Lyrical DESTINY StS_第09話

Last-modified: 2008-03-10 (月) 22:42:20

出会わなければよかった。
君と出会えた“痛み”がこの胸に溢れている。
ソレが代償だというのなら、彼の罪とは?
・・・考えても、思うのは・・・。
出会えた“痛み”

 

─スサノオ・艦尾ブロック─

 

「ラウ、大丈夫か?」
「ええ」
バインドを砕き、ラウを自由にするラウル。

 

その光景を黙って見つめるフェイト。
しかし、クロノは黙ってなどいない。
「待て!貴様は何者だ!!」
「・・・」
そのクロノの問いかけに、ラウルは冷たい瞳で彼を見た。
「!?」
その視線に込められた何かにクロノは思わず、ぞっとしてしまう。
「なるほど・・・穢れきっていない魔道士、か?これは失礼した」
そう言って、穏やかな笑みを浮かべるラウル。
「何を・・・!?」
クロノはデュランダルの杖先をラウルに向ける。
杖先を向けられたラウルは何の変化なく、ただソレを見つめていた。
「待ってクロノ!」
だが、クロノの行動はフェイトによって制止される。
「なぜだ!?」
クロノはフェイトに対し怒鳴るが、彼女はそんなことよりラウルに視線を向ける。
「・・・随分と早い再会になりましたね?」
幾分か劣勢を感じるフェイトはなんとも言えないといった表情だった。
「本当にな。私もこれほど早くとは思わなかった」
表情は崩さず、何も悟らせないラウル。
フェイトのほうは動揺が見て取れる。
「どう、して・・・あなたは、そんな悲しい瞳をするんですか?」
そう言われて、初めてラウルが動揺の色をかすかに示す。
「・・・君が、そこにいるからだよ」
「え?それは、どういう・・・」
フェイトがさらに質問を返そうとするがラウルは転移魔法の術式を展開する。
「ま、待って!」
フェイトは制止の言葉をかけ、クロノはスティンガーブレイドをセットしていた。
「ふっ・・・愚かな」
ラウルはクロノに対し右手をむけ、その手の中に一つの銃を取り出す。
「少し、頭を冷やしたまえ」
そう言って一発の弾丸をクロノに放ち、ソレはクロノの右肩を貫いた。
「ぐ・・・ぅぅ」
痛みのあまり、展開していた魔法も拡散してしまい、右肩を押さえてうずくまるクロノ。
「クロノ!?クロノに何をしたの?!」

 

目の前で撃たれ、苦しむ義兄の姿にフェイトは思わず、バルディッシュを構える。
「・・・その切っ先は果たして私に向けるものなのか?
君たちが戦うべき“敵”は私たちかもしれない。
だが、その真の心の刃は本当に私たちに向くべきものなのかい?」
「な、何を・・・?」
フェイトはラウルが何を言っているのか、理解に苦しんだ。
大切な人を傷つけられ、その傷つけた相手に刃を向けることに間違いがあるのだろうか?
あるはずなど、ない・・・ソレは、人間がとるべき一つの行動なのだから。
「君の今の感情は正しい。大儀を見失っては守るべきものを守れない
・・・ああ、君の今の感情を否定はしないさ」
微笑み、ラウルは銃を手元から消す。
そして、指を一度パチンと鳴らす。
すると、スサノオの中心部で爆発が起こる。
「何!?」
フェイトは大きな振動に辺りを見渡す。

 

