Lyrical DESTINY StS_第23話

Last-modified: 2008-08-09 (土) 17:53:52

今こそ、戦わなければならない。
生きるため。
犠牲になった人々の骸に報いるため。
積み重ねてきたすべてを裏切ることはできない。
ならばせめて、終わった後で、手向ける花を選んでほしい。
戦いは、儚く悲しい物だけれど。
犠牲が大きければ大きいほどにいやだけれど。
進まなければならない・・・人間なのだから。

 

ヴァイスや技術部の発案した超高密度魔力砲精密射撃は順調に進んでいた。
作戦決行時間まであと少しを切りながらも、どうにか形を整えている砲身に
ヴァイスはよし、と相槌を打って、他の所に不手際がないかを調べる。
「ヴァイス陸・・・曹長!」
するとそこに、アルトが走り寄ってくる。
「おぉなんだ?」
気兼ねなく返すヴァイスの反応にぱぁっと明るい表情になったアルトはそのまま口を開く。
「大役、ですね?」
「・・・ああ」
ヴァイスも返事を返すが、その返事はどこか重々しい。
「頑張ってくださいよ・・・最近、いいとこナシですから」
と、アルトにいわれ、苦笑しながらもいつも通り、
彼女の頭を乱暴にワシワシとし、今度はちゃんと笑って「ああ」と返した。

 

活気がある・・・これからの作戦しだいでは全員が命を落とすかもしれないというのに、
だが、こういう状況にこそこういう空間が必要だとヴァイスは思った。
「どうだ?うまくいっているか?」
今度はシグナムがヴァイスのもとによってきた。
「ええ、順調すよ?・・・話聞きましたけど、大丈夫すか姐さん?」
活気に身を任せていたが、聞いた話を思い出し少し面持ちに影を差すヴァイス。
「ああ・・・今は、大丈夫だ」
と、シグナムはいつものポーカーフェイスで返す。
「無理、してますね?かなり・・・」
「・・・わかるか?」
「そりゃ、けっこー付き合いも長いっすから!」
嬉しそうながらも、苦笑の絶えないヴァイス。
だが、シグナムのいつの間にか彼が横でこうして笑うのもいいな、と思っていた。
「・・・ヴァイス、お前とも8年以来の付き合いだ。しっかりやれよ?その後は私たちが決めてやる」
だから、すべてを込めてやれ、とシグナムはヴァイスの胸にトンと拳で叩いて、笑う。
「了解っす!このヴァイス・グランセニックに任せてください!シグナム二尉!」
階級で呼ばれ、笑みを浮かべながら敬礼し、シグナムは踵を返す。

 

失敗は許されないと、なぜかそんな緊張がヴァイスには訪れなかった。
言い知れぬ安心感。
なぜだろうか?必ず、成功し、皆で祝い酒でも飲めるような気がしてきた。
「ああ、きっと俺ぁ撃ち抜けるんだな」
ぐっと手を握り、その手に一切の震えすらないことを感じて
ヴァイスはストームレイダーをとり、射撃訓練を開始していた。

 

─クロノ・ハラオウン提督執務室─
そこには、クロノとフェイト、リンディとアルフ、エイミィが集まっていた。
「あまり不吉なことは言いたくないが、
これが最後になるかもしれない・・・だから、顔をあわせておこうと思ってね」
クロノが苦笑し、少しらしくないことを言う。
だが、それには誰も否定せず、ただ笑顔が満ちていた。
「クロノ君はいいところで気が利くからね?」
とエイミィが言うと、クロノは少し顔を赤くし咳払いをしていた。
「けど・・・フェイトは少し辛いんじゃないかしら?」
リンディがし辛かった質問をようやく口にしたことで、室内の温度が少し下がった気がした。
「・・・けど、私はね・・・夢の中で母さんや・・・あったことないんだけど、クライドさんにあったんだ」
「クライドさんに?」
意外な所で夫の名前が出てきて驚くリンディ。
「うん・・・母さんと一緒に、私の夢に・・・出て来てくれた」
忘れずに覚えている穏やかな笑顔。
「それに、母さんが・・・笑って、私に本当の名をくれたんだ。
“運命に負けないように、あなたの名前はフェイト”だって」
それがどこまでもうれしくて、迷いを断ち切ってくれて、
だからフェイトはとにかくラウルを救うのだと決めたのだ。
「殺しが救いだと思わない、けどあの人・・・ラウルさんを生かしてとらえることで
救えるとも思えない。これはきっと私の生涯の中で絶対に越えなければならない壁だから」
「・・・君も、駄々っこの一人だからな」
クロノがそう言うと、そんなことはないと言いたげなフェイトだったが、クロノはそれを無視して続ける。
「まぁ慣れているさ。僕たちはただ・・・君が・・・皆が帰ってきてくれればね」
その言葉に全員が頷く。
「うん!だから・・・頑張るよ!」

 

儚い願いだ・・・それは、決して叶うことがないのだから。

 

