R-18_Abe-SeedDestiny_安部高和_14

Last-modified: 2007-11-06 (火) 21:36:57

レクイエム第一中継地点フォーレ。
にっちもさっちもいかなくなったジブリールは、ロゴスの最終兵器『レクイエム』の中継基地
フォーレに逃げ込んでいた。
「ええい!何故私がこんな目に遭わなければならないのだ!?」
その基地の司令室、司令官席に座ったジブリールは、ボタンのいっぱい付いたパネルをダンッと叩いた。
警報が鳴った。
「ええい、もう攻め込まれたのか!?迎撃用意ッ!!」
「落ち着いてくださいジブリール様。そして落ち着いて手をパネルからお離しください」
「こ、こんな所に警報スイッチなど!設計士を呼べ!化け猫から貰った巨大な鈴を押し付けてくれる!!」
理不尽な言いがかり。ジブリールは余裕をなくしていた。
逃亡に次ぐ逃亡の果て、ジブリールの心は荒んでいた。気分は時効まで逃げようとする殺人犯のそれと似ているが、
残念な事にジブリールの罪に時効はない。いや、例えあったとしても、
――「あら大変、もうじき時効ですわね。んじゃ、カタカタカタ・・・っと。あら不思議、時効期限が20年も
延びてしまいましたわねジブリール様♪」
みたいな?要は逃げられない、って事さ・・・・・・
「おい貴様!レクイエムの発射準備は整ったのか!?」
「は!もうじきチャージが完了します!」
「さっさとしろ!我らに残された道、もはや全プラントの破壊しかないのだぞ!?」
プラントを殲滅しデュランダルを葬り去れば、とりあえず時間は稼げる。その稼いだ時間で愚民共に適当な言い訳を
すれば丸く収まるだろう、とジブリールは考えていた。
保身のために多くの人が住むプラントを破壊し、虫けらと同一視している地球の人民を口先で誤魔化す。
「・・・・・・にゃあ」
そんなジブリールを見限ったのか、黒猫はジブリールの元を離れてどこかへ行ってしまった。

『分かったな!?レクイエム発射までザフトを近づけるなよ!?』
一方的に通信が切られ、ネオは軽くため息を吐いた。
「やれやれ、いよいよ進退窮まった、って感じかねぇ」
ガーティー・ルー、ネオの部屋。
ネオはジブリールに、レクイエムの防衛を命じられた。
「どうしたんだ?ため息なんか吐いて」
ネオのベッドに全裸で座る阿部がそう問うた。
「次の命令さ。なんともまぁ、いい気のしない任務でさ。・・・・・・レクイエムを守れってさ」
「レクイエム?それは気持ちの良い事なのかい?」
「いいや、むしろ真逆だ。あれは大量殺人兵器だ。昔のジェネシスみたいな、な」
レクイエム・・・それは、ロゴスの切り札である巨大なビーム発射装置だ。ビームという名だがその軌道は直線ではなく、
各ポイントに設置した筒状の装置でビームをくいっと曲げてプラントをドーンするという、全方位から砲撃を
可能にした兵器だ。一見ムリそうに思えるが、ちゃんと計算されているのだ。角度とか。

「そんなのを守るっていうのかい?ファントムペインは」
「ま、命令だからな。軍人に善悪を考える権利はない。与えられた命令には従わなければならないのさ。
特にファントムペインは、な」
「なるほど。道理でおまえも嫌そうな顔をしているわけだ」
この任務、当然ネオの本意とするものではない。コーディネーターを化け物呼ばわりするブルーコスモスと違い、
ネオはコーディネーターもナチュラルと同じ人間なのだという考えを持つ男だった。
しかし何より、スティング、アウル、ステラに、こんな兵器の防衛を命じるのがたまらなく苦痛だった。
自分が守った兵器で何万という人間が死んだ、なんていう過去は、未来の彼ら三人には必要のないものなのだ。
「けどどうにもならないんだよな、これが。そういうわけで、俺達ファントムペインはレクイエムの防衛に向かう。

