R-18_Abe-Seed_安部高和_05

Last-modified: 2007-12-27 (木) 10:17:33

MSデッキ。
ブルーの犬が並ぶ中、一つだけ色の違う犬が鎮座していた。
TMF/A-803 ラゴゥ
複座式のMAで、アンディ専用の機体だった。
アンディとダコスタは、目を覆いたくなるような恥ずかしいデザインのパイロットスーツを着て
デッキに来ていた。
「準備はバッチリだな!?」
「はい!いつでも行けますぜ!!」
「ようし、良い子だ。じゃあ乗り込むぞダコスタくん」
「すいません隊長。その前におしっこ行ってきていいですか?」
「ああ、構わんよ。私は中で待っているから早く済ませるんだぞ?」

 

「ふぃ~・・・っと」
ピッピっと先端に付いている尿を落とし、ジッパーを上げる。
「隊長に恥をかかせないためにも、僕が頑張らないと・・・」
蛇口を捻り、水を流す。軽く手をすすいだところで、ダコスタは鏡を見た。
「髪、伸びてきたかな・・・」
頭を左右に振り、髪をチェックするダコスタ。
すると――
「ンフフフフフフ・・・」
「――!?」
鏡の中に、自分とは別の男性の顔が映し出された。
「あ、あなたはア ッ ー !!」
そこで、ダコスタの意識は途切れた。

 

「遅かったなダコスタくん。じゃあ行くぞ!」
後ろに人が座ったのを耳で確認し、ハッチを閉めるアンディ。
しかし、そこに座っていたのはダコスタではなかった。
「獣姦プレイか・・・燃えるじゃないの」
「君は・・・・・・阿部!?」
「こんな良い男、俺以外にはいないでしょ?」
振り向くと、そこには阿部が座っていた。全裸だった。
「ダコスタならトイレでおねんねさ。今頃悦楽の夢を見ているに違いない」
「・・・そうか。ナニをしたかは訊かんが、それなら君に手伝ってもらうとしよう」
「そのつもりさ」
ラゴゥがデッキから勢いよく発進した。

 

「敵MA、発進しました!!」
「数は?」
「一機です!」
「たった一機で向かってくるとは・・・。艦長、どう思われますか?」
「みんな病気なんじゃないの?」
「・・・・・・」
いつもどおりのてきとーな発言に黙り込むナタルだったが、今回ばかりは的を射ていた。
「と、とにかくこちらもMSを発進させます。よろしいですね?」
「あいよっ」
「そういうわけでヤマト少尉。敵機を殲滅してくれ!」

 

キラ・ヤマトは安堵していた。
敵は一機、しかも相手はあの肉色のGではなく黄色い犬。
心置きなく、キラはソードストライカーをストライクに装備させた。
「坊主!ソードの使い方は分かるな!?」
「はい!斬って斬って斬りまくればいいんでしょう!?」
「そうだ!よし行け!!」
「キラ・ヤマト、ストライク行きます!!」

 

「お、来た来た。阿部、操作方法は分かるか?」
「分からん」
「シートの下に説明書がある。読むといい」
「・・・これか」
厚さが10センチほどある分厚い冊子。
阿部はそれを、まるで挟んだ栞を探すかのようにパラパラとめくり、そして本を閉じた。
「全部覚えた」
「さすがは阿部高和・・・味方であって嬉しく思うよ」
「嬉しい事言ってくれるじゃないの・・・って、あれは・・・」
遠目に見える敵機。それは、阿部が焦がれていた白いMSだった。
「知っているのか阿部?」
「ああ。キラ・ヤマトという良い男が乗っているMSだ」
「キラ・ヤマト・・・・・・あの少年か」
「面識があるようだねアンディ」
「ああ、ちょっとな。それじゃいっちょ、気合入れていくぞ!」

 

