Macross-Seed_◆VF791dp5AE氏_第06話

Last-modified: 2011-04-15 (金) 10:37:35

プラントの観光名所の一つとして挙げられる羽クジラ・エヴィデンス01。
いつもなら様々な人々のクジラに対しての想いが集う場所だが、今日はいつもと違っていた。
いまやプラントでは知らぬ者の無いほどの人気を誇る人気バンド、ファイアーボンバーの熱気バサラがクジラの化石の目の前に居るからだった。
しかも、その熱気バサラは化石を見上げたまま、三十分近くもここに留まっているのだ。
化石を見ているようでいて見ていないような目をして、たたずむバサラ。
周りの人間はよく分からない表情でクジラを見上げるバサラの空気に呑まれたのか、動くに動けないようだ。
なんとも息苦しいような重い雰囲気。
そんな重苦しい雰囲気を破ったのは、その原因たるバサラだった。
ガシガシと頭をかきむしり、肩からかけたギターをかき鳴らす。
バサラを遠くから取り巻いていた人々が、大きな音にザワつく。
その瞳には強い光が宿り、メディアでよく見るバサラそのものだった。
「化石になっていようが関係ねえ!
 いくぜクジラぁ、俺の歌を聴けえ!!」
<振り向くないつだって
 情熱の向かう先に そこはきっとある>


「あ~、久々のオフはやっぱ開放感あるぜ。」
フェイスになってから急に仕事が増え、ろくな休みも取れなかった。
騒がしい司令室の連中も、何かに付けて用事を頼んでくる議長も居ない開放感。
市街地をまわるのもいいが、たまには静かな所ですごしたいと思い、たどり着いた博物館。
(ま、たまにはこんなところもいいだろ。)
チケットを買い、中に入るとこの場所には似つかわしくないギターの音。
しかも誰かの叫び声まで聞こえる。
こんな場所でこのような音を聞く、という事は何か事件でも起きたのだろうか。
(チッ、おちおち休めもしねえのか。)
状況を確認しようと音のしたほうへ走る。
エヴィデンス01が展示されてあるフロアにたどり着くと、聞こえたのはこの一月余りで聴きなれた歌声だった。

「おいおい、何の騒ぎかと思って駆けつけてみりゃバサラのゲリラライブかよ・・・。」
なぜかクジラの前で歌(確かNEW FRONTIREだったか)を熱唱しているバサラ。
周りにはクジラの化石を見に来た人々がバサラの歌を聴こうと人垣を築いている。
しかもバサラの生演奏を聴こうとさらに人数が膨れ上がりつつあるようだ。
<扉はもう開いているのさ あとは飛び込んじまえよ>
「あの馬鹿、こんなところで歌ったら警察にしょっ引かれちまうぞ。」
いくら議長がファイアーボンバーの後押しをしているといっても、警察に捕まるとなると話は別だろう。
(面倒になる前にやめさせるか・・・)
歌ってる途中であいつが止めるかどうかは考えないようにしよう、と心の中で思いつつバサラに近づく。

<It's NEW FRONTIER そうさ オレたちここにいると
 鐘を打ち鳴らせ Woo Woo>
「おいバサラ、こんなところで何やってんだよ。」
<It's NEW FRONTIER だから もっと
 胸に火をつけろ かけがえのないもの 解き放つさ>
「ここはまずいって。さっさと別のところにいこうぜ。」
しかし、ハイネの声が届いていないのか止める気配が無い。
それどころか、二番に向けてますますヒートアップしているようだ。
<目を醒ませ 感じるさ
 魂と この宇宙が クロスしてると>
「おい、聞いてんのかよ。おい、バサラってば!」
<口笛でこたえろよ
 その胸に このメロディー響かせるから>
「おい、二番なんか歌ってる場合じゃねえって。
 いくらプラントが緩いからっても、ここで歌ってるとマジイんだよ。」
<Long Long Way 一歩踏み出せよ
 心を縛るすべてのものを ひきちぎればはじまりさ>
こちらの声は、まったく聞こえていないようだ。
「あー、もう、言っても聞きやしねえ。
 こうなりゃ実力行使だ!」