─2時間後、地上本部─

 

「作戦概要を説明する・・・“D”を囲う“ガジェットⅤ型”・・・配置は北Aポイント、
西Bポイント、東Cポイント、南Dポイント、Eポイント。そのうち、
ヴァイス・グランセニック陸曹長の超長距離精密射撃により、北Aポイントにいる
“ガジェットⅤ型”を一体撃墜、その後Aポイントよりライトニングを突入させる」
クロノの説明に少しどよめきが走る。
「ま、待ってやクロノ君!」
「何だ?質問は後にしろ」
ともかく説明を優先させるクロノに、仕方なくはやても黙る。
「Bポイントにはスターズ、Cポイントには八神はやて准将とシグナム二尉に。
D、Eポイントにはヤマト二佐、ザラ執務官に向かってもらう」
クロノの説明に、それぞれが頷く。
その上で、はやては再び挙手し、口を開く。
「レリック・ヒューマンはどないするん?」
「・・・こういうのは好きじゃないんだが、せん滅、で頼む」
苦い顔をしながら、クロノがそう言うとはやても了解したように、黙って席に着いた。
「“D”については、まだ詳細がわかっていないが、ともかく動力反応は胸部にある。
そこを破壊すればとりあえず止まるだろう。だが、それをあっさりと許してくれる相手じゃない」
クロノは端末を操作すると、それぞれラウルたちのデータを表示する。
「彼らのそれぞれの能力を戦闘データから予測して、
相性的なものを見ると、やはりこういった相関図になった」
顔写真と線がつながっている表が現れる。
まず、スターズとグラウ、ライトニングとフィル、キラとメーア、
アスランとシュテルンという組み合わせになっていて、
ラウは元特殊戦技隊の者たち、そしてシンははやてとなっていた。
「まぁ、今回は個々の能力頼みだけではない・・・それぞれに援護が加わるのだから、
正々堂々とかを考える暇はない。だから・・・場合によっては、考えてくれよ?
特に、なのはやフェイトはな」
釘を刺され少し苦笑する二人。
だが、今は甘さを捨て去らなければならない状況だけに冗談ではすまされないものだった。
「では・・・作戦を開始する今作戦を・・・“神殺作戦”と呼称し、作戦開始を宣言する」
クロノは立ち上がり、そう言うと、その場にいた者たちはすべからく立ち上がり敬礼した。

 

─地上本部・臨時射撃専用場─

 

巨大な砲身。
その横にはヴァイスが寝転がるような態勢で、
スナイパーライフルのスコープから敵の姿をのぞき見ていた。

 

「ヴァイス陸曹長いけますか!?」
魔道士が40人、それぞれケーブルのようなものをバリアジャケットとデバイスにつなぎ、
そのオペレートをロングアーチスタッフをはじめ、15人ほどのスタッフが制御をしていた。
その中でオペレーティングリーダーを務めていたのは、エイミィ・ハラオウンである。
「いけますよ!俺は射撃のみに集中しますんで、あとは頼みます!」
「了解~!さぁて、現役はなれて少し経ってるけど、まだ若い子には負けないよ~♪」
と、エイミィはノリノリでキーボードをたたいて行く。
「最大出力を103%に設定・・・第1収束開始!魔道士各位!魔力伝達開始!」
エイミィの指示に「了解」と返し、魔道士たちは魔力をケーブルに流し込む。

 

「うぉ!来た来た来たぁ!」
最初の魔力が来たことに感嘆の言葉を吐き出しながら、ヴァイスはより一層集中力を増す。
(いくら魔力が大きくて、俺の射撃が正確だったとしても、重力とかなんやら
いろんなもんが絡めば精度は落ちる・・・だから、そこらへんも考えねぇといけねぇ)
思考を巡らし、よりいい角度へターゲットへの最適な位置取りをするヴァイス。

 

「魔力充填率74%・・・第2伝達開始!カートリッジやっちゃって!」
次のエイミィの指示、それでスタッフがカートリッジの爆発的な
魔力だけを取り出す機械を使って、そのエネルギーを送る。
「伝達を確認!エネルギー上昇中・・・98%到達!」
今度はその膨大な魔力にヴァイスとストームレイダー、
そして魔力砲の砲身が耐えられるように少しの冷却を始める。
魔力の冷却と言えば変な言い方だが、
魔道士一人の許容量を超える魔力を行使するにはそれなりの手順が必要なのだ。
その手順を誤ればこの作戦はただ魔力が暴発し、
ヴァイス他、その場にいる魔道士たちは命を落とすことになるだろう。

 

「ヴァイスたちの作戦が始まる・・・よし、私たちは射線上の少し上から接近開始」
フェイトたちはヴァイスたちのそれを気にかけながら、ミッドの空を飛ぶ。
敵からの攻撃は、相手の範囲内に入らなければ受けない。
エリオとキャロはフリードの背中に乗り、先頭を行くフェイトに従う。

 