交錯する剣と剣。
戦いの火蓋は、お互いの斬撃をもって切り落とされた。
「ひゅう♪見ない装備だと思ったら、以外に強いじゃないの」
「このラゴゥと互角に渡り合えるとは・・・」
『アンディさん!?そこに乗ってるのはアンディさんですか!?』
「ああそうだ少年、僕だよ」
『もうやめてください!そんな犬っころ一機で僕に勝てるわけありませんよ!!』
「言ってくれるじゃないかキラ君。しかし僕は前にも言ったはずだよ?戦争に明確な終わりの
ルールなど存在しないとな!!」
『いや、だから降伏文書に調印すれば終わりますって』
「だったらお互いどちらかが滅びるまで戦うしかあるまい!」
『だから人の話聞けよ』
「問答無用、そいっ!!」
口に備え付けられたサーベルを一閃。しかしストライクは難なくかわす。
『こんな事をしたってなんの意味もありません!降伏してください!』
「だから戦争に明確な終わりの(ry」
『だから降伏文書に(ry』
互いの話は平行線を辿っていた。
「・・・・・・阿部さん暇なんだけど」
ぽつりと呟いたその言葉。
その言葉と同時に、ストライクの動きが止まった。
『――!?!?!?!?あ、あなたはもしかして・・・』
「や ら な い か」
『ひ――!?』
くるりと踵を返すストライク。そのまま猛スピードで一直線に、彼はAAへ向かった。
「逃げられると・・・・・・燃えてくるじゃないの!アンディ!」
「分かってる!逃がしはしないさ!!」
それを同じく猛スピードで追いかけるラゴゥ。砂漠の王者の名は伊達ではなく、みるみる内に
その距離は詰まっていく。
『く、来るなーーーーー!!!』
慌ててシュベルトゲベールを投げ付けるストライク。恐怖に駆られての行為だが、それは
正確にラゴゥへ向かっていた。
「――阿部、右に回避だ!」
「右ってどっち?」
「お箸を持つ方ああもう間に合わ――」
ざくっと、シュベルトゲベールはラゴゥの胴体に突き刺さった。
「阿部!!」
「アンディ!!」
そして、ラゴゥは爆発、炎上した。

 

砂漠の虎との熱い一夜を過ごし、そして別れの朝。
「もう行くのかい?」
「ああ」
「それは残念だ。どうだろう?君さえよければ北アフリカ軍に――」
「おっと、その先は言いっこなしだぜアンディ」
「ふっ・・・そうだな。君ほどの男を砂漠に留めるなんて野暮ってもんだったな」
「そういう事よ。機会があったらまた寄らせてもらうよ」
「ああ。その日を心待ちにしているよ」
こうして、阿部、イザーク、ディアッカは北アフリカ駐留軍基地を去った。
「・・・。なぁディアッカ。俺達何もしてな――」
「その先は言いっこなしだぜイザーク・・・」

 
 

海上を行くアークエンジェル。
砂漠を抜けたとあり、皆は緊張を解いていた。
「で、ナタル。次はどこ行くの?」
「オーブです。いい加減補給しないとマズい事になりますので」
「マズいのは食事のみにあらず、か」
雑誌を顔の上に乗せ、リラックスモードのマリューさん。次第にうとうとしてきた。
「しかしこの紅海もザフトの勢力圏内・・・何事もなければいいが・・・」
皆がリラックスムードの中、ナタルだけが気を張っていた。
「紅海を航海・・・・・・ぷぷっ」
ノイマンの後頭部に雑誌がヒットした。

 

アークエンジェルの甲板。
「良い風だな・・・・・・」
キラはその上で風を感じていた。
『や ら な い か』
「――――」
砂漠での死闘。阿部のその一言を思い出し、キラは身震いをした。
――あれで死んでくれてりゃいいけど・・・
もちろん死んでなどいない。阿部さんは爆発ごときでは死なないのだ。
「げろげろげろ~」
そんなキラの横で、フレイは盛大に嘔吐していた。
「・・・・・・」

 

場所を移動するキラ。すぐ傍で吐かれては、爽やかな風も台無しというものだった。
キラは適当な場所に腰を下ろした。目を閉じると、風に乗ってカモメの鳴き声が聞こえた。
「ああ、落ち着く・・・」
――フレイ・・・気分はどうだい?
――げ、サイ。こっち来ないでよ、ますます気分が悪くなるわ。
――つれない事いうなよフレイ~
――うるさい!あっち行・・・げろげろげろ~
――ああ、そのゲロ臭さもたまらない!
「・・・・・・」
全然落ち着かなかった。
「よ、キラ!」
そこで、少年のような少女の声が頭上から聞こえた。
「あ・・・カガリ・・・」
砂漠で拾ったバカ姫ことカガリ・ユラだった。
「なに辛気くさい顔してんだ。あっちでみんなと話せばいいじゃないか」
「みんなって・・・ゲロ吐いてるフレイと変態しかいないじゃないか」
「いちいち細かい事を気にする奴だなぁ」
「・・・・・・」
とりあえずおまえと砂漠の虎は『細かい事』の意味を辞書で調べろ、とキラは思った。
「おまえ最近疲れてないか?」
「え・・・?」
「あんまり無理するなよ?たまには他の人も頼っていいんだぞ?」
「うん・・・」
とは言われたものの、現状で頼りになるのはナタルくらいだった。

