ONEPIECE 121氏_第01話

Last-modified: 2013-12-24 (火) 04:05:39

守りたかったものがあった…
救いたかった人がいた…

「ステラ…」

 ベルリン郊外の森の中、雪深い湖のほとりにインパルスを着陸させていたシンはそのまま湖
の中央まで歩かせ、差し出されたその機体の左手の上でステラの亡がらを抱いていた。
 戦いの日々。戦争で家族を失い、誰かを守ると誓いザフトへの入隊を決めた時から駆け抜
け続けたこの世界で巡り合った……「守りたかった」人の体を。
 守りたかった…守ろうとした…なのに

「もう…大丈夫だよ。怖いことなんかない…苦しいことも……」

 『死ぬのはいや』初めて会ったときそう彼女は泣き叫んだ
 怖がりなステラ、死をなにより恐れていたステラ
 彼女はずっと逃げ続けていたのだ、自分を追ってくる「死」から
 戦わなければ、敵を殺し続けなければ生きられない…エクステンデットの運命から

「もう誰も…君をいじめに来たりなんかしないから…だから…!!」

 しんしんと降りしきる雪が、ひらりとステラの頬を撫でる
 ステラに触れても溶けることのない雪は彼女との拙い思い出の全てを包み込んでいるようで、
いっそこのまま全て何もかも白く染まってしまえばいいのにとシンは思ったが、自分の涙だけが
雪の白を溶かして行き、あぁ、自分はまだ行けないんだなと頭の隅でどこか冷静に思った。

「だから安心して…静かにここで……おやすみ…」

 水面にステラの体を預けると、ゆっくりと湖の底へ沈んで行く
 涙で滲んだ視界、首飾りにしていた彼女の好きだった貝殻がきらりと光り
 やがて冷たい水の闇に消えていった

「守るって言ったのに……!俺っ…守るって!!」

 どうしようもないなんて思いたくなかった、なにか出来ると信じていたかった
 正しくなくてもよかった、それで彼女が救われるなら……そう思っていた
 自分がしたことはなんだったのだろう…インパルスの左手の上

「ごめんステラ…!俺ぇ……っ!!ぁぁ…うぅ…!!」
 
一人残されたシンは感情を抑えることなく泣き続けた。

「…………」

 どれだけの時間が経っただろう
 雪だけが優しく、やがて泣き声すらも静寂に溶けて消えて行き

「キラ…ヤマトぉ……!」

そ し て 、 紅 い 瞳 が 怒 り に 燃 え た

++++++++++++++++++++++

「逃がさないと言っただろぉおお!!」
「くっ…!頼む、ボクらを行かせてくれ!!」

 先日ベルリンでの所属不明巨大MSの破壊で共同戦線を張ったミネルバとアークエンジェルで
あったが、その後デュランダル勅命で正式なアークエンジェルの討伐が下された。
 ミネルバが地球に降りてから何度となく苦汁を舐めさせられた因縁の敵でもある。今まで目的
も定かでなく、ただ戦闘中の両陣営に攻撃をしかけては去って行った。この前大戦の英雄とも言
える戦艦がどうしてこうも誰の利にすらならない戦闘への乱入を繰り返していたのか、終にはわか
らなかったが、ザフト軍の別艦と共同でミネルバはアークエンジェルを渓谷で捕らる
 シンは単機でザフト軍のMSから艦を守り続けていたフリーダムに猛攻をかけていた

「この機体…どうしてっ」
(見える!レイの言った通りだ)

フリーダムの、このキラ・ヤマトの攻撃は全て武装やメインカメラなどに絞られている。コクピット
に直接的な攻撃を加えて来ないことを前提に立ち回りさえすれば、ぎりぎりの所で反応できる。
キラは今までと何度となく退けていたインパルスの動きがまるで違うことに驚きを覚えながら、手
薄になったアークエンジェルがじりじりとザフトの攻撃につかまり始めたのに焦りがこみ上げていた。

「あんたがステラを殺したああああ!!!!」
「くっ」

 インパルス、フリーダム、互いは均衡していた
 総合的な火力の面で言えばフリーダムが圧倒的に有利なのだが、相手は接近戦に自信があ
るのか、距離を取ってもすぐに張り付いて離れない。それ故追うもの、追われるもののミドルレンジ
の刺し合いではことごとくライフルの狙いが読まれているのが全て防がれてしまう。そうこうしてる間に
もアークエンジェルが砲火に晒され船体に何度も着弾を繰り返している

「止めようとしたのにいいいいい!!!」
「っ…!アークエンジェルが!!」
「キラ様!ムラサメ隊も出ます!!」
「駄目です……なんとか海まで持ちこたえて。そこまで行けば逃げ切れる」
 
 ここでこのインパルスを落とさなければアークエンジェルが落ちる
 討たなければ!!目の前のこいつを!!今ここで!!!

