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Lyrical DESTINY StS_第25話

Last-modified: 2019-02-10 (日) 08:47:07

きっと今までは、あの人の背中に守られてきた。
いくら守ると叫んでも、やっぱり守られているのは僕たち。
けど、強くなれば、守ることだってできるようになる。
今まで、僕たちを守ってくれたあの人に。
今まで、私たちを信じてくれたあの人に。
未来のための戦い、負けられない戦いがあるのなら。
僕たちは、
私たちは、
願う明日のために、戦うんだ。

 

赤い翼の少年は、炎上する“ローエングリン”が置いてある場所に、立っていた。
煤が舞いあがり、炎で焦げる匂いが癇に障る。
だが、そんな怒りにもならない感情を今更ひけらかすつもりもなかった。
ただ、この惨状を目に焼き付けていた。
あの時と同じ・・・炎に包まれ、人が無残に転がる場所。
人?はたしてあの場所にはただの人が転がっていたのか?
違う気がする・・・確か、大切な人が・・・いた気がする。
そんなことを考えながら、彼は歩く・・・すると、彼の視界に一つの腕・・・肘から下のものが見えた。
「あ・・・」
記憶の中にある風景と重なる。
咄嗟に彼はその手に自分の手を伸ばそうとするが・・・途中で拳をギュッと握り、その行為を止める。
心が警鐘を鳴らしている・・・触れてはならないものだ、と。

 

「うぅ・・・」

 

そこに、誰かのうめき声のようなものを、少年は聞いた気がした。
興味がなかったが、聞こえてしまった好奇心とでも言えばいいのか、彼はあたりを見渡す。
そして、そのうめき声を上げる一人の女性を彼は見つけた。
瓦礫の下敷きになり、このままではもう命も残り少ないだろう。
「あ・・・う」
気づけば、彼は右手に持った剣で、その瓦礫を粉砕していた。
そして、その女性を抱き上げ、炎や煙から、遠い場所まで彼女を運ぶ。
「うぅ・・・あなた、は?」
女性は、まだ定まらない意識の中、焦点の合わない目で自分を抱き掲げる人を見る。
女性には、彼が赤い翼の天使に見えた。
「・・・俺は」
端正な顔立ち、そして、その顔に似合わない赤い瞳。
だが、その瞳はどこか美しい。
「俺は、お前たちの、敵だ」
その瞳を持つ・・・シン・アスカは、何の感情もなくそう言うと、女性を人のいないロビーのソファに横たえる。
「て・・・き」
女性・・・エイミィ・ハラオウンはその言葉を口にし、意識を閉ざした。

 

「・・・敵って、誰だよ・・・か」
シンは自分が参加した戦争が始まる少し前に、民間人だったアスランに言われた言葉を思い出していた。
「敵は、俺だろ?・・・だからアスラン・・・俺を早く・・・」

 

響く轟音。
どうやら“ローエングリン”の砲身がさらに爆発したようだ。
シンが呟いたその先の言葉はその轟音とともに、途切れてしまった。

 

─Aポイント─

 

幾度も、ぶつかる雷の剣と深淵の槍。
「くっ!防御が抜けない!」
エリオはその突破できぬメーアの防御力に苛立ちながらも、機動力を最大限に発揮し、
メーアに迫るが、メーアの堅実な防御に攻めきれないのだ。
「ハッ・・・お前はワンスキルカスタムタイプ!
一つの能力に頼ったお前の能力じゃあ、僕には勝てないよ!!」
メーアは数回アビス・ランスを振り回し、エリオにまるで力の違いを見せつけるように睨みを利かせる。
「そんなはずない!僕は・・・僕とストラーダは・・・あなたに負けるわけにはいかない!!」
「僕にそんなこと言われてもね・・・そんなの、僕には関係ないだけさ」
間合いを詰め、メーアは何の感情もなく槍を突き出す。
エリオは咄嗟にガードするが、一瞬スピードを殺されてしまい、しまったと思う。
「これで、終わりだぁ!」
ガードの状態から、エリオは上空に突き上げられてしまい、一瞬の浮遊状態が彼に訪れる。
「あ・・・」
もはや、何もできない。
エリオは一瞬、自分が死んだと本能的に理解してしまった。
ザシュ・・・確かに、その鈍く気味の悪い音が響いた。

 

「あ・・・エ、エリオ・・・君?」

 

傍から見ていたキャロも、そのエリオの姿に困惑する。
「カ、ハ・・・」
腹部から来る痛みにエリオは悶える。
口からは吐血し、ストラーダも落としてしまい、地面に突き刺さる。
「どう?死ぬって感覚・・・理不尽だろ?」
目の前で悶え、血を流すエリオにメーアはあざ笑うかのようにそう言うと、エリオから槍を引き抜く。
地面にドサッと横たわり、腹部から血を流すエリオに、
少し憐みの目をしながらも、メーアは次の標的をキャロに移行する。
「君も、さっさと彼を追えばいいよ。生きていたって辛いだけだろ?」
メーアは冷たく言い放ち、手に持つ槍をまっすぐにキャロに向ける。