 

頼りにならねー人リスト
1、無能艦長
2、仮病少佐
3、変態色眼鏡
4、汗くさフレイ
5、フヒヒヒヒ
6、おまえ
7、その他大勢
どう考えても自分が頑張るしかなかった。
「そういえばランボーさんは?未だにセリフないけど・・・」
「え?・・・ええっと・・・オミットされたんじゃないか?」
「一緒に乗ってきたじゃないか・・・」
ランボーことキサカはオミットされていません。

 

モビルスーツデッキ。
そこに設置されたシミュレーターで、トールは訓練をしていた。
――ぱかぱぱっぱぱー♪New Recoad!!
最高得点を叩き出したトール。どう見てもゲームの筐体です本当にありがとうございました。
「お、やったなトール!」
それを横で見ていたのは仮病少佐ことムウ・ラ・フラガ少佐。もはや地に落ちたエンデュミオンの鷹とはいえ、
トールにとっては頼れる先輩だった。
「これなら俺もスカイグラスパーに乗れますよね!?」
言いながらトールは、スコアランク1位の場所に自分の名前を入れた。やっぱりどう見てもゲー(ry
ちなみに2位以下は『HUHIHIHIHI』で埋まっていた。暇なカズイが遊んでいるのだろう。
「ああ!是非とも俺の代わりに頑張ってくれ!!」
「はい!ようし、見てろよキラ・・・敵MSとの一騎討ちに颯爽と乱入して、俺が敵を落としてやる!!」

 

「いや・・・それはやめた方がいいんじゃないか?俺の勘もそう告げてるし・・・」

 

「ワシがこの艦の艦長、マルコ・モラシムであるッ!!」
インド洋に展開するザフト軍、その旗艦クストーのブリッジに、
阿部、イザーク、ディアッカの三名は集まっていた。
「はっ!こちらはヴェサリウス所属の――」
「うほっ、良い男」
髭もじゃでいかつい顔のモラシムは、美形揃いのザフトの中では異質だった。
しかしそこは阿部高和。中年特有の渋さと頑固一徹なその顔に興奮を隠しきれなかった。
と、ジッパーをヘソの辺りまで下ろしたあたりで、モラシムに肩に手を置かれた。
「とりあえずおまえはワシの部屋に来い。な!」
「ひゅう♪話が早いじゃないの」
「おまえ達は適当にしていて構わん。用があったら呼ぶ。以上だ」
そう言って、モラシムは阿部を連れてブリッジを出た。
「あ、阿部が股間を晒す前に誘っただと・・・!?」
「イザーク・・・おまえ毒されてきてないか・・・?」

 
 

「艦長!艦後方、海中に敵影です!」
アークエンジェルでは、敵機を発見したナタルが張り切っていた。
「あ、そ。じゃあストライク出して」
「ストライクは水中での運用を想定されていません!無茶です!!」
「じゃあスカグラで」
「もっと無茶です!!」
「じゃあストライクしかないじゃない。出して」
「・・・ああもう!ヤマト少尉!敵が来た!相手は海中でストライクは地形適応海Cだが
なんとか頑張ってくれ!」

 

「了解しました!・・・ところでマードックさん、地形適応海Cってなんですか?」
「平たく言やぁ、Ez-8がゴッグに落とされるみたいなモンだ」
「・・・・・・死ねって事ですか?」
「大丈夫!そのためのバズーカだ!心配するな!!」
「いや武器云々じゃなくて機体の事言ってんだけど・・・」
「ストライク発進するぞぉ!」
「ちょっ勝手に――」
ストライクが強引に射出された。

 

