SCA-Seed_GSC ◆2nhjas48dA氏_SEEDDtheUntold_第04話

Last-modified: 2009-01-22 (木) 21:57:11

「撃ってきたぞぉ」

 

 囮であるかのように足を止め、ビームを撃ち込んでくるシンの機体を見た四脚MAの
パイロットが、間延びした声を上げた。駆動ギアをトップに入れ、標的を中心に旋回する。
射角をずらされた緑色の光条が、下肢を守るアーマージャケットに弾かれ、上半身を包む
光の膜に波紋を残す。後ろに座っている2人目が鼻で笑った。

 

「カラーリングといい武装といい専用機かな。エースなんだろうが、哀れなもんだ」
『7番機!敵と交戦しているな!? 本隊まで戻って来い! 孤立しているぞ!』
「脱出を試みる残党を発見したんです、中尉。逃げられますよ?」
『撃墜スコアを争う場ではない! ケンタウリは素早いが、脆い。集団戦でかからねば……』

 

 M1カスタムの左腕に構えられたレールガンが、銃口を光らせる。パイロットが操縦桿
を倒し、機体が屈んだ。電磁レールで加速された砲弾が傾けた装甲板に当たるが、表面を
へこませるに留まった。機内を震動が襲い、シートに身体を押し付ける。
 複雑でデリケートな構造を持つMSならば、たとえPS装甲を有していようが効果はあ
る。しかし被弾を前提とした機体が相手では、被弾を前提とした回避機動のノウハウを持
つ相手では、その限りでない。

 

「大丈夫ですよ。攻撃が効かないんだから!」

 

 キーを幾つか叩き、トリガーを引く。前部の長距離砲が火を噴き、シンのM1カスタム
の足元を打ち砕いた。間一髪で跳び下がるが、背を向けて逃げる事はない。格納庫にある
だろう、輸送機か何かを守ろうとしているのだ。

 

「どのみち交戦が本格化してますから、後退は困難です。中尉達はゆっくり来て下さい」
『チッ……敵の接近を許すなよ!』

 

 後ろを向いた方の上半身が、M1カスタムを誘うように格納庫のシャッターや、中破
したストライクダガーの傍にビームライフルを撃ち込む。胸の防御機銃を乱射しながら、
シンの機体が背部のビームソードを抜いた。

 

「どんなに腕の差があろうと、その性能じゃあな!」

 

 遠距離から撃たれた防御機銃は、その大部分が当たりもしない。せせら笑う2人。後ろ
に座ったパイロットが、後部ミサイルランチャーを起動させた。

 

『どうだ、シン!』
「ああ、どういう敵で、どういう戦い方をすれば良いかは大体解った!」

 

 空高く上がった連装ミサイルの白煙を睨みながら、シンはヴィーノに応じた。追加装甲
を着込んで重量化した機体が、傍から見ればよたつくような動きで地に突き刺さる誘導弾
を回避する。連続した爆発に包まれ、破片が装甲を叩く音が機内に響いた。

 

「けど、あの光ってるバリアみたいなのは何なんだ!」
『映像を見るに、実弾にもビームにも反応してる。光波防御帯って奴だな』
「殆どの攻撃を通さないっていう!?」

 

 ビームソードのパワーはまだ切ってある。機体を傾け、レールガンを持った左半身を敵
の眼前に曝した。四脚MAの足元が輝き、舞い上がる砂がスラスターの熱でガラス化する。
前屈みのまま、MAが急加速した。4つの脚部を高速で動かし、大地を踏み鳴らしながら
前面の火器を連射する。直撃させるのではなく、動きを鈍らせる為だ。直ぐ脇を砲弾が飛
び去り、2丁のビームライフルから放たれる光が足元を抉る。
 無論、真正面から吹き飛ばされはしない。闘牛士のように容易くいなし、左腕に持った
レールガンを向けるM1カスタム。しかし敵もそれを読んでおり、間髪入れず後ろ向きの
上半身が牽制射撃でシンの機体を寄せ付けない。そのまま曲がりくねった峡谷に消える。
『いや、通ってはいる。出力が低いんだ。その代わりに、色々とメリットがあるんだろう。
量産できるとか、ずっと展開していられるとか』

 

 小回りがきかない分、速度は出る。垂直発射式ミサイルを打ち上げ、ビームライフルを
連射しながら急速に遠ざかっていく四脚MA。

 

『で、どう戦う?』
「この機体じゃあ、取りつくしかない。次にあいつが戻ってきたら……勝負だ。ヴィーノ、
キャリアを出せ!」
『冗談だろ、狙い撃ちされる!』
「それが目的だ! 任せろ、やれる!」

 

