Lyrical DESTINY StS_第03話

Last-modified: 2008-02-23 (土) 00:25:12

きっと簡単じゃなかった。
歩いてきた道に地図はなく、ソレを指し示す標識もない。
そんなものがなくても、歩けばいい。
だが、迷ったときには悲しみが広がっていた。

 

フェイトは今にもアスランの首に凶刃が迫ろうとしているのに対し、だんだんと
自分の中で魔力が向上しているのがわかった。
それは、普段の・・・ベストな状態の自分に戻ろうとしている証だった。
つまり・・・フェイトにかけられている魔力制限が解除されたのだ。

 

(はやて!?)
思いつく先に念話を送る。
(そや!今隊長だけでも、て思って解除したんや!副隊長は間に合わんかったけど
とりあえずリミッターの解除はできた!)
その時ほど、はやての仕事の速さに感謝したことはないだろう。
フェイト自身、何もできない歯がゆさから少しは開放される
とそう思い情けない体に力を入れて、立ち上がる。

 

「リミット・・・リリース!!」

 

封ぜられた力を完璧に解き放つ金色の魔道士。
そのあまりに眩い輝きにシンもフェイトのほうを見た。

 

「なん、だ?」
一度は降したはずの相手から大きな魔力を感じる。
おそらくはSランクをオーバーするのだろう、と頭の中で敵の情報を再度整理する。

 

「・・・自殺願望者、か?」
魔力だけでなくすべてにおいて上を行く自身があるシンは
途切れることのない狂気の笑みでフェイトを見た。

 

フェイトはもう恐れてなどいない。それは、本来の自分の力に絶対的な自信があるからだ。
「ここからが・・・私の本気です!」
フェイトがかもし出す空気が変わり、シンも狂気の笑みが少しだが治まる。
「オーバードライブ、新ソニック・フォーム!」
(ジャケットパージ・・・ソニックドライブ)
金色の光が天井につきあがる。
フェイトは余計な装備を一切捨て、ただスピードのみを強化したソニック・フォームを
起動させ、バルディッシュの形態をサイズフォームから
ライオットフォームという“切断”に特化した形態をとる。
バルディッシュの柄が二つに分かれて二本のライオットとなり
踊るようにライオットを構えた。

 

「・・・へぇ?」
ソレを見たシンはまるで新たな獲物を獲たように笑い
アスランから目を背け、フェイトのほうに向きなおす。
「お前から・・・殺してやる!」
一気に殺意を開放するシン。しかし、もうフェイトは恐れない。
「行きます!」
フェイトが言葉を紡ぐと・・・瞬間に、その場から一瞬で移動し、シンの横に立っていた。
「!?」
「たぁっ!」
一閃でシンの体を薙ぐ。
シンは吹き飛ばされ、壁に衝突する・・・だが、フェイトは機を逃さず
プラズマランサーを5発放つ。
もはや建物のことなど考えず、煙は室内に広がる。後で事後処理が大変だろう。
「・・・この程度であなたが倒れない事はわかります・・・たったらどうですか?」
煙の先を睨みながらフェイトはそういった。
ソレと同時に、かすかな笑い声が聞こえた。
「ククク・・・ハハハ!!」
魔力を風に、一気に煙を吹き飛ばし姿を現すシン。
「いいぞ!アンタは強い・・・強い奴を殺せば
それだけで管理局には大ダメージだろう!!」
──咆哮。空気がそれに弾かれるように振動し、フェイトにまでその振動は届く。
「くっ!」
だが、今はそんなことで揺らいでいる場合じゃない。フェイトは必死に耐えて
構えを崩さず、自然体を保つ。
「俺の憎悪を宿した剣とアンタの信念を宿す剣・・・どちらが勝つか、な!!」
シンは両足に魔力をためる。

 

「何も・・・させない!!」
フェイトはシンが何かをしようとしていることを察し、先手を打とうとする。
「プラズマ・・・」
カートリッジを二発使用し、一気に魔力を爆発させ、前方にフェイトが
得意とするプラズマスマッシャーを放とうとする。
「ふっ」
フェイトの行動は早かった・・・ソレこそ、並みの魔道士がシンと同じように
行動を起こそうとしても、フェイトの魔法が先に炸裂するだろう。
しかし、シンのスピードはフェイトにとって予想外でしかなかった。