「敵機、発進しました!」
「ようし、こちらもMSを出すぞ!グーンをありったけ出せ!」
「モラシム隊長!我々にも出撃許可を!!」
「ならん!貴様達のMSは海中での運用は想定されていない!なにせ地形適応海Cだからな!!」
「なんですかその地形適応海Cというのは!?」
「Ez-8がゴッグに落とされると言えば分かりやすかろう!」
「それはお手上げだな。イザーク、メルブラやろうぜ」
「ふざけるなディアッカ!我々はまだ戦果を挙げていないのだぞ!?」
「いくらなんでも海中じゃ無理ってもんさ。餅は餅屋ってね」
「くそっ、またなのか・・・!」
「ところでマルコ。俺はどうすればいい?俺のインモラルは空陸海宇男Sなんだけど」
「貴殿も待機していてくれ。紅海の鯱の異名、とくと見るがよい!」
「そういう事なら我慢しよう。・・・あー、そこのおまえ。ちょっと部屋に来てくれるかい?
なぁに、痛い事はしないさ・・・ンフフフフ」

 
 

強引に射出され、海中に潜るストライク。
バズーカを片手に敵機を探っていた。
「大丈夫かなぁ・・・なんかギシギシ言ってるけど・・・」
水圧に軋む機体を不安に感じつつも、キラは律儀に任務を遂行した。
「・・・あれかな?・・・・・・って、なにアレ?」
青い視界の中、こちらに向かってくるMS。
その独特のフォルムは、いくら海の中だからってそれはないだろうというものだった。
「どう見てもイカじゃないか・・・」
UMF-4A グーン
三角形に手足の付いたそのMSは、容姿の愛らしさからプラントの女子高生の間で大人気だった。

 
 

「ばっはっはっはっは!あの愛らしい姿を見れば殴る蹴るの暴行は加えられまい!」
大きく高笑いをするモラシム。そのフォルムに魅入られ、数多の連合兵が戦意を喪失した
のは有名な話だった。
「艦長!!」
「どうした!もう片が付いたのか!?」
「い、いえ、それが・・・」
言いにくそうに口ごもる部下A。そして彼は、意を決してこう言った。
「グーンが・・・・・・蹴散らされていきます!!」

 

ストライクは水中用のMSではない。戦場が水中だという事だけで大きなハンデを背負っている。
しかし、それを差し引いても相手のMSは弱すぎた。
「やめてよね。そんなコスト200で耐久力が390しかないっぽいMSが
ストライクに敵うわけないじゃないか」
そう言いながらグーンに殴る蹴るの暴行。三角形が凹み、グーンは泣きながら逃げ帰っていった。
ちなみにバズーカは水中では使えません。常識的に考えて。
「チェイサー!!」
背後に回ったグーンに回し蹴り。またもや三角形を凹ませ、グーンは吹っ飛んで行った。

 
 

「ば、バカな・・・全滅!?たった一機のMSに、三分ももたずにか!?」
出した12機のグーンは、もれなく頭に凹みを付けて帰ってきた。
「艦長!どうしますか!?」
「くっ・・・!やむをえん、後退だ!!」
モラシムの号令を合図に、アークエンジェルから距離を取るクストー。

 

モラシムの誤算はたった一つ。
キラは、イカに萌えるような人間ではなかった。

 

「失礼する」
クストーのブリッジに、怪しい者ですと全身で主張する男が入ってきた。
「おお、クルーゼじゃないか!?」
「久しいなマルコ。景気はどうかね?」
「そんな事よりワシの部屋に行こう。な!」
「いたしたいのはやまやまだが、その前に仕事を済まさせてもらう」
「ほう?何用でここに来たのだ?」
「ああ・・・阿部たちを引き取りにきた」

 

ヴェサリウス、レクリエーションルーム。
「やっぱり落ち着くねぇヴェサリウスは」
そう言いながら全裸でソファーに横たわる阿部。
成り行きで乗った艦だが、もはや阿部にとってヴェサリウスは
自宅のような場所になっていた。
「阿部!それはクルー共用のソファーだ!全裸で寝そべるとは何事だ!!」
「気にするなよ。なんなら気にならなくしてやろうか?」
「お断りだ!!」
「まぁまぁイザーク。いいじゃないですか全裸だって。
そんな目くじら立てるような事でもありあせんよ」
イザークを諌めたのは、お久しぶりのニコル・アマルフィ。あちら側の世界の住人
となったニコルは、阿部が全裸でソファーを使おうが別に気にならなかった。
「ニコル・・・」
ニコルが遠い世界の住人になったのを感じ取り、イザークは悲しそうな顔をした。
「おや?そういえばディアッカとアスランは?」
「あいつらなら風呂だろう」
「そうかい。・・・・・・じゃ、裸の付き合いといこうじゃないの」