「このおおおおおおおお!!!」
「つぁあ!!」 
「くそっ、しまった!」

 インパルスのビームの一筋がきわどくかすり、一瞬フリーダムが体勢を崩した刹那
 サーベルを抜き向かって来たインパルスの斬撃をくぐり、針の糸を通す穴のような微かな隙にこ
ちらもサーベルを抜いてインパルスの頭部をなぎ払って今度こそ討ち取った、はずだった。

「メイリン!チェストフライヤーとフォースシルエットを!!」
「なっ!?」

 頭部を失った相手のMSが突然分離して、破損した上半身がスラスターを吹いて突っ込んできた
のだ。思わず受け止めてしまったそれを跳ね除けようともがくフリーダムに、シンは分離したコアスプレ
ンダーからバルカンの掃射を浴びせチェストフライヤーを誘爆させた。
 
「ぐあああああっ」 

 予想だにしない攻撃に完全に体勢を崩し落ちて行くフリーダム。その間にミネルバから飛んでき
たチェストフライヤーとフォースシルエット、分離させておいたレッグフライヤーを連結させて再びフォー
スインパルスでたたみ掛けようシンはと落下していったフリーダムに迫る

 コイツは…コイツだけは……!!
 
 始まりは、故郷だった
 オーブのオノゴロ島、ナチュラルとコーディネーターが入り混じり暮らす平和な中立国
 そこに自分は平凡な家庭に囲まれ退屈な、暖かい日々を過ごしていた
 戦争なんかない、そんなものはテレビの向こうの現実なのだと……
 そうして平穏に少年時代は過ぎて行くはずだった

 今でも思い出せる

 突然の開戦、避難勧告
 空に幾重と交錯し、時に弾ける光の数々
 非難船へと走る家族の姿、坂の下に落ちていったマユの携帯
 突然響く爆音、宙に放り出される浮遊感、地に叩き付けられる痛み
 それとなにか沢山のものが燃えている臭い
 呼吸……呼吸の音、俺の………
 耳がキーンとして何も聞こえない…ただ俺の呼吸の音だけが……
 そして……今でも思い出せる

 ついさっきまで、「マユだったもの」

 それは本当に、暖かさに包まれていた少年時代の全てからの決別
 フリーダム……俺は頭上で戦闘を続けていたその姿を今でも覚えている

 それからは本当に、戦いの日々だった
 プラントへ難民として移住し、ザフトへの入隊を決意する
 力がないのが悔しかった…それさえあれば全てを守れると思った
 そうしてザフトのトップエリートの証である赤服を獲得し、最新鋭機インパスルも与えられた
 アーモリーワンでのガンダム強奪事件を皮切りにユニウスセブンの落下、連合の核攻撃
 日々加速して行く戦いの奔流、その中でも自分は常に先頭を切って戦い続けた
 カーペンタリア近海では、連合軍に強制労働を架せられていた現地住民を助けたりもした
 ガルナハンでもまた、連合の理不尽な圧力に苦しんでいた人たちを助けたりもした
 
 そこには、あの日オーブの空へ叫び続けた自分が求めたものがあったはずだった
 俺は強くなった、誰かを守ることのできる人間になったんだと
 そう……俺は強くなったんだ、あの日無力だった自分と同じ…
 全ての力ない人を守るために強くなった…

『シン…好…き……』

 はずなのに!!

「くっそおおおおおおお!!!!」

 俺の手は、また守りたいものに届かなかったんだ!!
 約束したのに!守るって……俺は…俺はあああ!!!
 フリーダム…キラ・ヤマト……こいつさえいなければ止めることができたのに!!
 こいつはいつも、いつでも……俺の大切なものを奪っていく!!!