 

─どうして、立てない?
エリオは、意識を手放してはいない。
痛みに耐えながらも、必死に立ち上がろうとしていたのだ。
だが、彼の体がそれをさせてくれない・・・もう、体が死んでいるのだ。
心が立とうと躍起になっても、傷口から流れる血は止まってなどくれない。
「キャ・・・キャロ」
どうにか絞り出せた声も、大した大きさじゃない。
届いていないのだ。
逃げてほしい。助かってほしい。死なせたくない。

「死なせたくない?おかしなことを言うね?」
「え?」
気づけば、そことは違う・・・知らない空間に、エリオはいた。
「君はまだ、立たなきゃいけない。言葉を間違えちゃいけないよ」
そして、彼の前にいるのは・・・小さな子供。エリオの姿だ。
「君は・・・誰?」
「僕?僕は・・・エリオ・モンディアルさ」
おかしな質問だと思った。
自分と同じ声、顔、髪・・・けど、どこか違う。
「あの時、君が僕を立たせてくれた」
あの時・・・ロートとの戦いのときだ。
今、動けなくなったとき、動こうとしていた時、目の前の・・・エリオが言ってくれた。
「立てたのは君の力だ。もっと自分を信じて?・・・それから、お礼を言いたかったんだ」
「え?」
「ありがとう・・・君は、僕の代わりに、僕のできなかったことをしてくれた。
生きてくれた。“エリオ・モンディアル”という存在を君は受け取ってくれた」
「・・・僕、は・・・君で・・・エリオでいて、いいのかな?」
少し不安げに言うと、もう一人のエリオは笑みを浮かべてハッキリといった。

 

「君は君だよ。世界でたった一人のエリオ・モンディアルさ。何か問題でも?」

 

それを聞いた瞬間に、風が吹く。
「エリオ、迷わないで?君にはもう・・・大切な人がいるだろ?だからこそ、頑張れ!エリオ!」

 

それは、奇跡。
エリオ・モンディアルという少年が引き起こした誰にも説明することのできない奇跡。

 

「え・・・?」
メーアとキャロは目を見開いている。
腹部を抑えながら、ゆっくりと立ち上がるエリオの姿。
地面に突き刺さったストラーダをとり、もう一度、彼は構える。
「馬鹿な・・・そんなはず・・・立てるはず、ないんだ!」
あまりの事態にメーアはうろたえている。
それもそのはずだ。完全に殺したという手ごたえを感じていたのだから。
「ストラーダ!!」
メーアがうろたえ、困惑している間にエリオはカートリッジを排出し、サンダーフィストに紫電を絡める。
「サンダーフィスト・・・紫電一閃!!」
よけることはできず、エリオのサンダーフィストはメーアの腹部に直撃した。
「ガッ!」
メーアはそのまま吹き飛び、後ろの廃屋へ突き刺さって行った。

 

「エリオ君!大丈夫!?」
心配して、エリオに近寄るキャロ・・・頬からは涙が流れていた。
「あ、うん・・・大丈夫。大丈夫だよ」
そんなキャロを安心させるように、エリオはキャロの肩をたたきほほ笑む。
そして、土埃が舞う廃屋に目をやる。
まだ倒せていない、と心の撃鉄を再び起こし、エリオはストラーダを構える。

 

エリオの確信は確かであり、すぐに廃屋から激しい破砕音が響き渡った。
「ふざけ、やがってぇぇぇぇ!!」
それと同時に響き渡る怒号は、先ほどまでのメーアとはとても思えないものだった。
「殺す!殺す!コロス!コロス!!殺してやる!!」
すでに、アビスの意思はない。
エモーションリンクとレリックの発動がそうさせているのだ。
そんなメーアから放たれる7連の魔力砲、キャロはガードし、エリオはよける。

 

よけたエリオに、メーアはまっすぐ向かっていく。
すでに、怒りの矛先はエリオにしか向いていないのだ。
「らぁ!」
突き出されるアビス・ランス。だが、エリオはそれを弾く。
「!?」
「そう何度も・・・やられません!!」
サンダーフィストではじき、サンダーブレードで攻撃、
一見単調だが、怒りで我を見失いかけているメーアには有効だった。
「たぁ!」
「くっ・・・この!」
槍を弾かれても、バリアアーマーの内側、胸部にある砲門がエリオを狙う。
当然、速度で勝るエリオはよけるが、攻めきれない。
このままでは、先ほどと同じか、ほんの少しエリオが力を増しただけである。

 

