R-18_Abe-Seed_安部高和_06

Last-modified: 2007-12-27 (木) 10:18:23

オーブ、モルゲンレーテ。
アスラン以下四名は、警察に追い詰められていた。
「くそっ!このままでは捕まるのも時間の問題か!?」
警察の包囲は完了していた。技術者はとうに非難しており、オーブ警察は
持久戦の構えを見せていた。
『あーあー、キミたちは完全に包囲されている!すぐに出てきたまえ!』
「ニコル!隊長からの連絡は!?」
「援軍を送ってくれるそうです」
「今からか!?到底間に合わんぞ!!」
「でも今はそれを待つしかありません」
「・・・くそっ!」
イザークは祈った。このまま援軍が来るまで突入を待ってくれと。
もし警察に捕まりでもしたら、緑服に降格どころか除隊もありえるからだ。
『あーあー、繰り返す!キミたちは――』
「そのままオウムのように繰り返していろ!」
「イザーク、声がでかいぞ!」
『・・・・・・。そうか、そういう態度を取るのだな。ならやむをえまい・・・』
「いよいよやばいんじゃないの?俺達さぁ・・・」
「くそっ!ここで終わりなのか!?」
「父さん、僕のピアノ・・・」
「キラ・・・」
四人の呟きが終わると同時に、号令がかかった。
『全員、突撃!!』
扉をぶち破り、なだれ込んでくる警察の方々。
もうダメだと思った瞬間、アスラン達の耳に聞きなれた声が聞こえた。
「――そこまでだ」

 

――逆光を背に、彼は立っていた。
長身でがっしりとした体つき。一糸纏わぬ姿のその男は、
まるで特命係長TDNのようにそこに立っていた。
「な、なんだねキミは!?そんなあられもない格好で・・・!」
「ふっ・・・ただのお節介な良い男さ」
「ふざけるでないよキミ。さ、キミもこっちに――」
「――――」
警察の一人が阿部に手をかけた瞬間に、事は終わっていた。
くるりと相手の体を反転させ、尻穴めがけて己の肉棒を突き穿つ。
まばたき一つの間に、その警察は「ア ッ ー」と声を上げてくずおれた。
「な・・・!?き、貴様!」
どよめきたつ警察。彼らを前に、阿部は不敵に笑いこう言った。
「――ダンスパーティーの始まりだ!」

 

「ア ッ ー !」
それは一方的な、争いにすらならぬ蹂躙だった。
まるでウェーブのように倒れていく警察。瞬間移動しているのではと思わせるような
スピードの阿部を彼らの目は捉える事が出来ず、気がついたら肉棒に貫かれていた。
「ンフフフフフフフフフ」
「ひっ!た、助ア ッ ー !」
「た、田中ア ッ ー !!」
ズボンと下着を易々と貫き、阿部はそそり立つ暴君をアナルに突き刺していった。
「こ、これが阿部高和の実力なのか――!?」
「あいつはもう、人じゃない・・・」
イザークとディアッカは驚きを隠せない。アスランとニコルは、物欲しそうに阿部を見ていた。
ダンスパーティー開始からわずか二分。70人はいたであろう警察は、一人残らず倒れていた。
「おやおや、もう終わりかい?もう少し手ごたえがあると思ったんだけどねぇ」
まだまだ物足りないといった様子の阿部。
そして彼は視界の端で、たった今開かれたドアを捉えた。
「ねぇキラくん。晩ご飯うちで食べない?」
「あ、ずるいよアサギ。キラくんは私の家でごはん食べるのよね~?」
「私美味しいラーメン作れるのよ?」
「いやぁ、あはは・・・どうしようかなぁ・・・」
キラ・ヤマト。三人娘に囲まれて、何も知らずに彼はこの場所に現れた。
「・・・ようやく会えたな、子猫ちゃん」

 

