R-18_Abe-Seed_安部高和_12

Last-modified: 2007-12-27 (木) 10:24:49

地球連合軍の新鋭艦、ドミニオン。
その艦長に任命されたバジルール中尉改めバジルール少佐は――
「・・・・・・・・・・・・はぁ」
胃薬の量が増えていた。
「おや艦長、ため息ですか?」
ナタルにそう声をかけたのは、ブルーコスモス盟主・ムルタ・アズラエル。
最前線で指揮を執るべく、彼はこの艦に乗り込んでいた。
「・・・・・・失礼しました」
言いながら、ナタルは瓶から胃薬をじゃらじゃらと出す。水無しでの服用は好ましくない
のだが、胃薬マスターとなったナタルは水など使わずとも楽勝だった。
「おやおや。そんなに飲んだら逆に悪いんじゃないんですか?」
「・・・・・・」
――そうさせているのはあなたですよ、アズラエル理事・・・

 

ドミニオンの艦長に任命された時、ナタルは自分の功績が認められたのだと思い
誇らしい気持ちになっていた。
クルーはまだ新米だったが、ドミニオンと共に自分の手で一人前に育て上げよう
と、彼女は躍起になっていた。
しかし、その充足した時も長くは続かなかった。
ある時、軍の命令でドミニオンは戦場の最前線へと配備された。
それはまだいい。クルーは未だ一人前とは呼べない実力だったが、ならば戦場で経験を
積ませようとナタルは考えていた。
しかし、最前線に赴く際に乗り込んだ四人の男たちによって、ナタルはまた胃薬のお世話に
なる事となってしまった。
盟主ムルタ・アズラエルを筆頭に、新型MSの生体CPU――オルガ・サブナック、クロト・ブエル、
シャニ・アンドラスの計四名。
彼らが来てから、ナタルの双肩に再び重石が圧し掛かってきたのだった。

 

ex1~オルガ・サブナックの場合~
「サブナック少尉!サブナック少尉はいるか!?」
ナタルがオルガを探し歩いていると、やがて自室で本を読むオルガを見つけた。
「サブナック少尉!戦闘報告がまだだぞ!」
ナタルの呼びかけに、しかしオルガは本から目を離さない。
「サブナック少尉!聞いているのかサブナック少尉!!」
そしてナタルがオルガの肩を掴んだ瞬間、オルガは口を開いた。
「ふもっふ」
「・・・・・・・・・・・・は?」
「ふもふもふもっふ」
「いや、その、サブナック少尉・・・・・・日本語で頼む」
「んだよアンタ、ノリ悪ぃなぁ」
「は?海苔?私は海苔など所持していないが?」
「あーはいはい戦闘報告ね。ほらよ」
そう言ってオルガは紙切れ――報告書をナタルに渡した。
「なんだ、あるじゃないか。それなら初めから――」
言いつつ書類に目を通し、ナタルは目を疑った。
『戦闘報告――オルガ・サブナック軍曹。
先の戦闘において、我善戦。しかし窮地に追い込まれ、その瞬間ラムダ・ドライバ発動。
その後は圧倒的な力を見せつけ、カラミティの必殺武器エスカリボルグにて敵を殲滅。
直死の魔眼により敵機の弱点はすでにこちらの知るところであり、もはや我に敵無し。
アラストールの導きと我がアルター『ゾルダ』も相まって、カラミティは最強である事をここに報告』
「な、なんだこれは!!?」
「報告書だよ報告書。んな事もわかんねーのかよアンタ」
「これのどこが報告書だ!それにまず貴様の階級は軍曹でなく少尉だ!!」
「はいはいはいはいうるせーな。俺はMSの整備に行くぜ。カラミティに搭載された
ラムダ・ドライバは未知の兵器だからな」
「ま、待てサブナック少尉!カラミティはそんな万能じゃない!バズーカを確実に
当てていかないと高コストはおろか中コストにも太刀打ち出来ないのが現実だ!
ブーストゲージだって悲惨・・・おいサブナック少尉!話を聞け!!」

