R-18_Abe-SeedDestiny-X_安部高和_24

Last-modified: 2007-11-09 (金) 20:45:20

「と、いうわけで」
とある山のふもと。
「これよりこの山を攻略するッ!!」
シャギア、オルバ、アビーの三人は、登山の格好をしてそこに立っていた。
「どういうわけなのかまず説明してほしいんだけど・・・・・・」
「故人曰く、山に登る理由とは「そこに山があるから」・・・・・・まぁそれは冗談としてだな、一種の
レクリエーションのようなものだよ、オルバ」
「今はそんな事してる場合じゃ――」
「いえ、オルバさん。確かに今、私達は暇なのです」
先日の一件でガーベラストレートがポッキリ逝ってしまったので、彼らはジャンク屋にその修理を依頼した。
そしてどうせだからとヴェサリウスの整備も頼む事にして、その結果三人は何もする事がなくなっていた。
「よかったのかな・・・・・・ヴェサリウスを預けちゃって」
「心配には及びません。彼らは信頼の置けるジャンク屋ですから」
それがどんなジャンク屋なのかは各自でご想像ください。アストレイはあんまり知らねぇんだよォォォォォ!
「そういうわけだ。納得したかなオルバ?」
「うん、まぁそれはいいよ。だけどここ・・・・・・」
オルバは周囲をぐるっと見回した。
申し訳程度の獣道、伸び放題の雑草、そして羽ばたくワケの分からない鳥。
「とても登れるような山じゃないよね?」
「登れるか登れないか・・・・・・問題はそこではないのだよオルバ。登るか登らないか、だ」
「釣りといい阿部☆すたといい、思いつきで書くのはいい加減やめたらどうですか?」
「今に始まった事ではない。それよりさっさと行くぞ。もしここで我々が行かなければ残り4レス分くらいをNG集で
埋める事になる。ジャッキーチェンの映画のようにな」
「さっさと行きましょう。読者の冷たい視線が目に浮かびます」
「僕はさっさと話を進めた方がいいと思うけどなぁ・・・・・・もうすぐ2クール越えるし」
そんなこんなで三人は山へと足を踏み入れた。
古くなり過ぎていて背景と一体化していたため、彼らは気付かなかった。
雑草の陰に隠れた、『クマ出没注意』と書かれた立て札に。

「19歳で魔法少女はさすがに無理があると私は思うのだが、どうか?」
山を登り始めてかれこれ三時間。
「・・・・・・そうだね」
「・・・・・・」
一向に頂上は見えず、シャギア以外の二人は口数が減っていた。
「どうした二人とも、この話には興味がないか?ならばシグナム氏の空気っぷりについてでも語るかね?」
「ストライカーズから、しかもティアナフルボッコの回からで且つディアボロの大冒険をやりながらの視聴のくせに語るも
なにもないと思うんだけど・・・・・・」
ですよね。

「ふむ・・・・・・よし、じゃあ魔法少女繋がりでプリティサミーについてでも語るか。いや、あれの小説は個人的に神クラス
に位置付けても――」
「すみません・・・・・・少し黙ってもらえますか?」
シャギアの言葉を遮って、ぶすっとした表情のアビーが言った。
「おやおや、どうやら我らが艦長はご機嫌がナナメなようだ。もしかしてあの日かね?」
「バテてなかったらバラ肉にして差し上げているところです・・・・・・」
「なんだ、疲れているのか・・・・・・しかしそれだと車を尾行していた件について突っ込まれるのではないかね?」
ガルナハンでのコニールレイープ事件の件ね。
「山登りは初めてなんですよ・・・・・・」
「そうか。しかし仮にも軍人たる者がこの程度の山でバテるとはいささか考えにくいのだが」
「25人がかりで戦艦一隻落とせないような者達がトップエリートである証の赤を着ているのです。程度は
知れたものだと思いますが」
「言われてみれば雑兵はほとんど止まっているな・・・・・・」
もはや背景の一部と考えて差し支えないかと。
「兄さん、そろそろ休憩にしようよ」
「ふむ、確かに小腹が空いたな・・・・・・よし、では10分の休憩を取ろう」
三人はリュックを下ろし、地べたに腰を下ろした。
「あー疲れた・・・・・・」
「オルバ、アビー、水だ」
「ありがと、兄さん」
「ごくごくごくごくごく。すみません、おかわりをいただけますか?」
「あまり飲みすぎると色々と良くない事になるぞ?」
「心配は無用ですごくごくごく」
「ここいらにトイレはないというのに・・・・・・ん?」
ちょんちょん、とシャギアの肩が指で突付かれる。
「なんだオルバ、おまえもおかわり――」
その手にペットボトルを渡したところで、シャギアの体が固まった。
「ごくごくごく。クマー」
クマだった。
「・・・・・・、シャギアは ちからつきた」
ばったりと倒れ伏すシャギア。
――「兄さんそれ迷信だから」
――「そ、そうなのか・・・・・・!?」
――「うん。その証拠にほら、あのクマ兄さんに水のおかわりを要求してるよ」
「鮭の切り身やるから水くれよ」
――「なるほど・・・・・・さっきから頭を叩いているのはクマだったのか」
――「クマに叩かれてなんで頭が割れないのか気になるけど・・・・・・とにかく逃げよう!」
――「そうだな。こんな所で死ぬわけにはいかないからな、我々は」
「ぬんっ!」
「クマッ!?」
シャギアは素早く身を起こし、そして駆け出そうとしたところで――
「・・・・・・」
「・・・・・・それは迷信だ、アビー」
「・・・・・・、そうなんですか?」
アビーもちからつきていた。