「って、えぇっ!?ちょ、なにコレ!?」
横たわる警察官を見て、キラは驚きの声を上げた。
「いったい何が・・・――!!!?!?!?!?!?!?」
そして彼は見てしまった。
その倒れる警察官の中で、たった一人仁王立ちをしている男を。
ヘリオポリスで出会い、そして幾多の戦場でまみえた男。
「あ・・・・・・あ、あ な た は ・ ・ ・ !?」
「久しぶりだね、キラ・ヤマト。・・・では再会を祝して――」
阿部は両手を腰に当て、
「――そのヴァージン、貰い受ける!」
――弾丸のような速度で疾駆した。
「ひ――」
キラは動けない。蛇に睨まれた蛙のように、体が固まって動かせなかった。
「――獲った!!」
そして阿部が射程圏内に入った瞬間、阿部の最も不愉快とする声が聞こえた。
「イヤ~~~~!」
「うわウザ」
思わず足を止める阿部。女の嬌声はいつ聞いても不快なものだった。
「そこをどけ女。つーか死ね」
「イ~ヤ~!キラきゅんはあなたなんかじゃ似合わない~!」
「・・・・・・きゅん?」
「そうそう!やっぱキラきゅんは、線の細い男の子とじゃないと!」
「・・・・・・男の子?」
「やっぱキラきゅんは受けよね~!あ、でも以外に攻めもイケるかも!?」
「・・・・・・受け?攻め?」
ぽかんと口を開けるキラ。
「いいからそこどけ女。つーか死ね」
「何を言っているのあなた達!」
そこへ、エリカ・シモンズが入ってきた。
「キラきゅんは受け!そんなの常識でしょ!?」
「・・・・・・受け?常識?」
「「「ですよね~!!」」」
「・・・・・・」
やっぱここに就職するのはやめよう、とキラは思った。
「ビキビキ(♯^ω^)」
阿部さんは大層ご立腹なご様子だった。
と――
「――ふっ!」
こめかみめがけて飛来するナイフを、阿部は指で受け止めた。
「何奴!?」
ナイフの飛んできた方向に目を向けると、そこに一人の男性の影。
「俺かい?俺はエンデュミオンの鷹、ムウ・ラ・フラガ。・・・貴様の悪行もここまでだ!」
そこには、仮病少佐ことムウ・ラ・フラガが立っていた。
「――うほっ、良い男」

 

MAではMSに太刀打ち出来ない。これは戦争をやる者にとっては常識だった。
フラガは並のMS相手にならばMAで対抗出来るものの、インモラルが相手とあっては
さすがに敵わないと自覚していた。
しかし今回は白兵戦。フラガは、今こそが勝機であると確信していた。
「キミが相手をしてくれるのかい?」
「ああ。俺がおまえの相手・・・・・・そう、おまえの最後の相手となる男だ!」
「へぇ・・・面白い事言うじゃないの」
再び両手を腰に当てる阿部。
「――覚悟してもらう!」
対するフラガは銃を構え、ためらいなく阿部に向かって発砲した。
「甘いぞ!!」
ヒタヒタヒタヒタヒタ
仁王立ち姿勢のままヒタ歩く阿部。体を左右に高速で移動させながらのその歩法で、
阿部は弾をかわしつつ残像を発生させながらフラガに向かっていく。
「こいつ、化け物か!?」
「化け物じゃない、良い男だ」
「なに――!?」
気付けば、背後からの声。
フラガは完全にバックを取られてしまった。
「その穴、貰い受ける!!」
そしてフラガのケツに暴君を突き出す阿部。
しかし――
「――!?」
「悪く思うなよ阿部・・・こんな時のためにケツに鉄板を仕込ませてもらった!」
「フンッッ!!」
「ア ッ ー !!」
――鉄板など、阿部にとっては紙同然だった。
「・・・っぉおう、なかなか良い締め付けじゃないの」
「ば、バカ・・・な・・・」
腸内に精液が流し込まれ、どさりとフラガの体が地に落ちた。
「フラガさん!!」
「さぁ・・・次はキおまえさんの番だ」
「ひ――!?」
お次はターゲットをキラに絞る阿部。
キラの貞操もここまでかと思われた時、モルゲンレーテを大きな揺れが襲った。
「――っと。何事だい?」
「阿部!軍だ!軍が動き出したぞ!!」
「あーらら。それはちょっちまずいんじゃない?」
「阿部さん!乗ってください!!」
手際よくパトカーを奪ったニコルは、車を阿部の横に付けた。
「名残惜しいが・・・仕方ないか」
そう言い、パトカーに乗り込む阿部。
「今日のところは引こう。しかし――おまえの貞操は俺のモノだという事を忘れるなよ?」
そうセリフを残し、阿部はモルゲンレーテから去った。
「・・・・・・た、助かった・・・」
安堵したキラは、腰を抜かしてしまった。

 