 

ex2~クロト・ブエルの場合~
「ブエル少尉!ブエル少尉はいるか!?」
ナタルがクロトを探し歩いていると、やがてレクリエーションルームでゲームをする
クロトを見つけた。
「ブエル少尉!戦闘報告がまだだぞ!」
しかしクロトは耳を貸さず、ゲームに没頭していた。
「・・・こいつに決めた!!」
ピッ
『酷いわクロトくん・・・・・・そんな事言うなんて・・・』
でろれろれ~ん(好感度ダウン)
「・・・・・・ちっくしょぉぉぉぉぉぉ!!」
「・・・・・・ブエル少尉?なんだこの目がやたらとでかい女は・・・」
48インチの液晶モニターに、ありえねー髪の色をした女が映っていた。付け加えるなら、
さっきのクロトの選択のせいで悲しそうな顔をしていた。
「なんだよおまえ!喉渇いたら水飲めよな!!ここ公園なんだし!!」
「い、いやブエル少尉・・・・・・女の立場から言わせてもらうと、ここはジュースでも
買ってきてくれると嬉しいのだが」
『クロトくん。明日のデートはどこに連れて行ってくれるの?』
「・・・・・・。こいつに決めた!」
→有価証券取引会場
『そんなところイヤ!もうクロトくんとは絶好よ!!』
でろれろれ~ん
「なんだよおまえ!その眼鏡は伊達なのかよ!!」
「い、いやブエル少尉・・・・・・女の立場から言わせてもらうと、やはり最初は遊園地が――」
「てめぇなんか抹殺!!」
クロトはコントローラーをモニターに投げ付けた。
「ブエル少尉!物に当たるな!!ってか今のは全面的におまえが悪――おいブエル少尉!
聞いているのか!?」

 

ex3~シャニ・アンドラスの場合~
「アンドラス少尉!アンドラス少尉は――」
「うぜぇwwwwww」
「・・・・・・。せ、戦闘報告を――」
「うぜぇwwwwwwwww」
「・・・・・・」

 

てな具合で、ナタルのストレスは溜まる一方だった。
「・・・・・・見えてきました。要塞ボアズです」
目に見える距離に、その要塞はあった。
要塞ボアズ。プラント防衛の要であり、ここを落とせばプラントはもう目の前だった。
「よし、ではまず――」
「全軍突撃ィ!!」
ナタルが作戦を告げる前に、ムルタの声が高らかに響いた。
「アズラエル理事!ここはプラント防衛の要となる拠点です!策を弄さずに突撃など
自殺行為です!!」
「うるさいよあんた!!この艦は僕の艦だ!!なら僕の命令に従うのが当然だろ!?」
「理事!!戦争はゲームではないのです!!兵達を見殺しにするおつもりですか!?」
「だったら死ぬ前に落とせばいいんだろ!?簡単じゃないか!ほら、何ぼさっとしてんだ!
とっととあの要塞を沈めるんだよ!!」
「・・・・・・」
そしてムルタ・アズラエル。彼は戦争に関しては無能一直線なくせに、やたらとでしゃばるのだ。
無能さ加減で言えばマリューとどっこいどっこい。しかしマリューはやる気の全く無い無能であり、
彼はやる気満々な無能。勤勉な無能は怠惰な無能よりもタチが悪く、銃弾避けにしかならないと
言われている。しかし相手はブルーコスモス盟主。銃弾の盾にするわけにはいかず、立場的にも
命令には従わなくてはならなかった。
「・・・・・・マリュー艦長。あなたはまだマシな方でした・・・」

 

そして数分後。ドミニオンはボアズの防衛部隊にメタクソにやられ、やむなくドミニオンは撤退した。

 