バサラの腋の下の股の下に手を入れて、肩に担ぎ上げる。
そこまでしてようやくバサラがハイネに気付いたのか、抗議の声を上げる。
「イッツ・・・おわぁ、ハイネ!?テメエ、いきなり何しやがんだよ!?」
「馬鹿、こんなところで歌うんじゃねえ!サツが来る前にずらかるぞ!」
ハイネはその場でターンして周りの人間に頭を下げて詫びを入れる。
「皆さん、お騒がせして申し訳ありません。
 こんな大馬鹿野郎だけど、応援してやってください。
 んじゃ、こりゃまた失礼しました。」
そういうとバサラを抱えて一目散に非常口に向かって走る。
勢いに飲まれたのか、周りの人間は時間をとめられたがごとくそれを見送る。
そのまま二人が見えなくなってしばらくした後、誰かが
「あ、サインもらっときゃ良かった。」
とつぶやいた瞬間、とまっていたフロアの人々の時間が動き出したのだった。


ハイネはバサラを担いだまま外に出て、ようやく一息つく。
追っ手はいないようだ。
「あー、しんどいぜ。ったく、せっかくの久々のオフが台無しだぜ。」
「何しやがんだよ、ハイネ!
 せっかく人が歌ってたのに邪魔するなんざ、人でなしもいいとこだぜ!」
肩から下ろすとバサラがハイネに抗議するが、ハイネの鋭い視線にバサラが怯む。
「あのな・・・、あそこはプラントの人間にとっちゃ特別な場所だぞ?
 そんなところで無許可でライブしてみろ、ブーイングの嵐だぜ!」

そういって近くにある自販機に硬貨を入れる。
缶コーヒーを2本買って、一本をバサラに投げてよこす。
「ブラックでよかったか?」
「サンキュ。」
互いにコーヒーを飲み、のどの渇きを癒した所でハイネがバサラに聞く。
「んで、何だってあんな場所で演奏(や)ろうなんて思ったんだよ?」
「あのクジラの化石を見てたらつい、な。」
ああ、とバサラの答えを聞いてハイネは納得する。
彼は羽クジラにこちらに飛ばされたのだから文句の一つや二つも言いたいだろう。
「ま、確かにお前はクジラに連れてこられたんだからあいつらに対して思うこともあるだろうがよ。
 だからって、あそこは止めとけよ。
 あれはこっちの世界の人間にとっては非常に大切なもんだ。
 そんなもんの前で歌うと議長の顔もつぶれるし、ユニット組んだラクスにも迷惑がかかるだろ?」
バサラに説教臭いセリフを吐いていると、呼び出し音が鳴る。
エマージェンシーコールがなるということは連合でも攻めてきたのだろうか。
「俺だ、どうした何があった・・・・こ、これは議長。
 いえ、そういうわけでは・・・はい、はい了解しました。ではそちらへ向かいます。」
ああ、せっかくのオフが、とぼやきつつバサラに議長からの伝言を伝える。
「議長が執務室まで来いってさ。
 後、途中でラクス・クラインも拾って来いとさ。」
何か、疲れた顔をしてハイネがつぶやく。
(今度は俺に何させようってんだよ、議長は。オフくらいのんびりさせて欲しいぜ。)


「やあ、来たかね三人とも。」
議長は机の上に並んだ書類にサインをしつつ、三人に声をかける。
「呼び出しておいてすまないが、少々待ってもらえるかね。
 なに、もうすぐ終わる・・・この件はこれでよし、と。
 そっちの報告書の内容では不十分だ、もう少し詳しい資料を付けて置くように伝えてくれ。
 あと、こっちに関しては変更が少しある、ここの部分にもう少し奥行きを取っておくように。
 それと、上でモビルスーツが激しく動いても大丈夫なくらいの強度が欲しい。
 指令には『必要ならば本国から物資を送る、可能な限り頑丈に』と伝えておいてくれ。」
やはり、議長ともなると忙しいようだ。
書類に目を通すだけでなく、内容に対して色々と注文を付けている。

三分ほど経ってようやくひと段落着いたのか、議長が応接テーブルのほうへ座る。
「やれやれ、この後のことも考えると仕方ないのだろうが、もう少し私までまわってくる書類を減らすことを考えねばな。
 これでは私が地球で一仕事終えた後の仕事量がとんでもないことになりかねん。」
「議長、今地球でとおっしゃいましたが、今回の呼び出しはその件に関してでしょうか。」
「うむ、そうなのだ。
 宇宙では小競り合い程度の戦闘があるだけだが、地上ではいまだ激戦が続いている。
 地上の兵士たちの鼓舞もかねてディオキアの町へ行くことになった。」