「フラガさん!フラガさん!!」
気絶したフラガに声をかけるキラ。
「フラガさん!起きてください!!」
「・・・・・・。き、キラ、か・・・」
キラの呼びかけに反応し、フラガはうっすらと目を開いた。
そしてフラガはキラの手を握り、彼にこう言った。
「・・・・・・、や ら な い か ?」
「ひ――!?」
キラはフラガの頭を思いっきり蹴飛ばした。

 

オーブ首長国、アスハ邸。
マリュー、ナタル、ノイマンが、AAの代表として集まっていた。
「補給、感謝します。ウズミ代表」
「うむ」
髭でロンゲのこの男性はオーブ代表のウズミ・ナラ・アスハ。
その厳格な顔つきは、見る者誰をも萎縮させる。
「領収書は連合にお願いねん」
「ラミアス艦長!代表の前です、もっとビシっとしてください!」
「しんどいじゃない」
「しんどくてもです!!」
「ああ、良い良い」
相も変わらずだれているマリューを前に、別段気にした様子のないウズミ。
彼は器が大きいのだ。
「代表!大変です!!」
と、そこへ、オーブの軍人が部屋に入ってきた。
「なにごとだ?」
「はっ!モルゲンレーテを包囲していた警官70名が全滅したとの事です!」
「なんだと・・・?それで警官達は無事なのか?」
「はっ・・・。それが、命に別状はないのですが・・・」
「なんだ、はっきり言いたまえ!」
「は。その・・・・・・妙な性癖が発祥しまして・・・」
「妙だと?妙とはなんだ!報告は明確にしろ!!」
「その・・・・・・男色のケが・・・」
「なんと・・・・・・」
ウズミは軽く驚き、そして少しの思案の後、彼に告げた。
「よし・・・ならばその70名を後で私の部屋によこせ」
「は・・・?そ、それでどうされるおつもりで?」
「ふっ・・・・・・ちょっとダンスパーティーを開こうと、な」
「はっ、了解しました!失礼します!」
そう言って軍人は部屋を出ていった。

 

「あー、で、なんの話だったかな?そちらの男性クルーを貸してくれるという話だったか?」
「違います。それより一つお尋ねしたい事があります」
「ほう?なんだね?」
「ヘリオポリスで強奪されたG・・・・・・その中にあった肉色のMSの事です」
「ああ、あれか・・・」
「あれは一体なんなのですか!?明らかに他のGとは違います!
撃墜方法も・・・・・・その、なんと言いますか・・・」
セリフの途中で、ナタルは顔を真っ赤にして口ごもってしまった。
「あれはGAT110105 インモラル・・・・・・」
そんな彼女の胸中を察し、ウズミは遠い目をして語り出した。
「殺さずして敵を落とす最強の近接戦闘MSとして、私はそれを開発させた。
しかし乗りこなせる者はついぞ現れず、仕方なく私はそれを放棄したのだ。
だが風の便りではそのインモラルは戦場を駆けているという・・・
いやまったく、これほど嬉しい事はない」
目に涙を浮かべながら、ウズミはインモラルを語った。
よほど思い入れがあったのだろう。
「代表、事態はシャレになっていないのですが」
「なんと!?殺さずして敵機を落とすMSのどこがシャレになっていないと言うのだね!?」
「問題は生死ではなくその後です。彼に落とされたパイロット達は離婚をしたり婚約解消
をしたりで大変なのです。裁判所とか」
「逆に考えるんだ。『離婚しちゃってもいいさ』・・・そう考えるんだ」
「解決になってません代表!」
「ねぇナタルまだぁ~?私お腹すいちゃった」
「そのへんの物でもつまんでてください!!」
「へいへい。・・・・・・あら、このメロン美味しいじゃない。ノイマン、ちょっとタッパー持ってきて」
「サー、イエッサー!」
「お父様!!!」
突如、部屋の扉が勢いよく開いた。
「なんだカガリ。父は今忙しいのだよ出ていきなさい」
「どうして私がAAを降りなければいけないのですか!?」
「その事か・・・。おまえはオーブの姫だ。だからおまえはオーブにいる義務がある」
「そーそー。それに意見箱にもぎっしり入ってたわよ、あなたへの苦情が。やれいびきが
うるさい、メシ食いすぎ、役に立たない、ってね。ま、あのごはんを五人前もたいらげられる
のは尊敬に値するけどねー」
タッパーに部屋中の食料を詰めながらマリューは言った。

 

