Macross-Seed_◆VF791dp5AE氏_第13話

Last-modified: 2009-03-27 (金) 19:30:16

ステラがガイアのパイロット?
そんな馬鹿なことがあるもんかよ、ただの見間違いに決まってるじゃないか。
パイロットは頭血ってるから当たり所が悪ければそのまま目覚めないだけ。
たまたま知り合いの女の子に似た女パイロットが死に損なっているだけ、
それでオールオッケーじゃないか。

 

「――ってそんなわけあるかあ!」
あれはどう見たってステラだ。うん、間違いない。
頭を強く打っているってことはかなりやばいんじゃないのか?
ガイアのコックピットからステラを引っ張り出してインパルスまで運ぶ。

 

「ちょ、何やってるんだシン、その敵兵をどうする気だ!?」
アスランが文句を言ってきたがそんなの気にしていられない。
「あんたがパイロットを捕らえて尋問するって言ったんだろ!?
 このままじゃ尋問も出来ないからミネルバの医務室まで運ぶんだよ!」
ステラを乗せてインパルスをミネルバへ飛ばす。

 

「あの馬鹿、自分が何しようとしてるのかわかっているのか?
 ――――ミネルバ応答せよ、こちらセイバー、アスラン・ザラだ。
 現在、シンがミネルバへ昏倒した敵パイロットを尋問の為に連行している。
 拘束して医務室まで運ぶ手筈を整えておいてくれ」

 

ミネルバのMSデッキに辿り着くと、ストレッチャーが用意してあった。やけに準備がいいな?
「急患です、急いで医務室へ!」
「ザラ隊長から聞いている、ガイアのパイロットだな?
 コイツに乗せろ、拘束した上で医務室まで運ぶ」
「ハァ?何言ってんだよ、怪我人を縛るなんてそんなこと――――」
「この女は連合の兵士だぞ、拘束で済むだけマシと思え!!」
「くっ……」
そうだった、ステラは連合の軍服を着ていたんだった。
ステラが連合軍人のはずも無いけど、軍服を着ている以上そう見られても仕方ない。
怪我人を縛るなんて納得は行かないけどこの場合は仕方ないな。

 

医務室に運ばれると、すでにドクターが待機していた。
ドクターはステラを治療用のベッドに寝かせると、やはり他の連中がしたようにベッドに縛り付けていく。
そのままベッドに縛り付け診察を行う。かなりやりにくそうに見える。
「ステラの容態はどうなんですか、ドクター?」
「頭を強く打っているようだから、軽い脳震盪だろう。
 このまま放っておいても目が覚めるだろう」
よかった、命に別状は無いみたいだ。

 

ホッとした俺にドクターが苦笑しながら語りかける。
「しかし、連合の兵士を縛り上げもせずに運び込もうなんて、軍規違反もいいところだぞ。
 フォローを入れてくれたザラ隊長に感謝するんだな」
考えてみれば完全に軍規違反だ。
そもそもアスランに言った言葉も詭弁だったような気がする。よく覚えてないけど。
ミネルバに降りた時点で撃たれててもおかしくないのに、撃たれなかったのはアスランのおかげだったのか。
俺の知らない間に何かしらの連絡を入れてくれたアスランに、素直に感謝しとくか。

 

「お、どうやら意識が戻ったらしいぞ」
言われてステラのほうに顔を向けると、うっすらと目が開いていた。
まだ寝ぼけているのか、視点を合わせずにボーっとしているようだ。
意識が戻ったら知らない場所だったら怖がるだろうなと思い、ドクターに断ってから俺が声をかける。
「ステラ、気がついた?」
こっちに目を向けてきたが、全然反応が無い。
とりあえず声のした方を向いただけのようだ。
だんだん意識がしっかりしてきて目がはっきりと開いていく。
そして俺に向けて―――知らない人を見るかのような冷たい目で言い放った。

 

「―――だれ?」

 

………え?