「ディオキアといいますと、確か黒海沿岸でしたか。
 で、自分はその護衛でしょうか?」
「その通りだ。それと、その後は君にはミネルバ隊に向かって欲しい。
 あの艦には現在、航空戦力が不足している。
 ディンやバビを五機ほどまわそうかとも考えたが、ミネルバ隊は地上において抜群の戦功をあげている、いわばザフトのトップエース隊だ。
 そこに平凡な一般兵を送るよりも、君のような歴戦の勇士を一人まわしたほうが良いのではないか、というのが司令部の意向だ。
 私としても君と先行量産型のグフイグナイテッドならば、あの艦に送る戦力として申し分無いと判断した。」
「確かに、ミネルバの戦功はすごいですからね。」
もともと宇宙用の戦艦でありながら、各地を転戦し活躍するミネルバ。
判断力に優れ、議長からの信頼も厚い艦長のタリア・グラディス。
ザフトに復帰した『ヤキンの英雄』アスラン・ザラや、ネビュラ勲章受勲のスーパールーキーシン・アスカなどの優秀のパイロット。
そのようなミネルバに送る戦力にフェイスのハイネがあげられてもおかしくは無いが――
「ですが、議長。あの艦に何人フェイスを乗せるつもりですか。
 自分が配属されますと、ミネルバに三人ものフェイスが居る事になります。
 グラディス艦長は別としても、アスラン・ザラとは同じパイロット同士です。
 MS隊の指揮系統など、色々と問題が出てくるのではないかと考えますが。」
聞くところによると、現在MS隊を指揮しているのはアスラン・ザラだという。
後から配属されたハイネも、彼と同じフェイスでは彼がやりにくいのではないか。
「なに、そのあたりは問題ない。
 アスラン君は優秀なパイロットだが、指揮においては君に多少劣るところがあると見ている。
 ミネルバ隊のMSは君が指揮してくれたまえ。」
「ハッ、了解しました。
 特務隊ハイネ・ヴェステンフルス、ディオキアまでの議長護衛、及びミネルバ隊配属を謹んで受領します。」
「うむ、わざわざエマージェンシーまで使ってオフの日に呼び出してすまなかったね。
 しかし、こちらとしても少々急いでいたのだ。そのあたりは勘弁して欲しい。」


「で、そんな話だけならなんで俺らまで呼ぶんだよ?」
「そうですわね、先頃ファーストライブも終了しましたし、こちらも意外と忙しいんですけれど。
 レコーディングや、次のライブに向けて色々と準備などもありますし。」
ファイアーボンバーの二人から軽い文句が出てきた。
呼び出されておいて来てみれば待たされて話題にも上らない。
何のために呼んだんだ、とバサラだけでなくミーアも微妙な視線を向けている。
「ああ、君たちにももちろん用件があるから来てもらったのだよ。
 実はだね、次のライブはぜひディオキアで行ってもらおうと思っているんだ。」
「まあ、地球でですか?」
「うむ、地上でがんばってくれているザフトの諸君に少しでも心を休めてもらおうと思ってね。
 すでにディオキアの駐留軍に特設ステージの建設作業に入らせている。」
「で、今度はバルキリーを乗せてもステージが壊れねえんだろうな?
 前みたいに直前になって変更はいやだぜ?」


ファーストライブにおいて、バサラのバルキリーが一般に公開される予定だったが、問題があったため急遽中止されていた。。
リハーサル時にステージ上に搬入しようとしたはいいが、ステージが狭く、またバルキリー自体の重量もあり中止されていたのだった。
「もちろん大丈夫だとも。
 今回のステージはMSが10機乗っても大丈夫なほどの強度を備えさせてある。
 例えザクが激しく踊っても問題ないはずだ。」
「ということは、例のザクも同時にステージに置かれますのね?」
「うむ、そういうことになる。で、二人とも了承してくれるかね?」
バサラとミーアが互いに見合い、相手の意思を確認する。
先に口を開いたのはミーアのほうだった。
「私は問題ありませんわ。
 ザフトの皆さんが私の歌で少しでも癒されるのならば、是非。」
続けてバサラも口を開く。
「ヘッ、ステージがどこだろうと最高の歌を聞かせてやるぜ!」
二人の返事に満足げな顔をして議長が微笑む。
「そうかね。予定では三日後に専用機で降下することになっている。
 二人とも、地上に降りる準備などをしっかりしておいてくれたまえ。」