少しヘコみながらも、カガリは続けた。
「だが!それでも私はあそこにいたいんだ!!」
「聞き分けるんだカガリ」
「私にはこの戦争を見届ける義務がある!」
「・・・・・・。カガリ、もう一度言ってみろ」
「え・・・?」
「もう一度言ってみろ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。わt」
「バカモノ!!」
すぱぁぁん!!
「――!?」
「――!?」
「――!?」
「おまえはオーブの姫だ。だからおまえがまず考えるべきはオーブの事だ。
戦争を見届けるのも結構だがな、まずはアスハとしての義務を果たすんだ」
「お、お父様・・・」
「かくいう私もな、オーブのため民のため、したくもない結婚をして抱きたくもない性別
の人間を抱いたものだ・・・。あの時の辛苦は一生忘れん・・・」
「お父様・・・・・・結構傷つきますそれ」
「だからおまえもオーブのために頑張るんだ。彼らには彼らにしか出来ない事が
あるように、おまえにはおまえにしか出来ない事があるはずだ」
「お父様・・・」
「見ろ・・・夕日も応援してくれているぞ」
ウズミが指した方角には、地平線に隠れつつある赤い太陽が一つ。
「は、はいっ!」
涙を流しながら、カガリは大きく返事をした。

 

その中で一人、ナタルが時計と夕日を交互に見ながらどうなってんだという顔をしていた。

 

「阿部。キミに頼みがある」
クルーゼの自室。
裸の男二人が、ベッドの上で語らっていた。
「なんだい?なに、遠慮する事はない・・・そういう仲だろ、俺達?」
「ふっ。いや実はな、いきあたりばったりで地球に降下したはいいが、
宇宙に帰る手段がなくてな・・・。そこで、だ。キミは自動車の修理工を
していたと聞いた。だからもし可能ならば、大気圏離脱用のブースター
などを造ってもらいたいのだが・・・」
「なんだいそんな事かい。・・・分かったよクルーゼ、この阿部さんにお任せだ」

 

「そういうわけで、今回の任務は阿部は出撃できない」
ヴェサリウス、ブリーフィングルーム。
足付き討伐の作戦会議を行うため、クルーゼとクルーゼ隊はそこに集合していた。
「隊長!いくらなんでも自動車の修理工がそんな事が出来るわけありません!!
ちゃんとしたところで工事してもらうべきです!!」
異を唱えたのはイザーク・ジュール。ちょっぴりお馬鹿な常識人だ。
「孔子曰く『良い男に不可能はない』・・・・・・故に可能であると私は見るがね」
うんうんと頷いたのはアスランとニコル。阿部の良き理解者たちだ。
「しかし!!」
「まぁまぁイザーク。もうなんだってアリだぜ阿部さんはよ」
「そうだディアッカ。良い事を言うな・・・今晩あたりどうかね?」
「遠慮します」
「それは残念・・・。では各員モビルスーツデッキで待機。足付き発見と同時に
攻撃をかける。以上、解散」
「「「「はっ!」」」」

 
 

アークエンジェルのブリッジ。
オーブから出たAAは、早速敵に発見されていた。
「艦長!敵MSが発進されました!!」
「んじゃいつものとーりお願い」
「フラガ少佐、ヤマト少尉!敵機を撃退してくれ!!」

 

「どういう事ですかマードックさん!?」
モビルスーツデッキでは、キラとマードックが言い合いをしていた。
「いや、俺に訊かれてもなぁ・・・」
「どうしてランチャーとエールじゃいけないんですか!?」
「いやそれがな・・・不思議な事にランチャーもエールも壊れちまってなぁ・・・
昨日までは大丈夫だったんだが・・・」
「そんな・・・!」
キラの胸を絶望が包み込んだ。
エールとランチャーがダメなら、ストライカーパックは必然的にソードになる。
という事は、あのインモラルと接近戦をしなければならないという事になる。
――ダメだ、絶対にヤられる・・・そしてフラガさんみたいになる・・・
「あんまり無理言うなよ、キラ」
と、背後からフラガが肩を組んできた。
「無い物ねだりはみっともないぜ?」
「ちょ、離れてくださいフラガさん!どこ触ってるんですか!!?」
強引にフラガを引き剥がすキラ。フラガはもう、性癖に限っては昔のフラガではなかった。
「そんな事よりキラ、風呂に入ろう。男と男、親睦を深めるには裸の付き合いが一番だろ?」
「僕は親睦を深めるつもりなんてカケラもありません!それに敵が来てるんですよ!?」
「なぁに、どうせまたノイマンが逃げ切ってくれるさ。それよりキラ、風呂に入ろう」
まさに前門の虎、後門の狼。ナタルに分けてもらった胃薬も、もう底を尽きそうだった。
「ああもう!出ます!出ますよ!!マードックさん、ソードを付けてください!!」
キラは思案した挙句、ソードで出撃する事を選んだ。
――要はあの肉色が出てこなければいいんだ・・・
僅かな可能性に、キラは賭けた。