 

「遅いんだよ」
フェイトはシンが何をしたか、まったく見えなかった。
だが、目に映った事実は・・・一瞬、否定したくなるほどのものだった。
一瞬で・・・ソレこそ、管理局でも最速の部類に分けられるフェイト。
そんな彼女よりも・・・速かったのだ。
「いい反応だ・・・絶望が迫る人間の顔をしているぜ?」
確かに、フェイトは絶望を感じただろう・・・自分より、速く鋭い動きをする相手。
そんな者の相手をしなければならないのだから。
「だぁ!!」
今度はシンがフェイトに一閃・・・ガードするも、あえなく吹き飛ばされてしまう。
「きゃあ!」
フェイトの悲鳴が上がる。
だが、シンは吹き飛ぶ彼女に追いつき、追い討ちをかける。
「もう一発だ!!」
強烈な蹴りがフェイトの横腹に決まる。
「ガッ!」
ソレにより、吹き飛ぶ軌道が変わって、フェイトは天井に激突し、地面に落ちる。

 

──ドシャッという音が響き、煙が強烈に舞う。
「フフッ・・・さぁ・・・そのキレイな髪を、首ごともらおうか?」
ゆっくりと、フェイトが倒れているであろう場所にシンは歩を進める。
「くっ・・・テスタロッサ!!」
あまりにも実力が違いすぎる戦いに、さすがのシグナムも声をかける。
だが、それは彼女の後ろに立っているキラに止められる。
「なぜ止める!?」
「・・・意味はないからだよ、あなたが行く必要は、ない」

 

「なんだと!?」
状況的に殺されかけているフェイトになぜ救援がいらないのか?
冷静でないシグナムにははっきりとした判断が下せないでいた。

 

「アレを」
キラはゆっくりと腕を上げ、シンのほうを指差す。
「あ!」
シグナムも意外なものを見る。

 

「ちぃ!」
なんと、シンの腕にバインドがかけられているのだ。
「ライトニングバインド・・・トリプル」
煙が一気に晴れ、フェイトが姿を現す。
額からは血を流していたが、どうにかシンの攻撃を耐え切ったようだった。
「ぐ・・・悪あがきを!!」
シンにかけられたバインドはアロンダイトを持つ腕と
両足にそれぞれ、三重のライトニングバインドがかけられている。
さすがのシンもソレを短時間では破れなかった。
そして、その最大の好機・・・フェイトは勝負に出る。

 

「バルディッシュ・・・カートリッジオールロード!ライオットザンバー!
 セレクト・ブレイブセイバー!」
フェイトの命令にバルディッシュは従い、カートリッジが6発ロードされ
薬莢が6つ、鈍い金属音を立てて転がる。
(ライオットザンバー・・・ブレイブセイバー)

 

ブレイブセイバー・・・ザンバーモードという大質量で
さらに、グラーフアイゼンやストラーダのようにジェット噴射で
遠心力を利用しながら、敵を弾き飛ばし、その勢いを保ちつつ
弾き飛ばした敵に対してプラズマザンバーを打ち込む。
外れれば敗北は必須・・・背水の陣、というような技である。

 

「絶対に外さない!!」
集中し、視界を絞る。
今、フェイトの視界にはシン以外入っていない。
余計なものを枠外に流し、ただ照準を絞る。

 

「たぁああああああああああああああ!!!!!!」
行動を起こすとともに、魔力を搾り出し、一気に放出する。
その爆発的なエネルギーは何物をも大地に伏すだろう・・・そう思った。
「・・・この程度」
だが、シンは・・・冷たい瞳でフェイトの攻撃を見ていた。
ただ動く左腕を少し上げる。
そして・・・フェイトの最大の一撃を受け止めたのだ。
「なっ!?」
さすがのフェイトもそれは考えていなかった。
フェイトがこの技を開発できたのはつい最近。
けれど、絶対に破られない自信があった。