“ジェットⅤ型”ははっきりとフェイトたちの姿を視認し、そのモノアイから接近する
フェイトたちの魔道士ランクを測定し、危険値を超えていることから胸部にある魔力砲を収束し始める。

 

だが、同時にヴァイスたちの魔力収束も完了の兆しを見せていた。
「収束率102%オーバー!」
「第3伝達完了・・・ストームレイダーと砲のシンクロ率99.2%!」
「ターゲットとの相対誘導処理受信を確認。ライトニングの射線上退避も確認!」

 

「よし!各位出動!」
発射準備が整いつつあるということで、クロノがなのはたちに出動命令を下す。
「了解!」
当然、すぐさま飛び出すようになのはたちも出動し、それぞれの目標ポイントに向かう。

 

急ごしらえの砲と発射装置ではあるが、管理局技術スタッフが総力をもってあたったこの
魔力砲“超高密度圧縮魔力砲ローエングリン”はその気になれば、ゆりかごでさえ
撃墜できるだけの出力は出せるだろう。だが、今はその出力を圧縮し、小さく不安定な
的に当てなければならない。それだけで射撃手を担当するヴァイスの責任も大きかった。

 

「エネルギー充填完了!」
「発射角修正よし!」
「全システムは正常に稼働中、発射準備完了です!ヴァイス陸曹長!!」
システム構築の完了したアルトがヴァイスに号令をかける。

 

「あぃよ・・・やるぜ?ストームレイダー」
(了解・・・連動率は問題ありません。あとはあなたが引き金を引くだけとなります)
その一言にヴァイスはくっと歯を食いしばる。
別に緊張はしていない。
失敗してはいけないという気持ちもありながら、先の通り外す気は全くない。
ただ、思い描いているのだ・・・このことが終わった後に、六課の皆や、
仲のいい局員たちと階級も何も関係なく騒げるんじゃないかということを。

 

「フェイト隊長!!」
最終確認のために、ヴァイスは耳にあるインカムに叫ぶ。
「今から撃ちます!!」
「了解!」
インカムから帰ってきた声に、ヴァイスはにっと笑い・・・スコープに目を当てる。
ピピ、とターゲットである“ガジェットⅤ型”の姿をとらえる。
「・・・出てきたばっかりで悪いけどなぁ・・・俺らのためにも、お前には沈んでもらうぜ?なぁおい!!」
カチリ、と引き金を引く音が聞こえた。
瞬間、膨大な魔力量が急激な熱とともに、砲身へ集まる。
そして、次の瞬間に白い光が一直線に目標へと向かっていく。

 

「エリオ!キャロ!」
後ろから来る巨大なプレッシャーにフェイトは二人にさらに退避するように指示する。
その数秒後にものすごい光がフェイトたちの直下を通り過ぎた。
空気を切り裂く音は耳ざわりだが、そんなものは気にしていられない。

 

ローエングリンの光はすぐさま“ガジェットⅤ型”に届いていたが、当然それを感知もしていた。
だが、ローエングリンのスピードはガジェットに回避を許さない。
回避できないとわかったガジェットが起こした行動は・・・反撃。
胸部を開き、そこにはすでにチャージが完了していた魔力砲・・・
それがクロスカウンターのように放たれ、“ローエングリン”の光の下を通り、
ヴァイスたちのいる場所へまっすぐ向かっていく。

 

「ま、まずい!?」
フェイトもすぐにそれに気づくが、放たれたものはどうにもできない。
ただ、逃げてくれと念話を飛ばすことしかできなかった。
そんなことに意味などない、だが意味がなければしないということでもないのだ。

 

「みんなぁ逃げてぇぇぇぇ!!」

 

フェイトの叫び・・・だが、それも儚く。

 

ガジェットはローエングリンの光によって貫かれ、爆発した。
そのまま“D”にも届くかと思ったのだが、ものすごく固いフィールドにはじかれてしまっていた。
そして、ガジェットが放った魔力砲は・・・ローエングリンの砲身を貫いていた。
その光景だけを見れば、誰にでも理解できた。
その場にいる人間は即死だったと。

 

爆発が数キロ離れた場所にいるフェイトでも理解できている。
「くっ・・・・ああああああああああああああ!!」
これ以上、何を失えというんだ・・・いったい何を。
ともかく、これで一角は崩れた。ライトニングはそこから突入を図る以外に道もない。
立ち止まれないのだ。

 

炎が立ち上る中、ヴァイスは立っていた。
両手はすでにない。
起こった爆発に巻き込まれ、持っていかれてしまったのだ。
相棒であるストームレイダーも彼の後ろでその銃身を砕かれていた。
見渡せば、いろいろな人たちが転がっている。
大丈夫か、と声をかけたかったのだが、
声が出ない・・・頭で理解しているから、体がそうさせてくれないのだ。
「へっ・・・ったく、知った顔ばっかりよぉ」
あそこに転がってるのは・・・クロノ提督の・・・フェイト隊長の義姉さんだったか?
ったく・・・ロングアーチスタッフまで・・・なんで、だよ?