─スサノオ・ブリッジ─
「メインエンジン大破!!艦の浮力が!」
オペレーターがメインモニターにスサノオ主機関部が爆発しているシーンが映し出される。
「そんな・・・くっ!総員退避!!スサノオを破棄します!直ちに総員退避!!」
マリューは悔しさを必死にこらえて、退艦命令を出す。
「艦長!お早く!後数分足らずでスサノオは中心部から二つに割れます!」
高度がどんどん下がるスサノオ。そして、ソレと同時に艦首と艦尾の間に
猛烈なひびが入り始めていた。
「艦長!」
オペレーターと操舵主、他の者たちはすでに脱出の準備に入っている。
だが、マリューは信じられなかった。
X級は彼女らが時空管理局に来てから建造されたXV級に引けを取らぬ最新鋭の
艦船であり、めったなことでは沈む事はあり得ないほどの強度を誇るものだ。
ソレが、たった数人の襲撃者の手によって沈められる。
こんな事実があり得てはいけないのだ・・・そして、事実を受け入れられないのだ。
「艦長!!!」
幾度目かのオペレーターの必死の呼ぶ声にマリューは意識を戻す。
「・・・退艦します。パターンC起動・・・9分以内に全クルーは退避」
マリューは苦渋の選択であるパターンCの起動を宣言する。

 

パターンCとは、時空管理局艦船すべてに搭載されるマニュアルの一つで
これの起動は艦船放棄、撃墜の場合のみ使われるものの一つである。
これはもしも艦船が放棄、または撃墜対象となった場合・・・周囲への被害を
完全無にするために、空中、または爆散する前に艦外に隔離フィールドを
展開して爆発とその衝撃を周囲に出さないためのものである。

 

「パターンC設定完了。発動を10分後に設定し、全速で退艦を推奨!」
オペレーターの説明を聞き終わると、メインモニターにタイマーが現れ
マリューたちもスサノオから離脱する。

 

─スサノオ・艦尾ブロック─
「今、メインエンジンを破壊した・・・もうこの艦は沈むしかないよ」
ラウルの言葉に少し冷や汗を流すフェイト。
「・・・どうして、アナタがこんなことを!?」
フェイトには信じられなかった。
初めて会った彼は深い部分はありそうだったが、親睦はもてる。
そんな感じだった。
だが、今はフェイトたちの前に“敵”として立ちはだかっている。
「私はただ守りたいだけだよ・・・このまま君たちを動かせば、シン君を狙うだろう?」

 

─今、彼はなんと言った?

 

フェイトは一瞬、思考がストップしてしまう。
「な、んて?」
信じたくないのか、聞き返すフェイト。
「信じられないかい?・・・シン君は僕たちの“家族”なんだよ」
今度こそ、その耳に届いた。
その言葉はフェイトの心を激しく揺さぶる。・
「そ、んな・・・ぐっ!」
フェイトは瞳に涙をためながらも、眼をつり上げ、ライオットでラウルに切りかかる。
「たぁ!!」
思うよりも早く、フェイトは刃を振るっていた。
「博士!」
ラウもフェイトのスピードに脅威を覚えたのか、叫んだ。

 

─パキンッという音が響いた。
その瞬間に、空気が止まったような感覚をフェイトは味わった。

 

フェイトの刃とラウルとの間には距離があった。
かすかな距離だ。
ソレを隔てるのは、たった一つの障壁。
「なっ!?」
ラウルが一瞬の間に張ったシールドはフェイトのライオットを受け止め
ライオットの刃を折っていたのだ。
「戦う気はない・・・私は君と戦う気はないよ?」
折れたライオットを見て、ラウルはただ悲しい表情しかしない。
だが、フェイトには・・・ラウルのそんな言葉すら薄っぺらく聞こえた。
何かに裏切られたような感覚。
実際に裏切られたわけではないのに、なぜかそんなことが心の中を渦巻く。
「フェイト、君の剣は折れた」
「そんなこと!!」
フェイトはシールドに弾き飛ばされるも、すぐに体勢を立て直し、新たなライオットの刀身を精製する。
「たぁぁぁぁ!!」
再びラウルに切りかかるフェイト。
彼女のライオットがまとった雷はラウルのシールドに当たると
あたりに拡散するかのように放電し、火花を散らす。
「・・・フェイト」
ラウルはそんな状態でもポケットに手を入れていて、ただ彼女の瞳を見つめていた。
「・・・・・・・穿て、戦の一太刀。雷なる者に静かなる裁きを」
呟くラウル。
その言葉と同時に彼の目の前には一つの本が現れていた。
「“ウィンドダガー”」
唱え、本が開き、そのページが光る。
「!?」