 

「スピード重視で重くない剣だな!そんなんじゃ、俺には意味がない!!」
大地をける。その足には魔力が多大に込められていた。
驚愕だった・・・気づけば、バインドをすべてはがし、シンが目の前に迫っていた。
どうにか反応し、彼の振るう刃を受け止められたが
それでも精神的なダメージは大きかった。

 

「・・・テスタロッサと同等以上のスピード・・・だが、パワーは比較しようがないな」
シグナムはその光景に正直な感想を漏らした。
それはシグナム自身が一番信じられない光景だった。
「テスタロッサが・・・スピードにおいて追い抜かれ、最大の技を
防がれるなんて、な」
フェイトはスピードだけなら管理局でも1、2を争うほどだ。
その彼女にスピードで引けを取らないということがどう言うことか
シグナムは理解していた。
「負けますね?」
ここに来て、キラが口を開いた。
「・・・負けるわけはない、と私は思いたいが」
現実にはならないだろう・・・誰が見ても、今のシンには勝てる道理が見つからなかった。
「アスランは精神的に弱いから“SEED”を発動させても勝てなかった
・・・あの子はシン君と比べても、劣る部分が多い」
否定できなかったわけではない、シンは隙が多い
・・・だが、ソレをカバーするだけの実力がある。
シンの隙は隙であってそうじゃない。

 

隙をつくという行為が彼には通じないのだ。
「・・・あなたは、どう思いますか?」
ふと、キラがシグナムに問いかけた。
「どう・・・とは?」
いまいち質問に意味を見出せず、聞き返すシグナム。
「加勢するべきか・・・見守って、彼女が殺されるのを見るべきか・・・ですよ」
シグナムはその質問で理解した・・・キラは、フェイトのプライドとか
そういったものを考えているのだ。
目の前で懸命に戦うフェイトの姿。
その戦いに、プライドというものが存在しないわけは無い。
助けに行って、ソレをなくさせてもいいのか、とキラは言いたいのだ。
「・・・いい言葉がある。プライドも大事だが、命あっての物種だ!」
シグナムの言葉にキラはそっと微笑んで、自身のデバイスであろう
掌サイズの蒼い結晶体を取り出した。

 

「たぁ!!」
すでに魔力をほとんど使い切り、カートリッジもない。
「どうした!スピードでヒットアンドアウェイで俺に敵うと思っているのか!?」
だが、ソレをスピードで必死にごまかし、まだ自分が戦えることを見せるのだった。
シンは驚異的洞察眼でフェイトの次に仕掛けてくる角度を見切り、そちらに体を向ける。
「なっ!?」
「終わりだ!!」
シンはアロンダイトとエクスカリバーの両端を接続させる。
それは、先ほどアスランが見せた
アンビデクストラス・ハルバートの形状とそっくりだった。
フェイトには、シンの迎撃を耐えられるほどの体力も残っていない。
それでも・・・引くわけにも行かない。だから、スピードを突進力に
勢いを殺さず、ライオットザンバーを振りかぶる。
「はぁぁぁぁぁぁ!!」
「ちれぇぇぇぇぇぇぇ!!」
赤と金の魔力がぶつかる。辺りにプラズマ現象が起こり
シンに立っている場所はへこんでいた。
それほどにフェイトの突進力も凄いものだったのだろう。

 

─ピシッ!

 

何かがひび割れる音が聞こえた・・・フェイトの
ライオットザンバーの刀身が砕け始めているのだ。
「そんな!?」
「終わりだな!金色の魔道士!!」
このままでは本当に終わってしまう・・・刀身が砕ければ
勢いの強いシンの剣はフェイトをそのまま切り裂くだろう。
だが・・・誰も、希望は捨てなかった。
「ずぁっ!?」
シンに何かが当たった。ソレにより、シンの力が弱まる。
「!!」
フェイトはソレに総じてシンから間合いを取る。
「ぐ・・・誰、だぁ!?」
シンが振り向くと、そこには・・・息を切らせてはいるが
先ほどとは魔力の奔流に絶対的違いがある高町なのはが
レイジングハートで体勢を支えながらもたっていた。