 

いや、誰って……まだ寝ぼけてるだけ、だよな?
冗談だよな、とステラに聞こうと彼女の顔を見るが、すでにこっちを見ていなかった。
不審そうな顔で医務室の中を見回しているようだ。

 

「ここ、どこ?」
ベッドの上から見ただけではわからなかったらしく、起き上がりながらステラがこっちに質問をしてくる。
が、ベッドに縛り付けられていたせいで起き上がれず、そのまま彼女の頭だけが持ち上がった。
上がった頭で自分の縛り付けられている身体を見て―――ステラの表情が変わった。

 

「クッ…このぉ!」
力任せに自分を拘束している器具を破壊しようと激しく暴れる。
自分の身体が拘束具で傷つけられてもやめようとしない。
あんなに血が出ているのに。
ただの女の子であるはずのステラが、どうしてこんなことを。
「いかん、錯乱しているようだ。急いで鎮静剤を!」
慌ててドクターが首筋に何かを打ち込む。
数秒でステラはまた眠ったようだ。
「なんで…どうしてだよ、ステラ……」
訳がわからない。あれだけ濃い時間を過ごしたのに、なんで忘れてるんだ?
ステラの言葉に混乱していると、アーサー副長が艦長室まで来るように言ってきた。
恐らく艦長の了解を得ずにステラをミネルバに運んだ事についてだろう。
軍規違反は事実だし、仕方ないよな。大人しく怒られてくるか――――

 
 

艦長室に入ると早速怒られた。
ミネルバに運び込む前のアスランの命令のおかげで怒られる事柄は減ってはいたが、それでも多い。
三十分ほど艦長室の床に正座させられつつ大声で叱責を受けた。
靴を履いたまま正座させられたので非常に足が痛い。

 

その後、ステラに関する事を洗いざらい喋らされた。
二人っきり、しかもほぼ全裸で数時間過ごした事だけは流石に喋りたくなかったが、
艦長の誘導尋問に引っ掛かって喋ってしまった。
艦長がストレートに「――で、やったのかしら?」と真顔で訊いてきたせいだ。
ちょっとむせた後、慌てて否定したら言う必要の無い事まで一緒に言ってしまったのだ。くそっ……
まぁ、そのおかげか思ったより早めに開放されたけど。
絶対に艦長は誤解している気がする。主に性的な意味で。
「捕虜の尋問はあなたにまかせるわ」とか言われたけど、どうやって敵の内情を話させろってんだよ?
「捕虜だからって乱暴な扱いしちゃ駄目よ?」とか言いながらゴムまで渡してくるし。
けど言い訳するとさらにヤバい誤解を受けそうだからなぁ……どうしよう?
とりあえずステラの居る医務室へ向かうか。

 

医務室で相変わらずベッドに拘束されているステラを見つめる。
「寝顔は普通のかわいい女の子に見えるのに、どうしてこんな……」
「そういうクサいセリフは心の声だけにしておくべきだと思うがね。
 ―――理由は簡単だ、それは彼女がエクステンデッドだからだよ」
「エ、エクステンデッドですって!?」
心の声が漏れていた事はスルーして、ドクターが言ったことを反芻する。
エクステンデッド、薬やその他の技術で人工的に強化された戦う為の存在。
さっきまで居たラボでやっていたような、凄惨な実験をステラがやらされていただって!?

 

俺の驚きを無視して、ドクターはステラについての情報を話す。
「簡単に調べてみたが、彼女の身体からは様々な薬物反応があった。
 本来人間が持たないような物質や、持っていても少量の物質が過剰に投与されているらしい。
 それらの物質が、並みのコーディネーターを圧倒するエクステンデッドの戦闘力を生み出す
 原因ではないか、 と私は思う。
 ―――しかし、それらの殆どは健康に悪影響を及ぼすものであろうことは想像に難くない。
 ここまでして我々に勝ちたいとは……正直言って、理解の範疇を超えているよ」
健康に悪影響って……ステラの身体はボロボロってことか?

 

「彼女の身体は、薬物の過剰投与や精神操作などで限界を迎えつつある。
 これはあくまでも私見だが――――このままでは彼女は長くは持たんだろう」
「そんな!?」
「エクステンデッドの資料が少な過ぎて、彼女に有効と思われる治療法が無いのだよ。
 今回見つかった資料も殆どが断片化しているらしく、有効に使えるには一月はかかるそうだ。
 その一月の間に徐々に衰弱していき、治療法が見つかる頃には彼女は………」
一月と持たずに、ステラが、死ぬ。
それだけは何としても避けないといけない。

 