アークエンジェル。
クサナギと共に宇宙に上がったアークエンジェルは、エターナルと合流すべく
宇宙を航海していた。
「ノイマン。あとどんくらい?」
「20分弱であります、サー!」
「あ、そ。んじゃ着いたら起こしてね」
「アイ、サー!!」

 

アークエンジェル、捕虜の間。
かつてディアッカが存在していたここに、今度はキラがいた。
「・・・・・・まさか、トールまであんな事になってたなんて」
アークエンジェルに戻ったキラが最初に遭った目は、フラガによる熱烈なアプローチだった。
それだけならまだ良い(全然良くないが)のだが、そこにトールも加わっていたから驚きだ。
二対一。スーパーコーディネーター(知らない人のために説明すると、超すごいコーディネーター)
のキラでも、ゲイへの苦手意識も相まってとても太刀打ちできそうになかった。
「今度後ろから撃っちゃおっかなー・・・」
などと物騒な事を呟いていると、ヘリオポリス組がキラの元へやってきた。トール以外。
「キラ!こんな所に隠れて・・・」
「ミリィ・・・・・・いや、だって危ないじゃない?」
「ごめんねキラ。元カレがあんな風になっちゃって・・・私がもっとしっかりしてれば・・・」
「ミリィのせいじゃないよ。ああなったのは変態少佐がいけないんだし」
「キラ!おまえ生きていたんだな!!」
「サイ・・・・・・心配かけてごめんね」
「ところでキラ。おまえ長年洗濯してない女の服なんか持ってないか?」
「・・・・・・あるわけないじゃないか」
「くくっ・・・・・・禁断症状が・・・」
「フヒヒヒヒ・・・」
「カズイ・・・・・・ごめん、何を言っているのか分からないや」
「フヒヒヒヒ・・・」
懐かしい顔ぶれを前に、キラの心は穏やかになっていた。一番仲の良かったトールはああなって
しまったものの、キラはヘリオポリスでの事を思い出して不覚にも泣きそうになった。
「あ、そうだキラ!私達、あなたにプレゼントがあるのよ!」
「え?プレゼント?」
「そ。いつも守ってくれてありがとう、ってね」
はにかみつつミリアリアは、キラに包みを渡した。
「ありがとうミリィ・・・・・・空けていい?」
「いいわよ」
「・・・・・・・・・・・・ナイフ?」
「そうよ。これはね、コーディネーターを殺し損ねたナイフなのよ。これさえあればコーディネーター
であるキラは死なないっていうご利益があるのよ」
「あ、ありがとう。ご利益ってか曰くが憑いてそうだけど・・・」

 

「キラ、俺からも!」
そう言って、サイも包みを渡した。
「ありがと・・・・・・ってコレ、すんごい臭いがするんだけど・・・」
「これはなキラ、男性が最も興奮するスメルを化学合成して作った臭い袋なんだ!
夜に寂しくなったらその臭いを嗅ぐといい!」
「・・・・・・あ、ありがと。なんかアークエンジェルで異臭騒ぎが起きそうだけど・・・」
「フヒヒヒヒ・・・」
「カズイも!?・・・・・・って、これは?」
カズイが渡したのは数枚のチケット。その額面には、手書きで『フヒヒヒヒ券』と書かれていた。
「フヒヒヒヒ・・・」
「あ、ありがとうカズイ・・・・・・どう使えばいいのか分からないけど・・・」
「あ、じゃあ試しに今使ってみなさいよ」
「う、うん、そうだね。・・・じゃあカズイ、これ・・・」
キラはカズイにフヒヒヒヒ券を一枚渡した。
カズイはそれを受け取り、佇まいを直してからこう言った。
「フヒヒヒヒ」
「・・・・・・・・・・・・」
捕虜の間は、気まずい空気に包まれた。

 
 