 

「貴様っ!」
「なのは!?」
なのはもリミッターを解除して、シンに対し攻撃を行ったのだろう。
だが、彼女が追っているダメージも大きかった。
「はぁ・・・はぁ・・・」
やはりたっているのがやっとなのか、第二、第三の攻撃はできない様子だった。
「うぅ・・・!」
なのははバランスを崩し、地面に膝をつく。
「なのは!!」
フェイトはいても立ってもいられないのか、シンをそっちのけで
なのはの元に駆け寄ろうとするが。
「フェイト執務官!!」
ある人物の怒鳴り声で我に返る。
「・・・キ、ラ・・・捜査、官?」
声の主はキラだった。いつの間にか戦闘態勢に入っている彼の姿に、フェイトは少し驚く。
「フリーダム!!」
シンは今までキラが静かだったため、彼を気にしていなかったが
ここにきて彼の存在に憎悪の感情を抱く。
「彼の相手は僕がする・・・だから、君たちは倒れている人たちの介抱を」
「え・・・?」
「二度は言わない!さっさとするんだ!!」
そこには、温厚な表情を浮かべたキラではなく・・・戦う者の厳しい表情があった。
「・・・了解」
フェイトもソレに従い、シグナムとともに倒れた者たちを一箇所に集める。

 

アメジスト色をした瞳は・・・その奥の輝きを褪せないまま放ち
立ちはだかる少年シン・アスカを見つめる。

 

「君とは・・・二回目になる」

 

落ち着いた口調でキラは言った。それは余裕からか、挑発なのかはわからない。

 

「・・・俺の前に立ちはだかるというのなら、四回・・・だ」

 

憎悪がさらに増す・・・おそらく、シンはキラのことを一番憎く思っているのだろう。
「・・・・・・断ち切るよ、憎しみの連鎖」
キラは一度目を閉じる。深呼吸する。
「今度こそ」
そして、再び目を見開き、自身の決意を紡ぐ。

 

───断ち切る?
シンは今キラが放った言葉が無性に腹が立った。
「アンタには無理だ!アンタが連鎖の根源のひとつなんだからなぁ!!」
大地をけり、ものすごいスピードでキラに迫るシン。

 

キラはすでにデバイスは起動状態だった。
だが、服装に変わりはない・・・つまりバリアジャケットをつけていないのだ。
ただ、両腕には二つの銃が握られていた。
「フリーダム・・・モード・ラケルタ」
(ラケルタ・ソード)
その銃が一瞬で筒のようなものになり、魔力刃を形成、それでシンの剣を受け止める。
「くっ!」
歯を食いしばり、必死にシンの攻撃を受け止める姿は“守る者”の姿だった。
「アンタに守ることなんてできない!アスランにも!!
奪った時点で、できないんだよ!!」
シンは否定する・・・彼らには守れない、そう断言した。
「やってみなきゃ・・・わからない!」
キラはシンのその考えを否定し、シンの剣を弾く。
「くっ・・・爆ぜろ、ケルベロス!」
一度アロンダイトとエクスカリバーを分離させ、再び両腕に持つと
砲撃魔法を両の剣に収束させる。
「フリーダム!ライフルセット!」
(ライフルセット)
キラもそれに呼応するように剣の形態からライフルに戻し、魔力を収束させる。
「カリドゥス・オア・バラエーナ!」
銃身に収束する魔力と、二つの銃の間にも魔力が収束する。
「「だぁああああああああああああ!!」」
二人の叫びは重なり、同時に魔力砲を放つ。
魔力砲はそれぞれに激突し、爆発して視界を濁らせる。
「くっ!」
だが、その程度で二人は止まらなかった・・・相手の位置を瞬時に捉え
大地を蹴り上げて剣を交える。
しばらくはそんな攻防が続いていたが、その間にも言い合いは行われていた。
「君がいくら凶刃を振るおうが、何も返ってはこない!!」
「アンタはわかってない!今更、何かが返って来る事を望んでいるわけじゃない!!」
剣を振るうたび、シンの悲しみにも似た憎悪が溢れる。
ソレを、目の前で感じるキラは何を思っているのだろう?
「君がしている事はただの八つ当たりだ!!数人の救われた人を見て、どうして
自分は!!って言う思うを膨らませて、管理局に八つ当たりしているだけだ!!」
「ソレがどうした!?管理局が救えなかったのは事実だ!!」
アロンダイトとエクスカリバーを握る力が強くなる。そして、剣戟に勢いがつく。
キラはアスランのように精神面を崩すことなく、戦えてはいる。
アスランとシン、キラは元々実力が拮抗しているので、ベストコンディションでなら
互角に戦えるのだ。
「(たとえ援軍が来てもすべて跳ね除ける自信はある
だが、こいつに対しては別だ・・・消耗戦となれば厄介だ)」
シンは今までのように力押しではなく
その光の見えない瞳の奥でキラを倒す算段を立てていた。
「だぁああああああ!!」
「!?」
だが、一瞬の思考がキラに対して攻撃を許す結果となった。
(ダブルバースト)
瞬時に剣から銃に切り替え、カートリッジ使用によりチャージタイムを省略して
一気に収束させ、シンにほぼゼロ距離で放つ。