 

そしてキラは賭けに勝った。
出てきたのは四機。イージス、デュエル、バスター、ブリッツ。
これ幸いとキラは、獅子奮迅の働きを見せた。
「な、なにィッ!!?」
「非グレイトォ!!?」
「うわぁ~っ!!」
あっという間に三機。不幸の連続で皆忘れているかもしれないが、キラは最強のコーディーなのだ。
そして残るは、キラブリッジ大佐ことアスランの乗るイージスだけとなった。
「今日こそやらせてもらうよ、ストーカー!!」
「キラ!俺はストーカーじゃない!おまえの無二の親友じゃないか!!」
「やめてよね。つかどうして僕の周りには変態しか集まらないんだろう・・・」
己の不幸を呪うキラ。
そして不幸を呪いつつも、イージスをめった斬りにしていく。
「や、やばい!バッテリーが・・・!!」
イージスの色が灰色に変わっていく。
風前の灯火。キラは勝利を確信し、シュベルトゲベールを振りかぶった。
「まずは一つ!因果の鎖を断たせてもらうよ!!」
と、斬りかかろうとした時、イージスのすぐ傍にMSが現れた。
「アスラン!!!」
ブリッツだった。既に片腕は失われており、ランサーダートを握りながら突進してきた。
「――!?」
咄嗟に標的を変え、ブリッツに刀を振るストライク。
――そして吸い込まれるように、シュベルトゲベールの刃はブリッツのコクピットに埋まった。
「あ、ああ――」
「ニコルッ!!!」
熱に赤く光る刃を腹に埋め、ニコルはアスランに告げた。
「アスラン・・・・・・逃げ――」
そして、ブリッツガンダムは爆発した。

 

「ンニコルゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!!」

 
 
 

同日、某時刻。
オーブ近海、孤島。
「あたた・・・」
原型を留めぬコクピットから這い出す、一人の少年。
「ふぅ、危なかった」
ニコル・アマルフィだった。パイロットスーツはぼろぼろに破けているものの、
体は別段傷ついた様子はない。
「阿部さんのブロマイドがなければ即死でした」
シャツを捲ると、そこには良い男が映ったブロマイドが仕込まれていた。
このブロマイドこそ、ニコルの体をシュベルトゲベールから守った盾だった。
胸ポケットに入れた懐中時計が銃弾を止めてくれたとかそんな感じで。

 

「へくしっ!・・・うう寒。早く迎えにきてくれないかなぁ・・・」

 

「ふむ・・・そうか・・・分かった」
ピッ
「阿部」
ヴェサリウス格納庫。
ブースターを製作している阿部に、クルーゼは声をかけた。
「なんだい?またおねだりかい?」
「いや・・・・・・ニコルが落とされたそうだ」
「へぇ」
かちゃかちゃと、阿部は手を休めない。
「あまりショックではないようだな」
「そりゃそうさ」
ボルトをきゅっと締め、手拭いで汗を拭う。
「――だって彼はまだ生きてるからね」

 

そんな事は知らない三人は、更衣室でニコルの死を悼んでいた。
「くそっ、くそっ、くそっ、くそっ!!」
ガンガンとロッカーを蹴るイザーク。流石は赤服、あっという間にロッカーは
「おらっ出てこんかい!」のAAみたくボロボロになった。
「あいつが逝っちまうなんて・・・・・・」
ディアッカも深い悲しみを露にしていた。
そんな中、アスランは一人静かにロッカールームを出る。
――本来なら脱ぐはずの、赤い軍服を着て。
「アスラン!!貴様どこへ行く!!」
イザークの声に振り向くアスラン。その顔は、固い決意を表していた。
「決まっているだろう。・・・・・・キラのところへだ!!」

 