 

フェイトはソレが魔法行使であることに気づき、彼から距離をとろうとシールドをける。

 

だが。

 

「!?」
フェイトの両腕を風がかけた。
その瞬間に、彼女の両腕から傷が生まれ、血が噴出す。
「あ・・・ぐぅ!」
(マスター!?)
バルディッシュが声を上げる。
フェイトが許容範囲外の痛みを受けたことを察知したのだ。
「大、丈・・・夫!!」

 

─放さない。

 

力がいくら抜けようが戦う術だけは放さないフェイト。
「やめておきなさい・・・今の君じゃあ、私には勝てない。
実力差がわからないほど、バカじゃないだろ?」
フェイトに対し、警告するラウル。
その表情はまるで大切な人を傷つけた者の表情だった。
「ぐ・・・」
確かに、フェイトはもうこれ以上戦えない。
戦うことを選べるほどの余力が残っていないのだ。
「・・・フェイト君。君は・・・世界にはなぜ持つ者と、持たざる者がいるんだと思う?」
彼は今度はフェイトにこの答えの見つからない問いをする。
「何でそんなことを、聞くん・・・ですか?」
痛みに意識がついていこうとしない感覚。
すでにフェイトは意識が飛びかけていた。

 

「知りたいから・・・この答えを」

 

その一言が、ただ響いた。
遠ざかる意識の中、フェイトはその答えをなぜか必死に答えていた。
そして、その意識を手放す。

 

「フェ、フェイト!!」
クロノは目の前で義妹が倒れたことに傷の痛みを忘れて近づく。
「くっ・・・術式が構築でき、ない!」
クロノは回復の魔法をフェイトにかけようとしたのだが、ソレが展開しなかったのだ。
「無駄だよ・・・君の術式は今、魔法を使うことができない」
ラウルがクロノのことを見下ろしながらそういった。
「な!?まさか、さっきのが!」
はっとして、傷口を見やるクロノ。
「そう・・・まぁ効果は一時間程度さ」
ラウルはいつの間にかクロノの前に立ち、こう言う。
「クロノ提督、なぜこの世界には持つ者と持たざる者がいるんだと思う?」
同じ問いかけ。
しかし、ソレはクロノに対しても意味のあるものだった。
なぜなら彼は・・・持たざる者に分類されるのだから。

 

「さぁね・・・ただ、持たない者は努力するんだ!
そうして、勝ち取った力を何かに使うんだ!!」
ソレは、師に教わったこと。
今はもういないリーゼ姉妹から教わった大切な、クロノの中で生きる一つの想い。
「そうか・・・」
クロノの返事を聞くと、ラウルはなんともいえない顔をする。
そして、ソレと同時に爆発が起こる。
「限界か?」
ラウルはあわてたそぶりを見せず、ただ火が迫っていることのみに反応し
クロノたちに背を向ける。
「ま、待て!!」
「君たちは私たちに負けたんだ・・・口を出す権利はないよ」
クロノのほうに顔は向けず、転移術式を展開するラウル。
「くっ・・・」
「さようなら」
まるで興味をなくしたかのように、ラウルは二人の前から姿を消した。
「くっ・・・この、ままじゃ!」
どんどん爆発音がクロノたちに近づく。

 

絶望的な状況だ。
自身は魔法を使えず、フェイトも意識を失っている。
今、クロノたちに脱出する術はなかった。

 

ただ、爆発音が響く。
そして、パターンCは発動し、スサノオ全体に隔離フィールドが発生する。

 

「脱出状況は!?」
管理局支部ではすでにマリューたちが集まっており、対処を始めていた。
「スサノオクルーは全員確認・・・しかし、フラガ一等空尉とフェイト執務官
クロノ提督の脱出が確認されておりません!!」
「なんですって!?」
マリューはソレを聞くとすぐに消滅しつつあるスサノオを見上げた。
もし、彼らが取り残されていた場合・・・ソレはもう絶望的なものだ。
「再確認!急いで!!」
マリューの中であせりの感情が憤る。
「(無事で・・・いて!)」
大切なものを二度と失いたくなどない。
彼女にもそれはある。
だからこそ、その願いが叶うことを人は望むのだろう。