 

「がっ!」
防ぐ術などない。ゼロ距離で発動する魔力はシン防ぐことも
回避することもさせず、彼を吹き飛ばす。

 

「はぁ、はぁ、はぁ・・・終わり、かな?」
自身のデバイスに問いかけるキラ。目の前には壁に穴があき
おそらくシンが外に吹き飛ばされたのだろう。
(・・・魔力値、依然健在)
だが、キラのデバイス・フリーダムはいまだシンが立ち上がるであろうと
予測を出していた。
「・・・!」
目を凝らして遠くを見つめれば、シンがゆっくりと立ち上がった瞬間が見えた。

 

「嘘!?アレを受けても・・・」
キラの放った決定打は・・・シンに通じず、彼はまだ倒れず、余裕のように近づく。
フェイトには畏怖することしかできなかった。
砲撃魔法をほぼゼロ距離で食らったのだ。普通の魔道士ならまず昏倒している。
そして、シンは再びキラの前に立っていた。
だが、変化もあった・・・右手に握られているエクスカリバーが折れていた。
「たいした威力だ」
シンは初めて敵を認め、賞賛した・・・そして、エクスカリバーの柄を捨てる。

 

「デスティニー・・・セットアップ」

 

「!?」
刹那・・・シンが真のデバイス起動を促すと、赤い魔力の渦がシンの姿を包み込む。

 

「・・・フリーダム、セットアップ」

 

そして、キラも・・・ゆっくりと真のデバイス起動を促し、魔力を開放した。

 

二つの強大な魔力がどんどん強くなる・・・そんな空間に
ただ取り残されたような気分を味わいながら、フェイトは二人を見つめていた。
そして、再びその姿を現した二人を見て、フェイトは・・・漠然と
世界の違いを思い知り、二人の姿をこう言った。

 

「赤い翼と・・・蒼い翼」

 

全体的に赤い色が混じったバリアジャケット。
両肩、両肘、両膝にはプロテクターのようなもの。
腰には銃が収納するホルスターと防御をかねた、たれのような物。
そして、一番特徴的だったのが背中にある赤い機械的なものが取り付けられ
そこから生えているような魔力で形成された赤い翼だった。

#brp
一方のキラは黒いボディアーマー、部分的な武装は白く
腰部分には特殊な形をした二つ折りのものがあり、ボディアーマーの
中心部にも金色の砲門がある。
両腕にはアスランのようなシールドが小型でつけられている。
そして、背中には蒼い8枚の機械的な翼が取り付けられていた。

 

フェイトはその光景が異端に見えて仕方がなかった・・・天使と天使が
雌雄を決しようとしている風にも見えた。
人の血のように赤い翼と、目も覚めるような蒼。
対照的な二つは同じ空間にあることが間違いのようで
二人の心をそのまま映しているようだった。