クマとの激しいデッドヒートの末。
ようやく彼らはクマを撒く事に成功した。
「ふっ、我々にかかればクマの一匹や二匹、物の数ではない。そうだろう?」
「ぜーっ、ぜーっ・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
二人は憔悴しきっていた。
「なんだ二人とも。だらしがないな」
「い、一時間走り通しで、疲れない方がおかしいって・・・・・・」
「悪たる者、体が資本だぞオルバよ。・・・・・・さて、それより一つ訊きたい事があるのだが」
右を見ても、左を見ても、あるのは似たり寄ったりな木々。
「ここはどこだ?」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
その問いに答えられる者は誰一人としていなかった。
「・・・・・・ふっ、どうやら認めざるを得ないようだな」
シャギアは二人に背を向け、そしてブライトのように振り返って言った。
「どうやら我々は遭難したようだ!!」
「な、なんだってー!!」
「そうなんですか・・・・・・・・・・・・はっ!?」
シャギアとオルバがニヤニヤしていた。
「に、ニヤニヤしている場合ではありません。遭難とはれっきとした由々しき事態です」
確かに笑い事ではない。クマが平気で出てくるような山で遭難するという事は、つまり色々ヤバイのだ。
「そうだな。では今日はここで野宿とするか」
「この闇の中、ヘタに動き回ると大惨事に繋がりかねないしね」
「仕方ありませんね。野宿は初めてなのですが」
そう言いつつ、三人は荷物を下ろ――
「・・・・・・。ところで一つ訊きたいのだが」
「うん・・・・・・兄さんの言いたい事は大体わかるよ」
「あの状況では仕方なかったとはいえ、迂闊でしたね」
三人は荷物をクマと遭遇した場所に置き忘れていた。
「これはマズいな・・・・・・食事は是即ち活力、抜くという事はそれだけ目標から遠ざかるという事だ」
「いやいや兄さん、それどころじゃないって」
そう・・・・・・それどころではないのだ。
荷物がないという事は、野宿において最も重要とされる火が起こせないという事になる。
「火が起こせないとなると、またクマと遭遇する恐れがあります。この場において火の役割は主にクマ避けですので」
「ふむ、それは困った・・・・・・む?」
シャギアは遠目に何かを発見した。
「な、なにか思いついたの兄さん!?」
「いや・・・・・・見たまえ二人とも。あそこに微かな光が見えないか?」
シャギアの指した方角・・・・・・そこには、蛍のような小さな光があった。
「あれって・・・・・・」
「どうやら山小屋のようですね。こんな未開の山に小屋を建てるのはとても正気の沙汰とは思えませんが」
「なにか事情があるのだろう。よし、では目的地を頂上からあの光に変更だ。二人とも、もう少しの辛抱だ」
「しょうがないね・・・・・・またクマに襲われるよりは」
「・・・・・・」

そして三人は山小屋に向かって歩き出したのだが、
「・・・・・・アビー?どうした?」
アビーはその場から動こうとしなかった。
「疲れて一歩も動けないとか?」
「・・・・・・いえ。すみません、急ぎましょう」
そう言って足を一歩踏み出したアビーだったが、足が地につくと同時に顔をしかめて倒れこんだ。
「あ、アビー!?」
「ふむ・・・・・・」
シャギアはアビーの前に屈み込み、そして右足に手を触れた。
「っ・・・・・・!?」
「これは酷いな・・・・・・」
アビーの右足は、真っ赤に腫れ上がっていた。
「すぐに冷やさないと!・・・・・・って、荷物ないんだった・・・・・・」
「大丈夫です。さ、急ぎましょう。ぼーっとしてるとまたクマに襲われてしまいます」
そう言いつつ立ち上がるも、すぐにその場にへたり込んでしまう。
「やれやれ、これは仕方がないな」
するとシャギアは、アビーに背を向けて身を屈めた。
「・・・・・・、なんですか?」
「見て分からないのか?いわゆるおんぶという奴だ」
「冗談じゃありません。私に触れていいのは女性だけです」
ちょっと忘れかけていたが、アビーはガチレズです。
「別にやましい気持ちはない。それにここで倒れられては困るのでな、我々の目的的に」
「お断りします。私の事は心配なさらずに。少し遅れるかもしれませんが自力で山小屋に辿り着いてみせます」
「やれやれ、困った娘だ・・・・・・オルバ」
「了解、兄さん」
オルバはアビーの後ろに回り、アビーをひょいっと抱え上げた。
「お、オルバさん!?何を――」
「今はつまらない事に拘ってる場合じゃないって」
そしてオルバは、アビーをシャギアの背中に乗せた。
「よし。では行くぞオルバよ」
「了解」
アビーを背中に乗せたまま立ち上がり、二人は山小屋に向かって歩き出した。
「ああ・・・・・・アビーは穢れてしまいました・・・・・・」