 

数分後、スサノオは完璧に消滅した。
三人の生存は未だ確認されていない。

 

─二時間後・地上本部医療機関─
たったったった、と誰かが走り抜ける音が響いていた。
「なのはちゃん!!」
走っていた人物ははやてで、到着した場所はなのはの病室だった。
「ど、どうしたの?」
なのはもケガを順調に治しつつあり、頭の包帯以外は取れていた。
「そ、それが!!フェイトちゃんとクロノ君が!!」
はやてのあまりのあわてぶりに、なのはもどこか嫌な予感がしていた。
「フェイトちゃんたちに何かあったの!?」
「実はね・・・さっき入った情報で、“赤い翼”の仲間と思われる人らが
X級7番艦スサノオを襲撃したんよ」
はやての話を聞いているなのはの顔色がどんどん青くなっていく。
「それで、援軍としてクラウディアが向かい、フェイトちゃんとクロノ君の少数精鋭で
殲滅および、拘束ってことになったんだけど・・・結果はわからず、スサノオは
メインエンジン大破により、緊急のマニュアル・パターンCを発動。
ソレによりスサノオは消滅・・・脱出が確認されていないのは
ムウ・ラ・フラガ一等空尉、フェイト・T・ハラオウン執務官
クロノ・ハラオウン提督の三名」
その時、なのはの表情に感情はなかった。
何をどう感じればよいのか、この時彼女はわからなかったのだ。
「管理局の決定は、現時点で捜索隊を出せるほどの戦力を有しておらず、三名をMIAと認定する」
はやても悔しさからか、拳を思いっきり握り締め、涙を流そうとしていた。
「くっ・・・フェイトちゃんや・・・クロノ君が戦ってること、知りもせんと!!」
壁に拳をたたきつけ、はやては自身が何もできなかったと嘆く。
そこに、一人の少女はやってきた。
「・・・ママ?」
少女はヴィヴィオだった。
なのはとフェイトを母と呼ぶ少女。
「どう、したの?」
ヴィヴィオもなのはが動揺していることに気づいているのか
不安そうな眼差しをなのはに向けていた。
一方のなのははヴィヴィオに気づいてすらいないのか、現実にすらいない感じだった。
「ママ!?」
ヴィヴィオはなのはを必死に呼ぶ。
「なの、はちゃん?」
それにはやても不安になったのか、なのはのほうに顔を向ける。
「・・・嘘だよ」
「え?」
突然、呟くなのは。
「嘘だよ!フェイトちゃんやクロノ君が死ぬはずない!!そんなに弱い人じゃない!!」
なのはははやての上着を掴み、必死に訴える。
その否定の言葉は、本当に信じたくない、そんな思いが乗せられている。
「嘘だよね!?ねぇ!?はやてちゃん!!」
はやてはなのはのことを親友だと思っている。
だが、この時はやてにはなのはの姿が・・・哀れに見えた。
「なのはちゃん!!」
はやてはなのはの手を解き、まっすぐなのはを見る。
「今は、この状況に甘んじるしかない・・・それが私たちの“弱さ”や!」
はやてもにじむ涙を必死にこらえて彼女に“管理局”の弱さ、そして“人”の弱さを肯定した。
悔しさに歯を食いしばり、必死になのはに説いた。

 