アークエンジェル。敵に見つからないように、AAは岩場の隙間に身を隠していた。
「やったじゃないキラ!」
ブリッツの撃墜を聞いて、フレイがキラに駆け寄ってきた。
「フレイ・・・・・・」
相変わらずの酷い臭いだったが、キラはリアクションするのも億劫だった。
「敵を一機やっつけたんでしょ!?すごいじゃない!」
「――!?やめてくれよ!!」
「き、キラ・・・」
キラは喜べなかった。
殺すつもりはなかったとはいえ、キラはこの手で人を殺してしまった(と、思っている)のだ。
初めて人を殺した――そのショックで、キラは深く落ち込んでいた。
「人を殺してやっただなんて・・・どうしてそんな事が言えるんだ!!」
「なによバカキラ!コーディネーターのくせに人の褒め言葉を素直に受け取れない
なんて最ッ低!!」
そう言ってキラを突き飛ばし、フレイは走り去っていった。
「・・・・・・」
よろよろと身を起こすキラ。
そこで、また一人キラの元へ駆け寄ってきた。
「ごくろーさんキラ」
フラガだった。さっきも出撃してこなかった事から、性癖は変わっても仮病癖は
変わっていないようだった。
「さ、戦闘も終わった事だし、風呂に入ろう」
そう言ってキラの手を引くフラガ。
「や、やめてください!!」
今度は純粋な嫌悪から声を荒げた。
「いいじゃないかキラ。ほら、いっぱい汗かいてるだろ?だから風呂に入ろう」
「もう勘弁してよ・・・・・・」
キラの精神も限界だった。

 

「艦長!敵の反応です!」
「数は?」
「二機です!イージスとバスターかと思われます!!」
「あ、そ。んじゃいつものお願い」
「フラガ少佐、ヤマト少尉!敵機の撃退に当たってくれ!!」
「あ、でもだいじょーぶかしらあの子?なんかヘコんでたけど」
「それでも出てもらわないと。ここで落ちるわけにはいかないんです」
そう言いながら、ナタルはキラに同情した。
同じ苦労人同士、彼女らには通じ合うものがあった。
「ここを抜けたら、ヤマト少尉には休暇でも与えないとな・・・」

 
 

「ディアッカ。俺はストライクをやる。おまえは足付きを頼む」
「りょーかい」
そう言葉を交わし、イージスとバスターは分かれた。
ちなみにデュエルはお休み。MSの破損が酷い事に加え、イザークの精神状態が芳しくなかった。
「さぁ、出て来いキラ・・・」

 

開けた場所に、キラは一機のMSを確認した。
「あいつ・・・・・・くそっ!」
突如直ったエールストライカーをくっ付けたストライクを、そのMSの前に降ろした。
『キラ・・・・・・』
「たった一機でどうしたの、ストーカーさん。・・・・・・友達の敵でも討ちにきたの?」
その言葉は両刃の剣。自身の心も傷つけた。
『キラ・・・・・・聞いてくれ』
「・・・・・・なにさ?」
『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・一緒に逃げよう!』
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・は?」
キラの目が点になった。
『キラ!おまえはニコルを殺した!だけど・・・・・・それでも俺はおまえを憎みきれない!
しかし、だからおまえをヴェサリウスに連れて行くわけにはいかない!おまえを連れて
行けばイザークたちが黙っていないからな!・・・・・・そこで俺は考えた。お互いの立場が
丸く収まる方法を。ニコルを殺したおまえと、ニコルを殺された俺・・・双方がなんの問題も
なく一緒にいられる方法はそう!駆け落ちしかないんだ!!だからキラ!俺と一緒に
遠くへ行こう!!そして二人でやりなおすんだ!!誰もいないどこかで、二人っきりで!』
「・・・・・・」
アスランの演説を聞いて、キラの胸にある感情が沸きあがってきた。
「・・・・・・ホント、もう、さぁ」
――や ら な い か 。
――一緒に風呂に入ろう。
――コーディネーターのくせに○○なんて最ッ低!!
――キラ!!俺と来るんだ!!
「――いい加減にしろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
ぱりーん
積もり積もった鬱積に、キラの種が弾けた。
『き、キラ!!』
「もううんざりなんだよぉ!!!」
常識を遥かに超えた動きでイージスに襲い掛かるストライク。
『そ、そんな声を出されると・・・・・・・・・・・・興奮するじゃないかぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!』
そして、アスランの種も弾けた。
「思い出したぞアスラン!!おまえ、昔っから僕の事を付け回していたな!!」
『当たり前だ!キラの後をつける事こそ至上の喜びなんだ!!』
「おまえがうちに来るたびに僕のパンツが無くなっていった!!」
『キラの下着なんだぞ!なら盗むしかないじゃないか!!』
「僕が風呂に入ると絶対におまえも入ってきた!!」
『おまえと裸の付き合いがしたかったのだと何故分からない!!』
「好きだったリカちゃんに不幸の手紙を送りまくったのもおまえだ!!」
『害虫を駆除して何が悪い!全部おまえのためなんだキラ!!』
「ママのブラジャーを盗んだのもまたおまえだ!!」
『いや、それは俺じゃないだろ。常識的に考えて』

