SCA-Seed_GSC ◆2nhjas48dA氏_SEEDDtheUntold_第11話

Last-modified: 2009-03-10 (火) 14:05:23

『連合軍は引き続きザフトの残党を追跡する、という旨のコメントを発表しています。
 いずれにせよ、平和を取り戻したというには未だ程遠い状況であり、報復も懸念され……』

 

 洋上に浮かぶ輸送船の中で、ヴィーノとコニールはオーブ、プラント壊滅の報を聞いていた。
ヴィーノが項垂れ、赤いメッシュを入れた前髪が揺れる。
コニールが気遣わしげな視線を送るも、彼女とて心の余裕はない。
電波の入りが悪く、持ち込まれた小型テレビの画像は粗い上に音声も途切れ途切れだが、
特に注意して聞くべき事も無い。

 

 連合に刃向った勢力は全て潰された。そして今後も潰され続ける。それだけだった。

 

「機体の整備、終わってる?」
「ああ」
 もう1人の声に、ヴィーノは気の無い返事で応えた。
壁にもたれていたルナマリアは、その言葉に頷いて立ち上がった。
「さっき、オーブの人から言われたんだけど……ダーウィンまで行くから、そこで降りて欲しいって。
 連合軍と交渉する時、私達ザフトがいると難民扱いされないから」
「だろうな。此処まで乗せてくれた事だけでも感謝しないと。コニールはどうする?」
 溜息をつき、ヴィーノはテレビをもう一度見遣る。
連合軍の作戦行動について、識者が意見を交わしていた。

 

『性急に過ぎたかもしれません。2000万人全てがザフトに加担していたとは限らない』
『しかしプラントは単なる工場ですからね。抜け出す機会は何時でもあった。
 それに兵器の製造能力やザフト兵の数を考えると、まさに総動員体制であった可能性が高い。
 仕方なく協力していたとは思えませんな』

 

「もし、邪魔じゃないなら……ヴィーノ達についていって良いか?
 あたしの故郷も、もう無いしさ。仲間とは話をつけてあるんだ。
 オーストラリアの事は、全然解らないけど」
 テレビのスイッチを切ったコニールが、何時も通りさっぱりした調子で訊ねた。
彼女にとって現状はそう特殊ではない。
エネルギープラントに近かった彼女の街は、何時だっ圧倒的な力を持つ何者かによって蹂躙されてきた。
戦いに巻き込まれ、負け戦を強いられるのが日常なのだ。

 

「良い判断かもね。でもオーストラリア自体、地球連合に攻め込まれてもおかしくない。
 10人弱と車2、3台なら、私のザクで護衛できるけど」
「補給物資が尽きるまでな。あと、俺あんまりルナマリアをアテにしてないんだが。
 機会さえあれば、どうせもう一度アスランに擦り寄るんだろ?」
「そりゃ、機会があればねえ……当分無さそうよ。あいつメイリンも捨てていったし」
 疑わしげな半眼を向けるヴィーノに、ルナマリアは肩を竦めてみせた。
「シンみたいに捕まった方が楽だったかもね。投降させてくれるかは解らないけど」
「確かに。どう生き残るかっていう悩みを持たずに済んだな」
 疲れ切った2人を尻目に、コニールは昼食を作るため部屋を出て行った。

 
 
 

「兄が、見つかったんですか……!?」

 

 スペングラー級の艦内で休息を取っていたパイロットスーツ姿のマユが、
半ば呆然としたまま捕虜の収容を担当した将校に聞き返した。
「ああ……黒髪で赤眼、気味が悪いほど白い肌をした、オーブ軍のシン=アスカ三尉は見つかった。
 見た目が特徴的だから、少尉の探している男に違いない、と思う。だが」
 彼はそこで言い淀み、その時を思い出すように遠い目になった。
「だが、そこからが少尉の説明と食い違う。
 家族と死に別れたのは物心つく前、オーブに移り住む前だそうだ。
 死んだのは交通事故か何かだと言って……」

 

 将校は其処まで言って、生唾を飲み込んだ。
僅かに俯いたマユの表情が一変していたからだ。
目を見開き、眦を吊り上げ、僅かに開いた唇からは噛み締めた歯が覗く。

 

「自分の兵籍番号と名前は一度で言えたから、心身喪失状態とも違うだろう。
 詳しい調査が必要だが、ひょっとしたらザフトのスパイかも知れん。本物は既に殺されていて、な」
 義手の右腕で顔を覆うマユ。2年前、オーブ解放作戦を展開した連合軍から避難していたあの時、
落とした携帯電話を拾ってくれと言わなければ、こんな事にはならなかった。