・・・ま、到着するまでにレクイエムが存在していれば、の話だけどな」
そう言って、仮面の下からパチっとウインクするネオ。
「・・・・・・良いのかい?そんな事しちゃって」
「構わないさ。なんたっておまえは、連合軍に所属しているわけじゃないからな」
「ふっ・・・違いない」
前大戦の時もそうだったが、別に阿部は軍に入ったというわけではない。ただ気持ち良さそうだからという理由で
勝手についてきているだけだった。
「発進準備は整ってる。なるべく早く頼むぜ?」
「用意がいい事で。あい分かった、さくっと済ませてくるさ」

レクイエム、第二中継地点周域。
「各員、なんとしてもアレを破壊しろ!!俺達の手でプラントを守るんだ!!」
白いグフイグナイテッドに乗ったイザークは、他の隊員達に檄を飛ばした。
『ったく、こいつらコレが何か分かってて守っているのかねぇ、っと!』
緑色のガナーザクファントムに乗ったディアッカはそうぼやき、ビーム偏向コロニーを守備するダガーの群に
砲撃をかけた。
『泣き言を言ってる暇はありませんよディアッカ!』
黒いグフイグナイテッドに乗ったニコルがダガーを両断する。
『まァ、ジェネシスを撃ったザフトが文句を言える立場ではないがね・・・』
「クルーゼ隊長!!」
『軽いジョークだよイザーク。どれ、私も出よう・・・』
そしてクルーゼがブリッジを出ようとした時――不意に額に電流が走った。
『――いかん!各員、速やかにそこから離れろ!!』

「っははははは!!コーディネーターの犬共よ、滅びるがいい!!」
ぽちっ、と可愛らしい音を立ててスイッチは押され、そしてレクイエムから白いビームが発射された。
「ふはははは!もはや止める術はないわ!!」
高笑いをするジブリール。自分の勝利を微塵も疑っていなかった。
しかし、直後に彼の顔は凍りつく事になる。
――この戦争、ひいては前大戦のジョーカー・・・・・・阿部高和の手によって。

亜光速で疾るビームが、コロニーを経由してプラントへ向かう。
「――――」
イザークは言葉を発する事が出来なかった。
それは、レクイエムを阻止出来なかった己の無力さから、ではない。
前大戦後、突如姿を消したあの男。ユニウスセブンを貫き砕いた、肉色のMS・・・その出現によって。
「あ――阿部!!」
はっと我に返り声を上げるイザーク。
インモラルガンダムは、亜光速で疾るビームの先へと向かっていた――

「ひゅう♪間に合ったみたいだな」
入り乱れるザフト、連合のMSの間を縫い、阿部はインモラルを疾らせる。
もちろんレクイエムを止めるためである。
「んじゃ、とりあえずあのビームを止めるとするか」
そして阿部は亜光速で疾るビームの正面にインモラルを置き――
「きえええっ!!!!」
ドキャッ!!
――そして、ビームを上方に蹴り飛ばした。

レクイエム第一中継地点フォーレ。
「あ・・・あれを・・・た・・・ただの足蹴りではねかえしやがった・・・」
「い・・・今のは・・・レクイエム・・・フルパワーの一撃だったはずだ・・・」
「す・・・すごすぎる・・・あいつ・・・」
その光景をモニターにて目の当たりにした基地の兵達は、口々にそう洩らした。
「じ、ジブリール様・・・・・・」
「あ・・・あ・・・ああ・・・」
ジブリールは生まれて初めて心の底から震え上がった。
目の当たりにした、あの肉色のMSに。
「・・・・・・ガチガチガチ」
恐ろしさと絶望に涙すら流した・・・これも初めての事だった。
『よし着いた』
そこで、この場に肉色のMS――インモラルがやってきた。
『基地プレイか・・・・・・燃えるじゃないの』
「ガチガチガチガチ」
ジブリールは既に戦意を失っていた。
切り札も黒猫も失い、ジブリールは放心状態だった。
『それじゃさっそく・・・・・・フンッッ!!』
「ガチガチガチア ッ ー !」
そして、フォーレは・・・ジブリールは、インモラルに貫かれた。

メサイヤ内部。
プラント最高評議会議長であるギルバート・デュランダルは、その様子を見てふっと笑った。
「いよいよ最終段階に入る、か・・・」
仰々しい椅子に座るデュランダル。この広い司令室、中にいるのはデュランダルただ一人だけだった。
デュランダルの立てた計画は、順調に進みつつあった。彼の思惑通り、彼らはよく動いてくれた。
そんな彼らにデュランダルは、礼の言葉を誰にともなく口にした。