 

ヴェサリウス大浴場『仮面湯』。
ディアッカとアスランは、今までの長旅の疲れを癒していた。
「ふぃ~、生き返るねぇ~」
湯船に浸かり息をついたのはディアッカ。砂漠に海にとあって、まともな風呂に入るのは
久しぶりだった。
「・・・・・・」
見ていて痛々しいくらい慎重に頭を洗っているのは、変態ストーカーことアスラン・ザラ。
父親があのザマなので、将来の自分を思えば慎重になるのも致し方ないところだった。
おそらく一日で一番気を遣うであろう作業を終え、アスランも湯船に浸かった。
「なぁアスラン。湯船に手拭いを入れるのはマナー違反だぜ?」
「べ、別にいいじゃないか!気にするような間柄でもないだろう!?」
「ん?おまえの手拭いちょっと破れてるな見せてみ」
「ちょバカやめろ引っ張るなおいおまえマジぶっ殺すぞ」
「なんだよアスラン。手拭いが取れない理由でもあるのか?」
「ほ、ほほほ包茎ちゃうわ!!」
「まだ何も言ってねぇよ・・・」
アスランとディアッカが言い争っていると、浴室のドアが開け放たれた。
「ひゅう♪俺も仲間に入れてくれよ」
彼らの諍いをアレな行為と勘違いした阿部は、ルパンのように湯船にダイブした。
「阿部じゃないか。久しぶりだな」
「やべっ!!!」
落ち着き払ったアスランとは対照的に、ディアッカはクロールで戦線を離脱した。
「ンフフフフフフフ」
もちろんそれを許す我らが阿部さんではない。顔だけを湯船から出して、
何泳ぎともつかない水泳方法でディアッカに迫っていく。
「人外かあいつは!?」
「ンフフフフフフフフフ」
『あー、クルーゼ隊隊員及び阿部に告ぐ。至急ブリーフィングルームに集まれ』
と、浴場に備え付けられたスピーカーからクルーゼの声が聞こえた。
「阿部、ディアッカ。俺は先に行くが、おまえらもすぐ来いよ」
「ちょっ助けてくれよアスラン!!」
「ふっ・・・悪くないものだぞディアッカ。同性に貫かれるというのも」
「じょ、冗談じゃないっての!」
「ンフフフフフフフフフフフフフ」

 

「集まったか。ではブリーフィングを始める」
いつものようにブリーフィングルームに集まった面々。
「・・・・・・」
命からがら逃げ切ったディアッカは明らかに憔悴していた。
「・・・大丈夫かディアッカ?」
「ああ・・・。阿部さんが石鹸で転ばなかったら即死だったぜ・・・」
「さて今回の作戦だが、足付きがオーブに向かっているのは知っているな?」
無言で頷く隊員達。
「我々はそれを阻止すべく足付きに攻撃をかける!以上、解散」
「はっ!!」

 

「本当にこんなので飛べるのか?」
デュエルの足の下にあるメカを見て、イザークは少しだけ不安になった。
無人フライトユニット、グゥル。飛べないMS用に開発されたサポートユニットだ。
「心配するなイザーク。テストは俺達が済ませておいた」
砂漠編とグーン編で暇だったアスランとニコルは、これでもかというくらいグゥルの飛行
テストを行っていた。インメルマンターンもお手の物だった。
「おい阿部!貴様も早く装着しろ!」
「I can FLY!!」
イザークの言葉を無視してヴェサリウスから飛び出すインモラル。
そのまま海面に叩きつけられるかと思われたインモラルは、しかし引力に
逆らうように宙を舞った。
もちろんインモラルに飛行機能は備わっていない。
良い男の為せる業、である。

 
 

アークエンジェル、ブリッジ。
「ラミアス艦長!オーブ領海内にオーブのものと思われる艦隊が集結しています!!」
「なんで?」
「オーブというのは昔から中立を――艦長!相手の艦からの通信です!」
「繋いでちょーだい」
通信を繋ぐと、モニターに軍人の姿が映った。
『こちらはオーブ首長国軍艦隊!貴艦はオーブの領海に侵入しようとしている!ただちに転進されたし!』
「なんで?」
『我がオーブは中立国だ!いかなる国の介入も受けつけない!!』
「いいじゃないちょっとくらい。ちゃっちゃと補給してちゃっちゃと出てくから」
『ならん!繰り返す!転進されたし!!』
「ナタル。ローエングリンお願い」
「そんな事をしては補給を受けられなくなります!!」
「どちみち一緒じゃない。ぱっぱとやっちゃいましょ」
「ああもう・・・ケーニヒ、何をしている!胃薬だ!!」
「待ってくれ艦長!」
と、ブリッジにカガリが入ってきた。ランボーも一緒だ。