 

「もう・・・戻れないんだね、シン君?」
キラは最後の最後・・・という感じで、シンに説得を試みる。
「答えは知っているはずだ!歩き始めれば戻れない道なんだよ!!」
シンの表情は再び狂気の笑みが映っていた。
「非殺傷設定解除・・・ハイマットモード起動・・・プロテクト“SEED”開放」
(・・・High MATモード・・・プロテクト“SEED”開放)
フリーダムはジャスティスのように迷う事はなく、キラの指示を実行していく。
演算されるデータにSEEDともうひとつ、独特のものが刻まれていく。

 

High
Maneuver
Aerial
Tactical

 

キラの瞳から光が消え、背中に生える8枚の翼は大きく広げる。

 

「デスティニー!ミラージュコロイド・セット!ノヴァ・ストライクスタンバイ!」
背中の赤い翼が広がる・・・魔力も上がり、剣が
アロンダイト一本になったことにより、分散していた威力が一点に集中する。
「星を砕く一撃・・・この一撃で決める!」
シンはアロンダイトを深く構え、魔力を研ぎ澄ませながらタイミングを待つ。
一方のキラもシンの意図を呼んで、魔力を研ぎ澄ます。
「フリーダム・・・カートリッジオールロード
ミーティア・シングルバーストスタンバイ」
二つの銃を連結させ、カートリッジをすべてロードすると、二つの銃が光り
ひとつの銃へと変わり、全体的に大きくなり、銃口も広がる。

 

「・・・まるで、世界の終わりみたい」
フェイトはそんな言葉をこぼした・・・だが、それは間違いではないのかもしれない。
世界にとって間違いなく最強の二人がぶつかれば、その大地が壊れるという結果も
存在するかもしれない・・・フェイトは今その結果の一部を見ているかのようだった。
結界で阻まれていなければ、間違いなく六課を中心に
1キロ以上の物は消し飛んだだろう。

 

二人のにらみ合いは永遠のようで、一瞬の花火のような感じだった
二人がいったいどれだけにらみ合っていたかをフェイトは
記憶にとどめることができなかった。
「テスタロッサ!下げれ!巻き込まれる!」
後ろからシグナムが手を引き、フェイトたちは結界外に飛び出す。
結界から飛び出した二人は、傷ついた仲間を休ませている場所に向かった。
そこではすでにシャマルを筆頭に医療班が回復作業に入っていた。
「シャマル!なのはとアスランは!?」
真っ先に親友たちの心配をするフェイト。
「なのはちゃんは大丈夫・・・けど、こっちの人・・・」
シャマルはアスランのほうを指差す。
「え?」
「普通の人より、傷の回復スピードが速いわ
・・・大丈夫。この調子なら後遺症も残らないと思う」
ソレを聞いたフェイトは昔アスランから聞いたことを思い出す。

 

───俺はコーディネイターって言う人種なんだよ・・・遺伝子情報をいじって
普通の人より色々なことができなり、難病を克服できたり
傷の治りが早かったり・・・いいことだらけだけど
普通の人から見たら、やっぱり異端なんだと思う。

 

彼が自嘲気味に言った言葉をフェイトはよく覚えていた。
その時の悲しみとも取れるような言葉に彼女は何もいえなかった。
ソレが、少しだけ悲しかった。

 

「!?」
何かが砕ける音が聞こえた・・・そして、ソレと同時に
結界がはってあった場所に光が漏れていた。

 

気がつけばフェイトは走っていた。
そして、その先にある・・・戦いの“結果”を見たかった。

 

瓦礫をよけて、結界があった場所にたどり着くと、二人の決着はついたようだった。
「ぐ・・・くぅ」
痛みに苦しむ声を上げる者と。
「はぁ・・・はぁ・・・」
息を切らせる者がいた。
目を凝らして必死に結果を確かめた。
それは、フェイトにとって安堵すべきものだった。
「ぐぅ・・・くそっ!」

 