エターナル、ブリッジ。
「・・・・・・見えましたわ」
ラクスは、こちらに向かってくるAAとクサナギを見つけた。
「ようし、ちゃっちゃと合流だ!ダコスタ、信号弾打て!」
「了解!」
ダコスタは、まだエターナルの姿を知らない両艦に信号弾を放った。
「これで皆が揃いましたわね・・・」
「そうだなラクス。・・・だがラクス、これからどうするつもりなんだ?」
ラクスからの要請があり、思うところあってエターナルに乗り込んだアンディは、
まだラクスが何をしようとしているのかを知らされていなかった。
「それはもちろん・・・プラントを焼こうとする地球軍の排除、ですわ」
「・・・しかしラクス。プラントの防衛網はそう簡単には破られん。俺達が行かずとも
地球軍はザフトに撃退されるんじゃないか?」
「いいえ、それは甘い考えです。もしかしたら彼らは禁断の兵器を有しているかも知れません」
「それって、まさか・・・」
「ええ・・・・・・ユニウス7を灼いた、忌まわしき兵器・・・」
戦争の引き金となった、地球軍の核兵器。幸い完成した直後で人はいなかったのだが、これによって
受けた痛手は大きかった。そこでシーゲルがぶち切れて開戦となったのだが・・・
「でもラクス。核はニュートロンジャマーの影響で使い物にならないはずじゃあ・・・」
「いいえバルドフェルトさん。こちらにNJキャンセラーがある以上、あちらにもあると考えた方が
よろしいかと思います」
「だ、だけどなぁ・・・そう簡単に情報が漏れるとは――」
「撃たれてからでは遅いのです。可能性がある以上、我々は向かわなければなりません」
「・・・・・・まぁ、一理あるな。よし、んじゃあちゃっちゃとプラントへ向かうか!」
「よろしくお願いします」
そうアンディに告げるラクス。
告げながら彼女の零した微かな笑みには、誰も気付かなかった。

 

「アスラン・ザラ、帰還しました!」
ヴェサリウス、ブリッジ。
宇宙に上がったヴェサリウスはプラントの防衛部隊に組み込まれ、
そこでジャスティスを受け取ったアスランと合流した。
「うむ。新型の調子はどうかね?」
「は!概ね良好であります!」
「そうか。しかしNJキャンセラーとは・・・・・・科学の進歩とは早いものだな」
「しかし・・・・・・NJキャンセラーを搭載したMSはもう一機――」
「話は聞いているよアスラン。キミの婚約者だそうだね・・・そのMSを盗んだのは」
「お言葉ですが隊長!私はあのピンクとはとうに切れております!婚約者などでは
断じてありません!!」
「そうか・・・まぁ何があったかは訊くまい。その様子ならばラクス嬢を撃つ事も
できそうだしな・・・」
「は!必ずやあのピンクを八つ裂きにしてご覧にいれます!!」
「別に八つ裂く必要はないのだがね、アスラン・・・」
「いえ!後世のためにも――」
「艦長!連合艦隊、捕捉しました!」
アスランのセリフを遮って、アデスの声がブリッジに響き渡った。今更だが、アデスは
割と優秀な、そして数少ない中年ノンケな軍人だ。ヴェサリウスがここまで来れたのも、
彼の功績があってこそだろう。
「うむ。しかし・・・・・・妙だな。あの数ではプラントに攻め入る前に全滅してしまうだろう。
それに今更MAの投入など・・・」
「艦長!敵戦艦及びMA、砲撃を開始しました!」
「そうか。しかしその程度ならば前線の部隊が迎撃するだろう・・・」
「そのようで――」
アデスが言いかけた瞬間、彼らの目に信じられない光景が映った。
「・・・・・・バカな、あれは――」
迎撃されたミサイル。本来ならMSの大きさ程度の爆発をもって消滅するはずのミサイルは、
真っ白な閃光を伴なった巨大な爆円を彼らの目に見せつけた。
「た、隊長!あれは・・・・・・核です!!」
「そのようだな・・・。アデス、全軍に伝えろ!一発たりともアレをプラントに撃ち込ませるな、とな!」
「り、了解であります!!」
「クルーゼ隊長・・・」
「聞いてのとおりだアスラン。キミにも核の迎撃に参加してもらう」
「は!了解しました!!」
「・・・まったく、厄介な物を持ち出してくれたものだ、地球軍も・・・」