 

「どしたの?」
「私に話をさせてくれ!」
言うなりカガリは通信機を引っ手繰る。
「私はオーブ首長国代表、ウズミ・ナラ・アスハの一子、カガリ・ユラ・アスハである!」
『――!!?ま、まさかその声は・・・!!』
「繰り返す!私はカガリ・ユラ・アスハである!私をアスハと認めるなら道を開けろ!!」
『は、はいぃ!!何をしている、さっさとあの艦を受け入れるんだよ!!』
ほどなくして、艦隊の一部に隙間が出来た。
「あらびっくり。あなたお姫様だったの?」
「そうだぞ!驚いたか!?」
「ええ驚いたわ。一国のお姫様がPS3とバーチャルボーイの区別もつかないなんて」
「・・・・・・」
「――!?ラミアス艦長!後方よりMS接近!!」
「あっそ。じゃストライク出して」
「ダメです!ストライクは塩水にやられて未だに整備中です!!」
「じゃスカグラで」
「了解!そういうわけで少佐・・・なに?お腹が痛いだと!?ふざけるな!そんな言い訳――」
「まぁまぁナタル。腹痛じゃあ、しょうがないわよ」
「しかし!!」
「私が出るぞ!!」
そこで立候補したのはカガリだった。
「しかし貴様はオーブの――」
「いってら」
「艦長!!」
「だってしょーがないじゃない。それともこのまま落ちる?」
「そ、それは・・・」
「じゃあ行ってくるぞ!戦果を楽しみにしておけ!!」
そう意気込んで、カガリはデッキに向かった。

 

「クルーゼ隊長!オーブ艦隊からの通信です!」
「繋げ」
すると映ったのはさっきの軍人。
『こちらはオーブ首長国艦隊!貴艦はオーブの領海内に侵入しようとしている!ただちに転進されたし!』
「ほう・・・何故引かねばならない?」
『それはこちらが中立国のオーブだからだ!』
「それがどうした!私はラウ・ル・クルーゼだぞ!!」
『知るか!!そんなのオーブ領海に侵入する理由にはならん!!』
「あるのだよ私には!!この世でただ一人、オーブ領海に侵入する権利がなぁ!!」
『・・・・・・』
返事の代わりにオーブ艦隊が発砲してきた。
「ぬぅっ・・・!アデス、撃ち返せ!!」
「無理です隊長!ただでさえこの艦は大気圏内で運用したためにガタがきているんです!
ここは引きましょう!」
「ぬぅ・・・」
「隊長!イージスが流れ弾に当たって落ちました!!」
「なんだと・・・?」

 
 

「我々を援護してくれているのか・・・?」
オーブ艦隊は後方のヴェサリウスに砲撃を浴びせていた。
「らっきー」
「何があったかは分からんが好機と見るべきか・・・アーノルド!そのまま全速前進だ!」
「サー、イエッサー!」
「あ!」
「どうしたハウ二等兵!?」
「スカイグラスパーが流れ弾に当たって落ちました!!」
「なんだと・・・!」
「うわ役に立たねー」
「そんな悠長な事を言っている場合ではありません!彼女はオーブの姫なのですよ!?
彼女が落とされたとあっては代表に会わせる顔がありません!!」
「だいじょぶだいじょぶ」
「・・・・・・なんでそんなにポジティブなんですか?」
「だって出撃許可したのあなたじゃない」
あっけらかんと、マリューは言った。

 

「いえ・・・・・・許可出したのはあなたですよ?」

 

海に浮かぶ、小さな孤島。
運悪く流れ弾にぶち当たったイージスは、なんとかそこに不時着した。
「くそっ、ついてない・・・」
どのボタンを押してもイージスは反応を示さない。どうやら壊れてしまったようだ。
「しょうがない、助けを待つか・・・」
ハッチを開け、アスランはイージスから降りた。
直後――
ゴンッッッ
「・・・・・・」
同じく流れ弾にぶち当たったスカイグラスパーが、イージスの後頭部に直撃した。
「な、なにしてくれてんだおまえ!」
いきり立ちスカイグラスパーの元へ向かうアスラン。
そこから出てきたのは――
「あたた・・・」
「うわ女だ」
カガリ・ユラ改めカガリ・ユラ・アスハ。意気込んだはいいが速攻で落とされた
バカ姫様だった。
「ん?なんだおまえは!ザフト――」
「黙れ」
「・・・・・・」
そのまま背を向け、アスランは去っていった。