「何とかならないんですか、ドクター!?
 ザフト脅威の技術力って奴でこう、身体を治すとか、大手術を成功させるとか!」
ザフト脅威の技術力があれば、ステラを元に戻せないか。
そう思いドクターに聞いてみるが、反応は芳しくない。
「プラントは医学薬学分野では連合側に大きく遅れをとっているのが現状だ。
 遺伝子治療など一部の分野では先を行っているとはいえ、全体で見れば遅れている。
 ある意味、連合の医学技術の結晶とも言えるエクステンデッドの治療は、たとえ本国でも難しかろう」
そんな……プラント本国でも難しいなんて。
「肉体的にはここでも治療できるかも知れない。
 だが、精神操作の影響で心が弱っていてはどうしようもないのだよ」

 

肉体的には治療可能。が、精神的な負担が激しい。
と言うことは――――

 

「つまり、メンタル面で何とかなれば、ステラは生き延びれるってことですか!?」
「可能性だけで言えば、そうなるだろう。
 しかしプラントの催眠療法(ヒプノセラピー)で緩和できるか、と言われても正直怪しい面がある。
 恐らく強力な精神操作を何度も受けているだろうから、逆に悪化する危険性もあるからだ」
ヒプ……?専門用語で喋られても素人の俺には判らない。
「……とりあえず、素人が迂闊に手を出せない状況だ、と思ってくれればいい」
俺の表情を見て取ったのか、ドクターが簡単に言いなおす。
流石にそれなら俺もわかる。
治療しようにも危険性のほうが高い。
かといって何もしなければステラは死んでしまう。
コレじゃどうしようもないってことじゃないか……

 

「打つ手無し、か……クソッ!」
何も出来ない自分に無償に腹立ち、医務室の壁を思いっきり殴る。
かなり大きな音が響いたが、薬で眠らされているステラには影響が無かったらしい。
しかし―――

 

「―――おいおい、せっかく気持ちよく寝てたのによ。
 そんなでかい音出されたら寝るに寝れないじゃねえの」
何故かカーテンの向こう側で寝ていたハイネは起こしてしまったらしい。

 

ハイネとルナ、ミネルバに戻っていたのか………ってなんでハイネは医務室で寝てるんだ?
確か買出しに出かけたはず…だよな、それがなんで医務室に?
そんな俺の疑問はカーテンの向こうから出てきたハイネの顔を見て一気に消えた。
「ど、どうしたんだよ、それ!?」
包帯を顔の殆どに巻いているせいで地肌が殆ど見えていない。
見ているだけで痛々しいほどに、包帯だけだ。
顔だけ見れば、どっからどう見ても立派なミイラ男だな。
「いやー、ちょっと顔面から岩場に突っ込んじまってよ、おかげで色男が台無しだぜ。
 ま、見た目ほど痛みは無いんでそれだけが救いか?」
どうやったら岩場で顔面から倒れられるんだ?

 

「ま、それは置いといて……どうしたのよ、さっきの壁殴りは?
 まさかお前、自分で自分を痛めつける事に快楽を見い出す危ない趣味持ちか?」
ハイネのあまりの的外れな予想っぷりに突っ込む気力すら起きない。
どうせわざと言っているんだろうしな。
ちょうどいいや、自分一人の中にステラのことを仕舞っておけるほど俺はタフじゃない。
たぶんハイネみたいな気楽な考えの人間に話せば少しはすっきりするかな、と思いゆっくりと喋りだす。
「実はですね――――」

 

 

「―――つまり、要約するとアレだな。
 医者はどこだ、って奴だな?」
「明らかに要約しすぎだろ……本当に分かったのかよ?」
「イヤイヤ、ちゃあんとシンがスケコマシでラッキースケベって事くらいは分かってるぜ?」
「どう考えても分かってないだろぉーーー!!」
相談する人間を間違えたらしい。
やっぱりハイネなんかじゃなくてレイ辺りに相談すればよかった……

 

ニヤニヤ笑ったまま、ハイネが喋りかけてくる。
「しかし、あの短い間しか居なかったディオキアで女引っ掛けるとは、相当のジゴロだな」
無視だ、無視。

 

「しかもその前の日に覚えたばっかの歌で釣るなんて、中々考え付かないぜ?」
アー、アー、キコエナーイ。

 

「このステラって子も、偶然FireBomber聴いてたってことだろうが、運がいいとしか言いようがないな。
 うらやましいぜ、このラッキースケベめ」
何も聞こえない。さて、ステラの様子でも見るか。

 

「ステラもお前と同じように、基地でCD買って一晩中聴いてたりしてな。
 でなきゃ一時間も二時間も歌い続けるなんて、やっちゃいないだろうなぁ」
ステラ、寝顔が可愛いよ、ステラ。
何か雑音が聞こえるが、よく聞き取れないし、聞く気もない。

 

……ん?