 

「阿部高和、インモラル出るよ!」
「アスラン・ザラ、ジャスティス出るっ!」
「イザーク・ジュール、デュエル出るぞ!」
「ニコル・アマルフィ、ブリッツ行きます!」
「ディアッ(ry」
ヴェサリウスから発進したパイロット達は、素早く核の迎撃に向かった。
戦場は混乱していた。突然の、そして予想もしていなかった核攻撃に、皆頭の整理が
ついていなかった。
『こちらはヴェサリウス所属のアスラン・ザラだ!各部隊とも、しっかり気を持て!我々が
最優先で行わなければならない事は核ミサイルの迎撃だ!爆発に巻き込まれないように
距離を取って撃ち落とすんだ!・・・なに、相手はたかがミサイル、MSを相手にするよりも楽
なはずだ。見た目に騙されるな!』
『・・・!り、了解!各員、冷静に対処しろ!』
アスランの檄に、ザフト軍はいくらか気を取り直した。冷静に対処すれば、ミサイルなど
大した相手ではなかった。腐ってもコーディネーター、彼らはとても優秀なのだ。
『ナチュラルめ・・・・・・よもや核攻撃など・・・!』
『ま、こういう相手にはバスターがおあつらえ向きってね!』
ディアッカはバスターのライフルを連結させ、核ミサイルに向けてビームを放つ。まるで誘爆するように、
数多の核ミサイルは爆散した。
『連合軍第二波、来ます!MSとMAの混成部隊です!』
「ひゅう♪そういうのは阿部さんにお任せってね!」
『阿部!約束しろ!・・・・・・必ず全機、叩き落とすってな!!』
「分かってるってイザーク。俺を誰だと思ってるんだ?」
『ふっ・・・そうだったな』
「約束しよう。・・・・・・必ず全機、食い尽くす!!」

 
 

ドミニオン、ブリッジ。
そこでは、ナタルとムルタが言い争っていた。
「理事!!勧告もなしに核攻撃など、何を考えておられるのですか!!」
「はぁ?ったく、いちいちうるさいね、キミは」
激昂するナタルに対し、ムルタはやや呆れた様子だった。
「核は立派な兵器なんだ。なら使わなきゃ。核は持ってて嬉しいコレクションじゃないんだからさ。
だったらその兵器、ニュートロンジャマーのお礼も兼ねてプラントに叩き込むのがスジってモン
じゃあないのかな、艦長?」
「しかし!戦争にもルールがあります!このような非道な兵器、使用していいはずがありません!」
「ちょっとさぁ、艦長。あなた、何か履き違えてない?」
「・・・履き違える、とは?」
「そりゃ相手が人間だったら僕だって少しはためらうさ。だけどね艦長、あの砂時計の中にいるイキモノ
は人間じゃあない。遺伝子を操作されて生まれた、立派なバケモノなんだよ」
「理事・・・・・・!」
ブルーコスモスが反コーディネーターの組織だとはナタルも知っていたが、まさかコーディネーターの
根絶を目論む組織だとは思ってなかった。
確かにコーディネーターはナチュラルに比べて身体機能、及び頭脳面で遥かに優れている。

 