 

「これで、よしっと」
イージスから運び出したサバイバルキットで料理をするアスラン。
今日は金曜日なのでカレーだった。
「時間の感覚が無に等しい潜水艦隊は、曜日を忘れないために毎週金曜日は
カレーと決まっているんだ」
どうでもいい豆知識を誰にともなく披露し、カレーを皿によそった。
「おっと俺とした事がスプーンを忘れているじゃないか」
カレー皿を放置したまま、アスランはイージスの元へ向かった。

 

五分後――
「な、ない!?」
いっぱいあったカレーは、カス一つ残さずたいらげられていた。
「誰がこんな事を・・・」
カレー皿を手に取るアスラン。
「ペロ・・・・・・これは女の唾液!・・・おぇっ」
アスランは嘔吐し、そして心に誓った。
「あの女、俺のメシを・・・・・・許さんッ!!」

 

「出てこいやボケナスゥゥゥゥゥ!!」
どぱらたた、とマシンガンを乱射するアスラン。
空腹で心は苛々、ましてやそれが女によってもたらされたとあり、アスランは錯乱していた。
カサッ
「そこかぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
物音のした場所にハンドロケットを叩き込む。木々を巻き込み、その一帯は焦土と化した。
「・・・・・・ちっ、ただの蛇か」
単なる真っ黒い紐にしか見えない蛇の残骸を踏みつけ、アスランは捜索を再開した。
「見える・・・そこっ!!」
物音がするたびに重火器を乱射しまくるアスラン・ザラ。
騒ぎを聞きつけたヴェサリウスが迎えにきたのはそのすぐ後の事だった。

 

ちなみにカガリ。
「Zzz・・・・・・」
灯台下暗し。スカイグラスパーのコクピットで、カガリは呑気に眠っていた。

 

「潜入捜査だよ諸君。以上、解散」
お馴染みのブリーフィングルームにお馴染みの面子。
毎度の事ながらのぞんざいな説明で、作戦の説明は始まって終わった。
「隊長!たまにはちゃんと説明してください!!」
そしてイザークが食ってかかるのも毎度の事。
とにかくクルーゼ隊は、オーブへの潜入捜査を敢行した。

 
 

オーブのモルゲンレーテ。
補給の見返りにと、キラは自分のOSを技師に提供していた。
「すごいわねコレ。これあなた一人でやったの?」
責任者のエリカ・シモンズ。綺麗なおねぃさんだ。
「はい。緊急事態でしたので上手く出来てるかは分かりませんが・・・」
「そんな事ないわ。ねぇ、よかったらうちで働かない?」
「キラ・ヤマト16歳、出身はヘリオポリスです!よろしくお願いします!」
「じゃあ向こうで必要書類に記入を――」
「あいや待った!」
別室に移ろうとするキラとエリカを止めるムウ。
「なんですかフラガさん?」
「いやいやなんですかじゃなくてキラ。おまえこそなんですか?」
「僕はただここに就職しようと思っているだけですよ」
「おいおいキラ、冗談言っちゃあいけないぜ。俺一人でAAを守れっていうのか?」
「・・・・・・今まで僕一人で守ってきたんですけど」
「冗談キッツイぜキラ。あ、お姉さん、さっきの話はナシの方向で」
「ちょっ勝手に決めないでくださいよ!それに実際戦ったのは僕一人――」
「細かい事は言いっこなしだぜ」
「・・・・・・どうして僕の周りの人間は『細かい事』の意味を履き違えた人ばかりなのだろう・・・」

 