「あろがとうジブリール・・・・・・そしてラクス・クライン。デスティニープラン、成就のために」

レクイエムは、インモラルの手(鉄拳)によって破壊され、ジブリールは逮捕された。
「ブツブツ・・・肉色・・・ブツブツ」
ムルタとパトリックに、新たな仲間が加えられる事となった。
――「ああ、あなたもあの肉色にヤられたんですか?」
――「ええ・・・・・・黒猫はいなくなるわ男色のケが出てくるわでもう・・・」
――「ゲイに挟まれるこの不遇。今にも掘られてしまいそうな私」
後の戦争犯罪者収容所でこんな会話が繰り広げられたとか繰り広げられなかったとか。
しかし、それでも戦闘はやまなかった。連合はプラントを討つべく、ザフトはそれを阻止すべく、
この宇宙は再び戦火に巻き込まれた。
「ではキラ。お願いしますね」
『ギギやまと。すとrいくふりーだぬゐきます』
一体おまえはダレでナニで出撃するのか理解し兼ねるが、そう言ってキラはエターナルから発進した。
正確にはストライクフリーダムガンダム。生フリーダムにドラグーンが付いて関節がウンコ色になったMSだ。
ちなみにプラモは山積みである。
次いでドム隊が発進した後、ラクスはシートに座って呟いた。
「さて・・・あとはデュランダル議長がアレを出すのを待つだけですわね」

「シン・アスカ、デスティニー行きます!」
『レイ・ザ・バレル、レジェンド発進する!』
『ルナマリア・ホーク、コアスプレンダー行きます!』
『アスラン・ザラ、インフィニットジャスティス出るっ!』
『ハイネ・ヴェステンフルス、グフイグナイテッド出るぜ!』
ミネルバからMS部隊が発進した。
『それじゃあ各機散開!さっさと連合やっつけて祝杯でもあげようゼ!!』
命令を下したのはハイネ。忘れているかもしれないが、彼はミネルバ隊の指揮官なのだ。
ちなみに尿瓶を使わなければいけないような怪我を負い、それからまだ一週間くらいしか経っていないっぽい
のにどうして完治しているんだぜ?という疑問は持ってはいけません。とにかく治ったのだ。
そしてミネルバ隊は、連合軍を討つべく散開した。

『スティング・オークレー、カオス行くぜ!』
『アウル・ニーダ、アビス出るよ!』
『ガイア・・・・・・出る・・・・・・』
ガーティー・ルーもまた、MSを発進させた。ちなみに阿部はレクイエム破壊のために既に出撃していた。
直属の上司であるジブリールは逮捕されたものの、やはり連合軍に所属している以上は出撃しなければならない。
「おう。気をつけてな」
ネオは三人をブリッジから見送り、そして自身も出撃すべくMSデッキへ向かった。
「んじゃリー、後は任せた」
「はっ!」
イアン・リー。アデスよりも地味な彼だが、優秀な軍人だった。
そしてMSデッキ。阿部が盗んできたMSに乗り込み、そしてカタパルトに足を乗せた。
「ネオ・ロアノーク、アカツキ出るっ!」