だが、互角なのだ。
レリックを使用しているメーアと、エリオは互角。
足りない部分を想いの力で補う。
それこそが、純粋無垢な彼が持つ力だったのだ。

 

「たあああああああああああああああああ!!」
「つぅうううううううううううううううう!!」
二人の拮抗する力は、当たりの物質を破壊し始め、押し合いにどちらかが制せば、どちらかの間合いは砕ける。
だが、防御と回避力がどちらにもあるのでは、均衡状態は崩れないのだ。
あとは、魔力の総量がものをいう。

 

「ぐぅ・・・」
エリオの魔力総量はメーアには程遠く、レリックのバックアップを受けているメーアは
それを使いこなすキャパシティがある。
故のレリック・ヒューマン。
「ハッ!僕には勝てないだろ・・・ごめんねぇ!強くってさぁ!!」
弾かれるエリオ。
このままでは、先ほどと同じくまた槍にその身を貫かれてしまう。
どうにかしなければ、とエリオは思考を巡らし、ひとつの答えにたどりつく。
「これなら!」
エリオにとって、諸刃でもある最高の移動術。
(ハイパーソニックムーヴ)
光速すらも超えるその移動術は、その困難を一瞬でエリオから遠ざけた。
痛みと、引き換えに。
「なっ!?」
目の前から突然エリオが消えたことに驚くメーアだったが、それもすぐに消える。
顔面に叩き込まれた一発の蹴りによって。
「ガァッ!!」
エリオは痛みで自分の体がどうにかなりそうだった・・・しかし、それを抑えて、
なおメーアに一撃を放ち、敵からのこちらが動かれない状態に対する攻撃を未然に防いだのだ。

 

だが、反動はエリオにのしかかる。
襲うめまいと吐き気、軋む骨、切れたり破裂したりする血管。
「あぅ・・・ぐっ!」
必死に歯を食いしばりながらも、エリオはストラーダを支えに立ちあがろうとする。
だが、苦しさにやはり膝をついてしまう。

 

そんなエリオを見ていることしかできないキャロは、その姿を見つめたまま、歯がゆさをかみしめていた。
自分にできるのは補助、それが自分の限界で、その限界を突破したくても、
ケリュケイオンや自分に、それを成す力はない。
見守ることこそが、彼女の使命・・・そして、ただ唯一できることだった。
「エリオ君・・・」
苦しむ愛しき人の名を呼ぶことも・・・ただ、辛さを増すだけかもしれない。
だが、どうして、言わずにいられよう?
「お願い・・・勝って!」
どうして、ただ・・・愛する人の勝利を、願わずにいられよう?苦しみながらもがいて、
勝利に縋ろうとするその姿に、他に何を願えようか?
エリオもキャロもともに10を超えたばかりの・・・年端もいかぬ少年少女。
ただ、魔法という力を使えたから、彼と彼女はここにいる。
ここにいる意味など、魔法を持つ意味など、問われたところで答えられはしないだろうが、守る理由だけは言える。
そして、負けてほしくない理由もあった。
それが、この少年と少女の絆なのだから。

 

「私も、そばにいるから・・・頑張ってぇぇぇぇぇぇぇ!!」
キャロは叫んだ。
その声に、エリオは反応し、キャロのほうを苦しそうにだが、見る。
「キャ・・・ロ?」
絞り出した言葉で、彼女の名を呼ぶ。
少しだけ、痛みが引いた気がした。
「・・・大丈、夫、立てるよ。僕も・・・君を守りたい、から」

 

笑みを浮かべてからエリオはグッと足に力を込める。
だが、予想より足は言うことを聞いてくれない。
まるで自分の足じゃないみたいに、立ち方を忘れてしまったかのようだった。
「くそっ・・・う・・・ご・・・けぇ!!」
さらに喝を入れて、エリオは立ちあがる。
「つっ・・・はぁ!!」
立つことにすら多量の汗をかいているエリオ・・・限界が近いのだろう。
キャロもエリオの状態が危険であることはわかっているが、何も言えない。
そして・・・メーアも立ちあがる。

 

「なぁ・・・お前」
ふと、メーアがエリオに声をかける。
「・・・?」
エリオは返事はせず、だが、メーアをまっすぐに見つめ、メーアもまたそれに返す。
「ちっこい体・・・そんなちっこい体でさぁ、僕に挑むなんて・・・馬鹿じゃないの?」
本気で馬鹿じゃないのか、とそう思っているのだ・・・メーアは。
「別に戦うために生まれたわけじゃないのに・・・」
戦うために生み出された僕とは違うくせに。
「戦わなくてもいいくせに・・・」
戦わなくちゃならなかった僕とは違うくせに。
「ただ、力があるからって・・・」
力を無理やり持たされたわけじゃないくせに。
「何で戦う!?」
戦わないでいい道を進めるくせに!!