二時間後。
「よし、到着だ」
三人は無事山小屋に辿り着いた。
「ぜーっ、ぜーっ・・・・・・」
「だらしがないぞオルバよ、この程度で」
「だから・・・・・・ピンピンしてる兄さんがおかしいんだって・・・・・・アビーを背負ってるのに」
「荷物よりは軽い。さて・・・・・・」
シャギアは山小屋のドアをドンドンと叩いた。
「我々は悪の秘密結社、フロストカンパニーだ。遭難したので救助を要請する」
「だからそれやめなって兄さん・・・・・・」

「おや、客人とは珍しい・・・・・・」
出てきたのは、場違いな程風格のある男。山師の格好をしていてなお、彼には気品と優雅さが溢れていた。
「済まないが一晩泊めてはもらえないだろうか?怪我人もいる」
「Zzz・・・・・・」
目で背負ったアビーを指す。アビーはいつの間にか眠っていた。
「ああ、いいだろう。遠慮せずに入りたまえ」
「感謝する。ではお邪魔させてもらおう」
「おじゃましま~す」
山小屋の中は、外見に相応しい造りとなっていた。囲炉裏に藁の座布団と、誰もが簡単に想像出来るような場所だった。
ただ、隅に置かれたパソコンだけが異彩を放っていた。
「こんな所にまでパソコンがあるとは・・・・・・いや、失礼」
「構わんよ。私も色々とワケ有りでね。さ、立っていないで座りたまえ・・・・・・シャギアくん、オルバくん」
「「――!?」」
二人はばっと身構えた。
「貴様、何故我々の名を・・・・・・!」
「おっと、誤解しないでくれたまえ。別にキミ達をどうこうするつもりはない。私にはその資格も権利もない。

・・・だからおまえも銃を下ろすんだ」
男が障子の裏に目配せをする。そこには、半身を出して銃を構えた金髪の少年がいた。
「だけどおじさん、こいつらは――」
「分かっている。だがこれは我々がどうこうする問題ではないのだよ、レイ」
「・・・・・・何者なんだ、あの男は」
「でもなんかどこかで見たような気が・・・・・・」
「ん・・・・・・」
と、シャギアの背中で寝息を立てていたアビーが目を覚ました。
「起きたかアビー」
「あれ、私・・・・・・。――!?あ、あの男は!?」
そしてアビーは目の色を変えた。
「知っているのかアビー!?」
「ギルバート・デュランダル・・・・・・!」
ギルバート・デュランダル。説明するまでもないと思うから説明しませんが構いませんね!
「あ、思い出した!確か前の戦争で世界征服を目論んだって――」
「何を言う!おじさんはそんな人間じゃない!おじさんは――」
「まぁまぁ。積もる話もあるだろうが、まずは彼女の手当てが先だ。それに皆腹が減っただろう?レイ、済まないが鍋の
用意をしてくれ」
この緊迫した状況の中、デュランダルは一人落ち着き払っていた。