 

「その辺に関する記憶は消されたかもしれねえけどよ、相当FireBomberが好きだったってことだな」
いや、確かにステラ達はFireBomberの大ファンだったみたいだけどさ。
兄だ、って言っていたスティングもアウルも大ファンだった。
バサラさん本人を前にしてテンパるくらいに。
「しっかし、この子が乗ってたガイアやアビスは前の戦闘でバサラと俺のライブを
 ガッツリ聴いてくれてたって事は、だ。
 意外とFireBomberに関する記憶は残ってんじゃねえの?」

 

言われてみればそんな気がしなくも無い。
前回の戦闘では、強奪された三機は全機バサラさんの歌のリズムに合わせて動いていたようにも見えた。
今までの戦闘では攻撃的だったはずなのに、バサラさんのバルキリーには全然攻撃していなかったし。

 

「また一緒に歌えばお前のことも思い出したりしてな……って、流石にそりゃご都合主義過ぎるか」
「いや、意外といけるかもしれないぞ、それ」
「え?マジで?」
俺の記憶の中のステラはFireBomberが大好きな女の子だ。
ならばFireBomberの歌を一緒に歌った俺のことをそうそう忘れるはずが無い。
よし、次にステラが目を醒ましたらFireBomberの曲を流せないか、早速ドクターに相談してみよう。

 

 

俺とハイネの会話に参加せず、自分の仕事に戻っていたドクターの元に向かい、事情を説明する。
「――――ってことなんですけど、どうでしょうか?」
話を聞いたドクターは腕を組んで考え込んでいる。

 

数秒考えた後、微妙といった顔をして答えを返してきた。
「確かに音楽にはリラクゼーション効果があるがね、そりゃちとご都合主義的過ぎやしないかね?
 クラシックとかピアノソロとか、落ち着いた曲なら精神的な安定も期待できるかもしれないが、
 FireBomberだろう?
 私だって彼等の曲は大好きだが、精神的な安らぎを求める時に聴くかと訊かれれば答えはノーだよ」
「そこをなんとか!」
両手を合わせて頼み込む。
しかし、ドクターは首を縦に振ってくれない。
「落ち着いた曲ならFireBomberにだっていっぱいあるじゃないですか。
 『REMEMBER 16』とか『SWEET FANTASY』とか!」
どっちもステラは歌ってなかったけど。
そもそもノリのいい曲は帰りの車で一緒に歌ったが、落ち着いた曲は歌ってなかったりするけどさ。

 

「ともかく、FireBomberの歌は駄目だ、落ち着いたクラシックとかにしなさい」
クラシックって言われたって……そんなの全然知らないぞ?
「えーと、じゃあ手品の曲…とか?」
「『オリーブの首飾り』……アレが君の中では落ち着いた曲かね?」
「じゃないですね、すいません……」
専門外のジャンルなので全く手が出せない。
音楽関係に詳しいハイネなら知ってるかも、と思いアイコンタクトを取る。

 

俺のアイコンタクトに気づいたハイネが、ニヤニヤ笑いながらベッドの方からドクターに声をかける。
「ドクター、『ワシントン・ポスト』ならどうでしょうか?」
「行進曲(マーチ)のどこが落ち着いた曲かね……」
「じゃ、『トルコ行進曲』か『ハンガリー行進曲』で」
「さっきと代わらんじゃないか!」
わざとだ、絶対わざとやってるよ、この男。
俺には曲名を聞いてもどんな曲かは全然分からないが、ドクターの顔色を見ればなんとなく分かる。
絶対正反対の曲を挙げてるだけだ。

 

「ワーグナーの『ワルキューレの騎行』辺りが個人的には好きなんですが」
「地獄の黙示録のあのシーンのBGMが落ち着いた曲に聞こえるなら病院にいきなさい」
「ええ、ですからここに居るんですが?」
ドクターがいい加減にブチキれそうだ。
このままだと、もし次に変な提案したら間違いなくキレるって。腕が半分上がってるし。

 
 

ハイネはそれが分かっているのか分かっていないのか、ここでドクターに提案する。
「とまぁ、彼女がシンのようにクラシックのクの字も知らない場合も考えられますんで。
 馴染みの無い場所で馴染みの無い音楽を聴くよりは、せめて聴き慣れた歌を聴く方が
 リラックスできるんじゃない?
 と、私は考えますが、ドクターはどう思います?」