 

心の底から、言葉に込められた感情、言葉に詰まった悲しみ、それらをメーアは惜しみなく口にした。

 

少しの静寂・・・ただ、互いの吐息だけが聞こえる。
すると、エリオが口を開いた。
「・・・壊したくないから」
「何?」
エリオは素直に、正直に、自分が思う自分が今考えていることを口にしたのだ。
それが、自分の答えだとわかっていたから。
「自分の居場所を壊したくないから・・・大切な人を守りたいから・・・だから、僕たちは戦う」
「そして・・・」
エリオに続いて、キャロが口を開く。
「守るべきもののために戦う・・・それができるから、私たちは・・・人間なんです」
淀みなく、透き通るその言葉。
人間という存在を正しく肯定する二人を・・・メーアは、なぜか目をそらしてしまう。

 

「・・・僕には分らなかった。前の世界で、僕はそれが分らなかった」
メーアは心底悲しく、歯がゆく、そして・・・目の前の二人をうらやましいと、そういう感情で言葉を発する。
「ずっと、僕は利用されるだけの、兵器だった。コーディネイターを殺すためだけの、生体兵器」
その呟きは、自分自身の過去。未だメーアをつなぐ悲しい鎖。
「生まれながらに、いろんな薬を体に投与されて、強化されて・・・
そして抗えないように、都合よく記憶、人格を書き換えられるだけ。そんな毎日だった」
顔を上げ、空を見ながらメーアはそんなことを言う。
エリオとキャロも黙って、その呟きに耳を傾ける。
「そして・・・突然、死んだ。そして、次に目を覚ました時・・・違う自分と、相棒」
ギュッと握るアビスの槍。
それをとても大事そうに握りながら、言葉は止めない。
「まだ、起きてからそう時間は立ってないけど・・・皆・・・僕にとっては、大事な人たち。
そして、その人たちがやろうとしていることは、僕にとって大切なものだ。
そう・・・僕にも守るべきものがある。壊したくない居場所がある・・・そうだ。
ハハ・・・おかしいな、いつの間にか、僕も人間になれてたんだ。だから!」
その言葉と同時に、メーアはエリオを見る。
「だから・・・その居場所を守るために、僕はお前たちを殺す!」

 

エリオは理解してしまった・・・分かり合うことはできない、と。
自分たちと同じなんだ、と。
守るべきものがメーアにはあって、それを奪おうとするのが自分たち。
なら、もう、戦うことしかできないのだ。
それが・・・人間という不器用な生き物なのだから。

 

だけど、この戦いにもう、憎しみとか憎悪とか・・・そんな負の感情は存在しない。
お互いの守りたいものを守る。
傷つくことを覚悟して、それを成すために行動することに正しさ以外あるわけないじゃないか。

 

「キャロ・・・離れていて」
エリオはただ一言、キャロにそう告げる。
「え?」
「もっと遠く・・・そうだね、せめて半径100メートル以内にはいないでほしい」
背を向けながら言葉を発するエリオにキャロは不安になりながらも、
それに従うしかなく、キャロはフリードの背に乗り、上空へと昇る。

 

「なんだよ、彼女はもう巻き込みたくないってか?」
「・・・そうだね、巻き込みたくない。けど、それは被害に巻き込みたくないだけです」
エリオの自信満々に語るその口ぶりに、メーアは少しの苛立ちを覚えていたが、ともかく、
言葉通りのことが起こることに、警戒心を強める。

 

「ホントは、使わないでくれって・・・言われてたんだけど」
エリオはアスランにストラーダのドンナーフォルムを組み込んでもらった時のことを思い出す。

 

ドンナーフォルムの組み込まれたストラーダを受け取ったとき、アスランさんはこう言った。
「正直、どうかと思ったんだが・・・実は、ドンナーフォルムのほかにもうひとつ、システムを組み込んだんだ」
「え・・・どんなものですか?」
強さを求めていたエリオに、その言葉は刺激が強く、エリオは期待感を醸し出していた。
「いいか、エリオ・・・もうひとつのシステムはな、本当に・・・どうしようもない時に、使ってほしい」
「どうしようもない時・・・命に代えても、倒さなければならない敵と戦うときとか、ですか」
「・・・とにかく、お前が本当に、心から・・・使うと決めた時にだけ、使ってくれ」

 

あの時のアスランさんの顔は印象的だった。
バツの悪そうな・・・何か重荷を背負った切迫感が感じられた。
アスランさんがそれほどの態度をとるということは、
きっと想像以上にすごくて、きっと負担が想像以上に大きいのだろう。
そして、聞かされたシステム、仕様書を見たとき、僕は息をのんだ。

 

「そう、守るために・・・戦うために、僕は今、使いますよ・・・アスランさん」
ストラーダに組み込まれたもうひとつの新システム。
それが、今・・・ストラーダによって、その封印が解かれていく。