 

自然と頬を伝う涙。
屈する膝は、どうしようがもう動かなかった。
「あぁ・・・夢ってなぁ儚いなぁ?」
そのままヴァイスはどさっと倒れてしまう・・・彼もまた、夢を抱いたまま死を享受したのだ。

 

─西側Bポイント付近─

 

なのは、スバル、ティアナの3人はまっすぐにガジェットに向かう。
なのはは空から、スバルはマッハキャリバーによる滑走、ティアナはバイクによりその横を走っていた。
まず、なのはが空から視認されることを覚悟でガジェットに近づき、下から二人がガジェットを狙い打つ。
それが一応作戦だ。

 

「・・・見えた!」
なのははその目で人形の前に佇む“ガジェットⅤ型”の姿を捉えていた。
だが、次の瞬間なのはに向け魔力砲が放たれ、なのはは回避に専念する。
第2射、3射とすぐさま来る砲撃はとても砲門が
一つとは思えないほどだったが、それでもかわせないほどではなかった。
だが、回避しかできない状態でもある。
この状況でなのはの役目は引きつけ役、攻撃する必要はないわけだが。
(なのはさん!シューターでかく乱、できますか!?)
そこに入ってきたのはティアナからの念話。
なのはは可能だと返事を返し、早速アクセルシューターを20ほど展開し、
それをガジェットに向けて放つ。
すると、ガジェットが動きを止める。
動きを止めたガジェットになのはは好都合とシューターを撃ちこむが・・・
なんとガジェットはその20もの数のシューターが迫った瞬間、モノアイを光らせ、
自身の装甲の薄皮一枚と思える場所に魔力壁を展開し、すべてのシューターを防いだのだ。
「嘘っ!?」
なのはも信じられず、驚きの声を上げる。
だが、防がれることも下でクロスミラージュを構えるティアナには予想の範疇であった。

 

「ティ、ティア?大丈夫なの?」
ティアナはスバルに背中を支えてもらっている。
その理由は、カートリッジ全ロードによる砲撃魔法を放つためだ。
「大丈夫よ!イメージトレーニングと基礎はした!あとはそれを応用するだけ!
アンタはしっかり支えてくれればいいの!」
そう言って、ティアナはガジェットに照準を合わせる。
「いくら防御力があっても・・・あの何でも防ぐ盾でない限り、
私とクロスミラージュの一撃は防げないわ!」
自信を込めて宣言し、ティアナは引き金を引く。

 

「ファントムブレイザー・・・ペネトリートシフト!!」
これは、フィルとの戦いに見せた一撃。あの時はフィルとフォビドゥンの能力に
はじかれたが、本来なら普通の魔道士どころかAAAクラスの魔道士でも防御は難しいだろう。
オレンジ色の弾丸は颯爽と風を切り、ガジェットに向かう。

 

「!?」
“ガジェットⅤ型”は反応していた。
彼らの存在はストレージデバイスに近い。ゆえに少し機械らしくない部分もある。
ゆえに、ガジェットは体をそらし、ティアナの攻撃を最小限で食らうことにしたのだ。
それが最適の結果だと思ってだ。

 

ティアナの砲撃はガジェットの左肩に直撃し、そのまま左腕をはぎ落す。
だが、ティアナはどう計算しても撃墜できるものだと考えていたので、少し驚いていた。

 

ギギッと砲撃が来た方向を向き、胸部の砲門が開かれる。
収束は一瞬、助けようと動いたなのはも間に合わず、また一撃必殺を
根幹的に考えていたので、回避行動に遅れてしまっている。
死んだ、とティアナは思った。
せめて相棒だけでも逃げてほしかったが、自分と同様に動けないようだった。
瞬間、二人のいた場所には爆発が起こり、爆煙が舞っていた。

 

─東Cポイント─

 

はやてとシグナムもやはりガジェットに足止めを強いられていた。
「くっ!速い上に攻撃も速い!」
建物の陰に隠れるも、ガジェットの魔力砲の威力だ高すぎて建物を貫通するため
ろくな隠れ場所にもならなかった。
「シグナム、この距離じゃこっちが不利や!ロングレンジ攻撃をこっちも仕掛けて敵をかく乱すんで!」
「しかし!そのタイミングが!」
間髪入れずに砲撃が来るのでは詠唱もできない。
そんなことははやても重々承知しているだろう。
「せやから、私が囮になる!その隙にファルケンを撃ちこんだって!」
口早に言うと、はやてはシグナムからの返答を無視してガジェットに視認されるように高く飛ぶ。
もともと、はやては総合SS魔道士、前線でがちんこバトルよりも、後方からの支援が
妥当なのだ。戦闘スキルにおいてはやては魔力が大きいだけの魔道士にすぎないのだ。
だが、だからこそ。
「盾!!」
その優れた才を生かせる・・・彼女の魔力を使った盾はそうそう破られることはない。
衝撃は強くとも、盾は砕かれなければ、持ちこたえる術もあるのだ。