 スラスターを吹かして後退し、上からのミサイルを避け続ける。長距離用のレーダーが、
10を超す光点を映し出していた。格納庫のシャッターが軋みながら開き、左右に大型の推
進機を抱えたMSキャリアが地面に熱風を吹き付けつつ現れる。

 

「合流されたらおしまいだ。1機の内に、無力化させないと……来た!」

 

 轟音と共に、四脚MAが戻ってきた。左の脚部で地面を削り、カーブを曲がり切りなが
ら再び加速。僅かな挙動の遅れで、シンは相手の戸惑いを感じ取る事が出来た。

 

「そうだ悩め! 先に俺を潰すか、キャリアを捕まえるか!」

 

 長距離砲が吼え、格納庫の出入口が完全に吹き飛ぶ。コニールのストライクダガーが
よろめき、左手にビームサーベルを持ったまま膝を突く。

 

「どっちも、させやしないけどな!!」

 

 ペダルを踏み込む。着膨れした機体が砂塵を吹き上げて飛んだ。宙に浮いた鈍重な相手
を仕留めようと、前を向いたダガーLの上半身が両手のライフルを撃つ。1発が外れ、
2発目が右肩の追加装甲を吹き飛ばす。しかし其処までだった。右膝を曲げたM1カスタム
が、その姿勢のままMAの上半身に突っ込む。それは自身の速度と相まって強烈な膝蹴り
となり、人型の上半身が仰け反る。右手のビームソードを高く掲げた。

 

「バリアの中に入れば!」

 

 叫ぶシン。そのまま薙ぎ払い、首を刎ねた。身体を密着させ、敵の肩にレールガンの銃
身を乗せる。視線の先に、身動きできないストライクダガーがあった。

 

「コニール、逃げろっ!」

 

 広域通信で叫び、引き金を引いた。超至近距離からの一撃で後ろの上半身を吹き飛ばす、
と同時、激突音と共に景色が空転する。M1カスタムを乗せたまま、四脚MAが格納庫の
残骸に激突したのだ。降り落とされ、首のない上半身にビームライフルを向けられる。

 

『逃げないよ』

 

 静かな少女の声と共に、MAが動きを止めた。膝立ちになったストライクダガー。その
左手にはビームサーベル。光刃が後部ミサイルランチャーに根本まで突き刺さり、大爆発
を起こした。破片を浴びて全身がずたずたになった機体がうつ伏せに倒れる。
 MAの後脚が致命的なダメージを受けてパワーが落ち、機体の前が持ち上がった。
ビームライフルの狙いが逸れ、M1カスタムの頭部脇に着弾する。

 

「……ッ!!」

 

 シンの目が見開かれて、声にならない叫びを上げた。ビームソードで横に斬り払い、
四脚MAの長距離砲を断つ。スラスターを使って跳ね起き、左腕を大きく引いた。殴りつ
けるように突き出し、アーマージャケットの隙間からレールガンの銃身を捩り込む。
大推力のスラスターノズルに砲弾が飛び込み、MAの全身が痙攣した。脚部関節や下腹部
から青白い火が噴き出て、全ての脚が外側に広がり擱座する。

 

「コニール! コニールッ!! 馬鹿! 何で俺を助けた! ラクス様を悪く言う癖に!」
『何でも良いから後にしろ、シン! 敵の増援も来る! そのコニールを回収するんだ!』

 

 ヴィーノの声に、シンが息を呑む。ストライクダガーに機体を駆け寄らせ、ひっくり返
した。パワーを切ったビームソードの剣先で半壊したハッチを剥ぎ、膝を突かせた機体か
ら昇降機で降りる。白煙で満ち、破壊されてあちこちから出火するストライクダガーから
コニールを抱きかかえ、昇降機のグリップを掴んだ。機内に戻って発進準備を整える。

 

『限界だ! 乗れ!』
「ああ……!」

 

 狭い谷間から浮き上がり始めるMSキャリアを見上げたM1カスタムが、破損した追加
装甲をパージさせた。ペダルを限界まで踏み込み、何とか開いたままの搬入口に飛び込む。
キャリア全体が大きく傾ぐが、何とかバランスを取り戻して機首を上へ向けた。
 連合のMA部隊が、砂塵吹き荒れる大地を埋め尽くすように身を寄せ合い、その砲口で
何時までもMSキャリアと、その先に広がる灰色の空を睨みつけていた。

 

「しっかりしろコニール! もう大丈夫だ! 良くやったな!」

 

 ストレッチャーで運ばれていく少女に、アサルトライフルを肩にかけたゲリラが声をか
ける。それを見つめ、拳を握り締めるシン。右肩と腹が、コニールの血で汚れていた。

 

「俺は……俺はちゃんとやれたんでしょうか。アスラン、キラさん、ラクス……様」

 

 ハンガーに座り込むシン。じっと両手の平を見つめ、握り締める。そのまま項垂れた。

 
 

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