 

Superior
Evolutionary
Element
Destined-factor

 

キラやアスランのデバイスに組み込まれたシステム。
神経系を魔力で刺激し、反応速度、運動性、リンカーコアの出力を
発動中すべて向上させるシステム・・・だが、反動も大きい。
本来でも人間ではしきれない動きをするエリオにとって、プロテクトSEEDの開放は、
力は増すものの、それが終わったときに来る地獄はおそらくキラやアスランの3倍以上であろう。
それでも、エリオは使うと決めた。
メーアという目の前にいる青年を倒すために。

 

瞳からハイライトが消え、ただ透き通ったその目は、キラやアスランと同じように、SEEDの発動を示していた。

 

そして、合図なく二人は動きだす。
少しでも遅れれば、敗北という結果が待っていることをわかっているからだ。

 

「たぁぁぁぁぁぁああああ!!」
先に振りかぶったのはエリオ。
今度もはじかれるのか、と思いきや、すぐにメーアははじくが
その弾かれたものは、はじかれ飛ぶだろう場所にはいかなかった。
なんと、エリオははじかれることを承知の動きをしていたのだ。
弾かれればそれごと、体の位置を上空にずらし、第2撃目を打ちこみやすくしているのだ。
「サンダー・・・」
上空にはじかれたことも利用し、エリオはストラーダを振りかぶり、唱える。
「レイジッ!!」
メーアの槍にサンダーブレードが当たった途端、発生した八つの雷がメーアを襲う。
「がぁぁぁ!!」
回避する時間はなく、メーアはサンダーレイジをすべて受けるが、
そのあと、カウンターのようにメーアがエリオに向かい、槍を振るう。
「ちぃ!」
だが、振っても、エリオはそのスピードで難なくかわす。
「それでも!!」
だが、かわした瞬間を狙われ、今度はエリオも防御に回る。
「ぐぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!」
耐える耐える、と心で叫びながら、エリオはメーアの目をまっすぐ見る。
メーアもまた、その視線に応えるようにそらさず、総身で受けていた。

 

耐えるというエリオの心と、貫くというメーアの心・・・ぶつかる心は
現実を侵食し、二人の間に暴発するエネルギーを生んだ。
そして、二人はその暴発した魔力にそれぞれが後ろに弾き飛ばされる。

 

「エリオ君!!」
キャロも叫ぶが、事態はそんな彼女の言葉をかき消すほどだった。

 

遠い夢だった。
人とのかかわりが生んだ、ささやかな夢。
表に出さない感情の中に少し抱いた、あればいいなと願った夢。
「エリオ!キャロちゃん来てるわよ!!」
母の呼び声に、僕は今行きます、と返事をし洗面所を後にする。
管理局の制服を着こなし、今日も僕たちは機動六課でお仕事だ。
意気込んで家のドアを開けると、そこには優しい笑顔の少女が。
「オハヨ、エリオ君」
「おはよう!」
キャロはそう言って僕に笑いかけてくれる。
だから、僕も笑顔でおはよう、と返した。
すると、母さんが出てきていってらっしゃいと僕たちに言うんだ。
六課につけば、皆がいる。
幸せな風景・・・絶えず活力のあるスバルさん、ちょっと厳しそうだけど、
すごく優しいティアさん、きつい訓練の後にお疲れ様を言ってくれるなのはさん、
頑張ったね、と頭を撫でてくれるフェイトさん、ふん、と鼻を鳴らすヴィータ副隊長、
それを見守ってくれるシグナム副隊長、ケガをしたら全力で看護してくれるシャマルさん、
いつの間にかいてくれるザフィーラ、お兄ちゃんと呼んでくれるヴィヴィオ、
いつも苦労をしてくれているグリフィスさん、ルキノさん、アルトさん、リイン曹長、
ヴァイス陸曹、大変そうに六課を回転させようと必死になっている八神部隊長、
そして、僕の隣で手を握ってくれているキャロ。
永遠に壊れないだろうと、壊さないでほしいと、何度も願った。
そして・・・その願いが、今僕に夢を見せた。

 

いつもは、戦いの連続だったけど、僕が願っていたものは・・・。
「ほらアウル!パスだ!」
スティングが宣言すると、僕の手元にバスケットボールが回ってきて、僕はドリブルでかける。
ディフェンスの人たちを抜き去り、あとはゴールのみ。
そのゴールにボールをダンクで叩き込む。
「よっしゃぁ!」
両手を上げ、パシッと合わせる僕とスティング。
応援しながら、笑ってくれているステラとネオ、ラウ。
監督には博士、選手の仲間たちは・・・オルガ、クロト、シャニだ。
「この調子でガンガン行こう!!」
僕たちはただの子供なんだろうか、この世界では皆本当に笑顔だ。
戦争とかそう言うんじゃなくて、競い合って一番を決めるゲーム。
楽しいゲーム・・・そう、命なんてかけない。かけるのは、勝敗。
仲間と勝ち取る勝利。
気分が良かった・・・これが、勝利の美酒なんだろうか。
これが・・・夢であったとしても。

