SCA-Seed_GSCI ◆2nhjas48dA氏_第03話

Last-modified: 2007-11-30 (金) 19:20:47

 突然の乱入者に、シンはデータベースを開いて機体を照合した。

「この金ピカ、ゴールドフレーム・アマツ……所有者はサハク家。五大氏族か!」

 先程までキビキビと動いていた敵部隊が、今はアマツを緩く包囲するに留まっている。マガノイクタチで指揮官機を無力化され、かつその機体を盾に使われている為だ。

「って事はアスハの部下か知り合いか親戚? へ、道理で機体の趣味が似てると……!」

 アマツが機体を此方に向き直らせた隙を突き、シグーが背後に回り込もうとする。それを右腕のドラウプニルで牽制射撃し、グフをアマツの横を通り抜けさせ、背中同士を触れさせた。

『助勢に感謝するぞ、ザフト』

 四方を敵に囲まれて尚、落ち着き払った女性の声に、シンは一瞬口篭る。

「……もうザフトじゃない、脱走兵だ。直ぐに反逆者にもなる。アンタ達、一体何なんだ?」
『フ、何だ、と? 其方ではすっかり、非合法武装組織として知られていると思ったが』
「確かにザフトじゃ、そうだ。連合軍でもそうだろう。でも俺は、アンタに聞きたいんだ」

 油断無く、後方を庇い合った2機が敵を睨む。アマツのツインアイと額のモノアイが輝度を強め、グフのモノアイもまた素早く左右に動く。

『では、中立地域の航路安全を守ると称した私設警備隊、と言えば、お前はどうする?』
「……良く分らないけど、宙賊に狙いを絞った宙賊って意味か?」
『それは正しい表現だ。尤も、活動を宇宙に限定せんから、広義の海賊を名乗るべきだな』

 アマツのパイロット、ロンド=ミナ=サハクはそう認めて小さく笑った。

『それで、お前は此処に何をしにきたのだ?』
「襲われた商船を、助けに来た。アンタは、商船を襲った宙賊を襲いに来たんだろ?」
『そうなるな。奇しくも予とお前の目的は程近い。少なくとも、今は』
「予……って。あ、じゃ、助けてくれ! 俺じゃなくて船を!」

 ゲイツを正面に拘束したアマツの右腕が上がり、シールド、射撃武器、近接武器が一体となったトリケロスが鈍い光を放った。

『無理を言うな。敵は6機だ。此方も1機ずつでなく、2機にならねば勝てぬ』
「わ、分った。じゃ、俺と船を助けてくれ!」
『心得た。では遅れるなよ、脱走兵!』

 バッテリーの尽きたゲイツを手近のシグー目掛けて蹴飛ばし、その後を追うようにアマツが突進する。

「ああ、アンタも! ……海賊!」

 子供じみた対抗心が頭をもたげたか、シンもまた呼び返す。
 テンペストのビーム刃を起動させたグフが、アマツの死角に入った敵へ襲い掛かった。

 ピンポイントで指揮官をやられ、取り乱した副指揮官が各機に伝達する。

「散開し、商船に接近して戦闘を行え! スナイパーに未来位置を予測されるぞ!」
『陣形を崩せば乱戦になります!』
「乱戦に持ち込めと言っている! 乱戦になれば……なれ、ば……!」

 乱戦に持ち込めば機体の性能差を少しでも埋める事が出来る、というのは基本である。彼は元堅実な軍人であった為、反射的にそのような指示を出した。しかし、相手が悪すぎた。
 近接戦に特化したアマツとグフに対し、乱戦で、どう性能差を埋めるというのだ?