 

こう言われては振り上げた腕をハイネに落とすわけにもいかず、そのままのポーズで固まるドクター。
そして溜め息をついて腕をそのまま下ろし、憮然とした表情で呟く。
「分かった分かった、好きにすればいいじゃないか。
 ただし、万が一彼女の精神に悪影響がでた場合はハイネ君に責任を取ってもらうがいいかね?」
「それは当然取りますが、出来ればそんな状況はご勘弁願いたいもんですな」

 
 

「とりあえずドクターの了解も得たことだし、俺、CDを部屋から取って来ます」
「待ちな、別にわざわざ取りに行く必要は無いぜ」
FireBomberのCDを取りに行こうと思ったが、何故かハイネに呼び止められた。
「何故なら俺が既に持っているからだ!
 こんな事もあろうかと、常にFireBomberのCDを最低一枚は服の中に忍ばせているのだ!」
最低一枚かよ!と突っ込みかけたがあえて突っ込まない。
つっこみを入れたら負けだ。気分的に。

 

懐に手を入れ、CDを探すハイネ。
しかしなかなか出てこない。
「アレ、おかしいな。あの岩場に行く前まではちゃんと持ってたはずなんだが」
「その岩場で落としたんじゃないのか?」
「そうかなぁ?ま、いいや。後でルナマリアにでも聞いてみっか。
 つーことで、悪いな、シン。部屋まで行ってオマエのCD取って来てくれ」
「ああ、分かったよ」
「―――しかし、あそこで何やってたんだ、俺? ………何も思い出せねえな。
 怪我する前の記憶が無いのは頭を強く打ったせいかねえ?」

 

 

部屋からCDを取ってきて医務室のPCにセット完了、これで準備は万端だ。
後はステラが目覚めるのを待つだけ……のはずなんだけど、何か引っ掛かる。
何かステラと約束してたような――って、そうだ!
別れ際に貰った貝殻のお礼に、次に逢ったときには俺から何かをプレゼントするって約束だったじゃないか!
プレゼント、と言われても何も用意してないしどうすりゃいいんだよ!?

 

ポケットに何か持ってないか―――って、こういうときに限って艦長に貰った近藤さんしか入ってないし!
こんなものをプレゼントで来るわけもないし……そうだ、ハイネなら何か持ってないか?
ろくでも無い物しか持ってなさそうなイメージだが、一縷の望みを託してハイネに尋ねる。
「ハイネ、ステラにプレゼントできそうなものを持ってないか?
 実はかくかくしかじかで―――」

 

「何だよ、別れの言葉はやっぱスケコマシの言葉じゃねえか。
 ま、しゃーないか。乗りかかった舟だし、協力してやんよ」
そういって取り出したのは―――――眼鏡、いやサングラス?
この何ともいえない色とデザイン、ひょっとして………どっかの吸血鬼の旦那がしてた奴か?
「いやー、買った覚えもないし、誰かから貰った覚えも無いんだよな、コレ。
 ま、偶然ポケットに入ってたモノだし、オマエにあげるよ。
 そいつでしっかりハートをゲットしな、このラッキースケベめ」
「はぁ、ありがとうございます」
貰っておきながらこの言いようは酷いかもしれないが、このデザインじゃゲット出来そうにありません。
つか、ラッキースケベ言うな。

 

「コレもいいけどさ、他に何か持ってないか?カワイイ系の小物とか」
こんなものが真っ先に出てくるハイネに期待してはいけない、と思いつつも更にねだってみる。
「――って言われてもなぁ、後はこんな物しかないぜ?」
そういったハイネのポケットから出てきたものは、更によく分からないものばかりだった。
ありえない額の書かれた喫茶店の領収書に、スティックシュガー、それとコーヒーフレッシュ?
喫茶店で出てきた奴を使わずにお持ち帰りしたのか?
領収書の金額を見るに、ルナの奴と喫茶店に入ったのか。
アイツと合席なんてご愁傷様としか言いようが無いな。

 

「おぉ、そういやこっちもあったな」
出て来たモノは………おい、またサングラスかよ!
あれ、でもこのデザインは確か―――バサラさんがしているのと同じものか?
サングラスなんて、とも思うけど、意外と悪くないかもな。
バサラさんがしているものと同じなら、ひょっとしたらステラも気に入るかもしれないしな。
他のアイテムに比べればプレゼント成功率は高そうだ。