 

そして、二人の意識は現実へと戻る。
土埃が舞いあがり、二人ともがそれぞれ吹き飛んだ先の壁に体をめり込ませている。
そして、二人は震えていた・・・今見た、夢に対して。

 

「ハハッ・・・なんだか、いい夢見ちゃいましたよ・・・でも、あれは夢だ。ただの・・・夢なんだ」
エリオは自らがそんな夢を見たことをあざ笑うように笑い、肩をすくめ、目を細める。

 

「望んでも手に入らないとわかっていても、夢ってのは見ちゃうもんなんだよな・・・」
メーアもまた、エリオと同じように目を細め、自嘲していた。

 

「「それでも!!」」

 

だが、だからこそ立ち止まれない。
どれほど自分をあざ笑おうと、その夢を否定することはできないのだ。
叶うことを知らないけれど、叶わないと夢を否定することは、積み上げてきたもの、
重ねてきた絆を否定することにつながるのだから。

 

「ストラーダ!」
「アビス!!」
二人は相棒たるデバイスの名を叫び、壁にめり込んだ体を引き抜き、飛び出す。

 

すでにエリオに余力はない、だがそれはメーアも同じだ・・・魔力は高くても体力的なものがある。
ひかなければ、ひかないどちらかが墜ちるしかないのだ。
それは・・・きっと。

 

「お前を倒して僕は博士を・・・シンを・・・ステラを・・・皆を守るんだぁぁぁぁ!!」
アビス・ランスを尋常ではないスピードで振り回すメーア。
さすがのエリオも防戦一方だ。
「グッ!」
一撃ごとにメーアの想いがエリオに流れ込んでくる。
ずっと一緒だ、と・・・必ず守る、と・・・守り人にとって当たり前の・・・とても温かいものが。
「けど!」
目を見開き、エリオは力いっぱいサンダーブレードを振るう。
それによりアビス・ランスが弾かれる。
「何っ!?」
「あなたをつなぎ止めるその絆・・・断ち切ることは罪かもしれない・・・
けど、僕は自分の居場所を守るというエゴのために、力を使う!!!」
エリオの心の底からの言葉に、メーアはほんの一瞬、魅せられた。
そう、輝かしく眩い彼に見惚れたのだ。

 

だが、やられてやるわけにはいかない。
すでに振りかぶっているエリオにもうよけるすべはない。
そう、今メーアが放とうとしている胸部のカリドゥスをエリオはもうよけられないのだ。

 

「お前たちの未来は僕たちには邪魔なんだぁぁぁぁぁぁ!!」

 

放たれるカリドゥスに、エリオではなくキャロは小さく悲鳴を上げ、手で顔を伏せる。
(これで終わりかな・・・僕、どこまで来れたんだろう?)
エリオは唐突に死を覚悟した・・・先ほどの言葉を遂行しきれないとわかった途端、潔く諦めたのだろうか。

 

「エリオくぅぅぅぅぅぅぅぅぅん!!!」
「!!」
気づけば、エリオはカリドゥスを最小の動きで回避したのだ。
「なっ・・・」
メーアは驚きの声を上げた。
だが、同時にエリオもよけられたことに不思議がった・・・しかし、そのチャンス活かさないわけにもいかない。

 

「あああああああああああああああああああああああ!!!!!」

 

突き刺さる刃の音。
あまりに呆気ない結末・・・エリオの刃はただ、メーアの心臓部を貫いていた。

 

「カッ・・ハ・・・」
エリオのサンダーブレードはメーアの心臓部にあるレリックを砕いたのだ。
同時に、エリオの魔力も切れたようで、二人は浮遊力を失い、落下していく。

 

「エリオ君!」
だが、それ以上はキャロも達観しない。
フリードの背に乗り、二人を空中で回収し、すぐに地上に下ろす。

 

「ハハッ・・・ありがと、キャロ」
勝利した故か、エリオは笑っている・・・そして、その笑みのまま、メーアを見た。

 