「アンタって人はあああああ!!!!」
「くっ」

 この機体、明らかに今までとは違う敵だ。キラはインパルスに対する認識を改め始めていた
 雪の山岳地帯はまだまだ続く。このまま自分が負ければアークエンジェルは逃げ切れないだろう。
そうすればきっとこの混迷の世界は、何を企んでいるかわからないデュランダル議長の思い通りに
なってしまう。この傷ついた世界の人たちを優しく導いている男。しかしラクスの偽者を従えて、本
物のラクスを暗殺しようとしたあの男が何を考えているのか、きっとこれから取り返しの付かないこと
が起きる予感がしてならなかったのだ。
 そして今、自分たちはそのデュランダルの手によって有無を言わさず消されようとしている
 負けるわけにはいけない。ここで僕たちが消えるようなことはあってはならない。全てがおかしくなっ
て行くこの世界を、自分たちはこのまま放っておくわけにはいかないのだ!
 このインパルスを行動不能にさせるにはどうすればいい。武装を破壊する、そんな方法ではまた
破損箇所を換装して襲ってくるだろう。ならどうすればいい。
 コクピットを貫く…しかないのだろうか。出来ればそんなことはしたくない。本当はこのまま逃げ切る
ことが出来ればそれに越したことはないのだ。いや、それ以前に戦いを仕掛けてこなければ誰も傷
つけなくて済むのに…。だが、これはもう自分だけの問題ではない。今砲火に晒されているアークエ
ンジェルには、想いを共にする、守りたい人たちがいるのだ。

「ごめんっ…。だけど僕は負けるわけにはいかないんだ!」
「っ、このぉ!!」
「なに!?」

 意を決してインパルスの胴体をサーベルで一閃 
 その瞬間、インパルスがまた分離したのだ。殺意をもって放った一撃が空を切り、キラは呆気に
取られた。『出来れば殺したくない』そんな迷いがもたらした一瞬の隙ではあったが、それが命取り
となる。
 インパルスが分離してフリーダムの一撃からコクピットを退けると同時、すれ違う形になった両者で
先に行動を起こしたのはインパルスだった。空中に胴体だけになった状態で振り向き、フリーダムの
背中にライフルを見事命中させた

「うああああっ!!!」
「このまま決める!!」

 その一撃がフリーダムの片翼をもいだ。そしてハイマットモードを維持できなくなり、機動力が半
減したフリーダムをインパルスは容赦なく追い詰める。

「アンタは俺が討つんだ!!」
「くっ」
「今日ここで!!!」
「……海だっ!!」

 永遠に続くかと思われた逃走劇、遠くにバルト海が見え始めた。あそこまで逃げ切れば潜水機能
のあるアークエンジェルならば追っ手を振り切ることができるだろう。後はゴールまで駆け抜けるだけだ。
 シンもそれを理解していたのか、最後の攻撃に出る。

「メイリン!ソードシルエットを!!」

 ミネルバから射出されたソードシルエット、自動飛行でインパルスに並んで来たそれからビームブー
メラン「フラッシュエッジ」を引き抜きフリーダムへ投げつける。それと同時にレーザー対艦刀「エクスカリ
バー」を右手に携えた。

「っ、しまった!!」
「うおおおおおおおお!!!」

 地中海までたどり着き、低空飛行していたフリーダムへフラッシュエッジが迫る。
 機動性が失われたフリーダムはそれをかわすことが出来ずにシールドで弾くが、無理な体勢でそ
れを行ったために機体が揺れて海面へと叩き付けられながら吹き飛んで行く。そしてエクスカリバー
を構えたインパルスがスラスターを吹かして突撃してきた。

「ここからいなくなれええええええ!!!」

 もうかわすことは不可能だった
 実体剣ならば、とシールドを構え、こちらもビームサーベルで反撃に出る、抜きさったサーベルが突
進してきたインパルスの頭部から肩にかけて突き刺さる、が、戦艦を潰す質量とその名の示す「衝
撃」の速度を伴った一撃は、その攻撃で止まることなくフリーダムをシールドごと貫く。

「うわあああああ!!!」

 エクスカリバーに貫かれたフリーダムが、破損部から火花を散らしながらそのまま飛行を維持でき
なくなり、海へ落下していく。そして海の底から大爆発が起きた

「ぐううううっ!!!!」

 半壊状態の機体でフリーダムの爆発に巻き込まれ、コクピットの中のシンはすさまじい衝撃に襲
われる。辺り一面をとりまく光りが止んだ頃、弾けた海面の水滴が雨の様に降り注いでいた。