しかしナタルは、それでもムルタの言葉は受け入れられなかった。
「相手は人間です!化け物では決してありません!!」
「何を言ってるんだおまえは!!アレがバケモノでなくて何がバケモノだって言うんだ!!」
「しかし!!」
「うるさい!!あいつらはバケモノなんだ・・・」
ムルタの胸に、かつての記憶が甦る。
~回想~
「や、やめてよぉ!」
――なんだコイツ、弱っちぃぜ!
――もしかしてナチュラルか?ははっ、今時ナチュラルだなんて信じらんねー!
――こいつ剥いちゃおうぜ!ナチュラルのアレってやっぱしょぼいのかなぁ?
――あはははははは!!
少年達の手によって服を剥がされる幼きムルタ。彼らはコーディネーターだった。
――あっはっはっは!見ろよ、まだ剥けてねーぜ!!
――うーわマジかよ!恥ずかちー!!
「お母さん・・・どうして僕をコーディネーターにしてくれなかったの・・・?」
――あはははは!
――おまえ達、そこをどくんだ。
――はぁ?おまえ・・・・・・って、あなたは!?
「・・・??」
――あとは俺に任せろ。
――う、うん、分かった。おい、行こうぜ。
「き、君は・・・?」
――ンフフフフフフフフ
「ひっ!?や、やめて!何するんだよぉ!!うわぁ!!お母さーん!!」
~回想終了~
「ほらどうした艦長!とっととミサイルを撃ちこめ!あとフォビドゥン、レイダー、カラミティも
出撃させろ!」
「・・・・・・了解しました」
しかしナタルは軍人。命令を拒む事は出来ず、やむなくピースメーカー隊とガンダム三機を
出撃させた。

 

「・・・・・・誰でもいい。誰か、この戦争を止めてくれ・・・!」

 
 

「ぁあ!?出撃!?」
「なんだよ。核があるから出番ないって言ってたじゃないか」
「うぜぇwwww」
ドミニオン、MSデッキ。
突然の出撃命令に、三人は不満を洩らした。
『いいから出るんだよ!あのバケモノどもを根絶やしにしろ!そのためのおまえ達だ!!』
「はいはい。ったくうるせーなぁ」
「なんだっていいさ。出ろと言われりゃ出て撃つだけさ」
「うぜぇwwww」
不満を口にしつつ、三人は各々のガンダムに乗って出撃した。

 
 

同じ頃、宇宙空間。
「フンッッ!!」
『ア ッ ー !』
MA、MSを分け隔てなく貫きつつ、インモラルは敵陣に突っ込んでいた。
「ふぅ、こんなものか。全く統制が取れちゃいないじゃないの」
連合軍を指揮しているのはムルタ。彼は頭に『ド』が付くシロートさんなので、味方機を
ただ漫然と突撃させていた。結果、ただでさえ能力に劣るナチュラルの軍は、瞬く間に
阿部に蹂躙されていった。
「ま、楽しみつつ敵の旗艦を見つけると・・・フンッッ!!・・・しようじゃないの」
『ア ッ ー !』
インモラルの周囲には、ふよふよと漂うMS、MAの姿。まさに圧倒的だった。
「さぁて、お次は――」
『撃滅!!』
「――!?おおっと!」
不意に横から、棘の付いた鉄球が飛来してきた。
「ひゅう♪良い腕してるじゃないの」
『よそ見してんじゃねーぜ!おらぁ!!』
次いで砲撃。インモラルはそれを軽々とかわしたものの、
『うぜぇwwww』
「アウチ!!」
ゲシュマイディッヒ・パンツァーにより曲げられたカラミティの砲撃を、背中に喰らってしまった。
「・・・・・・なかなかやるじゃないの。ちょっと燃えてきたよ、阿部さんは」
『ぶつくさ言ってんじゃねぇよ、抹殺!!』
再度ハンマーを振るうレイダー。しかし――
「――そいつはもう、見飽きたぜ?」
インモラルはそれを真正面から受け止めた。
「さっすがインモラルだ。なんともないぜ!」

 

『くそっ、離せよ!!』
「悪い子にはオシオキをしないとねぇンフフフフフフ」
ハンマーをぐいっと引き、レイダーを引き寄せるインモラル。
『クロト!!てめぇ、離しやがれ!』
カラミティの砲撃で、ハンマーの鎖が断ち切られた。
『オルガてめぇ!なに人の武器壊してんだ!!』
『うるせぇ!助けてやったんだろ!!感謝しやがれ!!』
戦闘中だというのに、味方同士で言い争う二人。
「やれやれ・・・・・・仲が悪い事で」
そんな二人を注視していたため、阿部は気付かなかった。
――背後に迫る、鎌を携えたフォビドゥンガンダムに。