「・・・強いね、君たちの絆・・・」
もはや余命幾許もない・・・だが、だからこそ、メーアは最後の最後に口を開いた。
「アウル・・・ニーダ」
「え?」
「アウル・ニーダ・・・僕の名前、覚えておいてほしい・・・」
アウルは、認めたのだ。
自身の敗北、そして・・・強き信念を持つ、目の前のエリオとキャロを。
そうして、アウルは視線を空にやった。
青い空だ・・・自分の最後の場所は、海だった。
海が綺麗なのは、なぜなんだろう・・・と哲学的に、アウルは思ってしまった。
そんなとき、彼の視界に赤い翼が舞い落ちてきた。
「あ・・・」
「え?」
エリオとキャロは瞳孔を開かずにはいられないほど、
呆気にとられ、アウルもそれに反応し、その原因へ眼をやった。
「・・・シン?」
そう・・・シンだ。彼らの前にいるのは、赤い翼をもつ少年・・・シン・アスカだ。
「どこに、葬られたい?」
ふと、シンは口を開いた・・・彼はエリオたちに興味などなく、またエリオたちは動けないでいた。
アウルはというと・・・ニッと笑って言った。
「海」
わかった、とシンはメーアを抱き上げ、その翼を羽ばたかせる。
エリオとキャロは飛び立ったシンの背中を、翼を見て・・・美しいと思った。
だが、美しいものが必ずしも善き者とは限らない。

 

シンがいなくなったことで、エリオは緊張の糸が切れたのか、キャロのほうに倒れ込んでしまう。

 

「エリオ君!?」
「あ、あれ・・・おかしい・・・な、急に、眠く、なっちゃった」
エリオはアハハ、と笑っているが・・・キャロは気づいてしまった。
体が・・・エリオの体が冷たくなってきていることに。
「エリオ君・・・お疲れ様!少しここで休んで行こうよ?
少しだけ・・・そうしたら、フェイトさんを追いかけよう?」
それが、今キャロに言える精一杯の言葉だった。
「うん・・・じゃあ、少し・・・」
キャロに体重をかけ、エリオは瞼を閉じる。
「・・・おやすみ・・・エリオ・・・君」
ちゃんと、起きてね、とキャロは諦めたくないのか、エリオに回復魔法をかけていた。

 

シンとアウルはミッドチルダ近くの海辺へ来ていた。
「早いな・・・シン・・・?」
「・・・」
アウルの言葉に、シンは答えない。
否、答えられないのだ・・・シンは表情に出ていないが、壊れそうなほど・・・疼いていた。
捨て去られたあるはずのない感情が揺れているのだ。
そして、その感情はシンに静かに一言アウルに賜わせた。
「・・・・・・」
「・・・ありがと」
アウルの腕に力がなくなり、ガクンと下ろされた。
そして、シンはそのままアウルを海へと浮かべ・・・そっと彼を、海に還した。

 

穏やかな顔のまま、深海へと・・・闇へと落ちていくアウル。
だが、そんな彼は・・・もう照らされていた・・・若き雷光によって。

 

フェイトは、不気味さゆえに、立ち止まっていた。
いくら飛ばしても、目の前の“D”に近づけないでいるのだ。
距離が縮まらないというのは、いくらフェイトでも不安を募らせる。
「くっ・・・結界に閉じ込められた?」
そんな気配はなかった、と頭では考えていても、実際に自分の目の前の世界は、自分を拒絶していた。
「・・・こんなところにまで、連れてきて・・・何の用ですか!?」
声を荒げ、フェイトはあたり一面に声を響かせる。
それは誰に向けてか・・・分かっているのだ。それは、フェイトにとって一番の敵であることは。
「あぁ、気付いていたのかい?」
反響するように声が響く。
それにフェイトは身構えて反応し、警戒心を高めた。
だが、そんな必要はないといったように、フェイトの目の前には、あの男が姿を現してきたのだ。
「ラウル・・・テスタロッサ」
忌々しげ、とは少し違うが・・・やはり、何か因縁めいたものを感じずにはいられず、ラウルは肩をすくめて笑う。
「こうして会うと、やはり君は彼女の面影があるね?」
相変わらず、笑ったまま、ラウルはそんなことを口にした。
悲しげに・・・寂しそうに。
考えてみれば、彼は愛した女性の最後も、そして、その最後につながる過程をもともにできなかったのだ。
哀れと言えば、哀れともいえる。
だが、その悲しみにつきあわされるべき人間は、それに納得し、ついて行くと決めた人間だけだ。

 

もし、彼が・・・この計画の果てに、自分の悲しみの清算、プレシアへの愛を
踏まえているのなら、フェイトは全力で彼を止めなければならない。
たとえ、父と呼ぶべき存在であってもだ・・・だが、そんなこと、彼に限ってあるはずもない。
別に人間に絶望したわけでも、世界を拒んだわけでもない。
ただ・・・守りたいだけ。
正しいというのは、善悪ではない。
おそらく、一方を善とする圧倒的な支持率が、それを正義とし、否定された者たちは悪となる。
正しさを悪と呼ばれれば、誰しも抵抗せざるをえないだろう。
きっと、間違った結果なわけじゃない。
これは、フェイトたち・・・管理局という存在そのものが生んだ業でもあるのだ。

 