 

「主が命を張っている・・・止めなければと、思うのに。今の主の命を削る道を
歩むことを止める術などない。ならばレヴァンティン!我らはその王道に、応えよう!!
ヴォルケンリッターの名において!!」
(了解!!)
シグナムの咆哮にレヴァンティンも応え、その姿を弓へと変化させる。
(ボーゲンフォルム!)
「ふっ!」
弓と化したレヴァンティンを悠々構え、狙いを定める。
魔力でできた矢にさらに魔力を込めた多重弾核使用の矢なら、ガジェット特有のAMFを展開されようと貫ける。
シグナムは渾身を込めて、射る態勢にあった。

 

主!と念話を飛ばすと、はやてもにっと笑って了解、と返す。
すぐさまはやては退避し、シグナムはその絶妙のタイミングで必殺の一撃を放つ。
「シュトゥルム・ファルケン!!」

 

空を切る矢のスピードはもはや視認できる速さではなく、
だが、こもった威力は間違いなく軌跡を残していた。
シグナムの一撃はガジェットに命中し、ガジェットは静かにのけぞる。

 

「やったか!?」
はやてが期待を込めてそう叫ぶ。
シグナムも確かな手ごたえは感じている。
これで仕留めていなければ、苦戦を強いられるかもしれないという悪い予感ももちろんあった。
だが、その悪い予感は当たらず、のけぞったままガジェットは地面へと落下していき、爆発した。

 

「よっしゃ!ほな進も・・・か?」
感嘆の声を上げようとした瞬間だった。
まさか、こんなにも速く来るとは想定外だ。

 

そう感じる原因は、恐ろしいほどの威圧と殺気を放つ者がはやてたちの目の前にいるからだ。

 

「なんだ?死んだはずじゃなかったのか?八神はやてさんよ?」
口調はどこか荒荒しくなっているが、そこにいたのは・・・武装化を済ませているグラウだった。
「アンタは確か・・・エリオやキャロを傷つけた!」
はやては視線をきつく、だが同時に心は落ち着けようと、冷静をであろうとする。
「グラウ・レーゲン・・・いや、スティング・オークレーだ」
「!?」
「どういうことだ?貴様はグラウ・レーゲンではないのか?!」
疑問はシグナムの口から開かれた。
「あぁ、こっちじゃそれでも通せる。だけどなぁ?俺は元々スティング・オークレーって
いう名前があるんだ。ま、こっちの名前もどうせ与えられたモンだけどな!
まぁ礼儀だよ死に行くやつにせめてもの・・・な!!」
言い終えると同時に、彼は魔力を全開にして空を蹴る。
彼のバリアジャケットについているスラスターの出力は魔力と同様に全開だ。
もともと、彼のバリアジャケットにあるスラスターはこう言った超加速を可能とするための装備でもあるのだ。
「らぁぁぁぁぁ!!」
魔力刃・・・ヴァジュラ・サーベルの勢いも完全に殺すほどの勢いだ。
「くっ!!」
はやてはシュベルトクロイツを構え、完全に防御に回る・・・だが、おそらく防ぎきれないだろう。
はやてもそれを覚悟して歯を食いしばる。
だが、それを黙ってみているシグナムでもなかった。
音がする・・・金属と魔力刃というあいまいな存在がぶつかった音、
見ればシグナムがスティングの刃を受け止めているのだ。

 

「へぇ!やるじゃねぇか!!・・・だが!!」
スティングの背中についているスラスターにさらに勢いがつく。
そのせいか、シグナムが若干押され始めてしまう。
「・・・くっ!」
このまま堪えるのは分が悪い・・・そう思ったシグナムは、レヴァンティンを持つ角度を数センチずらし、ヴァジュラの刃を滑らせてスティングの態勢を崩す。
「なに!?」
驚きの声を揚げ、シグナムの横へと殺しきれない勢いに流されるように抜けようとする
スティングに、シグナムは容赦なく半歩回転をかけてレヴァンティンを振り下ろそうとする。
「甘い!」
だが、それは通らなかった。
シグナムの背中に衝撃が走る。
「なっ・・・」
大したダメージではないが、スティングへの攻撃を止めさせるには十分だった。
振り返れば、そこには二つのビットが浮いている。
おそらく、このビットが魔力弾を放ったのだとシグナムは解釈した。
「シグナム!!!」
そんなことを考えている間に、スティングは体勢を整え、再びシグナムに迫る。
「っらぁ!!」
今度はヴァジュラは使わず、肘打ち、そしてすかさず蹴り、と魔力強化による連続攻撃がシグナムを襲った。

 

当然、シグナムはかわすか、受け流す。それを繰り返していた・・・が。
「!?」
突如、目の前に先ほど自分を撃ったビットが横切る。
それに反応してしまったシグナムは作ってはいけない隙を作ってしまった。
その隙は致命的で、直接死につながるものだったのだ。
「はん!」
音はなかった・・・気づけば、シグナムの脇腹にヴァジュラの魔力刃がめり込んでいた。