 

「じゃあ、コレにしておきます」
ありがたくサングラスを受け取り、近藤さんが入ってないほうのポケットに入れる。
しかし、ハイネの手によりポケットの中にさっき出されたアイテム全てが突っ込まれる。
「遠慮せずに貰っておけって。特にスティックシュガーとか役に立つから。
 海で漂流した時とか、絶対役に立つから。な?」
絶対そんな状況に遭遇しないと思うけど。
単に要らないゴミを俺に押し付けたいだけじゃないのか?

 

 

「おっ、諸々の準備が終わったところでオマエのお姫様が目を覚ましたみたいだぜ」
ドクターが手を振ってステラが意識を取り戻したことを教えてくれている。。
急いでベッドの傍に駆け寄りステラに声をかける。
「ステラ、ボクだよ、シンだよ、分かるかい?」
「―――だれだ、おまえなんか、知らない」
大声で呼びかけたが、期待していたような反応は無い。
険しい表情で、敵を見る目で俺のことを睨みつけてくる。
やはり精神操作の影響で俺の事は忘れられているらしい。

 

「そうか……でも、この曲を聴けば俺のことを思い出してくれると信じてるよ」
「うるさい、あっちへいけ!」
PCのスピーカーから『HEART & SOUL』のイントロが流れ出す。
それと同時にステラの表情が緩んだ。
続けて、バサラの歌声が流れるとその表情はあの岩場で見せてくれていたものに戻った。

 

<言葉だけじゃ 届かない 消えてく熱い想い 歌にのせ>

 

ステラが歌に合わせてリズムを取っている。
縛られていなければその場で踊り出しそうなほどに激しく。
そして、この曲のタイトルでもある『HEART & SOUL』と歌う部分。
そこは曲に合わせて一緒に歌いだした。

 

<見つめあって伝えよう
 暖かなHEART & SOUL HEART & SOUL HEART & SOUL…>
「みつめあってー つたえようー
 あったたかな はーらんそー、はーらんそー、はーらんそーおー」

 

間違いなく今の彼女は俺の知っているステラだ。
「HEART & SOUL」の部分をどうしても「はーらんそー」と歌ってしまう女の子。
ほんの数日前に聴いただけのはずなのに、何故か懐かしく感じる歌声。

 

「どんなーとぉきでもー つよくぅだきぃあえばー
 そばにいなぁくてもー きみのこえがすぅるー」
そんなステラの歌声を聴いていると視界がぼやけてきた。
どうやら俺の知らないうちに涙が溢れそうになっているらしい。

 

「ほぉしからーほしー たーびーしてー
 そぅしてみーつーけったものー」
こんな何でもない様な事で泣きそうになるなんて。
ハイネにからかわれるネタが増えるのも嫌だし、ハイネからは見えないようにして涙を拭う。
でも代わりにステラからは丸見えだったらしく、不思議そうな目で俺に聞いてきた。

 

「あいのちっからーしんじたいー 
 あっふれるつっよぉいーびぃとー うたに―――あれ、シン。なんでないてるの?どこかけが、した?」
「なんでもないよ、ステラ……?」

 

精神を弄られたせいで忘れたはずの俺の名前をステラが呼んでくれた?

 

「ス、ステラ、ひょっとして俺の事思い出したのかい?」
「? シンは、シンじゃないの?」
あまり要領を得ないステラらしいと言えなくもない答え。
どうやら俺に関する記憶は思い出してくれたらしい。
「そりゃそうだけど………まあいいや。
 それよりステラ、もう始まっちゃってるけど、二番からは俺も一緒に歌うよ?」
「うん、いっしょに歌うは、セッション。
 バサラがいってた。シン、ステラとセッション、しよ?」

 

<遙か時を 巡って そしてわかったこと>

 

一緒に歌いだした俺達を見て、ハイネが笑う。
「何だよ、お前ら。記憶が消えていようがいまいが仲いいじゃねえか。
 アイディアを出した俺とバサラの歌にしっかり感謝しとけよ、シン?」
分かってる。感謝してるさ、ハイネにも、バサラさんにも。
どれだけ感謝しても、し足りないくらいにな。
が、口にするのも恥ずかしかったので、さらに大きな声で歌って誤魔化すことにした。

 

<言葉だけじゃ 届かない 消えてく熱い想い 歌にのせ
 見つめあって伝えよう
 暖かなHEART & SOUL HEART & SOUL HEART & SOUL…>

 

 

『HEART & SOUL』ともう一曲『DYNAMITE EXPLOSION』を歌い終わり、荒い息を吐く。
やっぱりステラに合わせて歌うと非常に疲れるなぁ。
今回もステラは全然息が乱れてないのはなんでだ?エクステンデッドの底力か?