 
 

「ちぃっ!連合の核は底なしか!!?」
ビームライフル、ミサイル、シヴァをもって核を撃ち落し続けるデュエル。
そのあまりの数に、エネルギーは底を尽きそうだった。
『頑張ってくださいイザーク!一発でもプラントに到達させるわけにはいかないんです!』
「分かっている!・・・阿部は敵を残らず叩き伏せると約束したんだ!
こちらがヘマをするわけにはいかない!!」
意気込んで核を落とし続けるイザーク。しかしそんなイザークの気持ちとは裏腹に、
エネルギーは無情にも底に向かう。
『くそっ、こっちもエネルギー切れだぜ!いったん補給しないとまずいって!』
「バカモノ!!そんな暇がどこにある!!銃を投げてでも撃ち落とせ!!」
『つってもなぁ・・・っと!くそっ、これで散弾の方は弾切れだ・・・』
『イザーク、正面2時の方向だ!』
「分かっている!!」
アスランの言葉を受けてイザークはそのミサイルに向かってトリガーを引くも――
「な――!?エネルギー切れだと!?」
銃口での淡い光をもって、ビームライフルはエネルギー切れを告げた。
「しまった!!?」
デュエルの横を抜く核ミサイル。イザークの後ろには誰もいない。
あるのは――標的とされたプラントのみ。
「くっそぉぉぉぉぉぉ!!」
ビームサーベルを投擲するも、それは当たらず。核ミサイルは、確実にプラントに
向かっていた。
「お、俺は・・・・・・俺は・・・!!」
イザークが呟いたその時――
「――!?」
突如、その核ミサイルが爆発した。何もない空間からの、ビームの一撃を受けて。

 

「な、何が――!?」
その現象が起こったのはここだけではない。抜けられた数々の核ミサイルは、瞬く間にその
見えない一撃を受けて爆発していった。
『よそ見をするなイザーク。核はまだ来ているのだぞ』
聞き覚えのある声の通信。同時に、デュエルに新たなビームライフルが投げ渡された。
「その声・・・・・・クルーゼ隊長!?」
『私以外に誰がいる?』
背に太陽を背負った、トリコロールカラーのMS。
ZGMF-X13A プロヴィデンスガンダム
クルーゼ隊隊長にしてザフトのトップエース、ラウ・ル・クルーゼの機体だ。
先ほどの見えない一撃は、この機体特有の武装『ドラグーン』による一撃だった。
『各員!敵の核は無限ではない!!必ず終わりが来る!それまでなんとしても持ちこたえろ!!』

 
 

『うぜぇwwww』
インモラルの背中を狙い振るわれた鎌。
斬り裂いた――と思われたインモラルの姿は、ゆらゆらと姿を揺らして消えた。
――良い男の為せる業その1、質量を持った残像だった。
「まだまだ・・・俺のケツを狙うには甘すぎだ」
バク宙をするように鎌をかわしたインモラルは、フォビドゥンの両肩を掴み、そこを支点として
ぐるりと回転した。
そして回転が終わる頃――インモラルは、フォビドゥンの背後にいた。
『うぜぇwwww』
「まずは・・・・・・一機!!」
そのまま阿部は、ゲイ・ボルグを起動させた。
『ア ッ ー !』
貫かれるフォビドゥン。中のパイロット、シャニ・アンドラスはアナルへの一撃を受け、
嬌声を上げて気を失った。
『シャニーーーーッ!!』
『ふん、間抜け!!』
阿部は二機を双眼に捉え、ぺろりと唇を舐めた。

 

「まだまだ・・・・・・オシオキは始まったばかりだぜ?」