ、ちょっくら行って来るわ」
「後を頼むわね」
「おう、任せとけ!」
「じゃあ、ルナマリア・ホーク、行きます!」
今度は負けない! 地を這って逃げることしかできなかったパナマとは違う!


『おねえちゃーん!』
え?
レイダー……って事は、確かクロト・ブエル? 背中にカラミティを乗せてる。
『ははははは! 先行くねー!』
『馬鹿野郎! むやみにスピードあげんじゃねぇ! 落ちるだろうが!』
『うっせーよ!』
『……先行くぞ』
その後から、あれはフォビドゥンか。
『あー、シャニ! ずるいぞ!』
レイダーとフォビドゥンは追いつ追われつしながらカグヤ島目指して進む。
『俺達も負けられんな』
「ええ!」
私達もジェットストライカーを吹かした!


カグヤ島には、たくさんのザフト軍が取り付いていた。
『味方が上陸する隙間を作る! 海岸掃除だ!』
「「はい!」」
ミサイルポッドからミサイルを放ち、飛んでいるディンを、グゥルを撃墜!
続いて空対地ミサイルを投下!
ミサイルは見事に海岸に取り付いているザフトのモビルスーツの真ん中で炸裂した!
スピアヘッドとスカイグラスパーの編隊が空中で戦闘に入る。
『よーし! 相手が混乱している内に叩くぞ!』
「「はい!」」
海岸でのろのろ歩いてるザフトの水中モビルスーツに向かう。
片っ端からビームライフルで撃つ! 撃つ! 撃つ!
『君達は地球軍か!? 助かった!』
オーブ軍から通信だ。
「まーかせて!」
私はひとしきり海岸のザフト軍を駆逐すると、また空へ舞い戻る。
目に付く端から、ディンを、グゥルを墜とす!
そこへ待ちに待っていた援軍がやって来る!
次々にカグヤ島上空へとたどり着く大西洋連邦の軍用超大型長距離輸送機C-10ギャラクシーなどから、次々に地球軍のモビルスーツがパラシュート降下する!


とうとうアークエンジェルはカグヤ島の海岸に乗り上げた。
「行くぞ!」
「「はい!」」
フラガ中佐がいないので、アークエンジェル隊の指揮は先ごろ中尉に昇進したキャリー中尉が取る。
サイとトールは少し心細かった。フラガ中佐もルナもいないのだ。
「トール・ケーニヒ、デュエルダガー、行きます!」
「サイ・アーガイル、バスターダガー、行きます!」


「こんな形でオーブに帰って来るなんてなぁ」
「私語は慎め! ここは戦場だ!」
「は、はい!」
「ザフト軍モビルスーツ確認。相手の前衛は私とミューディー少尉で叩く。残りは任せる」
「「はい!」」
サイとトール、シャムスは後方のザフト軍モビルスーツに照準を合わせ、砲撃を開始する。
混乱した所にキャリーとミューディーが突っ込む。
「――す、すごい! ルナもすごいと思ってたけどこの人は別格だ!」
思わずサイが呟く。
「さすが異名持ちって事か……」
トールも呟く。
キャリーは、流れるような動きで一瞬も止まる事無く相手の攻撃を避け、攻撃ではほとんど一撃で相手のコクピットを潰し、鬼人のように暴れまわっていた。
「砲撃止め! みんな突っ込んで来い! 私がフォローしてやる! 実戦は最大の訓練だぞ!」
「うおぉー!」
そのキャリーの言葉に、まずシャムスがビームサーベルを取り出し真っ先に突っ込む。
「うひー」
サイとトールもそれに続く……
程なくして付近のザフト軍は駆逐された。
「ザフト軍はマスドライバーの破壊が目的のはずだ! 防衛する。行くぞ!」
「「はい!」」
サイとトールのキャリーへの感情は強い信頼へと変わっていた。
彼らの戦いは続く。



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