「けど!それでも・・・二人は生きてるって!!
そう思おうや!?あの二人は簡単に死なへんよ!」
「うぅ・・・けど、けど!」
そう思える現状じゃない。
誰よりも二人が生きていることを望むなのはは、もう・・・ソレを妄信できるほど子供じゃない。
そう信じることができればよかった。
できていれば、どんなに気楽だったか。
「信じたい・・・私だって信じたいよ!!」
だが、時を過ごすうちに理解してしまった。
現実の厳しさと、子供のときに見えた奇跡がすべて
人の“努力”による起きても当然の結果だったということ。
「なのは・・・ママ」
ヴィヴィオもなのはの初めて見る姿に動揺を隠せない。
「いや・・・やだ・・・こんなママやだ!!」
耐え切れずに、ヴィヴィオは病室を飛び出してしまう。
「・・・私も、こんななのはちゃん見ときたくない!けど!今は!!」
「わかって・・・るんだ」
声を震わせながら、なのはは呟いた。
「私は、大切な人を失おうと戦わなくちゃいけない・・・
失った人たちの想いを受け継いで」
「なのはちゃん・・・」
「そんな事は・・・わかってるんだ」
涙を流しながら、彼女は笑った。
「けど、私は・・・二人が生きているなんて思えるほど、もう素直になれない。
だから、これからも欠けたことを忘れずに戦うよ」

 

─それが、私の答え

 

その一言がはやては聞きたかったのかもしれない。
それが聞けたから、はやても今、少しだけ笑うことができた。

 

「なのはちゃんは後1日で退院やし・・・あっその前に!」
ふとはやては思いつく。
「何?」
「ヴィヴィオのこと、追いかけな?」
そういわれて、なのはは暗い表情を再び表す。
「・・・初めて、だからね。あんな格好悪いとこ見せたの」
「後ろめたいん?」
はやての言葉に頷くなのは。
「泣かせちゃったから」

 

─無限書庫─
「それで、僕のところに来たんだね?」
そこには、ユーノがいて、膝の上にはヴィヴィオがいた。
「だって・・・あんなママ、初めて見たから」
まだ涙をぬぐいきれないヴィヴィオ。
ユーノも仕方がない、といった感じにヴィヴィオの頭をなでる。
「・・・なのはは、きっと立ち上がるよ?誰のためでもない、君のために」
優しい言葉でヴィヴィオに聞かせるユーノ。
「ヴィヴィオ、わかんない」
頬を膨らませ、歳相応に拗ねた表情を浮かべるヴィヴィオ。
「・・・一つ、本を読んであげよう」
「・・・?」
そう言って、ユーノは司書長以上の権利を持つ者のみに閲覧を許された本を一冊持ってくる。
その本はすべてが白く、表紙の中心に剣と盾、兜が重なったようなものが描かれていた。
「これはね、“聖王ノ書”・・・聖王を記したと言われる聖遺物なんだけど
これは書物だからここにあるんだ」
ヴィヴィオ疑問符を浮かべているが、ユーノは続ける。
「これには、聖王の・・・想いが込められているんだ」
そして、1ページ目を開き、読み始めるユーノ。

 

1ページ目には詩が書かれていた。

 

闇を滅ぼし、聖を光と信ずる。
表裏一体たるモノの根源たるは、人の心。
自らの心に闇在らば、光は敵となる。
聖なる心あらば、闇はおのずと牙を向く。
しかし、その表裏一体を宿せし我が魂は。
守るべき、我が民のために。

「・・・難しくてわかんないよ!」
ヴィヴィオはやはり内容が理解できず、ユーノに文句を言う。
「まぁまぁ・・・たまには難しいのも、ね?」
笑顔でごまかすユーノ。
「むぅ・・・」
やはり、頬を膨らませながら、足をじたばたさせるヴィヴィオ。
そんな少女を暖かい笑みで見つめ、次のページをめくるユーノ。

 

聖王は戦いました。
太平の世を・・・王たる自分をあがめる者たちのために。
聖王が戦えば、山は砕かれる。
聖王が歌えば、花は咲き乱れる。
聖王が言えば、民は感謝した。
もしも、世界が狂っていたのなら、正常にしたのは聖王だろう。
ベルカは聖王とともにあった。
聖王はベルカとともにあった。
なぜ?ソレは、聖王が立ち上がったから。
元々、誰も平和なんて望んでいなかった。
だが、聖王は平和を示した。
戦うベルカを哀れに思い、平定を示した。
しかし、聖王は一度たりとも、自分のために戦いはしなかった。
戦うことは“守ること”と聖王は言った。
誰一人、ソレを理解するものはいなかった。
それでも、聖王は戦い、延々と続くベルカの戦乱に終止符を打った。