ようやく呼吸が楽になった所で、ステラにプレゼント(といっても貰い物だけど)を渡す。
「ステラ。前に俺、君と約束したよな?
 別れ際に貰った貝殻のお礼に、次は俺がプレゼントするって。
 だから、コレ。気に入ってくれるかどうか分からないけど」
「ううん、そんなこと、ないよ。
 ――――うれしい。ありがと、シン」
よかった、どうやら気に入ってくれたらしい。
縛られたまんまじゃ色気もへったくれも無いけれど、別に気にしない。

 

「シン、これ、つけていたい」
ステラの要望に応えて、ステラの顔に付けてあげる。
バサラさんのサングラスをかけ、満面の笑みでステラが叫ぶ。
「いくぜー、わたしの歌をきけえー!」
「あはは、似てる似てる」
「いくぜー、さらに筋肉せんせーしょんだ!」
「いや、それは違うから」

 
 

『――行くぜ、テメエラ!俺の歌を聴けえ!』
ステラのバサラさんのモノマネに笑っていると、急にバサラさん本人の叫びが聞こえた。
……幻聴か?バサラさん、まだ帰っていないはずだけど。
声はハイネのベッドから聞こえたように思えたのでそっちを向く。
つづけてラクス・クラインの声と、野太いヤロウどもの声が聞こえた。
『それじゃあ、まず一曲目、DYNAMITE EXPLOSION。
 みなさーん、行っきますよー!』
『ウオオオォォォーーー!!』

 

どうやらハイネがベッドに備付けのモニターでライブ映像を見ているらしい。
「ジブラルタルの方でライブやってるはずだからもしかしたら……と思ったが、ビンゴだったな。
 地球降下後の今までのライブはディオキア以外バサラは出てなかったもんなぁ、かなーり盛り上がってら。
 いやー、一曲目が始まる前でよかったぜ」
今度はモニターから『DYNAMITE EXPLOSION』の激しいイントロが流れ、医務室を包む。
「ステラにも!ステラにもみせて!」
縛り付けらているステラからはハイネのベッドのモニターが見えないらしく、じれったそうに悶えている。
最初に暴れたときよりも激しく動いているような気がするなぁ……
ステラに怪我されても困るので、慌てて近くのモニターをつけて、ライブ映像を流す。

 

<歌い始めた頃の 鼓動揺さぶる想い
 何故かいつか どこかに置き忘れていた>
「うたいはじめたころのー、こどうゆさぶるおっもいー
 なぜかいつっかー、どこっかにぃおきわすっれってーいたー」

 

バサラの歌に合わせてステラが歌う。
あ、思い出した。そういえば、艦長からステラの尋問任されてたっけ?
でもなぁ―――

 

<ナマヌルい毎日に ここでサヨナラ言うのさ
 そうさ誰も 俺の熱い想い止められない>
「なまぬるいまいにぃちにー、ここでさよならゆぅのさー
 そうさだれっもー、おれっのあついおもーいとめられーなーいー」

 

―――完全にライブに夢中だもんな。
しょうがない、このライブが終わってからにするか。

 
 

機動戦士ガンダムSEED DESTINY feat.熱気バサラ
第13話 二人の約束

 
 

 次 回 予 告

 

キラ 「熱気バサラの歌に対し、いまだ有効な対抗手段が見つからない僕たちは一つの決断を下す。
     それはラクスとバルトフェルドさんを宇宙に上げ、プラントで彼の情報を手に入れようというものだ」
 虎 「都合のいいことに、宇宙行きの便をザフトが用意している。
     せっかくラクス用に用意してくれているんだ、使わない手は無いだろう?」
キラ 「本物のラクスが偽者のフリをしてザフトの基地を訪れるなんて、何か間違ってません?
     次回、機動戦士ガンダムSEED DESTINY feat.熱気バサラ 第14話 大同小異 に――」

 

バサラ「過激にファイヤー!」