シンの左腕が“なくなっていた”
その事実が、フェイトにキラの勝利・・・という結果を突きつけた。
「君の負けだ・・・おとなしく投降しろ!」
キラは銃口をシンに向ける・・・そして、ゆっくりとシンに近づく。
「!?」
だが、彼は突如何かに気づいたかのように、後ろに飛ぶ。
すると、先ほどまで彼がいた場所が爆発したのだ。
「なっ!?」
フェイトも驚き、辺りを見渡す・・・だが、何かが見つかったわけでもない。
そして、気配を感じて空を見ると、一人の仮面を男が空にいた。
「・・・なっ!?」
空にいた男をキラは信じられない顔で見つめていた。
「ふっ・・・彼はまだ死んでもらっては困るのでね・・・持って帰らせてもらうよ?」
そういった男は次の瞬間に、シンの横に立っていた。
「ま、待て!」
キラがなぜか動かなかったので、代わりにフェイトが男に制止を呼びかける。
「何かね?」
「その少年は第一級犯罪者です・・・手出しすればあなたも!」
「別に構わんよ?私は今の君たちなら造作もなく殺せるからね」
殺意・・・シン以上の殺意がフェイトを襲い、フェイトは
その場に自身の意思とは関係なく、体が地面に足をつく。
「ふっ・・・正直なのはいいことだよ?では、また会おう」
転移術式を展開し、仮面の男とシンはそこから消えてしまう。
その場に残されたフェイトは10分程度呆けていて
そこにシグナムが来るまでそのままだった。
キラもだいぶ魔力を消費し、全体的疲労も高かったため即座に医療班が治療に入った。

 

赤い翼の少年シン・アスカとの戦いは終わった。だが、決着がついたわけではない・・・殺傷設定で戦った以上、どちらかが滅びるまで決着はつかない。
どちらかが滅び、生き残ったものが勝者となり、敗者は永遠の闇を得る。

 

今回の戦いで復興途中だった六課は完璧に工事のやり直しということで
しばらく別部隊に厄介になることとなるわけだが
未だその厄介になる部隊は見つかっていない。

 

─???─
人が三人程度は押し込めそうなポッドの前に仮面の男は立っていた。
そして、そのポッドの中には左腕をなくしたシン・アスカが入っていた。
「君はまだ“死ねない”・・・だから、早くよくなっておくれよ?
なぁに君がやり損ねた仕事は私がやっておいたよ?
あの場所にあった高純度の魔力結晶体は・・・ホラ?」
仮面の男はシンに見せ付けるようにレリックを取り出す。
これは、はやてがもっていたものだが、シンが戦っている間に
はやての元に現れ、回収したのだ。
「絶望への前奏曲はまだ始まったばかり・・・失う辛さを彼らに
味あわせるためにはもっと・・・力が必要だからね・・・
フフフ・・・ハーッハッハッハッハ!」
男の高笑いが響いた・・・ソレに対し、ポッドの中
シンは少しだけ、疎ましそうに眉をひそめた。
(・・・うるせ)

 

─臨時・機動六課医療機関─
「馬鹿者!奪われたで済むと思うたか!?」
中年男性が、はやてに罵声を浴びせている・・・静かにしてくれといっても無理そうだ。
「・・・すみません」
「貴様らはたとえ命を落としてでもロストロギアの確保が使命であろう?!」
はやてに対し、罵声を浴びせている男ははやてのことをあまりよく思っていない。
だから、好き放題に言ってくるのだ。現場の状況なんて聞く気もなく。
はやてもソレを理解しているから何も言わない。
「准将・・・今回の件、敵の力が強大すぎたことも
管理局全体の動きが鈍かったのもまた事実です」
見かねて、シグナムが男に意見を立てるが・・・。
「自分たちの失敗を人のせいにするか!?はっ!
犯罪者上がりが!その程度の言い訳しかできんとはな!」

 

──犯罪者、上がり?