「あれれ~?この子ってひょっとしてあのキラ・ヤマト?」
そこに三人の女性が現れた。
金髪のアサギ、倉田雅代のマユラ、眼鏡だった。
「うほっ、良い女」
「・・・・・・その言い方やめてもらえません?嫌な事思い出しそうになるんで」
「結構カワイイ子じゃない♪どう?これからお姉さんたちと食事でも行かない?」
「いやっ、あはは・・・」
美人三人に囲まれて、キラはまんざらでもなさそうだった。
「・・・あー、こほん。んっ、ん~。あーテステス」
わざとらしく咳払いをするムウ。三人娘の目が集まった。
「キミたち、エンデュミオンの鷹という人物を知っているかい?」
「・・・・・・誰?」
「さぁ?ジュリは知ってる?」
「知らないわ・・・」
「何を隠そうこの俺がエンデュミオンの・・・・・・え?」
「ねぇねぇ、それより早く行きましょうよ~」
「お姉さんなんでもご馳走してあげちゃう!」
「キラ君は何が食べたい?」
「あ、じゃあラーメンで」
キラの手を引きつつ、三人娘は去っていった。
「・・・・・・。あの、エリカさん。一人で泣ける場所ってありますかね?」
「トイレならあちらです」
「・・・・・・」

 

「ここがオーブか・・・随分栄えてるじゃないか」
着慣れない作業服を着て、アスラン以下クルーゼ隊四名はオーブに潜入していた。
ちなみに阿部はいない。彼は目立ちすぎるので、潜入には向かないからだ。
「さぁて、足付きはどこかね、っと」
「工業地帯の方へ行ってみましょう。たぶんそこにいるはずです」
「そうだな。イザーク、車を回してくれ」
「任せろ!」
そういうとイザークはおもむろに道路へ飛び出し、走行中の車を止めた。
「あ、危ないじゃないか!!」
「やかましい!!」
文句を言う運転手の男性(38)をGTAのように車から引きずり出すイザーク。
「乗れ貴様達!」
「おまえ、それは俺の車――」
「ていっ」
掴みかかってきた男をイザークは拳で黙らせた。
「さぁどうした貴様達!?乗らんのか!?」
「イザーク・・・・・・潜入捜査の意味、分かってますか?」

 

「ふぃ~、食った食った」
三人娘との昼食を終えたキラは、一人工業地帯にある倉庫の横で食休みをしていた。
「ごはんは美味いしお姉さんは美人だし・・・やっぱここに就職しよっと」
そう決意をしたキラの耳に、不快で不穏なタイヤの音が聞こえた。
「ん?・・・なんだあの車うわやべこっち来る――」
フェンスを突き破った車は、そのまま蛇行しつつキラのいた場所に突っ込んできた。
「ずひょぉぉぉぉぉぉぉ!!」
間一髪。あと1秒遅れてたら、キラは車と壁に挟まれてご臨終だった。
「あ、危なかった・・・・・・」
ばくばく言う心臓を抑えつつ、キラは運転席を覗いてみた。
「だ、大丈夫ですか~?」
「あたた・・・」
そこにいたのは銀髪おかっぱの少年。よく見ると、他に三人の少年も乗っているようだった。
「青少年の無謀運転・・・どこの国でもあるんだね」
「大丈夫か貴様達・・・?」
「無茶し過ぎですよイザーク・・・」
「まったくだぜ。っとやべぇ!警察はどうなった!?」
少年達は無事なようだった。
ほっと安堵するキラだったが、後部座席に座っていたある男の声を聞いて表情が一変した。
「これじゃあクルーゼ隊長に会わせる顔がない・・・」
「――!?!?!?」
アスラン・ザラ。幼馴染兼ストーカーで、最も会いたくない男ランキング二位に位置する者だった。
(やべっ――)
気付かれる前にその場から離れ、キラは携帯電話を取り出した。
「もしもし、警察ですか!?あの、工業地帯に性犯罪者です!え?・・・・・・はい、たぶんその車泥棒
だと思います。ええ、ええ・・・お願いします。一生出られないようにしてください」
ピッ

 

「今度こそさよならだねスティーブ。・・・大丈夫、心配しないで。余罪は全部僕が証言するから」

 

「ふむ・・・そうか。分かった。もうしばらく持ちこたえろ。すぐに人を向かわせる」
ピッ
「なんだい?彼氏からのラブコールかい?」
ヴェサリウス、クルーゼの自室。
裸の男と男がベッドの上に座っていた。
「似たようなものさ。アスラン達がオーブの警察に追い詰められているそうだ」
「へぇ・・・」
「そういうわけで阿部。彼らの救出に向かってもらいたい」
「りょーかい。・・・好きにやっていいんだろ?」
「ああ・・・・・・思うままにやるといい」
「・・・・・・燃えてきたじゃないの」