 

「聖王は理解されずとも、愛された・・・それが・・・ん?」
膝の上から寝息が聞こえる。
「寝ちゃった・・・か」
ユーノはゆっくりとヴィヴィオを抱きかかえ、ソファの上に寝かせ毛布をかける。
その後ユーノはコーヒーを一杯入れて、フェイトとクロノのことについて
書かれた資料を読み始める。

 

そして、眠ったヴィヴィオは深い、深い夢を見ていた。
だが、いつも見る夢とは違い、空気が張り詰めていた。
というより、自分が何かを傍観している感覚だった。
「ここ・・・何?」
疑問の言葉を口にすると、後ろで光が放たれる。
「何!?」
それに怯えながらも振り向くと、そこには・・・ヴィヴィオの眼に映ったものは。
殺し合いだった・・・古代ベルカの戦い。
ただ、殺し、占領し、死体の上を人が歩く。
蹂躙された大地は見るも無残だった。
「やだ、ここ、やだ!」
ヴィヴィオはその光景を拒否した。
何が彼女にそんなものを見せるのか。
なぜ見なくてはいけないのか。

 

「ソレは君が・・・私の遺伝子を持つからだろう」
ヴィヴィオの横から声がした。
「だ、誰!?」
その声に怯え、ヴィヴィオは身構える。
そこにいたのは、純白の鎧をまとい、腰に二つの大剣を持つ男だった。
「私は聖王と呼ばれた者だ」
「聖・・・王?」
ヴィヴィオはその名前を聞いたとき、無償に何かがこみ上げてきた。
「私は、この戦いしか知らない世界がイヤだった。イヤだったから、願ったんだ」
「・・・ヴィヴィオ、難しくてわかんないけど・・・お兄さんは、ママと似てる」
ヴィヴィオは彼のことをなのはと重ねた。
「君はどうしたい?もし、大切な者を守れる“力”があれば、どうしたい?」
彼は問いかけた。
「・・・あの時見たいに、壊すのはやだ」
ヴィヴィオは“力”を否定する。
望む望まないに関わらず、一度は手にした“力”が何をしたか、よく覚えている。
大切だと思えたものを傷つけた。
それが、どんなに自分に痛みとして帰ってきたかも知っている。
「なら、壊すことに使うのではなく、守るために使えば・・・いいんだよ?」
「え?」
「いつか、わかるときが来る」
ソレをいうと、彼は光となって消えた。
そして、ヴィヴィオは眼を覚ます。

 

「ん・・・」
ソファから起き上がり、大きく伸びをする。
その時、一瞬だがヴィヴィオは笑っていた。

 

その頃、無限書庫に一人訪ねてくる人がいた。
「ユーノさんはいますか?」
ソレはアスランだった。
「はぁい!司書長~!ザラ執務官来てますよ~?」
司書の一人がユーノを呼ぶと、ユーノは遠くで検索魔法を使っていたのをストップさせる。
「ザラ執務官が?応接室に通して?」
ユーノがそういうと、アスランも聞こえていたのか、苦笑いで応接室に向かう。

 

