一瞬で燃え尽きた木々が爆風で傾いだまま炭化し、地面に開いた大穴の底が赤熱する。
ガラス化した地面は波立つようにあちこちが捲れ上がり、空は黒煙で染まっていた。
「父さあぁん! 母さあぁん!」
ビーム射撃による爆心地から奇跡的に逃れ、ただひとり生き残った少年は、
家族がもういない事を悟っていた。
空を仰ぎ見て、紅の瞳に青と白のモビルスーツを映り込ませた。
「マユーッ!!」
――逆襲のシン=アスカ、30スレ記念――
宛がわれた個室にあるベッドの隅で膝を抱え、頬を赤く腫らしたまま虚ろに目を開けた
ままの少年を見遣るオーブ軍の将校。彼が部下へと向き直った。
「残念ながら、彼を連合へ行かせるコネが私にない。
だからといって、こんな事になったオーブにも残せない。……プラントへ通信を送るんだ」
「はい、トダカ一佐」
「最善の選択でない事は解っている。許してくれ……」
――アニメ原作の未来を追い続けた『逆シン』が――
「あいつ誰だ?」
「オーブからの移民だってさ。コーディネイターっていっても安物だよ。パパが言ってた」
ザフトグリーンを着たアカデミーの子供達が、
向ける所のない敵意と怒りを孕んだ目を持つ『新入り』に、好奇の視線を向ける。
彼らと同じ制服に身を包んだ少年の髪は夜のように黒く、
肌は生気を欠いたように白く、
瞳は零れ落ちた鮮血のように紅い。
「名前は?」
「確か……シン=アスカ」
――過去を、目指す――
「私がMS操縦訓練の教官を勤めるサトーだ。今、お前達を3人1組のグループに分けた。
お前達は今日から1つのチーム、兄弟、家族……少なくともアカデミーを出るまではな」
「よろしくね! チン=アスカ君!」
「シン、だ」
赤毛の少女の間違いを訂正しつつ、シンはもう片側へと振り向いた。
薄幸の美少女という単語がぴったり来る容貌を持つ金髪の少年が、目を細めつつシンを見返した。
「シン=アスカだ。俺を後ろから撃つなよ、レイ=ザ=バレル」
「考えておこう……シン=アスカ」
――少年がザフトに所属した目的はただひとつ、戦う力を手にする為――
「議員の息子だろうが、企業の御曹司だろうが……人間は意外と平等なんだ」
袖の破けた制服を着たアカデミーの生徒2人が、それぞれ片目と鼻を押さえて後ずさる。
トイレの個室に彼らを押し込めたシンは、ベルトに括りつけた作業用ナイフを抜き放った。
「いざとなったら生まれも肩書も助けてくれないぞ。例えば」
シンの後ろに忍び寄り、不透明のビニール袋を被せようとした生徒が悲鳴を上げる。
背中の一部を強打されて悶絶した彼の横合いからレイが現れ、シンの右肩を掴んだ。
「もう良いだろう、シン。この後は楽しいトイレ掃除だ」
「解ってるよ。……次にルナの妹へちょっかいを出したら、殺す。レイ、行こう」
――戦う為、敵を屈伏させ、敵の息の根を止める為の力。しかし――
「プラントが宣伝してる通りの生活を送れるのは金持ちだけだ。
自分の子供にありったけの金をかけ、優れた新人類として、自由に、古い習慣に捉われず……」
「だけど、抜き取りたての臓器を移植して貰えるとはパンフレットに書いてなかったな」
立ち上がり、部屋から出ようとするシン。そこへレイが立ち塞がり、ドアのコンソールを手で覆い隠した。
シンの目が細まり、右手を握って拳を作る。
「シン、特別医療法36条は正式に定められた、正当な法律だ。『あの子』は選ばれた。
全て同意の上だ。今から48時間後には、正当な医療行為が行われ……」
「オーブからの移民に、安物のコーディネイターに倒されれば、
アイツの遺伝子的優位性とやらは証明できない筈だ」
――シン=アスカは、本当の戦う理由を見つける――
『一目見た時からお前が気に食わなかったんだよ、移民の安物! でもこれで終わりだ。
お前は犯罪者になった上で死ぬんだ、シン=アスカ!』
「フン」
最新鋭のザクウォーリア1機、ゲイツR4機に包囲されたジンの機内で、
紅の瞳を持つ少年が額に汗を浮かべ、低く笑う。
その戦闘をスクリーンで見つめるのは、癖のある長い黒髪の男。
傍らにレイを立たせ、ゆっくりと足を組んだ。笑みを深める。
「さて、どうなるか……」
【戻】