 

「シ・・・シグナム!?」
あまりの高速戦闘にはやては言葉を失っていたのだが、
二人が制止したこと・・・それも最悪の事態が起こっていることに声を上げざるを得なかった。

 

血が噴き出す・・・まるで力がともに流れるような感覚をシグナムは味わっていた。
死が近づいている・・・あっけなく、とてもあっけなく、だ。
口からも血が噴き出した。
いやな気分だ・・・こんなことをきっとずっと前から繰り返し、誰かに強いてきたのだから。
「・・・ぐっ!!」
だが、死ねない。諦められない。
「何!?」
シグナムは左手に魔力を込め、そのままヴァジュラの魔力刃をつかみ、刀身を握りつぶす。
そして、スティングから距離をとり、警戒しながらも、息を整えようと肩で息をする。

 

「シグナム!?」
後ろからはやてが声をかける。
きっと、泣きそうな顔をしているだろう、とシグナムは苦笑いをしていた。
(こんな時に、笑えるか・・・まだ、余裕があるのだな、私も)
シグナムは呼吸を整え切り、立ち上がる。
傷は痛む・・・だが、目の前に立ちはだかる男の相手をしなくてはならない。
それが、自分の使命だ。
「主はやて・・・あの男は私が抑えます・・・先に進んでください」
「な、何を言うてるんや!?」
はやては声を荒げ、その言動を咎めるように目をきつくする。
「・・・言ったでしょう?あなたは進まなければならないと・・・それに、大丈夫。
私は負けませんよ。あなたが信じてくださるのなら、この私・・・ヴォルケンリッター、
烈火の将シグナムは何人にも敗北しません!」
その揺るがぬ闘志、きっとはやては覆せない・・・だからこそ、たった一度小さく頷いて彼女に背を向けたのだ。
「絶対追いかけて来てや!?」
「・・・必ず」

 

別れは済んだ・・・あとは、目の前の敵を倒すのみだ。

 

「そういえば、名乗っていなかったな?」
シグナムは一度目を閉じ、そして開けた目でスティングを見ると、ふとそんなことを口にした。
「あぁ?」
待たされたことが不機嫌なのか、また待ってしまった親切な自分に嫌悪しているのか不機嫌な声でスティングは返した。

 

「我が名は、夜天の王に仕えし、守護騎士ヴォルケンリッターが将、剣の騎士、烈火の将シグナムだ!」

 

その高らかな叫び・・・スティングは震えていた。
俗に言う武者ぶるいというやつを今彼は感じていたのだ。
「へへっ」
だからこそ、笑みがこぼれ、そして次の言葉を口にしていた。

 

「スティング・オークレーだ!アンタを殺す・・・男だぜ!!」

 

赤紫と深緑の二色は今、戦う決意を改めた。

 

─南側D,Eポイント─

 

南側ポイントは大して距離は離れていない。せいぜい5,6キロと言ったところだ。
この距離は一見としてないに等しいのだが、実はこの距離は重要なのだ。敵にとっても、味方にとっても。
それぞれにキラとアスランが単騎で踏み込むわけだが、
もしどちらかが敗北した場合、どちらかのガジェットはもう一人も殲滅に行くだろう。

 

だが、それはあくまで、机上の論理だ。

 

二体のガジェットはなのはたちの時のように、胸部魔力砲は放っては来なかった。
なぜか、二機とも同じように、キラとアスランと“対面”していたのだ。

 

─Dポイント─

 

(どういうつもりだ?このガジェット・・・データでは、
ある程度の距離に入れば狙撃してくるって話だったのに)
キラは訝しそうに、目の前の“ガジェットⅤ型”を見る。
まるで動く気配がない。
だが、相手が動かないからといって、自分も動かないわけにはいかない。

 

「先手必勝だ!」
(ロードカートリッジ)
動き出すキラとフリーダム。
カートリッジが排出されると、同時にキラの背中に8枚の翼が現れる。
まるで羽のように青い光がいくつも舞い上がっては落ちていく・・・
その間に、キラはガジェットとの距離を詰めた。
「はぁぁ!!」
ラケルタ・ソードを右手に、突き出す。
あっさりと、キラの魔力刃は突き刺さった・・・はずだった。
「手応えがな・・・ガッ!?」
驚愕と同時に・・・顔面に衝撃が走る。
吹き飛びはしないものの、その場で一瞬固まってしまう。
その間に、まったく動く気配を見せていなかったガジェットは動いていた。
ガジェットはキラと対面して動かなかったわけじゃない。
動かず、その内部にエネルギーをためていたのだ。
全速力で、その場に残像すら残せるほどに。

 