「しまった……!」

 指揮官の動揺は全員に伝播し、フォーメーションは失われた。

「やってしまったな。犠牲覚悟で此方に引いて来れば、艦砲で援護出来たんだが」

 戦術マップを見ていた賊のリーダーは、匙を投げるように肘掛のコンソールを閉じる。

「まあ、あの副隊長は若かった。其処まで期待するのは酷、か」
「全滅ですかねえ、勿体無かったなー」
「逃げるぞ。MS戦はもう滅茶苦茶な以上、スナイパーは此方を狙ってくるからな」

 オペレーターが悲鳴を上げる。

「本艦、ロックされました!」
「それ見ろ。機関全開! 180度回頭し全速でこの宙域を離脱する!」
「僚艦はどうします?」
「ローラシア級の装甲は厚い……多分。増槽を切り離して、商船団にくれてやれ」

 そう指示を出し、リーダーはキャプテンシートに深く身を沈めた。

「追手を少しでも鈍らせる。それでも駄目なら諦めるさ」

 重斬刀で殴りつけてくるシグーの手首にスレイヤーウィップを巻きつけ、遠心力を使って、突撃銃を撃つジンHMに投げつける。既に片足を失っていたシグーは制動が利かず、そのまま衝突した。

「近づきすぎなきゃ、そうはならなかったんだぞ!」

 動きを止めた2機を正面に捉えて、ドラウプニルを連射する。収束率の弱いビームが雨あられと撃ち込まれ、機体各部から火花と小爆発を起こした。主機関の爆発を防ぐ為、ブロック毎に遮蔽されてモノアイが光を失う。

「後は……!」

 相対的上方からのロックオンアラート。右足を蹴り上げて機体を振り向かせ、ゲイツをモニター中央に捉えた。
 撃ち込まれるビームを、接近しつつ機体を左右に振ってかわす。

『当たれ!当たれよ!』
「無理だ!」

 振り上げられたテンペストが回避行動に入ったゲイツの右足を溶断し、その足元からモノアイを輝かせたグフが飛び上がった。

『くそ……』

 上げた物を、下ろす。振り上げたテンペストで袈裟懸けに斬り付け、頭部と腕とビームライフルを焼き斬った。

「はあ、はぁ……だっ!?」

 頭部の辺りにジンHMの下半身がぶつかり、グフがつんのめる。上半身はアマツの腕の中にあった。

「何すんだ!」
『遅れるなと言ったろう。しっかり避けんか』

 頭部をランサーダートで貫かれ、両肩をマガノシラホコで撃ち抜かれ、マガノイクタチで挟まれるというまさに滅多打ちを喰らったジンHMの上半身を打ち棄てたアマツは、大鎌とワイヤーを背部に納めた。

「それで、敵は! やったのか!」
『無論だ。予の相手は何故か逃げ、先に船を破壊しようとしたものでな。まあ、楽だった』

 何処か不満げなミナを訝りつつも、シンは船団を確かめる。特に致命的な攻撃を加えられた船は無かった。

「良かった……守りきれたんだ。良かっ……何か来る! 2機だ!」
『構える必要は無い。予の部下だ』

 遠目に見えた蒼いMAにシンは警戒の声を上げたが、そう聞けば再び力を抜く。

『司令官、退避を』
『何事だ。そして宙賊の母艦はどうした』
『その艦が民間船を狙って増槽を打ち出してきました。追撃の旨は周辺部隊に連絡を入れておきましたが……』
『ふん、小賢しい』
「お、おい。増槽って、大丈夫なのか?」

 手早く進む会話に戸惑うシン。

『お前も離れろ。予は宙賊の生存者を回収せねばならぬ。敵に死の制裁を与える事が目的では無いからな』
「海賊なのに、警察みたいな事もするんだな?」
『そうだ。急げ、オオツキガタが……あの青い機体が狙撃するといっても、破片が来る』
「分った。……気をつけて!」
『フフ……』

 最後の笑みが引っかかりつつも、シンは機体を下がらせる。その直後、タンク状の物体が2つ視界に入った。
物体が減速することの無い真空を、慣性に任せ高速で接近してくる。MA形態のオオツキガタが狙撃用レールガンをセットし、撃ち抜いた。遥か彼方で炎の華が二輪咲いて、赤熱した破片が散る。