 

一瞬だが、大気がほんの・・・誰も気づかないだろうというほど変化した。
それは、はやての魔力が“怒り”に乗じて、多少膨れ上がったからだ。
「まったく・・・犠牲の上に成り立つ貴様らが、その程度では
犠牲になったものたちは浮かばれんな!?」
拳に力がこもる・・・俯くはやては限界が近い・・・と自分で感じていた。
「大体・・・!」
「准将、もうやめたまえ?」
そこに、一人の男がその男を止めに入る。
「むっ・・・ち、まぁいい・・・二度はないと思え!!」
嫌味なセリフを残して、男はその場から立ち去り、止めた男が残った。
「いやぁ・・・すまないね?僕もああいうタイプは好きじゃないんだが
付き合っていくしかないからねぇ」
「あの・・・あなたは?」
はやては初対面のこの男になにやら不思議な感じを抱いたが
とりあえず名前を知りたかった。
「ああ、はじめまして?アンドリュー・バルトフェルドだ。よろしく、八神二等陸佐?」
男がそう名乗ると、はやては自分の頭の中でその名前を探した
そして、一人該当する人間がいることに気づく。
「もしかして!バルトフェルド少将ですか!?」
驚きに口をパクパクさせるはやて。

 

アンドリュー・バルトフェルドは入局してすぐに佐官となった。
その理由は、管理局に革命的戦術論を提出したからだ。
一人でも多くの魔道士を生き残らせる理論。それには多くの賛同者がいたのだ。

 

「ん~?ああ、管理局での地位はそんなものだね・・・何、階級なんて
現場での指揮をやりやすいようにするだけのものであって、下階級の者を
縛り付ける縄じゃないさ?そんなに緊張しなくてもいい・・・君、コーヒーは飲むかい?」
「え、ああ・・・はい」
バルトフェルドの空気に呑まれ、はやては少しペースを崩す。
その後、彼の勧めでコーヒーをもらうこととなった。
「僕はコーヒーには少しうるさくてね・・・ふんふふ~ん♪」
ついには鼻歌を歌いながら、コーヒーポッドと彼好みにブレンドされた
コーヒーの材料が取り出される。
「八神君?」
ふと、はやてはバルトフェルドに呼ばれる。
「君は、今回のこと・・・どう考える?」
「どう・・・とは?」
「ん~?つまり、だ・・・今回の件は、赤い翼と君の前に現れた仮面の男の二人だけの
仕業と思うか、組織だったものが動いているのか・・・それとも
管理局が裏で手を引いているのか・・・それ以外に見当があるのか、どうかね?」
バルトフェルドにおおよその選択肢を提示され、戸惑うがすぐ冷静に考え、答えを出す。
「・・・私は、二人の後ろに組織がいる・・・と考えます。
ただ、二人が利用しているだけのスポンサーということもあります。
ですが、アレだけの戦闘力を補給ナシに維持するのは難しいと思います」
自分の考えを言うと、バルトフェルドは鼻歌を止めて、今度はうなって考える。
「う~ん・・・優秀だね。まぁ、確かにその線が一番濃厚か?」
コップを二つ用意し、ポッドにたまったコーヒーを移し、ひとつをはやてに渡す。
「どうぞ?自信作だ」
そういわれ、早速口につける・・・軽くすすって、味を確かめると
自分には好みの味だと、思う。
「・・・美味しいです」
「そうか?いやぁ、今回のには疲れていそうな人向けなモノにしたからね?」
はやては気づく・・・目の前の男は自分に気を使ってくれているのだ。
「何・・・君の事は多少知っているよ。
気にする事はない、何を言われても止まれないのだろう?」
心を見透かしたように、バルトフェルドはコーヒーを口に含みながら
はやてを見ていた。
このときのコーヒーの味をはやては忘れないだろう。

 

戦乱は一時的に去った。
結果的に奪われたものもあったが、立ち止まることなどできるわけがない。
味方も敵も・・・傷を癒すために、今は眠る。
だが、それぞれに・・・謎は深まるばかりだった。
疑問がさらに疑問を呼び、理解できないことが増えていく。
穏やかな・・・休息が、しばし続くよう・・・祈ろう。

 

次回・・・罪の“真実”

 

罪に気づくときは・・・後悔した後だった。