─無限書庫・応接室─
なにやら神妙な顔をしたユーノと出されたコーヒーをすするアスラン。
「冷静なんですね?同期の執務官がMIA認定されたって言うのに」
どこか怒っているようにも見えるユーノ。
「・・・泣いても、どうしても・・・変わりませんから」
アスランの言う事は正しい。
だが、ユーノの言うことも、理解できないわけじゃない。
「だから、できることをしっかりやって、あいつらが帰ってきたとき安心できるようにしたいんです」
そっと微笑み、アスランは自分でもくさい、と思うようなセリフを吐いた。
「・・・安心しました」
ユーノも微笑み、コーヒーに口をつける。
「で、本題なんですが・・・至急調べてほしいことがあります」
「なんですか?」
「レリックの使用方法の深い部分を」
あまりに今更な話に思わずユーノは眼を見開いた。
「どうして、今更レリックを?」
レリックは先のJS事件ですでに解析等は終わらせ、調べてある。
使用条件もかなり分析されているのだ。
「・・・レリックと生身の魔道士、あるいは・・・培養された人間、もちろん
戦闘機人のような存在じゃない・・・
そんな魔道士がレリックとシンクロすることができるのか」
アスランも一つの答えにたどり着こうとしていた。
フェイトが見つけた管理局の誰も知らない・・・“プロジェクトD”に。
「一応、調べてみますが・・・どうしてそんなことを?」
その問いかけに、アスランは表情を強張らせる。
「セキュリティが凄かったんで解読に手間取ったが、どうやら・・・
管理局で生身の人間と、レリックの融合実験が行われ、成功体があるらしい」
「!?」
「数年前のことなんで、もしかすれば・・・魔道士として戦っているのかもしれない」
両手を顔の前で組み、不安げな表情を浮かべるアスラン。
「あまり思いたくないんですが・・・ソレだけの魔道士を公式で出すには、それなりの
肩書きが必要になる。そして、俺が目をつけたのが・・・特殊戦技隊」
以前にも話題に出た特殊戦技隊・・・“赤い翼”討伐にも関わる部隊。
だが、アスランは当初この部隊の参加を快く思っていなかった。
「・・・まぁ、調べてみます」
「お願いします」
立ち上がり、会釈するアスラン。
そして、彼は無限書庫を後にする。
「ふぅ。クロノも・・・無事でいろよ」
そして、数少ない親友の身を案ずるユーノだった。

 

アスランは無限書庫から出ると、出た先にキラが立っていた。
「・・・落ち込んでないんだね?」
「何が、だ?」
キラの言葉に、アスランはとぼけたように視線をそらす。
「フェイト執務官のことさ。それで君がどうしてるのか、気になって、ね」
キラもやるせない表情をしていた。
ソレもそうだろう。
歴戦をともにした戦友の一人・ムウ・ラ・フラガもMIA認定を受けているのだから。
「ムウさんも・・・クロノ提督も、どうして知らないところで
いなくなっちゃうんだろうね?」
「・・・俺に、聞くなよ」
切なさがにじみ、軋む言葉は空気をよどませる。
「僕たちはいくつこんなことを続ければいいんだろうね?
こっちに来ても、こんな思いをしなくちゃならないなんて」
「望んだことだ・・・悔やむ前に行動するしかない」
アスランの言葉に後悔は確かにあった。
だが、進みだした時点でとめる事はできないのだ。
どんなに拒んでも。
「カガリから伝言・・・“赤い翼”の討伐に参加する者は
2100にクサナギ会議室に集合せよ」
「・・・了解した」
下唇を噛みながらも、アスランは返事をしてキラから離れていく。
アスランの後姿からはやはり、今回のことがやりきれない・・・という感じがしていた。
「素直じゃないんだからな・・・アスランも」
そんな友人の背中に感想をこぼすキラ。
彼もまた、良き理解者なのだろう。

 

