「よろしく、シン!」
ハスキーボイスを装って差し出した右手は、奇妙な顔で迎えられた。
「……何? ン――何だよ?」
「いや……アンタの声が似てるって思って」
適当に散らした黒い髪と対照的に、色素のない赤い瞳が遠慮なくこちらを見ている。
「それってお前の弟かよ?」
「いいや……妹」
「何――手前ぇ!入学初日でホームシックか!?」
同室の奴がか弱い奴では困る。私はこいつを利用し、そして協力しなければならないのだ。
――何としてでもザフトレッドになるために。
「いや……会えるもんなら会いたいけどさ、妹はオーブに残してきたんだ」
「あ……そうか」
その気になれば直にでもメイリンに会える私とは違うんだ。そう思うと、
歯に物の詰まったような喋り方をする、オーブ生まれの彼に悪い気がした。
「でもさ、家族に会いたくなっても確り頼むぜ? 当然"赤"を目指すんだろ、シン=アスカ?」
「ああ……勿論だ。えっと……名前?」
「レナード=ホーム。親しい奴はなんでかレナって呼ぶ。入学式で名前呼ばれてたろ?
プラントじゃあ、名前は一回で覚えるもんなんだ」
「そうか、有り難う……レナ」
そこでようやく、私達二人は手をがっしりと握り合った。
そう、先ずはシン=アスカ、こいつを騙さなければいけないのだ。
本名で呼ばれたときに返事をしてしまっても、聞き間違えたと言い訳が聞くように
イントネーションの似た偽名にした。
回りくどい事をしたのには、当然理由がある。私はなんとしてでも、こうして自分を偽ったまま
"赤服"に袖を通すのだ。ホークの名に頼ることも、女というだけで特別扱いされる事も無く、
ザフトレッド――ザフトのトップガン――の地位に登りうるのだと明らかにする為に。
「しかしアンタ、滑らかっていうか女の子みたいな手してるよな?」
「女の子みたいって言うな!」
ゴッ――!
殴ったシンは翌日の起床時間まで気絶していた。デリカシーは無かったけど、
本当はシンは悪くないのよ。御免ね。
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