 

MSのビーム兵器による誤射だから、どの道助からなかったかもしれない。
けれども、離れ離れにはならずに済んだ筈だ。
 ただ1人消息の知れない兄を探す為、自分自身を連合軍生体CPUのサンプルとして提供し、
今日まで生き残ってきたというのに。
やっとの思いで探し当てたシン=アスカがそんな状態になっていたとは。
自分の『償い』が手遅れに終わったかもしれないという絶望感に、肩が小さく震える。

 

「本物だったとしても、プラントってのは住民を洗脳したり、金が然程かかっていないお仲間を殺して
 臓器を抜き取ったりと、滅茶苦茶な事が日常的に行われていたと聞く。
 14歳で其処へ行ってしまった以上、まともな人間性を保っているかどうか……」
「……兄に、会わせて貰えないでしょうか」
「さっき言った通り、スパイの容疑がかかっている。
 プラントの生き残りについて、知っている事があるかもしれないからな。
 その取り調べが終わるまでは無理だ」
「そう……わかりました。失礼します」
 それだけ聞くと、マユは踵を返し艦内の廊下へ歩み出る。
ただでさえ小さかった背中がもっと縮こまって見え、将校は深い溜息をついてデスクワークに戻った。

 
 

「何だって、誰だって、許さない……ゆるさないから……」  

 

危うさを孕んだ瞳で周囲を後ずさらせ、持っていたヘルメットを壁に叩きつけた。
生体CPUとなった今の少女には、嘆き悲しむ以上の事が出来る。実行あるのみだ。

 
 

「プラントってのは、選民主義者と同性愛者の巣窟だったらしいな。お前もその1人か」
「さあ? 身に覚えがありませんね」

 

 2時間に渡り、椅子に両手足を拘束されて質問を続けられていたシンは、
何度目かになる似通った問いに辟易しつつ答えた。
目の前の連合軍人いわく、これは自分の責任能力の有無を確かめるものらしい。
だからといって、頭のおかしいふりをする気は毛頭ない。
 こめかみや首筋に貼り付けられたシールからコードが伸び、質問者の手元にある機械に繋がっている。
時折高い音を立て、軍人の目が其方に行く。
「ある筈だ。腐れ教祖のラクス様と、同性愛者のキラさんを熱心に崇めていたからな」
「お2人の事を……!」
「あの2人がやった事を、さっき資料を交えて説明しただろう。矛盾があったか?」
 低くシンが唸る。確かに彼女達の行為は、その殆どを悪行と呼んで差支えないだろう。

 

だが、全く記憶にない。

 

目を通した資料の全てを嘘だと決めつけるのは簡単だが、それも正解ではないと、頭のどこかが訴えている。

 

「ま、元ザフト兵で現オーブ兵のお前も同類だがな。趣味は投降した敵兵の銃殺と、
 飢えて凍え死ぬ赤ん坊の鑑賞、ついでに市街戦で自国民を焼き殺す事ってところか」
「違う! 俺はそんな事の為には、指一本動かさない!!」
「ガルナハンでは止めなかったようだが、手を下さなければ問題なしというわけだな」
「な、に?」
 訳の解らない事を言われたのにも関わらず、シンの身体を動揺が走り抜けた。
機械が甲高い音を上げる。機器を調整するように、軍人が何度かキーを叩く。
「家族とは死に別れたんだったな」
「さっきも言った!」
「馬鹿なマユが右手だけになって、せいせいしただろう」

 

 シンの腰掛けていた椅子がずれた。全身で机にぶつかり、鬼気迫る形相で質問する男の目を凝視する。
届いたならば、その歯で相手の何処でも噛み千切っただろう。

 

何度も警告音を発する機械のスイッチを切り、立ち上がった男が携帯端末を耳に当てる。
「最後の確認を取りました。間違いありません」

 

 瞬間的な激昂が過ぎ去った後、再びシンを困惑が襲った。
『マユ』とは誰だ。右手だけとはどういう事だ。痛いほど白く華奢な右手が脳裏に浮かぶのは何故だ。自分が座り込んで絶叫している、荒れ果てた場所は何処だ。頭上を飛び去る、翼を持った青と白のモビルスーツは、一体何だ。

 

「適性は充分です。はい、それでは」
 椅子に拘束されていたシンの右脇から腕が伸び、口をマスクで覆われる。
それに抗おうと身を捩る寸前、半透明の内部が白いガスで満ち、机に突っ伏した。

 

「すぐに移送します……マルキオ導師」

男が両側の2人に頷いてみせる。携帯端末を胸ポケットに入れ、取調室のドアを開けた。

 
 

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