 

ばしゅんばしゅんと交錯する刃と刃。
互角に見える戦いも、しかし急な修理で出撃したイージスが押されていった。
『このままじゃ・・・・・・そうだ!』
「覚悟しろアスラン!おまえなら殺しても僕はヘコまない!!」
『おまえの両親がセックルしているとこ、俺は見たぞ!!』
「え――」
不意にストライクの動きが止まった。
両親のセックル・・・頭では理解していても、それは思春期を迎えた少年にとっては
ショッキングな事なのだ。
『隙ありだ!!』
「しまった!?」

 

同じ頃、バスターはというと。
「ヒュ~♪そんなところに隠れていたのかい」
岩場に隠れるAAを、ディアッカは発見した。
「よっしゃあ!こりゃ勲章モノだぜ!」
そう意気込んでAAに近付いていくバスターだったが、不意にぬかるみに足を取られた。
「うぉっ!?」
ずるずると滑るバスター。
そしてようやく落下が止まったと思ったら、目の前にローエングリンの発射口が見えた。
「まずっ!!」
慌てて機体を動かそうにも、関節が良い感じにハマってしまったため身動きが取れなかった。
「やべぇwwww」
主砲の発射口は、じっとこちらを見つめている。
「くそっ!やむなしってか!」
ディアッカはハッチを開け、AAに向かって両手を上げた。

 

「艦長!敵が投降の意思を示しています!」
「ローエングリンてー」
「艦長!!」
「だってめんどいじゃない。この前のピンクだってすげー迷惑だったし」
「投降した者を撃ってはいけないと教わらなかったのですか!?」
「だって私技術仕官だし」
「関係ありません!ケーニヒ!捕虜を収容しろ!」
「トールはフラガ少佐と訓練中です」
「またフラガ少佐は・・・!ならばアーガイル、おまえが行け!」
「り、了解!」
「結局こうなるのよね・・・面倒が起きなきゃいいけど」

 

背後からがっちりと、ストライクはイージスに捕まった。
「くそっ!汚いぞアスラン!!」
『目的のために手段は選ばない男だぞ俺は!!』
「くそぉっ!!」
どのレバーをどう動かしても、イージスの捕縛からは逃れられなかった。
『さーて、どこに行こっかなぁ♪どうせなら誰もいない無人島がいいなぁ。無人島で
キラと二人きり・・・・・・ああ、想像しただけでエレクチオン・・・』
「――!?」
キラの背筋に悪寒が走った。
冗談じゃないと思い、キラはコンソールの下にあるキーボードを引き出した。
「こうなったらしょうがない――」
キラはそれにある番号を入力した。
――自爆コードである。
「3、7、5、6、4、っと」
入力完了と同時に、キラはハッチを開けて脱出した。
「・・・・・・さよならアスラン。間違っても僕に取り憑かないでよね」
『んっふっふっふ・・・なぁキラ、おまえはどこに行きたい?おまえの――』
そしてストライクとイージスは、共に爆炎に包まれた。
「あ、ちょ、そんな盛大に爆発するなんて計算外――」

 

この日、オーブ近くの孤島に大きなキノコ雲が上がった。

 

アークエンジェル、艦内通路。
モブキャラ二人に腕を繋がれて、ディアッカは連行されていた。
「ほら、ちゃっちゃと歩かんかい!」
「たっ!?おいおいおっさん、捕虜を銃で突付いていいって軍学校で習ったのかよ?
捕虜暴行罪で訴えちゃうよ?なんたって俺の親父は――」
ディアッカの父親はプラント最高評議会の議員だった。
「俺の、親父は・・・」
議員の息子が、敵の捕虜になった。
これはもう立派な不祥事であり、ディアッカの父タッド・エルスマンの立場が
危うくなるのは明白だった。
「・・・・・・くそっ!」
そう悪態を吐くと、ディアッカはしくしくと涙を流している少女を見つけた。
「しくしくしく」
外ハネの女の子――ミリアリア・ハウだ。
こっちの事情も知らずにああも人前で泣く女の子に、ディアッカは
気付いたら言葉を浴びせていた。
「なに泣いてんの?バッカじゃない?」
「――!?」
「そんなに俺が怖い?それとも、バカでノンケなナチュラルの彼氏でも
ゲイに食われたぁ?」
「・・・・・・」
「ったく、泣きたいのはこっちだっつーの」
「黙らんか!いいからキリキリ歩け!!」
ミリアリアの刺すような視線を背に、ディアッカは連行されていった。