「ほう?それはまたとんでもない事をしでかしたものだな・・・・・・」
「良かれと思ってやった事さ。おかげで身を隠すハメになったがね」
シャギア、オルバ、アビー、デュランダル、レイの五人は、囲炉裏を囲んで鍋をつついていた。
「まさか超A級戦犯がこんな所に住んでるなんて誰も思わないよね、普通・・・・・・」
「おじさんを犯罪者呼ばわりするな!あと肉ばかり食べるな!」
「もぐもぐもぐもぐ。すみません、おかわりを頂けますか?」
「それくらい自分でやれ!」
「そうしたいのはやまやまなのですが・・・・・・」
包帯の巻かれた足を指差すアビー。
「・・・・・・、まったく!」
「あ、肉多めでお願いします」
さっきまでの疲れからか、ヴェサリウス組はまるでピザデブのように料理をたいらげていった。
「さて、それでキミ達の目的はいったい何なのだね?」
ぴたりと箸を止める三人。まさか「世界を滅ぼす事」、などと言えるわけがない。
「申し訳ありませんが、その質問には――」
「世界を滅ぼす事だ」
だと言うのに、シャギア兄さんはあっさりバラした。
「ちょっ、兄さん!?」
「構わんさ。それに知ったところで彼にはどうにも出来ない。違うか?」
「確かに、私達の事を知ったからといって彼は動く事は出来ません。もし表舞台に出ればプラント、地球連合の
双方から追われる事になりますし」
「そういう事だ、オルバよ」
「いいのかな、そんな簡単にバラしちゃって・・・・・・」
「それはまた、とんでもない目標を掲げたものだ。理由を訊いてもいいかね?」
「我々を認めなかった世界に対しての復讐だ」
「選ばれた存在である僕らを欠陥品扱いした世界・・・・・・許すわけにはいかないのさ」
その件について種世界は全く関係ないのだが、そんな事彼らにはお構いなしだ。「そこに世界があるから滅ぼす」

・・・たった一つの、シンプルな答えだ。
「キミ達に何があったかは知らんが・・・・・・そこのキミもそうなのかね?」
「もちろんです。私は私の存在を認めなかったこの世界に復讐するために二人と行動しているのです」
「なるほど。しかし・・・・・・いや、無粋なマネはよそう」
「・・・・・・?」
「さて、ではそろそろ休むとしよう。キミ達は向こうの部屋を使ってくれたまえ。布団は既に敷いてある」
何かを言いかけたデュランダルだったが、それを口にする事なく食事のお開きを宣言した。

深夜。
「・・・・・・」
皆が寝静まる中、アビーは山小屋のパソコンに向かっていた。
「パスワードは――」
「済まないが、それには触れないでもらいたい。知られると困る事が山ほどあるのでね」
「――!?」
アビーの背後に、いつの間にかデュランダルが立っていた。
「・・・・・・、失礼しました」
そう言って部屋に戻ろうとするアビーだったが、ふと何かを思い出して振り返った。
「おや?トイレなら向こうだが」
「いえ・・・・・・ただ、先ほどあなたは何を言おうとしたのかと少し気になりまして」
「さっき・・・・・・ああ、あれか」
「あなたは何を言いかけたのですか?」
「ふむ・・・・・・」
デュランダルは少し考え、そしてさっき言いかけた言葉を口にした。
「キミは世界を滅ぼそうなどとは考えてはいないのではないか?」
「え・・・・・・?」
まるで予想外の言葉に、アビーは戸惑った。
「キミがどういった経緯で世界に復讐を誓ったのかは知らんが、少なくとも今のキミは世界に復讐をしようとするような
人間には見えなくてね」
「どういう、意味ですか・・・・・・?」
「別に深い意味はないさ。ただこういう事はよくあるのだよ」
「・・・・・・」
「おっと、お喋りが過ぎたようだな・・・・・・では私は休ませてもらうよ」
そう言ってデュランダルは自室へと消えた。
「そんなはずは・・・・・・そんなはず・・・・・・」
残されたアビーは、デュランダルの言葉を心の中で反芻しながらしばらくの間立ち尽くしていた。

明朝。
「世話になったな。感謝する」
「礼には及ばないよ。この道をまっすぐ行けばふもとに辿り着く」
「あ、道あったんだ・・・・・・」
スペエディでアスランとハイネが下山の時に使った道です。
「少し予定は狂ったが、レクリエーションはこれにて終了だ。ふもとに着いたら通常任務に戻るぞ」
「了解、兄さん。そろそろ本腰入れていかないとね」
「・・・・・・」
「どうしたアビー?足が痛むか?」
「いえ・・・・・・なんでもありません」
そして三人は山小屋に背を向け、山を降りていった。
「いいんですか、おじさん。彼らをこのまま行かせて」
「・・・・・・心配か?」
「はい。もし世界が本当に滅びるのだとしたら、シンは・・・・・・」
「そうか・・・・・・ならばレイはどうしたい?」
「え・・・・・・?」
「彼らが世界を滅ぼすとして、レイはその時何がしたい?」
「それは・・・・・・。シンを助けたいです、俺は」
「そうか」
「でも、そんな事をしたらおじさんは――」
言葉の途中で、デュランダルはレイの頭に手を置いた。
「おじさん・・・・・・?」
そしてデュランダルは言った。
「言ったはずだよレイ・・・・・・私には人をどうこうする資格も権利もない、とね」

機動戦士阿部さんSEED DESTINY X
第二十四話~実際にクマに出会ったら・・・・・・・・・・・・祈りましょう、神に~