「くっ!フリーダム!!」
(ロードカートリッジ、バラエーナ、シュート)
いつの間にか左にライフルを出現させたキラはその蹴りを入れた体勢の
ガジェットに向けて、反撃の一発を撃ちこんだ。
青い魔力光のエネルギーはガジェットに向かう。
だが、ガジェットはおおよそ予想だにしなかった行動に出る。
なんと、その場でピンポイントにバリアを張り、その直撃するであろう場所を守ったのだ。
「なっ!?」
キラは、その中で一つの仮定を立てた。
目の前にいるガジェットはおそらくストレージ以上の知能を備えている。
もちろん、その気になれば会話さえできるのではないか?というより、この南側に限り
二体のガジェットは敵を極端に狭め、キラやアスランという、相手にとっては絶対に
沈めておきたい敵に対してのカスタムタイプではないのかということ。

 

「くっ・・・消耗、必須か?!」

 

─Eポイント─

 

キラが苦戦しているとも知らず、アスランは激しくガジェットに攻撃を仕掛けていた。
「消耗はしたくないが、こいつを越えなければ先に進めないからな!」
ライフルの引き金を引きながら、ガジェットを狙うアスランの
戦法はかつてCEでのMS戦が見て取れる。

 

(マスター・・・おかしいです。こちらの攻撃に対し、
あのガジェットは回避行動だけ、反撃の動きが見られません!)
ジャスティスが言ったそれには、アスランも確かに疑問に思っていた。
見せられたデータからしてみれば、この動きはおかしい・・・
だが、だからと言って疑念を考慮した消極的な動きをしていたら、時間がなくなる。
「・・・だから!」

 

アスランが取れる戦法は即座に敵の殲滅、だ。
「ジャスティス!モード・セイバー!」
(了解、ラケルタ・セイバー)
両手にラケルタ・セイバーを構え、切りかかる。

 

その瞬間・・・アスランが、接近戦を選んだ瞬間、ガジェットは動いた。
ガジェットの脚部から小型スラスターが装甲を開いて展開すると、
それに火が入り、猛スピードでアスランに蹴りかかる。
「なっ!?」
反応し、どうにか防ぐが、それだけでガジェットの攻撃は終わらない。
先ほどの蹴りは左・・・当然、あいた右がアスランに迫る。
「ぐはっ!」
アスランの体に衝撃が走り、吹き飛ばされる。
吹き飛んだアスランに対し、ガジェットは追い打ちのように、胸部魔力砲を展開する。
(マスター!)
ジャスティスが警告するが、受けたダメージが大きすぎるのか、アスランは動けない。

 

痛みがまだ、体に響いている・・・体が思うように動かない。

 

(マスター!!)
「!!」

 

痛みに浸っていたアスランを現実に戻したのは、ジャスティスの声。
それではっとなり、痛む体に魔力を通し、目を見開く。
「うご・・・けよ!」
落下していたことにも今気づき、アスランはどうにか体勢を整えて、停止する。
そして、目の前に迫る魔力砲をジャスティスのシールドユニットでどうにか防ぎきる。

 

「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」
肩で息をしながら、アスランは一度地に足を下ろす。
そして、上空から自分を見下しているガジェットを忌々しそうに見つめる。

 

「・・・どけ、お前に構っている暇は・・・ないんだ!!」

 

咆えるアスラン。
それに反応したかのように、ガジェットもモノアイを光らせている。

 

─Aポイント─

 

ガジェットの妨害はなく、唯一順調に進んでいるフェイトたち・・・だが、彼女たちにも敵は現れていた。

 

「ここから先は通さないぜ?」

 

立ちはだかる少年・・・メーア・ゾンネは大型の槍型デバイス、アビス・ナイトメアを構えていた。
彼のバリアジャケットは・・・薄い青と、暗い青が混ざったような色をしていた。
それと同様に、明るく青い髪の色が、そのメーアを一見、誠実な青年に見せた。

 

「どいてください。私たちは、あの“D”を止めに・・・
ラウル・テスタロッサを止めなければならないんです」
フェイトは一応の口上は述べた・・・それは、自分たち管理局にとっては当たり前のものだったからだ。
「無理だ。お前たちがここを通るには、僕を・・・僕たちを倒して行けよ!!」
当然と言える返しに、フェイトはぐっと歯を食いしばる。
「・・・フェイトさん!」

 

すると、後ろでフリードに乗っているエリオが声を発した。
「あの人は僕たちが相手をする・・・だから、先に行ってください」
「そうです。フェイトさんは行かなきゃだめです!」
エリオに賛同し、キャロも後ろから言うと、フェイトは彼らの顔を見ず、メーアを見据える。

 