 

同艦、医務室。
アークエンジェルに乗る際にすっ転んで出来た傷の治療のため、
ディアッカはここのベッドに寝かされていた。もちろん手足は縛られており、
ディアッカは思うように動けなかった。
「さっさとして欲しいもんだねぇ。まったく、これだからナチュラルは・・・」
包帯が切れたからと、軍医は席を外していた。
ディアッカはしばらくの間天井を見つめながら時間を潰し、そしてドアの
開く音に反応して顔を向けた。
「しくしくしく」
入ってきたのは軍医ではなく、ミリアリアだった。
「おいおい、まだ泣いてんのかよ?」
「・・・・・・」
「勘弁してほしいぜ、ったくさぁ。大体、泣くほど怖いんなら軍になんか入るんじゃねーっての」
「・・・・・・」
「それになに?この艦子供ばっかじゃん。そんな艦に今まで――」
そしてディアッカが再びミリアリアに目を移した時、
そこにはモノスゴイ形相でナイフを振りかぶる女の子の姿があった。

 

「やべぇwww」
たまらず身を起こしてナイフをかわすディアッカ。ナイフが枕に埋まった。
もちろんこのナイフはおもちゃです。土曜の六時にモノスゴイ形相をした女の子が
ナイフを振り回す画なんて放送できません。
「おいおい!いきなりなにするんだよ!!」
「・・・・・・なんで、」
再びナイフを振りかぶるミリアリア。
「――なんで、トールがゲイになっちゃったのにアンタはノンケなのよぉ!!」
「ハァ!!?」
~回想~
「あ、トール・・・・・・ってどうしたの?なんかフラついてるけど」
「あ、ありのまま、今、起こった事を話すぜ・・・
『俺はシミュレーターのシートに座っていたと思ったら、フラガ少佐の上に座っていた』
な、何を言っているか分からないかもしれないが、俺も何が起こったのか分からない・・・
アナルがどうにかなりそうだった・・・
フラガ少佐がシートに擬態していたとか、何故か初めからケツの部分が破れていたとか、
そんなチャチなモンじゃあ断じてねぇ・・・
もっと恐ろしいゲイへの目覚めの片鱗を味わった気がしたぜ・・・」
「と、トール・・・?」
「そういうワケだから俺達別れような?あ、フラガ少佐!一緒にお風呂入りませんか!?」
~回想終了~
「俺関係ねぇじゃん!!逆恨みですらねぇ!」
「うるさい!細かい事ぐちぐち言わずに刺されなさい!!」
「ちょ、細かくねぇよ!俺無関係だっつの!!」
どたんばたんと争っていると、臭いに乗って彼女が現れた。
「あ、あんたたち・・・・・・」
「ちょうど良かった!そこの臭い人、この子どうにかして!!」
「ふ・・・・・・不潔よ!!」
素早く引き出しから銃を取り出し、銃口をディアッカに向けるフレイ嬢。
もちろんこの銃もおもちゃです。土曜の六時に(ry
「状況よく見ろって!どう見ても俺の殺害現場が出来上がる一歩手前だっつの!!」
「うるさい!コーディネーターのくせに言い訳するなんて最ッ低!!」
「責任取りなさいよ!!」
「ダメだこいつら話つうじねぇwww」
「何をやってるんだ!!」
と、そこへフラガが入ってきた。
「フラガ少佐・・・」
「わ、私達は別に何もしてないわ!そ、そうよねミリアリア!?」
「いいからおまえ達は部屋に戻れ!!」
そう一喝して、フラガは二人を帰した。
「ふぅ・・・・・・。やれやれ、助かったぜおっさん」
「おっさんじゃない!・・・・・・良い男だ」
「・・・・・・」
ディアッカは直感した。

 

この男は、阿部と同じ世界の人間なのだと。