「あ~、これくらいなら明日でもいいじゃねえか。何だってオフの日に呼び出されるんだよ。
 にしても、ミネルバに配属とは議長もずいぶんと思い切った采配をするぜ。」
執務室から出て、三人で談笑しながら歩いているとハイネがため息をつきながらそう切り出した。
「しっかし、地上に配属、しかも最前線なるとお前さんたちのCDをすぐに聞けなくなるな。
 地上でのライブを特等席で見れるのは嬉しいんだが、そこがつらいぜ。」
「まあまあ、よろしいではありませんか、後の楽しみができたと思えば。」
「いーや、俺はショートケーキのイチゴは先に食う派なんだ。
 我慢は体に良くないだろ?」
「私は最後まで取っておく派ですわね、バサラはどうなんですの?」
「別に気にしねえよ、イチゴくらい。」
「そうだ、フェイス権限で戦場まで出たばっかのCD運ばせてやろうか。
 ミネルバの連中もお前さんらの歌は好きだろうし、皆のためになるってことでさ。」
「流石にそれはどうかと思いますが・・・職権乱用で議長に文句を言われそうですわ。」
「激戦区を生き抜くための心のゆとりのためさ。
 普段からの心の余裕が戦場での余裕につながるはずだと思うがなぁ。
 ・・・・(キュピーン!)そうか、いい事考えたぜ。これなら問題ない。」

「まあまあ、次はどんな悪巧みを考えましたの?」
「バサラもフェイスなんだからこの際一緒にミネルバに配属しちまうのはどうだ?
 これならオッケーだろ?ラクスはゲストってことでブリッジに入れてもらえばいいし。」
「中々いい案ですけど、それだとそもそもレコーディングができませんわ。」
「ちぇ、駄目か。中々いい案だと思ったんだが・・・・・・ん、バサラ、どうした?」
足音が二人分しか聞こえないと思い、振り返るとバサラが立ち止まっていた。
表情を見るとかなり機嫌がよさそうだ。
「いい事言うじゃねえか、ハイネ。
 そういやそうだったな、俺もそんなんだったぜ。」
そういうと急に来た道を引き返しだす。
「お、おい、バサラ、どこ行くんだよ!?」
「悪ィ、先行っといてくれ!」
静止する間もなく、あっという間に見えなくなるバサラ。
二人はあっけに取られたままそれを見送り、途方に暮れる。
鼻の頭を掻きつつ、ハイネがつぶやく。
「ぁ~・・・・ひょっとして俺地雷踏んじゃったか?」
「かも知れませんわね・・・ああなると止まらないでしょうし。」
ミーアもハイネに同意する。
(一体何をするつもりやら・・・)
(せめて周りに迷惑かけなければいいですけど、多分無理な気がしますわ。)



三人との会談終了後、議長は再び机の上に積み上げられた書類を処理しつつ、今後のことを考える。
(ミネルバの活躍は思ってた以上だな。
 アスラン・ザラだけでなくシン・アスカもこうまで活躍してくれようとは。
 彼らにはまだまだ働いてもらいたいね。
 このまま順調にいけばジブリールも焦ってボロを出すはずだ。
 そこで一気に畳み掛け、彼らを叩く。
 それが終わればいよいよ例のプランの発表だ。)
一人怪しげな笑みを浮かべていると、なにやら外が騒がしいことに気付いた。
(ん?)
激しい足音がしたかと思うと、勢いよく扉が開かれる。
「おい、議長のおっさん!!」
声のしたほうを議長が見ると、バサラが食いかかりそうな勢いで執務室に飛び込んでくる。
「ど、どうかしたかね、バサラ君?」
勢いに飲まれ、議長が驚きつつ用件を聞く。
ずかずかと遠慮無しにこちらへと近づいてき、バンッと大きく机を叩く。
そしてニヤリと笑うと、バサラはこう言い放った。

「俺もミネルバに行くぜ!」


機動戦士ガンダムSEED DESTINY feat.熱気バサラ
第六話 地球へ~NEW FRONTIER~