宙域。
ドム三機が列を成して進んでいた。
「よし野郎共!気合入れていくよ!!」
檄を飛ばすヒルダ。しかし、後ろ二人の反応は芳しくなかった。
『『へいへい』』
「な、なんだいその生返事は!?もっとシャキっとしな!!」
『ハァ?何を偉そうに・・・』
『ってかおまえ、俺らより年下だろ?何タメ口利いてんだよ』
「・・・・・・」
阿部に貫かれてからというもの、ヘルベルト、マーズのヒルダに対する態度は一変していた。
ヒルダは三人の中では一番年下である。それでも彼らがヒルダにさっきのような上から目線でモノを言うという行為
を許していたのは、彼女を魅力的に感じていたからに他ならない。
しかしそれも、阿部との戦闘で一変した。確かに彼女はザフトでは赤服だったが、今はザフト所属ではない。
阿部に貫かれてゲイに目覚めた彼らは、年下のクセにやったら偉そうなヒルダを魅力的どころか生ゴミと同列視していた。
「わ、私はこのドム隊の隊長だぞ!?」
『はっ・・・たった三人の部隊の隊長のクセに一人前気取りか?おめでてーな(ワラ』
『てめぇの後ろに果たして誰がいるのか、その軽い頭で考えやがれ』
「き、貴様ら・・・・・・そんな口を利いてただで済むと思ってるのかい!?」
『ぁあ?てめぇ、その眼帯外して無個性なツラにしてやろうか?俺は知ってんだぞ?その眼帯が伊達だって事をな』
『つかそのキャラも時代遅れってんじゃねぇの?何?その姐御キャラ。おまえ昭和何年生まれだ?』
「・・・・・・」
しかし腐ってもドム隊。息はバラバラでも編隊は崩れず、連合、ザフトのMSを次々と落としていく。
「さぁ野郎共!次はあいつだ!!」
『だからタメ口利くなっつってんだろ』
『前の穴と後ろの穴を一つにしてやんぞコラ?』
「・・・・・・」
そして彼らは、誤射を繰り返す白いMSの元へと向かった。

「えいっ!このっ!」
ライフルを乱射するフォースインパルス。しかしパイロットが非常にアレなため、放たれたビームは悉くザフト製MSの
背中に当たっていった。
「ああもう!どうして当たらないのよ!!」
苛立つルナマリア。それはヘタクソとかいう次元ではなく、一種の才能だった。
と――

『へっ!誰かと思えばルナマリアじゃないか!』
「え・・・?」
十字架目玉のMS三機が、インパルスの元へ向かってきていた。
どこか親しげに通信を入れてきたヒルダだったが、しかしルナマリアはヒルダの事を知らなかった。
「な、なんで私の名前を知ってるのよ!?」
『アンタは有名だからね!ザフトきってのダメパイロット、精密誤射のルナマリアってさ!!』
「な、何よ!失礼な女ね!!」
悲しいかな、事実であった。
『行くよ野郎共!あいつはそんじょそこらの緑以下だ!サクっとカタをつけるよ!』
『おいおまえ俺らが緑だって知ってて言ってんのか?』
『緑をゴミムシ扱いか?・・・帰ったらじっくり語り合おうや、なぁ?』
「・・・・・・」
険悪な雰囲気になりつつも、ドム三機はインパルスへ突進をかけた。
「こ、このっ!」
『はっ!このスクリーミングニンバスにビームなんざ効かないんだよ!もっとも、掠りもしないようだけどねぇ!!』
「なんで当たらないのよ、こいつはっ!」
『そらっ、こいつで終わりだ!!』
そしてヒルダドムが至近距離まで近付いてきた時――
「――――」
――ルナマリアの目つきが変わった。
赤服とは、アカデミーを優秀な成績で卒業した者に送られる、勲章のようなものだ。
だから、誤射を繰り返すだけの者には決して与えられる事はない。つかそんな奴、アカデミー卒業すら不可能だ。
しかしルナマリアは卒業し、そして赤服を渡された。それは別に冗談でもドッキリでもなく、単に彼女が赤服を着るに
相応しい女性だったからに過ぎない。
ヒルダ以下ルナマリアを知る者達は、実際は彼女の事を半分しか理解してなかった。
交錯するインパルスとドム隊。互いは無傷のまま、互いの横を通り過ぎた。
『ちっ、運の良い女だ。だが次で仕留める!!』
「・・・・・・次?何言ってるの?あなたに“次”なんてないのよ」
『強がりかい!?そういうのは実力と相談してから吐きな!!』
そして転身し、再度ジェットストリームアタックをかけようという時――
『『『――なっ!?』』』
まるでレゴブロックのように、三機のドムの両手足がバカっと外れた。
すれ違い様、ルナマリアがビームサーベルで三機の両手足を斬り取っていたのだ。
――ルナマリア・ホーク。射撃がまるでダメな彼女は、近接戦闘においては右に出る者はいない程の実力を有していた。
『ば、バカなっ!!?』
制御の効かなくなったドムの中から叫ぶヒルダ。
そんな彼女に、ルナマリアはこう言い放った。

「忘れてた?・・・・・・私も赤なのよ」