「た…倒したのか?」

 海の上には頭部をサーベルで破壊され、爆発に巻き込まれて腕も吹き飛んだぼろぼろのインパ
ルスしかいない。

「たお…した?ははっ…ははは…やった…」

 終にあのフリーダムを倒したんだ
 家族の仇、ステラの仇、憎むべきキラ・ヤマトをやっとこの手で殺したんだ

「やったよ…ステラ……あはは…これで…」

 …………

 これで…なんなのだろう。 ふいに疑問が頭を過ぎる
 いや、今は喜べ。喜んでいいんだ。あの「フリーダム」を自分は倒したのだから
 そう自分に言い聞かせて乾いた笑い声を上げていた
 嬉しさなんてこれっぽいっちも浮かばない…。だけど喜べ、喜ぶんだ、でなきゃ

「あははははっ、ははは…は…はは…ぅ…ぁぁ…」

 俺が何をしているのか、本当にわからなくなってしまう

「ぅぅ…くっ…あぁ……ちくしょ…ちくしょう!!!」

 俺は…なにが、したかったんだろう……
 自分に問いかけてみたが、答えなんてわかるはずもなく、ただステラの笑顔が遠くなった気がした
 虚しさだけが心を埋めて行く感覚、バッテリーが切れてVPS装甲が解除され、鈍い鉛色になっ
たインパルスのコクピットの中でシンは泣き続けた

 パリッ

 と、ふいにコンソールに火花が走る

「っ!?」

 異変に気づいたと同時に半壊状態だったチェストフライヤーが火を噴いた
 ボンッ、と爆発を始め、コアスプレンダーの中のコクピットまで衝撃が伝わる

「しまった!!早く分離をっ……くそっ、なんで動かないんだよ!!」

 緊急離脱ボタンを押すが反応がない
 どうにか脱出をしようと試行錯誤する内に火の手がコクピットにまで回る
 爆発でモニターが割れて破片が体に刺さり、思わずうめき声をあげた

「くっ…こんなところで……俺はっ!!」
『シン……』
「!?」

 ふいに、自分の名前を呼ぶ声が聞こえた気がした。とてもか細い、けれど心を揺さぶる懐かしい
声。自分はその声の主をよく知っている気がした。

『シン……』
「ス…テラ……?」

 また聞こえる
 あぁ、とても優しい声。胸に空いた穴がじんわりと癒されていくような気持ちになる
 ステラ、ステラ…。もう会えないと思っていた。もう一度頭を撫でて上げたかった、もう一度抱きしめ
たかった、俺も好きだよと言ってあげたかった。ずっと戦争のない世界で、二人……

「あぁそっか…ステラ……、俺は…もういいんだね」

 ボンッ、とまた爆発が起きた。衝撃で再びシートに叩き付けられる。
 霞んだ視界、メットの向こうでコクピットに電気が走りながらコンソールが吹き飛んでいくのが見える。
パイロットスーツごしにも炎の熱が感じ取れる。体中が痛い。けれど、不思議と怖くはなかった。
 
「行くよ…、行こう……戦争なんてない、優しい世界…ステラ、キミとだったら……」

 どこでだって、生きていけるから…と

 最後の言葉は爆発にかき消され、声にならずに消えていった

クゥー、クゥー

「…………ん」

 カモメの鳴き声が聞こえる
 閉じたまぶたの上から指す日の光が感じられた
 いつのまに眠ってしまっていたんだろう、とうっすら目を開く。

「ふあ…」

 まだ覚醒しきれない頭を持ち上げあくびをかみ殺した。頭上では青空が広がり、暖かい風と共に
潮の匂いがはこばれてきた。とてもいい天気だった。柔らかな芝生の上、このまま二度寝してしまう
のもいいかもしれない。あぁ、それはとてもいい提案だ。よし、今日は日が暮れるまでごろ~っと

「って、ドコだここはあああああ!?」

 今は冬じゃなかったのか?なんでこんなに暖かいんだ?
 いやそもそも俺はさっきまでインパルスの中で死にそうに……、なんで軍服になってるんだ?
 自分の体を見ると、ケガなんて全然なく、パイロットスーツではなくザフトの赤服を着ていた

「夢……だった…?なんてな、はは……」

 自分の今の状況を把握できずに思わずそんなことを思ってしまう。
 頭上で白いカモメが飛んでいった。それを目で追っていくと空と同じくらい青い海が広がっていた。
 どうやら自分はどこかの港町の丘の上にいるらしい…けれど

「どこなんだろうなぁここ……随分田舎みたいだけど」

 ポリポリと頭を掻いてみるものの、全然記憶にない場所だった
 彼はまだ知らない。ここが自分の知らない世界であること
 「イーストブルー」と呼ばれる海に点在する島のひとつであること

 そして、この先出会う仲間たちと、とんでもない冒険をすることになることを

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