「キャロ!ブーストを!」
フェイトの返答を待たずに言ったエリオの言葉に、キャロは無言で頷き、ケリュケイオンに示唆する。
「待って二人とも!」
フェイトはもう一度振り向き、それを止めようとするが・・・その隙すらメーアは見逃さない。
全身に力を込め、メーアはアビスの矛先をフェイトに突き出す。
「くっ!!」
フェイトもメーアが突っ込んできたことは察知し、動こうとするが、
それよりも早く、エリオは動いてアビスの矛先を止めていた。
「あなたの相手は僕たちがする・・・」
ドンナーフォルムの開放により、エリオの研ぎ澄まされた感覚、精神、そして視線はことごとくメーアを射抜く。
だが、メーア自身、ベースとなっているアウル・ニーダの体、経験知、感覚がそんなものはものともしなかった。
「エリオ・・・」
少しだが、悲しく、さみしく聞こえたフェイトの声・・・だが、エリオはもうフェイトの顔は見ない。
見据えるのは、目の前の・・・敵と定めた彼だけ。

 

「フェイトさん・・・早く、行ってください」
そこに、追い打ちと言わんばかりに、キャロからも行け、と示唆されフェイトはさらに表情を曇らせる。
「信じて!!」
光があった。
その甲高い声に、フェイトはキャロの顔を見る。
「私たちを信じてください!必ず、生きて・・・皆で会うために、
今できることをしないと、未来につながりませんから!」
キャロの言葉に、フェイトはあの時の・・・スカリエッティのアジトでのことを脳裏によぎらせた。
折れそうな心を支えてくれる、自分じゃどうにもならないと思った時、言葉で、想いで力をくれる。
「・・・うん!」
力強く頷くフェイトの顔にはもうかげりはなく、迷いもない。あるのは、雷光の決意だけだった。

 

「お前らは、グラウを・・・スティングにダメージを与えるほどの奴らだ。手加減はしない」

 

フェイトが行ったことを確認してか、メーアは口を開いた。
「なぜ、すんなりとフェイトさんを進ませたんですか?」
エリオも疑問に思ったのか口にする。
「・・・御託はいいよ、僕らは僕らの戦いをするだけってね!!」
メーアは目を見開き、そして数回転アビスをまわすと、
そのずしりと重量のあるフォルムをしっかりと握り、唱える。
「フルドライブ!!」
(イグニッション・・・アビス・ナイトメア)
メーアは魔力の壁に包まれ、その姿は二人にはもう視認できないほどになる。

 

(・・・行くぞ、アビス!)
(信じる道は、あなたと共にある)

 

魔力の壁はすぐにでも解き放たれた。
そして、エリオとキャロはメーアに変化を探す・・・だが、変化は、一目瞭然で訪れている。
メーアのバリアジャケットの変化。
肌の露出は完全になくなり、布のジャケット部分はない。
もはや、あれはバリアアーマーというのがふさわしいだろう。
そのアーマーはことごとくMSアビスを連想させ、
いわばアビスガンダムを人型にまで凝縮したようなものだった。
両肩にある守りの要と思われる身の丈ほどの盾と思しきもの。
胸部にある砲門。目以外はすべて隠されているフェイスマスク。
一分の隙もないそのバリアアーマー・・・そして、武器であろうアビスの槍、
アビス・ランスは何者をも貫く槍を連想させた。

 

エリオは心底震えていた。
それは武者ぶるいという立派なものではなく、恐怖という情けないものだった。
(・・・魔力の桁が違う。これが・・・レリック・ヒューマン?)
人間である自分が、人間じゃない彼に勝てるのか?そう言う暗鬼が心の中に生まれてしまった。
暗鬼はそうそう心からは出ていかない。
なら、どうすればいい?簡単なことだ・・・彼はひとりじゃないのだから。
「エリオ君!」
「?!」
ハッと声のしたほうを見れば、キャロが厳しい表情で自分を見つめている。
「諦めないで!」
ただ一言その言葉を聞くと・・・エリオは、思った。

 

─諦める?

 

─諦めていない・・・恐怖したけど、諦めたりなんかしないよ?

 

エリオは深く息を吸い、吐く・・・それを三回繰り返して、呼吸を、心を落ち着かせた。
「・・・いいか?」
メーアはどうやら、待っていたようだ。
アンフェアな戦いは強いない、自分たちは正々堂々と戦って勝つ。
メーアにあるのは、戦って、自分の強さで敵を倒す。それだけだ。

 

ゆえに、エリオも強く静かに頷いた。

 

そして、互いに叫ぶ。

 

「「行くぞ!!」」

 

同時に発せられた声に、それを見ていたフリードはかすかに震えた。

 

これは戦争か?
ああ、戦争だ。
なぜ起きたんだよ?
我々が、彼らが、立ちはだかったからだ。
命を削る戦いが始まる・・・それぞれにある胸にある誓い。
愛した空を戦場にする一人の女性と戦いを求める男が対峙する。
二人は己の威信を懸け・・・否、威信ではない。
互いに守るべきもの、そして、その重さと戦っているのだ。
無様に地に這いつくばるわけにはいかず、吹き飛ぶ血が、流れる血が、宿命を忘れさせてはくれない。
因果なものだ。
どちらも、大好きだった空で、果ててしまうのだから。

 

次回 空の“残酷さ”

 

ああ、死ぬのが怖いんだ。