「シンが今まで殺した人はね・・・」
ラウルは目を細めて、突然話題を変える。
フェイトもラウルに戦意がないことを悟り、その話に耳を傾けようと決めた。
「シンが今まで殺してきた管理局員たちは全員・・・かすかでも、人を傷つけた人たちなのさ」
「!?」
「彼のデバイスにそのデータをすべて私が入れた・・・私は、彼を・・・
罪もない人を傷つけた者たちを殺す殺戮者に仕立て上げたのさ」
フェイトは唖然とならざるを得なかった。
殺されていったのは、罪もない人だと決め込んでいたからだ。
だが、違ったのだ・・・彼は、罪ある人を・・・。
「確かに、それだけで殺されるのか、と言えばそうじゃないだろう・・・だが、シンは
許せなかったんだろう。感情を怒りのみしか残っていないのに、その怒りにまかせ、
彼はその剣を振るわざるを得なかった。彼の憎しみは、痛みを与えたすべての人間への・・・罰なんだ」
憎しみが罰と彼は言う・・・さしものフェイトも、それには動揺を隠せなかった。
シン・アスカという人間は、ひどく不安定なだけだと、
あの“赤い翼”はもう憎しみでしか戦っていないのだと、思っていた。
「憎しみとはマイナスのイメージでしかない・・・だが、そのマイナスは、必ずマイナスを打ち消すんだよ」
科学者の発想だ、とフェイトは思うも、口にはしない・・・むしろ、彼の一言一句に意見すらできないでいた。
だが、ひとつのことが頭に浮かぶ・・・彼と同じ世界出身のカガリのことだ。
「なら、なぜアスハ提督を・・・?彼女は!」
「シンと同じ世界出身、だが、彼女もまた人を殺しているだろう?だから、彼は罰を与えたんだ」
「だが、彼ははやてをも手にかけた!はやては人なんて殺していない・・・傷つけていない!!」
これは矛盾だ・・・殺していないと、罰を与えられるべきではない人間だと、そう訴えるフェイトにラウルはまた眼を細めて答えた。
「八神はやてへの感情は・・・おそらく、彼なりの愛情だよ」
予想だにしていなかった言葉に、フェイトはひどく驚く。
「怒りという感情しかない彼が感じた愛情・・・それゆえに、その歯がゆさから
逃げたいがゆえに、彼女を傷つけ、殺した・・・まぁ、彼女は生きているみたいだが。
フェイト・・・彼と彼女は似ているんだよ?守るべきものを守ると誓ったのに、何もできず、失うことしかできない」
それを聞いて、フェイトは脳裏に幼き日に別れを言い放った綺麗な女性のことを思い出す。
「惹かれているんだ・・・きっと、ね?さて、フェイト・T・ハラオウン執務官」
話を切られ、階級で呼ばれフェイトは体を強張らせるが、ラウルの動きのほうがはやかった。
彼は“賢者の書”を開き、そのページに刻まれた呪文を詠唱した。

 

“音と絵の館”

 

それが呪文名なのか、定かではないがラウルはそう口にした。
その瞬間、フェイトの体が発光し始める。
「これは!?」
フェイトは今自分にある感覚に覚えがあった・・・かつて、闇の書と呼ばれた者との戦いで、取り込まれたときのことだ。
「行っておいで・・・映画館へ」
「・・・?」
一瞬だが、フェイトにはその時ラウルがとても悲しそうにしている気がした。
フェイトはその場から消え、あとにはラウル一人が残った。

 

「・・・私のやることは、罪だが・・・まだ、断罪はされないさ」

 

オルガに続き、アウルも墜ちた。
過去の痛みと、現在の絆、未来への渇望が二人の子供たちに力を与えたのかもしれない。
痛みを知る双方は、決してどちらも劣っていたわけじゃないのだが。
それでも、なお、この戦いに勝利した少年と少女は、確かに勝っていたのだ。
痛みを知り、その痛みに打ち勝った。
絆を信じ、望みを捨てず、その想いを勝利に満たしたのだ。
分かり合えなかった、と悲しむことはない。
少年と少女・・・エリオとキャロの勝利は、未来へつながるのだから。
そのための、雷光なのだ。

 

世界とは区切られているものだ。
戦いがあるかないか、青年はそんな考えを持っていた。
そもそも、青年は戦いを、殺し合いかそうではないか、とも分けていた。
結果、青年がしていたのは殺し合いだろう。
しかし、世界が変わると、その考えも違ってきていた。
青年が世界を変えた時、会ったのは、戦いだった。
戦い・・・自らがその手を血に染めないという世界。
青年はそれがどこまでも救いに感じられ、今も空をかける。
背中の翼は今はもう、自由を求め飛び続けるだけではない。
救うためにあるのだ。
そして、過去の罪を・・・力に変えて

 

次回 心にある“十字架”─蒼き自由編─

 

自由とは、逃げるための言葉じゃない。