『排除完了しました。船の装甲なら、この程度は大丈夫でしょう。それより、ザフトの部隊が接近してきます。
……通信が入りました。脱走者の乗ったグフを捜索しているが、見かけなかったか? と』
『フン、随分ゆっくりの御到着だな。救出の手柄だけをモノにしようというわけだ……まあ良い。それより、どうするのだ? 脱走兵よ』
「この程度の破片は、船の装甲なら大丈夫だ」
『何?』

 ミナの問いかけには答えず、シンの見開かれた瞳は向かってくる破片を映し出す。

「けど、船はあちこち破壊されて、装甲が剥がれてるんだ。だから……」

 平淡な口調で言葉を続ける。光の尾を引く無数の破片が映り込んだ瞳が、焦点を失いガラス玉のようになった。

『……! 一定サイズ以上の破片を特定し、コースを割り出せ!』

 その言葉の意味に気付いたミナが視線を鋭くさせた。

「だから……」

 グフが弾かれたように前進する。

 全ての破片が船団目掛けて飛んできた訳ではない。船の装甲が全て剥がれていた訳でもない。ただ1つだけ、回転が掛かり、僅かに軌道を変えながら迫る、MSの半分ほどの破片が在った。亜音速のそれが目指す所は、船団の中央の船。宙賊の攻撃によって船腹に出来た、大きな亀裂。意思を持たない無慈悲な一撃。

『あれだ。横腹に直撃されては、船内深くまで食い込む!』
『ですが最早……間に合いません!』

 否、ただ1人だけ間に合った。
衝突コースに飛び込んだグフが、破片に対し真正面に姿勢を合わせる。虚ろな瞳のまま、シンは淡々とビームソードをグフの両手で構え、突き出させ、渾身の力を込めてペダルを踏み込んだ。
 テンペストの剣先にはビームが発生しない。故に、テンペストは『破片もろとも』粉砕された。
 背部スラスターを全開させた状態で亜音速の一撃を受け止める。両肩から火花が上がって関節が潰され、細かな砕片が頭部モノアイと角を吹き飛ばす。左膝を破片が撃ち抜いて脚部が千切れ、コクピットハッチも一発当たって大きく窪む。
 全身に破片を浴びたグフは機関を停止させ、テンペストの柄だけを握った機体は空を仰ぎ見るような姿勢でゆっくりと漂い、やがて、自分が守り抜いた商船の甲板に引っかかって横たわった。

『聞こ……か、……は、無事に…………』
「ぁー……頭、打ったな。……だるくて……舌、が回らな……」

 コンソールが白煙を噴き上げる機内で、シンの瞳が中空を見つめる。額からの出血が球となって浮かんだ。

「でも、今度こそ……だよな。父さん、見てる? 母さん、マユ……」

 通信機からまだ何か声が聞こえているが、もう意味が分らない。何故だか涙が溢れてきて、目を閉じた。

「……ステラ」

「中々に、驚かせてくれる」

 アマツのコクピットで事の有様を見届けたミナが、大破したグフに近づいた。

『近接戦を想定したグフでなければ装甲が保たなかったでしょう。……計算尽くだったのでしょうか』
「さて、どうかな」
『ザフト部隊、後5分で有視界距離に入ります。どうやらそのグフも、奪われたもののようです』
「なるほど。確かにそれでは、この男、帰っても終身刑か銃殺刑は間違いない」

 目を細め、腕組みするミナ。

「ふむ……こういう事をやってのける男がこの先、世に出んのは惜しいな」
『しかし脱走兵にして反逆者です。凄さは分りましたが、役に立つかは定かで無いかと』
「確かにな。……分った。パイロットを回収し、コクピットを破壊する」

 トツカノツルギを窪んだハッチに食い込ませ、梃子の原理で剥ぎ取った。

『つまり、ザフトに対し偽装工作をするおつもりで? 司令官』
「構わん。別にこれが最初ではないし、恐らく最後でもないのだ……ふむ、生きているな」

 緑のパイロットスーツを掌に納めたアマツが、無人のコクピットにトリケロスを向ける。

『それにクライン議長の説教より、この者との語らいの方が楽しめそうではないか』

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