─???─
ラウルとラウは自分たちの帰るべき場所に帰還し、ゆっくりと廊下を歩いていた。
「あっ!博士!ラウも!」
すると、元気な声でリリウェルが二人を呼ぶ。
「ただいま・・・リリウェル」
ラウルも優しい笑顔で対応し、リリウェルの頭をなでる。
だが、リリウェルは少し不安そうな顔をする。
「博士、どうしたの?元気、ないよ?」
「え?」
そういわれて初めて、自分がどんな顔をしているかを気づいた。
ラウルは、とても悲しそうな顔をしていたのだ。
「・・・少し、ね」
ラウルはそのままごまかすことにしたが、リリウェルはまだ心配そうな顔をしていた。
「ラウ・・・君のデバイスも、だいぶ損傷しただろう?貸してみなさい」
「すいません・・・お願いします」
ラウはプロヴィデンスのグレーの結晶をラウルに手渡す。
「博士!私のデバイスはぁ~?」
すると、リリウェルがラウルの袖を引っ張ってねだる。
「ん・・・あぁガイア・シュナイデかい?アレは・・・」
といいながら目を泳がせて、ごまかそうとするラウル。
しかし、リリウェルも引かなかった。
「博士ぇ~!私のも~!ラウのばっかず~る~い~!!」
駄々っ子のようにリリウェルは足をじたばたさせる。
「博士、先にしてあげてはいかがかな?私は当分、回復に時間を当てます」
「回復って・・・負傷してるのかい?」
ラウルの顔つきが一瞬厳しくなる。
ラウもしまったという感じの顔をする。
「見せてみなさい」
ラウルは今までに出さない押しで、ラウに迫る。
「い、いや・・・私は」
引くラウの状態をじっと見て、ラウルはラウの胸のところに手を置き、強めに押す。
「ぐ!」
「・・・なるほど、ヒロイック・プロヴィデンスの鎧を貫通して
君にダメージを与える魔道士がいたのか?」
ラウルは手を放し、考察しているのか顎に手を置く。
「危惧すべき存在だな・・・特殊戦技隊クラスの力があるのか」
「特殊戦技隊?」
リリウェルは初めて聞くのか、その名前に疑問符を浮かべる。
「あ、ああ・・・リリウェルたちの兄妹みたいなものさ。
私が保護しそこなった・・・可哀想な・・・運命を捻じ曲げられた者たちさ」
その言葉に、ラウは苦い顔をし、リリウェルはなにやらうれしそうだった。

 

「まだ兄妹がいるの!?」
「・・・ああ。もう、私たちの家族にはなってくれないけどね」
悲しい、と感じられる笑顔でラウルはリリウェルに諭す。
それが、どんな意味があるのか?
ソレも、悲しい連鎖の一つだ。
「ところで、博士。それぞれのデバイス完成度はどうなっているのですか?」
「ん・・・平均的に進んでいるが、やはり8割が限界だよ。
スラッシュ・レイダーやウルティマ・フォビドゥン
リリウェルのガイア・シュナイデは率先してやっているが・・・
ヘブンズ・カラミティは出力設定が難しくてね?カオス・ドミネーターは
ドラグーンの能力をつけるために、少しかかる。アビス・ナイトメアは完成が早そう
・・・まぁ、全体的にはこんなところさ」
簡潔に、今の状況を説明するラウルだが、どこか納得がいかない部分がラウにはあった。
「“D”については?」
「・・・まだ、レリックが足りない。あと、13個ほど集めないといけないね」
“D”とはおそらく“プロジェクトD”のことだろう。
彼らはレリックを集めている。
そして、ソレはまだ数多の世界に散らばる物があることもわかっている。
管理局にあることも、当然ラウルたちは知っているのだ。
だが、完璧に管理局が回収したものに関してラウルは手を出そうとしない。
ソレもまた、意味があるのだろうか?
ソレが、管理局に対して吉となるのか、凶となるのか・・・
ソレは、時が進まなければわからないことだ。
たとえ、凄絶な未来が待っていたとしても、人間はただ進むしかない。
答えが悲惨でも、ソレを受け入れるしか前に進めないのだから。

 

光るものは誰しも綺麗だと感じるのだろうか?
輝くものは、人の心を完璧に奪うのだろうか?
人の命が光り輝くものだと誰もが知れば、ソレは魅力的なのだろうか?
いったい誰が、その輝きを完全に見ることができるのだろうか?
だが、そんなものはなくても・・・“命”はただ、大事なのだ。
ソレが、敵味方を隔てたとしても。

 

次回 大切な“命”

 

これが、彼のきっかけ。